・アルベド族は機械を発掘して使えるようにするが、0から新たな機械を生み出すことはまだできていないらしい。(FFX-2より)
はやて考案のカラオケ機械はあくまでも改造ベース。でも機能はしっかりカラオケのそれ。はやてが動作チェックでしっとりした恋愛ソング(歌いやすいから)を歌ってみたら何故かふくれたリュックちゃんが背中に張り付いたという。
「討伐隊のチャップさん……ですか。僕は柊木はやてといいます。はやてと呼んでください」
「うす、はやてさん。まあ俺は
敬礼を解いて恥ずかしそうに言うチャップを見ながら、はやては討伐隊という単語について思い出していた。確か、FFXにおいて『シン』と戦う民兵……だったと思う。
「あの、実は僕『シン』の毒気にやられてしまって、討伐隊についてよく覚えていないんです」
「えっ?! そ、そうなんすか。じゃあ説明しちゃいましょうか?」
「ぜひ」
じゃあ、と言ってチャップは討伐隊について説明をはじめた。
「討伐隊ってのは、簡単に言うと『シン』の被害から人々を守るために結成された民間組織っす。一応エボン寺院の下で動いてるんで公的な組織として認められてるんすけど……まあ、最近は俺らのやり方がエボンの教えに反するなんて言われて、隊員は結構破門されてたりするっす」
入隊前なんで俺はまだ破門されてないすけど……そろそろかも。
少し寂しそうにそう言うチャップ。
「でも、討伐って言葉があるくらいだし、僕たち、ひいてはスピラのために『シン』を倒そうとしているのでしょう、とてもありがたいと思いますよ」
「そ、そっすかね? いやあ、なんだかうれしいなあ。といっても、俺らにできることと言えば『シン』の進行先を変えるくらいすけど」
「十分じゃないですか。ありがとうございます」
はやてがそういうと、チャップは「これからっすよ。これから!」と笑って照れた。
「でも、そうですね。僕としても討伐隊の皆さんの為にお力になれるのでしたらもう少し詳しい話もできるかと思いますが」
「ま、まじっすか?! で、でしたら、ぜひうちの村に寄ってってほしいっす! ルッツ先輩に直接説明してもらえたら!」
チャップははやての両肩を掴んで頼み込む。しかし、はやてはこの島にアニキたちが戻ってくる可能性があることを考えると、おいそれと応じるわけいかない。
「ええと、それはちょっと……。仲間が帰ってくるかもしれないですし」
「仲間っすか? 遺跡に潜ってるんすか?」
「いえ、船でここから離れたみたいで。たぶん戻ってくると思うんですけど、いつ帰ってくるか分からないんですよ。だからここで待機しておこうかと」
そう説明するとチャップは不思議そうにして続ける。
「船で離れたってことは、たぶんすけど、数日帰ってこないと思うっすよ。近場の港に向かったとしたら、早いタイプの船でも4、5日かかるし」
「え?」
「それにここ、無人島す。魔物はいるんすけど狩れる生き物はかなり少ないすよ。海にも大きな魔物がいるんで魚も少ないし」
「え、ええぇ……」
「外じゃキャンプできないんで、ここに遺跡がなけりゃまず誰も訪れない島っすよ。ここ」
というか危険な島として本当は一般開放されてないんすけどね。そう言って周りを見渡すチャップ。探索者たちは皆引き上げの用意をしていたし、キャンプを張ろうとしている者は誰ひとりとしていなかった。
予想以上に過酷な島であることに驚くはやて。数日キャンプでもしながら仲間を待つ予定だったが、食べ物もなければろくに眠ることもできそうないと知ると、ここから一旦脱出する必要があるかもしれないと考え始めた。
「お仲間も、たぶんはやてさんがここに何日もいるとは考えてないと思うっすよ。普通は他の船に乗船させてもらって近場の島で待機するんで」
「うーん、そうですか。確かにここで数日待機するのは難しいかもしれないですね。けど万が一仲間が戻ってきたときが心配なんですよ。渡さないといけない物もあるし……」
どうしよーかなあ、とはやてが頭を悩ませていると、チャップは周りに誰もいないことを確認した後はやてに近づいて小さな声で驚くことをいった。
「………あの、もしかしてなんすけど。お仲間って、アルベド族だったり?」
「……なんのことですか?」
できるだけ自然に聞き返したはやてだが、チャップがはやての腰にひっかけられている投光器(待機モード)を指さすと、あ、と声を漏らしてしまう。
「あ、いえ、これは、その……」
どうにかしてごまかそうとするはやてだったが、言い訳が思いつかない。糾弾されるか。面倒なことになるかも……と身構えるが、その心配は杞憂だった。
「ああ、俺は大丈夫すよ。機械は見慣れてるんで」
