教えてくれてありがとうございます。
次からは注意します。
これまでのはちょいちょい合間を見て直していきたいと思います。
あと今回は会話が多いです。
其処は見慣れぬ部屋だった。
自分が覚えている限りあの皇帝が支配するロシアは常に吹雪が吹きすさび、このような青空が広がる暖かな場所ではない。
少し気温が高い気もするが湿気も少なく気持ちのいい風が時折吹く此処は居心地がいい。
カドックは内心自分の担当する異聞帯の過酷さに辟易した。
なぜなら己の記憶と、自分の目の前に立つ男を見て自分の現状を理解したからだ。
「やあ!カドック君傷の手当などは済んでいるのだけど体調はどうかな?」
「・・・問題ない。初とりあえずは初めましてかな?アシュトン・レイナード?」
「ああすまない。こちらこそ初めましてだ、カドック君。」
今カドックの目の前には以前の通信で醜態を晒した、もといカルデアの捕虜となった自分を奪取したラスプーチンから更に奪取した第8の異聞帯のクリプターが立っていた。
カドックは内心ひどく慌てながらもその頭脳を働かせて今の自分の状況を考える。
自分は清潔なベッドに寝ており、目の前にはロシアでは見る機会のなかった本物の花を抱えたアシュトンが立っている。
空の花瓶があることから、もしや自分のためにこの男は花を飾りに来たのだろうか?
正直彼のシュワルツネッガーみたいな見た目に全くそぐわない。
「説明は必要かな?」
「ああ宜しく頼むよ。正直記憶が曖昧なんだ・・・最後の記憶は・・・確か・・・ラスプーチン神父がRPGを構えてて・・・そうだ!何か『人類に敵対的な地球外起源種』みたいな見た目の怪物に神父がフクロにされてたんだ!」
「フクロ・・・。ま、まあその認識は間違っていない。カルデアの捕虜となった君はラスプーチン、言峰神父によって回収された。其処を今度は俺と俺の手勢が襲撃して君を奪取したんだ。今此処は君たち正規のクリプターが第8の異聞帯と呼ぶ場所だよ。」
「なるほど・・・。それで僕を回収してどうするつもりなんだ?今無事目を覚ましている時点で僕の命が目的ではない。なのにどうして僕を回収した?何を考えているんだ?」
そうだ。
ただ始末するだけならば今僕がこんな丁重な扱いを受けている理由が分からない。
きっとアシュトンは何かしら僕に価値を見出しているのだろう。
一体何が目的なんだ?
考えろカドック!
こんな所で意味もなく死んでしまっては僕を助けてくれたアナスタシアに申し訳ない。
「ふむ。其処まで警戒しなくてもいい。君を助けた理由については大した理由はない。ただ君にこの異聞帯のために協力してもらいたいだけなんだ。」
「協力?自分のサーヴァントを死なせて異聞帯すら滅ぼしてしまった役立たずに何の協力をしろっていうんだ。大令呪でも使わせようっていうのか?」
「大令呪。『異星の神』から授かった不可能な事象すら捻じ曲げる特大の令呪か。まあ興味がないと言えば嘘になるが、俺が君に求めているのは君自身の力だ。」
「僕自身の力?ますます分からないな。僕なんて魔術師としても普通だし特別人より秀でた特技があるわけでもない。他のクリプターに比べれば僕なんて必死に追いついていくだけの凡人だ。そんな僕に何を望むっていうんだ?」
アシュトンの言葉が本当なら、それこそ本当に意味が分からない。
『異星の神』すら出し抜き、僕たち・・・キリシュタリアとも対等に渡り合うような奴が僕に何を求める?
「そう自分を卑下しないでくれカドック君。俺にはそういう君が必要なんだ。今この異聞帯は急速な発展の途中でね。正直文官、というか人を動かせる人間が急遽必要なんだ。単純にそういう能力を持った人材をそろえるだけなら可能なのだけど、自分で考え動ける人間となると難しい。それに・・・優秀な人間も必要だが今俺の異聞帯には君のような・・・一般的な感性を持つ人こそ必要なんだ。」
「?ますます分からない。僕程度の人間なんてこの異聞帯にだってたくさんいるだろう?」
「まあ能力だけ見るなら多くいるな。だが現代の地球という多様性に満ちた・・・ある意味汎人類史という正解を知っていて、かつどん欲に上を目指す人間と言うのは俺にとって心底必要なんだ。無論タダとは言わない。協力してくれないか?」
正直魔術師としての能力を求められていないことについては非常に不愉快ではある。
だがそれを除いても僕自身を求める理由は理解できないこともないし嬉しくもある。
だが一つハッキリさせないといけないことがある。
「・・・分かった。今のままでも何も僕にはすることがないんだ、協力するよ。ただ一つ確認したい。僕への対価ってのは何なんだ?」
僕の答えを聞いてアシュトンが破顔する。
意外と人懐っこい笑みだ。
「本当か!いやあ助かるよ!因みに君への対価だが・・・少し待ってくれ。」
アシュトンはその言葉と共にどこかへ念話を飛ばしているようだ。
一体どこへ連絡しているんだろう?
