とある転移の学園都市   作:Natrium

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本日二話目


第二十話 終わることのない悲劇 Nightmare

1

「り、竜騎士団は全滅しました。敵艦に被害なし」

沈黙する艦橋、誰もが絶望し、為す術が無いと理解し始めていた。

「戦列艦マルタス、レジール、カミオ轟沈、ターラスに敵砲着弾……」

絶望的な通信士の声だけが、艦橋に響き続ける。

あの歴戦の獅子、第三艦隊提督アルカオンでさえ、額に汗を浮かべて沈黙している。

皇国の頭脳マータルの考えた作戦も、列強ムー相手ならば効果があっただろう。

しかし、百発百中の超長射程砲や一発で沈むほどの威力のある砲弾など、反則ではないか。

工夫次第でどうにかなるレベルを超えている。

敵の砲には——推定ではあるが——射程距離が八十キロ以上あり百発百中、かつ装填も速い。

皇国の魔導砲の射程距離まで近づこうと思ったら、最大船速でも二時間以上かかってしまう。

敵との相対速度を利用すれば、もっと早く到達できるだろうが、戦場で甘い期待をするべきではないだろう。

あんな正確な砲撃を二時間以上も避け続けるのは不可能だ。そもそも、後方へ下がりながら砲撃されれば、永遠と一方的に撃たれてしまう。

「……くそったれが」

アルカオンは覚悟を決める。

そもそも、皇国主力が皇都の目と鼻の先で、戦力を残して降伏や撤退が許されるはずなどない。

選択肢など無いに等しかった。

「全軍、進攻してきた学園都市海軍へ突撃せよ‼ 皇国海軍の意地を見せてやれ‼」

 

 各船に設置されている魔石が煌びやかに輝きだす。

 風神の涙により起こされた風を帆いっぱいに受け、第三艦隊は戦艦への突撃を開始した。

 2

「敵艦隊、密集陣形を取って本艦に突撃してきます」

 レーダーを担当している女性船務長が、観測データの報告を上げる。

「密集陣形か……好都合だ。第一戦速! 敵へ突っ込め‼」

「第一戦速‼ ヨーソロー!」

 学園都市の凶悪なエンジンが唸りを上げ、船体が急激に加速する。

「主砲、戻せ‼」

「はい、主砲、切り替え‼」

 砲身内に残っていた三式弾が取り除かれ、エネルギー伝達回路が開く。

「ショックカノン、エンジンからエネルギー伝導、終わる!」

「照準合わせ‼ 誤差修正マイナス1.3‼」

 高く仰角を取っていた主砲が動き、敵艦隊を真正面に捉える。

 ショックカノンはエネルギー兵器であるため、重力の影響を無視して発射することができるからだ。

「測的良し! 照準良し!」

「撃ち方、始めぇ‼」

 艦橋の後方に座している艦長が戦術長に砲撃の指示を出した。

 そして。

 

 ギュイィィィン‼‼‼ と。

 戦術長の号令と共に、HsBBY-01の主砲から陽電子の塊が撃ち出され、皇国の戦列艦に突き刺さる。

 先の三式弾と異なり一直線に飛ぶエネルギー兵器であるため、戦列艦ネパイラルを貫通した光線が、後続の戦列艦を貫いて吹き飛ばしていく。

 突撃のために密集陣形を取っていたことも、パーパルディア皇国の不幸に繋がっていた。

「両舷増速、黒二十!」

「増速! 黒二十‼」

 既に敵艦隊との距離は十キロを切っている。

敵戦列艦の最大射程は二キロ。まもなく砲撃が始まるだろう。

 だが、いくら砲撃したところで無意味だ。HsBBY-01には三段階の防衛システムが働いているのだから。

 第一に、パルスレーザーでの迎撃システム。

 第二に、魔導防壁。

大気中に存在している魔素を利用した斥力場を発生させることで、火炎弾を吹き散らし、砲弾内部の魔法火薬に影響を与えて自壊させる力を持つエネルギーバリアだ。

 

 そして最後に、『演算型・衝撃拡散性複合素材』で作られた複合装甲が待ち構えている。

 窓のないビルの外壁にも利用されているこの装甲は、一方通行が放った自転砲の衝撃すら相殺するほどの防御力を誇っている。

 

 これらの防壁は並大抵の兵器では突破できない。

 万が一の確率で攻撃が通っても、外壁内部に張り巡らされた管からバードライムが流れ出し、一瞬で穴を塞いでしまう。

 完全無欠の防衛システム。例え旧世界の大国でも、この戦艦を沈めることはできないだろう。

「全砲門、発射準備整った!」

「撃ち方始めぇ‼」

 

