とある転移の学園都市 作:Natrium
非常にややこしいですが30話目です。
1
ゴウンッッッ‼ と。
超音速機が大気を切り裂き、引き返していく。
『敵飛行機械、撤退していきます‼』
「くそ、小癪な……たった一機で我が国の最新鋭機をこうも簡単にあしらうとは」
『ですが、弾薬切れ……でしょうか? 何にせよ、今がチャンスです!』
「ああ、分かっている。全機、最高速度で敵艦へ突っ込め‼ 帝国魂を見せてやれ‼」
『了解‼』
残存部隊は百二〇機。
およそ半数近くの仲間が散っていったが、ここで引くわけにはいかない。
彼らの死を無駄には出来ない上に、これは皇帝が望まれた戦争なのだ。
必ず勝利する必要がある。
「総員、私に続けぇぇぇぇ‼」
『おぉぉぉぉぉぉぉ‼‼』
標的は既に通達している。
敵艦隊の中で最も異彩を放っている戦艦だ。
GA級にも酷似している
そのため、航空機の良い的になると踏んでいたのだが……。
「っ? 他の船団と並走している? 艦隊運動できる程の速度は持ち得ていない筈じゃ……」
『どうしますか? 対空兵装も確認できますが……』
「続行だ。いずれにせよ、GA級より遅い。命中精度は高——っ、おいおいおい‼ 待て待て何が起きて……ッ‼‼」
隊長の叫び声を聞いた隊員は皆、件の戦艦の方を向いて絶句した。
どっっっガッッッ‼‼‼ と。
海水が大きく舞い上がり、学園都市の戦艦が異常な加速をする。
『ば、馬鹿野郎‼』
『隊長‼ 何が起きて、あれは一体何ですかっ‼』
『我が国の戦艦の倍は出ているぞ‼ くそ、何がどうなって……』
通信機からは混乱の叫びが聞こえる。
それもそのはずだ。
学園都市の戦艦、HsBBY-01の巡航速度は60ノット。
最高速度で言うならば、80ノットを超えている。
既存の艦艇の三倍近くの速度が出ているのだ。その衝撃は計り知れない。
「気を取り直せ‼ 全機、爆撃用意‼ いくら速かろうが、我々の総攻撃を受ければひとたまりもないだろう。奴らは
隊長が声を張り上げる。
それを聞いた隊員は自信を取り戻し、
いや。
いいや‼
ズバチュッッッ‼⁉ と。
視界の半分が赤く染まった。機内を見渡すと、穴あきの大空が見える。
そして。
爆ぜた。何が? 絶対無敵と呼ばれた、グラ・バルカス帝国の隊長機がだ。
『たい、ちょう……? 隊長‼⁉ くそ、何がぁ、ぅごふ』
『逃げろ、あれは駄目だ‼ 命中率が違いすぎる‼⁉』
『バーンズ⁉ ち、く、しょうっ‼』
残された隊員から悲鳴が漏れる。
しかし、救いは訪れない。
この戦場にはヒーローが存在しないのだから。
もっとも、彼らが救う存在は『庇護対象』に限られるのだが。
2
波紋は海上にも広がっていた。
「これが、学園都市の実力とでも言う、のか……?」
赤い光線が放たれるたびに、敵の航空機が次々と墜落していく。
敵が密集していたこともあり、全滅までに一分も掛からなかった。
圧倒。
まさにその一言だった。
「ちょっと、流石に信じられませんね……」
「……我々は夢でも見ているのか?」
こんなこと、神聖ミリシアル帝国でも不可能だ。
アニュンリール大使の『魔法帝国の尖兵』という言葉もあながち間違いじゃないらしい。
そうでもなければ有り得ない。
とは言え学園都市は完全な科学文明なので、その可能性は極めて低いだろうが。
「……っ、……海峡に………。…………戦艦が……」
「っ? ……艦長‼」
部下の声掛けで正気に戻る。
危ない。完全に呑まれていた。艦長としての責務を果たさなければ。
「どうした? 何があった?」
「フォーク海峡にグラ・バルカス帝国の戦艦が現れました‼ 我々を閉じ込めるつもりです‼」
「何だと⁉ 砲撃戦の用意をしろ!」
「了解、砲撃戦用意‼」
双方の距離は三十キロメートル。
射程までは遠いが、準備をするに越したことはない。
「砲撃戦用意、終わ
どっっっガッッッ‼‼‼ と。
学園都市戦艦の主砲から、青白い光線が放たれる。
それは束を成してグラ・バルカス帝国の戦艦に、二番艦のハイパーシュプリカムの正面装甲にぶち当たり————。
