千恋*万花~福音輪廻~ 作:図書室でオナろう
「馨くーん? 朝だよー」
「……ぇ、ん……んん……っ」
微睡みの中、愛しい彼女の声が聞こえる。
「起きないと朝ご飯食べれないよ」
そんな言葉を聞いて瞼を開けて、視線を時計へ移した。──余裕はまだある。
「……まだ、あと二時間寝れる……」
「起きようよ。ワタシ、一緒に朝ご飯とお弁当作りたいなぁ」
しょげた声で、しょんぼりした表情。一瞬起きてもいいかなって思ったけど、まだまだ寝てたい。
「……ん」
「なあに?」
「寝る……」
「ダメだよ」
「……まこ……」
「甘えるように呼んでもダメだよ」
「ケーチー……ねむいー……」
だって眠いんだもん。
というか、寝てたら余計なモノを見た。だから寝た気がしない。寝る。
「起きて欲しいな」
優しく微笑みながら、まるで甘やかすように彼女はそう言った。流石にそうまでされては起きざるを得ないがこのオレのスーパーすやすやタイムを奪うのだから当然対価を払ってもらおうじゃあないか。
「……じゃあ、なんかして。後で。ケーヤク」
「安い契約だね。するから起きて」
「ん……おきるー……」
まったく酷いな。安い契約とは。
苦笑している茉子だが、その表情が何処か嬉しそうなのを見ると、コイツも物好きな奴だなとやはり思った。
……何を考えてるやら。まぁ、そんなところが好きになったのだが。
──久しぶりの通学路。久しぶりに通す制服。
やや眠いが、気分はいい。晴れた気分とでも言う奴か。いやまあ、確かに迷いの霧は晴れて、頭を悩ませているのはいつまで経っても目を背け続けるご先祖様と、オレの大切な友人の母親の件だけだ。
穂織のアレコレについては、悩ませる事というよりも付き合わねばならないこと。さして重荷というわけではない。公私の切り替えは大事なことだ。
しかしご先祖様については……うん、オレは奏は好きでもなければ嫌いでもなく、ただの先祖という名の障害物程度にしか思ってないし、奴もまたオレを子孫という名の障害物程度にしか思ってないが、この件に関してはお互いに"あんなもの"とよくそこそこ上手く付き合えたものだとお互いを褒め合った。
──京香の魔性とは、"強い者の未来を奪いたい"という代物。
しかもこの強い者とは単なる武力だけでなく、精神が強い者や才能に優れた者すら入ってくる。つまり……未来が明るい者に違う道を勧めて他者からの期待を裏切らせたいと言ったところか。
殺人者としては頭一つ抜けたオレを、いつぞやの茉子とのデート前に朝っぱらからボコしたのも一部、「殺人者としてよくできたオレを戦闘者として踏み躙ることで、自分にはそんな才覚は無いと思わせて茉子との恋愛に腑抜けていく様が見たい」という欲望に由来するのだろう。
まったくタチの悪い……
結局結婚して子を成したのも、それが理由だろうが、同時に深く愛していたのだろう。でなければ全てを捨てて今に至るまで復讐を続ける筈もない。奏を封印し続けたのは、愉悦こそあれど本心からの復讐心だろう。
……これが魔性と、宿痾と向き合って「だがそれでも」とならばカッコいいのだが、今になってもまだ認めたくないらしい。
