また引き続き時間を見ながら執筆していきます。
「うし、捜索する前に打ち合わせすっか」
ワッカははやてとユウナ、村民たちを集める。
「山の上や崖はキマリと討伐隊の奴らで探してくれてる。オレらはここ、海岸を中心に探す。海の方はビサイドオーラカのメンツで担当してっから、海岸沿いに捜索の手を広げてくれ!」
うっす、と村人たちが答え、いくつかの確認を行った後すぐに捜索を始めた。
「ユウナはオレとはやての三人で動いてくれ。ただ、オレは全体の指揮のためにちょくちょく抜ける。そんときはユウナ、絶対にはやてのそばから離れんなよ。はやてのおかげで魔物の数こそ少ねーけどよ、まだ召喚士になる前に怪我でもしちゃあ大変だろ?」
「はい!」
ユウナはワッカの言葉にしっかりと頷いてみせる。
「はやて、お前さんの戦闘力についてはチャップからよーく聞いてる。普段の魔物討伐についてもな。オレより全然つえーんだろ。ユウナのこと、頼むぜ」
「もちろん。絶対に傷つけさせないよ」
はやても緩く微笑んで肯定して見せる。ユウナがちらちらとはやての顔を見ているがワッカは気づかないフリをした。それよりも、気になることがあった。
「あー……、で、よぉ。ユウナ、そいつは一体なんだ……?」
ワッカはユウナが両手に抱える謎の生き物を指差す。
ユウナは見たことのない生き物を抱えていた。4足歩行のソレは小型犬ほどの大きさで、長い耳はザナルカンド付近で確認されている「サル」のよう。だがワッカが知るサルとは違い、ユウナが抱えているものはエメラルド色で、淡く発光しながらキラキラと輝いている。額には真紅色の模様がついていて、魔物のような攻撃性は無く、むしろ愛くるしさが前面に押し出されている。されるがままにユウナに抱かれているソレについて、ユウナではなく、はやてが気まずそうに説明した。
「あー……、僕が呼んだ
そう言ってユウナが抱えるカーバンクルを撫でようとするが、カーバンクルははやてが伸ばす手に、顔を逸らす。どうやら拒否されているようだった。
「なーんでか、嫌われてるみたいでね……。僕の言うことを聞いてくれないし、帰そうと思ったんだけど、捕まえようとすると逃げるから困ってて」
あはは、と気まずそうに笑うはやてに、ワッカが呆れてみせた。
「おいおい、手なずけられてねーのか。こんな時だしよ、邪魔になるんじゃねーか?」
カーバンクルがきゅう!と鳴いた。ワッカの言葉に「そんなことない!」と返答しているようだ。
「いっその事強制的に帰そうと思ったんだけどね……」
「だ、ダメです! この子を帰したら、この子、消えてしまいます!」
ユウナが声を上げ、庇うようにカーバンクルを抱き込む。カーバンクルはユウナの袖に顔をうずめ、耳もペタリと閉じる。目に見えて震えあがり、怖がっているカーバンクルは強制的に帰還させられたくないようだ。
「消えるって、その子がそう言ってたの? 僕がその子を呼んだように、単純に帰すだけなんだけど……?」
「そ、その、何となく……なんですけど。この子の考えていることが伝わってきて。帰るのではなく、消えてしまうみたいです」
ユウナの言葉に、そんなはずはないと首をかしげる。
はやてが呼び出したのはFF14に登場する「カーバンクル」だ。FF14の巴術士というクラスが召喚できる「ペット」であり、ゲームでは主人公の側で戦闘に参加する。はやては巴術士のクラスで遊んだことはないが、他のプレイヤーやゲームのキャラクターに使役されているシーンを見たことがあった。そこでの「カーバンクル」達は主人たちに従順で、素直に攻撃に参加したり帰還したりしていたのだが、何故かはやてが呼び出したカーバンクルは言うことを聞かず、帰還をひどく嫌がる。
