1
「うわぁ~、思ったより大変な事になってるわねコレ」
パーパルディア皇国の野戦陣地付近の森の外縁部に着弾した御坂美琴は、周囲の惨状を見て呟いた。
周辺には、捲れ上がる地盤に、薙ぎ倒された木々があった。A.A.A.の墜落に巻き込まれたためであるが、御坂の視線はそれらを一瞥することなく、一点に固定されていた。
そこには。
ディラックの海に干渉し、現実を思うように書き換える『
未来ガジェットを両手で繰り、時間の因果をも捻じ曲げた『
モノポールが利用されている巨大兵器に、『
眼球をモチーフとした螺旋くれた長剣を用いる、『
BCLラジオであるスカイセンサーを持つ、『
時間軸のセーブとロードを繰り返すことができる、『
数はたったの六人。
しかし、それだけでパーパルディア皇国の陸戦隊を一方的に壊滅させてゆく。
妄想により、魔法が存在しない世界へと、一時的に書き換えられる。
空を舞う直掩の飛龍部隊が、ビット粒子砲によって次々と撃ち落される。
竜騎士を失い、混乱する地竜を目掛けて、パイルバンカーが射出される
牽引式魔導砲から放たれた砲弾の軌道が反転し、砲撃主へ返還される。
輝くオーラを身に纏う少年に、皇国軍兵士がまとめて吹き飛ばされる。
皇国軍にとって都合の良い事が起これば、『なかったことに』される。
とても戦闘と呼べるものではなかった。
蹂躙。
この状況を示すのに、最も適した言葉がそれであろう。
戦力は十二分。これ以上増援が来れば、泣きっ面に対戦車ライフルが確定である。
よって。
「乗れ汁能力‼ ここは放置してサッサと先に行くわよ‼」
「おーけー御坂さぁん‼ ………だから、私はまだカウントしているからな?」
ガシャガシャガチャチャ‼ と。複雑に金属同士が噛み合う不気味な音が連続したかと思ったら、あっという間に翼を持った悪魔のようなシルエットの飛行機械が複数のロケットブースターを後方に流す、凶悪極まる大型バイクへと形を変えていったのだ。
地上を亜音速で駆け回る超大型二輪。天下の学園都市でも滅多に見かけない代物だが、どこぞの敏感体質、非常に見覚えがあった。
「み、御坂さん、ちょっとコレに乗るのは遠慮したいと言いますかぁ……」
「え、何だって?」
「絶対わざとでしょ御坂さぁん‼‼ 道が舗装されてない分、前回よりも振動力が強いと思うのだけど‼」
「ま、いっか。私一人でも何とかなるだろうし」
「抜け駆け! ここまで来て置いてけぼりにします御坂さぁん⁉ せめてもう少しサスペンションを増設していただけれb
「さて~出発出発」
「わかりましたぁ‼ 乗ります、我慢しますから折角のチャンスを奪わないでぇ‼‼」
数分間の微弱な刺激と引き換えに、上条へのアピールタイムを獲得した食蜂操祈。しかし、ここを逃せば次はいつになるか分からない。競争率は異常に高いのである。
「な、なら、出来るだけ安全運転でお願i
「ここ碌な道が無いから、あまり変わらないだろうし。ぶっ飛ばすわよ‼‼」
ガォン‼‼‼ と凶暴な振動が撒き散らされる。
ロケットブースターから爆炎が迸り、急激に加速される。
生い茂る雑草を巻き上げ、障害物を打ち砕き、上条の携帯の識別電波を目指して駆け抜ける。
が、やはり。
「御坂さんギブギブ‼ 振動以前に酔う、三半規管が限界寸前なんダゾ‼」
「そうは言うけど、アンタのその汁能力で三半規管のリンパ液操れないの?」
「だから汁って言うな‼ そもそも御坂さんは何故酔わないの⁉」
彼女たちが走行しているのは、舗装されていない剥き出しの地面である。ここはイギリスでも学園都市でもない、正真正銘のド田舎だ。チョットした段差どころではない。むしろ平面を探す方が難しいような、そんな場所である。
それなのに——
