千恋*万花~福音輪廻~   作:図書室でオナろう

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第2章開始です。
章は原作に沿って別けていく感じになります


Chapter2 前哨
日常


「むぅ……」

「ダメか?」

 

あれから少しあとのこと。

再びの祟り祓いに出撃した俺たちは、前回よりもスムーズに事を終えた。が……

 

「いや、俺は独学というか、基本的に捨て身なんだ」

「捨て身って、あんなに避けたりなんだりしてるのに?」

「あー、性能が違うからできることも違ってな。とにかく魔に近い俺だからできることであって、人間にはおススメできない」

 

将臣から急に、戦い方を教えてくれなんて言われてしまった。

当然だが今はムラサメ様も誰もいない。朝武家の外で話してる。

 

「でもほら、なんかないか? 心構えとか、何処が弱点とか」

「心構えったって……なんだろうな。とにかく死なないように立ち回るくらい? それにどこでもダメージ入るんだから考えるだけ無駄さ。あと刀は最近使い始めたし、教えられることは何もない」

「子供の頃から虚絶に選ばれてたなら、使わされるとかで慣れてるのかと思ってたんだけど違うんだな」

「ガキの頃だと身体が未熟でな。刀に振り回されちまう。だから短刀で打ち合って、隙あらば虚絶で斬ってた」

 

虚絶からガキの肉体は自身を完全に活用できないと判断したのか、俺が出撃するときは、大抵が短刀と虚絶の二本持ちだった。高校に上がる前に、やっと虚絶をメインにし始めた程度。もともと短刀の方の才能があったことから、刀は玄さんにつけてもらった最低限の修行程度……あっ、そうか。

なぜ忘れていたのだろうか。将臣の祖父である玄さんなら刀の使いや剣術に精通している。

 

「玄さんはどうだ? あの人は昔から刀に触れてるし、お前のことをよく知ってるだろうから体力作りも効率的に行けそうな気がする」

「やっぱそうだよな。俺も祖父ちゃんに頼もうって考えてたんだけど、その前に何かやれることはって思って声かけたんだ」

「相手が悪かったな。そうだ……その、あのだな。俺さ……やっちゃったんだ」

 

都合が良いからと、しかし失態が失態故にしどろもどろになりながら語り出す。

もともと決めていたのだ、事情を知っている将臣かムラサメ様に相談をしようと。

 

「何? もしかして犯罪?」

「ちげーし。いや、この前さ、茉子と話してたらうっかり口滑らして……言っちゃったんだ。俺のこと。死のうとしたーとか、殺すために生まれたーとか……あはは。あでも、別に関係に変化が無いから平気だとは思うんだ。だけどほれ、あいつに無用な心配を押し付けたみたいでなんか不安で……なんとかなりそうな方法とか知らないか?」

 

それを聞いた将臣は、もはや呆れを通り越して虚無の表情とともに。

 

「バカだろお前」

 

痛烈に罵倒してくれやがった。

更に将臣は俺に対してグサグサと言葉の刃を突き立てていく。

 

「元から気になってたけどさ、お前矛盾してるよな。隠したいのに知っている人には判断を任せるっておかしいだろ」

「うっ、それは……だな。自分でもよくわからんのだよ」

「ムラサメちゃんが呆れてたのもわかった。生きたいのか死にたいのか、どっちかわかんないんだろ馨」

 

ぐうの音も出ない正論だ。

死なねばならないと定めているが、しかしその実、個人としては生きたいのか死にたいのかだけは考えていない。それを考えたら、決意にヒビが入りそうで怖い。

 

「死ななきゃいけない義務感だって、多分……合理的に考えてるからだろ? 獅子身中の虫みたいなものだし、同じ立場になったら間違いなく俺も感情とか全部無視して考えたらその答えに辿り着く。けどさ馨」

「悪いがその話はここまでだ。それ以上は必要無い」

 

揺らぐ危険がある。

中断しなければ。

 

