FFX スピラを旅する異世界人   作:カムパネルラ321

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評価がついてる!

皆さんありがとうございます。
自己満小説ですが、よければお付き合いくださいな


サルベージ船③(修正済)

はやてが持つFFX原作の記憶は、朧気なものである。大まかな内容や所々の設定、名シーン、名台詞、多少の寺院の仕掛けを覚えているくらいだ。

 

例えばリュックがアルベド族であり、ユウナの従兄妹であり、ユウナの2つか3つ年下であることくらいは覚えている。

しかし、ハッキリとした物語の展開や細かい設定、正確な人間関係は覚えていない。ティーダがスピードアタッカーだったり、ユウナがヒーラーだったりすることは覚えているものの、キマリが具体的にどういうロールを担っていたのかはさっぱりである。原作知識に関して穴だらけのはやてだが、それでもあの「物語」の中心に位置するソレについてはよく覚えていた。

その理不尽な存在は、限られた召喚士のみによって行われる究極召喚でなければ倒すことができない。仮に倒したところで数カ月から数年にも満たない非常に短いスパンで復活を遂げる。

 

数百年おきに倒され続けるその存在は、この世界に生きる人々にとって概念的なものになり果てていた。

 

それは「罪」である。

この世界に生きる人々が抱える「原罪」である。

 

スピラの人々は自分たちにそう言い聞かせ、祈りを捧げ、理不尽を乗り越えてきている。

 

しかし、はやては知っている。

 

水面からその体の一部を露出させる、山のような存在の正体を。

暴虐の限りを尽くして死をもたらす魔物と成り果てた彼と、死してなお友の約束を果たさんとする赤布に身を包んだ剣士、そして種族を超えて広く信仰されているエボン教の中でも「葬り去られ隠匿され続ける歴史」を知るごく一部の者だけが、知っている。

 

 

 

未だ、スピラに救いは存在せず。

この世界は『シン』によって死の螺旋を描き続けていることを。

 

 

 

「シ、『シン』ダ ベサボ!」

「フイシ トヒサタユ マ ミハミア!?」

 

デッキ上でアルベド族達が対応に追われている。海に落ちた者は『シン』が生み出す強烈な海流にあっという間に巻き込まれてしまう。落ちた者を急いで海中から引き上げることが何よりも優先されるべきことであるのは、各船員がその身でよく理解していた。

サルベージ船の周りを目を凝らして見る船員達だったが、すぐに安堵の息を吐いた。何人もの仲間達が海に落ちていたが、不思議なことに彼らは水面にふわふわと浮いていたのだ。

 

よく分からんが、はやての魔法だな。

 

全く異色の魔導士であるはやてに感謝しつつ、すぐに頭を切り替えた船員たちは、海に落ちた仲間を引き上げたり、船がひっくり返らないようあちこちにバラけて船体を操作したりしている。機械を動かそうとする者もいた。

慌ただしくも驚くほどの連携を見せてどうにかこの場から離れようとする船員たち。はやては彼らの補助に回っていた。

 

「ヘイスガ」

「リジェネリジェネリジェネ」

「リジェネリジェネリジェネ」

「リジェネリジェネリジェネ」

 

反応速度が上がるヘイストをデッキ上の船員全体にかけつつ、体力回復を見込んで個々にリジェネをかけていく。ここでは白魔法を全体にかけることができない。FFXの続編ではできたハズだが、今は『シン』への対処が一番だと考えてなるべく早くリジェネを放たんと奮戦するはやて。

 

アニキは船内から指揮を執っているのだろうか、デッキに出てくる様子はない。しかし、リーダーがいなくともやるべき事は分かりきっているのか、実に落ち着いた対応をみせる船員たちだった。

しばらくすると海流の流れを把握できたのか、サルベージ船が安定して走りだす。『シン』の進行方向とは逆に向かって逃げ出しているようだ。『シン』も体の一部がほんの少し海上から出ているだけで、特に攻撃してくる気配はない。

最も、攻撃されてしまえばひとたまりもないのでアルベド族たちは誰も気を緩めてなどいない。完全に視界から消えるまで、ほんの一秒すら油断はできないのだ。

 