「………いいえ、思考を止めてはダメよ食蜂操祈前回と同じくトリックがあるはずはんダゾ。そうよそうだわ御坂さん電磁波で周囲の様子が見えるとか何とか嘯いていなかったかしらぁ⁉」
「(チッ、バレたか。だが何もできまい)」
「そうよ三半規管の情報とのズレが問題なら、視覚力以外から情報を入手すればいいだけの話。軍事レーダー少女御坂さんちょっとその観測データお裾分けしてぇ? 具体的にはその電磁バリア取っ払って心を覗かせて欲しいのだけどぉ⁉」
「何させられるか分かったもんじゃないから却下。アンタが酔っても私は困らないし」
「御坂さんの薄情者ぉーっ‼ こ、こうなったら私も最終兵器を使うしかないのかしらぁ……?」
何か不穏な呟きを漏らす食蜂だったが、当然、目の前で運転をしている御坂には丸聞こえである。
「ほう、言ってみなさい食蜂。もし私の友達に手を出すとか言うなら、容赦しないけど」
車酔いで女王としての皮が剝がれてきた食蜂の答えは果たして。
まもなく答え合わせの時間が来る。
食蜂は咳ばらいをしながら、堂々とした表情で口を開いた。
「能力で右腕の動きを封じた上で、上条さんの口から貧ny
言葉など必要なかった。
ズバシッィィイ‼‼‼ と、御坂の体から雷撃が迸り、下手人の口を封じ込める。
気絶などさせない。一撃で仕留めては罰にはならないのだから。
余計な事を口走った黒焦げお嬢様は呼吸困難になりながらも呟く。
「が、は、ちょ、ちょっと御坂さん、今のは流石に強すぎると思うのダ、ゾ……」
「ふ~ん、全然反省の色が見えないのだけれど。もういっぺん喰らってみる?」
「ま、待って御坂さん、そもそも御坂さんが話せって言ったからぁ!」
「へぇ、そんな口を利けるとは、まだまだ余裕そうねアンタは‼」
そんなこんなで第二段である。
ズバッチュン‼‼‼ と、再び電撃姫が女王蜂へと自慢の能力を叩き込んだ。
「あーっ、あー痛い痛いけど御坂さん待って、これ以上されたら何かに目覚めちゃうかも‼ そうなったらあの人に顔向けできない‼」
「それは私にとっては好都合だぁぁぁ‼‼」
ビリバリバチビシィ‼‼ と。
直後に、近代的な英知の音が連続した。
2
バン‼ と旧式のマスケット銃が炸裂する。
上条当麻は至近距離で放たれた銃弾に肝を冷やした。
幸いにも上条を狙ったものではなかったが、いつまでもその幸運が続くとは限らない。
幻想殺しは何の変哲もない弾丸には滅法弱いのだ。
(後はアイツらをぶん殴れば、人質を解放できそうだが——)
とは言え、敵は通常兵器を扱う軍人である。いくら上条であろうとも、右腕が通用しない銃には足が震えてしまう。
すぅ、と深呼吸をしてから、
ダン‼ と。
上条は保管庫の陰から、収容区画への道を監視している兵士へと一直線に踏み込んだ。
「う、動くな、何者だ‼」
「馬鹿‼ 構うな、そのまま撃てぇ‼‼」
皇国軍兵士が手持ちの銃の引き金に指をかけ、上条へとその照準を向ける。
「ッ‼」
本来、異能以外には何の効果もない右腕だけで、銃弾の雨に対処することは不可能であっただろう。
そんなことは長年右腕と連れ添ってきた、上条自身が一番理解している。
しかし、上条は銃口が迫っても獰猛な笑みを浮かべたままだった。
皇国兵士がその表情に疑問を覚えると同時に、上条は学ランの左ポケットから、とある鹵獲品を取り出した。
「っ⁉ 魔石だと⁉ 馬鹿な、儀式魔法か‼⁉⁇」
一瞬、緑色の魔石に気を取られた隊長であったが、
(いや、あれは高火力だが瞬時に使える代物ではない。なら——クソ、ハッタリか‼)
隊長は舌打ちをしながらも無慈悲に宣告する。
「迷うな‼ 総員、一斉射撃‼‼」
ダダダンッ‼ と。
数十にも及ぶ死の弾丸が、上条へと襲い掛かる。
対して、上条が取った行動は簡単だった。
魔石を右手に持ち替えて、握りつぶす。
