とある転移の学園都市   作:Natrium

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第二十六話 踊り狂う会議 Broken_Conference

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『これより、先進十一ヵ国会議を開催します』

帝国文化会館国際会議場に、開始を知らせるアナウンスが流れる。

先進十一ヵ国会議。開催期間は一週間に及び、世界の行く末を決める会議として全世界が注目する会議である。

準列強以上しか参加できないこの会議への出席が認められるだけでも大変な栄誉になる。

また、本会議では列強並みの強さを誇る、学園都市とグラ・バルカス帝国が常時参加国として承認される予定であった。

 

列強格の国家として、

神聖ミリシアル帝国(中央世界)

エモール王国(中央世界)

ムー(第二文明圏)

グラ・バルカス帝国(文明圏外、第二文明圏西側)

学園都市(文明圏外、第三文明圏東側)

 

準列強枠として、

トルキア王国(中央世界)

アガルタ法国(中央世界)

マギカライヒ共同体(第二文明圏)

ニグラート連合(第二文明圏)

パンドーラ大魔法公国(第三文明圏)

アニュンリール皇国(文明圏外、南方世界)

 

今回の会議はこの十一ヵ国で構成されている。

力のある国のみが集められているため、会場の空気も張り詰めていた。

 

そして。

「エモール王国、発言を許可します」

手を上げる使者の中の一人が議長に指名され、発言権を得る。

身長が二メートルもある竜人属の使者は立ち上がり、

「今回は皆に伝えなければならない事がある。極めて重要な事であるため、心して聞くがよい」

何しろ世界三位の列強国の発言だ。何一つ物音が無くなり、場が静まる。

「先日、空間の占いを実施した。同占いの的中率は皆知っているな?」

何しろ、九十七パーセントもの驚異的な的中率を誇る占いである。知らない筈がない。

何か悪い結果が出たのだろうか。各国の代表は呼吸も忘れて彼の発言に聞き入る。

 

「その結果だが……古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国が近いうちに復活すると出た」

「ッッッ‼⁉⁇」

 

どうしようもなく空気が凍り付く。

世界征服を目論む、神話時代の超大国が復活しようとしているのだ、当然の反応と言えよう。

そして僅かなクール時間を置き、一気に暴発した。

 

「な、なんてことだ⁉」

「伝承に間違いが無いのであれば、我らに抵抗する術はない‼」

「……嘘だろ、それが事実なら相当不味いぞ⁉」

騒めく会場の空気を無視してモーリアウルは続ける。

「空間の位相に歪みが生じており、時期や出現位置は判然としないが、我らの計算だと、今後四年から十七年までの間にこの世界の何処かに出現するだろう。奴らにどれほど抗う事が出来るのか、伝承がどれほど本当なのかは不明だが、奴らの遺跡の高度さがその文明レベルの規格外の高さを物語っている。各国は不要な争いをする事なく、軍事力の強化を行い、ラヴァーナル帝国の復活に向けて準備をしてもらおう」

 

会場はざわつき、様々な国の大使がうなずく。

しかし。

 

 

「く、くく……ふは、あーっはっはっは‼‼」

その雰囲気に耐えることが出来ず、笑い出す女性が一人。

会場参加者の多くに非難的な目で見られるが、それを気にすることなく彼女は言った。

「いやいや、失礼、私はグラ・バルカス帝国外務省、東部方面異界担当課長のシエリアという。魔帝だか何だか知らんが過去の遺物を恐れるとは、異世界人のレベルに唖然としている所だ」

初手から暴言が飛び出した。

視線が厳しくなるが、やはりそれを無視して告げる。

「そもそも占いなどという不確定なものを、国際会議で発言する神経が私には理解が出来ないよ。しかも、この世界の列強と呼ばれる国がこの発言。我が国にあっさりと滅ぼされたレイフォルも、弱かったが列強と言われていたらしい。世界会議……か。レベルの低さが窺い知れる」

「新参者が何をいうか、礼儀を知らぬ愚か者め‼」

「そうだ、蛮族如きが余計な口を開くな‼」

会議に出席していた使者達が口々に叫ぶ。

その混沌とした状況を打開するためにも、発言主のモーリアウルが手を叩き、注目を集める。

 

「新参のグラ・バルカス帝国か、魔法を知らぬ人族主体の国らしいな。魔力数値の低い人族ごときがほざくな。貴様らごときに期待はしていない」

「っ、科学を理解出来ぬ亜人風情が……我が帝国に、一人前の口をきくとはな」

「亜人は人間以下という意味だ。我が国は竜人族ぞ、下種が‼」

 

しかし、その試みも失敗し、場は更に乱れることになった。

議長が場を鎮めようとするのを横目に、雲川は予想以上に低レベルだった会議について考えていた。

(予想はしていたが此処まで酷いものとは……。くそ、これだと計画全体を見直す必要がある訳だけど)

