千恋*万花~福音輪廻~   作:図書室でオナろう

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題名にルビふれたんですね。全然知らなかった……
そしてもうすぐChapter6が終わるー! その次あるー!


魔人回生(十年の愛よ、億の死として狂い咲け)

 ──何度目の激突、何度目の接敵、何度目の離脱だろうか。

 

 ……強い。

 

 強すぎる。

 刃を合わせる度に、刃を躱す度に、技量と経験の差を叩きつけられる。振る角度、抜く角度、速度、判断、切り返しの力の入れ方……どれ一つ取ってもコッチとの隔絶した差を実感させてくる。

 

 京香の剣とは違う、粗雑で力任せ。技なんて身体裁きくらい。だけど濃密な死闘によって得た経験でそれを完璧な形で研ぎ澄ませて"技"にしている。

 技を技として究極的に研ぎ澄ませたのが京香ならば、力を技の域まで鍛え上げたのが奏だ。

 ギンッ、と金切り音が響き、火花が散る。

 ……重い。一撃一撃が桁外れの威力。

 

 戦況は変わらず。一撃なんとか当てたところから防戦一方を強いられている。

 だが奏が攻め一辺倒になっているという事実は素晴らしい。理想的な状況である──が。

 

「……くっ……!」

「ふんっ……!」

 

 削られる。

 削り続けられる。

 虚絶と短刀を駆使して防ぎ続けるが、息を吸って吐く暇すらない。圧倒的な猛攻、疾く死ねと言わんばかりの空気を殺す殺意の氾濫。これと互角以上に渡り合った京香の凄まじさが、身を以て理解できるというもの。

 

 ──これが本気という奴か。凄まじい。まるで天災だ。刀一本で二刀を押し込んでいる。

 素早く短刀で切り返しても、最低限の動きでこちらより速く切り返してくる。切り返しの中に挟まれる切り返し……もはや滅茶苦茶だ、冗談じゃねえ。

 虚絶で防ぎ、後ろへ退がる。すかさず距離を詰めながら、転生の猛攻が迫る。両刃を駆使して防御に徹しながら、奏の隙を伺う。

 

 甲高い不快な金属音の連続、地面を踏みしめて蹴る音、空を切る刃の風切り音。

 ……戦場。決闘。

 是が非でもその現実を突き付けてくる。オレがどれだけ望んでいなかろうとも、奏とオレは決闘をしている。心底から認めたくないが。

 切り返した短刀が弾かれる、槍に変化させて刺突。身を逸らして避けられる。片鎌部分で切り裂くように引き戻す。大きく後ろに飛ぶことで回避される。──振り出しだ。

 

「……不思議だな、何故お前ともあろうものが逆手二刀で攻めてこない」

 

 しかし振り出しに戻った途端、奏は不思議そうにそんなことを呟いた。怪訝な表情までしている辺り、コイツは本気でオレがそっちを使ってないことがわからないらしい。

 

「さぁな」

「……」

 

 逆手二刀を携え、様々な忍具を用いて削りつつ接敵。そして最大接近距離で取り回しに優れた短刀を使い手足を潰し、残った首を虚絶で叩き落とす──それがオレの、慣れ親しんだ殺し方。最も真価を発揮できる殺し方と言っても過言ではないそれをしないことが、そんなに不思議なのか。

 

 かつておじさんや玄さんは、オレの殺し方に狩りのそれと同じものを見たと語っていた。今になって考えればそれは当然だが、当時はさっぱり分かっていなかった。

 ……まあそれはどうでもいい。重要なのは、狩りに二度目は無いということだ。一度の狩りに失敗すれば、その獲物は当然ながらその狩りにはどうすればいいかを知る。もし再度仕掛けるならば、同様の方法では余程の運がなければ通用しないだろう。

 

「自分で考えたらどうだ」

「まぁ、見切られるのを嫌ってなのだろうが」

 

 バレている程度は読み通り。

 まぁ口喧嘩に付き合ったところで不利になるだけだ。戦わなければ活路も無い。

 

「……ならば!」

 

 今度はコッチから仕掛ける。

 槍を消し、短刀を戻して踏み込む。虚絶を両手で正眼に構え、一刀を叩きつけ殺す為に刹那で飛び込む。殺すことだけを目的とした剣──玄さんの振るった剣のなぞり。唐竹割りを物凄い速さで振れば、それだけで相手を葬り去る。

 上段に振り上げるそれを、神速で振り下ろす──!!

