とある転移の学園都市   作:Natrium

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第十九話 命の価値 Inequality_Exchange

パーパルディア皇国 第三艦隊所属 竜騎士団

「見えたぞ‼」

沈みゆく竜母からギリギリで脱出した三百の飛龍隊は、南の水平線に戦艦を確認した。

それには、前代未聞の大きさと速さがあり、彼らの緊張は頂点に達する。

敵艦は友軍から百キロメートル程離れているにも関わらず、砲撃によって友軍を沈めていく。

すでに自分たちの帰るべき竜母は撃沈されてしまった。

自分たちはワイバーンロードが力尽きた後、海上に着水するしかない。

(だからどうした。我々は誇り高き皇国軍兵士だろうが)

竜騎士団長ダイロスは覚悟を決める。

「全軍突撃‼ 皇国に唾を吐いた学園都市へ天誅を下してやれ‼‼」

「「「うおぉぉぉぉ‼‼」」」

最強の竜騎士団という自負を持つ彼らは、自分たちの勝利を疑うことなく、学園都市の戦艦へ突撃する。

直後の出来事だった。

突然、戦艦の煙突が爆発し、炎を吹き出す。

「っ、機関の異常か⁉ へ、身の丈に合わない兵器を使おうとするかr

否。

ズババババ‼‼ と。

HsBBY-01の煙突状上部構造物から対空ミサイルが八発撃ち出された。

それは垂直方向に撃ち出されたにも関わらず、進路を変えて、正確に竜騎士団のいる方向へ向かって来る。

「誘導魔光弾⁉ まさか、あれを実現できるはずが———

言葉は最後まで続かなかった。

当然だ、学園都市の対空ミサイルの速度はマッハ十五。旧世界の対空ミサイルの五倍の速度で標的を付け狙うのだ。学園都市の超音速機をも撃ち落せるだけの性能を持つミサイル相手では、未だ音速の域を出ないワイバーンなど話にならない。

近接信管が作動し、上空に花火が咲きほこる。直撃を受けた竜騎士は骨すら残らずに蒸発した。

(畜生、馬鹿げていやがる‼ だが、こちらには二百九十騎も残っている。必ず仕留められるはずだ‼‼)

 いくら天下の学園都市とは言え、戦艦から対空ミサイルを機関砲のように連射することは出来ない。そもそも三百騎もの大軍相手では、ミサイルの数が足りないだろう。

 

 もっとも、それは学園都市のミサイルと皇国のワイバーンが等価交換であればの話だが。

 

「っ⁉ どうした、何が起きている‼⁉」

竜騎士団長のダイロスは、不意に高度を落とし始めた竜騎士に叫んだ。

彼一人だけではない。あちらこちらで飛龍が高度を落として——いや、正確には違う。

 ワイバーンオーバーロードの翼は動いていない。そもそも、羽搏いていないのだ。

よくよく見てみると、背中の竜騎士も意識を失っているように見える。

「おい、どうした⁉ 死にたいのか、目を覚ませ‼‼」

その現象は、対空ミサイルが通過した辺りで発生していた。

マッハ十五。

それがもたらす衝撃波の威力の凄まじさは、わざわざ語るまでもない。

ミサイルの煽りを受けた数十騎の竜騎士が次々と落下していく。下は海であるが、この高度から墜落すれば命はない。

(く、学園都市め‼)

 団長は唇を噛みながら、全隊へ指示を出す。

「総員散開‼ 固まっていても魔光誘導弾の餌食になるだけだ、散開して各個攻撃に移れ‼‼」

「「「はっっ‼‼」」」

 竜騎士が各々散り、無秩序に広がっていく。

 咄嗟の判断で最適の行動を導き出せるあたりが、彼が騎士団長に抜擢された理由であろう。

 結果として、対空ミサイルによる被害は抑えられた。

 ミサイル一発につきおよそ三騎が犠牲になっているが、被害は先の半分ほどになっている。

「速すぎる、あんなものが避けられるか‼」

「クソっ、クソがっ‼」

竜騎士の様々な悲鳴が魔信から流れる。被害が減ったとは言え、大勢の竜騎士が犠牲になっていることには変わりない。

(だが、もう少しで‼‼)

残存部隊はおよそ百五十。距離は三分の一にまで詰めた。

敵の撃墜速度よりも、こちらの進撃速度の方が上回っている。

「行ける、行けるぞ‼‼ 仲間の恨みを晴らせ、奴らを血祭りにあげるのだ‼‼」

「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ‼‼‼‼」」」

先程よりも強く、大きく叫び声がこだました。

これなら勝てる、奴らを海の藻屑にしてやれる。

仲間の力強い叫びを聞いてダイロスはそう確信した。

(それにしてもムーの戦艦か。沈めるには惜しい、鹵獲出来るか……?)

勝利の予感からか、ダイロスは海戦の後のことを考えてしまった。

人は極度の緊張から緩和された時に、油断をしてしまう。それは並大抵の努力では避けられないため、彼が余計なことを考えてしまったのも仕方がないと言えよう。

例えそれが、致命的な一打を招いてしまったとしても。

一斉に。

一斉に、戦艦の側面にある小さな大砲が動き出した。

ダイロスは今まで、戦列艦の『それ』と同じものだと考えて警戒していなかった『それ』が。

即ち。

四連装高角速射光線砲塔。

通称、パルスレーザー砲。学園都市の戦艦の最終防衛システムである。

ズバチュッッ‼‼‼ と。

ダイロスの目の前を飛んでいた竜騎士の体に大穴が空き、墜落していく。

そしてそれは一人だけではない。

十、二十、三十、四十。

対空砲から大量の光線が撃ち出されるとともに、仲間が次々と落ちていく。

そしてそれらは一発たりとも外れる事無く、そして一発たりとも的が重複する事無く正確に竜騎士を次々と墜としていく。

「おのれ化け物めぇぇぇぇ‼‼‼」

なんという事だろうか。

我々は列強パーパルディア皇国の栄えある主力軍の中でも花形と言われる竜騎士団。一度飛び立てば、七つの軍を滅ぼすと言われ、恐れられた第三文明圏最強の部隊。

そんな飛龍が今、学園都市の攻撃によってハエのように落ちていく。

数多の戦場を共にした戦友が、厳しい訓練で苦楽を共にした仲間が、幼い頃からの親友が。彼らの人生の努力をあざ笑うかのように、命が失われていく。

バラバラになった血と肉が雨のように降っている。そこに、命の輝きはない。

「ち、くしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼‼」

次の瞬間、赤いレーザー光線が竜騎士団長ダイロスの体を大きく削ぎ落とし、空の彼方へと消え去った。


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