FFX スピラを旅する異世界人   作:カムパネルラ321

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方言の修正が終わり、主人公が常に標準語で話すようになりました。
機会があればどこかでまた方言がちらっとでてくるかも


ビサイド村⑤

「基本的にはオオカミ型のディンゴ、鳥型のコンドル、プリン型のウォータープリンの3つが多いみたいだ」

 

村を出たはやては地図を基にビサイド島全体の見回りをしている。連絡船から村に向かう途中も多少戦闘していたので魔物の強さはざっくりと把握していたが、この島の魔物たちはこれまでの戦闘経験から鑑みて、かなり弱い部類だろうとはやては結論付けた。時々、悠然と空を飛ぶ鳥型の大型魔物ガルダを発見することもあるが、見つけ次第ガ系の魔法一つで退治できるため、実のところ脅威ではない。はやてにとっては突然草陰から飛び出してくるディンゴの方が何倍も危険だろう。

 

「お、ウォータープリンだ。他には……いないな。よし、九式:ストップ」

 

ウォータープリンを発見したはやては「ストップ」をかけてその動きを封じる。きちんと魔法がかかっていることを確認すると、何を思ったのか、動きを止められたウォータープリンに近づき、しげしげと観察し始めた。

 

「一般的なファンタジーならスライム枠か。ドラクエのスライムと比べたら1万倍は凶悪だけど……。お腹の部分は脳みそ、というよりは消化器官かな? なかなかグロテスクだ」

 

手袋をはめた手でつついてみる。見た目と違ってかなり弾力があり、生半可な武器ではろくな攻撃を通しそうにない。物理よりも魔法で退治する方が合理的だろう。そう考えたところで、そういえば原作でもそういったチュートリアル戦があったことをはやては思い出す。

 

()()じゃあ体で覚えるしかないからなあ。こっちの攻撃を待ってくれるわけでもないし」

 

習うより慣れよ、の精神でなければやっていけない。幸い、アルベド族たちと行動を共にしていた時に対峙した魔物の方が幾倍もすばしっこく、攻撃も鋭かった。油断さえしなければやられることはないだろう。そのため、こうしてゆっくり観察することもできている。

 

「ゲームじゃわからなかった、魔物としての特性も勉強しないと———っ?!」

 

観察する手を止め、ファイラで退治した瞬間頭上から何かが飛び降りてくる音がした。はやてが咄嗟に飛びのくと、はやてがいた位置に槍のような武器が突き刺さる。同時に、青い毛に身を包んだ襲撃者が無手ではやてに襲い掛かった。

 

「ぐっ—! プロテス! ファイア!」

 

はやてが牽制の魔法を放つと、襲撃者は地面から槍を引き抜き、大きく跳躍して彼我の距離を開け、いつでも攻撃に移れるよう槍を構えなおした。

 

「———あんた、キマリか」

 

はやてもすぐさま体勢を立て直し、襲撃者を見据える。

その正体には見覚えがあった。襲撃者は原作における主要登場人物の1人で、キマリだった。はやてにとってキマリは特別印象深いキャラではなかった。ただ守護者のようにユウナの側に控え、彼女を護っていたことは覚えている。

 

「僕は敵じゃない。ユウナちゃんの知り合いで、チャップやその兄のワッカ、ルールーとも知り合いだ。僕は、敵じゃない」

 

原作のティーダも襲撃を受けていたなと思い出しながら、自分の素性を明かす。少しでも警戒を解いてくれることを願ったが、キマリは唸り声をあげて、一度大きく吠えると地面を強く蹴ってはやてに肉薄し、槍を振るう。

 

「あぁ、クソ! 敵じゃないってのに! T式:【武器を頂く】!!」

 

「——っ?!」

 

キマリが振り下ろした武器ははやてを確かに捉えるはずだったが、キマリの手からは槍が消え、代わりにはやてがその武器を手にしていた。

 

