とある転移の学園都市   作:Natrium

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大変お待たせいたしました。
いろいろポカしたり、テストに旅行に修学旅行と様々なことが有りましたが、ようやく最新話です。


第三十四話 仮想展望、その相違 the_Dark_Continent_“LEIFOR”.

    1

 

 旧レイフォル領。

 現在はグラ・バルカス帝国、レイフォル州と改名されたその地域に――いいや、その呼称すら既に過去の物になろうとしているのか――一人の軍人が足を踏み入れた。

 

「なんと、凄まじいな」

 

 現場視察に来たムー国指令、ホクゴウは戦車の残骸らしきモノを見て、思わずそう呟いた。

 レイフォルに駐屯していたグラ・バルカス帝国軍は、学園都市の軍隊と交戦して壊滅したらしい。

 すべてを確認した訳ではないので、()()()としか言いようがないが、彼らの実力を考える限り嘘ではないのだろう。

 わざわざ再確認するまでもなく、目の前にその実力行使の結果が示されているのだから。

 

「俄かに、信じられません……。これほど一方的な戦いになるなんて……」

 

 あるいは、断面が中空となっている筒状の金属塊。

 あるいは、赤黒く焦げた液体が癒着している立方体のような何か。

 あるいは、四方に棒切れを突出させる炭化した直方体。

 

 一名の生存者もいない絵に描いたような地獄が、視界を完全に占拠していた。

 

「戦車の性能も、業腹だが我々は帝国に劣っていた。一点に集中して運用する最終兵器としての戦車とは違い、帝国のそれは限りなく戦車の理想形に近づいていたのだ。……我々だけでは確実に、対処はできなかった筈だ」

「……仰る通りです。ですが、今の私たちには心強い同郷の友がいます。そう悲観的になることは――」

「分かっている。だが、第二文明圏で起きた事変だというのに、その長であるムーが事態を座視するだけでは世界二位の大国の名が廃る。……実質的な順位は兎も角としても、な」

 

 ホクゴウは手持ち無沙汰に煙管を弄びながら、

 

「ただまぁ、今はアルーへの被害無く帝国を大陸から追い出せたことを素直に喜ぼうか。最悪の想定である、キールセキ防衛計画も発案せずに済みそうなことだしな」

 

 学園都市の介入が無ければ、確実にアルーは陥落していた。

 都市構造や立地などの地形の構造が、陸軍を展開するには致命的に都合が悪く、大規模な軍隊を送り込むことは不可能であることは軍の内外問わずに周知されていたのだ。

 実質的に住民や防衛隊を見殺しにするという決定であるため、ホクゴウも強く反発していたのだが、他に良案が思い浮かぶ訳でもない。

 そのため、決定には不承不承で従っていたのだが……。

 

「それにしても」

 

 カイオスはため息を吐くように言う。

 

「半刻も掛けずに軍事基地を殲滅する程の大火力を持つ軍隊を、僅か半日で世界の裏側まで運び込む超音速輸送機群、か。ははっ、下手なSFでももう少しマシな性能をしているぞ、学園都市め」

 

 自嘲的に笑うも、その目には確かな光が宿っていた。

 見る人によっては獰猛とも取られる眼光を迸らせながら、壮年の最高司令は嘯く。

 

「だが、味方であるなら心強い。……彼らを敵に回すとどうなるか。後学の為にもしっかりと見学させてもらおうじゃないか?」

 

 

 

 

   2

 

 ガタンッッ‼‼ と。

 豪華な装飾が施された椅子が音を立てて倒れ、軍本部の会議室に静かに反響した。

 

「っ……、ッ~~‼」

 

 帝都防衛隊長イジスが、声にならない絶叫と共に立ち上がった際に発生した音である。

 然しものカイザルもその光景を横目に見ながら冷や汗を流すが、やはり帝国一の切れ者の称号は伊達ではなかった。すぐに思考を回転させて必要な発言を行う。

 

「それは……事実なのだな?」

 

 半ば諦念を含みながらも絞り出されたその問いに返されたのも、同様に平凡な答えであった。

 飛び込んできた衛兵の返答を以って状況を再確認したカイザルは、他の三将へ向けて言い放つ。

 

「……極めて深刻な事態だ。ここで判断を誤れば半年も経たないうちに帝国は崩壊する。後で詳細な情報を収集する必要はあるが、ひと先ずは今の報告が全て事実であることを前提とした話し合いを行うべきだと私は考える。……異論はあるかね?」

「だ、だがっ、あり得ないだろう‼ 先の世界会議侵攻から一週間も経っていないのだぞ! その期間内に学園都市が戦力を集めて、第二文明圏のレイフォル州まで送り届け、挙句の果てにはバルクルスを通信途絶にまで追い込んだだと⁉ それもたったの数十分でだ! 冗談にも程が――」

「イジス、心情は痛いほど分かるが、今は彼の提案に従った方が良い。もし事実なら相当に厄介な問題だぞこれは……」

 

 監査軍を統括するミレケネスが、熱された鉄のようになったイジスを宥めるも、状況は何ら好転していない。

 早急に事を進める必要がある。

 

