とある転移の学園都市   作:Natrium

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難産でした


第二十七話 完全なる支配へ Complete_Discussion

帝国第一会議室。

そこには不穏な空気が流れていた。

 

「それでは、これより緊急会議を開催いたします」

 

各人にレジュメが配られたのを確認した担当者が、プロジェクターを起動する。

視線を移してみると、配布された紙を閲覧した人間が次々と顔をしかめていた。

一体何があったのか。担当者が話を始める。

 

「概要を説明いたします。本日早朝、本国の西方にあるカルアリス地方の群島付近で訓練中の第零式魔導艦隊が『正体不明の艦隊と航空機による攻撃を受けつつある』との連絡を最後に、音信不通となっております。また、同群島にある地方空軍基地も、同様の連絡を最後に音信不通となりました。現在通信可能な基地は、陸軍離島防衛隊のみであります。同所からの報告によると、敵艦隊及び航空攻撃により第零式魔導艦隊は全滅。空軍基地も敵航空機により全滅したとの連絡が入りました。敵の国旗を確認したところ、グラ・バルカス帝国と判明致しました」

 

その報告を聞いた者は全員、胃袋の中にボーリング球を入れられたかのように錯覚した。

その圧力に耐えられず、外務省のリア―ジュが思わず呟く。

 

「ちょっと待ってくれ、第零式魔導艦隊が全滅しただと? 世界最強の艦隊だぞ。いくら、グラ・バルカス帝国が強かろうが、損傷ならともかく全滅は……本当なのかね?」

「おそらく事実です。今回の敗北は、敵艦隊に対し我が方が小数だった事や、エアカバーが不十分だった事などが可能性として考えられますが、今回の議題はそこではありません」

 

一拍の間を置いて、軍部担当者は告げる。

 

「陸軍離島防衛隊の報告によりますと、艦隊を破った敵は、艦砲射撃で空軍基地を破壊した後に、東へ向かったとの報告があります」

 

緊急会議を召集するレベルの非常事態であることを、誰もが認識した。

空軍基地の東側には、現在世界会議が開催されている、港町カルトアルパスがあるからだ。

 

「防衛体制はどうなっている?」

大臣の呟きを耳にした担当者は資料のページをめくる。

 

 

「離島防衛に向かわせていた第四、第五艦隊を、帝都防衛のため呼び戻しています。港町カルトアルパスに関しては——現在、東方展開中の第一、第二、第三艦隊を周辺に展開させるように手配を行っていますが……。離島からの距離を考慮すると、敵の方が速くカルトアルパスに到着する可能性があります。各国の使節に被害が及ぶ可能性があるために、即時避難を促したいのですが……。この件について外務省統括官殿、貴方の意見も伺いたい」

 

軍部の事情など知ったことではなかった。彼には彼の使命がある。

勢いよく立ち上がった統括官は堂々と反論する。

 

「じょ……冗談じゃない‼ 守り切れない可能性がある(・・・・・・・・・・・・)ので避難してくださいなどと、言える筈がないだろう‼ 世界一位の大国が仮にもそんな事を言えば、他国に軽視されるのは明白だろうが‼ ただでさえ学園都市とかいう超列強級国家が現れたと言うのに………。本当に、鞍替え(・・・)でもされたらどうするつもりだ‼‼」

 

一通り叫んで冷静になったのか、言葉をわずかに詰まらせ、代案を提示する。

 

「まぁ、奇襲を受けて被害が出たと言えば、まだ各国も仕方がないと思ってくれるだろう。どうせ直接見られていないのだから、何とでも誤魔化せる。……そうだ、壊滅したのは地方隊だったという事にするのはどうかね? これなら我が国を非難する連中はいなくなるだろうよ」

「……なるほど、それは良いアイデアですね。その線で対策を練りましょうか」

 

グラ・バルカス帝国対策会議は深夜まで及び、『奇襲攻撃を受ける可能性があるため、東方都市カン・ブラウンまでの避難を要請する』ことが決定された。

 

 2

 

帝国文化会館国際会議場に、若い女の声が響いていた。

 

 

「魔法帝国と言えば、面白いものを発掘したのだけど」

雲川芹亜はキャリーケースの中から、何かを取り出す。

「これは、第三文明圏南方海域に位置している海底遺跡から引き揚げた物だ」

 

 

 雲川の手の中にあるそれ(・・)は、四角い箱状の物体だった。淡く輝く金属外殻の内側には魔法陣でも仕込まれているのだろうか。

 