もしかしてFF14の巴術士たちはカーバンクルを召喚するたびに帰還という形で消滅させていたのかと思ったはやてだが、そういえばと、FF14の物語で登場するとあるキャラクターを思い出した。彼女は仲間の力になるため巴術士となり、カーバンクルを使役しようと奮闘するのだが、適性がないという理由でカーバンクルを上手く手懐けられていなかった。召喚してもどこかへ行ってしまうし、戦いの場においては逃げ出してしまってまるで役に立たない。
とあるイベント戦では、戦いの最中にカーバンクルが逃げ出したせいで丸腰になったそのキャラクターがボスに狙われ、助けを求めて主人公の下に駆け寄ろうとする時がある。しかしこのキャラクターに降り注ごうとしている攻撃は主人公のHPを一気に0にする威力を持っている——主人公の「クラス」によって何とか耐えきることもできるが、大抵は死ぬ羽目になる——ため、主人公はこのキャラクターから必死に逃げなければならない。「どうして逃げるのでっす?!」などと喚きながら主人公に近づき、運悪く攻撃に巻き込まれて
はやては、カーバンクルがはやての言う事を聞かないのも、自身に巴術士としての適性や資質がないからかもしれないと予想する。少なくともFF14では巴術士のクラスについていなかった。FF14の生き物を召喚した以上、多少はFF14の制約を受けるのかもしれないと考えた。
そういうことであれば、おそらくユウナには巴術士としての適性があるのでは、とはやては推測する。現在のユウナは寺院に認められた召喚士ではないものの、その卵とされる従召喚士である。また、
つまり、巴術士も召喚士の卵なのだ。
実際カーバンクルにとって、はやてよりもユウナの方が何倍も、何十倍も魅力的に見えた。召喚獣たる自分を、本来踏むべき手順や法則のなにもかもを無視して異世界に強制召喚したかと思えば、極めて軽い気持ちで完全消滅しようとしてくる輩より、ユウナの側にいる方がよっぽど心休まるというもの。むしろユウナが主人であってほしかったと切に願うほどだった。
(原作のユウナは最終的にすべての召喚獣を召喚できる熟練の召喚士になることを鑑みると、カーバンクルが僕ではなくユウナに懐くのも無理はないかもしれないな。伊達にヒロインをしているわけじゃなさそうだ。……さすが、というべきかな)
感心したように一つ頷いたはやては、続けて口を開いた。
「うーん、まあユウナちゃんのいう事をきちんと聞くなら良いか。あくまでもペットだし。カーバンクル、彼女のいう事をよく聞いて、彼女をしっかり守れる?」
はやてがカーバンクルに問うと、カーバンクルはユウナの腕から飛び降り、地面に着地すると、顔を上げて力強く「きゅい!」とひと鳴きして見せ、耳を大きく振る。そのつぶらな瞳には強い意志が見て取れた。
「よし。じゃあユウナちゃん、悪いんだけどこの子を君の側に置いてもらってもいいかな? きっとユウナちゃんの力になると思う。この子もすごく乗り気みたいだし、どうだろう?」
「……え? で、でも」
ユウナは驚いてカーバンクルを見た。
ちょこんと地面にお座りしているカーバンクル。どこか期待しているような表情だ。
自分の下に来てくれる、という事は素直に嬉しいと思うユウナ。抱えていると不思議と力が湧いてくるし、何よりとても可愛らしい。嫌という事は全くないが……本当に良いのだろうか? という思いがユウナを迷わせた。
きゅいきゅいとカーバンクルが鳴く。
仲間にして! 力になるよ!
ユウナには、カーバンクルの想いが手に取るように分かった。
それでもユウナが迷っていると、カーバンクルがユウナの胸に飛び込む。わぁっ、とユウナが反射的に抱えてしまうと、カーバンクルは心底嬉しそうにユウナの顔にすりついてみせた。
(か、かわいい……っ!)