「悪いけど! 攻撃を当てないと効果が無くてね!! TA式:【足を狙う】!!」

 

キマリが混乱している隙に、奪った槍の腹でキマリを打ちながら「ドンムブ」の効果を与える。強くはない衝撃にキマリは頭を切り替え、再び無手による肉弾戦を仕掛けようとしたところで、自身の足が全く動かないことに気づく。バランスを崩し、地面に倒れ込むも「竜剣」で攻撃を仕掛けようとするキマリだったが、一手早くはやてが追撃する。

 

「TA式:【腕を狙う】!」

 

再度はやてが攻撃を加えると、「竜剣」は発動せずに、キマリは地面に縫い付けられた。足も腕も動かない。いや、腕を動かすことはできるようだが、攻撃を加えようと考えた瞬間に力が抜けてしまう。「ドンアク」が発動したのだ。

 

キマリは、なすすべもなく地面に転がることになった。

 

「ふう……、敵無力化の練習をしておいてよかった。それにしても心臓に悪い」

 

はやては槍を地面に突き刺し、倒れ伏すキマリに近づく。キマリは顔を上げ、はやてに対して威嚇するように唸ってみせる。

 

「僕は敵じゃないって。チャップの紹介でビサイド村に滞在する旅人だよ。僕の身分は彼と討伐隊が保証してくれている」

 

はやては自分の素性を説明するが、キマリはそれに返答することなく、はやてに対して威嚇を続ける。

 

「……まいったな、相手の精神に作用する【特技】は使いたくないんだ」

 

せめてキマリが落ち着くまで待つべきだと考えたはやては、キマリの動きを封じるために装備していた縄を取り出し、手足を縛る。今のところ「ドンムブ」と「ドンアク」の効果で、キマリの移動と攻撃行動は封じられているが、ゲームでは数ターンしか効果がなかったために念のための処置である。

 

キマリが話しやすいよう、上体を起こして側の岩に体を預けさせ、はやては落ち着いて話ができるよう周囲の魔物を一掃してからキマリの正面に座り込む。

 

「僕は柊木はやて。はやて、でいいよ。君はキマリで間違いないかな」

 

はやてが落ち着いた口調で問いかける。キマリは言葉を返さないが、唸ることを止めていた。しかし、その眼光は未だするどい。

 

「ルールーから君の名前を聞いたんだ。ユウナのことを守っているとも。僕の事は何も聞いてないかな?」

 

キマリはだんまりを決め込んでいる。はやてがそういえば原作でも物静かなキャラクターだったようなと思い出しながら、どうすればいいかと悩んでいるとキマリがウームと発した。何か話し始めるかと目を向けるが、何も話さない。こうなれば根気勝負だと腹をくくったはやては、キマリが口を開くまで正面に座り込むことにした。

 

しばらく見つめ合っていた両者だが、キマリがまたウーム、と発すると、今度は口を開いた。

 

「おまえは何者だ」

 

「ようやくしゃべってくれた。繰り返すけど、僕は柊木はやて。ユウナちゃんやチャップの知り合いで、旅人だよ。昨日ビサイド村に着いたばかりで———」

 

「そうではない。キマリは、おまえの正体を聞いている」

 

キマリの言葉に、冷水を浴びせられたような気がした。

 

「どういう、ことかな?」

 

 

 

 

「おまえの力は、人の力ではない。この世界の理を超えたものだ。召喚獣に近い力。しかし、召喚獣ではない。魔物でもない。魔物にも、召喚獣にもない力をおまえは持っている」

 

 

 

「キマリはユウナのために問う。おまえは何者だ」

 

 

 

今度ははやてがだんまりを決め込む番だった。キマリが自分に対して不自然さを感じ取っていることの驚きと、自分の正体をこの世界の人間にどう説明すればいいのか分からないからだ。転移者といえば分かりやすいが、そうするとさらに説明しなければならないことがあるし、キマリのような主要登場人物にはやての本当の出自を伝えることで今後の「物語」に影響を与えることは極力避けたい。

