FFX スピラを旅する異世界人   作:カムパネルラ321

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連続投稿2話目です。


ビサイド村⑦

「どうだい、うちの娘は。料理と織物が得意で、親のひいき目抜きにも器量よしだ!」

 

「ちょっと、あんたんとこの子まだ9歳じゃない。ねーえ、はやて君。うちの子なんかどーお? あたしとしては、そろそろ身を固めてほしくってさ。ほら、こっちおいで!」

 

「ちょ、ちょっとお母さん?! は、はやてさんすみません、お母さんが……」

 

「あら、こうやって並んでみると夫婦みたいじゃない!」

 

「お母さん!! …………もー、困っちゃいますね? えへ」

 

 

 

 

「はやてはやてはやてはやて!!! アレしてアレ! なんか浮くやつ!!」

「ねえねえ、この間のお話のつづきして。ボクね、光の4戦士のやつまたききたい」

「はやて兄ちゃんはらへったああああああああ」

「ねえみてみて! きゃはははは! へんな虫みつけたの! はやてにあげるねー! きもーい! きゃは──!」

「はやて! わんちゃんなでてあげて! …………あとわたしも!」

「くすんくすん、怖い夢見たの……」

 

 

 

「おーい! こっちだ! こっちの縄を引っ張ってくれー!」

 

「おう、お疲れさん。結構魚が捕れたぜ。この籠のやつ全部捌いといてくれ」

 

「あいたた! こ、腰がぐきって……お? 治った? おぉ! ありがとなはやて!」

 

「すまーん、はやているかー? ちょっと手伝ってほしいことがあるんだがー!」

 

 

 

 

 はやてがビサイド村に滞在してから1週間以上が経過した。はじめの数日はどこか遠慮がちな態度ではやてと関わっていた村民たちだったが、チャップやルッツの知人であり、迷子のユウナを助けたという話が広まると、あっという間に打ち解けられるようになり、はやてが村の警備をしていると知ってからは村民たちははやてを何かと頼るようになった。また、『シン』の毒気のせいで記憶を失って苦労しているのに、ビサイド村の為に尽力する姿は——記憶喪失が事実かどうかはさておき——村民たちの心を打ったようで、はやてのことを何かと気にかけるようになった。

 

 特に子どもたちには人気で、村にいる時は大抵はやての周りに子どもたちがいる。日が昇る前にはやてが泊まっている宿舎に突撃してはやてを叩き起こす子どももいるくらいだ。嫌な顔一つせず、面白い話を聞かせたり不思議な魔法で楽しませたりするはやては子どもたちにとって最高の遊び相手であり、好奇心がくすぐられる存在。また、子どものお守りをしてもらっている親からの評判も良く、それらが相まってはやての信頼度はうなぎのぼりだ。

 

 さらにユウナの存在は、はやてがビサイド村に溶け込む上でとても大きな影響を与えた。初めての魔物討伐以来、ユウナは時間が空いたらはやての下へと赴き、話を聞いていた。はやてのくだらない与太話でコロコロ笑うこともあれば、哲学的な話を聞いて自分自身と向き合うこともあった。はやてとの会話は少し内気なユウナにとって新鮮で、つい夢中になって時間を忘れることもしばしばあるほど。2,3日前からはユウナのちょっとした愚痴を聞いたり、悩み相談を受けることも増えた。

 

 逆に、ユウナがはやての為に動くこともあった。『シン』の毒気のせいで多くの一般常識を失ってしまっているはやては、日々の生活の些細なところでつまづくことが多い。例えば食事前の祈りを忘れているし、『シン』と召喚士の歴史、スピラに生きる者達の『罪』やその贖罪を忘れている。生きる上で絶対に必要な知識がないというわけではないが、一般常識を忘れているため、たまに村民たちの会話についていけてないときがある。そういう時のはやては曖昧な笑みを浮かべて相づちを打っているが、ユウナはそのどこか困ったような笑みを見るのがあまり好きではなかった。

 

 だから、そういう時は決まってユウナが知識の補完をしたり分かりやすく言い換えたりしてサポートするのだ。ユウナが会話のサポートをしたとき、はやては決まってユウナの頭を撫で、小さな声で「ありがとう、すごく助かるよ」と伝えた。ユウナには、それがとても嬉しかった。市場で迷子になった自分を助けてくれた恩人に、恩返しができたような気がした。色々なことを知っていて、ビサイド村の人たちに頼られるはやてが自分を頼ってくれると、今の自分でも誰かの役に立てるのだと自覚できた。はやてに頼られる自分が少しだけ誇らしかった。

 

 それがユウナの自己肯定感や自己効力感を高める一因になったのだろう。ユウナはより一層修行に励むようになるが、一方で笑う事も増えた。従召喚士として修業を始めてからあまり笑わなくなったユウナに、自然な笑顔が戻りつつあったのだ。