 

 鈍く破壊的な、不快の音色。

 

 全力を込めた一撃ともなれば、流石の魔人とて弾けずに防ぐ形となる。再び上段に上がるオレの腕。しかし身体をぶらさなければ、体幹を揺らさなければ、続け様にもう一撃を放てるということだ……!

 先程と寸分違わぬ軌道で、もう一度虚絶を振り下ろす。

 

「──はっ」

 

 そして、完璧に見切られた上で。

 最小限の動きで、最大限の反動をコチラに伝えるような、絶技で弾かれる。

 ああそうだ、そりゃそうだよ。アイツの方がオレの何百倍も強いし経験だってあるんだから当たり前だよ。わかっている結果だ。オレも、奏も。

 

 ──だから。

 

「まだ──」

 

 弾かれて体勢を崩す自分を律しつつ、その反動に身を任せて身体を捻る。その最中、鞘を手に取り虚絶を納めて。

 

 鞘の中に充填させていた、怨恨の焔を刀身に纏わせる。

 

 そして、抜刀して振り抜く……っ

 

「──だ、ァッ!」

 

 縦に持った鞘からの抜刀斬り。

 怨恨の焔を纏った刀身が、接近する奏目掛けて振り下ろされる。刹那、斬撃の先に斬撃が生まれ、絶死の二重層を織り成す。なんてことはない、怨恨で射程を伸ばした斬撃の着弾点に怨恨による斬撃を生成しただけのこと。

 血飛沫が舞う、しかし二重斬撃を受けてなお奏は止まらない。千切れかかった左腕が即座に修復される──オレと同じように。

 

 ──だが我らの方が速い──

 

 だろう、な!

 内面に潜む相棒からのお墨付き。ならば最早迷う必要なんてない。

 素早く繰り出される突き。速さだけで言えばオレに対応できる道理は無い……が、狙いが分かっていれば対応など簡単だ。

 心臓狙いのそれを、右手を盾にする形で受ける。勢いは死に、貫いた刃はオレの胸に浅く突き立てられる。

 

「、ちィッ」

 

 舌打ち、当たり前だ。

 右腕と胸に刺さった刀剣。引き裂いたり引き抜いたり出来ても、その為には一拍を必要とする。そしてそうする為には──

 

 握った虚絶を落とし、途中で左手で掴み取る。

 

 オレより速く動けなければならない──!

 素早く振るい、奏に突き立てる。突き立てた刃を動かして、胴から首元まで掻っ切らんとして……止まった。

 

 虚絶が、止められた。

 

 恐るべき腹筋と背筋の拘束によって。

 バカなと叫びたくなるが、ふざけた具合ではオレの方が上になるので別に問題は無い。

 止められた状況、もはや武器を引っ張り出すよりこの場合は──殴った方が、速い。虚絶を離して左手で奴の顔面を殴りつけた途端、腹部に鋭い痛みが走る。視線を刹那だけ落とせば、腹に突き刺さった奏の拳……考えることは同じらしい。

 しかしその衝撃で互いに離れてしまい、互いの肉体には敵手の得物──元を辿ればどちらも奏の得物だが──が突き刺さったままの形になる。

 

 すぐさま右腕と胴を固定している刀を抜き、虚絶を片手に迫る奏へと投げ付ける。ガィン、という音が響いて刀は弾かれた。

 

「破れかぶれかァ……!」

 

 嘲笑、接敵──速度を上げて首を落とすべく踏み込んでくる。

 横に倒される右腕……横薙ぎか。突きは踏まれるとでも思ったのか。実際来たら踏んで跳ぶのだが。さてここからどうしたものか? そんなことは初めから頭に入っている。

 力が込められる。更に踏み込む。狙われるは首斬り一閃……確実に仕留めるつもりだ。

 

 だからこそ。

 

「来い相棒っ!」

 ──応っ!──

 

 ──叫ぶ。

 赤光が溢れて、右腕に感じるずっしりとした重さ。

 目を見開いて驚いている姿があまりにもおかしくって。面白くて。

 何の躊躇いもなく、その刃を振り抜いた。至近距離、首元から胴にかけての袈裟一閃。肉を裂き、命を刈り取る、確かな感触。流れるように逆手に持ち替えて心臓に突き立てる。

 

 ……()った!

