千恋*万花~福音輪廻~   作:図書室でオナろう

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表裏

 ──茉子との思い出と言えば、当然だけど色々ある。

 楽しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと、悔しかったこと、腹立ったこと……本当に数え切れないくらいに、たくさん。

 けれどオレが一番彼女との思い出の中で、最も印象に残ってるものは。

 

 幼い日、彼女がオレに指切りを強請った時のことだ。

 

 指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます……なんて、オマエは笑顔で言ったっけ。

 その笑顔はよく憶えているけれど、内容は何のことやらさっぱり。今日を迎えてもわからないけれど、とても嬉しそうな笑顔を見せて、楽しそうに小指を結んだ。

 

『かおるくん、明日もだよ? 明日も絶対に──』

 

 ……さて、本当になんだったのか。だけど次の日に拗ねられた記憶も無いからオレはずっと、彼女の約束に応え続けていたのは確かだろう。茉子のとても喜んでいた顔がよく思い出せる。

 

 オマエはオレに何を求めていたのか?

 そんなに喜ぶのであればきっと、何かオマエにとって特別なことだったのか? 今は違うことなのか? ……まぁ、思い出さない限りそれを問い正すこともできないのだろうが。

 けれど今も喜ぶのであれば、オレは茉子にそれをしたい。彼女の喜ぶ姿が見たい。

 それとなく聞いてみようか。茉子も忘れていたら、新しく思い出を作ればいい。なぞるのも悪くないが、なぞり過ぎるのは少し面白みに欠けるから。

 

 しかし今日は──

 

「会議って言ってもねぇ……」

 

 既に死んでいるのだ、穂織は。

 死んでいるものを生かしたところで、それは単なる骸遊び。必要なのは黄泉帰り。だが黄泉帰らせる術は無い。どうしようもないので、どうにもできない。

 

 ──さて、何をしたものか。

 とりあえず……行くか。

 

 

 そうして。

 

「第一回どうしましょう会議、はーじまーるよー」

 

 あまりにも雑すぎる始まりと、あまりにもテキトーすぎるオレに呆れた視線が突き刺さる。

 

「はーい馨君や」

「なんざんしょ廉君や」

「危機感あるの?」

「どうしようもねーから割と無い」

「てかなんで志那都荘なんだよ」

「だって集中できるもん」

 

 空き部屋があるのは知っていたし、家だとそういう気には中々なれないので弦さんを言いくるめて借りているというのがこの話のオチだ。

 すると廉はオレの対面に座ってる茉子を指差す。

 

「常陸さんいるのに集中できるのかお前」

「なんだとぅ。茉子、おいで」

 

 もちろんそれを今から証明しよう。

 なのでそう声をかけたら。

 

「えっ」

 

 心底から「何言ってるの?」という顔を向けられた。

 

「おいで」

「……やだよ」

「えっ」

「みんな、見てる」

「……あぁ、うん、そっか」

「馨くんたまにおかしくなるよね」

 

 たまにで済ませているところにそこはかとない優しさを感じる。はっきり言って365日毎日おかしいと言われても不思議ではない生態してんだしオレ。

 

「それで……何をするでありますか? 話し合い、会議と言われましても」

「というか馨。アタシや小春ちゃんまで呼んで何を話し合うの?」

 

 レナと芦花さんからの質問に。

 

「雑談」

 

 ──オレは、こう即答した。

 

「くたばれバカ」

「帰っていいか?」

「もう終わりでいいわよね」

「ワタシ買い物行ってくるね」

「わたしお仕事戻るでありますね」

「じゃあお姉ちゃん帰ろっか」

「そうだね。いくらお客さんが少ないって言っても店の仕事もあるし」

 

 そしてその返答を聞いた瞬間全員が即座にやる気を無くしてさっさと帰ろうとする。当たり前だし、実際手伝ってくれと頼んでからこのザマともなればこの反応は致し方ない……が、即答なのは勘弁して欲しい。オレが悪かったから。

 

「待って! みんなごめん! 茉子、オレを捨てないで! 茉子!」

 

 台詞回しに違和感があったのか、茉子が物凄く微妙な顔をしながら振り向いた。

 

「捨てるって……そういうこと言わないでよ。本当に外出られなくなるじゃん」

「え、出る気だったの?」

「フリじゃなかったの?」

「……行かないでくれ茉子ぉ……」

「はいはい」

 

 渋々と言った様子で茉子がトテトテと戻ってきてくれる。大好き。

 

「本当に馨くんは手間がかかるね」

「手間のかからないオレなんかオレじゃないよ」

「あは、そうだね」

 

 笑顔の茉子を見てオレも微笑む。

 しかし周りは無視って帰ろうとしている。これは大問題なのでなんとか留めなければ──

 

『……のう、馨よ』

「なんざんしょ」

『お主、本当に何がしたいのじゃ』

 