 

 小さい頃のユウナを知る村人ははやてに感謝し、はやてを慕うユウナを見た者は、はやての事を「何か凄い人なんだろう」と思うようになり、今ではほとんどの村民がはやての滞在を歓迎するようになった。はやての人の好さもあるが、何よりもそれだけユウナがビサイド村の村民に愛され、慕われているという証である。

 

 村人たちにとって惜しむらくは、はやての滞在が一時的なものであるということ。

 

 村の警備を一手に引き受けるほど戦闘に優れた魔導士で、立ち振る舞いに品があるが親しみやすく、子供たちの世話が上手で、ユウナが慕う人格者。見た目に反した落ち着きもある。加えて多少の料理スキルがあることも判明した。そして単身者だという。これほどの人材を逃す手があるだろうか、というのが中年層の村人たちの総意である。特に若い娘がいる家庭ははやてがビサイド村に残ってくれるよう積極的にはやてとコミュニケーションを取ろうとするし、何かと自分の娘と会わせたがる。娘たちも、まんざらでもない様子だ。

 

 

 

「よい、しょっと。ふう、今日も一日よく働いたなあ」

 

「おう、お疲れ」

 

「あ、チャップ。お疲れ」

 

 

 

 村の手伝いと警備巡回が終わった後、装備を外すため討伐隊の宿舎に戻ったはやては、装備品を身にまとったチャップと顔を合わせた。どうやらチャップはこれから出かけるようだ。

 

「もう夕方だけど、どこかに行くのかい?」

 

「おう、本部に報告と打ち合わせに行くんだ。明後日の夕方……より少し前に帰ると思う。全員じゃないが、結構な数の隊員が出払うことになる。いつも以上に警備が手薄だ。まあお前が毎日ものすごい数の魔物を討伐してくれてるからあまり心配はしてないが、念のために警戒よろしくな」

 

「了解。じゃあ、この近辺だけでももう一回りしてこようかな」

 

「なんつーか、この島の魔物が全滅しそうな勢いで狩るよなあ」

 

「魔物を倒してもただ消えるだけだから、儲けもないんだよね。……本来は()()()()()()()()()()()()()()なんだけどその辺はどうなってんのかね」

 

「ドロップアイテム? なんだそりゃ」

 

「ああ、いや。なんでもないよ。もう本当に全滅させてやろうか」

 

「できそうなのがこわいよな」

 

 それから少しばかり言葉を交わしてチャップは宿舎を出ていく。それから入れ替わるようにルッツが入ってきた。

 

「よう、はやて。お疲れさん」

 

「こんばんは、ルッツさん。これから本部に行くそうですね」

 

「チャップから聞いたのか。そうだ、ビサイド島での活動報告にな。ここの警備は任せたぞ」

 

「ええ、これからもう一度見回りに行くところです」

 

「体を壊すなよ。ああ、それとな」

 

 ルッツは隊服のズボンを探ると、折りたたまれた一枚のメモを取り出しはやてに手渡した。4つ折りのメモを広げるとA4くらいのサイズになり、そこにはいくつもの名前と所属が記載されていた。ざっと50人はいるだろうか。

 

「こちらは?」

 

 メモの真意を問おうとルッツに目を向けるはやて。ルッツは声を潜めて説明する。

 

「今、俺ら討伐隊を中心とした『シン』討伐作戦の準備が進められている。これは今回の作戦に協力してくれるアルベド族の一覧表だ」

 

「———っ?!」

 

「はやて、そこに知り合いはいるか?」

 

 はやては急いでメモに記載されている名前を確認する。

 

「…………いませんね。おそらく別のアルベド族集団か、各地からやってきたアルベド族達なのでしょう」

 

「そうか……」

 

「ですが、これほどのアルベド族が参加されるのなら……」

 

「ああ、お前の仲間と連絡が取れるやつもいるだろう。……どうする、一緒に来るか」

 

 もちろん、という言葉をはやてはどうにか飲み込んだ。

 

「………………いえ、この村の警備がありますから。さすがにビサイド村を危険に晒してまでアルベド族の仲間と合流する気はありません」

 

「あ、いや、そうだな。す、すまん。考えが足りなかった」

 

「いえ、ありがとうございます。可能であれば、このアルベド族の方たちに、はやてという人間がアルベド族と合流したがっていると伝えていただけませんか。「アニキ」か「リュック」の……そうですね、〈キニワミ〉と説明していただければ」

 

「きにわ……? なんだ、どういう意味だ?」

 

「〈キニワミ〉、アルベド語で知り合いって意味です。「アニキ」か「リュック」の知り合いってことですね」

 

「わ、分かった。「アニキ」と「リュック」の〈キニワミ〉だな。頑張ってみるさ。だが……仲間、じゃだめなのか?」

 