幻想殺しは弾丸を消し去ることはできないが、異能に対しては絶大な威力を誇る。
そう、魔法的エネルギーを溜め込む性質を持つ、天然の魔石であってもだ。
直後のことだった。
蓋の役割を果たしていた外殻が破損し、莫大なエネルギーが魔法現象となり解き放たれた。
烈風。
そんな言葉では済まない威力の風が、皇国兵士へ牙を剥く。
「ち、くしょう‼ どうなっていやがる‼‼」
風圧をモロに受けた兵士の体が浮き、そのまま数十メートル以上吹き飛ばされる。
派遣部隊の中で最強の称号をほしいままにする、オスカーの魔法よりなお速い。
そんな暴風に耐えられる人間がいる筈はなく、一小隊は呆気なく全滅した。
しかし、敵陣でそんな大魔法を発動させてしまえば、目立たないはずがない。
バタバタバタ、と別の部隊が応援に駆け付ける。
「ルイエル隊長‼ チッ、貴様、魔法使いか‼」
「クソ、次から次へと‼」
改めて、別の魔石を左手に取る上条であったが、
「下がっていろ。ここは私が片付ける」
声が聞こえた。
今まで姿が見えなかったのに、その人物は突然目の前に現れた。
「我が名はノア・レイフォード。オスカーが世話になったようだな、少年よ」
明らかに強者の匂いがする壮年だった。
蒼く輝く長剣を持つ、聖騎士という装いの団長は凄みの効いた声で告げる。
「黒髪黒目で、ツンツン頭の少年。その妙な服装も目撃証言がある。貴様がオスカーを打ち破ったのだろう?」
「そうだと言えば、どうするんだ」
「別にどうもせんよ。ただ、興味が沸いただけだ、奴を倒す程の実力者にな」
「……、」
「貴様を殺したところで敗戦への流れは変わらんだろうが、逆説的に言えば人生最後の戦争だ。私の好きにさせてもらおう」
「アンタ、ここで死ぬつもりなのか‼」
「昨今の戦争はつまらないものばかりだった。ならば、ここで死ぬのも本望というものよ‼‼」
疾ッッッ‼ と。
初手から騎士団長は亜音速で大地を駆った。
「ッッッ‼‼‼」
上条はノアが地面に力をかけたのを見て、反射的に行動を取っていた。
ゴバッッと、上条が握りしめたオレンジ色の魔石から、岩石が津波のようにあふれ出す。
反動に耐える上条だったが、騎士団長の長剣の光が、青から赤に変色するのを見て、流されるように後ろに跳んだ。
直後、騎士団長の剣が直撃し、大量に撒き散らされた岩石が砕け散った。
「な⁉」
「この程度で私の歩みを止められるとでも思うたか」
騎士団長は上条が立っている土煙漂う空間へと突撃する。
「っ」
しかし、第六感に従って後方へ跳び下がった。
長年の感というのも、案外当てになるものだ。
なぜならば。
ゴウッッ‼‼ と。
別の魔石から生じた烈風が、小さくなった岩石を纏めて吹き飛ばしたのだから。
大半の破片は剣で砕いたが、ノアは右頬に鋭い痛みを感じた。砕けなかった石礫の一部が、騎士団長の頬を擦過したのだ。
上条自身、魔法を使うことは右腕の性質上初めてだったが、神話クラスの魔術師を散々相手してきたのだ。即興でも——と言ってもメイザースの受け売りだが——これくらいは出来る。
「ちっ、貴様には魔石から直接エネルギーを絞り出す力があるようだな。なるほど、オスカーが敗北したのも頷ける」
「……、」
何とも言えなかった。
情報が正しく伝わっていないのは幸いだが、単純な物理攻撃を軸に据える相手との相性は解決していない。
(いや、本当にただの物理攻撃なのか? そう言えば、岩を切ったときに妙な発光を——)
しかし、思考する時間など与えてくれる相手ではなかった。
騎士団長は既に突撃体勢を整えている。
第二波が来る、瞬時にそう判断した上条は懐へ手を伸ばし、魔石を構え直す。
「ハアッ‼‼」
ゴウン‼ と大地が揺れ、ノアの体が大きく加速する。
