とある転移の学園都市 作:Natrium
1
所変わってグラ・バルカス帝国。
帝都ラグナの軍本部の会議室に幹部が集結し、重大な会議が行われようとしていた。
会議には、帝国の三将とも言われる、
帝都防衛隊長 イジス
帝国海軍東方艦隊司令長官 カイザル
帝国監査軍司令 ミレケネス
も参加していた。
特にカイザルにあっては帝国の軍神とも言われ、彼の一言一言に軍部が注目するほどの影響力を持っている。
立案した作戦の九割を成功させ、帝国を勝利に導いてきたエリートであるがしかし、この場における彼の表情は暗い。
理由は簡潔であった。
「これより、東部方面艦隊通信途絶事件に関する意思決定会議を執り行います」
事の発端は、カルトアスパルへ派遣した艦隊からの定時連絡が途絶えたところにある。
「前回の会議でも説明しましたが、作戦開始予定日以降、戦艦グレートアトラスター、及び空母ペガススからの入電が一切ありません。装置が故障した可能性が高い、との見解でしたが、一週間が経過した現在でも無人島基地への寄港は確認されていません」
若手の幹部が読み上げる報告書の内容に、三将の顔がそれぞれ歪む。
通信装置が故障しただけなら、付近の秘密基地に舵を取り、修理と報告を済ませればいい話だ。しかし、一週間も音沙汰がないとすれば、考えられる可能性は二つに絞られる。
機関に異常が発生し、航行不能に陥ったかもしくは——
「——
「むぅ……」
会議場に緊張が走り、静まり返る。一隻でも過剰戦力ともいえるGA級戦艦を——それも、最新鋭空母の支援を付けたうえで——二隻も派遣したのだ。
それが撃破されたとなると、非常に不味いことになる。
「だが、考えにくい話ではないかね? そもそも学園都市以外の軍艦の戦闘力は、わが軍の前では無いに等しいというのに。それこそ、学園都市の戦艦の性能が想定より数段階高かった——などということがない限りは、ありえないことであろう?」
「……イジス殿。その最悪の想定が的中している可能性もあるのですよ。ここは慎重に事を進めるべきなのでは?」
「だが、かの兵器研究部が言うには、敵戦艦の性能はGA級戦艦と同等であるらしいじゃないか。そのために態々金食い虫のGA級戦艦を三隻も建造したというのに……」
「その件に関しても、派遣しているスパイからの情報を待ちましょう。時期的には、そろそろ何らかの情報が入ってもおかしくない頃ですが……」
ミレケネスがそう呟いた直後のことであった。
不意に、会議室の扉から激しいノック音が鳴り響いたのは。
「やかましいぞ‼ 何事か⁉」
「緊急事態です‼ 至急、幹部の方々のお耳に入れたいことが!」
その並々ならぬ様子から、ただ事ではないと判断した幹部連は、その伝令の入室を許可した。
もしかすると、派遣艦隊が敗北したのかもしれない——とカイザルは考えたが、その予想は大きく外れることになった。
それも、グラ・バルカス帝国にとってさらに悪い方向へ。
息を切らした衛兵が告げる。
「レイフォルが……レイフォル地区が——ッッッ‼‼‼」
2
時間はおよそ数時間遡る。
「機長、あと十分ほどで目標地点に到達いたします」
学園都市の、超音速輸送機内での会話であった。
「うむ。……六枚羽の投下準備を始めろ! 地殻破断で敵軍基地を壊滅させた後に出撃させる。最終チェックを怠るな‼」
「はっ、了解しました!」
「駆動鎧部隊は、六枚羽が逃した残党の殲滅にあたれ! ただし、降伏の意思が見られる場合は別だ。新世界での国際法に則って、人として正しい判断を下すように」
現在、超音速機の編隊は列を成して並走している。
前方には護衛と対艦・対地攻撃を兼任する戦闘爆撃機、HsFB-17が。
中央から後方にかけては、『前線基地』や補給物資、攻撃部隊などを輸送するHsT-09が、それぞれ陣取っていた。
旧世界の中堅国であっても、この編隊が通り過ぎるだけで滅亡してしまうだろう。
それほどまでの圧倒的な戦力が集結していた。
「さて、貴様らはどれ程持ちこたえられるかな? グラ・バルカス帝国よ?」
3
「おい、アニル。グレートアトラスター発見の報はまだ来ていないのか?」
「……残念ながら。とは言え、陸の我々にできることはありません。海軍からの連絡を待つしか……」
ここは旧レイフォル第三駐屯地。現在ではグラ・バルカス帝国の前線基地となっている場所である。
配備されていた兵器・施設もすべて機械式に取り替えられ、全体の印象は大きく変わっている。
「それもそうだな。だが、なぜ連絡がないのだ? 事故でも発生したのか……?」
「海軍本部によりますと、通信機の故障である可能性が高いとのことですが……」
「はぁ? 一週間も音沙汰不明なのだぞ?」
帝国陸軍の将軍を務めるシキが、海軍の楽天主義に呆れたような声を出す。
派遣艦隊が全滅していると言うつもりはないが、それにしても楽観視がすぎるのではないか?