呆れて物も言えない雲川だったが、会議は勝手に進行していく。

 

「我が国、ムーは、先進十一ヵ国会議において、グラ・バルカス帝国に関する非難声明を発し、同国に対する懲罰のため二年以上の交易制限を発議いたします。理由としましては、第2文明圏イルネティア王国、王都キルクルスに対する大規模侵攻です。国家間同士の戦争ではあるが、このところ彼らはやりすぎだ。このまま彼らを許すと、世界秩序を破壊する可能性があります」

ムーの発言に、神聖ミリシアル帝国も賛同する。

「確かにグラ・バルカス帝国は、世界秩序を乱しすぎている。このまま第二文明圏国家を侵攻し続けていると、我が神聖ミリシアル帝国も介入せざるを得なくなる。我が国はムーの提案に賛成するとともに、グラ・バルカス帝国へ第二文明圏の大陸から即時撤退を求める」

 

誰もが認める世界最強の国の介入、それを聞いただけですべての国が震えあがり、剣を治める事がほとんどだった。

全員の視線がグラ・バルカス帝国の美しき外交官シエリアに向けられる。

早く白旗を上げろ、対策会議が進まない。

暗にそのような意図を告げられ、堪忍したのか彼女は立ち上がる。

いいや。

 

 

「一つ、最初に伝えておこう。我が国の目的は会議に参加することではない。この地域の有力国が一同に会するこの機会に、通告しに来たのだ」

反省の気配は一切見えない。当然だ。彼女の目的は初めから一貫していたのだから。

 

「グラ・バルカス帝国 帝王グラルークスの名において貴様らに宣言する。我らに従え。我が国に忠誠を誓った者には、永遠の繁栄が約束されるだろう。ただし、従わぬ者には、我らは容赦せぬ」

 

あまりの物言いに絶句し、沈黙する議会。

「理解したか? ならば尋ねよう。今、この場で我が国に忠誠を誓う国はあるか?」

 

傲慢を極めたセリフに、再起動した者から叫び声が溢れ出す。

 

「バカか、貴様は‼」

「下種が‼」

「蛮族が、何をのたまっているのだ?」

 

場は騒然とし、怒号が飛び交う。

それでも彼女は超然としていた。

 

「やはり、今従属を誓う国は現れぬか。まあ、当然だろうな。帝王様は寛大だ。我が国の力を知った後でも構わない。その時はレイフォルの出張所まで来るがよい。まあ、かなり自国が被害を受けた後になりそうだがな。では現地人ども、確かに伝えたぞ‼」

 

シエリアは発言の後、荷物を纏めて会議から途中離脱しようとする。

その非常識さに呆れて静まり返る議会の中に、もう一人の女の声が響き渡った。

 

「一つ聞きたいことがあるのだけど」

「……なんだ、学園都市の者か。何の用だ、貴様らだけ降伏するつもりか?」

 

雲川から失笑が漏れる。

「いいや、先の発言は我々に対する、宣戦布告として受け取って良いのかと思ってね?」

「……理解していなかったのか? とんだ愚か者がいたようだ。それともこの機に及んで我々と友好的な関係を持てると思っていたのか?」

しかし。

シエリアの予想に反して、目の前の女の口からこんな言葉が飛び出した。

 

「それは僥倖。……言質は取ったけど、構わないな?」

 

帝国を格下だと捉えているのか、黒髪の少女は逆に言い返してくる。

「はっ、弱者の戯言と受け取っておこう。次に会うときは貴様の国が火の海になる頃だろうか。楽しみにしているぞ」

 

そう言い残して使者は港からも去り、その日の先進十一ヵ国会議は終了した。

開催日数は残り六日。

 

運命の日は刻々と近づいている。

 

 

神聖ミリシアル帝国の第零式魔導艦隊は、西方群島で訓練を行っていた。

島が所々にあり視界は悪い。

 

魔導戦艦が三隻、重巡洋装甲艦が二隻、魔砲船が三隻、随伴艦八隻。

この世界に敵なしと言われた、計十六隻の大艦隊は実戦さながらの訓練を繰り返し、練度の維持に努める。

 

「ん?」

 

魔信探知機を見ていたレーダー監視員が、海上を高速で近づいてくる光点を見つける。

 

「レーダーに感あり‼ 北方向より、機械動力艦と思われる反応が接近中です‼ 速度二十九ノット、距離六十。反応から想定するに、戦艦二、重巡洋艦三、巡洋艦二、小型艦五、計十二隻が我が艦隊に接近しています‼」

「ムーではそんな速度は出せないはずだ。となると……グラ・バルカス帝国か? 総員、戦闘配備。不明艦隊がこちらに接近中‼ これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない‼‼」

 

『世界最強』と『新進気鋭』。

遂に、二つの勢力の争いの幕が切って落とされた。




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