千恋*万花~福音輪廻~   作:図書室でオナろう

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長らくお待たせいたしました。
……1万オーバーが多数を占めるってどういうことなの……?


Chapter4 再始動
変動


「……なんか、しんみりしちまったな」

 

朝起きて、昨日の醜態と、夜中に茉子を送っていった時の会話を思い出す。

 

……結局、昨日は俺が癇癪を起こしただけで、それ以上でもそれ以下でもない。変に気を使わせてしまった。

 

「……恋をしたい……か」

 

いいと思う。

思うのだが、思うのだが──なにかこう、モヤついたものを感じる。やはり姉貴のように、ずっと側にいてくれたからだろうか? 姉を取られる弟のような気分なのか? ……自分でもさっぱりわからない。

まぁ褒められて癇癪を起こすような男だ、どうせロクでもない感情だろう。

 

「誰かの幸せを見ていたいのは本当なんだよ、茉子……」

 

きっと言っても信用してくれないだろうからと、一人呟いた言葉が虚空に溶けていった。

 

 

いつも通り、学院へと向かう──その前に。

俺は私服に着替えて学院まで向かった。早朝にそんなところに行くなど、目的はただ一つ。

 

「よ、将臣。ムラサメ様」

「おはよう。珍しいな、俺のトレーニングに顔出すなんて」

「馨、落ち着いたのか?」

「無論。癇癪を起こしてもすぐ立ち直れるくらいには大人ぶってるからな。あー……悪かったな、あんな醜態を晒して」

 

あまりにも昨日の醜態が響いてか、頭を掻いて俯くしかできない。

 

「醜態ってか……当然のことだと思うぞ? 皆お前の事情には心を痛めてたし、それにいっぱいいっぱいだった。別に馨がああしたって、誰も文句はつけないさ」

「うむ。馨の献身から考えれば、あの程度は癇癪にすら入らん。むしろ正当な報酬を望んでいるのと同じじゃな。気付けなかった吾輩たちが負い目を感じるのであって、お主が醜態だと思う必要は無い」

 

だが将臣とムラサメ様からしてみれば当然らしい。あんな褒めて欲しかったなどという子供の感情を正当だと言われればこちらが困るというか……なんでそんなに肯定されているのか逆にわからない。

 

「終わった余韻をぶち壊した上に、世話になった人に負い目を与えたんだぞ。あれを醜態と呼ばずになんと呼ぶ」

「まぁ否定できないけど……でもこれで、馨も解放されたんだし、今から腹を割って話していけばいいんじゃないか?」

「そう……だな。やっと壁も何もなく、これから俺は俺を始められるんだ──」

「そうじゃそうじゃ。ついでに吾輩に泣き付いてもいいのだぞ? 茉子ばかりに弱い面を見せてはあやつも流石に困ろう。もっと他を頼ってみろ」

「うっ……それはあんまり大声で言わないでくれ」

 

いつぞや抱きしめてられたことを思い出して、顔が赤くなる。

ニヤニヤするムラサメと、頬を染めて目をそらす俺。そんな様子を見て将臣は何がなんだかさっぱりわからない様子のまま。

 

「馨は常陸さんに甘えたのか?」

「──」

 

ズバリ、当てられた。

硬直した。停止した。何も言えない考えられない。

その空白を容赦なく抉るムラサメ様。

 

「そうだぞご主人。ご主人が診療所の一件で寝ていたとき、馨は茉子に向かって少しだけ側にいてくれなどと言って、心温まる光景のはずなのにどこか背徳感すら感じさせる添い寝をしていたのだ」

「やめてよぉっ!? アレ俺は手を握って欲しいって言っただけなんだけど!」

 

サラッと暴露された事実に、慌てて反論するが、幼刀とその担い手のすっとこどっこいどもはニヤニヤしながら俺を見る。

 

