我は斬る、故に我あり   作:春眠暁を覚えず

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二話

 

「……不味いな」

 

 ————非常に不味い。

 剣士はかつてない窮地に立たされていた。

 漕ぎ手と別れ、けもの道を歩き続ける事約半日。街に近づくにつれて道は舗装され、故郷でも見たことの無い門が見えた。

 門を潜れば煌びやかな街並み。見たことのない装飾が飾られた服を着て歩く住民。只人(ヒューム)森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)圃人(レーア)と多種族が共存し生活している。

 未知の景色に目を奪われ興奮していた剣士は、これはいかんと頭を振って当初の目的を思い出す。

 師範に渡された手紙にはこれから他種族の者たちと出会う為の合流地点が書かれてある。すぐさま街の入り口から歩き出す剣士。

 未知の場所なので目的地に着くのに少し迷ったり……する事もなく、目的地まではさほど時間はかからなかった。

 そこは冒険者ギルドと呼ばれる場所で、冒険者と呼ばれる者達が集う酒場。

 そこの入り口が合流場所となっていた。

 剣士は入り口付近に立ち、ギルドの前を通り過ぎる人たちを見ながら来るのを待つ。

 そこまではいい。だが直ぐに致命的な事に気付いた。

 まずは誰が来るかという事。合流地点まで来たはいいが誰と待ち合わせているのか全く分からない。性別、人数、種族、全くこれっぽっちも知らない。

 次に何時来るかという事。具体的な日時が書かれていない為、もう来てるのか、まだ来ていないのか分からない

 最後に金が無い。漕ぎ手に渡した金が最後、というより元々渡されたのがぴったりだったのだ。

 

 ——いやだが待て。

 

 そこでは彼はふと思った。手紙を渡したのも師範で金を渡したのも師範、何も言わなかったのも師範だ。

 つまりこれは師範が悪いのでは? と。

 

 ——そもそも師範が金を渡したところで疑うべきだった……!

 

 師範は金を一切貸さない。

 曰く、「俺が稼いだ金は俺のもんだろ」という師範にしては至極真っ当な事を言っている。

 故に剣士は師範に金を貰った事がない。自分で村の手伝いをし駄賃を貰って生活していた。

 だから師範から金を渡された時の衝撃は凄まじかった。

 どれくらいかというと、魔神やら悪魔やらが襲って来て世界の危機と聞いても「何それ?」というレベルだったのが、金を渡された瞬間「確かに世界の危機だ」と納得するレベル。

 そんな異常事態を目の当たりにし、ほぼ放心状態のまま放り出されそして此処まで来てしまったのだから金を持って来るのを忘れるのは仕方のない事だ。

 

 ——つまり師範が悪い。

 

 責任を押し付け、さて如何しようかと頭を悩ませる。

 依然、事態は変わらない。飯を食う金も無ければ宿に泊まる金もない。

 周りを見れば、うんうんと頭を悩ませる剣士を奇異の眼差しで見る人たち。少し離れたところでは小声で何か言っている。

 あと少しすれば憲兵でも呼ばれそうな雰囲気になっていることを気付きもしない剣士は何を思ったのか、

 

 ——きっと心優しい人が話し掛けてくれるはずだ。

 

 普段の彼ならそんな世迷言言わないはずなのだが……彼も混乱しているようだ。

 既に日は沈みかけ空は紅く所々暗くなって来ている。完全なる野宿コースだ。

 だが剣士は諦めない。きっと良い人が拾ってくれるはずだから! 見ていろ、明日起きる時には布団の上だ————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、何アレ?」

 

「さてなぁ、物乞いに見せかけた物盗りじゃあ……なさそうだな」

 

「触らぬ神に祟りなし——拙僧は、関わらぬが吉と見るが如何に?」

 

「それもそうね。……あーもう、何処にいるのよ! ダインスレイフはー!」

 