 

 心臓と肺は潰した。後は頭部を破壊するだけ。素早く引き抜き、改めて頭部を破壊するべく上段に振り上げて──

 

「まだ──死ねないんだよォッ!!」

 

 オレは《あり得ない現実》を突き付けられた。

 咆哮と共に、大きな力の奔流がオレを弾き飛ばす。この感覚……そして、おおよそ邪気とは呼べず、圧倒的な神威と力強さを感じさせる、暖かみを持った青白い焔の奔流。

 間違えるはずなどない。──神力だ。

 

 ──半身よ。奴は恐らく、神力を宿すに相応しい何者かが素体となっている──

 

 てことは燃料は歴代の巫女姫の誰かってワケか……! 杭と鎖は!?

 

 ──貴様の物を半分、自身の物を半分と伊奈神京香の物を全て。だが同時に貴様の中にある半分は奴の物だ──

 

 互い不完全なのは違う物が刺さってるからか……

 しかし、もしかすると"彼女"かもしれない。ならばあの手が使える。もしダメだったとしても、それはそれでだ。奴は彼女を殺せない。故に行動が固定される。

 ……流石に、500以上を殺すのは無理がある。どれだけのストックとどれだけの怨恨が詰まってるやら。

 

 ──どうするつもりだ──

 

 手段は選んでられない。

 要するにオレの部品を持ってるから好き勝手出てこれんだろ?

 

 ──……確かにそうだ。杭と鎖が正しい形に収まれば、貴様が最上位個体として管理できる。が……──

 

 わかってるよ。

 その時は、アイツらに任せる。──今はコイツだ。

 

 青白い輝きが刀剣を形成し、その手に握られる。出力が桁違いだ。完全開放した叢雨丸には及ばないが、それでもその束ねられた生の奔流は祟り程度なら、一太刀で六度殺してなお釣りが来る。それほどまでの出力を誇る魂など巫女姫の中でも限られてくるか、あるいは生への執着心が強すぎる、まだまだ成仏できないと思うような……

 

「……あぁ、わかっているさ……死ねないとも。死ねるわけがない。まだまだ見ていない、足りないものな……」

 

 奴の呟きが聞こえるが、はてさてそれは誰からの言葉への対応なのか。

 それともオレの想像通りなら……オレの知っているあの人か。別に誰だっていいが、それならそれで確実性が増すというもの。

 

「名付けるとしたら、神刃・転生とでも言ったところか」

「やれやれ、楽しそうだなァ……」

「楽しいさ、愉しいとも。こんなに楽しいのは久しぶりだ」

「そうかい」

 

 ──神刃を名乗らせるには、彷徨える霊魂だらけという点はどうするやら。

 ……さて、諸々のことを考えると、ここからは切る札を選りすぐる必要はなくなったというわけだな。切って切って、あとは盤上をひっくり返して机蹴っ飛ばして射殺すりゃいい。

 短刀を逆手に取り出し、遂に虚絶を逆手に持つ。戦いではなく、殺すために……いいや。

 

 ──"勝つ"のは、オレだ。

 "勝って"、茉子の所へ戻る。そして……オレの望んだ未来を得る。

 

「逆手……本気か」

 

 凄まじい警戒の念。それほどまでオレの逆手を恐れているのか。それとも遊べるのが待ち遠しくて仕方ないのか。

 それを敢えて、このオレが今、確かめてやる。

 

 跳ぶ。

 左腕ごと胴切りの軌跡で虚絶を振るうと同時に、短刀による右肘から下の切断と胸突きを連続して行える軌跡。二者択一、どう受ける。

 ──取られた選択は、受けないだった。

 敢えてそうする必要も無い筈なのに、奴は受けなかった。後方に大きく跳び躱す奏は、その防御力も攻撃力も技量も使うことなく、ただひたすらに避けることを選んだ。バカな、とも思う。オマエの技量であればこの程度、返すくらい余裕だろうと。

 

 それが間違いだったと気付いたのはすぐ後だった。

 後方へと跳び離れながら、その刃に神力を収束させている。なんというか、有り体に言えばレーザーブレードみたいな……威力と射程を向上させればどっかで当たるだろみたいな……ん? 待て、何か……?