「誤報であるならそれで構わない。だが、『襲撃を受けている』という通信の直後に突如途絶。通信の内容には、空挺部隊と超高密度の爆撃、そのうえ兵器開発部門の機密事項である()()()()らしき存在まで確認できた」

「前線の兵士にはまだ伝えていない情報でしたか。となると、……不味いですね」

「これが集団ヒステリーで見えた幻覚であれば良かったのだが、それにしては随分と戦略性が見えてくる。空挺戦車もそうだが――特に気掛かりなのは爆撃機だ」

 

 カイザルは一言おいて、

 

「常識外の速度で爆撃を行ったとされる謎の航空機。爆撃規模から超大型機と推測されるが……この技術を転用すれば、超高速で空を駆ける大型輸送機も生み出せる筈だ。少なくとも、私なら部下にそう命じるだろう」

 

 そう仮定すればすべてが繋がるのだ。

 

 不自然なほど素早く展開された学園都市の軍勢。

 ムーに学園都市の戦力が集結したという情報は未だに入っておらず、どこから襲撃されたのかも不明。

 しかし、たった一つの前提さえあれば全てが覆る。

 

「まさかっ、……いや、そうなるのですか……ッ⁉」

「あぁ、先ほどは仮定と言ったが――」

 

 ただでさえ締まった表情をさらに引き締めて。

 その決定的な一言を、告げる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。それも、デタラメな航空機を利用した、前代未聞の強襲作戦によって……、な」

 

 

 バルクルスが、ではない。

 規模こそ劣るがレイフォル州には他の陸軍基地も多数点在している。海軍基地も、空軍基地も同様だ。

 だから。

 そこに噛みついたのはやはり、今の今まで黙り込んでいたイジスその人であった。

 

「何故だ⁉ バルクルスが陥落するだけでも非常識だというのに、他すべての基地も同時にだと⁉ あり得ない、絶対に! あり得るはずがないだろうが‼」

「敵の実力は我々の想定よりも高かった。恐らくは、海上戦力においてもそうだったのだろう。だからこそ派遣艦隊が破れ、バルクルスも堕とされた」

「しかし――」

「お前ほどの実力者なら分かるはずだ。……いいや、心の底では本当はもう分かっているだろう?」

「っ」

「世界各地に高火力の打撃部隊を展開し、軍事基地を撃滅することが可能な輸送機。それでいて、並みの戦闘機では追跡することすらできない怪物的性能を誇っている……。この場の情報だけで類推してもこの有様だ。学園都市は科学で発展した国家だと聞いていたが、これが科学の領域だと? 冗談にも程がある、魔法だと説明された方がまだマシだ!」

 

 吐き捨てるように愚痴を叫び、らしくないと考えながらもカイザルは続ける。

 

「あるいは、本当に魔法を取り入れている可能性もあるが……、いずれにせよ非常事態であることには変わりはない」

「そん、な、馬鹿げた話が……」

「今では、他の帝国軍基地との交信も途絶しているのだったな。……バルクルスのように襲撃の知らせがあった訳ではないが、報告をする時間もなく全滅した可能性も十分に考えられる」

「じ、磁気嵐がっ! この世界には磁気嵐があるだろう⁉」

「その可能性も否定できない。だが、襲撃があったこのタイミングでだと? 笑わせるなよイジス」

「っ……、だがっ‼」

「そこまでだ、話を進めてくれ。軍神とも呼ばれる――カイザル、貴方の結論を知りたい。この状況をどう見るのか。そして、我々軍部はどう動けば良いのか。是非とも意見をお聞かせ願いたい」

 

 涼しい顔で収めたのはミレケネスであった。

 カイザルも僅かに考え込み、顎に当てていた二本指を離す。

 

「この新世界で我々は、文明レベルの差という強力なアドバンテージを以って諸国を屈服させてきた。しかし今はその性能差の優位が、打って変わって我々に牙を剥いている」

「……、」

「単純に、今までの帝国と植民地の関係を再確認すれば済む話だ」

 

 つまり、と常勝の英雄は神託を放つ。

 

 

「場合によっては講和も――いいや最悪の場合、降伏も視野に入れる必要がある。ということだな」

 

 

 誰もが反論をしたかった。

 旧世界でも新世界でも栄華を誇ったグラ・バルカス帝国。その最強の軍隊には、敗北の文字など有り得ない筈であった、が。

 予想される兵器の性能は荒唐無稽の一言であり、事実であれば確実に帝国は敗れ去るだろう。

 だが、異常も異常。予想と言うより、妄想の産物という言葉の方が似合っている。

 

 しかし。

 直後に裏付けられた。

 

「緊急事態です! レイフォルに近い無人島基地から、海軍基地壊滅の報が‼ 小型艇で脱出したとされる少尉からの口頭伝達で、中には戦艦が輪切りにされたという情報まで――、とにかくっ、緊急事態です‼」

 

 

 

 これはあくまでも序章。

 後年の歴史書によると、帝国軍本部の会議室の明かりは一昼夜、絶えることなく燃え続けていたとされている。

 


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