「…………」

 

はやては徐々に離れていく『シン』の一部を眺めながら、何もできない自分自身を悔しく思った。『シン』を斃す事自体は、おそらく可能だろう。実験はできていないものの、はやての知るFFシリーズには「試しに放ってみようかな」などとは決して思えないほどエゲツない魔法がいくつもある。唯一の最強魔法が決められないほどの多様さはしばしば「最強の魔法は何だ」という論争を引き起こすほどである。

 

例えば各シリーズでよく見かける「メテオ」は最強魔法の候補としてよく挙げられる。最強クラスの黒魔法である(ことが多い)「メテオ」は、多くの場合、物語終盤で覚えられる攻撃魔法として登場する。FFシリーズのプレイヤーなら皆知っている魔法だ。FFXでもベヒーモスが使う敵のわざとして登場しており、一度はこのメテオで全滅したことのあるプレイヤーは一定数いるだろう。

 

シリーズを通して強力な攻撃魔法である「メテオ」だが、「どのくらいすごいのか」という点は詠唱・発動された時の演出の違いに依存する。

単に岩石がいくつも降り注ぐ場合もあれば、ちょっとした市であれば壊滅的な被害を被ってしまいそうな隕石が降る時もある。FFⅦに至っては、星そのものを滅ぼしてしまう究極の破壊魔法として扱われている。エンディングでちらと登場するが、その絶望感たるや、前作までの「メテオ」とは一線を画すものである。

 

もちろんバトルでは敵に与えられたダメージを数値で確認できるため、純粋な威力は比較できるかもしれない。しかし、今はやてがいる世界では敵の魔物にどの程度のダメージを与えられているのか正確な数値で知ることはできない。威力はその派手さ、つまりはやてがイメージしている魔法に応じて変化していると数回の遺跡探索で理解したはやてだが、同時に彼は、自分が正確な威力や規模を想像したり、把握できなければ、うっかりで世界を滅ぼしかねないとも理解していた。そのため、はやては魔法を放つ時、自身がイメージがより正確になものになるよう口に出して詠唱したり、「~式」といった風に区別したりしているのである。

 

「メテオ」のように『シン』を倒せるだけの規模を持つ魔法は、敵のわざも含めれば、いくつも候補に挙げられる。しかし、『シン』ごと世界を滅ぼしてしまえば元も子もない。何より、元の世界に帰るための手がかりを探すことを考えれば、今ここで『シン』を倒してしまうことで生じる原作との乖離は極力生み出さない方がいいと考えたはやてだった。勿論、下手に刺激することもしないほうがいい。船員が逃げの一手に回った時、同時にはやては絶対に攻撃しまいと誓った。

 

 

最善の手だろう。しかし、はやては己の感情が荒立っていることを感じた。

 

 

斃せるのに、斃さない。

救えるのに、救わない。

 

ただ、強く奥歯を噛み締めた。

 

〈ハヤテ! へや! もどれ!〉

 

『シン』を見つめるはやての表情を見て、彼が思い詰めているように感じた一人の船員が声をかける。気を使ったのだろう、それもそのはずで、彼らははやてが『シン』によって記憶喪失になっていると誤解しているのだ。声に振り返ったはやては、そのアルベド族が張り上げた声とは逆にとても優しい顔をしていることに気がつき、目を背けるように、また『シン』へと目を向けた。

 

(…ここの皆を、裏切ってるな)

 

仕方ないとは言え、心苦しく思うはやて。何かしらの形で、きちんと恩に報いなければ。せめて、ここの人たちが道半ばで倒れることが無いよう、力を尽くそうと決意を新たにする。

 

〈 ここで! たいミ! 〉

 

〈 おい! ハヤテ! 〉

 

〈 たいミ! させてほしい! 〉

 

〈 ………ちっ。たいき、だ。すきに しろ 〉

 

短いアルベド語だがはっきりと断言したはやての背に、ふ、と笑みを浮かべたアルベド族の男はアニキに報告に行こうとふわふわ歩きながら船内に戻っていく。男が自動ドアの前に立ったところで、リュックがドックへ飛び出した。慌てた様子で男とぶつかり、一言謝ったリュックははやての下へ駆けつけた。