対する上条は青い魔石の外殻を破壊し、高波を発生させた。
高波はノアを飲み込み、そのまま押し流そうとしたが、
「《属性切替:滅》」
その言葉と共に刀身が紅色に染まり、迫る奔流を切り払った。
いや、切るという言葉は正しくないのかもしれない。明らかに質量が減少しているのだから。
正確に言うなら。
「魔法が消滅した⁉ その剣の力か‼⁉」
「如何にも。ただ、見破った所で即座に対策を用意できるとは思わんがな、魔法使いよ」
続けさまに上条は、赤の魔石を砕いた。
出現するのは炎の壁。魔女狩りの王をも超える熱量が、騎士団長へ襲い掛かる。
今まで炎の魔石を使うことを躊躇っていた上条だったが、幻想殺しと同じ性質を持つ相手なら、生半可な攻撃では対処できないのだ。
しかし、だ。
「無駄だと言っている‼」
ノアが放った斬撃が炎の壁を吹き散らす。
やはり魔法現象である以上、魔を滅ぼす剣を持つノアには届かない。
だが、上条当麻も既に別の行動へ移している。
右手に持つのはオレンジの魔石。
そして。
轟ッッ‼ と再び発生した岩石が、ノアへ津波のように押し寄せる。
「チィッ、厄介な‼」
先の複合魔法を警戒した騎士団長は、全ての岩石を消し去ろうと大振りに長剣を振り回したが、ここで違和感が。
(風魔法が来ない⁉ クソ、小癪な真似を‼)
剣を大きく振るったために、隙が生まれてしまった騎士団長。
そこに、赤の魔石を握りしめた上条が強く踏み込む。
彼我の距離は二メートル。わざわざ範囲攻撃を放つ必要性は何処にもない。
破裂音が二つ響いた。
直後、かつてない規模の紅炎が上条の右掌から噴出する。
(畜生、捌き切れない‼ ならば‼)
ノアは愛剣に魔力を注ぎながら言う。
「《属性切替:疾》」
青い輝きを取り戻した長剣からエネルギーが逆流し、ノアの身体能力を大幅に強化する。
亜音速。
炎よりも素早く大地を駆け抜け、その猛威から逃れる。
しかし、強引に体を強化するのだ。当然、使用には代償が伴うため、そう何度も連発できる技ではない。
「ご、ぶ、《属性切替:斬》」
喉奥から迫る不快な感覚を飲み干しながら、ノアは即座に刀身の輝きを変化させる。
緑色の発光と共に、物理的な切断威力が上昇する。
今度は上条の方が肝を冷やす番だ。
ノアが虚空に向かって斬撃を放ったかと思えば、上条が立っている場所を目掛けて半月型の残像が飛んだのだ。
「っ⁉」
咄嗟に残留物質の陰に飛び込む上条。
恐る恐る振り向くと、直前まで上条がいた地面が真っ二つに割れていた。
しかし、上条が隠れている岩に傷が付いた様子はない。
どうやら何でも切り裂くという訳ではないらしく、魔法で生み出されたイレギュラーな物質には効果がないようだった。
ただ、安心するには早すぎる。
騎士団長の攻撃はまだ続いているのだから。
刀身が三度青く染まり、騎士団長が岩陰に隠れる上条へと突撃する。
対する上条はまだ体勢を崩したままである。一応迎撃を試みているが、無理な姿勢からでは大した魔法は放てないだろう。少なくともノアはそう判断した。
(勝負あったな)
ノアは余裕の表情で魔法を切り伏せて、勢いそのままに上条に肉薄する。
二段構えの魔法も、敷設された魔法陣も無い。
(奴は右腕を構えているが……、反射的な行動だろう、魔石も見当たらない。ならばそのまま叩き切るのみ‼‼)
そして、上条の右腕ごと首筋を切断するために長剣を振りかざし———
ピッ‼ と上条の体から血が飛び散った。
「は?」
困惑したような声が響く。
ただし、それは呆気なく切り殺されたはずの上条からではない。
むしろ、剣を振り切った状態で停止している騎士団長が漏らした声であった。
いや、その表現も間違っているのだろう。
騎士団長は現在、一本も剣を握っていないのだから。