「おい──!」

「俺は先に帰らせてもらう。手首、大事にな」

 

逃げるように跳躍し家へと向かう。

……優しいのは美徳だが、合理に徹せないのは、それこそ悪徳だろうに。

何故それを理解しようとしない? 合理がもたらす結論の、何が悪いというのか。

 

 

 

翌朝。

 

「あ……学校、行かなきゃ……」

 

相変わらず朝は苦手な俺なので、死体のように起きて死体のようにシャワーを浴びて、朝飯食って着替えて荷物持って登校する。

 

「ねむ……」

 

ふらつく猫背な身体を倒れないように努力しつつ、上着の違和感を無視しながら歩く。

俺の通う学校……鵜茅学院の男子制服の上着は丈が短く、開けてるとだらしないからとして大半が閉めているが、生憎俺は面倒なので羽織って終わりである。シャツも第2ボタンまで開いており、不良と見られても不思議ではない。

ついでに言えばズボンも寝惚けて転んだりなんだりで若干痛んでおり、何もしていないと言うのに、まるで暴力に明け暮れた番長めいた印象すら与えるだろう。

まぁこっそり上着の内側生地を弄って短刀を仕込めるように改造してはあるのだが。

 

学院に通じる唯一の坂を上って、あぁ面倒だと思いながら歩を進める。この調子だと、遅刻ギリギリになるだろうか? どうせ始業式しかないんだ。どうだっていいだろう……

 

と、思っていたのだが。

 

「おっと、噂をすればだな。よお寝坊助。相変わらず酷いカッコだな」

「うっせ……着ないよかマシだマシ」

 

何故か校舎前に廉がいた。いや、廉だけでなく、将臣に小春ちゃんに芳乃さんにムラサメ様に茉子──オールスターというわけか。

 

「……あぁ、おはよう、みんな」

 

挨拶をするが反応を聞く必要も無い。誰かが口を開く前に通り抜けようと足を動かして……

 

「まぁ待てよ、馨」

 

やけにニヤついた廉に引き止められる。

 

「なに」

「聞いたぜ? お前、常陸さん誘って春祭り回ったんだってな。口ではあぁ言いつつもってツンデレかよ」

 

はぁ、それか。呆れた表情でもできているだろうが、それっぽいことを言って遊んでやろう。

 

「ま、俺はお前とも将臣とも違って、コナをかけたら寄ってくる女がいるってことだ」

「いきなり俺を巻き込むなよ!?」

「あぁ、お前はコナかけられる側だったなァすまんすまん。だって小春ちゃんが──いって!?」

「馨さん、ちょっと」

 

将臣にお前の可愛い従妹がどれだけイイ男かを紹介してくれたかを説明しようとしたら、小春ちゃんに足を踏まれた。

この子ったら俺の扱いも年々荒っぽくなって……感慨深くなっちゃう。

 

「いふぁい」

 

間髪入れず茉子に頬を抓られる。

 

「コナをかけたら寄ってくる、なんて言い方はやめていただけませんか」

「ふぁってひゃ」

「せめてコナをかけ合った結果妥協すると言ってください」

 

それでいいのか? とも思うが朝っぱらから面倒なことになった。早く逃げよう。

 

「ひゃい」

「わかればよろしい」

 

……口を滑らしてしまって一週間近く、少し疑問の視線は感じるが、俺と茉子の仲に問題は無い。

一時はどうなるかと思ったが、平気そうだ。

 

「あー……面倒くさかった」

「廉太郎、こいつ本当に馨か?」

「朝のこいつはこんなのだぜ。どんな馨を見たかは知らないけど、もし理想を持ってたなら捨てちまいな。どうしようもねえ奴だから」

「うん。なんか、アレだな」

「アレってなんだこの色ボケ婚約者。てめぇが巫女姫とアレな関係だって嘘吐きまくるぞコラ」

「やめてくれ。でも俺より朝武さんへのダメージにならないかそれ」

「のっぴょぴょんだぞ」

「会話しろよ」

「将臣、諦めろ。このロクでなしの頭が回り出すまでこれが延々と続くぞ」

「うわっ、最悪だな」

 

いや眠くて会話続けるのダルいだけだから。頭回ってるから。大丈夫だから。ええい貴様ら、そんな微妙な表情で見つめるんじゃない! 俺はまともだ! まともじゃないけど!