何故ならば、殺そうとした相手に見せる顔がわからんという。
そんなモノ決まってる。オレたち魔人が殺そうとして殺せなかった相手に見せる顔など、何食わぬ顔以外存在しない。誰だって親しい人など殺したくないが──殺さなくては生きていけないのが我々だ。ならばもうそういうものだからごめんねと、けどどうにかしようとしてるんだと。そうするしかない。
……と、夢で「レナに合わせる顔ないから声かけないでよね?」とかほざいた京香にこれと共に「オレもオマエもヤツも、皆人を殺さねば生きていけない魔人なのだからいい加減認めろ」とか返したところ、キレ散らかされて夢から追い出されたのだ。
だから二度寝したかったのだが、茉子とケーヤクをした以上は起きるしかない。
──やれやれ……認めなければまず話にならんな……──
それからどうするか、が大事なのになあ。
──不出来な妹め。それでアレに関してはどうする──
どうもこうも。
醜い部分と向き合わない限り消さんさ。流石にオレとてもご先祖がああまでダメだと逆に消したくなくなる。
──……とにかく、別に責めているわけでもないと知ってもらわねばな──
そうだなぁ……クソ、めんどくせえ。
──本当にだ、めんどくさい──
……あぁ、茉子が欲しい。食べたい。
──別に、食ったところで私とあの女は繋がらないようにするから問題無いぞ?──
でも我慢しなきゃ。
まだ始まったばかりだ。ひと段落ついてない。
──我慢は身体に悪いぞ。どうせあの娘も獣のように蹂躙されたい被虐願望持ちだしいいんじゃないか──
いやいやいや! ダメだから! そういうの良くない! それはなんかこう……付け入る感じがして良くない! オレが求めたとしても、その時の気分で断られるような……そんなのでいいの! 肉欲なんて!
──お前……それでいいのか? 思春期男子が意中の女を喰らうことに何を躊躇う?──
いやだってね? ……エッチするとさ、オレ人変わるやん?
──人が変わるというか……我々魔人は感受性が高く、それ故に色々察しやすいというか。なんというか、性感帯とかわかりやすいというか。お前で言えば一発で色々わかってしまうエロゲ主人公的な……──
嫌だなぁ!? めっちゃ嫌だなぁ!? 色々嫌だなぁ!? なにその、えっ!? 抜きゲーの主人公ですかオレは!? どう考えても抜きゲーの主人公にあるまじき過去と性癖ですよ!?
首絞めックスすこ勢とかリョナゲーですか!? 純愛リョナとか意味不明すぎるだろ!? あ、オレの存在が純愛リョナみてーなモンか。
──私も嫌だよ。何が悲しくてこの宿命にして矜持ある魔人の生が、性処理用のゲーム主人公めいた特性となって発揮されねばならんのか──
あ、オマエもヤなのね。
──嫌に決まっているだろう! お前! 流石にお前! 抜きゲーだぞお前! お前とてその愛情にして殺意なる感情がよりにもよって抜きゲーの主人公みたいなアレに例えられるとか嫌すぎるだろう!?──
嫌だよオレも!!
でもそれで茉子が啼いてくれるなら嬉しいんだよ! 男の子の悲しい性だよね!
──複雑だな馨──
テメェが言わなきゃ知らなかったよぉ!
──すまんな。でも楽しかった──
ロクデナシめがーァッ!!