ユウナが指で頭をなでると、気持ちよさそうに目を細めた。
「まあ、無理にとは言わないよ。ユウナちゃんの見てないところで帰せばいいだけだし……」
とんでもない台詞がはやての口から飛び出す。カーバンクルはきゅいっ?!とたまらず悲鳴を上げ、ユウナはカーバンクルを背に隠す。
「だ、ダメですっ! 分かりました! 私と一緒に来てもらいますから!」
きゅいぃ~、とカーバンクルが感動したような声を上げ、よしよし、大丈夫だからねと勇気づけるユウナ。してやったりと言わんばかりの顔で一人と一匹を見つめるはやてに、ワッカが心配そうに話しかける。
「お、おい。マジで大丈夫か? 危険はねぇんだろうけどよ」
「ユウナを主人と認めた以上、少なくともカーバンクルがユウナを傷つけることは絶対ないよ。人の言葉を理解するくらいには知能は高いし、元々主人には忠実なんだ。むしろ普通の小動物の方が危険性は高いくらいだよ」
「そうか。まあ、ユウナが良いならいいけどよ」
「それに何か問題を起こそうとするなら僕が強制的に帰すからね。カーバンクルがそれだけは嫌だという以上、僕自身が一つの抑止力にもなると思う」
僕、ペットのしつけはしっかりする方なんだ。
そうにっこり笑うはやてにワッカは「お、おう」と返すしかできなかった。はやての言葉を拾ったのか視界の端で震えるカーバンクルが心なしか涙目になっている。
「はやてさん! カー君をいじめちゃダメです!」
「カー君? その子の名前?」
「かぁばんくる? という生き物とおっしゃってたので、カー君です。変、でしょうか? この子は喜んでくれたんですけど……」
「……いや、いい名前だと思うよ。むしろ、
すこし怯えているようだが、きゅい~と健気に返事をして見せた。ユウナも頑張ろうね!と声をかけている。意気投合しているコンビを見たワッカも、これなら大丈夫そうだと安心し、早速捜索を始めることにした。
「うっし、じゃあすぐに捜索を始めっか。ユウナ達、ぶっつけ本番になるが、迷子捜索の為にしっかり協力し合ってくれ!」
「はい!」
「きゅっ!」
ユウナとカーバンクルのカー君。
1人と1匹のコンビネーションが今、試される。
先の打ち合わせ通り、はやてとユウナは迷子の捜索を行っていた。現在ワッカは海の方で捜索を続けているビサイドオーラカのチームメイトのところに向かっている。
はやてが先を歩き、4,5歩遅れた位置でユウナが追従し、カーバンクルはユウナの側をトコトコとついてきている。
「なんでもいい、もし何かに気が付いたら僕に教えてね」
「はい」
「捜索活動では僕ら人間には無い感覚で探すことも大切になってくる。カー君、お前にかかってるぞ。頼りにしてる」
「きゅい!きゅいきゅい!」
はやてがカーバンクルに声をかけると、カーバンクルも張り切っているのかあちこちに視線を飛ばしたり鼻をひくひくと動かして何か嗅ぎ分けようとしている。ユウナは迷子の名前を呼び、はやては何か痕跡がないか周囲に注意を巡らせながら、捜索に使えそうなスキルや魔法がないか必死に思い出していた。
(僕が把握している魔法やスキルの大半は攻撃系だ。捜索・探索に向いてるものはなかったかな)
ユウナ達の安全の確保に関しては問題ないが、はやてが使える魔法やスキルのほとんどは戦闘系に分類されるため、今回のように戦闘以外の用途で魔法・スキルを用いる際は「攻撃・防御・回復魔法を工夫した使い方」が前提になる。
解決策を考えつつ、些細な痕跡を見逃さないよう周囲に目を配らせることも忘れない。
迷子の捜索は思っていた以上に難しいと、はやては感じていた。
(だからこそ召喚獣に活躍してもらいたかったんだけど、安易な召喚魔法は怖いな。今回はよかったけれど、もし大型で気性の荒い召喚獣が僕の言うことを聞かなかったらただでは済まない。良くも悪くも、今回のカーバンクル召喚で召喚獣にも自由意志があることが把握できた。召喚魔法はできるだけ避ける方向にしよう)
ため息を吐きそうになり、なんとか抑える。
子どもの前では弱気なところを見せないようにする。大人であることを自覚する、はやての小さな意地だった。
「……きゅ?」