 

しかし、中途半端なごまかしでは目の前のキマリは納得しないだろう。キマリもビサイド村にいる以上彼の信用を得て友好関係を結ぶことは今後の活動における絶対の条件だ。

 

 

 

どう答えるべきか、どう説明するべきか。

 

 

 

はやては悩んだ末に、1つの手札を切る。

 

 

 

「僕は…………、この世界の人間じゃない」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「どういう意味だ。キマリを誤魔化すつもりか」

 

 

キマリの目が一層鋭くなる。当然の事である。怪しいと睨んでいた人物が「この世界の人間じゃない」と言い放ったのだ。意味が分からない。嘘をついていると思うのが当たり前だ。

 

しかし、はやては静かに続ける。

 

「僕は、この世界の人間じゃないんだ。別世界の人間で、原因不明の事故でこのスピラにたどり着いた」

 

「キマリは信じない」

 

「君が感じた違和感、それは僕が操る魔法に起因するのだろう? それもそのはず、この世界の魔法じゃないからだよ。異世界の……いや、異次元の魔法ってことさ」

 

「異世界とはなんだ。異次元とはなんだ」

 

「異次元っていうのは……ちょうどいい、あそこのディンゴを異次元空間に送ってみせようか。七式:デジョン」

 

はやて達から離れた位置にいるディンゴに「デジョン」が放たれる。ディンゴの足元に円形の暗闇が広がり始め、水色の光柱が立ち上がった。ディンゴの足が暗闇に飲み込まれると、そのまま暗闇に引きずり込まれるように消えていき、やがて暗闇も閉じていった。

 

「……幻光虫がでてこない。存在が感じられない。あそこには、何も無くなった。どこへ送った」

 

「この世界ではない、別のどこか。暗闇が見えただろう? その先が異次元空間になっているんだ」

 

キマリは目の前で起きたことが理解できなかった。ロンゾ族のキマリは魔物の気配を感じ取ることができ、空間に溶け込む魔力も知覚することが可能だ。ロンゾ族が得意とする「竜剣」は魔物や生き物の気配、魔力を吸収することで自分の力とするもの。気配や魔力の知覚感度はスピラに存在する種族の中でも1,2を争う。

 

キマリは、暗闇の先に広がっていた気配がこの世界のものとは根本的に違うことを確かに知覚していた。先ほどの魔物の足元に広がった暗闇が、魔物とその周辺のありとあらゆるものを吸い込み、どこかへと送り去ったことを理解したのだ。

 

「あの先が異次元だ。異なる世界、つまり異世界が広がっている」

 

「……なら、その魔法で帰ればいい」

 

「あの先は僕にとっても異世界なんだ。僕の帰るべきところじゃない。でも、僕が異なる世界から来たことは理解してくれたかな」

 

この世界ではない、別の世界がある。

それはキマリにとって信じられないことだったが、暗闇の先に見たもの、感じたものは確かに存在してた。自らの感覚を信じるなら、あれは間違いなく「異次元」、「異世界」なのだ。

 

 

 

 

「僕の目的は、元の世界に帰る事。それが僕の全てで、そのために旅をしている。どうすれば帰れるのか、今は皆目見当もつかない。けれど、僕は必ず帰って見せる。どれだけかかっても、絶対に」

 

 

 

 

はやては嘘偽りなく、そう述べた。

その言葉には覚悟が込められていた。それは、あの赤衣の男と同じ「覚悟」だった。

死にゆく男に託された想いや交わした約束とは違う。だが、命を懸けているという点では同じだった。

 

はやてはキマリの縄を切り、エスナをかけた。キマリは自分の手足が機能を取り戻したことを自覚し、静かに立ち上がる。はやては槍を地面から引き抜いて手渡し、キマリはそれを受け取った。すでに戦いの雰囲気はない。

 

