とある転移の学園都市   作:Natrium

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第十二話 剣の代わりに持つものは Girls'_Talk

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 フェン王国西部ニシノミヤコ。

 

 皇国との戦争の際には、最前線となるであろうこの都市には二千人にも上る武人が常駐していた。

 学園都市からの観光客も多く、誰もが日ごろ体験できない国外旅行を楽しんでいたのだが、しかし。

 

「っ?」

 

 そのおおよそ三キロ西側の小島に、何かが見えた。

 いいや、正確にはその上空。

天にまで昇ろうとする赤い煙幕の正体は、

 

「緊急事態の狼煙⁉ っ、お前ら笛を鳴らせ! 急げ、この情報を一刻でも早く伝えるんだ‼」

 

 その甲高い音色を聞いた武人から武人へ情報が伝播していき、ついには街全体を覆い尽くす。

一般人には分からなかったであろうが、笛の音に込められた意味はただ一つ。

 

 

 ついに。

 パーパルディア皇国との戦争が始まった。

 

 

 官民の境なくそれを全員が知ることが出来たのは、僅かに数十分後。

 爆音が鼓膜を揺さぶり、砲弾が街を打ち砕いた、その瞬間の出来事であった。

 

 

 

 

    2

 

 パーパルディア皇国皇都エストシラント第一外務局

 

 実質的に学園都市担当かつ全権大使となり、外務局監察室から第一外務局所属となった皇族のレミールは、学園都市と国交を持つ国を通じ、『すぐに来るように』との内容で命令書を出した。

 もうすぐ、あの生意気な学園都市の伸び切った鼻を叩き折れる。そう考えただけで気持ちが昂ったレミールであったが、使いの者に使者の到着を告げられると一気に冷静になった。

 

「どうぞ、お入りください」

 

 合図とともに、学園都市からの使者が部屋に入って来る。

 その音で振り返ったレミールであったが、目に入った予想外の光景に少し困惑した。

 

 そこには、肩まで掛かる黒髪を赤いカチューシャで留めた女性がいた。

 彼女が着用している白いリボンが付いた黒服は見たことがなかったが、原因はそこではない。

 

(若い。まだ十代後半に見えるが……。外交官として派遣するには流石に若すぎないか?)

 

 通常、外交官は経験の浅い人間には任命されない。ましてや、十代の女性に任せられるものではなかった。外交というのは一種の戦争で、実力のない者を派遣してしまうと、一気に国が傾いてしまう場合もある。

 

(こんな奴に実力があるようには思えないな……。学園都市とやらは余程人材不足と見える。まぁ、こちらにとっては好都合か)

 

 一瞬困惑した表情を見せてしまったが、目の前の少女に気付かれることはないと気を取り直し、眼前の少女を睨みつける。

 が、黒髪の少女は動揺する気配を一切見せない。

 

(……思ったより肝が据わっているようだな。私に睨まれた相手など、大抵は怖気づくというのに)

 

 少女が着席したのを確認すると、レミールは話し始める。

 

「パーパルディア皇国、第一外務局のレミールだ。おまえたち学園都市に対しての外交担当だと思って良い」

「学園都市外交部の雲川芹亜だ。一体何の要件だ?本当に、国交すら結んでいない相手を呼び出すに値する程の事なのだろうな?」

 

 雲川と名乗った女は皇女に対して堂々と言い返す。

 

(ふん、礼儀を知らん野蛮人め。その態度がいつまで持つか楽しみだな)

 

 レミールは不遜な態度を取る外交官を見下しながら嘯く。

 

「いや、今日はお前たちに面白いものを見せようと思ってな。――皇帝のご意思でもあるがな」

 

 それだけ告げると、使いの者に目を走らせた。

 しばらくして扉が開き、一メートル四方の水晶が運ばれてきた。

 

「これは、魔導通信を進化させたものだ。この映像付き魔導通信を実用化しているのは彼の神聖ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ」

「何かと思えばお国自慢か? 本題に入るなら早くしてもらいたいのだけど」

「はっ、今の無礼な言葉遣いは見逃してやろう。私は寛大だからな」

 

 レミールは肩を竦めながらも続ける。

 

「では、本題に入ろうか。今からこれを起動させるが、お前たちに一度チャンスをやろう」

 

 その言葉と共に、一枚の粗悪な紙が配られた。

 フィルアデス大陸共通言語で書かれたソレを要約すると、

 

 