「じゃあほいっと!」
しばらくして話がついたようだ。
僕の目の前の中空に映像が投影された。
『—――カドックッ!?カドック無事なの⁉』
映し出されたのはロシアで僕を守って散ったアナスタシアだった。
「アナスタシア⁉君はあのアナスタシアなのか⁉どうして・・・君は確かに消えたはずじゃあ⁉」
『分からないわ。でも私はそこにいるアシュトンという男と此処の異聞帯の王によって再生させられたみたいなの・・・正直貴方にまた会えるなんて思わなかった。・・・嬉しいわ・・・。』
「ああ・・・僕もだ・・・。」
「カドックは現状について理解してる?」
「一応はね。といってもアシュトンから聞いた情報がすべてだけど。」
『そう。その男が私たちに本当は何を求めているのか正直分からない。でも今の私たちはカルデアに敗れた敗残兵。扱いも悪くないし素直に従うべきだわ。』
「アナスタシア・・・。」
僕には何となくわかる。
彼女は間違いなくあのアナスタシアだ。
異聞帯だからこそ出会えた彼女。
本来の汎人類史では決して会うことのない彼女。
ふいに視界がにじむ。
「あれ俺なんかボロクソ言われてない?」
ああ二度と会えないはずの彼女と共に居られる。
僕にとってなんて効果的な、優しい対価なのだろうか。
一度カルデアに敗れて折れてしまった僕に、再び彼女を見捨てるなんてことは出来ない。
「まあネタバレするとだね。君らが破れてすぐにロシアの異聞帯に俺と俺の手勢が侵入したんだ。そこで霊核を砕かれてほとんど消えていた彼女を見つけてね。普通ならそんな状態の彼女を救うのは無理だが運よくこの異聞帯の王は大地母神ティアマトその人なんだ。彼女の権能を利用してアナスタシアを取り込み再び生みなおした。」
ティアマト。
古代メソポタミア神話に登場する原初の大地母神にして、人類悪の一つ。
なるほど。
正しく彼女の権能を活用できるのならばアナスタシアを生みなおすことも出来るのだろう。
知らず僕は汗をかいた。
(そこまで強大な王がいて、そんな存在を従わせるこの男。キリシュタリア、こいつは君が思うほど容易い男じゃあないぞ!)
「とりあえず元気そうな彼女だが、まだ蘇ったばかりで霊基が不安定だから安静にしておいたほうが良い。カドックもとりあえず一休みしてお互い元気になってから直接会うと良い。」
「・・・そうねカドック少し疲れたわ。休んだら今度は直接会いましょう?」
「ああ。また。」
「また。・・・アシュトン・レイナード。」
「何か?」
「まだ貴方のことは信用していない。もしも私やカドックに何かしたら例えこの身が消えようともあなたを殺す。」
「ええ・・・(何でそんなに警戒されとるん?)」
「でもまたこの私がカドックに会えると思わなかったわ。ありがとう。」
アナスタシアの映像が消える。
気のせいかアシュトンが落ち込んでいるようだった。
少ししてアシュトンが僕に話しかけてきた。
「他にも崩壊した都市のど真ん中でピアノを弾いていた中年ホストやデンジャラス・ビーストの亜種みたいな痴女、後は彼らの周りにいたヤガと呼ばれる獣人も幾人か確保している。」
(※アシュトンは1.5部までしか知りません。)
「サリエリやアタランテもいるのか!?」
「え、あの痴女アタランテなの!?」
「え?」
「え?」
沈黙が痛い。
この男思うほどこちらの状況を把握していないのか?
