とある転移の学園都市 作:Natrium
1
フェン王国、首都アマノキ沿岸部
「あれが学園都市の戦船か・・・まるで城だな」
「いやはや、ガハラ神国から事前情報として聞いてはいましたが、これほどの大きさの金属で出来た船が海に浮かんでいるとは・・・。」
剣王シハンが漏らした感想に騎士長マグレブが同意する。
「私も数回、パーパルディア皇国に行った事がありますが、これほどの大きさの船は見た事がありません」
彼らの視線の先には、学園都市の最新兵器、HsBBY-01が浮かんでいた。
沖合にはフェン王国の廃船が四隻、標的船として浮かんでいた。距離は護衛艦から二キロメートル離れている。剣王シハンは望遠鏡を覗き込む。今回は戦艦なる船が、一隻だけで攻撃を行うようだ。
「剣王、今から我が国の廃船に対する学園都市の戦艦からの攻撃が始まるようです」
その言葉と同時に、学園都市製の戦艦の主兵装、『陽電子衝撃砲』にエネルギーが収束し始め、
どっっっガッッッ と。
青白い光が、束と成りながら標的艦に突き刺さった。
直後、標的船は猛烈な爆発を起こし、消滅した。
爆散ではない、文字通りの『消滅』。そう表現する他なかった。
「…………これは……声も出んな……。……なんとも凄まじい」
剣王シハン以下フェン王国の中枢は、自分たちの攻撃概念とかけ離れた威力を目の当たりにし、唖然としていた。
一回の攻撃で、四隻をあっさり沈める。しかも、有り得ない程の攻撃力で。列強パーパルディア皇国でも、そんな芸当は出来ない。
「すぐにでも、学園都市と国交を開設する準備に取り掛かろう。不可侵条約はもちろん、出来れば安全保障条約も取り付けたいな……。」
剣王は少しばかり引きつった笑みで宣言した。
2
学園都市製戦艦、HsBBY-01第一艦橋
学園都市製の超高感度レーダー『九九式空間電波探信儀』が、西側から近づく飛行物体を捉えた。時速にして約三百五十キロメートルで、二十機ほどが近づいてくる。
「レーダーに感あり。この反応は……ワイバーンロードですね」
金髪の女性レーダー手が報告を上げた。
「確か、西方にはパーパルディア皇国という国があったな」
「はい」
「フェン王国の軍祭に招かれているのではないのか?」
「……一応、フェン王国に確認をしましょうか」
その飛行物体はフェン王国首都アマノキ上空に至ったが、王国からの返答は無かった。
3
パーパルディア皇国皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード部隊二十騎は、フェン王国に懲罰的攻撃を加えるために、首都アマノキ上空に向かっていた。
軍祭には文明圏外の各国武官がいる。その目前で、皇国に逆らった愚か者の国の末路はどうなるか知らしめるため、あえてこの祭りに合わせて攻撃を行うことが決定されたのだ。
これで、各国は皇国の力と恐ろしさを再認識することだろう。そして逆らう者の末路、逆らった国に関わっただけでも被害が出ることを知らしめる。
しかし、ガハラ神国の風竜三騎も首都上空を飛行している。
風竜が皇国ワイバーンロードを一目見ると、ワイバーンロードは、不良に睨まれた気の弱い男のように、風竜から目を逸らしてしまう。
よって。
「ガハラの民には、構うな。フェン王城と、そうだな……あの目立つ黒い船に————
そこまで言って、ようやく気が付いた。
「何だあの馬鹿げた大きさはっっ‼⁉ 蛮族如きがこんな船を……いや、外面だけならいくらでも作れるか……。なら、あの船モドキに航海能力、ましては攻撃能力など無い‼‼ ただのこけおどしだ‼ 蛮族には新兵器だとでも勘違いさせられるだろうが、我らには通じぬ‼‼ 命令変更だ、あの船に総攻撃を仕掛けよ‼‼ 奴らの希望諸共、へし折ってやれっ‼‼‼」
彼の部下たちは、朝日を浴びて黒光りする巨大戦艦へ突撃した。
4
「未確認機、本艦に急降下——これは、魔力反応‼⁉」
第一艦橋に悲鳴のような報告があがる。
「いかんっっっ‼‼」
次の瞬間、パーパルディア皇国の皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード二十騎は、直下約五百メートル付近に停泊中のHsBBY-01に向けて、導力火炎弾を放出した。
「未確認機、我が方へ発砲‼」
「出力最大‼ 艦上方に『魔導防壁』を展開せよ‼‼」
HsBBY-01は機関の出力を最大にし、唸りを上げる。
そこに、火炎弾が迫り、
ギュィイン⁉ と。
突如出現した青いヴェールが火炎弾を吹き散らした。
そして。
「対空戦闘用意‼‼」
戦闘班長の掛け声で、『四連装高角速射光線砲塔』八基が敵機に照準を合わせた。
5
「何だッッ⁉ 今の障壁は⁉ 火炎弾を全て防いだだと‼⁉」
急降下から、水平飛行に移行したワイバーンロード二十騎は、自身の攻撃が通用しないモノを前にして困惑していた。ワイバーンの強化個体であるロードの導力火炎弾は、並大抵の装甲では防御できない。列強国の砲艦でも無傷とはいかないだろう。
だが、目の前にあるものはなんだ?