「ははぁん。馨、お前割と甘え上手だろ? 弟っぽい可愛げもそこからだよな。芦花姉とかに可愛がられたんじゃないのか〜?」

「ちちちちげーし!? その昔芦花さんにおんぶされた時をたまに思い出すとかしてねーし!?」

「はははっ! お主自爆しておるぞ。そんな風に年相応の顔を見せよ。吾輩、お主の子供っぽいところは結構好きだぞ?」

「〜ッ! 朝から面倒くせぇ!」

「……朝から何をしとるんだお前たちは」

 

と、そんな風にワチャワチャしていると呆れ顔の玄さんが現れた。

 

「将臣が遅い上に、何やら騒がしいと思って来たが……なんだ、馨。そんな拗ねた子供のような顔をして」

「い、いや……なんでもないですよ。ちょっと恥ずかしい話を蒸し返されて慌ててただけです」

「しかし驚いたぞ、お前からたまにはまとめて鍛えてくれと言われるとは。もう、終わったと聞いたがまだ必要なのか?」

 

そう、先日帰ったあと、感情の噴出具合から考えて俺はまだ精神的に安定を欠いていると認識し、ここはひとつ身体を動かして修行かなと思ったのだ。

というか、少し要らぬ煩悶が多い。朝早起きして身体を動かすのは面倒だが、煩悶で苦しむのはもっと面倒だ。

 

「いえ、俺は……その、昨日昔からずっと本業を褒めて欲しかったと自覚しましてね。否定していた分際で身勝手が過ぎるというのに、それで癇癪を起こすなどまだ子供だと痛感したんです。だから身を鍛えれば自然と精神が付いてくるかと」

「……そうか。お前もまだ、子供だったのだな」

 

玄さんの様子が変わったのを察し、俺は先に手を打つ。

 

「謝るのはやめてくださいよ? 俺が素直に言い出せなかったのが悪いだけなんですから。人と人とが言葉も無しにわかり合うなんて難しいんですし、過ぎたことです」

「それもそうだな。なら……孫を助けてくれてありがとう、馨」

「いえ、俺のやるべきことでしたから。けど……むず痒いっすね、なんか」

「むず痒く思っておけ。感謝されるのも、褒められるのも、人間いつまで経っても慣れないのだからな」

 

そう言って豪快に笑う玄さんに釣られて俺も笑い出す。いやまったく、まだまだ人生経験の足りないガキだな俺は……

さて、と俺たちは一旦そんな談笑を止め、将臣に目を向ける。

 

「なぁ将臣。俺がいるんだし、元通りの生活に戻っても……あ、お前どうすんだよ? 帰るのか? 戻るのか?」

「む、そういえばお前はどうするのだ将臣。ワシはどちらでも構わんが」

 

事と次第が落ち着き、基本的に発生しても俺だけで対処できるまでレベルは低下した。なので将臣は都会に戻っても何ら問題は無いのだが──

 

「俺は残るよ。トレーニングも続ける。何回も転校するのもアレだし。それに……ここがいいんだ」

 

ここにいると、迷いなく断言した。

奴はどうやらここが気に入ったらしい。いや、それ以上の理由もあるのだろう。きっと。

それは恐らく……いや、勝手な推測か。これ以上はやめておこう。年頃の男子には繊細な話題だ。

が、ここで俺たちは失念していた。

 

「残るのは構わないが、巫女姫様との結婚の件はどうする? 何もないでいつまでもあそこに世話になるというのは、難しいぞ」

「あ……」

「そーいやそーだったなァ」

 

考えてみれば将臣は芳乃ちゃんの婚約者としてこの地に縛り付けたのだ。もはやそれが意味をなさなくなった今、さて困ったといったところか。

まぁウチの一部屋くらい貸してやってもいいし、玄さんも一室くらい準備はあるだろうけど。

 

「戦いが終わったばかりですぐ決まるというわけでもあるまい。今日は少し軽めにするから、集中を妨げない程度に考えておけ」

「ありがとう、祖父ちゃん」

「気にするな。それから将臣……迷惑をかけたな」

「気にしないでよ。家族だろ? 俺たち」

「ふっ、そう言ってもらえるとワシも嬉しい」

 