 実はビデオ電話繋いでたムラサメ様から容赦の無い一言が飛んでくる。

 

「えっ、ムラサメちゃん!?」

『おう、そうじゃご主人。このてれびでんわなるもので顔を出してみろと虚絶に言われてのう。ま、いざ繋いでみればこのザマじゃが』

 

 このザマとは酷い言い草だが、いや事実なんだけどもう少し何か手心を……

 

『そこの阿呆に呆れて帰るのは仕方ないが、せめて吾輩と少し話をしてもらえないじゃろうか。暇なのじゃ』

「そうですね! 馨さんに呆れるのは家でもできますが、ムラサメ様とのお話は中々貴重ですよ皆さん! ですのでムラサメ様とお話しましょう!」

 

 芳乃ちゃんの鶴の一声で、「おー」とみんなが声を上げて戻ってくる。

 ふふふ……オレは寂しくないよ。

 

「ねえ馨くん。大丈夫? 泣いてない?」

「泣いてないし……!」

 

 ──泣きそう。

 

 さて、ムラサメ様はみんなと一度は顔を合わせている。と言っても見舞いがてら程度で、あんまり長く話してもいないのだ。

 そういうこともあって、今日はあえて志那都荘を借りることになっていた。あとウチの中をあまり見せたくないというのが大きな本音。というか大半がそれ。弦さんはそれを察しているのは知ってたけどごり押した。

 みんながわいのわいのとムラサメ様と話している中、まるで後方彼氏面みたいに遠巻きに眺めている将臣へと声をかける。

 

「席やろうか。将臣」

「席ってなんの」

「町内会のオレの席。口利きしてやっからさ」

「俺面倒事押し付けられてない?」

「何も思い浮かばないオレよりいいだろ」

「ならお前の横に座らせろ」

「は? 茉子専用なんだが?」

「そういう意味じゃねぇアホ!」

「うっせ、わかってるよ」

 

 要はオレにサボるなと言いたいわけか。

 けど役に立たないのは事実だし、役に立つ筈もないし、正直変わってくれるなら喜んで席を譲るんだけど。サボるサボらないじゃやくて、やることないし何もできない。だからやることあって何かできる奴に譲った方が有意義だと思ったからに過ぎない。

 もちろん協力しろと言われればできる限り協力するし、できることはするのだが。

 

『そうじゃ、芦花よ。お主の店のぱふぇには毎度世話になっておる。美味いぞ、とても美味い。できればご主人に内緒であと2、3個ほど……』

「たははは……聞かれてますよ? ムラサメ様』

「ムーラーサーメーちゃーんー?」

『じょ、冗談じゃご主人』

『……貴公は自らを病人と忘れてはいまいか』

『忘れておらんわ! ただどうにも何もせず寝転がってるだけだと甘味くらいしか無くてのぅ……』

『ふむ、我が半身の家からゲームでも持ってくるか……』

 

 そうか。ゲームか。確かにお袋が買ってた記憶あるし、持っていくのもありやもしれん。

 ……とはいえ、穂織だから都会よりも二、三世代も遅れている。今じゃオンラインが主流らしいが、オレがやったことあるゲームと言えば所謂過去の名作だし。

 しかし流行らないのは色々と古いのが影響してゲームやる環境ではないのと、ど田舎過ぎてたとえ持っていたとしても機種も世代もバラバラだ。壊れてもそう簡単に直せないというのも大きい。あとソフトがさっぱり手に入らない。ので、漫画やらアニメやらが基本的な話題だ。

 

「お前んちってゲームあるの?」

「もう何年も前の奴だけどな」

「ハードあってもソフト手に入り辛いよな」

「如何にも。そしてその逆もまた然りだ」

 

 あったらめっけもん。あっても宝の持ち腐れ。二律背反にすらなりやしない、どうしようもなさ。

 なんというか、穂織という土地がどのようなものかがはっきりわかる。

 ……時代遅れもいいところだ、まったく。

 とんだクソゲーだ。

 どの道何をしようが復活しない。失われた命を返還しない限りは。

 そして命は決して返還されることはない。返還される命がそれを選ばないのだから。

 

「……さて、どうしたもんかな。オマエ考えとけよ将臣」

「わかってるよ。てか今日言おうとしたのにお前が遮るのはどうなんだよ」

「知らん」

「常陸さんに言うぞ」

「やめろ」

 

 茉子に怒られるのだけは嫌だなぁ……うん、とっても嫌だ。

 

「で、この集まりはどうするんだ? もう続けられる雰囲気が無いだろ」

「そうさなぁ、なら後はムラサメ様との触れ合い会にするしかなかろうて」

「それでいいのかなぁ」

「いいだろ別に」

 

 どの道、答えはあるができないのだ。

 ──それをしてしまえば、必ず穂織は"黄泉帰る"からだ。

 死んでいてくれない、殺されていてくれない、愛させて(殺させて)くれない。

 

