とある転移の学園都市   作:Natrium

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ルーキー期間が終わったので再開致します


第三十話 脅威、もしくは唯一の希望 Flamboyant_Glitter

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第二文明圏 列強国 ムー

 

 首都に存在する重厚な建物、海軍本部において、軍の主要幹部が集まる中、海戦の報告が行われようとしていた。

 この会議には、軍の主要幹部の他、外務省幹部、技術士士官のマイラス、そして戦闘を直近で見たムーの誇る戦艦ラ・カサミの副艦長シットラスも参加している。

 詳細な戦闘報告書の提出は後日されるとして、まず当事者からの生の意見を聞く事と、今後の大まかな方針決定のために会議は開催される。

 

「それでは、これより緊急会議を開催します」

 

 司会の宣言で、会議が進行する。

 

「概要を説明します。先日、神聖ミリシアル帝国の港町カルトアルパスにおいて、先進十一ヵ国会議が開催されました。我が国は、戦艦ラ・カサミを旗艦とする空母機動部隊を外務大臣の護衛として派遣いたしました。同会議において、グラ・バルカス帝国は全世界に対して従属を求めるという、歴史上始まって以来の暴挙に出ます。そればかりではなく、各国大臣がいる港街カルトアルパスに対し、攻撃を行いました」

 

 通常時であれば対処できた筈ですが、と付け加え、

 

「虚を突かれた神聖ミリシアル帝国は、巡洋艦八隻からなる艦隊と、航空機による攻撃しか戦力を集める事は出来ず、主力としては各国の外務省護衛艦隊計五十三隻と神聖ミリシアル帝国の艦隊を加えた総計六十一隻もの艦隊で対応にあたりました」

 

 あまりの大戦力に、会議室がざわつく。

 しかし、彼の役目は終わっていない。

 

「結果、グラ・バルカス帝国軍の撃滅に成功。三千人もの捕虜を確保できました。対する連合軍の損害は、神聖ミリシアル帝国の天の箱舟が数機ほどで、非常に軽微です。完勝とも呼べる戦果ですが、今回の議題はそこではありません」

 

 彼は、数秒の時間をおいて告げた。

 

「この海戦に多大な貢献をした——いえ、全ての戦果を挙げた、学園都市についてです」

 

 先ほどの騒めきとは比べ物にならなかった。

 単艦で多国籍軍と同等の戦果を叩き出すことは、それだけの異常事態ということだ。

 

「……簡易報告書は読んだが、本当に事実なのかね? 流石に信じられないのだが」

 

「恐らく事実です。詳細に関してはシットラスからの報告がございますので、そちらでお聞きください」

 

 目線で合図され、戦艦ラ・カサミの副艦長、シットラスが壇上に上がる。

 

「副艦長のシットラスです。これより、戦場の状況についてお話しようと思います。グラ・バルカス帝国の航空機の接近を探知した我々は、すぐに艦上戦闘機マリンを発艦させました。しかし、学園都市の航空機は、我が国の航空隊を軽々と追い抜き、グラ・バルカス帝国軍と交戦しました」

 

「な、そこまで差があるというのか⁉」

 

「我が国の最新鋭機だぞ! そんなにあっさりと追い抜かれるとは……ッ‼」

 

 会議室に大声が響くが、司会がそれを治める。

 

「彼らの航空機は最低でも、音速の数倍は出ていたと推察されます。また、その旋回能力も恐るべきものがあり、我が国のそれとは比べ物になりません。ですが、何より異常なのは、その戦闘能力です」

 

「……確かに、それだけの速度があれば、制空戦闘は遥かに優位になるが……」

 

「ええ、キルレシオが異常なのです。敵航空機は二百機にも及ぶ大編隊でした。しかし、それに立ち向かったのは一機、たった一機だけなのです」

 

「……一機だと? 何を馬鹿なことを。いくら性能が良くても、なぶり殺しに遭うだけだろう!」

 

「いえ、件の戦闘機は無事に帰艦しました。それも、敵航空機の数を半分に減らした上で、です」

 

 会議に出席していた重鎮が、そろって絶句した。

 そして、音の洪水が発生した。

 

「そんな、まさか⁉」

 

「ありえない‼ 一から調べなおせ!」

 

「流石にそれは、無理のある話ではないでしょうか……?」

 

 当然の反応だ、とシットラスは考える。

 直接見ていた自分でも、目の前の光景が信じられなかったのだ。見ていない者にとっては猶更だろう。

 

「生憎と、これは事実です。敵航空機の性能が不明のため、確実にとは言えませんが……少なくとも、我が国の戦闘機では相手にならないでしょう」

 

「っ……」

 

「制空戦闘における報告は以上です。続いて、戦艦に関する情報をお伝えいたします」

 

小さく咳払いをして、息を整える。

 

「まず、対空性能についてですが……彼らは単艦で、残存部隊を全て撃墜しました。半減したとは言え、百二十機ほどの爆撃機が残っていた筈なのに……あの戦艦は、それを一分も経たないうちに全滅させました」

 

「対空砲の命中率はどうだったのだね?」

 

「最低でも、九十パーセントは超えているかと。そのうえ、未確認情報ですが、対空用の誘導ロケット弾も装備しているようで……」

 

「……ふむ。なるほど、続けたまえ」

 

 平静を装っているようだが、少し声が震えていた。

 額に滴る冷や汗を見なかったことにして、シットラス続ける。

 

「ですが、なにより異常なのはその主砲です」

 

 今でも信じられないのですが、と肩をすくめて、

 

「……敵の戦艦を一撃で沈めたのです。それも、誤差の修正ができない第一射で」

 

「なっ、初弾から命中させたのか⁉」

 

「そのうえ、火力も異常でした。敵の戦艦の正面装甲に命中したかと思えば、直後、艦後部から飛び出してきたのですから」

 

「……それは、貫通したということか」

 

「ええ、恐らく実弾ではありません。魔力の反応はなかったようですが……」

 

「そこは後回しだ、兵器開発部の回答を待とう。報告は以上かね?」

 

「はい。以上で報告を終了いたします」

 

 緊張の緩和からか、小さく息を吐き、元の席に戻るシットラス。

 それを見届けてから議論は再開する。

 

 そして、最終的に議会は、『学園都市と敵対しないように、外交的努力をしていくべきだ』という結論に至った。


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