 

 ──しかし現実は待ってくれない。

 放たれる長射程の横薙ぎ。回避は間に合わない。ならばどうするか。

 左肘にかの怨嗟の咆哮を宿らせ、振り切られる青白の滅殺剣と同じ軌道で左手を振るう。すると斬撃より早く、狼の顎が喰らいつく前に、広がった口が更に広がり菱形を形成。そこを出口兼媒介として使用して、オレの奥の奥……心の深まで繋げて、"それ"を引っ張り出す。

 

 十二分な長さで、十二分な強度と性質を備えた"それ"がしなって青白の光刃にぶつかれば、それは霧散して何かが爆発したか弾けたような轟音を立てて、お互いが弾き飛ばされる。

 

 ──鎖を現世へ取り出して、それであの神力の奔流を弾くとはな。流石は我が半身、見事なものだ──

 

 珍しい相棒の賞賛を聞いて少し嬉しいが、しかし敵手は一切動揺していない。これすら予想の……いや、防がれることは想定済みか。しかしあれほどの神力、オレで受ければひとたまりもない。防ぐならば……杭か鎖で受けなきゃならん。──タイミングを間違えれば死ぬ。

 

 次の一手を打つ前に、向こうが攻撃態勢に入った。

 一気に距離を詰める、素早い跳躍。最低限の動きで斬りに来る……かと思いきや再びの収束。そしてそれを振りかぶっている。

 ──どういうことだ? 何を考えている?

 そんな、力押しの極みみたいなことをする必要があるのか? 奴が?

 冗談ではない。する必要など無い。剣技で弱らせ、神力で仕留めればいい。奏にはそれだけの力と技がある。だというのにこうした一気に叩き潰すようなことを選んだ。

 ……焦り? いやそんなものはない。あるはずがない。奏の戦闘能力はオレを大きく上回っている。だから焦りを感じる必要は無いし、ましてや神力を奔流にして殴り付けるのは非合理だ。ブタ以下のクズ手──ではないが、少なくともオレを相手にする時にこれを選択するのは悪手。それがわからない相手ではない。

 だというのに……そんな手を選ぶ。あり得ない。理解できない。

 飛び込みながらの唐竹割り──二刀ならまだしも一刀では後隙の補助手段は少ない。だから確実に仕留められる時にだけ使うのが一番だ。

 

 左横っ飛び。数秒前にオレがいた場が"消し飛ぶ"。

 一体何が……? 何か違和感がある。それもとても大きな。

 奏はオレと同じように他人を宿している。それをねじ伏せられない奏ではない。オレと京香に出来て奴が出来ないなどあり得ない。

 ならば、何故だ。何故こうも火力頼りの一辺倒を。技量を選べばより確実だというのに……? それがわからない者なのか? それとも振り回されて……奏だぞ? 振り回される筈がない。ならば……

 

 ──確かめてやる。

 

 鎖に潜む怨恨の焔を双方の刀身に宿らせる。青黒い輝きを纏い、生を喰らい死をもたらす闇色の刃を形成する。

 もしもそうなれば、そうであれば……そうだとすれば……"既に"バレているとしたら、確実にどうにでもなる。ならばそれを踏まえて考えれば……

 

 敢えて更に飛び込む。行うのは最大接近距離での剣戟。

 接近戦では分が悪いのは目に見えているからこそ。得意な土俵で最適解が打てなければ──

 右は逆袈裟、左は横薙ぎ。早いのは左の短刀。受ければただですまないのが右の虚絶、一拍ズラしたこの二撃。──それを、奴は。

 

 キン、と音が鳴る。肉を裂く感触がする。

 防がれたのは逆袈裟。腕で受けられたのは横薙ぎ。

 すぐさま短刀を槍へと変え、その状況から大きく薙ぎ払う。首狩りなど容易いが、側転で避けられる。更に側転から体勢を立て直しつつ逆手に替えて斬りかかってくる──やはり神力は束ねられている。この槍を消すには通常の物で十二分だというのにもだ。

 

 振り切った状態から突きを放つ。

 槍の先端を綺麗に逆手振り抜きで迎撃され、霧散する。その状況から順手に持ち替えて兜割り──受ければ頭が割れて死ぬ。

 ならばと後方へと宙返りしながら跳びのき、同時に形成した手裏剣を投げ付ける。互いの狙いは外れ、攻撃は明後日の方向に飛ぶが仕切り直し。

 

 ……中身の方は、どうも戦い慣れていないようだな。そのくせ何やら奏に強く影響を及ぼしている。

 力押しを選択するほど不慣れ、かつ奏の意志を押しのけようとするほどに強力……そして死ぬことへの強い拒絶と慣れ親しんだこの神力の感覚は──

 ……まさか、アンタなのか?