 オレは穂織を愛している(殺したい)

 そして穂織はある意味オレが愛した(殺した)ようなものだ。

 だから愛し続け(殺し続け)たい。それがオレの愛だから。

 

 だから──愛する者よ、死に候え。

 

 死に続けろ。

 殺され続けろ。

 

 オレにオマエたちを、愛させてくれ──

 

「……馨?」

「ん? あぁ、いや、なんでも」

 

 ──これは、全て終わった後の感想になるが。

 

 結局オレはこの考えに気付けなかった。

 オレは内心で穂織の死を望んでいたのだとは、最後の最後まで気付かなかったのだ。実に間抜けな話になるが。

 

 ……それもまた、魔人のサガだろう。

 

 

 

 

 ──やっと開いたか……──

 

 苦労する妹だ、と。

 やはり心底からそう思う。

 

 ──仕掛けて、なんとか。しかも一度きりとは──

 

 色々と面倒極まり無い……500年で何をしたかと思えばくだらない。閉じこもり続けることだけ極めて、これがこうなるとは。なんというか、あまりにも情けない。

 我が妹ながら随分とまあ……と嘲笑しながら開いたとだけ馨へと伝える。

 

 ──どうなるかしら──

 ──さてなぁ? 奴がどうするのかなんて我々にはわからん。馨が何をさせる気なのかはわかるが──

 ──……本当に、あれがいいことなの?──

 ──あれしかないさ。魔人が内なる悪魔と向き合うには──

 

 秋穂にはわからない。魔人ではないからこそ、奏の言っていることが理解できない。宿痾、内なる悪魔と向き合うために、彼らが行うことが何一つ理解できない。

 まるで自滅だ。傷は知覚するから痛みを覚えるのならば、自分は傷を負っていることを自覚するために敢えて傷口を覗き込み塩を塗り込むのと同じように。

 

 ──ま、くだらん話だ。なるようにしかならん──

 

 だがそれらをまとめて通過儀礼やくだらん話として切り捨て、そうして何のためらいもなく実行しどれほど己がさもしくて、浅ましい存在かを知って──それからはなるようにしかなれない。悲しい生き物でもなんでもなく、魔人とは初めから生まれるべきではなかった鬼だ。

 

 ──で、どんな気分なんだ?──

 ──それを聞いてどうなるの──

 ──私が楽しい──

 ──言う必要は無いわ──

 ──つれないな──

 

 ケラケラと笑う奏と、それに呆れる秋穂。彼女らの間では珍しくないことだ。

 

 ──おやおや? おい。なにやら面白いことになっているぞ。白狛の奴から聞こえてきた──

 ──どうせ馨君の話してるんでしょう──

 ──まぁまぁ。お前も聞いてみろって──

 

 ただ彼女自身、退屈であるのは事実だった。宿主である馨に面白いことなど基本的に無いし、話し相手と言えばこの十数年間奏だけだ。タネも尽きた。

 ので渋々と、しかし久しぶりの面白みに触れられる嬉しさを隠しながら、その言葉に従って視界と聴覚を紐付けして……心底から後悔することになった。

 

 もちろん奏は爆笑していた。

 

 

 

「……髪をほどいてもらう?」

「そう。茉子はしてもらったことない?」

「ないですけど、急にどうしたんですか」

 

 この人いきなり何を言ってるんだ。

 それが茉子の素直な感想であった。二人だけで話したいことがあると言われて人気の無い裏口まで付いて行って、開口一番これであるとなんだか不安になる。

 しかし芳乃と言えば至って普通の表情。天然ボケの気があるので、何か普通の話題なのだろう。

 

「別に大したことじゃないんだけどね、その……初めてシた時、私色々勘違いして巫女服姿で行っちゃって」

「その折にほどいてもらったと」

「うん。それがなんだか、とっても嬉しくって。茉子はどうなのかなーって思ったから聞いたんだけど、そっか」

 

 そう思っていたらこれである。助けて馨くん、と思いながらも平静を保ち……少し気がかりな言葉があったことに気が付く。

 勘違いをするような説明してない、寝間着でいいって言った筈なんですけど……と茉子は思い出すが、しかし何処かの幼刀が脳裏を過ぎり、何を吹き込んだやらとため息を吐く。面白半分であれこれ有る事無い事言ったんだろうと目星を付けた後、少し冷静になってみた。

 

「……というか巫女姫が巫女服で初夜を迎えるってだいぶマズいのではありませんかね」

「き、着たままとかそんなことするわけないじゃない! すぐに汗かいちゃったから全部脱いだもん!」

「とりあえずワタシが危惧していたことはないみたいでよかったです」

 

 着たまま……と言えば、結局自分の初体験はそこまで時間が無かったという理由こそあれど、露出は最低限だったなぁと回想する。「脱いだ方が良くないか?」と言った馨に対して「裸だと恥ずかしいから……」と切り返したのは記憶に新しい。

 その反応にものすごく困った顔をしていた馨が意外だった。てっきり男の子なんだから着衣エロとか好みかと思っていたのだが。実際家にあった本には──と思い出して、関係無い話題だと切って捨てた。というか思い出し続けたら多分、自分が我慢できなくなる。

 

(……ワタシってこんなのだったかなぁ……?)

