とある転移の学園都市 作:Natrium
1
竜騎士長ジェアールは百三十のワイバーンロードと共に陸戦隊の陣地へと向かっていた。
『もうすぐ、野戦陣地へ到達します。いかがなさいますか?』
副官からジェアールに通信が入る。
「ふむ、敵軍のワイバーン部隊は壊滅したはずだ。多少は残っているかもしれんが無視していい。ならば、分隊ごとに散開して攻撃を行え。一騎も墜とされることはないだろうが、警戒を怠るなよ」
『了解!』
ワイバーンロードは、通常のワイバーンの五倍ほどの戦力を持つ。そう簡単に墜とされる心配はない。
(フェン王国軍め……一体何処に隠れていた? 陸戦隊が援軍要請する程の戦力ならば、今まで温存していた理由が分からんぞ……)
ジェアールは思考を続けようとするも、部下からの報告が入る。
『報告します! 前方に未確認騎を確認。数は一騎で、偵察用かと思われます…が……』
「どうした?」
『それが、とても飛龍のようには見えなくて……。どちらかと言うと虫——白い昆虫のような生物が……』
「虫だと? ワイバーン程のか?」
『ええ、非常に大きな昆虫——あっ、竜騎士の姿が見えません。どうやら野生生物のようです』
「そうか、向こうから仕掛けて来なければ無視していい。邪魔するようなら排除しろ、いいな?」
『了解しました』
部下との通信が切れる。
(巨大な昆虫か、案外世界も広いものだ。まだ、そんな生物が存在していたとはな。航空戦力としての転用も可能かもしれんが……あまり虫には乗りたくないものだな)
竜騎士長ジェアールは知る由もなかった。
———部隊の正面に陣取った、一匹のカブトムシの正体を。
2
竜母艦隊は混乱に陥っていた。
———飛龍部隊、壊滅。
その言葉と同時に、部隊との交信が途絶えた。
「まもなく出撃可能で——
「今すぐに飛ばせ‼ 皇軍に泥を付けた野郎を叩き潰してやれ‼‼」
激怒したメドロの命令によって、先ほどの倍以上、約三百騎のワイバーンロードが飛び立つ。
「ちっ、何をしたのかは知らんが、舐めやがって‼」
ある程度叫んで冷静になったのか、メドロは状況を分析し始める。
(フェン王国にワイバーンロードに勝てる兵器など存在しなかったはずだ。学園都市の可能性もあるが……流石に百三十騎ものワイバーンロードを瞬殺できるとは考えづらい。なら、伝説級の飛龍でも出たのか? まさか、有り得ない。しかし———)
メドロが思考の海に潜っていると、第二次攻撃隊から通信が入った。
『目標空域に未確認騎を発見しました。いえ、訂正します、目標空域に巨大な昆虫を一匹発見しました』
「飛龍でも飛行機械でもないのか?」
『はい、あの虫が部隊を壊滅させたとは考えにくいですが……撃墜しますか?』
「あぁ、念のために墜としておけ。あらゆる可能性を考えておきたい」
『そうですか、了解しま——なっ⁉ 増えただと‼⁉』
「おい、何があった‼」
『分裂しました! 例の昆虫が‼ 数が五匹に——』
第二次攻撃隊への悲劇は続く
『ッ⁉、砲撃‼⁉ くそ、十騎も墜とされた‼』
「何だと‼⁉」
『まずい、速すぎる! 総員一斉射撃だ‼ 何としてでも奴をビギュグ』
——爆音と共に、通信が途絶した。
3
「隊長‼‼」
竜騎士ハーレイは墜落してゆく隊長を見て叫んだ。
直撃こそしなかったものの、この高さから落ちて助かる人間はいない。
「畜生っ、虫野郎が‼‼」
ワイバーンロードが一斉に顎を開き、
「隊長の仇だ! 撃てェェえええええ‼」
号令と共に五匹のカブトムシに炎弾が撃ち出され、
ゴッッッばっっっ‼‼ と。
三百の火炎弾が連鎖的に爆発した。
———回避など、許さなかった。
「へっ、ざまぁ見ろ。わざわざ歯向かわなければ見逃して——
『あまり、舐めてもらっては困りますね』
聞こえるはずのない声が、黒煙の中から響いた。
煙が晴れるとそこには、多数の昆虫を従える一匹のカブトムシがいた。
——攻撃を受ける前と変わらず、傷一つない姿で。
「きっ、効いてないのかっ‼⁉」
竜騎士の叫びを無視して、カブトムシは宣告する。
『殺しはしません。ですが、少々痛い目には遭ってもらいます』
目の前の、主人格とも呼べるカブトムシの表面がひび割れていく。
だがそれは、ダメージが蓄積したことによるものではない。
パキンッ! と。
カブトムシの外殻を割るようにして、中から一人の人間が現れる。
『さて、私の未元物質はこの新世界で、どこまで通用するのでしょうか?』
第二位の超能力者、垣根帝督。
世界中の軍隊を一人で相手取る程の実力者が、皇国軍へ牙を剥いた。
4
パーパルディア皇国、皇軍の戦列艦百八十隻を含む二百八十隻の大艦隊は野戦陣地への援護を行うため、全速力で移動していた。
「襲撃か……。陸戦隊は一体何をやっていたのか」
「全くですね。蛮族相手に後れを取るとは、皇国軍の面汚しですよ」
「まあ良い。多少味方に被害が出ても構わん。敵艦隊を撃沈した後は、艦砲射撃で敵軍を一掃しろ」
「はっ、了解しました!」
陸戦隊と同行していた砲艦二十隻は、既に沈められたと聞く。
