とある転移の学園都市   作:Natrium

13 / 37
第十三話 何処にでも居る平凡な Hero_Who_Are_Everywhere

 

 フェン王国、ニシノミヤコ郊外、野戦陣地

 

 パーパルディア皇国軍の陸将ドルボは、突然鳴り響いた爆音に驚いていた。

「何事だ‼まだ何処かにフェン王国軍の残党が隠れていたというのか⁉」

 かなり野戦陣地に近い場所で発生した爆発は、ここからでも確認できるほど大きいものであった。

「襲撃のようです‼クソッ、見張りは何をしていた‼⁉」

 一息付いていた陸戦隊員に、急ぎ装備を整えさせ、戦場へ送り出した、が。

「………、」

 ドルボの表情は晴れない。

(今の爆発……皇軍のものでは無いな。なら、あの色とりどりの煙は一体何だというのだ……)

「何も起こらなければいいが……」

 

 陸将の呟きは、風に吹き流された。

 

 

 

 

 2

 

 幻想殺しの力を持つ少年、上条当麻は、学園都市観光客が囚われたという場所へ急行していた。

「クッソ、まだ殺されていなければいいが……」

 周囲を見渡してみると、他にも大勢の人間が観光客を助けようと動いているようだった。

 初め、上条は『人的資源』のように乱戦状態に陥ることを警戒していたが、どうやら今回は様子が違うようだった。

 (全員、無事でいてくれよ)

 幻想殺しは何の変哲もない銃器にはめっぽう弱い。

 だが、だからといって上条当麻が行動を起こさないという訳ではない。

 上条当麻が上条当麻である所以は恐らくそこにある。

「だったら派手に動いてこっちに注意を向けるべきか。奴らも戦闘が起こっている最中に処刑なんてできないだろうしな!」

「おう、やっぱりアンタ、いい根性してるぜ」

 近くに誰も居ないかったはずだが、突然声が響いた。

 それもその筈、彼は上条との間にあった数十メートルの距離を、一蹴りで詰めて現れたのだから。

「これは俺も根性入れなおさないとな!」

 

 ———直後、派手な爆発が起こった。

 第七位の超能力者が気合を入れた瞬間、後方からカラフルな煙が噴出したのだ。

 

「よっしゃ、行くぞカミジョー‼」

「ちょ、おま、ヤメ——

 

 ドガッッッ‼‼と。

 上条を片腕に抱えた削板が勢いよく地面を蹴り、野戦陣地へ突撃する。

 僅か数歩で陣地へ突入した削板は、上条を着地させて叫ぶ。

「すごいパーンチ‼」

 その言葉と同時に前方のパーパルディア兵がまとめて吹き飛んだ。

 マスケット銃を構える暇もなく、一方的に蹂躙された。

「な、なんだ貴様は‼⁉」

 突然、理不尽に晒された兵士の一人が叫んだ。

「オレは削板軍覇だ。ここに根性が無い奴らがいると聞いてな。一発ぶん殴りに来てやった!」

「はあ?テメエふざけてん——

「すごいパーンチ‼」

 再びパーパルディアの兵士が吹き飛ぶ。

 周囲にまだ根性無しが残っている事を確認した削板は、振り返りながら告げる。

「ここはオレに任せて、先に行ってなカミジョー‼」

「っ!頼んだぞ‼」

 上条は再び走り出したが、その後ろからパーパルディア兵が追いかけようとする。

「待てっ、ここから先には行かさんぞ!」

 数名の兵士がマスケット銃の標準を上条に合わせ、発砲しようとするも、

「後ろから狙い撃ちするとは、根性入ってねえな!」

 やはり、ナンバーセブンに吹き飛ばされる。

 よって。

 

「ちっ、コイツから先に始末しろ! 魔法使いか何かは知らんが、銃弾を受けて死なない人間はいねぇ‼‼」

「何処からでもかかってきやがれ! その腐った性根叩き直してやるからよ‼‼」

 

 パーパルディア皇国軍と削板軍覇。

 二つの勢力の戦闘が開始された。

 

 

 

 

 3

 

 フェン王国上空を黒い物体が飛行していた。

 

 御坂美琴と食蜂操祈。

 『対魔術式駆動鎧』を身にまとった二人はニシノミヤコへと向かっていた。

 