「……ユウナちゃんに危害を加えるつもりは毛頭ないよ。勿論、ビサイド村のみんなにも。そんなことをしたら、家族に向ける顔がない。僕は、帰る手段を探しているだけなんだ。そのうち村も出る。だから、今だけはビサイド村に滞在することを許してくれないかな」

 

はやては片手を差し出す。キマリはその手をただ眺め、握ることはしなかった。

はやては手を下げ、困ったように頭を掻く。

 

「今もビサイド村のために魔物を退治していたところだよ。……信用してくれると嬉しい」

 

「…………」

 

目を交わす二人。

 

次に口を開いたのは、キマリだった。

 

「今のユウナは、静かでおとなしい子だ。昔はもっと明るかった」

 

「……そう?」

 

「だがユウナは明るく振る舞おうとする。周りに気を使っていつも笑う。キマリは、その笑顔があまり好きじゃない。無理をした笑いはすぐ分かる。ユウナに親しい者は、皆気づいていた」

 

キマリの表情は変わらない。だがどこか、愁いを帯びている声色だった。

 

「だが、ユウナは明るくなった。自然に笑うようになった。市場でおまえに会ってからだ」

 

「キマリもいたのか」

 

「あの時、おまえに動きを止められていた。キマリは動けなかった」

 

「あー……、後ろを付ける者は片っ端から「ストップ」とかかけたからなあ。ごめん」

 

「いい。ユウナは無事だった。おまえはユウナを守っていた。おまえといるユウナは、とても楽しそうだった。ユウナが無理せず笑っていた。キマリはユウナを笑わせることができない」

 

端的に、キマリにとって大切な事を伝える。

 

あの時、キマリはユウナの迷子にすぐに気づいていた。ユウナを守るため、常に視界の中に収めているのだ。しかし、その体格ゆえに上手く人ごみを避けることができず、余計な混乱を招かないようルールーに厳命されていたキマリは人ごみに無理に割り込むこともできない。そのうち、ルールーがユウナを見つけたので、ユウナとルールーに合流しやすいよう目立つところで待機しようとしていたら、ルールーよりも先にはやてがユウナに話しかけていたのだ。

 

得体のしれない男にユウナを任せるわけにはいかなかったため、キマリが追跡を始めると間もなく全身が謎の力で動かなくなってしまった。その力の発生源がはやてであることはすぐに見抜いた。咆哮をあげて危険を知らせようとしたが、瞬き一つ動かすことができず、キマリは手をこまねいて見る事しかできなかった。

 

そうして、己の無力に苛まれながら目にしたものが、ユウナの本当の笑顔だった。あの柔らかで楽しそうな笑みはいつぶりだろうか。キマリは幼い頃のユウナを思い出していた。おてんば娘だったユウナはキマリの体をよじ登ったり、シパーフに拾い上げてもらうために何度も幻光河に飛び込んだりしていたが、その時に浮かべていた本物の表情を、感情を、あの男が引き出していたのだ。

 

無防備なユウナを無法者から警護している様子もあった。ユウナの楽しみを台無しにしないよう見守る姿は、ビサイド村の人々の姿と重なった。

 

結局、はやてがユウナをルールーに引き渡して事なきを得た。ユウナは終始楽しそうで、はやてはユウナを無事に導いた。それからユウナは明るく過ごせていた。

 

実のところ、キマリははやての事を敵視していなかったのだ。ただ、村に滞在する理由とその力の不気味さ、はやての真の狙いを見極めるため、攻撃を仕掛けたに過ぎなかった。まさか手も足も出ないくらいはやてが戦闘に長けていて、異世界から来たとは思いもよらなかったが。

 

「キマリはおまえを信じる。ユウナのためだ」

 

「……ありがとう」

 

キマリは槍を背に、村へと歩き出す。はやてはキマリを見送る。すれ違い、少し歩いたところでキマリは振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その力で『シン』を倒すことはできるのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「できない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キマリはウームと唸り、少し考える素振りを見せたかと思えば、また歩き出したのだった。

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