 Hard Science。

 その言葉を冠するだけで戦場に舞い戻った死神が、パーパルディア皇国軍に牙を剥く。

 

 

 

3

「っ、っ……」

 

 もはや声を出すことも出来なかった。

 敵戦艦が突撃してきたときは、馬鹿なことをするものだと嘲った。

 長距離砲の利点を殺してまで接近するなど、文明圏外の蛮族相手に、戦列艦で衝角戦を仕掛けるようなものだ。

 そう考えていた。 

 

 なのに。

 なのに‼

 

 こちらの攻撃は殆ど当たらない。速度が桁違いなのだ。

 最低でも六十ノットは出ている。

 そんなものにどうやって命中弾を出せというのだ。

 ようやく直撃コースに砲弾が乗ったかと思えば、戦艦に命中する前に不自然な爆発をする。

 馬鹿げている、正気の沙汰ではない。

 

 攻撃性能にしてもそうだ。

 青い光線は強烈な貫通能力を持ち、十数隻の戦列艦を一度に屠る。

 赤い光線は猛烈な連射性能を誇り、数十隻の戦列艦を一秒で穿つ。

 他には、誘導魔光弾や、水中誘導魔光弾もある。先の砲撃もそうだ。

 明らかに列強の領域を超えている。こんなものは神話クラスの戦いだ。

 

(相手は文明圏外国だろう‼⁉ ムーが技術支援しただけでは説明できないっ‼‼)

 

 提督のアルカオンは荒れる心を鎮めながらも思考する。

 その間にも、恐ろしい速度で味方の船が轟沈していく。

 

(有り得ない、有り得るはずがない‼⁉ 我が国は世界四位の列強だぞ‼)

 

 アルカオンは混乱し、艦隊に指示を出すことすら出来ない。

 いや、今更出しても無駄だろう、何処にも逃げ場はないのだから。

 

「て、提督、敵の主砲、我が艦に向きます‼‼」

「指示を、回避の指示を下さい‼‼」

「……だ」

 

 艦橋に幹部の怒号が響く。

 しかし、提督からの反応は薄い。

 

「ええい、提督はご乱心だ‼ 取り舵一杯‼‼」

「っ、了解‼‼」

 

 痺れを切らした艦長が部下に指示を出した。

 が、それは余りにも遅すぎた。

 敵戦艦の主砲に光が満ち始めているのが、艦橋からでもよく見える。

 

「来るぞ‼ 早く舵を回せ‼‼」

「馬鹿言うな、これ以上は無理だ‼‼」

「無理でもやれ‼ 今すぐにだ‼‼」

 騒がしくなる艦内。もはや収拾がつかない状態になっている。

「…駄だ、……な……よ」

「っ、提督、どうなされましたか‼⁉」

 

 小さく響いた声に、一人のクルーが反応した。

 起死回生のアイデアを閃いてくれたのかと、藁をも掴む気持ちだったのだろう。

 

「……、」

 

 しかし、提督は肩を震わせながら俯いている。

 

「てい、とく……?」

 そして、遂に戦艦の主砲が強く輝き、

「無駄なんだよ‼‼ 何をしても、どんなに足掻いても、アイツらには———魔法帝国の尖兵には敵わないんだよ‼‼‼‼‼」

 

 直後、第三艦隊の旗艦ディオスに、青白い光が——————

 

 …………。

 ……。

 

 3

 

 パーパルディア皇国 海軍本部

 海将のバルスは海を眺めていたが、状況が好転することはなかった。

 第三艦隊と学園都市の戦艦が交戦中とのことであるが、無線で飛んでくる報告に心地よい物は一切なく、ただ悲鳴と号哭が響くだけである。

 そして、だ。

 

「……、」

 

 大型の機械の前に腰かけていた職員が、ようやく重い口を開いた。

 

「―――通信途絶。再接続の兆しもありません」

「残存艦への引継ぎは?」

「ありません。恐らく、全滅したものかと」

「っ……くそったれが」

 

 バルスの傍にいた高級軍人は悪態を吐き、意を決した表情で上告する。

 

「海将‼ 第一及び第二艦隊で学園都市海軍を包囲しましょう‼‼ これほど差があるとは思いませんでした。幸いにも数は一隻です。奴らを倒すには、数で押しつぶすしかありません」

「……許可する」

 

 海将バルスの言により、皇国主力第一艦隊と第二艦隊は、包囲網を描きながら学園都市の戦艦に向かっていった。

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