「馨くんってば」
「んにゃ!? あっ、いや、なんでもないよ!?」
ずっと黙ってるオレを不思議に思ったのか、茉子がヒョイと顔を覗き込んでいた。慌てて弁明するも、何やら隠してるのかと怪訝な表情を向けられる。
「本当は?」
「なんでもないって!」
「馨くんってさ、嘘を吐く時目を逸らす癖があるよね」
「マジ? そんなに?」
「ウソ」
「そっかウソか……ってカマかけやがったなっ」
してやったり、と言わんばかりの顔。好き。
でもこれでオレは嘘を吐いていたことがバレてしまったわけだ。なのでどうやってここから切り抜けるかが大事。
……オマエとシたいなんて、外じゃ恥ずかしくて言えねーっつの。遠回しすぎる誘いしかできないぞオレ。
もう勢いで押し切ろう──そう考えて、オレは茉子の手を取った。
「ま、大したことじゃないさ。だから気にしないでくれ。それよりほら、行こう。遅れるぞ」
「あっ、引っ張らないでよ。自分で歩くってばっ」
「嫌だ。今日はオマエの手を引いて行きたい。普段はオマエにリード任せっぱなしだからな。これから、オレにも手を引かせてくれっ」
嘘じゃないが、考えていたことではない。
なんというか小賢しいテクニックで茉子のご機嫌をとることで追求から逃げることになるとは。
チラリと様子を伺う。──満更でもなく、嬉しそうだ。オレからだからだろうか? まぁ、オレだって彼女の手を握っている今、顔が綻んでいるのだが。
あぁ、笑顔はいいものだ。
それからというもの。
特に何事も無かった……訳ではない。レナから意味深な視線を投げられて、観念したように両手を上げて「後でね」と言った以外は。
「本当に大丈夫?」
「だから平気だって。駒川から聴いてるでしょ? ピンピンしてるってさ。比奈ねーちゃんは心配性だなぁ」
……だが他の人から見ればそうではなかったようで。まぁそもそも4日ほど診療所で寝たきり、退院して一週間閉じこもりだし。学院に顔を見せた途端に「稲上が帰ってきたぞ!」とかどんちゃん騒ぎ。廉と小春ちゃんからは「そんなにピンシャンしてるなら、本気で心配して損した」とまで言われた。
ついでに休み時間に比奈ねーちゃんに捕まって本当に大丈夫なのか? と問い詰められていた。
……いや本当、ごめん。
「……でも、心配かけてごめん。けどオレ、本当に大丈夫だから! あんまり油売ってると遅れるからほら」
「それもそうね。常陸さんに迷惑かけないようにするのよ?」
「ゼンショシマス……」
「まったく……」
呆れながら去って行ったが、いや本当にごめんとしか言えないし、善処しますとしか言えないのだ。オレ傍迷惑な存在だし。迷惑かけ続けるオレなのでひっじょーにその言葉には……頷けない。
ごめんなさい、本当にごめんなさい……!
「ごめんね、ねーちゃん……」
マジでごめんね。
ボクは人を殺さねば生きられない人生迷惑大魔人です……!
「カオルー、もうすぐ授業でありますよ」
「あっと、悪りぃレナ! もう行くよ」
あぁ、レナに色々言わなきゃなぁ。
京香とか京香とか京香とか京香とか……奏とか。
「あークソッタレ」
アレ、どうするんだよ本当に。
──……さてなぁ?──
マジどうすんだよ。
アレどうすんだよ。
──ま、リヒテナウアーには我々がオーロラの向こう側からやってきたとでも言えば通りがいいさ──
……オーロラ? なんでオーロラ?
──クククッ、どの国にも死者の国はあるということさ。そしてほら、我々は死者の国の王子……いや、下っ端? 奴隷? ……なんて言おう?──
あっ、なるほど。
……いや本当になんて言おうかね。
──……とかく、我々がオーロラの向こう側からやってきた魔人としか言えないだろうなァ──
魔人って通る?
──デーモン?──
どうだろう?
──……なるようにしかならんな!──
だな!
──で、食べる?──
オマエいきなりすぎない?
──食べようぜ?──
ZE!? オマエ軽いな!
──だってほら、食べたいんだろ? 聞いてみたら?──
……まぁ、そう、する……欲しいし。
でも色々聞かなきゃな。うん。色々、色々……廉と将臣に聞かなきゃ。
──聞くって……何を聞くんだよ──
男のアレコレ!
──……それでいいのかお前──
いいの!
そうと決まれば即断即決!
今日の昼飯は男飯だオラ!
──飯はまだ先だぞ──
うるせー!
しらねー!
──……こんなんだったかなァ? こいつゥ──
オレはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぉぁぁぁぁぁずぅーっとこんなのですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!