浜辺に沿って捜索していたはやて達は小さな桟橋に気が付いた。同時に、カーバンクルが何かを見つけたかのように耳を立てて立ち上がり、鼻をひくひくさせると、小走りで桟橋に向かう。
「あ、カー君! どこ行くの?」
辺りは暗いが淡く発光しているカーバンクルを追いかけることは容易い。ユウナはカーバンクルを追いかけ、桟橋の先で追いつくと、カーバンクルは落ちていた魚に興味を持ったのか、前足でつついていた。桟橋に落ちてしばらく経っているようで、小さな虫がたかっている。
「もうっ! ダメだよカー君! 今は迷子の子を探そうね!」
ユウナがカーバンクルを抱え上げると、桟橋の一部が欠落していることに気が付いた。いくつかの木片が波に揺れている。
「?」
そういえば、と見渡してみると、あるはずの漁船が見当たらない。ユウナ達がいる桟橋には一つだけ漁船が泊まっていたはずだ。別のところに収めたのだろうか? とユウナは考えたが、もともとこの桟橋が1つの漁船を泊めるために急ごしらえに作られたところを見ていたので、それは無いだろうと思いなおした。
「どう? なにか手がかりはあったかな?」
後からはやてが合流する。落ちていた魚と群がる虫にちらと目を向けるが、すぐにユウナに視線を戻した。
「え、ええと」
ユウナは先ほど気が付いたことをはやてに伝えるべきか迷った。余計なことを言って捜索の輪を乱したくない。だが、何かに繋がるかもしれない。
「きゅう!」
迷うユウナの背を押すように、胸の中でカーバンクルが鳴いた。カーバンクルからは大丈夫!と励ますような暖かい気持ちが流れ込んでくる。
(そっか。そうだよね。あの子を助けるためなら、迷ってる場合じゃないんだよね)
ユウナは、ありがとうというように優しく抱きしめ、それから先ほど気づいたことをはやてに伝えた。
ユウナから話を聞いたはやては少し考え込み、波に揺れていた木材を取り上げて確認する。明らかに腐っているようで、ほんの少し力を入れるだけでボロボロと崩れ落ちてしまった。
腰を下げて桟橋をよく観察すると、建築材として使われている木材の一部からアリのような虫が這い出て、落ちていた魚に向かって列をなしているのを発見する。桟橋の一部が虫食いや虫の住処になっているせいでかなり脆くなっていたのだ。はやては魚を砂浜に蹴り飛ばし、ファイアで燃やし尽くすとユウナに問い掛けた。
「……漁師の皆は船を出してないよね?」
「はい、こういうときですし、今夜は漁に出ないと言っていました」
「僕の記憶が正しかったら、漁師たちが海に出たのって今日の明朝で、お昼過ぎには帰ってきてたけどあってるかな?」
「はい。そうだと思います。漁で怪我をされた方の治療にあたっていたので」
ユウナがそう答えた瞬間、はやてはワッカたちが泳いでいる辺りの上空にファイラを放つ。
「えっ?! はやてさん?!」
上空に鳴り響いた小さな爆発音にワッカたちも驚いた様子だったが、はやてが自分の真上にもファイラを放つと、全員が慌てたように桟橋に向かってきた。
「皆に伝えたほうがいいことがあるみたいだ。ユウナ、カー君、もしかしたら迷子の行方に見当が付けられそうだよ」
お手柄じゃないか、そういってユウナとカーバンクルの頭を撫でるはやては心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
「いいコンビだね。ユウナちゃん、その調子でカー君と仲良くなってね。カー君、君はユウナちゃんをしっかり支えるんだ。それは、きっと君にとっても必要な事だと思う」
はやてはそう言うと、間もなく合流してくるワッカたちに向き直った。
はやての背中で、すましたような顔でそっぽを向くカーバンクルだが、褒められたことはまんざらでもないのか、その尻尾は誇らしそうにふりふりと揺れている。
ユウナはカーバンクルを今一度ぎゅっと抱きしめ、カーバンクルもそれに応えるように小さく鳴く。ユウナの胸に広がるのは、はやての力になれた安堵感。
そして、胸を焼くような多幸感だった。
以前から、はやての力になれることはユウナにとって嬉しいことだった。一人の人間として、誰かの役に立てている。そう実感できるからだ。