 ――学園都市の王は、皇国人とし、皇国から派遣された者を置くこと。

 ――学園都市内の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ、改正できるものとする。

 ――学園都市の軍隊は皇国の求めに応じ、必要数を指定箇所に投入できることとすること。

 ――学園都市は皇国の求めに応じ、毎年指定数の奴隷を差し出すこと。

 ――学園都市は今後外交において、皇国の許可無くして新しく国交を結ぶことを禁ず。

 ――学園都市は現在把握している資源の全てを皇国に開示し、皇国の求めに応じてその資源を差し出すこと。

 ――学園都市は現在知りえている魔法技術のすべてを皇国に開示すること。

 ――パーパルディア皇国の民は皇帝陛下の名において、学園都市市民の生殺与奪権利を有する事とする。

 

 

 単純に、植民地となれという要求を突きつけられた雲川は、フッと一笑に付し、

 

「これを書いた人間は外交というものを良く理解していないようだけど。まさかこれが、例の面白いものとでも言うつもりか?」

 

「理解していないのはお前だろうが間抜け。おまえたちの国は比較的皇国の近くにあるにも関わらず、皇国の事を知らなさ過ぎる。当初いきがっていた蛮族も、普通なら皇都に来れば意見も変わるし、態度も条件も軟化する。しかし、おまえたち学園都市はこともあろうか、当初から治外法権を認めないだの、通常の文明圏国家ですら行わないような―――そう、まるで列強のような要求だ。お前たちは皇国の国力を認識できていない。もしくは外交部の意見が実質的に本国に通っていない。通っていても、それを認識する能力が無い。そんな愚かな国だという訳だ」

「………、」

「お前たちは皇国監査軍を押し返したということになっているが、当時の監査軍の長は精神が病んでいたに違いない。現に、皇国軍への被害は一切確認されていないのだ。これはつまり、監査軍におまえたちが勝ったのではない。我が国の部内的な問題だ」

「大した自信だな、不確定な情報をそこまで信じられるとは。先ほどの言葉を訂正しようか。その要求を書いた人物だけでなく、貴方を含めた上層部までもが無能である、とね?」

「貴様、言わせておけば抜け抜けとっ‼ 我が国は列強ぞ! 貴様らのような小国など幾らでも踏みつぶせるのだ、口の利き方に気を付けろ‼‼」

「はっ、監査軍が一人残らず消えたことに違和感すら感じなかったのか? 少数ならば兎も角、全員が家族を置いて姿を眩ませただと? 普通は起こるはずないと思うけど。それとも、貴国はそこまで兵に信用されていないのか?」

 

 レミールは激しく手を叩きつけながら立ち上がった。

 顔を真っ赤に染めながらレミールは叫ぶ。

 

「殺せっ‼ 衛兵を、――いや、剣を持って来い! 私自らの手で殺してやるっ‼」

「化けの皮が剝がれたみたいだけど。最初の余裕はどうした?」

 

 皇女からの殺意を正面から受けても動じずに、雲川芹亜は告げる。

 並みの人間であれば怯えるはずの状況だが、身じろぎの一つもしない雲川を見たレミールは少し冷静になった。

 

(いや待て、このまま殺してもいいのか?これは明らかに理解した上での挑発だ。まさか、殺されることを前提に派遣したのであれば―――何かの罠か? 例えば、命の危機に陥った際に活性化する魔力の性質を利用し、自爆を行うとか……。自爆魔法など馬鹿げているが、文明圏外の蛮族ならばそんな野蛮な魔法すら開発するかもしれない。何も起こらなかったとしても、別の大使を派遣させるのも面倒だ。ならば―――)

 

「剣はもう良い、元に戻しておけ。妙なことをされても面倒だ」

「おや、拍子抜けだな。てっきりそのまま殺されるのかと思っていたけど」

「抜かせ。あんなあからさまな挑発に私が引っ掛かるとでも思うたか。何を企んでいたかは知らんが、残念だったな」

「特に狙った意図は無いが……何を勘違いしている?」

「大した食わせ者だな。小娘だと思っていたが、中々やるようではないか」

「そう思っている事が、すでに誘導された思考だと気づいているか?」

 

 あれだけ脅したにも関わらず、雲川は挑発を続ける。

 それを見たレミールは自身の考えが正しかったと確信した。

 

「何とでも言うがよい。もはや、貴様の思い通りにはならんよ。話が逸れたな。では改めて問おうか、学園都市の使者よ。その命令書に従うのか、それとも国滅びるのか」

「ああ、その答えならば当然、否だ。わざわざ植民地などに成り下がるつもりはないけど」

 

 レミールは悪魔のような笑顔を浮かべながら言う。

 

