我は斬る、故に我あり   作:春眠暁を覚えず

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性懲りも無く書いてしまった。




一話

 

 

 斬りたい。

 幼い日、父に見せてもらった刀が脳裏に浮かぶ。あの日、あの瞬間——俺は刀に魅入られ、そして斬りたいと願った。

 俺は父に懇願し道場に通わせてもらった。父は反対していたが、俺の初めての願い、そして熱弁が功を奏したのだろう、若干の渋りはあったが許可が出た。

 道場に入り、周りには年上の門下生、師範代と共に刀の稽古をした。

 型に倣った素振り、座禅、足さばき、剣の打ち方、その他諸々。厳しくもあったが、何よりも楽しかった。

 門下生も良くしてくれたし、師範代も熱心に教えてくれた。

 だが、それだけでは何かが足りなかった。

 俺の心が満たされない。今やってるのは俺が望んだモノではない。だけどそれが分からない。

 何が足りない? 何が欠けている。分からない。

 

 そんな苦悩の日々は続いて半年、道場に師範がやってきた。

 聞けばこの師範、数十年前、異形のみならず人と人が争っていた時代を駆け抜けた歴戦の侍。数多の人を斬り、幾多の異形を斬り、その武功を挙げた英雄とのこと。

 だが寄る年波には勝てず、老後は隠居していると噂で聞いた。それ故、幼い俺はあまり興味がなかった。老人に教わったところで何の意味もない。過去の栄光はどれだけ誇ろうと所詮は過去だ。昔に縋っていなきゃ生きられないのなら一生隠居していろと……今にして思えば愚かな考えをしていたと笑い話くらいには出来る。

 だからそんなくだらない考えは……彼を見た瞬間に露と消えた。

 齢100を超えながらも、その風格に衰えはなし。服の上からでもわかる引き締まった筋肉、その動きその仕草に無駄はなく、師範代を含めた道場にいる門下生全員が襲いかかっても間違いなく彼に軍配が上がると幼い俺ですら解ってしまった。

 呆然と師範を見ていると彼と眼が合う。

 数多の修羅場を潜り抜けてきた獣の眼光、その二つの眼が俺を見ている。ただそれだけで息を呑む。足がすくむ。殺されるのではないかと、刀を持っていないのに斬られるのではと思えた。

 師範は暫くして師範代に俺を指差して、

 

『この餓鬼、俺に預けろ』

 

 その時の師範代の顔は忘れられない。そして俺もこの日を忘れない。

 

 

 ————其処こそが俺の分岐点であり、運命だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆらゆらと小船が揺れる。

 小舟に身体を預け、楽な態勢で座り、周りに存在する音を楽しんでいた。

 水を掻き分け進む音と風の音、櫂の漕ぐ音。その少ない音は安心感を与え、心地よい気持ちになる。

 

「しかしまあ、珍しいもんですな。このご時世、西に渡りたいなんて」

 

 漕ぎ手の声に意識が呼び戻される。だが気分は害していない。周りの音だけでもいいのだが、実はさっきからこの音しか聴いていない。何時迄も聴いていれば飽きがくる。何より男二人、何も言を発さずにいるのは少し気まずい。

 

「そうかな?」

 

「ええ、西には異形の化外が沢山いるって聞きました。それに人ならざる種もいるらしいって噂です」

 

 確か……えるふとどわぁふだったっけ、と呟く漕ぎ手の話に興味が湧いた。

 どうやらこの世界で生きるものは人間と異形だけではないらしい。また一つ世界の広さを知った。やはり己は大海を知らぬ蛙であった。

 胸が踊る。知らない世界、知らない人、未知が広がっている。

 

「それでお客さん、どんな用事で西へ行くんですかい? やっぱり冒険者に?」

 

「そうだねぇ……まあ取り敢えず今はお使いかな」

 

「お使い、ですか」

 

「そそ」

 

 ある日、師範に手紙が届いた。

 送り主は何処かの国の王様。

 魔神だの悪魔だのが増えまくって襲ってくるとかなんとかで師範の腕を聞きつけ手紙を出したとか。

 まあそれは正しい。師範は可笑しいくらいに強い。というかアンタ本当に人間? って疑いたくなるレベルだ。

 だけど師範の腕前を知ってはいるが、師範の事は何も知らない。

 というのも——

 

『は? んなもん行くわけねえだろ、面倒くさい。こちとら隠居してんだ。世界の危機とか知ったこっちゃない、俺の生活の方が大事に決まってんだろ』

 

