俺の異聞帯(暫定)   作:あすとろん

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その3

さて地球を漂白してからしばらくの時が経過しており、7人のクリプター達は各々忙しい時を過ごしていた。

ある者は協力的ではない異聞帯の王を排除しようと、ある者は慕う男のため己が異聞帯の統治を粛々と行うもの、ある者はかつて慕ったものの影と在ることを、または異聞帯を維持することだけでも至難な状態なものも、理由に違いはあれど7人とも状況は同じであった。

そんな中、前回から割と短い期間で今回の会合が設けられることとなった。

 

議題は2つ。

1つ目はかつての古巣、カルデアの残党出現の予知。

これについては虚数空間に潜行している彼らにとって、漂白されたこの世界において唯一「縁」があるカドックの異聞帯に出現するだろうと考えられ、その対処もカドックに一任する、ということで決まった。

尚もう一人カルデアと縁を持つ者がいるのだが、これについてはカルデア側がそもそも存在を認知していないため可能性が薄いということで決着した。

 

次に2つ目の議題がキリシュタリアから発表されることでにわかに動揺が広がる。

 

「2つ目の議題だがアシュトンが作り上げた第八の異聞帯、其処と此処の連絡手段を用意できた。」

 

「本当ですかキリシュタリア様⁉」

 

「お!これでアシュトンってやつの顔を拝めるってわけか!」

 

「何度も言うけど一応顔は合わせてるはずよ?ベリルが覚えていないだけで。」

 

「しかしキリシュタリア。どうやってあそことの連絡先を用意したんだい。」

 

「何簡単なことだ。どういう理由かは分からないがあそこの空想樹は変質してしまった。だが根本は我々の空想樹と同一、後は波長の調整さえしてしまえれば映像などの送受信については問題ないだろう。後は彼方が受け取ってくれるか次第だが…とりあえず1回目は向こうも想定していないはずだから自動で繋がるだろうね。2度目からは分からないが。」

 

「なるほど。後はアシュトンに降伏勧告を行うというわけか?」

 

「降伏勧告ではないよデイビット、協力を要請するだけさ。おそらくアシュトンにも彼なりの思惑があって我々とは異なる立ち位置に立っているのだろう。だが逆にその思惑によっては同志にとして協力できるはずだからね。」

 

「…そうか。まあ敵対するにしろ情報は多いほうが良いからな。それに失うものもないのだから試して見るのは賛成だ。」

 

それからキリシュタリアとデイビットの会話も終わり、他のクリプター達も敵対するにしろしないにしろ情報収集は大事だろうと通信をつなげることに賛成した。

一部興味ない者もいたが概ね全員、以前より自分たち以外の、しかも『異星の神』の思惑を超えたアシュトン・レイナードとはどんな人間なのか興味を抱いていたのだから。

 

「さて意見の統一も出来たことだし早速通信をつなげるとしよう。急な通信で都合が悪いかもしれないが次の会合のアポイントメントでも取れれば御の字だからね。」

 

「まあもしかしたら見られたら不味いことをやってるかもしれないけどね。」

 

声のした画面を見ると、アナスタシアや言峰神父を伴ったドックが皮肉を口にしていた。

それというのも以前急な用件で繋げた際、オフェリアがストーカー(セイバー)に愛を囁かれていたり、ベリルが血みどろでR18Gな感じになっている場面を見てしまい後悔した経験があるからだ。決してアナスタシアとアオハル的なことをしてイチャイチャしてるところをペペロンチーノに見られたからではない。

 

「さあ・・・第8の異聞帯に繋がるぞ!」

 

先ほどまで黒く染まっていた投影に光が灯る。

クリプター達が注目していると徐々に人影のようなものが見えてきて、次の瞬間クリアな映像と共に向こうの音声も響き渡る。

 

『うわ~ん⁉マッ!マ“マ”アァァァァ‼』

 

映し出された映像にはアシュトン・レイナードと思われる人物が大きな角の生えた女性の胸に顔を埋めて泣きじゃくっているいる映像だった。

 

 

 

 

 

 

 

沈黙。

 

 

 

 

 

 

 

 

余りに想定外の映像にクリプター達は動揺したり、停止したりする。

尚終始アシュトンに興味を持ってなかった芥ヒナコですら二度見していた。

 

『ティアマトママアアア!働いても働いても書類が減らないよおお!!もう嫌だああ⁉』

 

『A…Aa-----------------』

 

映像の中では、ティアマトがいい歳してマジ泣きしてるアシュトンの頭を抱き締めながら背中をトントン叩いていた。

その場面だけ見ると、正に大地母神そのものである。

 

『都市や人口は増えるし、いつもの魔獣退治は減らないし、空前の料理ブームでいろいろと問題が発生して法整備しないといけないし、ルチャしてケガ人出すし、賢王が逃走しようとするのを捕縛してシドゥリさんと執務席に縛り付けたり…忙しすぎるんだよお!?お願いだようマッマ!内政99くらいの有能な文官型の魔獣をダース単位で生み出してよぉ!?』

 

内政99の魔獣とは一体?