 

 はてさて、忍者で抑え過ぎた所為なのか、元来の性癖なのか……

 

「でも実際……いいわよ」

「なにがです?」

「お仕事の服を着てると気を張るじゃない。それを大好きな人にほぐされて、いつの間にか一人の女の子にされちゃうっていうのは、なんていうか──」

「あ、もういいです。猥談はもう疲れました」

「ひどい!?」

 

 主人から猥談を振られる従者の身にもなって欲しい。──しかもど直球で割となんとも言えない類の話題を。

 しかし、しかしだ……

 

 ──常陸茉子。

 忍びと従者の道に青春を捧げ、割とあんまり手を出してくれない初恋の人と結ばれて持て余しているのもまた事実。

 

「……けど、馨くんに忍び装束を……」

 

 故に、少し考える。

 最愛の人の手によって、忍びとしての自分があっという間に少女に戻される瞬間を。

 

「いい、かも」

 

 何もかも捨てて、自由になれそうな──そんな甘くて、心底から蕩けるような……

 

「でしょ?」

「なんでそんな破廉恥なコトを思い付くんですか芳乃様は〜……」

「ん〜……実体験?」

 

 そりゃそうだろうけどと思うがしかしそれを従者に勧めるのは何か違うような。というかそれは一般に背徳感と呼ばれるようなものではないのか? 茉子は訝しんだ。

 

「ねえ茉子。惚気聞かせてくれないかしら」

「は? えっと、何故ですか。お花のこと以外だと、面白くないと思いますよ」

「お花のことは素敵だけれど、普段の様子の惚気とか聞いてみたいのよ。それに、私ばっかり惚気て、たまには仕返しとかしたいでしょう?」

 

 ふむ、と。

 思い返してみれば。

 

 ──将臣さんの寝顔が可愛いのよ。

 ──将臣さんったら意外と子供っぽいのよ?

 ──将臣さん、前はだいぶ生活習慣がアレだったとか。

 ──将臣さんがこの前膝枕してくれたのよ!

 

 ……聞いてもいないのに結構聞かされてた。

 ワタシ全然してないのに。

 

「……いいでしょう。芳乃様がそこまでおっしゃるのであればやぶさかではありません。わかりました、では惚気ましょう。常陸茉子、参ります!」

「参りなさい、茉子!」

 

 何かを根本的に間違えている始まり方をしたが、茉子は芳乃に宣言し、芳乃はそれに受けて立つ。ここに奇妙な惚気対決が幕を開けることになった。なんだろう、この……この……

 

「コホン。ではまず……馨くんったら基本的に私生活アレ過ぎて、ワタシものすごく幻滅してます」

「幻滅だなんて、そんな茉子ってばだいた──」

 

「えっ、幻滅?」

 

 ……はて? 幻滅が惚気になるのか? 芳乃は何を言われたのかしばらくわからなかった。しかし茉子は彼女なりの惚気を続ける。

 

「はい。幻滅です。ワタシが泣いているとすぐに何があったのか聞いてくれて、何かを言うわけでもなく黙って聞いてくれた後に、一緒に綺麗な場所を見に行こうと、下手くそだけど素敵な笑顔を見せてくれた馨くん像はもうカケラも無いですね」

 

 過去の王子様はいつの間にか行方不明に。今はどうしようもないダメ男しかいない。存外、初恋なんてこんなものかと思うし、それが嫌というわけではない。むしろそんなに綺麗すぎるものよりも、程よく汚い方が安心感がある。

 

「あと家の中で下着姿でうろつき回っているどころか、白シャツにズボン履いただけで買い物行こうとか普通にしようとしてましたね。休日のおじさんか何かなんでしょうか」

 

 ただそれはそれとして苦言を申したいところは沢山ある。これなんてその一つで、言い出せばキリがない。馨はいいところよりもダメなところが多すぎる人間なのだ。しかも低血圧でもないのに朝は何もしたくないと二度寝するわ寝惚けたフリをするわで本当に酷い。

 

「せっかくイイ顔と声と身体をしているのに全部台無しです。昔の可愛いところとかほとんどないですね。代わりに成人向け雑誌の杜撰な隠蔽が発覚した時とか、一緒にお風呂入った時とかに今の馨くんだからこそ可愛いところを見せてくれるようになりましたけど」

 

 まあ可愛いと言っても当社比。

 ぶっちゃけ可愛くないのが本音でもある。そんなのが好きなのだが。

 