「〈ハアヤ〉……ですね。正直、信じてもらえるかどうか分かりません。アルベド族が迫害されていることを鑑みると、むしろアルベド族に取り入ろうとしているのではと疑われる可能性があります。なので、今は【「アニキ」か「リュック」と連絡を取りたがっている、はやてと名乗る〈キニワミ〉がいる】という事が伝わればよしとします」

 

「あー、そうだな。こちらが信用しても、相手も同じように信用してくれるとは限らないか」

 

「ええ。討伐隊の皆さんが帰ってきた後にでも、こちらから伺いたいですね。直接お会いできるほうが早いと思いますから」

 

「わかった。今回共闘するアルベドの宿舎があったはずだ。本部で少し情報を集めてくるとしよう」

 

「とても助かります。どうかお気をつけて」

 

「ああ。お前もな。じゃあ……」

 

「すみません、最後に一つ」

 

 踵を返して宿舎を出ようとするルッツの背を止める。振り返ったルッツははやての表情を見てたじろいだ。

 

 普段のはやてからは想像もつかないほど、ひどく、無表情だったのだ。

 

「その『シン』討伐作戦ですが、いつ頃決行されますか?」

 

「作戦の決行日か? まだ準備段階だからな、はっきりとしたことはいえないが……」

 

「構いません、大体でいいので教えてください」

 

 ルッツははやてが『シン』に対して並々ならぬ恨みを持っているからだろうと察しを付ける。感情を溢れさせないようにしているからこその無表情なのだろう。『シン』と相対したことのある者達は、えてして、『シン』の事になると感情を爆発させる。

 

「正式な日程はまだだ。ようやく本格的な準備が始まったばかりだからな。だが、オレ個人の見解だと…………おそらく、年が明けてすぐになるはずだ。9ヶ月後ぐらいだと俺はみている」

 

 

 年が明けて……、つまり原作開始の1年前。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ジョゼ海岸防衛作戦。アルベド族と協力する、過去最大級の作戦だ。機械兵器も、魔法も、ありとあらゆる手段を講じることになる。エボン教という枠組みを超えて、皆が協力し合って『シン』討伐を目指す。オレは、この作戦がうまくいくと確信している。持てる全てを出し切るつもりさ」

 

「……そうですか。ですが、お気をつけて。ルッツさんがいないと、この村の警備が手薄になりますよ?」

 

「そこはほら、はやてがこの村に住んでくれたらだな」

 

「できませんってば……」

 

 

 まあ、そうだなと笑った後、ルッツは村の警備について再度はやてに頼んで急いで宿舎から出ていった。時間がかなり押しているらしく、港に急ぐ必要があるという事だった。慌ただしく出ていったルッツを見送ったはやてはベッドに座り込み、しばらく目を閉じて息をつく。

 

 それから村の警備に行こうと装備を付けなおし、ほどいていた靴ひもを結びなおしながら、さきほどのルッツの言葉を思い出していた。

 

( ジョゼ海岸防衛作戦。そうだ、そんな名前の作戦だった……原作開始の1年前に討伐隊はジョゼ海岸防衛作戦を敢行する。討伐隊員として作戦に参加するチャップは、ここで命を落としたはずだ)

 

 原作においてチャップの存在はそれほど大きく取り上げられない。少なくともはやては名前だけで「ワッカの弟」を思い出すことはできなかった。しかし、チャップの死はルールーとワッカの心境の変化に多大な影響を与えている。原作におけるワッカとルールーは、チャップの死の上に成り立っているのだ。原作通りに事を進めるのなら、チャップの死は必要になる。

 

 つまり、分かった上で静観していなければならない。

 

「………………」

 

 どうするか。

 

 どうすべきか。

 

 何をするべきか。

 

「……何をするべきか、ね。そんなのものは決まっている。帰るんだよ、あの家に。自分の居た世界に。それが、それだけが……」

 

 靴ひもを縛る手に力が入る。

 

 

 

「は、はやて──っ!! いるか────っ?!」

 

 

 

「うわびっくりしたっ!!」

 

 突然、宿舎に飛び込んできた者がいた。ひどく慌てた様子で、息が激しく荒れている。

 

「お、おぉ! はやて!! いてくれたか!!!」

 

「副村長?! ど、どうしたんです、そんなに慌てて」

 

 飛び込んできたのは副村長だった。ひどく青ざめ、汗は滝のように流れている。ひどく興奮状態にあるせいで目が充血していた。はやてをみつけた副村長は飛び掛からん勢いではやての肩を掴む。

 

「あだだだだだだ!! ちょ、落ち着いてください! 肩が……」

 

 

 

 

 

「子どもが一人、帰ってこねえんだ!!」

 

 

 

 

 

 

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