「調査の結果、その装置には十九年後——一六五三年の七月十九日に、特定の空間に向けて魔導波を発信する(・・・・・・・・・・・・・・・・・)機能が埋め込まれていたことが判明した。座標情報や公転速度のデータを観測する機能も、それと同時に発見された訳だけど。この意味が分かるか?」

 

彼女は手の中のキューブを(もてあそ)びながら告げる。

混乱は、数秒遅れにやって来た。

 

「それが一体何だと言うのだね。魔法帝国と何の関係性が———っ、まさか‼⁉」

「予言で示された時期と同じだ………つまり、奴らが復活するのは十九年後という訳か⁉」

「それを壊してしまえば、魔法帝国の復活を阻止できるのではないか‼⁉」

「安易に壊すのは危険だ、どんな仕掛けが施されているのか分からんぞ‼」

「それは……」

「いいや、多少のリスクを払っても実行するべきだ! 奴らを葬れる絶好の機会だ、絶対に逃せん!」

 

会場が湧き、様々な意見が飛び出す。

続けて浮かんだ迷惑そうな表情は、その騒音によるものだろうか。

雲川は小さくため息を吐き、

 

「これを破壊するという提案には乗れんよ。ただ無駄なだけだからな」

「何故だ⁉ かの魔法帝国の復活を阻める可能性があるのだぞ! 今すぐ破壊するべきだ‼」

 

アニュンリール皇国の大使が雲川の発言に噛みつく。

しかし、彼女の発言は思わぬ方向へ飛躍した。

「こいつは定期的に微弱な魔導波を発信している。……データの共有、とでも言えばいいだろうか。恐らく他の同型機と交信しているのだろう。同種の機能を持つ物が他にも存在している(・・・・・・・・・)、と言い換えてもいいけど」

「っ、何故そ(・・・)——、学園都市は科学文明なのであろう⁉ 何故そうと言い切れ(・・・・・・・・・)

「ならば逆に聞こうか。何故、貴方はそこまでコイツの破壊に執着するのかね?」

「…魔法帝国が滅ぶに越したことはないだろう。何故そのようなことを聞く」

 

言葉がわずかに詰まる。

当然、交渉の怪物がそれを見逃す筈がなかった。

 

(つまづ)いたな? 焦りすぎだ、先程からボロ(・・)を出しすぎている訳だけど」

「何だ? 何の話をしている?」

「それとも嘘を吐いている人間の特徴を教えようか? 現在の貴方の言動は、すべてそれに適合しているのだけど」

「だから、何の話をしているのだ⁉」

 

雲川の追及に怒りを抑えられずに叫ぶ、アニュンリール皇国の大使。

相対する彼女は涼しい顔をして、再び口を開いた。

 

「最初のミスは致命的だったな。慌ててカバーしても無駄だ、心得のある人間ならすぐに見分けがつく」

「ふざけるな、どういうつもりだ‼」

「想定外の質問に答えられない。話をよく聞こうともせず、即座に疑問で返す。有名なものを()げればこのくらいか。細かな条件なら、他にも二百の特徴と合致する」

「……貴様、大概にしろよ」

「内心では冷や汗が止まらない癖に。表情筋の微弱な動きから幾らでも読み取れるけど」

「……、」

 

遂に使者の言葉が止まる。

それは数秒だったのか、数分だったのか。奇妙な沈黙が会場を支配した。

なんにせよ、それを破ったのは議長であった。

 

「済まない、分かるように説明してくれ。貴方たちは何の話をして——

「コイツが我が国を侮辱するのです‼ これ以上続けると言うのなら、公式に訴えさせてもらうぞ‼‼ 分かっているのか‼」

「おや、我が国(・・・)と言ったか。貴様の(くわだ)ては、国家規模で実施されているものだったのか?」

「ッッッ‼⁉⁇」

「何を動揺している? 先の発言から読み取られたとでも思ったのか? それなら残念、貴方は何一つの失言をしていない」

「なっ、おま……」

「貴国が鎖国してまで隠しているものは何だ? (もっと)も、既に検討は付いている訳だけど」

「っ、………何も……何も隠してなどおらん‼‼‼」

 

此処まで来て、周りの人間の理解が追い付いてきた。

アニュンリール皇国は、魔法帝国に関する重要な何かを隠している。

彼らはそう判断し、事情を知っているであろう雲川に疑問を投げかける。

 