 このように自分本位なのだ。しかもやる気にならないと動かないタイプ。さらに超がつくほど頑固だから行かないと決めたら梃子でも動かない。

 だが送り主は王様だ。行きませんとか抜かしたら国家反逆罪だとか難癖つけられて面倒くさい事この上ないというのが容易に想像出来る。

 まあ魔神やら悪魔やらが襲撃しようとしてるのにわざわざ兵を割く余裕は無いとは思うのだが……万が一というのもある。

 そんな感じの事を言うと、

 

『あー、じゃあ丁度いい。お前、俺の代わりに行ってこい。そろそろ外の世界って奴を見に行け』

 

 とまあ、こんな感じで有無を言わせず少ない路銀と手紙と一緒に入っていた合流する場所が書かれた地図、それと刀を貰って放り出された。

 なんたる横暴、これが師範じゃなきゃぶん殴ってたぜ。というか地図入ってる時点で強制じゃねえか。

 しかし、師範の言う事も分かる。俺は外の世界を知らない。人だって殺した事はないし、異形も殺した事はない。狩りで獣は殺したが、まあそれだけだ。

 

「あとはまあ、あの噂が本当かどうか確かめたいかな」

 

「噂? ……ああ、あの小鬼殺しの噂ですか?」

 

 とある日、ある噂が広まった。何処かの詩人が語った物語が巡り巡ってこんな田舎まで伝えられたんだろう。

 異形があまり少ない場所でそんな噂が広まったから珍しくて少し興味があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

此処より西に小鬼を殺す英雄あり。

 

 其の者、名誉を求めず、地位を求めず、富を求めない。

 

 彼の者が求めるのは小鬼の首、ただそれのみ。

 

 小鬼が滅びるその時まで、彼は地獄の果てまで追いかける。

 

 ———例えその身が朽ち果てようと。

 

 

 

 

 

 

 

「しかしまあ……いるんですかねぇ。その小鬼殺しとやらは」

 

「さあ? でも火の無いところに煙は立たないというし、尾鰭背鰭は付いてるだろうけどある程度本当なんじゃないかい?」

 

 曰く、彼は小鬼——西側ではごぶりんだったかな——にしか興味がないらしい。他にも異形はいるのだが小鬼にしか狙わない。

 理由など考えれば少しはわかる。

 恐らくは復讐。家族か、あるいは同等の人を殺されたか。

 彼は富や名声に興味がないらしい、ならば考えられる理由など復讐しか思い浮かばない。まあ小鬼を殺す事に悦を見出してる変態ならば話は変わるが。

 とまああれこれ考えてはいるが、優先すべきは地図に書かれた合流地点まで行くこと。

 噂の小鬼殺しは、その道中で運が良ければ会えるだろう。

 

「お、見えてきましたぜ」

 

 漕ぎ手の声と共に進む先を見る。薄っすらと見える地は、やがてはっきりと見えた。

 漕ぎ手は小舟を岸と平行につけ、流されないよう固定する。

 

「よっと……」

 

 船から降り軽く伸びをする。小気味好い音を身体から鳴らし、辺りを見回す。

 風で草木は揺れ、俺が居た所とは違う匂いが漂う。

 

「そういえば旦那、あっちでは何をやってたんですか?」

 

 唐突に漕ぎ手が問い掛けた。

 ———何をやってたか、か。

 かなり難しい質問だ。あっちでは特別なにかしていた訳じゃない。やっている事は師範との稽古と、獣を狩るぐらいしかしていない。

 

「残念ながら何もやってないんだよ。あっちでは師範との稽古や獣を狩りに行ったり村の皆の手伝いをやってるだけだったからね」

 

 ある意味で村では何でも屋みたいな扱いではあったが、特に不満を感じた事はなかった。生きる為にやらなければならない事だったのだから、恥じる事など何一つとしてないのだ。

 

「でも、そうだね……なりたいものはあるんだ」

 

「へえ、そりゃ何です?」

 

 何年、何十年掛かるか分からない。もしかしたら成れるのかさえ分からない。

 だが成ってみせよう。

 あの日、あの時、俺が刀に魅入られそして願った想いを裏切らない為に。

 漕ぎ手に向き合い、そして告げた。

 

 

 

 

 

 

「————天下一の剣士になりたいんだ」

 





ゴブスレブームに乗っかって見た。(遅い)
妖精弓兵可愛い。(可愛い)
Fgoの1180日連続ログインを途切れさせてしまった怒りで書いてしまった。(ここ重要)

矛盾やら何やらがめっちゃあると思うので、温かい目で見てください。
あと豆腐メンタルなんで優しくオブラートに包んでくれると超嬉しいです。嬉しいです!
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