 

「ハヤテ! 大丈夫だった?!」

 

「あ、ああ、うん。だいじょう……」

 

リュックの声が聞こえたとき、ヘイストがかかっていた自分の時間を戻すためにスロウをかける。先ほどの男とは同じ体感速度だったため問題なかったが、ヘイストがかかっていない者と話すときはスロウで体感速度を戻さなければコミュニケーションが成立しにくい。

 

自分の時間を戻し、振り返ったはやてが見たのは、船内で額を強く打ったのか、赤というよりも青黒く染まったそこを氷を包んだ布で冷やしながら息を切らすリュックだった。よく見ると、頭の後ろにもガーゼのようなものを当てている。

 

「っはあ、はあ、はあ、は、ハヤテ?」

 

息を整えながらきょとんとするリュックに、言葉を失うはやて。

 

「……リュック、それは」

 

「あ、これ? 最初にぶわわ~~って船がゆれたときさ、後ろにこけちゃったんだ。しかも本棚から本とか箱とか落ちてきて、おでこも打っちゃって! こけたときに気絶してたみたいで、目が覚めてから気づいたんだ…えへへ」

 

まるでドジを踏んでしまったと言わんばかりに恥ずかしそうに笑うリュック。実際、彼女の中ではちょっとした出来事に過ぎないのだろう。

 

「あでも! 目が覚めたらふわふわ浮いててびっくりしたよ! これ、ハヤテがやってくれてるんでしょ! さすが———」

 

「ケアルラ」

 

リュックの言葉を遮って、はやては回復魔法をかける。咄嗟にケアルガをかけようとしたが、過剰回復がどのような効果をもたらすか分からなかったため、ケアルラをかけた。それでもみるみる怪我が治っていく。

 

「わ、わ、わ。びっくりした~。でもありがと……ってひゃああああ」

 

「ほかにどこか痛む?リュック」

 

見た感じでは、リュックの外傷はきれいに治っている。あざになったところも元のきれいな肌色に戻った。しかし、見た目では分からないこともあるだろうと、はやてはリュックの額に手を当てたり、顔を包んで優しくさすったり、後頭部を優しく撫でたりして他にたんこぶやあざができていないか確認する。

 

「ひゃあ、ああ、あ、は、は、あ、んむ、」

 

リュックの首から上を撫でてさすって包みこむはやて。リュックはやられ放題である。時々はやての指が唇を掠めたり、耳に触れたりする。くすぐったさを感じながら「あ、ハヤテの指やわらかい」と感想を抱いてしまうほど混乱する少女がそこにいた。

急に硬直したリュックをみて、やはりどこかまだ痛むのかとケアルをかけるはやて。

どういうことか、肌の赤みが引かない。少し熱もあるようだ。

 

「リュック? リュック!」

 

「んむゅ、ふぁ、ふゃに?」

 

両手で顔を包まれて、少し強引に目を合わせられるリュック。

はやてのきれいな黒い瞳が目に入った。

 

「どこも痛まない? 頭痛は?」

 

「ふぁ、ふぁいふぉうふ」

 

「そっか、よかった」

 

安心したはやてはリュックを開放する。

ぁ、と名残惜しそうな声には気が付かない。

 

「頭を打って、気絶したんだろう。結構深刻だから様子を見よう」

 

「こ、これくらい大丈夫だよ~。まったく心配しょーなんだか……」

 

 

 

「今日は僕のそばにいて」

 

 

 

「………‥はぃ」

 

 

「うん」

 

はやてにはめずらしい、リュックの言葉に被せた少しだけ強い命令口調。

はやての手の感触が残る耳に触れながら、でも嫌いじゃないと思ったリュックだった。

 

急におとなしくなって、もじもじするリュックに首をひねるはやてだが、自然と目線を切って、また『シン』に目を向けようと振り返ったとき、

 

「……は?」

 

 

『シン』がいなかった。

 

 