 

「仲良くするのはいいんですが、このままだと遅刻しますよ?」

 

芳乃さんの一言で我に返り、俺たちはいそいそと校舎に向かう。途中、将臣が俺らの担任の中条比奈実──俺にとっては昔世話になった比奈ねーちゃんだが──に連れられて職員室に連れて行かれたが、まぁ取り立てて騒ぐことでもないだろう。

 

 

 

将臣の転校挨拶回り、始業式も何の問題も無く終わった。『明日からよろしくお願いします』で終わってしまい、さてとっとと帰るかと教室を出て下駄箱に向かうと──

 

「やっぱり来た」

「げっ、駒川……」

 

どういうわけか駒川が待ち伏せしてやがった。いつも通りの白衣に身を包んだ姿だが、その視線は険しく青筋が立っている。腕組みをしているのも相まって、なんかラスボスみたいだ。

 

「君のことだ、どうせ真っ先に帰るだろうと思ってここにいたが……まさかその通りに動くとは」

「なんだよ、あんたは俺じゃなくて芳乃さんとか将臣とかに用があるはずじゃなかったか?」

「もう忘れたのか? 私は言ったぞ、腕が治ったら見せに来いって」

 

そんなことを言う駒川に、俺は完全に停止する。

は? そんなこと言われたか? だって腕に怪我なんぞしたことは……

 

「あっ……」

 

前に将臣を助けるついでに始末しようとしてしそびれた祟りに虚絶を抜いた代償のことか! やっべ、完全に忘れてた……

 

「今更思い出したか」

「戦略的撤退!」

 

もう説教はごめんだ。朝っぱらから(自業自得だが)足踏まれたり頬抓られたりされて、始業式の退屈な話を聞いてただでさえ早く家に帰りたいんだ。

なので後ろに振り返って疾走。近くの窓から逃走しようと思ったが──

 

「稲上君」

「うおっ!?」

 

進行方向に比奈ねーちゃんが現れたので急ブレーキ。

そんな俺を見て彼女はため息を一つ。

 

「また駒川先生に怪我の完治を見せなかったの?」

「えっと、それは……」

 

止まった俺と止めた比奈ねーちゃん。

そんな珍光景を見ても生徒の大半は無視するか、いつものかと言って通り過ぎる。

ぶっちゃけると学院でもかなりの名物だ、俺と駒川の追いかけっこは。知らないのは新入生くらいだろう。

 

何故って虚絶を抜く事態になれば必ず負傷し、必ず駒川が見て経過を見せに来いと言う。俺は大抵それを忘れて登校するまで顔を出さない。学院の嘱託医である奴は校舎内で俺を見るとひっ捕まえる。でも説教をされるのが嫌で逃げる。だが逃走ルートを先読みされて捕獲されるのがいつものオチ。

よって生徒たちにとって、たまに起きるバカと先生の追いかけっこでしかないのだ。

──だったが。

 

「テメェ! 卑怯だぞ駒川ァ! 」

 

後ろから迫る駒川に対して俺は負け惜しみを叫ぶ。

 

「いい加減、君との鬼ごっこにも飽きた。これからは大人らしく、手段を選ばずに行こう」

「ち、ちくしょう……! 布団が待ってるのに……」

「もう、いい加減にしなさい。素直に謝ればいいのになんでできないのかな」

「それが俺なんですー……って何? なんで駒川も比奈ねーちゃんも俺の腕掴んでるの?」

 

諦めて説教を聞き流そうと思ったが、なぜか二人は俺の腕を掴んでズルズルと引きずり始めた。え、なにこれ。なんで俺宇宙人みたいに連行されてるの?