──やかましい!──
──うるさい!──
──うるさいよ馨君──
あっ、ごめんなさい。
……響いたチャイムの音。
先生が今日はここまで、と告げて去る。それと同時に我々学生は飯だなんだと急ぎ始めるのだが──
「廉兄、お弁当」
「ん? あり、またか? いかんねどうも……ありがとよ、小春」
「しっかりしてよね。いつまでも私が世話するのはごめんだからさ」
「へいへい。俺だっていつまでも妹の世話にゃごめんだねっと。んじゃ食おうぜ将臣」
「おう。なんなら小春も含めてみんなで──」
と言いかけた将臣と、弁当を開けようとする廉の首根っこをむんずと掴みズルズルと引きずり始める。
「唐突ですまないが今日は野郎飯だキサマら。オレのお悩み相談に付き合ってもらおう」
「ぐ、ぐぇ……おい、かっ、馨っ! 首……ィ!」
「あぶっ、あぶっ!? お前また殺す……気かっ!?」
「そんなわけで女性諸君。今日は女子会と洒落込んでくれ。……茉子、埋め合わせは後でな」
「はいはい。あと、その掴み方だと首キマっちゃうからやめてあげてね」
「ん。またな」
忠告通り持ち方を変えて、ウインクを一つ。
微笑む茉子が可愛くて仕方ないが、そんな彼女には言うことができない。だからこの男どもを頼ろうか。
茉子を除いて唖然とする女性陣を背に、騒ぎ立てる友人二人を引きずっていくのだった。
「……多分外の腰掛けられる場所で食べるでしょうから、追いかけて隠れて聴きながらお昼ご飯にしますか?」
「行わよ茉子。レナさんも小春さんもどうですか?」
「……どうしますであります?」
「あの馨さんがあんなテンションしてるのおかしいから、ぜひ見に行きません?」
「おぉ、ソナタもワルよのぉでありますね。もちろん行くでありますよ!」
……なんてなってたのはさっぱり知らなかったが。
そうして拉致して来て。
外のまぁ……というか校舎のすぐ側にある物置の横に設置してあるベンチに腰掛けた。
「んでいきなり何よお前。顔出して早々テンションおかしいぞ馨」
「廉。オレのテンションが狂ってるのはいつものことだ。だから気にするな」
クッソ不満げな廉にそう言ってから、同じくなんか不思議そうな将臣の方に視線を向ける。すると帰ってきたのはこんな言葉。
「芳乃から俺を引き剥がす程のことか?」
「それ程のことに決まっているだろう。オレが自主的に茉子から離れるくらいだぞ」
「説得力ねーぞそれ……まぁいいや。で? なんだよお悩み相談って急に。あの話だったら俺からも話あるんだけど」
む、その話か。それはそれで聞かなきゃな。
だが、今はオレの話を優先させてもらおう。ちまちまと弁当を食べ進めながら、オレは二人に向けて単刀直入に切り込んだ。
「そうじゃない」
「ならなんだ?」
「茉子とえっちしたい」
「ぶ──っ!?」
「ば──っ!?」
ゲホゲホと咽せながら「お前何言ってるんだ」と視線で訴えかけてくる。というか将臣に至っては睨みつけてきている。
一息付いた二人は互いに困惑した視線を交差させて、とりあえずどういうことだと廉が代表して、訳がわからんと尋ねてきた。
「……もう、一回くらいヤってんだよな?」
「まぁな」
「だったらなんでそんなこと聞くのよ」
「オマエも知ってんだろ? 穂織の財政の話」
「まぁ祖父ちゃんから少しはな。けどお前にゃさほど関係無いんじゃ?」