「つまり、どういうことなのだね? 彼らは一体何を隠していると言うのだ?」

「私はもう帰るぞ‼ これほど不快な気持ちになったのは初めてだ‼‼」

「簡潔に言うと」

「うるさい黙れ‼ これ以上の侮辱は許さんぞ、国辱ものの発言だ‼ 後で訴えさせてもら

 

「アニュンリール皇国は、魔法帝国の信奉者(・・・・・・・・)ということだけど。彼らが有翼人種であることを考慮すれば、その正体も(うかが)い知れる」

 

ついに本命が来た。

雲川はここで勝負を決めるつもりだろうか。

だとすれば、あまりにも適切なタイミングだとしか言いようがない。

普段なら一蹴される意見。しかし、突き刺さった。

各国の大使の心に、それは突き刺さったのだ。

 

「「「………、」」」

「………その目はなんだ‼ 全てあの女狐の言いがかりだ、よもや信じてはおらぬだろうな‼⁉」

 

その発言に賛同する人間は、この場にはいなかった。

その事実が大使の焦りを加速させる。

ここでバレてしまっては、今までの隠蔽(どりょく)が無駄になってしまう。

しかし、現実は非情だった。

 

「アニュンリール皇国よ、説明してもらおうか」

「そうだ‼ 事実かどうかはっきりさせろ‼」

「……信じていたのに、皆が一丸となって魔帝に対抗する未来が来ると……」

「な、私は違うぞ、何も隠してなどいない‼‼」

 

言い訳を試みるが、一切の説得力も伴っていない。

追及はいっそう過激になった。

 

「ならば、先の挙動不審な態度はなんだ‼ 見苦しいぞ、白状しろ‼」

「何も隠していないと言っているだろう‼ いや、そうか、そういうことか。騙されるな、あの女狐こそが世界の敵だ‼ 魔法帝国に敵対する我々を分断しようとしている、奴らが魔法帝国の尖兵だからだ‼‼」

「何をふざけたことを言っている。どう見ても怪しいのは貴様の方だろうが」

「……また一つ、条件に合致したけど。言い訳はあるか?」

 

何かがプツリと切れる音を幻聴した。

全員から責められて顔を真っ赤にする裏切り者が、その音源であった。

 

「黙れええぇぇぇぇっっっ‼‼‼」

 

魂からの叫びに気圧(けお)され、その場にいる全員が押し黙った。

咆哮は止まらなかった。

 

「世界の行く末を決める会議に出席してみれば……何だ‼⁉ 何故我々が責められている、敵は魔法帝国だろうが‼ 二十にも満たない小娘の言葉に踊らされて、恥ずかしくないのか⁉ くそ、………話にならない、本当に帰らせてもらうぞ」

 

資料を叩きつけて、机から離れるアニュンリール皇国の大使。

彼は雲川を睨みつけて、

 

「絶対に報復してやるぞ学園都市。貴様の国を粉々に粉砕してやる」

「貴国は領土が広いだけで、大した軍事力は持っていないと記憶していたが?」

「ちっ……言葉の綾だ。もういい、お前は黙っていろ」

 

それだけ言い残し、大使はこの場から立ち去ろうとする。

みすみす逃すことはしなかった。

 

 

「ならば最後に一つだけ言わせてもらおうか」

「……話を聞いていなかったようだな。私は黙れと——

 

「先ほどの装置——魔帝復活ビーコンと名付けようか。それが定期的に発信しているデータだが、どうやら貴国の首都周辺に発信されているようだ。寂れた遺跡などではなく、な」

「……黙れ」

「心当たりはあるか? 未開の国だから、地面に埋まっていることにすら気付きませんでした——などと、つまらないことは言うなよ。貴様らが神聖ミリシアル帝国並みの技術力を持っていることは分かっている。態々それを隠す理由も含めてな」

 

明確に。

大使の動きが静止した。

 

「なっ……何の話だ」

「出ているぞ。何度も言わせるな」

「く、そ……」

 

ようやく敗北を悟ったのか。大使の表情が屈辱に歪む。

 

「小娘が‼ 必ず報復してやるぞ、この恨みは一生忘れん‼‼」

 

強く雲川を睨みつける使者。

彼は扉を蹴り破るようにして立ち去った。

 

先進十一ヵ国会議。

早くも離脱者が発生し、残る国家は九つとなった。




大使が破壊に拘ったのは、解析を防ぐためでした。
もっとも、既に手遅れでしたが……
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