祖父と孫の団欒も終わり、俺は玄さんと将臣の修行に付き合った、が……

 

割と厳しいメニューのはずなのに、俺の肉体はサラリと流してしまった。慣れているはずの将臣が汗をかいているというのに、俺はほとんど汗もかかず疲れも無い。

 

「……なんか、便利過ぎると不安になるな」

「見てるこっちは羨ましくて仕方ないけどな」

「よせ、ロクでもない肉体だ」

 

魔に通じる存在は、常にその器をベストコンディションに保つと家の資料にはあったが、俺も似たようなものだからか、普通の人間に比べてスタミナがあると見て間違いない。

しかしそれすらも食い破って痛みと疲労を生じさせる虚絶とは……

 

「うん、いい運動になった。ありがとうございました」

「あ、ありがとうございました……」

 

全てのメニューを終え、息も絶え絶えな将臣を横目に玄さんに頭を下げる。いや、本当にいい運動になった。

 

「馨お前、ひっでぇな……!」

「軽い打ち合いだろ? あんなの」

 

そう、玄さんの提案で朝の軽い打ち合いは俺と将臣でやることになったのだが、竹刀を逆手に使って最大接近距離での立ち回りで攻めたらそっちに慣れてない将臣にはだいぶ重い負荷になったらしい。

 

「軽いって……世界の何処で実戦殺法を軽い打ち合いで持ってくる奴がいるんだよ」

「ご主人が馨のような対人特化型に慣れていないというのもあるだろうが、もう少し加減をしたらどうだ? 一応剣道なのだからな」

「あっ、忘れてた」

 

ムラサメ様がやれやれといった様子で見てくるが、忘れてたものは忘れてたのだ、仕方ない。息を整えた将臣は何か考えるような雰囲気を出したあと、急に玄さんと俺に聞いてきた。

 

「二人は俺と朝武さんの結婚ってどう思ってるの?」

 

……なんとなーく読めては来た。

そんな気はしていたともいうが。

 

「ワシはとやかく言わん。お前と巫女姫様で決めればよい。不安は多少あるが、お前のことだ。良い方向に持って行くだろう」

「俺からすりゃお似合いだしいいんじゃねーのかなとは思うさ。芳乃ちゃんの幼馴染としてなら、ちと女っ気が多いのが気になるが……ま、余談だな」

 

あれだけの死線を潜り抜け、弱いも強いも見た仲だ。魅かれ合っても不思議じゃない。

 

「……あんまり、長く悩めないか」

「存外答えは近くに転がってるもんさ。すぐ見つかる。俺みたいに回り道しなきゃな」

「今日明日で出てくる答えでもあるまい。だがケジメだけはしっかりしろよ」

 

……どうやら俺の観察対象は、将臣と芳乃ちゃんになりそうだな。

家に戻り、軽くシャワーを浴びて制服に着替える。今日の弁当を用意し、朝飯をササっと食って家を出る。

 

さっき通った道をまた通るというのは結構微妙な感じだが、朝に身体を動かすというのも悪くない。普段は昼間の暇な時間を使うが、今度から朝にしてみようかな。

 

 

 

「……ん?」

 

学院での昼。

いつも通りに一人で飯を食おうとしていたとき、それは目に入った。

 

隣の席で弁当を広げている将臣と廉。

 

しかし……しかしだ。

将臣の弁当が、茉子の作ったものには見えない。茉子は割と見栄えも気にするので、不揃いということはそれほどない。それに加えて中身がかなりシンプルなものばかり。あの凝り性が時間が無い以外の理由でそんなことを──

 

と、そこまで考えて。

 

「……なるほど」

 

将臣に視線を送る芳乃ちゃんを見つけて、納得した。

なんだ、存外……単純かもな。

 

こりゃ婚約解消は無いと見て間違いないだろう。

さっさと飯を平らげて、忘れないうちに用事を済ませようと動き出す。つかつかと歩いて向かうのは、いつものメンツで固まっている女子グループの中にいるレナだ。

 