この時オフェリアの脳内で魔獣の定義が乱れる。

 

『好きな人がいた。暖かくて、やさしくて、誰よりも幸せになってほしくて。みんなのためなら命さえ惜しくない。そう思ったから』

 

『今日まで仕事にも耐えて』

 

『耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて耐えて来たのだから!!』

 

『否定されていいわけが、許せるわけがない!嘘だ嘘だ嘘だ!!』

 

『俺には間違いなく好きな人が、間違いなく、確かに俺にはいるんだから!!』

 

『俺は何のために、誰のせいで!死ぬぐらいなら、いっそ…!!』

 

『A…A…♪A…♪』

 

割と重大な情報を垂れ流し続けながら、どこぞの蟲おじさんムーヴで嘆くアシュトン。

そしてそれをご満悦顔で受け取め、優しく頭を撫でるティアマト。

やはりこの場面だけ見るとティアマトマジ女神である。

だが忘れてはいけない。

彼女自身がアシュトンを追い詰める要因の一つであることを。

 

『賢王殿⁉賢王殿がいるか⁉アシュトン殿がご乱心ですぞ⁉』

 

『ふむ…どうするべきか…。よし!我がケイオスタイドに再び漬かり牛若のように増えれば仕事など一瞬よ!』

 

『駄目だ!賢王どのも故障しかけている⁉衛生兵を⁉誰か衛生兵をぉ⁉』

 

勤労の獣爆誕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…すまないがアシュトン・レイナード少し話を良いだろうか?」

 

アシュトンの醜態(赤ん坊プレイ)を見て、珍しくキリシュタリアがどもってしまった。

ヒナコとオフェリア、そしてアナスタシアはゴミを見るような冷たい目で、その他男性陣は何か痛ましいものを見るかのような顔で映像の中のアシュトンを見つめる。

言峰神父はアシュトンの某蟲おじさんムーヴの嘆きにほっこり(愉悦)している。

 

ピタッ

キリシュタリアの呼びかけに映像の中のアシュトンの動きが止まる。

そしてギギギッと音が聞こえそうな動きでこちらを向く。

 

「ヒッ⁉」

 

振り向いたアシュトンの瞳をみてオフェリアが短い悲鳴を上げる。

其処には知っているものならばケイオスタイドを連想させるような濁った瞳だったからだ。

アシュトンは静かにティアマトから離れて一度映像を切る。

それから数秒・・・賢王が執務席からいなくなりラフム人形が置かれ、身なりを整えたアシュトンが再度映像に浮かび上がる。

 

『やあ君はキリシュタリアだな?他のメンバーも知っている。俺がアシュトン・レイナードだ。』

 

「「「無かったことにしてる・・・。」」」

 

クリプター達は先ほどのことを見なかったことにした。

彼らは気遣いのできる人間だから。

 

 

それから1時間もの会話の末、お互いの情報交換と立場の明確化を行った。

その結果、『異星の神』を信じるクリプター達と信じないアシュトンの対立は避けられず、ただカルデアに対しては協力するという曖昧なものとなってしまった。

 

『ところで一つ聞きたいんだが…』

 

長い話の末、少し気まずそうな様子でアシュトンが問うてくる。

 

『あ~君たちの異聞帯はその忙しくないのか?その~仕事とか?』

 

「統治などのことか?私のところはそこまで仕事はないし、あってもオリンポスには最低限文官がいるしな。」

 

「ワタシのところもかしら?」

 

「私のところには穏やか過ぎて仕事がない。あっても異聞帯の王が元々皇帝だからその辺の人材も揃ってる。」

 

「「そもそもそういう仕事がない。」」

 

「私のところもそういう仕事は少ないかしら?あってもワルキューレたちがいるし。」

 

「・・・僕のところはヤガたちから税を納めたり再分配するのは皇帝、というかその部下たちがやってくれるしなあ」

 

それぞれの回答を聞いて加速度的にアシュトンの目が死んでいく。

あれ?こんな忙しいの俺のところだけなの?

っていうか他の異聞帯にもやっぱり文官がいるんだあ。

ふ~ん・・・ふ~ん・・・ふ~ん・・・。

といった感情が透けて見えている。

 

『・・・君たちのところは忙しくないんだな。まあ今日はもう遅い。正々堂々と言っていいのか分からないが戦おう。カドックは・・・無事カルデアの残党を倒してくれ。』

 

「・・・分かってる。カルデアの残党が来たところでオプリチニキたちで対処できる。大丈夫だ。」

 

この日のクリプター達の会合はそのセリフを最後に終了した。

 

 

 

 

「普通に考えればカドックの言う通りカルデアの残党に勝ち目などない。だが…彼らは腐っても世界を救った連中だ。舐めていたら勝てない」

 

「ふむ。やっと正気の戻ったかアシュトン。してどうする?正直この異聞帯ではカルデアは敗れたからな。お前の心配は杞憂な気がするが・・・。」

 

「賢王殿も正気じゃなかったじゃん。・・・まあやることは決まってる。」

 

「ほう?」

 

「カルデアに助力してこのまま他のクリプター連中をかき乱してもらおう。流石に他全ての異聞帯に組まれてはいくら此処の異聞帯に神級が多くても不利だ。カルデアには悪いが鉄砲玉に成って貰うとしよう。それに彼らは甘いからな・・・最後までカルデアが生き延びるなら外道な手を使ってでも始末するさ。なにより・・・」

 

「・・・なにより?」

 

「壊れかけの異聞帯なら大手を振って文官を保護(拉致)出来るじゃないか。」

 

「クククッ!クハハハ!ハーッハハハハ‼良かろう!われがティアマトを押さえつける。その間お前はなんとしても保護(拉致)してくるが良い!人員は好きに使え!」

 

「ああ必ず保護(拉致)してくるさ‼」

 

アシュトン・レイナードと賢王ギルガメッシュの瞳は外宇宙の神性と繋がっている某幼女の鍵穴位濁っていた。

 

翌日アシュトンは急いで人員を整えロシア異聞帯へ出陣した。

 

 




保護(拉致)人員
・無駄にスペックの高いスーパーウルク人:多数
・みんなのトラウマ牛若丸(オルタ):多数
・BETAにしか見えないラフム:超多数

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