敵は陸上戦力だったと通信が入っているが、それなら船が沈められるはずがない。
敵艦隊が近くに存在していると考えるべきだろう。
(まあ、我々の敵ではないだろうがな。百八十もの戦列艦に対抗できる軍隊など、列強以外に存在するはず——)
突如。
ゴバッッ‼‼ と。
将軍シウスの思考を遮るように、船が大きな衝撃波を受けて傾いた。
「っ⁉ 何が起きた‼」
「分かりません! ただ、他の船も同様に傾いているようですが……」
「索敵班! 状況を報告しろ‼‼」
慌ただしくなった艦橋に、熟練の見張員からの報告が入る。
「三時の方向! っ⁉ 何かが見えます‼」
「なっ‼⁉」
そこには、一人の人間がいた。
正確に言えば。
全身を白系統の服装で固めた少年が、同じく純白の翼を携えて宙に浮かんでいた。
「馬鹿な……有り得ん‼⁉」
シウスは狼狽した。基本的にこの世界には自力で飛行可能な人間や亜人はいない。
だが、過去にはそれが可能な種族が一つだけ存在していたはずだ。
「光翼人⁉ まさか、古の魔法帝国が復活したとでも言うのか‼⁉」
実体を持たない光翼を持つとされるヒトの上位種。
膨大な魔力を持ち、世界を征服していたとされる神話の時代の種族。
それが存在しているとなれば、ラヴァーナル帝国が復活したということになる。
「今すぐ本国へ報告しろ‼ 皇国の——いや、世界の危機だ‼‼ 各艦、全力で砲撃を行え‼‼ 絶対に奴を逃がすな‼」
「それだと、射線上の味方艦を巻き込んでし———
「いいから撃てぇぇええええ‼‼‼」
「っ⁉ 了解‼」
しかし、その悪魔のような命令が実行されることはなかった。
ザザザザザッ‼‼ と。
無秩序に揺らめく海流のベクトルが収束してゆく。
ちょうど、艦隊の中央を終点とした巨大な渦を描くかのように。
「なんだコレは⁉ どうなっている‼⁉ ラヴァーナルの魔法か‼⁉」
「将軍、今すぐ退艦しましょう! このままじゃ飲み込まれます‼‼」
「馬鹿者‼ それこそ巻き込まれるぞ、泳いで脱出できるものか⁉」
「しかし、このままでは‼‼」
直径一キロメートル超えの超大型渦潮。
現代の艦船でもバラバラに砕かれる程の威力を誇る災害に、十八世紀の木造艦が抗えるはずがない。
「こんな……こんな現実があってたまるかぁぁぁぁ‼‼」
将軍シウスの魂の叫びは渦へと飲み込まれ、跡形もなく粉砕された。
5
また一人、竜騎士が墜落してゆく。
邂逅から十分。
既に竜騎士の半分は墜とされた。
しかも。
「ああああああああああああ‼‼ わ、なっ‼⁉ あぇ……?」
敵はわざわざこちらの竜騎士を拾っているのだ。
現在の死者は双方ともにゼロ。
敵方に一切の被害はなく、
味方は一方的に墜とされ、救出される。
通常、こんなことは有り得ない。
列強と文明圏外との空戦でも僅かながら被害が出るというのに、それが無い。
相手は一人。
先ほどまで引き連れていた虫は、低空を飛行して脱落者の救出を行っている。
明らかな手加減。その上での蹂躙。
「ッ———‼⁉」
言葉すら出なかった。
はらわたが煮えくり返っているというのに報復すらできない。
それは列強のプライドを酷く傷つけた。
(ッ、殺してやる‼‼‼)
一個小隊が連なって突撃する。
旋回、竜騎士の上空に移動した垣根が六枚の白翼を振り回す。
「クソッッ‼」
十人の竜騎士が同時に叩き落され、カブトムシに回収される。
直後、鮮血が撒き散った。
騎乗者を失い混乱したワイバーンロードが垣根の攻撃を受けて肉片と化したのだ。
圧倒的な実力差ではない。
言うならば絶対的。
比べるのもおこがましい程の実力差。
皇国軍の優秀な竜騎士が次々と撃墜されてゆく。
数匹の飛龍が火炎弾を撃ち出す。
それに対して垣根は防御すらせず強引に突破し竜騎士へと肉薄する。
「いい加減に墜ちろォォおおおおお‼‼‼」
「遅いですよ」
……自滅覚悟で突進攻撃を敢行した竜騎士も、超音速で背後へ回り込まれて攻撃を受ける。
ザザ。
……逃走を試み……龍が殺人光……焼き払わ……消し……化す。
ジジジ。
……性質……み替えら……風が竜騎士へと襲……かる。
ザザザガリガリ。
……白翼……高速で撃……し、飛……肉体を削り……。
じじざざじ‼
……移動……発生する衝撃波……壊を撒き……す。
ガリガリガリガリガリガリ‼
……一瞬……倍に伸びた翼が…騎……き墜と…。
ざざざガガがりがりがりがりジジジジジジジざざざガリガリザザザザザザザザじじじじじじじじりじりざりざりガリガリガリガリじじじじじじざざざざざざがががががががががっっっ‼
戦いにすらなっていなかった。
あたかも雑草を刈り取っていくかのように一方的な破壊。
当初三百人もいた飛龍部隊も残り数人しか残っていない。
「ちくしょうっ、舐めやがって‼ 絶対にぶっ飛ばす‼‼」
「威勢がいいのは結構ですが、精神論だけでは私には勝てませんよ」
逆転の余地など無かった。
ズバッッッ‼‼ と。
烈風に煽られて墜落してゆく竜騎士を最後に、飛龍部隊は全滅した。
年内最後の更新になると思います。
正月休み明けから更新再開します、多分。