 以上、とある剣士の痴態を遠目で見ていたとある三人の会話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——無理でした。

 

 何が駄目だったのだろう。剣士は深く考える。

 動かざること仔犬の如し作戦は上手くいくはずだった。憂えた顔で見ていれば余りの可愛さと切なさに拾ってくれると思っていたのに……。

 拾ってくれるという思考が出てくる辺りもう完全に駄目になっている。

 

「あーもう、いつ来るんだよ! 誰かとやらはー!」

 

 もう既に日は昇り、商人たちは朝の仕入れを店頭に並べている。

 

 ——このままでは駄目だ。待っているだけではいつまで経っても来るはずがない。

 

 漸く自分から行動する事を決意した剣士。遅いような気もするがまあ其処はいいだろう。

 取り敢えずずっと居る此処で尋ねるとしよう。

 剣士は冒険者ギルドに入る。中に入れば街の冒険者がボードに貼られた依頼書を手に受付に並んでいた。

 剣士はそのすぐ隣、椅子に座って同じパーティメンバーと談笑する男戦士に声をかけた。

 

「すまない。ちょっといいかな」

 

「え? あ、はい」

 

 声を掛けると、多少戸惑った様子を見せた男戦士だがすぐさま笑顔を見せる。まだ子どもの幼さを隠しきれない顔立ち、簡素な胸当てに剣と小さい盾を身につけているところを見る限り、まだ冒険者になりたてなのだろう。

 

「人を探しているんだが、知らないだろうか」

 

「え、いや……ちょっと分からないです。誰を探しているんですか?」

 

「分からない」

 

「へ?」

 

 間の抜けた声が男戦士の喉から吐き出された。

 無理もない。人を探しているのにその人が分からないなど人探し以前の問題だ。

 一瞬にして、男戦士の目が不審者を見る目に変わった。

 

「あの、分からないんですか」

 

「うん、全く。これっぽっちも」

 

「……それじゃあ僕も分からないですね。……そうだ! 受付さんに聞けばいいんじゃないですか?」

 

 面倒事は避けたい、と至極真面な心情の男戦士は冒険者の事をよく知っているであろう受付に剣士を任せた。というか早く打ち切りたかった。

 

「お、そうなのか。いやぁ悪いね、ありがとう」

 

 そんな心情を知る由もない剣士は、親切にしてくれた男戦士に礼を言い、受付に並ぼうとしたのだが……未だ受付の前では依頼を受けようとする冒険者でごった返しているため、空くまで待った。

 漸く受付が落ち着いた頃を見計らって受付嬢に近づく。

 

「おはようございます。今日は如何かなさいましたか?」

 

 笑顔で対応する受付嬢。アレだけの人数をさばいて尚疲労感を見せない。

 

「人を探してるんだ。多分この近くにいる、はずなんですけど……」

 

「相手のお名前は分かりますか?」

 

「分からない」

 

「え?」

 

「だから、名前、分からないんだ」

 

「えっと……相手の特徴は?」

 

「それも分からない」

 

「種族は?」

 

「知らない」

 

「全く?」

 

「全く」

 

「これっぽっちも?」

 

「これっぽっちも」

 

「…………」

 

「…………」

 

「………………」

 

「………………如何しましょう?」

 

 困り果てる両者。普通はそうなる。しかし受付嬢は諦めない。受付歴数年、こんな事などたまにある、本当、稀に。

 流石はベテラン受付嬢としか言いようがない。困惑顔はしても決して相手に嫌な顔を見せないのだから。

 

「あの、何か伝えられている事とかありませんか? 例えば何の用があるのか、とか」

 

「あぁ、えっと、確か魔神やら悪魔やらが復活して襲いかかって来そうだからとかなんとか————」

 

「ねえ」

 

 その時、剣士の後ろから声が掛かった。

 

「ん?」

 

 振り返ると耳の長く、背には大きな弓を持ち狩装束に身を包んだ女性がいた。何故か訝しげな表情を浮かべ剣士を見ている。

 

