とある転移の学園都市   作:Natrium

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勉強の息抜きに投稿。別にサボってないから大丈夫(大火傷)


第二十二話 侵蝕 Creeping_Shadow

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 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇城

緊急御前会議——国の重役の中でもトップのみが参加し、実質的に皇国の意思決定が行われる緊急会議が始まろうとしていた。

会議のメンバーは、皇帝ルディアスを筆頭とし、

皇族 レミール

軍の最高司令 アルデ

第一外務局長 エルト

第二外務局長 リウス

第三外務局長 カイオス

臣民統治機構長 パーラス

経済担当局長 ムーリ

 その他各局の幹部が補佐に入る。

 普段の会議では自信に満ち溢れた表情をしている者も、今回は一様に顔が暗い。

 なぜならば。

「まずは軍の現状からご説明いたします。」

軍の最高指揮官アルデが立ち上がり、説明を開始する。

「現在、海軍の主力は壊滅——いえ、全滅し、残存戦力は廃棄直前の旧式戦列艦が十隻、砲艦が三十隻となっており、規模は非常に縮小しております」

アルデの額には汗が滴る。

残存艦のみであっても、文明圏外国の海軍よりも戦力は上回っている。

しかし、たった一隻で皇国海軍主力を全滅させた学園都市の戦艦相手では風前の灯火だ。今から最新鋭の戦列艦を建造しようにも、竣工には数年の歳月が必要であり、戦力の増加も望めない。

「次に、陸軍の状況です。皇軍三大基地の一つ、皇都防衛隊が全滅いたしました。空から行われる攻撃としては、その爆弾投射量はあまりにも規模が大きく、今まで全く想定しておりませんでした。これにより、今後基地を作る際には戦力を集中しすぎないように配慮する必要が生じましたが、本作戦には間に合いそうにありません」

各々が冷や汗をかくが、アルデの説明はまだ終わっていない。

「皇都の防衛に大きな穴が開いてしまったため、他二大基地から半分ほど軍隊を撤収し、皇都防衛の任に当たらせます。他の基地も重要拠点でありますが、致し方ありません」

「統治軍はどうなっているのだ、アルデ。兵員が足りないのであればそこから引っ張ってくれば良いだろう」

「失礼、前会議では調査中とだけ述べましたが、現在各統治軍との通信は完全に途絶し、行方不明となっております。恐らく、全滅したものかと」

「……、」

 沈黙が続く。

 属領が離反したことは分かっていた。

しかし、属領は広範囲に存在しているために、撃ち漏らしが——まだ離反していない国があると信じていたのだ。

「工業都市デュロが壊滅した現在、武器弾薬の補給が心配ですが、備蓄はまだかなり残っています。多少節約する必要はありますが、影響はそこまで大きくないでしょう」

アルデが話し終わった後、第三外務局長カイオスが手をあげ、話し始める。

「現在の軍の状況から、学園都市が決し侮ってはいけない存在であり、そして脅威であるという共通認識は皆様持たれたと思います。ここで問題となるのですが……」

カイオスは一呼吸置いて、その一言を告げる。

「今回の戦争の終わらせ方、落としどころです」

「ッ⁉」

一同に衝撃が走る。

カイオスは誰も口に出さなかったその議題を、皇帝の前で紡ぎ出した。

「アルデ最高司令にお尋ねする」

「何だ!」

「残存戦力で学園都市に上陸を行い、皇帝陛下の御指示である学園都市の殲滅をなす事は可能か?」

「陛下の御意思達成のため、全身全霊をかけて取り組む所存だ」

「精神論など聞いてはいない。現有兵力で可能かどうかを聞いている」

「……現有戦力では、不可能だ。達成のためには、兵の数をそろえ、もっと船を作る必要がある。時間が必要だ」

「数年も奴らが待ってくれるものか。それでは、今回の戦端を開いた第一外務局長のエルト殿」

「……、」

「この戦争、どのように収束させるおつもりか?」

汗を垂れ流しているエルトは、皇帝ルディアスの顔に目線を走らせる。

「国家として、すでに学園都市殲滅を表明している今、皇国が意志を変更すれば他国や属国に示しがつかない。国益を考えたとしてもこのまま進むしかあるまい」

「エルト殿は、それが可能と思っておられるのか?」

「軍の最高司令のアルデ殿が時間をかければ可能と言っている。軍事における戦略的な事に私は口を出す立場には無い」

 軍部に擦り付けることでカイオスの追及を逃れるエルト。

 しかし、カイオスの攻撃はまだ終わっていない。

「では学園都市が我が国に何を求めているか、担当である第一外務局長にお尋ねしたい」

「学園都市は……フェン王国における、観光客殺人未遂についての公式謝罪と賠償、及び首謀者、参考人の身柄引渡し。また、フェン王国に対する謝罪、賠償、物品の保障、人員に対する賠償を求めている」

件の事件の首謀者であるレミールの顔が曇る。血の気は引き、目元には隈も出来ている。かつての優雅さは失われ、今は小さくなって震えることしかできないようだ。

「では、レミール様、この学園都市の要望についてはどう思われるか」

「……わ、たしは——」

 

「もうよい‼‼‼」

レミールの発言に割って入る怒声。カイオスはその声の主を瞬時に理解して黙り込む。

皇帝ルディアスは第三外務局長カイオスに向く。

「カイオス、お前は何が言いたい‼ この列強たるパーパルディア皇国、その長である皇帝と、そこのレミールを、学園都市に差し出すといった屈辱的な完全敗北がお前の望みか‼」

「い、いえ、決してそのようなことは。ただ私は、皇国臣民のためを思い、学園都市が何を求め、我が国としてどういった対策が出来るのか、目を瞑らずにあらゆる可能性の模索をしているのです」