 

「私にも仕事がある。だったら君は逃げるだろ? だから中条先生に協力してもらうことにした」

「いつまで経ってもヤンチャなんだから、ホント……あと学校ではその呼び方やめてって言ったでしょ?」

「いや待って、ストップ。これ羞恥プレイ……やめて歩くから! 逃げないから!! 離せって!!! 頼むから離してくれって!!!! 恥ずかしいから離してくださいってば──!!!!!」

 

実際のところ、その気になれば振り解くことなど容易いが、それをやればまず間違いなく二人が傷付く──物理的に。なので当然できない。つまり完封されたのだ。

しかし恥ずかしさのあまりジタバタと暴れて、余計拘束されてまた教室に連れ戻される。

 

「ごめんなさい、遅くなりました」

 

そう比奈ねーちゃんが言った相手は将臣と芳乃さんの婚約者コンビwith茉子とムラサメ様。無茶苦茶呆れた視線が突き刺さる。他には誰もいない。

 

「あの……何してるんですか?」

 

芳乃さんとムラサメ様はため息、将臣が疑問、茉子に至っては無言。四者三様の反応である。

 

「傷の経過を見せに来なかった挙句、出会い頭に逃走しようとしたこのアホを捕まえててね。申し訳ない」

「私はそれの手伝いを」

「もう……離して……恥ずい……」

「まぁここなら逃げないだろうし、いいか」

 

腕を離されて自由になったので、そそくさと離れて適当な椅子に座る。が、こっちに近づく比奈ねーちゃん。いやもう勘弁して。

 

「逃げないから離れてって」

「本当に?」

「もう羞恥プレイは嫌です中条先生」

「ちゃんと反省すること。いいですか?」

「はい」

 

反省するかどうかは俺の肉体次第なのだが、今度からこうはならないよう上手くやろう。

向こうでは駒川と将臣の自己紹介とか、実は会ってたんだよーとか色々聞こえる。だがいつまでも一般人の比奈ねーちゃんを置いておくわけにも行くまい。とか思っていたら。

 

「では、私はこれで。──馨、ちゃんと言うこと聞くのよ?」

「へーへー。わかってるよ、ねーちゃん」

「もう」

 

そう言って苦笑しながら教室を後にするねーちゃんを見送ってから、意外そうにしている将臣に顔を向ける。

 

「あんだよ」

「馨って結構なクソガキだったんだな」

「うっせ。ニヤつくなぶっ飛ばすぞコラ」

 

なんか腹立つので吐き捨てる。

向こうの方では芳乃さんと駒川が叢雨丸を抜いた後の変化とかについて話している。

 

「何事も無いみたいで、安心しましたよ」

「でも、言ってくれれば私から行ったのに」

「混雑したりで大変になるかもしれませんでしたし、それに学院に二つほど用事がありましたから」

「一つはそこにいるバカですね」

「ええ。そこで不貞腐れてる、人との約束を忘れて逃げようとしたバカですよ」

 

なんかバカバカ言われてるんだけど。

 

「ホント、バカですよね馨くんは」

「茉子もかよ……」

 

なんか集中砲火食らってるんだけど。

 

「いくら身体の治りが早いからって、見せろと言われたものを見せずに忘れるのは最低ですよ」

「向こうもわかってるからいいじゃんか」

「わかっていたとしても見ない限り信用できない。ほら」

「はいはい。この通り綺麗さっぱりですよ」

 

右腕の袖を捲って、完治したことを見せる。しばらく眺めたあと、駒川は俺の頭にチョップを一撃食らわした。いてぇ。

その後は将臣の様子を見るために長くなるようだから帰っていいと言われ、お言葉に甘えて帰った。

 

 

そういえば将臣の奴、いつ修行を頼みに行くのだろうか? 遅くならない内にやるとは思うのだが……ま、いっか。

グータラしよう。


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