だけど、今ユウナが感じている、いっそ苦しいようなこの溢れる幸福感は感じたことが無かった。
もっと褒めてほしい。もっと撫でてほしい。もっと認めてほしい。
そんな風にわがままに、はやてに求めてしまいそうになるこの気持ちを、持ったことが無かった。
はやての背中が目の前にある。無防備な背中だ。
ぼう、とはやての背中を見つめる主人を不思議そうに見つめるカーバンクルだったが、何を思ったのかユウナの胸から飛び降り、少し離れると、極限まで威力を抑えた【吹き飛ばし】を発動する。ユウナの背中でぽんっと空気がはじけ、小さな衝撃がその背中を襲い、ユウナは前に押し出されてしまった。
「きゃっ!」
「うん?……って、おっとっと。あれ、ユウナちゃんどしたの? 大丈夫?」
音に反応して振り返ったはやてに、ユウナは飛び込んでしまう。はやては咄嗟に受け止めようと、ユウナを正面から抱きしめた。
「~~~っ⁉⁉」
突然の出来事に頭がフリーズするユウナ。そこに、さらにはやてが追い打ちをかける。
「どうしたの? 何かあった?」
はやての目にはユウナが自分に飛び込んできた、あるいは倒れ込んできたように見えた。咄嗟に抱きとめ、声をかけるもユウナに反応がない。少し疲れたのだろうかと心配したはやては、ユウナの額に手を当てる。少し体温が高いと感じた。もしや風邪では、と考えたはやては、ユウナの脈拍を取ろうと首下に指を添える。
「————ぁ」
甘い痺れがユウナの体に走る。ふる、とわずかに体を震わし、無意識に小さな息が漏れた。
脈拍を取る間のわずかな沈黙の中で、はやての少し心配したような顔が近づいた。
綺麗な漆黒の瞳だ。また、惹き寄せられる。
はやての唇が動いた。目が離せない。
「ユウナちゃん?」
ユウナは、
「おーーい! はやて! どうした! 何か見つかっ………何やってんだオマエら」
駆けつけてきたワッカが唖然とした様子で二人に声を開ける。ワッカについてきた者たちも驚いたような目で、抱き合うはやてとユウナを見ている。
「うん、ユウナちゃんの体調が悪いかもしれない。急に倒れたから支えたんだ。ちょっと熱もあるみたい」
「んな?! おいユウナ! 風邪ひいてんのか?! それなら無理せずルーと一緒にいろ!」
はやての真面目な声色と、抱きとめられたように見えるユウナの様子に慌てるワッカ。
思い返せば、今日のユウナはお勤めに修行、漁師たちへの治療と何かと忙しい1日だった。体調を悪くしていても不思議ではない。ユウナの下に駆け寄るワッカだが、ユウナは俊敏な動きではやてから離れたかと思うと、
「ご、ご、ご、ごめんなさいっ!!」
慌てて頭を下げ、ユウナの後ろでお座りしていたカーバンクルを抱え上げると、その背に顔をうずめて沈黙してしまった。
「ユ、ユウナ……?」
カーバンクルで顔を隠しているらしい。微動だにしない。
「お、お~い」とワッカが恐る恐る声をかけるが反応がない。
やがて、はやてが諭すように声をかけた。
「ユウナちゃん、体調が悪いならあとはルールーの下に行こう。何もするなとは言わないけど、無理に動いて体調を悪化させたらいけないよ。ねえ、ワッカ」
「お、おぉ。はやての言うとーりだ。頼むから無理すんな」
他の皆も賛同するように言う。
言葉は聞こえているようで、ユウナは弾かれるように顔をあげた。
「だ、大丈夫です! ごめんなさい! そ、その、ちょっと躓いただけです! 体調は悪くありませんから、ご一緒させてください!!」
そう言い切ると、自分にたくさんの目が向いていることに気が付き、またカーバンクルに顔をうずめてしまう。ユウナはそのまま、もごもごとしゃべり始めた。
「ふぉの、こふぉもみふぁいに、ふぉふぇたのふぇ……」
子どもみたいにこけたことが恥ずかしいらしい。
なんだ、そういうことかと安心するはやてとワッカたち。「無理だけはするなよ」と釘を刺したところで、はやてはワッカたちにユウナ達が見つけたことと、自身の考えを述べ始めた。
「もう、なにするの……」
「きゅきゅきゅきゅ!」
「嬉しそうにしてないもん……いじわる」
〈 リュックの様子はどうだ? 〉
〈 いつも通り、部屋に籠ってるわ 〉