「ですが、ワタシはそれがいいんです。そんな馨くんが好きなんです。ひたすらに不器用だけど自分らしく生きている馨くんが、とってもかっこよく見えるんです。だからワタシも彼と同じように自分らしく生きて、そしてずっと隣にいていたいって──」

 

 自分らしく生きる、それが例え血塗られて呪われた道だとしても、彼はそれを選んで貫いている。馨のそんなところに茉子は心惹かれたのだ。

 

「だって思い出の中の美化された馨くんより、現実のダメダメでどうしようもない馨くんの方が、生き生きとしてますから」

 

 思い出は思い出に過ぎない。色々と不都合があったり腹の立つ行動をしてくる現実の方が、それこそ生きているってものだ。

 だからそんな、不完全で、不器用で、甲斐性があんまりない、そんな稲上馨という人間が一番魅力的に見える──茉子は、本気でそう思っている。

 

「なるほど……なるほど。茉子はそういうところが好きなのね」

「はい。愛するって、難しいですね。ダメなのに……愛してしまう」

 

 好嫌入り混じる感情を抱いても、それでもこの人がいいという譲れない想い。よく馨が言っているが、愛するとは難儀なことだ。

 そして、愛する人を殺すことこそが愛の証明となるような狂人を愛するなど。けれど……本気で好きになって、愛している。愛とは狂気、そして愛する者に正気などない。

 どこか納得したような芳乃は茉子に向かって微笑んだ。自分の所為で何もできなくなった彼女が、ここまで色々と思えるようになったのが、嬉しいからこそ。

 

「で、茉子。実は──」

 

 そして。

 とても神妙な顔で告げられたその一言に。

 

 茉子は、心底から驚愕した。

 

 

 

 

 やっと開いたのか、というのが正直な感想だった。

 まあいい加減寝る度に妙なものが流れ込んでくるのにも飽きていたところだ。そろそろ強引にでも向き合っていただこう。

 

 ──さて、ムラサメ様との愉快な会議と言えばもうみんながてんやわんやと楽しげに雑談して終わり。シレッと玄さんが混じっていたりしたが、まぁまぁということで。

 けど芳乃ちゃんと茉子は何を話してたんだ? なんだか物凄く微妙な雰囲気あったけど。ちょろっと聞いても教えてくれなかったし。……聞かれたくないようなことでも話してたのかなぁ? オレ、その辺割とニブチンだからわかんねえや。

 

 それはそれとして、大問題がここで存在する。

 まず京香の精神状態はロクなものではないと推測する。そしてオレがやろうとしていることは、現状を単なる火事とした時、そこに油を一日中注いで街一つを火の海にするかの如き愚行だ。

 ──彼女は古き時代の人間だ。その生死観はオレや同年代であるはずの奏よりも酷い。ここでオレの愚行を笑って許すほど、京香は優しい人間ではないし、やってしまえば何が何でもオレを殺そうとしてくるだろう。自分が生きるために。

 一時的とは言えども完成された魔人に、オレや奏では辿り着けない技のキレを持つ京香がなった時、まず問題としてあるのがオレの死である。

 

 はっきり言おう、殺される気しかしない。

 

 勝てる勝てないではない、殺されるのだ。殺人者としての才覚が、とかではない。純然たる事実として単に殺しの才覚に優れただけの存在が、心技体の揃ったベストコンディションの存在に殺されるか殺されないかで言えば、誰しもが後者を選ぶ。

 死なないように立ち回っては勝てる道が無い。殺すように立ち回っては本末転倒。だがベストコンディションとなった京香とまともにやり合えるとしたらオレしかいない。

 完全な性能を発揮した魔人は異常な程の能力を誇る。常に死に瀕した人間と同じ能力というだけではない、そこから更に死に瀕すれば瀕する程のより際の際に──よりふざけた能力になってしまう。

 

 ……二、三は死ぬ前に心臓を再生することは確定だな。

 

 そしてここが大問題の中の大問題。

 ──京香を止める。

 そう、止めるのだ。殺すことは論外。止めて納得させて、死ぬことを認めさせなければ祟り神の類になりかねない。そもそもが生き怨霊で、いくら杭と鎖が溶け落ちているとは言えどもその存在は神代のものだ。十二分に留意しなければまた祟り神騒ぎを起こしてしまう可能性が付いて回る。

 

 正確な順序を経て、正しい方法と正しい存在が正しいもので祓わなければ完全に消えることはない。まったく面倒だが、オレもそうだから困ったものだ。

 ……まぁ依り憑く先があれば、の話だが。残すつもりもないし、そんなものを作るつもりもない。もし何かの間違いで亡霊として彷徨うことになったら、然るべき手段を持つ人間に頼んで大人しく消えるさ。

 みんなも、茉子もいない世界に興味はない──

 

「はぁ……」

 

 気が重い。

 面倒な先祖を抱えたものだ。

 