「え? そ、そうなんですか?」
「うす。最近、討伐隊はアルベドの機械を『シン』討伐のため積極的に使おうとしてるんす。投光器すよね、それ。宙に浮くタイプの。以前見かけたことがあるっす」
「え、ええ。そうです。いや、すっかり失念してました……」
自分のうっかりにため息をついていたはやてだが、チャップは気にした様子もなく続ける。
「アルベド族と一緒に行動してるんなら、なおさら一緒に来てもらった方がいいと思うすよ。ルッツ先輩なら、アルベド族と会うこともできるんじゃないすかね」
「なるほど。こっちから連絡を取って、指定の場所に迎えに来てもらう、または合流するってことか」
「うす。アルベドすから目立つところで合流もできないんじゃ」
言われてみれば、そのほうが良いかもしれない。
この島で待機することが難しい以上、別の場所に移動してこちらから連絡を取った方が良いかもしれない。アルベド族の結束は強い。移動先で出会ったアルベド族に説明して、アニキに連絡を取ってもらう方が確実だろうとはやては考えた。
チャップの先輩らしき人物であればアルベド族と連絡が取れるということだし、むしろこれはチャンスではないかと考え直したはやてはチャップに同行することに決めた。
「そうですね。事情を察してくださる方に協力していただけるなら、これほど心強いこともありません。ぜひ、同行させてください」
「うっす! 任せるっす! 詳しい話は向こうの帆船で説明させてもらうっすよ」
「よろしくお願いします」
敬礼を見せるチャップに、はやては頭を下げる。チャップは乗船客が増えたことを説明するために先に帆船に小走りで向かった。
はやては、せめて「移動した」というメッセージを残そうと何かできないかと考える。石を使って砂浜に文字を残そうと、手ごろな石を集めていると、チャップの焦ったような呼び声が響いた。
「は、はやてさーーーーん!! もう移動するみたいっす! この風に乗らないといけないみたいでーー!! すぐに乗船してくださーーーい!!!」
見ると、チャップが帆船のすぐ横で大きく腕を振っていた。船員も出港するために錨を上げて、帆の向きを調節していた。
「えっ?!! ちょ、待ってください!!! すぐ行きますからーーー!!」
はやては抱えていた石を投げ捨て、急いでチャップの下に走り出した。
帆船に飛び乗ったはやてとチャップはデッキの上で流れる風を感じていた。
サルベージ船とは違い、ゆっくり流れている。普通はこんなもんかな、とはやてがつぶやくと、チャップは興味深そうに質問する。
「やっぱ、アルベドの船ってのは早いのか?」
「まあね。船内のエンジンって機械が船の推進力を生み出してるんだよ。風が吹いてなくても一定の速度で継続的に進むことができる」
「はー。やっぱ機械の力ってのは違うな」
「この船も風力以外にチョコボ動力とやらで動いてるじゃないか。動力室見たときは本当にびっくりしたよ」
「はははは! あの顔は傑作だった!」
「仕方ないだろ、あれはさ。一歩間違えたら虐待じゃないか」
ハムスターのように回し車を回し、ひたすら走り続けるチョコボを見たときの衝撃は、FFファンであり、実はチョコボとの対面を楽しみにしていたはやての気持ちを置き去りにした。
「我に返った途端にチョコボに夢中になるし、なんつーか、どこぞの田舎もんって感じだったな」
田舎出身の俺が言う話でもないか! と快活に笑って見せるチャップ。
どうも敬語を苦手そうにしていたチャップにいつも通りに話してほしいと頼んでから、この青年は取り繕うのうやめたらしい。気安い会話ははやてにもありがたいため、それについて文句があるわけじゃないのだが、それにしても変わりすぎだと思うはやて。
「田舎者で結構。実際記憶がない僕は田舎者よりもたちが悪いだろうけどね」
「お、おいおい。そこまで言ってないって!」
チャップは慌てたように言うが、はやては口端を上げてみせた。
「からかうにしても人は選んだほうがいいよ、青年」
「……け~~~!! どうせ俺とあんま年変わんないくせに大人ぶりやがって!」
「さてね」
はやては船の行く先を見つめた。この船はビサイド島に向かっている。島までは数日かかるようで、到着まではのんびりと過ごしてほしいと言われた二人は暇を持て余していた。それならばと、はやては事情の説明もかねてこれまでの経緯をチャップに話していた。
アルベド族はかなりひどい差別を受けているとはやては知っていたので、アルベド族と1カ月ほど共に過ごしていた話をした際のチャップの反応が気になったが、チャップからはアルベド族への侮蔑的・差別的言動は見受けられず、むしろとても興味深そうにしていた。ならばと、この際アルベド族の良さを知ってもらおうと考えたはやては保護されていた時の様子を伝えることにしたのだ。