 

 だが迷っている時間は無い。

 足で地面を踏み鳴らす。すると漆黒の大狼が現れる。動く怨嗟の獣──祟り神、その残滓。獲物を咬み裂くべく、人智では到底辿り着けぬ速度で駆け抜ける。

 それと同時にオレも虚絶を右に構えて、呪力を爆散させて飛ぶ。二段構えの連続攻撃、どうする──!

 

 確認するは横に倒した左上段の構え。神力が収束し奔流となって解放されんとしている。

 あのままだと、斜め左上からの斬り上げか。──ここでケリを付ける。行けるよな、相棒!

 

 ──応ッ──

 

 神力の一閃。斜め左上段の斬り上げだ。

 祟り神は吹き飛び、オレは前に飛んで避ける。

 振り上げた続け様に今度は袈裟の構え。二撃での必殺。纏い斬りとでもいうべきか。

 どの道オレでは不利だ。だが、こちらには切るべき札がある。

 

 そう──切り札が。

 

 虚絶を切り離し、実体化させる。

 それを奏の前に出現させる。何も持たせずに、手を広げてまるでそれを制止するかのようなポーズで。

 ……そして。

 

「やめてっ、──"お母さん"!」

 

 ピタリと、奏の動きが止まった。

 ──芳乃ちゃんの姿と声をさせた虚絶の一言で、あの蹂躙者の動きが止まった。

 ニィ、と唇が釣り上がるのを感じると同時に、左腕を伸ばす。すると鎖に繋がれた杭が飛び、奴の胸に突き刺さるのと同時にオレの下へと引き寄せられる。

 

「──やっぱりアナタだったか、秋穂さん。芳乃ちゃんに直接接触したのと知った神力の感覚……忘れられる筈もない」

「馨……貴様、人でなしか? 親子の情を利用するなど……愛し方にも限度があろう」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あと別に、オマエなんか愛したい(殺したい)ワケでもねぇよ」

 

 別に大した話ではない。

 秋穂さんなら偽物の芳乃ちゃんで止まると思った。他の巫女姫でも目の前に子孫が急に出てきたら止まるだろう。だからその隙を突いた。

 ──そもそも奏が杭と鎖を武器にすればよかったのに、それをしなかったことがずっと気がかりだった。何故かと思っていたが、その答えはごく単純で燃料となる魂が、現世に留まらせている魂が、神力……つまり生命力ベースであったこと。最初の奔流で確信したから、そのベースは恐らく巫女姫だろうと当たりを付けて、後は絞り込む。

 隙を生ませりゃ殺すのは容易い。ただそれだけ。

 

 オレは勝つ為に手段を選ぶつもりはない。それに何故殺したい相手を愛して(殺して)やる必要があると思ったのか。

 殺すと愛す(殺す)は全くの別だ。そんなこともわからなかったコイツの落ち度だ。オレが非難される謂れなどない。

 毒を持って毒を制す──ただそれだけのことである。

 

 僅かな問答。

 

 引き寄せ切った瞬間に地面めがけて落下。組み敷いて逆手に持った虚絶を胴に突き入れ、オレの杭と鎖をこちら側に共振させて引き戻す。それと同時に上位権限がコチラに移行。すぐさま伊奈神姉妹を元通りの位置に戻して、散らばってた霊魂を循環の中に戻す。

 

 ──オレが回生するまでは数秒と無い。

 何もなくなった状態から立ち上がり、暗い雲を見上げる。雨でも降りそうだ。

 

「相棒」

「なんだ」

「最後まで付き合え」

「よかろう」

 

 瞼を閉じる。

 

 ──あぁ、茉子。

 オレの愛しい、茉子。

 待っててくれ。すぐに行くよ。オレが必ず、誰よりも、何よりも──

 

 そう。

 

 

 早 く 、 彼 女 を 愛 さ な け れ ば(殺 さ な け れ ば)……!