「いやぁね? オレほら、代行だし? 茉子も知ったから少し悩んでんじゃないかなーって。それにムラサメ様も人にお戻りになられたし、色々立て込んでるじゃん?」
「──わかったぞ。廉太郎、こいつ物事が落ち着くまで手を出したくないんだけど、それはそれとして常陸さんの事が欲しいんだ」
「ははぁ。ま、要は馨が真面目なだけって話か」
それこそ心配して損したと言わんばかりに、馬鹿馬鹿しいと二人は一瞬で興味を失った。ひでぇなコイツら。
心底から呆れながら、廉が容赦無くジト目を向けながらオレに告げる。
「そんなんだったら誘えばいいじゃん。それで断られたら諦め付くだろ?」
「……ダメだ。茉子はやら……優しいから誘ったらきっと受け入れちまう。なあなあで流しちゃいけないんだよ。だって貪るわけだぞ」
「いや俺の時は相手とある意味なあなあでしてたぞ。考えすぎじゃねぇのか?」
「違う! そういうものではない! 男女の付き合い! 物事には節度を持って! そういうことだ!」
「でも?」
「茉子をトロトロにしたいですハイ」
「じゃあ誘えよ」
「けど色々あるじゃん」
「……おーい将臣、お前がヤる決心付いた時こいつなんて言ってたっけ?」
「一日くらいバチ当たんねーって」
「なんで知ってるの!?」
「俺がレクチャーしたからだよ! なんでおめーは煽るだけ煽っておいて、なんも教えねえんだ!」
「だってなんか感覚で上手くイっちゃったんだもんっ」
「役に立たねえなっ」
「うるせぇ!」
ギャーと吠え合うオレら。もう無視して芳乃ちゃんの愛妻弁当を無心で食べ続ける将臣。そしてなんかやけに今日は風の音がする。こう、ザワザワーって。
ひとしきり吠え合った後、心底どうでも良さそうな感じの将臣が一言。
「てか、お前からじゃなかったのか? 抱いたの」
「………………………………………………………………お誘いは茉子からで、オレはあくまでもスタートダッシュを先にしただけだ」
「つまり何? 馨は人をけしかけておいて自分は女の子からアプローチされて、それで乗っただけだと」
「はい」
「少しでもエロ老師だと思った俺の気持ちを返せヘタレ攻め」
「ヘタ……ッ!? オレの何処がヘタレ攻めだ!?」
「「そういうとこ」」
「クソがァッ!! てかエロ老師とか不名誉な事言うな!」
「じゃあなんだ、女の子が家に来てもエロ本出しっ放しのエロエロ魔人?」
「やめろ! 魔人の字をそう使うな! 許さん、オマエが茉子をお姫様抱っこしたことを芳乃ちゃんに言うぞ……!」
「あっ、えっ!? あれは常陸さんが高い所から降りるのに受け止めただけで──」
「オレが彼女にやってないことをするな!」
「理不尽な!」
「愛は狂気だからな!」
今度お姫様抱っこしてやろうっと。どんな時に? うーん……せっかくだからシチュエーションにもこだわりたいよな。茉子、結構ムードとか気にするタイプだし。
と、頭を悩ませていると急に廉が神妙な顔で口を開いた。
「……なぁ。常陸さんってさ、攻めっ気ある小悪魔系のカワイイタイプの子じゃないか」
「そうだな。全面的に同意する。……が、一つだけ訂正しろ。茉子は意外と受け身だ」
「なるほど……やっぱり可愛いな常陸さん。それでその……どのように、攻められたので? 具体的な可愛いシーンとかは?」
「──ほぅ?」
……どうやら死にたいらしいな?