一言間違えば一族の首が飛ぶこの状況下でも、カイオスが主張を変えることはない。

「学園都市は強い、私は本当に危機感を感じているのです。このままでは、もしかすると、皇国が倒れるかもしれないと、危惧を抱いているのです」

「ほう……確かに奴らは強い。海軍を壊滅させ、大規模陸軍基地の一つを潰した。しかし、未だ皇国には二つの大規模基地が健在であるが故、奴らは陸軍を上陸させる事は出来まい」

「何故そう思われるのですか?」

「陸軍の上陸……地の利を生かした列強国の大陸を制圧するとなると、とてつもない量の投入が必要だ。しかし、学園都市は海軍の数にしてもそうだが軍の数が少ない。陸の広大な面積は、質では補いきれまい」

「で、ですが、属領の同時攻——

 皇帝がカイオスを睨みつけ、その口を閉じさせる。

これ以上の反感を負うのは危険だと判断し、カイオスも渋々それに従った。

(くっ、やはりこの無能共を何とかする方が先決か‼)

カイオスは内心でクーデターを決意し、皇帝を欺くためにも矛を収めた。

不穏な空気を漂わせながら対策会議は続く。

一通りの結論が出たのは午前一時——対策会議は深夜にまで及んだ。

「おのれ‼ 皇国を建て直した後は皆殺しにしてやる‼‼」

 皇帝ルディアスは怒りに沈んでいた。

 彼が過去一番に激怒している理由は、対策会議中に飛び込んだ一つの報告にある。

 

『緊急事態です‼ 他三大陸軍基地との通信が途絶しました。ほぼ同時刻に途絶したことから、恐らく学園都市による襲撃と思われます‼』

 

この攻撃によって陸海空全ての軍隊が全滅し、皇国は丸裸同然の状態に陥った。

残っているのは一線を退いた旧式兵器のみ。学園都市へ抗う術など残されていなかった。

「くそ、皇室直属の騎士団を敵の首都に送り込んでも良いが……皇都の防衛力を下げる訳にもいかぬ。何か妙案はないものか……」

 すでに詰んでいるにも関わらず、諦めることをしないルディアス。

 既に時刻は二時を過ぎようとしている。寝室へと向かっていたルディアスだったが、そこで見知った顔を見ることになる。

「レオナルドよ、今宵のガーディアンはお主か?」

「はい、現在近衛兵のおよそ半数が警戒に出ているため、城内の警備が若干甘くなっております。そのため本日は近衛騎士団長である、私が直接警備を担当致します」

「ほう、それは心強いな。頼んだぞレオナルド」

「仰せの通りに、陛下」

 レオナルドは敬礼の姿勢を取り、寝室の扉横に体を移す。

 皇帝がその横を通り過ぎようとしたところで、ふとレオナルドが口を開いた。

「ところで陛下、ヴィナスという星をご存知でしょうか」

「っ? 近頃、夜明け前の空に現れるあの星か? それがどうしたと言うのだ」

「いえ、何でもないです。忘れてください」

「………まあ良い」

 それだけ言い残すとルディアスは寝室の中へと立ち去った。

 そして。

 

「やはり、偶像の理論とは便利なものですね」

 

 皇帝の寝室の前で、レオナルドだった誰かがそう呟いていた。

 

 3

 

「「「ッッッ‼⁉⁇」」」

 翌日の緊急御前会議は波乱の幕開けとなった。

 そのきっかけは、皇帝が放ったこの一言に集約している。

 

『学園都市に降伏せよ。もはやそれ以外に道はあるまい』

皇帝の主張が昨晩から一転したのだ。

全員が驚愕の表情を見せる中、一人だけ反応が異なる人間がいた。

第三外務局長のカイオスだ。

彼も同じく驚愕の表情を浮かべてはいるが、その瞳に写した意思の色合いは違う。

(っ⁉ これは——計画を見直す必要があるな。だが、ある意味好都合とも言え——

 

「へ、陛下‼ 正気で——っ、どういうお考えでしょうか、奴らに降伏するなど」

 

 一つの悲鳴があった。

 それによってカイオスの思考は中断を余儀なくされたが、レミールにとっては些事である。現在進行形で命の危機に晒されているのだから。

「ほう、ならばそなたには良い対案があるのだな、レミールよ」

「そ、それは……」

「……話にならんな」

「ですが‼ 第三文明圏の覇者であるパーパルディア皇国が蛮族相手に降伏などと‼」

「レミール、現実を見よ。奴らは到底文明圏外国という範疇に収まってなどいない。神聖ミリシアル帝国を超え得る化物だ、そう簡単に勝つことは出来ない」

 下唇を噛むレミールに、皇国の長は告げる。

「だが、私はただで負けてやるとは一言も言っておらんぞ」

「っ」

「降伏はする。ただし一時的にだ。その間に軍備を拡張し、奴らの目がよそを向きだしたときに横腹へ噛みつく。そして奴らの技術を手に入れ、世界へ進出するのだ‼」

「……、」

「なに、心配するなレミール、すぐに連れ戻してやる。それまでの辛抱だ。なぜならお前は、俺の婚約者なのだからな」

「っ、……陛下」

 レミールは感極まって目に涙を浮かべる。

 それを見た皇帝ルディアスが咳ばらいをして告げる。

「話はまとまったな。では、学園都市へ通告せよ。大使は派遣されていないが、学園都市と国交を持つ国々を介せば通達できるはずだ」

 

 カウントダウンは、刻一刻と進んでいる。

 皇国の崩壊の時は近い。




レオナルドの正体とは……
ヒント:惑星ヴィナス×偶像の理論+皇帝の異変

真の禁書ファンならこれだけで理解できるはず。

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