「ったく、世界が丸ごと変わったってのに、あの馬鹿は何も変わらない訳ね!」

「御坂さん、怒りすぎてまた鼻血力が溢れちゃってるケドぉ」

「うっさいな汁能力、そもそもアンタどっから湧いてきた!」

「前は御坂さんの方から付いてきたのに、自分がやられて文句をいうのは筋違いだと思うけどぉ。あと、私はまだ数えているからな」

 いつか必ず御坂さんに変態ダンスを!と意気込む第五位を無視して、御坂美琴はA.A.A.の操縦に戻る、が。

「え?」

 突然、目の前に非常にファンタジーしている異世界的な生物が現れた。

 具体的に言えばワイバーン。パーパルディア皇国軍の飛龍部隊が、我が物顔で上空を陣取っていたのだ。

「またこのパターンか⁉」

 だが、何度も同じ失敗をする御坂美琴ではない。イギリスでの経験は無駄にするわけにはいかなかったのだ。

 ギリギリのところで旋回、辛うじて直撃は免れた。

 しかし。

 

「みさっか、すわぁんまた墜落してるって‼⁉」

「ならアンタがやってみなさいよ‼これでも直撃しなかった分だけマシなんだから‼‼」

 

 二人のヒロインは偶然にも、騒ぎの中心地へと落下していく。

 

 あるいは。

 そういった人間のことを『ヒーロー』と呼ぶのかもしれない。

 

 

 

 

 4

 

 上条当麻は魔法使いの集団と戦闘を行っていた。

 途中、何度も銃をもった敵兵と遭遇したが、周囲に見える人数だけでも百二十人。それだけの数のヒーローが存在しているのだ。即興でも、互いの弱点を補いながら戦うことは造作もない。

 

 不意に放たれた銃弾を、黒髪ロングの美少女が光剣で叩き落とし、

 突然現れた敵の集団を、拡声器を持った女性が音圧で吹き飛ばす。

 

 もちろん、上条当麻も黙って見ていた訳ではない。

 

 リロードの瞬間を狙われた、ピンクずくめの幼女に迫る炎弾を弾き飛ばし、

 魔力切れで倒れ伏していた、頭のおかしい魔法少女への攻撃を打ち消した。

 

 ヒーローにも弱点というものはある。

 だが、互いにそれを補い合った彼らに、果たして勝てる存在がいるのだろうか。

 相性によっては、優勢に戦える場合もあるだろう。

 

 実際に、絶対防御を身に纏い戦場を駆けまわっていた『白』に対して集中砲火を行った魔法師部隊は、偶然にも撃墜に成功した。魔法攻撃には極めて弱かったのか、一方的な攻撃を行え、撃破に至る寸前だった。

 しかし。

 そこに上条当麻が介入した直後、状況が一変した。

 

 無数に迫る風の刃の一部を消滅させ、安全地帯を作り上げる。

 突進防御用に生み出された土壁を真正面から叩き壊し、魔法使いに肉薄する。

 

 魔法使いにとって、幻想殺しとの相性は最悪と言っていい。

 わずか二分で十数名程の魔法使いが脱落した。既に戦力は半減している。しかし、逃げ帰る訳にもいかない。たった一人の人間に誇り高き宮廷魔導士が壊滅させられるなど、彼らのプライドが許さなかった。

「クソ野郎が、これでもくらいやがれ‼‼」

 十人の魔法使いによって生み出された大規模魔法が上条当麻に迫る。

 すると、上条は身をひねり、火焔弾の下から突き上げるように右手を動かした。

 

 消去と干渉。二つの能力を使い分け、上条当麻は危険を回避していく。

 

 上方に大きく逸れた火焔をくぐり抜け、一人ひとり着実に敵を沈める。

 戦闘時間はおよそ五分。

 せめてもの足掻きと、最期に残った魔法使いが叫ぶ。

「化物め‼‼何故こうも一方的な戦いになるのだ!我々は世界四位の列強、誇り高きパーパr

「そんなつまんねぇ幻想は、俺達が跡形もなくぶち壊してやる‼‼」

 

 見事なまでのクリーンヒットだった。

 顔面を強固に打ち付けられた魔法使いの意識は、完全に途絶えた。

 

 

 

 

 5

 

 パーパルディア皇国軍兵士は困惑していた。

 ―――目の前に居る人間は、果たして本当に人間なのだろうか?