「……まぁ、いいか。そんなに知りたいなら教えてやろう」
「えっ!? お前いいのかよ!? さっきまで独占欲ダダ漏れだったのに──」
「そ の 身 体 に な」
「……へ?」
「廉、夜開けとけよ? わからせてやる」
ジリジリと距離を詰め、顔を近づけながら迫ると廉がすごい勢いで仰け反りながら焦った表情を見せてくれる。からかわれていることに気付かないのだろうか。割とマジに見えるのだろうか。オレは茉子一筋なのに。
「まっ、待て待て待て!? お、お前には常陸さんいるだろ!? てかここでホモ展開はマズイって!!」
「ん? 愛に同性も異性も関係あるまい。生殖本能に逆らうことにはなるが、別にいいだろう。愛にしろ憎悪にしろ、狂気には変わりない」
「お、おい馨! なんで廉太郎の股間に手を伸ばす!?」
「別に。その気にさせておいた方が、廉も夜が待ち遠しくなるかと思ってな」
「え、遠慮しておきます! 常陸さんに悪いから! 俺教室戻るわ! そういうのやめろよな! 尻がおっかねぇわ! じゃあな! あとしばらく背後に立つなよ!?」
「なら背後で勃たせてるよ」
「やめろ! やめろォ!」
ドタドタと飯を持って走り去る廉。ふん、誰がお前なんぞに茉子のそういう顔を教えるものか。
そして残された将臣は、恐る恐るオレを見て。
「……あの……冗談……だ、よ……な……?」
「アイツを
「そういうところ魔人って感じがするよ」
「魔人だしな。まぁ、オレが
「馨は常陸さん一筋だからな」
「オマエはムラサメ様に芳乃ちゃんに、それから芦花さんに小春ちゃんにレナだもんな。選り取り見取りってヤツだ」
「そっ、そんなわけないだろ! 芳乃一筋だよ!」
「どーかねぇ?」
コイツ、割と鼻の下伸ばしてるんだよなぁ。
どれ、確かめてやるか。
「ムラサメ様のカワイイところ」
「意外とイタズラ好きで甘えん坊なところ」
「芦花さんのカワイイところ」
「結構お姉さん風吹かせてるけど割とプンプンとか言ってるところ」
「小春ちゃんのカワイイところ」
「美味しいモノには目の無いところ」
「レナのカワイイところ」
「ポワポワした感じから一気にカッコよくなるところ」
「それで芳乃ちゃん一筋たぁね。よく見てる」
「……それとこれとは関係ないだろ」
ケラケラ笑っているととても不満げ視線を投げられる。主にからかったことについての不満だろうか。
「そんな目するなよ。悪りぃ悪りぃ。冗談だ」
「で、結局どうするんだよ」
「押し倒すか壁ドンしてから考えるさァ」
結局何も得られなかったこの不毛な会話の真の目的に関係したことを尋ねられ……オレは目を逸らしながらもう投げやりにそう答えた。
「結局それ、断らせる気無いんじゃないか」
「茉子なら逃げられる」
「……それでいいのかなぁ? 常陸さん、抵抗する気とかまったく無いと思うぞ」
「──ま、その前に色々あり過ぎてオレが萎えるさ。帰りがけには……あー、レナに色々話さなきゃ。ちょうどいい、お前らも付き合えよ。放課後、田心屋行こうぜ。ムラサメ様へのお土産とかさ」
「そりゃいいな」
虚絶のヤツ、ちゃんと世話してるだろうなぁ?