「よ、レナ」

「あら、カオル。どうしたのでありますか?」

「いやなに、お前に野暮用がな」

 

そんな風に切り出してみると、茉子と芳乃ちゃんを除いた女子……ええっと、小野だな。柳生とは割と喋るから覚えてるんだけど、あんまり関わりが少ないんだよな。

まぁいいや。小野が信じられないものを見るような目を向けてくる。

 

「稲上君、いつの間にレナちゃんのこと呼び捨てにするようになったの?」

「知りたいかい? ま、教えてあげないけどね」

「えー、ケチー」

「ケチで結構。レナとは色々あったからね……さぁて、レナ。野暮用の話なんだけどよ」

「はい、なんでありましょう?」

 

不思議そうなレナに対して、俺は何でもないように。

 

「今度の暇な日に、俺とデートしない?」

 

そう、言った。

 

「デートでありますか。いいですねデート──ででで、デートォッ!? カオルにはマコがいるのにそういうのはいけません!」

「いやだからあれは誤解だって前言ったじゃん。まぁ本当のところを言うと、色々世話になったからそのお礼を兼ねて何かしないとなって思って」

 

なんか可愛い生き物みたいな顔と赤い頬をしたレナに呆れながら、そういう意図は無いということを伝える。

……というか、何か詫びをしなければと思って色々考えたらデートみたいな感じになったからデートって言っただけなんだけど。

 

「急にそんなこと言って、鞍馬君に何か吹き込まれたの?」

「これでも立派に年頃の男子のつもりなんだけど? 下心丸出しの方が逆に信用されたかな」

「そもそも稲上君に下心あるのか疑問なんだけど」

「あるさ。実際俺だって女の子に……いや、やっぱ言うのやめよ。ちょいと品性が無さすぎる。おい柳生、なんだその目は」

「まさか稲上君がそんな大胆だったとはーって思っただけだよー? だって春祭りに常陸さん誘ってデートしたのにねー」

「だからあれは一緒に回っただけだって……」

 

なんて周囲から見た俺像と割と乖離している事実に驚きつつ、レナに返答を聞こうかと思ったのだが。

 

「茉子? どうしたの?」

「馨くんとレナさんが……デート……」

 

──茉子のやけに驚いた声が、教室に響いた。

 

「なんだよ茉子。そんなに俺がレナを誘うのが変か?」

「そうよ茉子。どうせ馨さんのことなんだから手を出す心配も無ければ、微笑ましく終わるわ」

「……馨くんが、他の子と……」

 

聞いちゃいねえ。

 

「おーい」

「いたっ!? ……なんですか一体」

 

仕方ないのでデコピンをして無理矢理目を覚まさせてやる。

不満げな視線を向けられても、こちらとしては非常に困るのだがね。

 

「なんだってお前がフリーズするのがいかんのだろう。お前以外の女の子に声かけるのがおかしいか」

「あ、あぁ、そういうことでしたね、はい。わかってますよえぇ。いやいいんじゃないですか? ワタシとしては驚きましたけど」

 

……表情は笑顔だが、露骨に動揺している。慌てているわけではないのだが、どこに動揺する要素があったのだろうか?

大丈夫なのだろうか。妙なこと言ったつもりは無いんだが……

 

「そっか」

「そうですよ?」

「ならいいんだけど……」

 

あとで時間作って、何があったのかを聞いておくか。

さて、と気を取り直してレナと向き合う。

 

「それで、返事はどうだ?」

「えーっと、わたしは構いませんけど……いつ休みになるかはわかりませんよ?」

「構わない。都合の良い時を教えてくれればいいさ。そっちに合わせるよ。後日改めて、ね」

「はい。楽しみにしてますよ〜」

「期待されちゃったか。頑張るよ」

 

そう言って俺は離れようとして──芳乃ちゃんに耳打ちする。

 

「弁当、作ったんだね」

「なっ──なんで……!?」

「くくくっ、俺を舐めるなよ」

 