「もしかして……あなたがダインスレイフ?」

 

 女性の質問に首を傾げる剣士。あいにくとそんな名前で呼ばれた事はないし、聞いたこともない。もしかしたら人違いではなかろうか。

 

「すまないが、恐らく違うと思う」

 

「…おっかしいわねぇ。聞いた限り格好は似てると思ったのだけど」

 

「……えっと、そのだいんすれいふって何?」

 

「ダインスレイフってのは森人(エルフ)に伝わる魔剣のことよ。抜けば生き血を吸うまで収められない修羅の剣。持ち主まで殺してしまう可能性のある危険な剣よ」

 

 女性、妖精弓手の言葉に思考を巡らせる剣士。

 ……なんだろう。全く聞き覚えがないのに、心当たりがありすぎる。服装は自分と似ていて、修羅、というかもう確定でよくね? いやでも……。

 思い悩んだ末、取り敢えず目の前の彼女に手紙を渡すことにした。この手紙が分かるのであれば自ずと彼女が目的の人であると分かるだろう。

 師範から渡された手紙を妖精弓手に渡す。

 受け取った手紙を開け中身を確認し——

 

「やっぱりあなたじゃない! 全く……」

 

 見つかったわよー、と大きな声で二階に叫ぶ妖精弓手。暫くするとずんぐりむっくりな体に長い白髭、東洋系の服装に様々な道具が入ってるであろう大鞄を腰につけた老人と人と呼ぶには余りにも違いすぎる鱗の肌に爬虫類のような瞳、見たこともない民族衣装を身に纏った僧侶のような蜥蜴の人型が降りて来た。

 

「ようやっと見つかったか耳長の。……ん? そこにいるのが村正か? ……意外と若いな、話では儂と同じくらいと聞いておったが……」

 

 また知らない単語が出た。剣士はどんどん増える師範の呼び名にため息を吐く。あの人本当何してたのよ。

 

「しっかし、あなたなんで最初にそうかって聞いた時頷かないのよ」

 

 少し焦ったじゃない、と妖精弓手は不機嫌な声音で言う。

 それを見た老人、鉱人道士は鼻で笑いにやりとした表情で妖精弓手に告げた。

 

「馬鹿め。ここは『のっぽ(ヒューム)』の領域じゃい。森人(エルフ)の耳長言葉が通じるわけがあるまいて。のう村正」

 

 自慢気に口髭を捻り、剣士に同意を求める。

 

「いや、うん……ごめん。どっちも知らない」

 

「なんと⁉︎」

 

 そんな馬鹿なと驚愕する鉱人道士。

 それに気を良くした妖精弓手はやれやれとあからさまな仕草をして肩を竦めてため息を吐いた。

 

「これだから鉱人(ドワーフ)は。自分が正しいって疑わない。そんなだからダメなのよ」

 

「なんじゃとぉ!」

 

「なによぉ!」

 

 ぐぬぬぬ……! と啀み合う二人。

 取り残される剣士と受付嬢はどうしたらいいのかと困惑の表情を浮かべる。

 そして最後の一人、蜥蜴僧侶(リザードマン)はやれやれと先程までの妖精弓手とはまた違ったため息を吐いて、二人を間に割って入る。

 

「二人とも。喧嘩ならば拙僧の見えぬところでやってくれ。今の我々の目的は眼前の御仁との合流ではないか?」

 

 蜥蜴僧侶の言葉で喧嘩は止まったが、妖精弓手と鉱人道士はふん! と互いに背を向ける。

 

「すまぬな。拙僧の連れが迷惑をかけた」

 

 不思議な合掌をし、剣士と受付嬢に頭を下げる蜥蜴僧侶。

 そんな彼に受付嬢は「元気があっていいですね」と笑って許した。流石はベテランと言ったところだろうか。

 