「大丈夫?」

「ううん。全然大丈夫じゃない」

 

 流石に気が滅入るので、隣にいる茉子に素直に言っておく。

 

「何かあったの」

「別に何もないよ。──いや、何もあるな」

「なにそれ、結局誤魔化してるじゃん」

「ごめんね」

 

 ムスッとした顔を見た途端に謝ってしまうオレ。そんなオレを見て彼女は本当に不機嫌そうに目を細めた。

 

「ごめん、言えなくて」

「言いたくないんでしょ?」

「それは、そうだけど。正直、言ったら心配かけちゃうから」

「言い訳も下手くそだね。もう心配になってきちゃったよ」

「ごめん。でも、オレはオマエを巻き込みたくない」

「もう巻き込まれてます」

「……ごめん」

 

 久しぶりの敬語。

 けれど謝ることしかできない。

 

「忘れて、は無理だよな」

「無理だよ、だって恋人が心配になるようなことになってるって言ってたんだし」

「でも、上手くいけばもっと上手くいくんだ」

「何そのバカみたいな説明」

「と、とにかく上手くいけばそれで終わりなんだってば!」

「上手くいかなかったら?」

「迷惑かけます……」

 

 呆れた溜め息。とは言えどもすんなり説明している分マシになったような気がしないでもない。さて茉子から見た時はどうなるやらだが、ただそれ以上何も言ってこないので、ある程度は見逃してもらえているのか──それとも。

 とかく、オレは改まって立ち止まり、茉子と向き合う。茉子の顔を見て、意を決する。

 

「オレはやる。そう決めたから、何をしてでも、必ずやる。必ず上手くいかせる」

 

 そして宣誓した。

 もう引き返せない。だがそう決めた、ならばやり遂げる。ただそれだけ。ありとあらゆる手段と方法を用いて、京香を納得させてみせる。

 ……けど、茉子からしたって何も言ってくれない訳だし、急に宣誓されてイマイチよくわからない感じだし、ふむ、ここは──

 

「だから、終わったらご褒美くれ。ケーヤク」

「あれまだ生きてるんだ……」

「冗談だと思われてたのかよ」

 

 ケーヤクったらケーヤクなんだぞ。

 

「ご褒美って、何がいいの? ワタシにできることならなんでもするよ」

「なんでも?」

「うん、なんでも」

「……女の子が男の前で迂闊になんでもするって言うもんじゃないぞ。例え恋人相手だとしてもさ」

 

 まったく、不安になるだろ。オマエ可愛いんだから。

 見るからに微妙な表情でもしていたのか、茉子はクスクスと優しく笑っていた。なんだか手玉に取られているような感じがして、少しそっぽを向く。

 

「言わないよ。馨くんだから言うの」

「知っててもさ」

 

 知ってても納得がいかない。我ながら難儀な性格だこと。

 ……ただなんでも、なんて言われたら。

 

「……ちょっと」

「どうしたの?」

 

 茉子の手を引っ張って路地裏に入る。

 前に告白しそびれた所と同じく、特に人が来ない場所。

 そこでオレは彼女を、抱き締めた。

 

「茉子、なんでもするんだよな」

「う、うん……なんでもする、けど」

 

 戸惑った声が聞こえる。表情は知らない。

 わかるのは体温と鼓動と柔らかさだけ。

 

「じゃあ、ご褒美は朝まで付き合ってくれ」

「朝までって……何を? 何に? ねぇ、馨くん」

「──言わせるのか。言って欲しいのか」

 

 ジッと見つめる。視線が逸らされる。

 

「……〜〜っ」

 

 他には何も言わないでいると、ナニを想像したのやら、茉子が赤くなった。まぁあってるんだけど。

 

「茉子」

「……待ってる、から」

「いい子だ、愛してる」

 

 おかしいな、頑張ったご褒美の筈なのにどうして我慢できた茉子へのご褒美みたいになってんだコレ……?

 なんというかなんとも言えない小さな疑問を抱きつつ軽く頭を撫でて、触れ合うだけの小さなキスをして、終わったらねと別れる。

 そして家に帰る──のではなく、敢えて裏山を訪れる。もう何度も足を踏み入れた筈なのに酷く懐かしい気分になるのは何故だろうか。

 

 四つ数え、息を吐き、全てを切り替える。

 オレという存在が殺すためだけのものに変わる。袖口から短刀を取り出し、両手に握る。

 

 ──今からやるか──

「即断即決、やる。──さぁ、目覚めの時だ」

 

 腹の底から引き摺り出すことをイメージしながら、オレの中に存在するオレでないモノを見分けていく。そしてその中で一際大きなモノを取り出し、付いているゴミを削り落としていくように──

 

