とある転移の学園都市   作:Natrium

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怒りの琴線に触れる、って誤用なのか…知らなかった。
才媛さんありがとうございます。


第三章
第二十五話 真の王者は井の中に Absolute_Power_Balance 


「それでしたらリア―ジュ様、先進十一ヵ国会議に学園都市を呼ぶという名目で使節を派遣してはいかがでしょうか?」

「ふむ、名案だな。これなら議員の方々も納得するだろう」

 

 ……………。

 ………。

 

 1

 

 前略ミ帝の外交官が手記に『もうつかれた、ねる。』とだけ書き残したあの日から、早くも一年が経過した。何が起きたって? ……察してやれ。

 いつでも発見どこでも発展な科学の街は、異世界人にとって刺激が強すぎたのだ。

 

 閑話休題(そんなことはどうでもいい)

 

本日開催される世界会議に参加するために、港町カルトアルパスには各国の代表が続々と集まっていた。

「トルキア王国使節団、到着しました。戦列艦七隻、使節船八隻です」

「了解、第一文明圏エリアへ誘導せよ」

港湾管理者の下に集結する情報の数々。

彼らは港に着いた船を適切に誘導していく。

「第一文明圏のアガルタ法国使節団が到着しました。内訳は魔法船団六隻、民間船二隻です」

「了解。同様に誘導せよ」

 

港湾管理責任者のブロンズは、この先進十一ヵ国会議が好きだった。

この会議は各国が使者を護衛するという名目で、最新式の軍艦を艦隊ごと送り込んでくる。軍事好きの彼にとってこのイベントは、仕事であると同時にお祭りのようなものであった。

 

「ここに第零式魔導艦隊があれば、各国の軍も貧相に見えるのだろうが………」

 

港町カルトアルパスの近くに基地を有している第零式魔導艦隊は毎年この時期に、様々な事情から西にある群島に訓練に行くのが恒例となっていた。

第零艦隊と直接比較することは出来ないが、脳内イメージで完璧に補完できる彼にとってそれは大きな問題ではなかった。

そんな彼が特に注目している国家は二つある。

 

列強国のレイフォルを落とした軍事大国である、グラ・バルカス帝国と、

同じく列強国のパーパルディアを、七十四ヵ国に分裂させた学園都市だ。

 

この二国は文明圏外国でありながら列強国を打ち破ったという、イレギュラーな国であるため非常に興味深い。

いったいどんな艦隊が来るのか、彼の胸に込み上げるものがある。

そう考えていた時だった。

「っ、来たか⁉」

ブロンズの視界に、城のような構造物を持つ船が映った。

その姿は近づくにつれてさらに大きくなり、魔導戦艦を見慣れた彼でさえ絶句する程に巨大な船が、やがてその姿を現した。

誰もがその雄々しさに見とれて言葉を失う。その間にも、老若男女を問わず全員を魅了したその戦艦は徐々に港に近づいてくる。

そして、再起動の時は来た。

 

「グラ・バルカス帝国到着‼ 戦艦が——二隻です(・・・・)‼‼」

「「「おおっっ‼‼‼」」」

「何という威容じゃ……」

「……美しい」

「我が国の戦艦にも引けを取らんぞこれは……」

それを見た者すべてが感嘆する。

 

GA型戦艦一番艦グレートアトラスター、並びに二番艦のハイパーシュプリカム。

グラ・バルカス帝国が信念をもって作り上げた、帝国最強の戦艦である。

 

二百メートルを優に超えるその巨体は見るものすべてに力を示す。

事実、港町カルトアルパスの住人は皆その雄々しい姿に圧倒されている。

 

「なんて巨大な砲を乗せてやがる……」

港にいる野次馬の一人が思わず呟いた。

四十六センチ三連装砲三基が、誇らしげに水平線を向く。

そして。

そして。

 

 

「……長、ブロンズ所長‼‼」

第八帝国の戦艦に見とれていたブロンズは、部下からの問いかけで我に返った。

「ああ、何だ⁉」

「学園都市の船団が到着しました‼ 戦艦が一隻、民間船が二隻です‼」

ブロンズは学園都市の戦艦と聞いて、慌てて振り返り、

そして、信じられない光景が彼の瞳に映った。

「……同型艦か? 形状が非常に似て——ッッ‼⁉」

彼の顔が勝手に引きつるほどに、明らかな異常だった。先の戦艦と酷似していたから? いいや違う。そのような些事では決して無い。ならば何故か。

 

学園都市の戦艦が、グレートアトラスター以上の巨体を誇っていたからだ。

 

全長は恐らく三百メートルを超えている。

その巨体の代償なのか、船の歩みは非常に遅い(・・・・・・・・・・)

が、その脅威は押して図るべきだろう。

「っ、学園都市……、一体奴らは何者なんだ……」

ブロンズが残した呟きは、ただ海風によって流されるだけであった。

 

 3

 

学園都市の大使、雲川芹亜は帝国文化館内の国際会議場に足を運んでいた。

今回の先進十一ヵ国会議は数日に及び、最初に外交担当の実務者級の会議が行われる。

そこで話を詰めた後に、後半で外務大臣級——学園都市からは統括理事会の一人が出席している——の会議と意思決定を行うことになっている。

国際会議への出席は初めてあるはずだが、雲川は相変わらずその余裕を崩さない。

(既にプロファイリングは済ませてあるけど。他種属相手にはいささか苦戦したが、個人特有の癖は案外すぐに見つかったな)

過去の記録や現在の行動から、心の機敏を読み取り、思考を掌握する。

これが雲川芹亜の『交渉』であった。

彼女が会議の展望の予測と、それに伴う対策を練り上げている所に、三人の人間が向かってくる。

思考を張り巡らせていても、彼女の目が曇る事はない。すぐに顔を上げ、彼らのいる方向へ振り向く。

「学園都市の方……ですね?」

「ああ、その通りだけど」

「私はアガルタ法国の外交庁に勤める、マギと申します。以後、お見知り置きを」

マギは雲川に右手を差し出す。

世界会議でも変わらず、セーラー服を身に纏う彼女はその手を取り、

「学園都市統括理事会のブレインを務めている、雲川芹亜だ。宜しく頼む」

にこりと微笑んだマギは囁くように言う。

「雲川殿、お会いできて光栄です。学園都市の戦闘法術は、中央世界でも噂になっていますぞ。この魔法文明の世界において科学文明のみで成り上がり、パーパルディア皇国軍を完膚なきまでに叩き潰した勇敢な民族が住まう国だと。私たちの今までの常識では、魔法が使えなければ、ろくな文明を築く事が出来ず——聞こえは悪いが、蛮族というイメージが強い」

しかし、と彼は付け足し、

「学園都市は魔法無しで高度な文明を築いていると聞き、我がアガルタ法国は学園都市に対して、非常に大きな興味を持っています。今度は学園都市へ伺ってみたいものです」

「ありがとう。来たければ自由に来ればいい、学園都市はいつでも君を歓迎するだろう」

雲川も同様に笑顔で答える。

マギは再び口を開こうとしたが、会場にアナウンス音が鳴り、渋々中断した。

『間もなく、先進十一ヵ国会議が開催されます。関係者の方は席へお戻り下さい』

 

先進十一ヵ国会議。

世界規模で巻き起こった大戦争のプロローグが、遂にその幕を上げた。




グ帝を微強化。

ハイパーシュプリカム
フェン王国でGA級の戦艦を目撃したと言う情報を得て、急ぎ建造された、かませ型戦艦の二番艦です。
命名はみのろう方式。

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