 

 

 

 

 

 ……馨がいなくなった。

 その事に気が付いて、気配がものすごい勢いで山の中へ移動していっていたと知ったのは、常陸さんが目を覚ました直後だった。二人には無理をしないように言って──

 

 ──必ず連れ戻すから。

 ──必ず馨と戻ってくるから。

 

 そしてそう約束して、俺は叢雨丸を手に取って、ムラサメちゃんと共に駆け出した。

 ……薄々と勘付いてはいる。あいつなら絶対に勝つだろうし、俺を待っているだろうと。

 

「ご主人、馨はこの近くじゃ」

「そっか」

「二つあった気配は、一つになった。恐らくはどちらかが……」

「馨だな」

「吾輩もそう思う」

 

 こんなことで少しでも紛れたらいいなと思って、不安そうなムラサメちゃんの頭を少し撫でると、彼女はまるで猫みたいに瞼を閉じた。

 でもほんの少しの間。俺が手を離すのも、彼女が瞼を開けるのも、同じくらいのほんの僅かな時間の出来事だった。

 

「ご主人、吾輩たちで連れ戻すぞ」

「あぁ。必ずだ。俺たちであいつを、連れ戻す」

 

 その道をまっすぐに歩いていくと、背を向けて佇む男の姿があった。曇った空を見上げて、たった一人で。

 ……いや、一人でというには語弊がある。

 もっと大人びた常陸さんのような姿でその側に立つ、あいつの相棒の姿もあった。

 

 ──その男を一目見た時、俺は言いようもない感覚を覚えた。

 あの日、俺が初めて見た時と同じ感覚だ。それが何なのか、未だにわからない。もしかしたら答えなんてないのかもしれない。

 それにもうそんなことは重要じゃない。だからこのままでいい。

 

 そいつは──

 

 好敵手、友人、気がかりな同い年……いくらでも表現できるけど。

 

 今この場においては。

 この場だけは。

 

「あの日出会った平凡な男が、オレの最後の試練になるとはな」

 

 ゆっくりと振り向き、とても穏やかな顔をした馨が。

 

「馨……」

「数奇なもんだ。オレも、オマエも。互い知らぬ所で交差していて、対極の存在としてここに居る」

 

 ──穂織に仇なす魔人だと、俺は断言する。

 

「告白するとな、好きだぜ将臣」

 

 なんでもない穏やかな言葉。

 それがどういう意味か、俺にはわからないけど、少なくとも俺が常陸さんに、馨が芳乃に殺されるようなことではない。だってこいつにそのケは無い。常陸さん一筋だ。純粋なまでに。

 

「だからオレに愛させて(殺させて)くれ。好きだから、愛しているから、これが必要なんだ。いけないことだとわかっている、悪いことだと知っている。でも必要だから仕方ない。だってオマエらはオレに生きろと言った。ならオレは生きるだけだ。生きる為に殺し続けるだけだ。それが嫌ならオレに新しい生をくれ」

 

 次いで紡がれる狂気にして正気の叫び。

 ──これが稲上馨に宿る宿痾。

 これがあいつの、魔人足り得る由縁。愛するが故に殺す。それこそが自分の愛に他ならないから。

 

「愛する者に正気無し──オレに()()()()()なぞあると思うな。オレにはオレの狂気(しょうき)がある。穂織という千恋万花に燻る千死万禍──それがオレたち否神だ。咲き誇る恋の花と、狂い咲く死の花。はてさてどちらが咲き続けるべきか。それが今、ここでわかる」

 

 どっちが咲くとかそういうのは俺にはわからない。でもどんな理由であっても、俺のやることはたった一つだけ。

 馨に人を殺させるわけにはいかない。

 馨に常陸さんを愛させ(殺させ)るわけにはいかない。

 それは馨が望んでないことだから。あいつは人として生きて、人として死にたいんだから。

 

「虚絶……!」

「任せろ、我が半身よ」

「ムラサメちゃん──っ」

「応さ、ご主人」

 

 共に相棒へと声をかけて、同じ青でも致命的な違いを宿した青を自分の武器へと宿らせる。

 

 ──俺は叢雨丸に青白い光を。

 ──馨は虚絶に青黒い光を。

 

 両手でしっかりと握った正眼の構え。

 片手で右に流した無形の構え。

 

「さぁ、始めようか」

「ああ、終わらせてやる」

 

 お前のその悩みを。

 愛する為に殺すことを。

 俺たちで終わらせて、人としての生を掴ませてやる。

 

 だからこそ──

 

「行くぞ、馨っ!」

「来い、将臣っ!」

 

 最初で最後の、真剣勝負だ──!!

 

──ワタシの好きな人を、馨くんを、お願いします。

──信じてますから。必ず二人で帰ってくるって。

 

 芳乃の為に、常陸さんの為に……いいやそれだけじゃない。

 お前の為にも、お前を必要としているこの土地のためにも、俺はお前を超えるよ……馨っ!




最終決戦、開幕。魔人 稲上馨を撃破せよ……なんちて
次回は未定です。頑張って早くお届けします。
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