〈 そうか…… 〉
アニキのチームはビーカネル島に存在するアルベド族のホームに滞在し、アニキは1人、医務室でリュックのカウンセラーと話をしていた。
本来であれば今もサルベージ船で調査を進めている所だが、探索した遺跡の詳細データの報告と共有を命じられ、また、多くのアルベド族たちが参加するジョゼ海岸防衛作戦についての詳細を聞くために帰還していた。
そして何よりも、少しの休養のためだった。
はやてが死んだという結論が下されてから、リュックは部屋に引きこもるようになった。最初の数日は食事もろくに取らず、眠ってばかりいた。
ねてるときははやてと会えるから。
リュックはカウンセラーにぽつりと溢したらしい。
わずかに回復しつつある現在も、義務的に食事をとるかベッドで眠るかの生活を送っている。
< ……リュック >
リュックは、はやてが使っていた毛布に包まるようにして眠る。
それは1秒たりともはやての事を忘れないよう、はやての事だけを考えていられるよう、足掻いているようにアニキには見えた。
< 眠ることは悪いことじゃないの。精神的な負荷があまりに強い時は、薬を飲んででも眠るほうが良い。そういう意味ではリュックちゃんの今の状態は回復に向かっていると言ってもいいと思うわ。ただ、チームに復帰して戦闘に参加するのは……もうあきらめたほうが良いわね。少なくとも5年以上は日常生活を送れるようにするために努力する必要がある。今のままだと、ナイフを渡した瞬間に自傷してしまうかもしれないもの >
< そうか…… >
< まずは生活を送れるようにすること。それまでは無理はさせないで。特に今はかなり繊細な状況よ。絶対に刺激しないで。 >
< 分かった。ありがとう。引き続き、リュックの事を頼む。 >
< ええ、あなたも無理はしないで。しばらく寝れてないんでしょう? >
< ハヤテの事だけじゃない。例の防衛作戦に参加するというやつらが多くてな。俺のチームは引き続きあの船の探索を行うが、防衛作戦に参加したがっている仲間たちは大陸中にいる。オヤジも協力するつもりらしいし、今はあちこちに散らばっている仲間たちを集めてるところだ。 >
アニキとリュックの父親、シドはアルベド族からは「オヤジ」と呼ばれて親しまれている。シドは全アルベド族たちの実質的なボスで、アニキたちが進める探索調査も、エボン教との共同戦線を張るジョゼ海岸防衛作戦も、ほぼすべての活動の管轄をしている。
無論リュックの現状も把握しており、アニキたちに報告命令と称してホームに帰還させたのもシドだった。
< 俺たちはしばらくここに滞在する。物資の補給が完了し、防衛作戦関連の仕事が終わればまた探索調査に戻る予定だ。……それまでにリュックは、>
< 無理だと思った方がいいわ。いつまでホームにいられるのかは分からないけど、1年単位ではないでしょう? あの子は今、自分で自分をコントロールできないの。突発的に船から飛び降りたら? 無理やり戦闘に参加して大けがを負ったら? そういうレベルなのよ、あの子は。身の安全を考えるとここのホームで隔離している方が絶対に良い。 >
< ………そう、だな。そうだ。そのほうが良い。リュックが回復してくれることが、1番だ。 >
アニキは胸に渦巻く様々な感情を飲みこんだ。わがままを言えば、一緒に探索調査をしてほしい。サルベージ船にいるだけでいいから、船の中で元気にしていてほしい。
小さい頃からいつも一緒だったのだ。こんな形でリュックを1人置いていくのはあまりにも心苦しい。
だが、アニキはリーダーだった。
アニキは全アルベド族のため行動する必要がある。ここで足を止めることはできないのだ。
< あの子が歩き出すまでは待つしかない。それは今じゃないというだけよ。今はまだ、歩けないの >
そう、ハヤテが生き返りでもしないかぎりはね。
カウンセラーがつぶやいた言葉は、医務室に寂しく響いた。
アニキは膝に力を入れて立ち上がる。無理やりにでも足を動かすといった様子だ。
< 今から向こうの討伐隊と現地の仲間がミーティングを開くらしい。通信機を持った仲間がいるからな。聞くだけになるが、会議に参加してくる >