 そんな疑問が噴出するほどに、その人物の理解ができなかった。

 なぜなら。

 

「お前今絶対当たっただろ!今、絶対弾丸当たったって‼‼何ピンピンしてんだよぶっ倒れろよこの野郎何で死なねえんだ‼⁉」

「はっはー、根性だよ、根性‼」

「それ以外にもなんかあんだろ‼」

「強いて挙げれば学園都市の超能力者の一人、七人の内の七番目、ナンバーセブンの削板軍覇という事もある訳だが、そんなのは些細な事だ。———今ここで論じるべきは、このオレの中には怒涛の如く煮えたぎる根性が満ち溢れているという事だーっ‼」

 両手を大きく広げ、背中を弓のようにそらし、天に向かって吠えるように宣言する削板もしくは根性さん。どういう理論か知らないが、彼の背後がドバーン‼と爆発して赤青黄色のカラフルな煙が出てきて、非常に目立っている。それが、人質救出に一役買っているのだが、それはともかく。

「些細な事じゃねぇ‼‼絶対そっちが理由だろうが根性馬鹿‼‼」

「だァァァらっしゃァァああああああああああああああああああああああああ‼」

 突如ぶちキレたナンバーセブンが叫んだ瞬間、彼を中心に変な爆発が巻き起こった。バウーン‼というトクサツ的な効果音と共に薙ぎ倒される悪党たち。

「根性を馬鹿にしたなァァああああ‼‼もう許さん!本物の根性というものを今から思う存分見せつけてくれるわーっ‼」

 ……勝手にテンション高くなっている所申し訳ないのだが、既にさっきの一発で周辺の兵士は軒並みノックアウト状態。先ほどの兵士に追撃を加えるのであれば、どっちが悪党か分からなくなってしまう事態必至である。そもそも、彼は根性自体を馬鹿にした訳ではないのだが、削板軍覇という人間は少々残念なところが多いので仕方がなかった。

 

「全員で囲んで撃てェェええええ‼‼‼」

 もはや、指揮官もかなり必死だった。よりにもよってこんなフザケタ奴に妨害されて作戦が失敗するなど、許せるはずなかった。

 しかし、削板軍覇にダメージが通った様子はない。

「だから、何で生きてるんだよ⁉根性以外でちゃんと説明し」

「すごいパーンチ」

「人の話を聞けよこの野ブギュルワ⁉」

 駒の様に高速回転しながら飛んでいく指揮官氏。はれて高速回転ニキでびゅーとなった。

 ナンバーセブンと二代目右方のなんとかさんとの間には十メートル以上の距離があったはずなのだが、お構いなしのクリーンヒットであった。

「……ちょ、げふっ。なに……今のナニ……?」

「んっふっふーん。これぞ学園都市第七位の真骨頂。体の前にあえて不安定な念動力の壁を作り、それを自らの拳で刺激を与えて壊す事によって、爆発の余波を遠距離まで飛ばす必殺技。念動砲弾とはこの事だァァあああああああああああああああ‼」

 ドバーン‼と一般公開される新事実。

 しかし。

「まぁ、原谷っていう賢そうなインテリちゃんに全否定されたがな。どういう理屈で何が出たのかは知らんが、恐らくは、このオレの溢れんばかりの根性パワーを砲弾として撃ち出す必殺技だとみたァァああああああああああああ‼」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおぅい‼アバウト‼必殺技の取り扱いがすごく大雑把‼そんなんで倒されるほうの身にもなってみろテメェちくしょう‼」

「すごいパーンチ」

「一発目と何も変わらブルゥヘ⁉」

 ぐるぐるぐるぐるーっ、と回転しながら吹っ飛ぶ指揮官改めモツ鍋さん(仮)。

 モツ鍋さんはこんなお祭り野郎に負かされるのだけは死んでも嫌なようだが、物理的なダメージはどうしようもない。立ち上がろうとするのだが、両足がガクガクと震えるだけで、それも敵わないようだ。

「くっ、ナンバーセブンとか言ったか……貴様もやるようだな」

 戦う事はおろか、逃げるだけの体力も残されていない二代目さん。

 彼も己の末路を理解したのか、やがて削板の顔を見上げてこう言った。

「……一つだけ良いか」

 ふっ、と。悪党とは思えない程純粋な笑みを浮かべた男は、

「せめて、最期はとびっきりの一発で決めてくれ。すごいパンチとか超おざなりなヤツじゃなくて、ぶっ飛ばされるなりに意義があったと感じられるような、正真正銘の一撃をな」

 それを聞いて、ナンバーセブンは静かに頷いた。

 彼はゆっくりと拳を握り、すぅ、と息を吐きながら、

 ———否。

「すごいパーンチ」

「だからそれやめろっつっただろうがビブルチ⁉」

 

 ———こうして、とある一部隊は壊滅した。

 パーパルディア皇国軍にとって非常に不本意な形で。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。