船全体を包み込むように結界魔法が張られているとでも言うのか? いいや、そんな魔法は聞いたことがない。列強でも実現されていないのだ、文明圏外の蛮族共に作れるはずがない。
(ならば一体どういう事だ? 列強以上の力を持つ国など、この世界にあるはずもないし……まさか、『果ての世界』か? それならば未発見であるのも頷けるが————)
———竜騎士の思考はそこで停止した。
何か特別なことが起きたわけではない。彼はただ、カシャン という音を聞いただけである。
それ自体は非常に小さい音だった。しかし、致命的な事態に陥ったような気がしてならない。その感覚に従い、振り向いて敵船を確認するために振り向き———
———目があった。そんな風に感じた。
振り向いた先に人がいた訳ではない。だが、『ナニカ』に狙われている気がしたのだ。
現に、ハリネズミのように船に突き刺さる鉄の棒が寸分狂わずこちらに向かって……
彼は全力で急降下した。
直後。
赤い閃光に引き裂かれた仲間の遺体が、竜騎士の頭上に降り注いだ。
「ッッッ⁉⁇」
明らかに即死。しかし理由が分からない。
あの細長い棒は大砲だったのだろうか。だが何故上空を飛び回る標的に、こうも正確に命中させられるのかが分からない。こんな事、決して人間にはできない。
相手が人間でないとするのなら何だ? 古の魔法帝国でも復活したとでも言うのか⁉
(もしそうなら、急ぎ本国へ報告をしなければ———
ズバチュッッ‼⁉ と。
上空の竜騎士を殲滅し終えたパルスレーザーが、低空飛行を行っていた最後の一騎を絡め取った。
6
剣王シハン及びその側近たちは、開いた口が塞がらなかった。
ワイバーンロードは、間違いなくパーパルディア皇国のものだろう。我が国が、ワイバーンロードを追い払おうと思ったら、至難の技だ。
一騎に対して一個武士団でも不足している。そもそも、奴らは鱗が硬く、弓を通さない。
バリスタを不意打ちで直撃させるか、我が国に伝わる伝説の剛弓、「ベルセルクアロー」を使うしか無いが、ベルセルクアローは硬すぎて国に三名しか使える者はいない。
つまり、戦闘態勢にあるワイバーンロードを仕留めるのは、事実上不可能に近い。よって、文明圏外の国で、一騎でもワイバーンロードを落とすことが出来れば、国として世界に誇れる。
我が国は、ワイバーンロードを叩き落すことが出来るほど精強であると。
それを、学園都市の奴らは、いともあっさりと、地面を這うアリを踏み潰すかのように、ワイバーンロード竜騎士隊の精鋭を二十騎も叩き落してしまった。
歴史が動く、世界が変わる予感がする。
ワイバーンロードは、おそらく自分たち、フェン王国への懲罰的攻撃に来ていたのだろう。
学園都市をこの紛争に巻き込めたのは、天運ではなかろうか……。
剣王シハンは笑いながら、そう考えた。
7
「竜騎士隊との通信が途絶しました」
魔導通信を担当する武官からの報告によって、艦隊に衝撃が走った。
「いったい何があった……」
提督ポクトアールは思わず嘆きそうになる。何かいやな予感がする……。しかし、これは第三外務局長カイオスの命である。国家の威信をかけた作戦だ、実行しない訳にはいかなかった。
皇国監査軍東洋艦隊二十二隻は、フェン王国へ懲罰を加え、今回ワイバーンロードを倒した皇国にたてつく者に対し、各国武官の前で滅するため、風神の涙を使用し、帆をいっぱいに張り、東へ向かった。
———科学と魔術、双方の技術を利用して建造された化物戦艦が待ち構えている海域に......