対して副官のアニルは、ズレた丸眼鏡をかけ直しながら、
「えぇ、これは少し古い情報です。現在の方針は不明ですが、恐らく海軍のほうも陸将と同じ結論に至っているかと……」
「そうか。……動きがあり次第、報告してくれ」
「はい、心得ております」
陸軍式の敬礼を取るアニルを尻目に、帝国の将軍はぼそりと呟いた。
「だが、万が一グレートアトラスターが沈められたとなると——
「レーダーに感ありッ‼」
不意に。
指令室内に叫び声が響いた。
「なんだと⁉」
「空襲か! どこからだ?」
全員が作業を中断して、声がした方向へ振り向く。
その報告が事実なら、ここまで敵軍が進行しているということになる。それは即ち、派遣艦隊が敗北したことを意味していた。
緊迫した表情で機材に張り付き、そのデータを読み上げる。
「北東方面からです! 数は二十四機、いずれも小型機で……っ⁉ 速度が——
「伏せろォォォォぉぉぉぉおおおおお‼‼‼」
幹部の一人が大声を張り上げる。
軍事レーダーとは無縁の彼がそんな叫びを放った理由は簡単だ。
ガラス越しの空から、超大型機が飛来するのを直視した。
たったそれだけのことである、が。
それは、すなわち——
4
ガカァッッッ‼‼‼ と。
幾筋もの閃光が、すべての軍事施設を薙ぎ払った。
5
「がっ、ぐぁ……」
陸将のシキが痛む頭を押さえながら、うめき声をあげた。
辺りには土煙が立ち込めており、まともな視界が確保できない。
「だ、れか、無事な者はいるか……? 状況を、説明しろ……」
アニル、と呟こうとしたところで、口を閉ざした。
目の前に血だまりが広がっていたからだ。
「なっ……」
恐らく崩落した天井に、押しつぶされたのだろう。
瓦礫の中から右腕だけが生々しく露出しているのみで、他のすべては瓦礫の下に埋もれている。
そして。
生暖かい風が吹き、土煙が晴れる。
そこに。
あったのは。
衝撃でフレームが大きく歪み、ひび割れた丸眼鏡。
「っ、アニル……。お前、なのか……?」
しかし、悲しみに暮れている時間はなかった。
空気を激しくたたきつけるような音が、上空から響いたのだ。
将軍は先ほど爆撃を警戒したが、どうやら様子が異なる。
辛うじて残っていた壁の陰に隠れながら、空を見上げて、
「っ、な、あ……っ!」
一面に何かが広がっていた。
それも、十や二十といった数ではない。
その正体は。
「空挺部隊⁉ くそ、不味い‼‼」
そのうえ、どこから現れたのかは知らないが、回転翼機らしきモノまである。
遠くには巨大なカマキリ? のような存在も確認できる。あの辺りにはたしか、戦車の格納庫があったはずだ。恐らくそこも同様に襲撃を受けているのだろう。
到底、援軍など期待できなかった。
「ち、くしょうが‼」
あるいは、今まで強大な軍事力を持つ魔術サイドに単騎で対抗できていたのは、量産性に富む科学兵器の性質によるものなのかもしれない。