 刹那、視線の先に漆黒の渦が巻く。やがてそれは人の形を象り、黒一色から色を持ち始めていく。様々な色が人間という形で彩り、そして遂に京香は──外に出された。

 開かれた瞳に映っていたのは、途惑いと怒り。愛憎混じった複雑な感情。そして羨望と嫉妬……退屈。

 

「よう、元気?」

「そう見えるなら目が腐ったな」

「ははは、違いない。死んでるように生きてるもんな、オマエ。いい加減認めろよ。ワタシはレナに謝りたいですって」

「そんなことはわかっている」

「もちろん謝るのは実はワタシ自身が殺したかったからです……だろ?」

 

 コイツがレナを羨んでいたのは知っている。

 いや、羨んでいるのは自分以外の全てだ。自分以外の、当たり前の生活が送れて輝かしい未来を持っている者全てが。

 ──そして、それを潰したい。殺したい。鎬を削り、果てに追い落とす。そこに生を感じるから、そこに死が無くてはならない。

 

 レナを手にかけようとした理由は、復讐心だけではない。

 

「貴様……!」

「認めろって。それで終わりでいいじゃないか。度し難い怪物って認めりゃすぐに謝れるよ、ご先祖様」

「……私は、人間だ……!」

「戯言を」

 

 姉貴と子孫が魔人なら、オマエだって魔人だろうに。

 

「人間ならそもそも素直に謝れる筈だ。罪の意識から逃れたいなら、殺してくれでも何でも言えた筈だ。それが言えないなら──何故言えない」

 

 まぁ、結局そこなのだ。

 やらかしたことに対して責任が取れない女ではない。自分の首すら遠慮無く差し出せる程の女が、何故それができないのか。

 

「罪の意識からか? いや、罪の意識があるなら素直に断罪を求められる。だっていうのにオマエは何も言わずに消えたがる。何故だ? 許さなくていいから一言謝りたいと言えるオマエが。その答えはただ一つ。

 

 ──自分がそういうものだと理解しているからだろ。ご先祖様」

 

 姉への復讐心だけでなく、羨望と歪んだ愉悦を満たす為に殺そうとした。全てに優先するのは自分だとして。それが答えだ。

 

「謝ることはそれを認めることになる。だから何も言わずに消えたい。情けないじゃないか、ご先祖様。人にはあれこれ言いながら、自分はそんなもの関係無いってのは、汚ねえやり口だ」

 

 これを認めさせてより消えることを望ませないと、変に残ってえらいことになりかねん。それは避けなければならない。

 ……なんて考えてたら首根っこを掴みあげられた。鬼気迫る表情に、全身から滾る怒りと憎悪と──実に複雑だ。

 

「……おいおい、なんだ急に」

「貴様……! ならば貴様はどうした! 貴様はその醜いものをどうして受け入れられたのだ! 答えてみせろ! えぇ!? どうせ誰かに支えられたとか、今を生きる者だからこそ受け入れられたんだろう!?」

 

 ……なんだ、そんなことか。

 

「醜いこれをどうやって受け入れられたか? ははは、オレは最初から自分の魔性を、宿痾を否定なんかしてないぞ。初めからまぁそんなもんかと思ってた」

 

 そうだ、オレは。

 

「最初に普通の人間として生きて死ぬって決めたから普通の人間として生きたかっただけで、オレはそれが叶わないから死のうとしただけだ。

 

 ──魔人であることは否定していない」

 

 コイツは魔人として生きたくないから目を逸らして人の真似事を続けてるだけ。

 オレは普通の人間として生きて死ぬことが望みの魔人で、それができないから死のうとしただけ。

 ……根本からオレと京香は、似ているが正反対。認めるか認めないかの最初が違う。ついでに言えばオレと奏は同類だ。しかしヤツとは正反対の道を選んだ。

 葛藤などオレは、初めからしていない。オレが葛藤したのなど、茉子と芳乃ちゃんに関係したことくらいなものだ。オレに対する葛藤など、雀の涙程もない。

 

「魔人だと知って、だから何だとまずは思った。普通の人間として生きて死ぬことくらいはできるだろうと。だが真っ先に茉子の命を手折って、愛したい(殺したい)と感じた。もちろん何かの間違いだと思った。だからまずは頭の中で想像した。彼女を愛す(殺す)オレを。──とても満足そうだったよ」

 

 理解できなかったが、自分の感性が人と外れていたのは自覚していた。だからまぁそんなこともあるとして……だがそれが本当に起きたらどうなるのか? 起こそうとして起こすものなのか? これは普通の人間という夢を奪うものなのか?