「別に俺も少し戸惑っただけで気にしてないからいいよ」

 

「それは有難い。……ふむ、少し話と違うな。聞いた限りでは剣豪殿はかなりの高齢だと思っていたのだが……」

 

「あー、その事なんだけど……」

 

 説明しようとしたところでふと気付いた。

 今彼らがいる場所は冒険者ギルド、しかも受付の前だ。当然人の通りが多く集まりやすい場所である。そんな場所でたむろしていれば視線が集まるのは自明の理。さらに森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)蜥蜴人(リザードマン)と珍しい組み合わせなのだから余計に集中する。

 要するにとても迷惑になっている。

 

「……取り敢えず、別の場所で話してもいいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあーーーー⁉︎ 違うーーーー⁉︎」

 

 劈く叫びがギルド内に響く。慌てて耳を覆った剣士はもの凄く、それはもう本当に申し訳ない顔をする。

 受付嬢に二階の一画を使っていいと言われ、二階に移動した四人。

 妖精弓手は剣士と向かい合うように座り、鉱人道士は地べたに座る。蜥蜴僧侶はその大きさの為二人の後ろに立っている。

 さて何から話そうかと悩んだ剣士は取り敢えず本来来るはずだった師範の代わりに来たという旨を伝えた。

 結果、妖精弓手が叫び声をあげた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! じゃあ本物のダインスレイフは」

 

「今頃、家でくつろいでるんじゃないかな」

 

「—————」

 

 絶句。もうそれしか言い表せない妖精弓手の思考は完全に許容を超えて停止している。

 

「あー、こりゃ駄目じゃ。完全に止まっておるわい」

 

「いやまあ、なんかすみませんね」

 

 呆れ顔で妖精弓手を見る鉱人道士。蜥蜴僧侶は哀れなりと合掌。

 

「使えない耳長娘は置いといて、お前さんが儂らの旅について来るって事でいいんじゃな?」

 

「まあそういう事になるね」

 

「ふむ……儂は別について来てもいいと思ってるが鱗の、お前さんはどう思う?」

 

「そうですな。拙僧もそれで構わぬが、さて……」

 

 彼女は如何ですかな? と未だに機能停止している妖精弓手を見る。

 しかし漸く事態を呑み込み、そして先の話を聞いていた妖精弓手は動き出す。

 

「ちょっと待ちなさいよ。あんた達本気で言ってるの⁉︎ どう見ても強そうに見えないじゃない‼︎」

 

「むっ」

 

「はあ、全くこれだから森人(エルフ)は。人を見た目でしか判断できん田舎者じゃな」

 

 諭すようなそれでいて馬鹿にしたような声音で妖精弓手に言う。このままではまた喧嘩が始まると予想できた剣士は、怒りを表しすぐさま鉱人道士に噛み付こうとした妖精弓手を遮って話す。

 

「それじゃあ、俺の実力を見てくれ。あんたが駄目だと思ったのなら大人しく元の場所に引き返すさ」

 

「おお、そりゃあいい! そら耳長の、これならお前さんも納得出来るだろ」

 

「……まあいいわ。じゃあ適当な依頼受けて来るから、あなた等級は?」

 

 もう疲れたと言わんばかりに投げやりな妖精弓手は冒険者としてのランクを聞く。

 銅か、それとも自分達と同じ銀か。最低でも紅玉くらいはあって欲しいと望む妖精弓手に対し、剣士は「何のこと?」と首を傾げ、

 

「そもそも、その冒険者ですらないんだけど」

 

 また、妖精弓手の叫びがギルドに響いた。

 




剣士のキャラと口調が定まらない……! あと蜥蜴僧侶の口調が分からん。

マジで戦闘描写とちゃんとした文が書けるようになりたい。日本語難しいネ。
取り敢えずゆっくり更新していく予定。
早ければ来週、遅ければ……知らん。

ゴッドイーター3たーのしー!
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