あたふたとする芳乃ちゃんに微笑みつつ、俺は自分の席に戻るのだった。

 

 

 

夜道を一人歩く茉子の頭の中は、とても複雑だった。

 

馨とレナがデート。

弟のように思っていた彼が、女の子を誘った。いつまでも弟のような、異性とは思えなかったような人が、いつの間にかそんなことを……

 

(恋をしたいと願うワタシへの当てつけですか)

 

なんだかムカムカする。

恋をしたいと願っているのは知っているクセに。する相手がまだ見つかってないのも知っているクセに。

 

(なにませちゃってるの……)

 

ここ最近は馨に振り回されっぱなしだ。初恋の件もそうだし、急に甘えてきたときもそうだし──別に好きでもなんでもない筈なのに、どうしてここまで頭の中を占めているのか。

 

その理由はすぐにわかった。

中々変われない自分と比較しているからだ。

 

(ワタシはまだスタートラインに立ったばっかりなのに、馨くんはもう踏み出してる)

 

妬心……とはまた違った感情。どちらかと言えば生意気な弟とかそのあたりが一番近い。

 

(……ワタシが初恋なのに、もう一度会いたいとか言ってるのに、他の女の子に目を向けるとかどういうことなんでしょう)

 

本人が忘れているのだから仕方ないと納得しているが、それでも乙女心とは複雑だ。彼女自身にもわからないほどに。

ただそこまで考えて──これではまるで、自分が彼を意識しているような……と気が付いて、一気に顔と耳が熱くなる。

ブンブンと頭を振って迷いを振り払う。

 

(なんですかもう! ワタシは少女漫画のヒロインじゃないんですから!)

 

唯一の趣味である少女漫画……確か最近読んでいたものもフワフワした天然ヒロインに主人公が振り回されるタイプの作品だった。

決してヒロインにはなり得ない日陰者である自分を重ね合わせたところで、ただ虚しくなるだけ──

 

「シけた顔してんな。似合ってねーぞ?」

 

自己を卑下することが自然であった茉子にとって、その言葉が聞こえたとき、遂に自分も幻聴を聞くほど弱ったかと思った。

まぁ幻聴だ。好き勝手に言っても文句あるまいと決めて、少し普段は見せない面に従うことにした。

 

「いきなり現れてなんですか。あなたの所為で割と悩んでるんですよ」

「ありゃそうだったか、それは悪いね。けどどうした? 俺で悩むなんて珍しい」

「デートですよ」

「あー、デートね。うん。別にいいじゃん」

「いいって……あなたはワタシが初恋の人だって忘れてるから気が楽でしょうけど、乙女心は複雑なんですよ」

「……え? そうなの? お前だったの? あの、綺麗な笑顔の子は」

 

随分とすっとぼけた反応をする幻聴だ。怒りを通り越して呆れが来る。

自分でもわかるほど、今ものすごくムスッとした顔をしているのだろう。

だから茉子は、俯いていた視線を上げて──

 

「一度だけ引っ張り出して、笑顔はこうするんだって教えたのはワタシだもん! 言ったじゃん。ずっと側に、いる……って……!?」

 

本当に馨がいるのを、やっと認識した。

 

「……えっと……あー……ごめん、なんか」

 

しどろもどろになりながら、とても申し訳なさそうにしている馨を見て、今まで何を言っていたのかをもう一度考え直して、羞恥心が勝った。

 

「ごっ、ごめんなさい! 忘れてくださいっ! じゃまた明日!」

「あっ……行っちまった」

 

本当に何を言っていたんだろう。

久方ぶりに本気で疾走して帰宅する茉子は、今日は早く寝ようと決心した。

 

「……多分あれ、初恋より憧れだったんだろうって思ったんだけど……」

 

一方、残された馨は過去に見た茉子の笑顔とは憧れだったんだなあと思い出していたが、言う相手もおらず、そもそもの目的を達成できなくなったので、一抹の寂しさを覚えながら、フラフラと家に戻った。

 

余談だが、茉子はあまり眠れなかったことを記しておく。


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