「ほっほっほ、言うではないか。貴様の目は想像以上の節穴であるようだ。やはり蛮族には教育が必要なようだな、皇帝陛下のおっしゃるとおりだ」

「へぇ、教育といったか。パーパルディア如きに教わることなど、我が国には無いと思うのだけど」

「ちっ、いい気になるなよ属国が! ……だが、それもいつまで持つかな?お前たちは皇帝陛下に目を付けられたのだぞ。しかし、陛下は寛大なお方だ。お前たちが更生の余地があるか……教育の余地を与えてくださった」

 

 レミールは水晶の方へ歩いて行った。

 

「これを見るがいい‼‼」

 

 レミールが、パチンッと指を鳴らすと眼前の水晶体に質の悪い映像が映し出された。

 

「ニシノミヤコの学園都市観光客か。外交で人質を取るなど、やはり貴国は野蛮であるようだな」

 

 首に縄をつけられ、各人が縄で繋がり、一列に並べられている人々、その数は百名近くにのぼる。全員が学生であり、皆、脅えきった顔をしている。

 

「おや、あまり驚かないのだな。薄情な女だ。兎に角、こやつらは我が国に対する破壊活動をする可能性があるのでな。スパイ容疑で拘束している」

「……、」

「お前たちがこの命令に従うのであれば、貴様の無礼な発言を含めて見逃してやったものを……」

 

 レミールは懐から通信用魔法具を取り出して、

 

 

「処刑しろ」

 

 

 簡潔な言葉で以って命令を下した。

 

「貴様らが悪いのだ。我らの命令に従わなかったからこうなるのだ。次のアマノキまでに命令に従わなければ、さらに血を見ることに――」

「構わんよ」

 

 あっさりと。

 雲川芹亜は百人の命を切り捨てた。

 

「な、に……?」

「別に構わないと言っている。聞こえなかったのか?」

 

 少なくともレミールにはそう聞こえた。

 しかし。

 

「世迷い事を‼自国民を殺されて何の反応もしないなど、貴様それでも―――

 

 ふと、気が付く。

 

「何故……、なぜ誰も動いていない? 命令だ‼ 奴らを処刑しろ! おい、聞こえているのか‼」

 

 

 水晶に映っている光景に、何ら変化はない。

 初めと変わらず、一滴の血液すら映ってはいなかった。

 

 

「ちっ、故障か? こんなときにっ‼ 誰か、代わりの物を持って来い‼‼」

「いいや、違うね。単純に、彼らに余裕が無かったからと言い換えても良いけど」

「……?」

 

 雲川はまるで予言したかのようなタイミングで告げる。

 

 

「例えば、突如として発生した襲撃で、余計な事をする暇がなくなった、とかね」

「っ?」

 

 レミールが小首をかしげたその直後の事であった。

 

 

 ごっっっバッッッ‼‼‼ と。

 水晶に映る景色の奥で、何発も爆発が生じた。

 

 

「わざわざ、時間稼ぎに付き合ってもらって感謝するよ、皇女様。既にアンタは『掌握』されていたってわけだ」

「な、なっ、な……、」

「さて、大量殺人未遂犯として逮捕したい所だけど、生憎、私にはそんな力も権限も無いのでな。手短に言わせてもらうけど」

「こ、殺せ! 今すぐこの女のの首を撥ねろ‼‼」

 

 命令を受けた衛兵が切りかかるも、首を落とす寸前に雲川の姿が掻き消える。

 

「ッッッ‼⁉⁇」

「学園都市としては、パーパルディア皇国と友好的な関係を築きたかった」

 

 レミールの後方から、声が聞こえた。

 

「しかし、そちらがそのような対応をするのであれば致し方ない。何の罪も無い観光客を殺害しようとする貴国とは良好な関係は期待できないからな」

 

 近代魔法でも成しえない瞬間移動(テレポート)

 そんな皇国外務局員の動揺を無視して、雲川芹亜は続ける。

 

「武力には頼りたくなかったが、現状を放置すれば、学園都市の人間も含めた多くの人々が犠牲になることだろう。その際に振えるにも関わらず、武力を用いず静観するのは正しいのだろうか」

 

 大義名分は得た。

 ならば、後は宣言するだけだ。

 

「よって、我々学園都市は、貴国パーパルディア皇国に対して宣戦布告を行う」

 

 

 直後。

 雲川芹亜は会談室から、完全に姿を消した。

 呆然とするレミールを、会議室へ置き去りにしたままに。

 




次回、戦闘回です
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