 そここそが問題だった。

 

「本当にそうならば、確かめる必要がある。それが現実ならオレは普通の人間として生きて死ねないことの証明だからな。だから次の日、茉子に手合わせをお願いして、そのドサクサに紛れて愛そう(殺そう)とした。もちろん、実直な愛情(殺意)を向けたからあっさりと見切られて負けたよ」

 

 そんなに勝ちたかった? と呆れられながら言われたが、当のオレは──

 

「終わってみて、オレを襲ったのは後悔だった。もっと強くならねば茉子を愛せない(殺せない)。対等な立場で、対等な戦いで、対等な実力で、お互いに傷付け合い命を賭してこの愛情を証明し合う逢瀬は、強くならねば得られない。魂が叫んでいたんだよ、もっと力をってな」

 

 人を愛する……普通の人間として当たり前のことができない。つまりもう普通の人間ではない。オレは──殺すことでしか愛せない魔人だ。

 

「──その時点でオレは自分自身の望みが一切叶わないと知った。ならば答えは一つ、今すぐにでも死ぬしかない。理想になれない? ならば即座にその命を神に返せ、生き恥を晒し続ける道理もあるまい。それに、茉子には死んで欲しくない、茉子は茉子の幸せを掴んで欲しい、大好きな人にオレの醜い求愛(尊い殺意)が知られたくない、オレのことなど忘れて長く生きて欲しい……そう思ったよ」

 

 疎ましく、悍ましく、呪わしく、忌まわしく、罪深いこの宿痾。

 これを受け入れなければまず死を選択できない。自身が異常であることを知って、それがどうしようもないから死ぬことを是としただけだ。

 他にやり様があったら、曲げたくないこの感情を適当な大義名分で納得させて、内心は不満タラタラのまま生き続けていただろう。

 

「奏は宿痾を知って飲み込んだ。だからアイツは立場に応じた態度を取るだけ。謂わば一種の仮面の付け替えに等しい。

 

 対してオレは宿痾を知ってこれもまたオレだと認めたが、理想そのものになれないからと死を選んだ。どんなにイカれた奴でも、感性が真っ当なら、自分が誰かを害する前に自殺の一つや二つくらいするだろ?

 

 そしてオマエは、宿痾を知って目を逸らして、誤魔化しているだけだ。

 オレたちはな、殺したいから殺してるんじゃない。そうしなきゃ生きていけないから、殺して"しまうんだ"。生を感じることに死がなくてはならないこの矛盾螺旋──だがオマエはどうだ?

 

 オレも奏も生きるために死に向かって疾走する愚者だというのに、オマエだけは死に向かって疾走せず、生に向かって足踏みをしている。

 

 いつぞや言われたことをそっくりそのまま返すぞ、伊奈神京香。

 ……大きく出たな小娘。宿痾と向き合うことなく必要と不要を履き違えた愚者が。魔人を名乗るなよ貴様。雑兵狩りで驕ったつもりか」

 

 自分が"生きるために"殺している。

 決して趣味じゃない。本音を言えばやりたくもない。何故ならそれが自分の首を絞めることに繋がっているからだ。だがやってしまう、それが魔人だ。

 だがコイツはどうだ? "生きるため"の殺しを全て"趣味の殺し"に置き換えている。これでは殺された者たちも浮かばれない。自分の命が有益に消費されいるかと思えば、無駄に消費されているどころか何の役にも立ってないとは。

 せめて殺した者の命は有意義に消費するべし。奏が殺人を続けていて、オレに敗北するまでそうしようとしていた理由はソレである。

 

「わかったか、愚か者め。やりたいと思ってやるならただの殺戮者だ。やりたくないがやってしまうこそが、魔人なんだよ」

 

 ──そこを間違えてはいけない。

 人を嬲りたいだけで殺すつもりは毛頭無いが殺してしまう奏。人を愛したいだけで殺すつもりは毛頭無いが殺してしまうオレ。

 オレたちは……殺したくなんかない。けれど殺す。殺してしまう。

 そんな虚しい生き物、愚かな生き物、決して生まれるべきではなかった生き物。

 それがオレたち──魔人(ヒトの恋に寄生して生まれた化け物)だ……

 

「……だから、認めろと?」

「オマエが変に残っても面倒だ。残りたくもないだろう」

「……」

「だが、これは邪魔だと切り捨ててしまうとそれが余計な意志を持つ可能性がある。だから認めて、これを持って行って欲しいのさ。いい加減楽になりたいんだろうし」

 

 手を離し、沈黙する。

 

 そして──剣が突き付けられる。

 誰に? オレに。

 

「八つ当たりに、付き合え」

 

 血を吐くような、低い声。

 

「私を魔人だとするなら、それ相応の対価を払え。5分だ、5分間八つ当たりに付き合って死ななければ……私は私の宿痾とやらを、認めてこいつを地の底まで持って行ってやる」

「偉そうなことを言うなあ、オマエ」

「黙れ」

「まぁ、いいさ……5分だな?」

 

 互いに得物を構える。

 

「殺すぞ、馨。その面見てると姉様思い出して癪に触るんだよ──」

「やってみろ、出来損ない。茉子からオレを奪ってみろ……奪えるものならばな──」

 

 さて……最後の一仕事だ──!


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