——
「…………………………………、は?」
一条の閃光が戦艦を串刺しにし、通り過ぎたのだ。それも正面から、後方にかけて。
呆然とした。しかし、即座に引き戻される。
誘爆。
ただでさえ満身創痍な戦艦に、追加の一撃が与えられたのだ。
当然耐え切れず、船は十数秒で沈んでいく。あれでは中のクルーは全滅だろう。
「うそ、だろ……? 一撃で……?」
艦長の呟きに答える者はいない。
誰もが現実を受け入れられず、ただ立ち尽くしているだけだった。
3
グラ・バルカス帝国軍の混乱は、他国の比ではなかった。
「ッッッ‼⁉⁇ 何が、何が起きて‼⁉」
先程まで、その威容を見せつけながら進撃していた同型艦が、突然爆発し、轟沈したのだ。
船体には巨大な穴が開いている。そこから浸水したのは明白だ。
しかし、塞ぎようがない。一目でそう思えるほどに、巨大な穴であった。
「……馬鹿な、有り得ない‼⁉」
「嘘、だろ……、だって……」
一撃必殺。
これまで数々の敵船を沈めてきたが、文字通りのそれには出会ったことが無かった。
第一射はそう当たるものではない。
「なっ、え? どういう……は?」
「か、艦長‼ 指示を下さい‼‼」
「待てよおい、貫通? 有り得ないだろうがよォ‼」
艦橋は騒然とする。
しかし、混乱の渦に巻き込まれているのは艦長も同じだ。
しばらくは場を鎮めることは出来なかった、が。
「て、撤退しろぉぉぉぉ‼‼ 取舵一杯‼‼」
「りょ、了解‼‼」
幸いにも奴らの船速は遅い、逃げられるはずだ。
自分にそう言い聞かせ、精神を落ち着かせる艦長。
(あの戦艦は我が方の半分ほどの速度だった‼ だが、あの主砲を撃ち込まれたら……いや、あれだけの規模だ。再装填には時間が
否。
二条の閃光が。
艦橋の左右を通過し、レーダーだけを正確に破壊した。
「っ、な……ッッッ‼⁉⁇」
恐らく偶然ではない。遊ばれているのだ。
現に、第三射で艦後方のカタパルトを狙撃されたのだから。
「機関最大‼‼ 射程範囲外まで逃げろ‼‼」
「これが限界です‼ これ以上は無理ですよ‼」
もはや、なりふり構っていられなかった。
プライドがなんだ。名誉がなんだ。
ここを乗り越えなければ話にすらならない。
だが、気付いていなかった。通信が妨害されていなければ、伝わっていた筈の報告。
とある航空隊が命と引き換えに掴んだ情報を、彼らは知らなかったのだ。
ッッッドン‼‼ と。
学園都市の戦艦が荒波を切り裂き、急激に加速する。
「……は?」
空気が漏れるような声を出したのは、果たして誰だったのか。
いや、チェックメイトを決められた今では関係がないのだろう。
難易度はルナティック。
さて、盛り上がってまいりましたよ。
4
『理解したか? 貴艦の主砲では我が艦の装甲を貫くことは出来ない。繰り返すぞ。降伏しろ』
「撃てぇぇぇぇぇぇぇ‼‼‼ 撃ち続けろぉぉぉぉぉ‼‼」
帝国最大の艦砲である、四六センチ砲。
それが一切通用しないのだ。
とても現実の光景には見えなかった。
「……なん、だ? 俺達は今、何を相手に戦っているんだ……?」
「うそ……、沈めよ‼ 沈めって‼ 頼むから沈めよォ‼‼」
かれこれ十分間も、至近距離から砲撃を行っている。
なのに。
なのに‼
敵艦の喫水部を照準する。
——弾かれる。
敵主砲の砲身を狙い撃つ。
——弾かれる。
敵の艦橋に砲身を向ける。
——弾かれる。
敵艦との距離は狂気の十メートル。
しかし。
弾かれ、防がれ、静止し、誤爆し、吸収し、受け止め、跳ね返り、滑り落ち、撃ち落される。
とても戦闘とは言えなかった。
「くそ、畜生……。傷一つ付かないのかよ……」
「艦長‼ 降伏しましょう! これ以上は無理です‼ 空母機動艦隊との通信も途絶えましたし……」
「………、」
「艦長‼‼」
「分かっている‼ くそ………、降伏の旗を掲げろ……」
「は、はい!」
「………………ちくしょう、学園都市め……」
こうしてフォーク海峡海戦は終結した。
意地とプライドを土台ごとへし折られた三千人の捕虜と、自失状態に陥ったシエリアを残して。