「なん、だと……。何が、起きたというのだ」
完全に固まっているノアに向かって、右掌に若干の切り傷を負った上条は嘯く。
「アンタ、そもそもどういう理屈で俺が魔石から直接エネルギーを引き出せていると思ってんだ?」
「な、に?」
「魔石の力を引き出すだけなら魔法陣を描くだけでいい。だが、それが実現していないんだろ? 長期的な効果を期待した魔法陣ならともかく、瞬間火力を実現するための魔法陣ってのは」
「まさ、か」
「その理由は恐らく一つ。莫大なエネルギーを正確かつ安全に扱う方法が見つかっていないからだ。ならここで問題だ、俺はどうやってソイツを利用していると思う?」
「まさか‼ 有り得ない‼」
「答えは、幻想殺し。アンタの剣と同じ、異能を消し去る能力を持つ特別な右腕だよ」
「ッッ‼⁉」
「助かったよ。アンタが速度に物を言わせて攻撃してきたら、負けていたのは俺の方だったからな‼」
慌てて二本目の鉄剣を取り出し、上条から距離を取ったノアだったが、
一言。
たった一言で全てが決壊した。
「合わせろ御坂っ‼」
直後、騎士団長の全身が硬直した。
剣も両腕を振り上げたまま宙に固定されている。
磁力。
大型バイクで陣地を疾走していた第三位が、その超能力を解き放ったからだ。
「なっ‼⁉」
「歯を——食いしばりやがれ‼‼」
ドガァッッッ‼‼‼ と。
後方に炎を撒き散らしながら飛び上がった上条が、史上最高速度の裏拳を騎士団長に叩きつけた。
行間1
戦闘は呆気なく終了した。
派遣軍の実力者二名が敗北したことで、精神的な支柱を失った者が多かったのも関係しているだろう。
ここまでは前哨戦。
ようやく、パーパルディア皇国と学園都市との全面戦争が勃発する。
3
『——テメェらが、誰なのかは知らねぇ』
通信魔導具から声が響いていた。
『ただ、何の罪もない人を犠牲にしてまで戦争を続けようってんなら』
許せるはずもなかった。皇国をここまで愚弄できる人間がこの世に存在していることなど。
『まずはそのふざけた幻想を跡形もなくぶち壊す‼‼』
それと同時に魔道具にひびが入り、通信が途絶した。
「………………………………………………………………………………………………………」
静寂。
私は今そこまで恐ろしい表情をしているのだろうか。
分からない。今は怒りを抑えるのに精一杯なのだから。
「…滅…だ」
自然と声が出てしまった。
全員が全員、肩をビクリと振るわせている。
しかし、一度動いてしまった口はもう止まらない。
「学園都市に殲滅戦をしかけろ。一人の生存者も許すな、どれだけ金を使ってもいい。塵一つ残さず奴らを焼き尽くしてやれ」
静かな怒りだった。
自分でも驚くほど落ち着いた声であった。
人というものは怒りが一周するとこうなってしまうのか、と冷静に考えてしまう自分がいる。
ああ、考えが纏まらない。
奴らを残酷に処刑するためには何が必要だろうか。
それとも全員まとめてぶち殺してやろうか。
そんなことを考えながら、パタンと静かに扉を閉めて私は会談室の外に出た。
行間2
何にしても、この時の私は愚かだったのだろう。
この時、冷静に状況を判断していれば、奴らの力を正確に把握していたなら。
あんな事は起きなかったのに。
ああ。
あああああ。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ***いごめんなさいご*****ごめんなさいごめんなさいごめんな**********んなさいごめん**さいご**なさい***なさ********************(——略——)
———陛、下……(以下判別不能文字)
学園都市第二収監施設、一〇七号室にて発見された書状より引用
なお、しばらく上条の出番はない模様