「と、とりあえず予想以上にカドック君が協力的でよかった。流石にこの異聞帯に入れた手前断るようなら始末するか、外道な手を使ってでも従わせる他なかったから。」
聞き捨てならない。
「・・・因みに協力的でなかったらどうするつもりだったんだい?」
「ん?ああ・・・気を悪くするかもしれないけどもし敵対的だったら・・・そうだな。アナスタシアと君をお互いを人質にとって使い潰してたかな?君には内政として・・・アナスタシアは戦力としても、それこそ慰安目的でも使える。」
「⁉・・・へえ存外余裕がないんだな。そこまで此処が切羽詰まっているようには見えないけど?」
「?何を言っているんだカドック君?」
アシュトンは心底不思議そうな顔をする。
「何を・・・・?」
「・・・ああ。俺と君の間には認識が大きく食い違っているのか。なあカドック君、君はカルデアの残党をどう思う?」
「カルデア?そうだな・・・。思った以上に力があると思う。僕の力が及ばなかったし雷帝との協力関係を構築出来なかった隙をつかれてしまっ「何を言っている?」何?」
「カドック君それは他のクリプターの連中もそういう認識なのか?」
「何を言っている?」
アシュトンは上を向き目元を手で覆う。
その姿はまるで神に己の罪を懺悔する聖職者のような印象を僕に与えた。
「そうか、そういう認識か・・・。そうだよな普通は。」
しばらくしてアシュトンは顔を下ろし、僕を静かに見る。
「思うにカドック君。君や他の連中はもしかして自分たちが勝てると思ってるんじゃないか?」
「なんだと?」
「俺の経験から考えて、今のお前たちには足りないものがある・・・。それは危機感だ。」
「危機感?」
「そう危機感だ。俺も他人事ではないがお前たち程度がなぜカルデアのマスターを見下している?」
「どういうことだ。僕も負けた手前大きな口はきけないが彼らの戦力は少ない。現地のサーヴァントを除けば戦力はマシュ・キリエライト一人。その彼女もデミサーヴァントで本物の英霊には及ばない。そんな戦力で強大な異聞帯のサーヴァントや王を相手に勝ち目などないだろう?」
「だがその二つがそろっていたロシアは敗れただろう?」
「!?それは・・・。」
痛いところを突く。
コイツは僕の至らない部分を認めろというのか。
「カルデアは同じように圧倒的に何もかも足りない状況で、名だたる英霊たちを、魔神柱を、魔術王を‼そしてティアマトを滅ぼして世界を救った存在だぞ!?たかだか『異星の神』におんぶにだっこで力を得た俺たちよりもはるかに格上の存在だ!切羽詰まっている?当たり前だ!お前たちこそ危機感がなさすぎる。お前たちや俺の相手は人理を救った本物の英雄だぞ⁉全力で立ち向かわなければ生き残れるわけがないだろう‼」
頭を鈍器で殴られたような気がした。
「・・・俺の所見だがカルデアは、人類最後のマスターは『主人公』なんだよ。どんなに不利な状況でも幸運に守られて、味方が現れて、必ず勝つ。」
「『主人公』?」
「ああ。そしてそれに対するは人理を漂白し『異星の神』の手先として侵略者の片棒を担ぐ悪の魔術師たち、お前たちクリプターだ。『敵役』は『主人公』に絶対に勝てない。だから俺の目的は生き残るために彼らの『敵役』にならないようにすることだ。」
「どういうことだ?」
「幸運にも此処は本来あり得ない異聞帯、いやそもそも未だ剪定されるかすら決まっていない未確認の世界だ。此処ならある程度可能性を広げれば汎人類史の一つとして存続することが出来る。後はこの世界から分岐さえ出来れば『敵役』にならなくて済む。まあそこから剪定対象にならないよう頑張る必要があるんだけどな。」
「・・・それは、いやでもそんな・・・。」
「此処は元々在ったのに可能性がないと打ち切られた世界じゃあない。魔術王が作り上げた特異点が無ければそもそも存在しない世界、『カルデアが破れ、ティアマトによる新人類が生まれた世界』だ。なあ?この場合、本来あり得ないのは『カルデアが破れること』それとも『ティアマトによる新人類が生まれること』のどちらが要因であり得ない世界なんだと思う?」
あり得ないはずなのにロシアの異聞帯でのことを思い出すと否定することができない。
僕はよく分からない台本に乗せられて最初から勝ち目のない舞台に立ったのだろうか?
ならばすでに舞台を降りた僕には意味などなく・・・
「俺にはティアマトに大きな恩義があるし、生き残って余生を悠々自適に暮らしたいと思っている。だから俺が考える通りもし彼らが『主人公』なら俺たちは完全に倒されるべき『敵役』だ。危機感だって持つし必要なら外道すら手を染める。それに此処が消えればアナスタシアも今度こそ消える。それは君も望むことじゃないだろう?」
「・・・」
「だから俺に協力してくれないか?カドック君?」
「・・・・・・少し考えさせてくれ。」
僕には俯いてそう答えることしかできなかった。
没ネタ
「えっと今からカドック君には今から馬車馬のように働いてもらいます。」
「なんでだよ!?」
「俺と賢王の負担を減らすためです。まずはカドック君に此処から彼方までの書類の山を処理してもらいます。」
「これは山じゃなくて山脈っていうんだよ!」
「煩いです。あまり駄々をこねると脳みそだけ取り出してラフムに搭載して仕事しかできないマシーンにしちゃうぞ☆」
「ファ⁉」
「もしくはアナスタシアちゃん背徳寝取られルートに行きます。」
「ぶっ殺すぞてめえ(真顔)」
「ヒェッ・・・しょうがないからカドック君には事務仕事を手伝ってくれる美人秘書を用意しております。」
「美人秘書?(まさかアナスタシア?スーツ姿もいいかもしれないな!)」
「美人秘書の登場です。どうぞぉ‼」
(ワクワク)
「呼ばれて飛び出てニャッニャニャーン!美人秘書!つまりは出来るキャリアウーマン!といえば私!ジャガーマンだニャー‼」
「」
没ネタと本編が違い過ぎる?
細かいことは良いんだよ!
尚、最後にカドック君が俯いているときアシュトンはレジスタンスのライダーみたいな顔をしています。
「ささやかでも、一歩ずつでもいい。諦めずに前に進んでる、ってことが大事だ。
そうすりゃ、必ず目的地に辿り着ける―― そういうもんだ。」