やはりというか、機械の話をすると食いつきが良い。
「けど、チャップがアルベド族に対して差別意識を持ってないのは、正直驚きだよ。てっきりほとんどの人がそうなのかと思ってたから」
そういうとチャップは少し気まずそうにする。
「んまあ、その認識で大体あってるな。アルベド族はやっぱり機械を使うから嫌われやすいんだ。特にビサイド村みたいに寺院があるような町や村だと皆信心深いからなあ。俺みたいなのは、やっぱり少ないぞ」
「けどゼロじゃないってのは嬉しいもんだよ。僕はアルベド族じゃないけど彼らのいいところはたくさん見てきたし。それにアルベド族もその「教え」を全否定してるわけじゃないんだよ」
「え? そ、そうなのか?」
「うん。否定してるんじゃなくて、無視してたり、嫌がってたり、気にしてなかったりしてるだけだよ」
「そ……それは何か違うのか?」
「全く違うね。ようは価値観が違うって話だよ」
「うーん。俺にはなんだか難しいな」
チャップが腕を組んで頭を悩ませる。
全てを否定するという事は、拒絶するという事である。そして、人は何かを拒絶する時、往々にして力でもって排斥しようと試みるものだ。
はやてはヒトラーの話を例に出そうと考えたが、わざわざ気分を害する必要もないかと思い直し、やめた。
「まあ彼らはヒト語を話せないからね。誤解を解くことができなかったし、彼らと関わろうとする人も少なかったからこれまで偏見が放置されてたんだろう。これからチャップみたいな人たちが増えてくれるといいけれど」
はやてとしてはアルベド族が受けている差別や偏見がなくなればいいと、せめて少なくなってほしいと考えている。もちろんアルベド族がエボンの教えに反する行動を取り続ける限り差別を撲滅することはできないだろう。ただ、彼らも人であり、自分たちと同じように泣いたり笑ったりするのだということは知ってほしいと思う。
アルベド族は教えに背くから、ではなく、教えに背く
(……まあ、
「……? なーに落ち込んでんだよ!」
様子の変わったはやてを疑問に思いつつチャップが励まそうとしていると、足元に凹凸の付いた水色のボールが転がってきた。
「おっ! ブリッツボール! 俺も島に帰ったら練習しないとなあ!」
ブリッツボールという単語に反応したはやてはチャップが拾い上げたブリッツボールに目を向ける。
「そ、それが噂のブリッツボールか……!」
「噂って、おいおい……」
はやては目を輝かせる。大きさはちょうどサッカーボールくらいだろうか。チャップからボールを受け取るとはやては大きな感動に身を震わせた。
FFXではストーリー上でブリッツの試合をすることになる。試合に勝っても負けてもストーリーは進むものの、どうせなら勝ちたいと思うのがプレイヤーの性。しかし、ストーリー上のブリッツの試合で勝つことは容易ではなく、何も考えずに試合を進めたら、まず間違いなく敗北する。前半にしっかりと作戦を立ててキャラを動かし、後半は時間を気にしながら積極的にシュートを狙わなければならない。FFX屈指の難易度を誇ると言われるこの試合には、はやても何度もリトライしながら取り組んだ。
その「ブリッツ」が、ゲームの世界のものが、今手元にある。
はやては興奮を抑えきれず、ブリッツボールを触って感触を確かめてはデッキでバウンドさせてみたり手元で軽く投げてみたりした。
「意外と軽い。それにスーパーボールみたいによく跳ねる! それになんだろうこの手触り……固いけど柔らかい。バレーボールみたいな……?」
「おいおいおい! 夢中になってるじゃないか! まあ無理もないがな! スピラ全体が熱中するスポーツだ!」
「そうか、そうだよ! この世界はブリッツがあるんだよ! あー! 一度生で見てみたいな!」
「せ、せかい? まあ練習してる所なら村でいくらでも見せてやれるさ! なんたって俺、選手だし!」
万年初戦敗退チームだけど、という言葉は飲み込んだ。
「そうか! チャップはブリッツの選手かあ! これはぜひとも見学させてもらおうかな! 絶対見に行くからその時は声かけてくれ!!」
「ああ! 約束だぜ!」
よっしゃ! と少年のように喜ぶはやてを見ると、チャップはなんだか自分まで嬉しい気持ちになった。はやては冷静な大人という印象だったが、ブリッツのことになると途端に子供っぽくなってしまった。
(ああでもそうだ、俺はブリッツで皆を楽しませることができるんだ! はやてがワクワクしているように、人々を夢中にさせてきたんだ!)