そして、激しく擦れるような金属音がけたたましく響き、何かが大量に降り注ぐ。船が上下に浮き沈みした。少なくない海水がデッキを覆い、また海へと流れ落ちる。幸いにも海に落ちたものはいなかった。しかし、全員が体制を崩してしまう。

 

きいいぃいぃぃぃいぃぃぃいいぃいぃいぃぃ‼‼‼‼

 

海水が引いたデッキ上にいたのは、金切り声を上げる大量の魔物だった。蝶の卵のような形でデッキ上に刺さったそれは、間を置かずに動き出し、羽を広げて立ち上がる。

蠅のような見た目の魔物だ。

 

「コケラくずだ!」

 

リュックが叫ぶ。

 

「す、すぐに倒さないと! 『シン』がよってきちゃうよ~!」

 

30匹以上はいるだろう。一匹ずつ数えていられないほど、多くのコケラくずが船体を覆っている。

 

「ファイガ!」

 

コケラくずが密集しているところのやや上の空間を狙い、ファイガを放つはやて。中心にいたコケラくずはあっという間に幻光虫へと変わり、また周囲のコケラくずも巻き込まれる形で燃え尽きた。魔法が放たれた場所の魔物が死んだことで、コケラくずの群れにぽっかり穴が開いたような空間ができる。

 

コケラくず自体は案外脆いようで、はやての魔法の前に成すすべもなく死んでいく。同じ要領で何度かファイガが繰り出され、すでに体勢を立て直して武器を構えた船員たちははやての作ったスペースを活用してコケラくずたちへと対面していた。

 

「すっごい数! 早く倒さないとだ!」

 

リュックも身近なコケラくずを相手にする。腰から抜いた短剣を振り回し、流れるように攻撃をかわしながら、次から次へとコケラくずに猛攻を加える。

 

「ちょいちょい~ってね」

 

あっという間に一体倒してしまった。

 

「さすが班長。蝶のように舞い、蜂のように刺すってやつだ」

 

はやての言葉にえへへ~と笑みを返し、気を入れなおした。

 

「さささ~と倒しちゃおう!」

 

「うん。あ、そういえばだけど」

 

はやてはファイアを連発してコケラくずをどんどん葬りながら、リュックに問いかけた。

 

「コケラくずを放置してたら『シン』がやってくるんだっけ?どうしてかな」

 

「はっ! やぁ! …ふう、ええとね、あたしもよくわかんないんだけど、『シン』の体の一部がはがれると、魔物になって襲い掛かってくるんだよ。それは『シン』のこけらって呼ばれてるんだけど」

 

船員たちも慣れたもので、銃を巧みに使いこなし、コケラくずをせん滅していく。気が付けば、残り10体前後といったところだろうか。

ハヤテとリュックの周りのコケラくずは、全てせん滅されている。

 

「その『シン』のコケラの、もっと小さいのがこいつら!」

 

「なるほどね。ん? 羽が光りだしたぞ? ファイアファイア」

 

少し離れたところにいた船員を狙って、背後のコケラくずが攻撃を加えようと羽を光らせていた。すぐにファイアで倒すと、魔物が背後にいたことに気が付いたのか、船員がはやてに向かって親指を立てた。

 

「ないす! それで、『シン』はこけらとか、コケラくずを回収しようとするんだ。いろんなものを壊しながらね……」

 

残りのコケラくずは他の船員が対応している。残り5体を切ったところで、リュックも終わりを確信して力を抜く。

 

「だから、見かけたらすぐに倒さないといけないんだって。『シン』のこけらも、コケラくずも。あまり見ることはないんだけどね」

 

「……そっか、まあ見ないに越したことはないね」

 

「そーいうこと! あ、最後の一匹が倒れた」

 

「よし、じゃあみんなにケアルを…」

 

デッキ上からコケラくずがいなくなり、全員が一息ついたタイミングで、またサルベージ船が大きく揺れる。体制を崩すがどうにか立ち上がると、海中に光る蛇のようなものが見えた。

 

「なんだろ、あれ…?」

 

リュックが身を乗り出して確認しようとすると、急に海中から触手のようなものが何本も現れ、リュックに襲い掛かった。

 




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