昨日から切り離してムラサメ様の影に潜ませているのだが、さて上手にやってるだろうか。
■
くだらないことかと思えば、よりにもよって性事情。しかも自分を抱きたいが事態がややこしいのでどうしたら良いのか。
──あまりに酷い羞恥プレイだと、トボトボと戻りながら、茉子は赤面しながら俯いていた。その周りをいたたまれない表情で囲む三人。
「茉子、その……」
「ええ、はい、わかってます、わかってます芳乃様。ワタシは殿方の秘密話に首を突っ込んで自爆した愚かな女の子です」
「あ、あんまり気にしない方がいいんじゃないかしら……?」
「無理ですよぅ」
お前が欲しい、トロトロにしたいなどと。そんなことを言われてしまえば一人の女の子としては疼かざるを得ないが──言われ方も最悪である。
「……そういうことをするのに、どちらから誘うとかあるでありますか?」
「多分、馨くんが気にしてるんじゃないですかね。本当に今までの二回とも、ワタシからでしたし」
別に茉子としてはどちらだろうと、抱かれることには変わりないのだからどちらにせよ構わないのだが、馨と変な意味で付き合いの深いレナは、恐らく馨的には自分からこう……男らしく行きたいのだろうと当たりを付けた。ちなみに目を回す前に帰還したので問題は無い。
「……けど馨さんってあんな感じなんですね。今まではなんて言うか、クールだけどいたずらっ子な先輩だと思ってましたけど──」
馨との付き合いは長いものの、その素顔と呼べるものをさっぱり知らない小春にとってみれば、この……なんとも言えない、途中で切り上げた盗み聞きは、馨のロクでもない素顔を知れた良い機会だった。
「馨くんは昔っからあんなのですよ。私生活は自堕落で、何も考えたくないし何もしたくないとか言いながら、事あるごとにワタシと行動したがるし、独占欲結構あるし、そのくせ女心をくすぐるコトいっぱいするし──」
「おっ、お腹いっぱいですから常陸先輩っ」
「……あは、申し訳ありません。惚気てしまって」
しかし自然な流れで惚気られては小春とて困る。ただ向けられた少し恥ずかしげだけど、好きな人の事を語れて嬉しかったと言わんばかりの笑顔を見ると、小春は全てを許してしまった。可愛いは正義なのだ。
「……けど、カオルって中々こう、ソーショクケイなのですね」
「本性は凄まじい肉食なんですけど、全然それを見せてくれないんですよね。ずーっと隠して、本当にその……そういう時くらいしかそういう顔を見せてくれないんですよねぇ」
まぁ、実際には殺し愛情を隠すのが当たり前になっているが故に、なのだろうがと察してはいる。けれど押し倒して欲しいと思う複雑な乙女心とかあるわけで。茉子的には割とウェルカムで誘いがてら家の中を下着姿でウロついてみたりもしたのだが無反応だったこともあり、割と諦めていたところもある。
ただ、彼から求められていると知れたことはいいことだろう……それでもまったく手を出してくる気配が無さそうなのが悲しいところだが。
とか色々考えていたら。
「こっ、小春! 兄さんを助けてくれ!」
「……はい? いやどうしたの廉兄」
割と青い顔をした廉太郎が弁当を片手に小春の背に隠れるように走ってきた。
この兄がそれほどまでにか、と小春は思いながらも、まぁ事情を聞いてやるかと声をかけた。
そうして語られたのは──
「か、馨に……掘られそうになった」
「は?」
「あっ、いや、違うんだよ常陸さん。馨がアブノーマルとかそういうのじゃなくてっ! ちょっと惚気でも聞こうかなーって思って、どんな風に可愛がったのかとか怒られる前提で聞いたんだよ! そしたらあいつ……!」
「レンタロウ、ホられるとはなんでありますかね」
「へっ!? あっ、いや……て、貞操の危機? とにかくあれだよ、危なかったんだよ。冗談抜かせとか返ってくるかと思ったら、あいつ、身体に教えてやるから夜開けとけとか言いやがった! しかも目が割とマジだったんだよ怖えんだよ尻が!」
──刹那、茉子は怒った。
「廉太郎さん……なんでアナタなんですか!?」
「ひょわ!?」
「ワタシ冗談でもそんなこと言われてないのに! どうして! 非生産的な殿方同士の冗談みたいな会話で! ワタシが欲しくて止まなかった言葉が出てくるんですかァッ!!」
「えっ、いや、悪いのはあいつでしょ!?」
「ワタシだって言われたこと無いのに! ズルいですよ!」
ビビる廉太郎。盾にされて右往左往する小春。一連の事情を察して薔薇色の妄想をしてぶっ倒れるレナ。なんでワタシじゃないの! と怒り狂う茉子。
……もう面倒見切れない。
(恨むわよ──馨君)
面倒事を引き起こすのだけは上手い弟分への怒りを滾らせながら、芳乃は事態の収拾を付けるべく渋々動き出したとさ。
魔人としてのアレコレが開花したので両刀気味ですが馨は茉子一筋です