忘れていた想いを思い出したチャップは無性にブリッツの練習がしたくなってきた。ビサイド村近くの海岸まで走り、海に飛び込み、ブリッツボールを蹴りたくなった。
仲間と、ビサイド・オーラカと、砂と水にまみれたくなった。
最近は討伐隊入隊のための雑務や訓練に時間を割いていて練習に参加できていない。ビサイド村にいる【恋人】を守るためだと思えば苦ではなかったものの、やはり選手として活動していなくても、ブリッツの事はいつも頭の片隅に残っていたのだ。
「やっぱ、好きだなあブリッツは」
胸にこみあげる熱い思いが勝手に言葉となって吐き出された。
「チャップ! 選手ってことはボールの扱いなんてお手の物だろう? この場でできる練習とか見せてくれないかな?!」
そういうと、はやてはホイッとボールを投げ渡す。チャップは咄嗟に胸で受け止め、足元にトラップした。
「えっ?! ちょっ、ここでか?!!」
「まさかボールコントロールが苦手ってことはないだろう? 選手なんだし、ほらほら、格好いい所見せてほしいなあ!」
はやてはくくくと小気味良く笑い、チャップを煽るように大きな声でそう言うと、デッキにいた子どもやその親たち、他の乗船客たちがなんだなんだと集まりだした。
兄ちゃん選手なの?! ボール使ってみてよー!
お、なんだ選手がいるのか?
何かパフォーマンスするみたい。見てみる?
みたーいみたーい!
おぉ! いっちょ見せてくれ!!!
あっという間にチャップは乗船客に囲まれてしまった。
こうなっては何かパフォーマンスの一つや二つ披露しなければ収拾がつかないだろう。
「………ったく! しかたねーな、求められちゃあな!」
チャップはにかっと笑い、そう叫ぶと、器用に足首をひねってボールを垂直に高く蹴り上げる。ボールはあっという間にマストのてっぺんにたどり着いた。はたから見ると、足首をほんの少し動かしたようにしか見えなかったのに、ボールは遥か上にある。はやてが両手で全力で上げても届かないかもしれないと思うほどだ。
きゃーー!!
おおぉっ!!!!
すっげぇえええ!!
「そんで、ほいっ! ほい! いよっと!」
自由落下するボールを音もなく首で受け止めたチャップは、今度は全身をアクロバティックに動かしながら体全体にボールを転がしてみせる。全く落ちる様子がなく、コロコロとチャップの腕や脚を転がり回るボールは完全にチャップのコントロール下にある。決して素人にはまねできない、洗礼されたその動作は、彼が確かな技量を持つ選手であることを証明し、見る者すべてに魅せつけた。
おどってるみたいだよママ!
そうねぇ、カッコいいわね!
おいおい、選手ってのはこんなにすげえのかよ!
ブリッツはちったあかじってたつもりだったが、いやあ、本物はちげえや。
観客の歓声はどんどん大きくなり、子供たちは興奮して飛び跳ね始める。
チャップは歓声の大きさに比例するようにパフォーマンスを複雑にし、披露していく。
誰もがブリッツを楽しんでいた。
誰もがブリッツを愛していた。
ティーダがスピラに飛ばされて、初めて『ザナルカンド』との繋がりを見つけたと吐露した時もブリッツだった。『シン』が破滅をもたらす世界で、1000年もの間、ブリッツは変わらず存在し続けていた。
その意味の一端を、はやては理解できた気がした。
そして、チャップをたたえる歓声に交じりながら、いつかブリッツがアルベド族と皆をつなげる架け橋となることを願ったのだった。