クラス代表決定戦前日。
特に私は特訓もせず、ただただ自堕落に過ごしていた時の事だ。
入浴を済ませ、全裸でボケっとしていると私の携帯が騒ぎ出した。
着信音どころかダウンロードした覚えすらない無駄にポップで愉快なメロディが部屋に響き渡る。
「束、か」
画面に表示される文字は、みんなのアイドル篠ノ之束。
注目を浴びている、熱烈な追っかけがいる、という点では間違いないが、一点だけ違うところがあるのに気づいているだろうか。
追っかけはファンではなく、たまに殺意を持ったりしてる、というところだ。
「もしもし束か?ーー愛が足りない」
「もすもすひねもーーえ、何どういうこと!?」
「ほほう、束でも分からないことがあるのか。
なら私にもわからないな」
「しーちゃんだって私以下だけど頭良い癖に……」
「私は今バカにされてるのだね?」
「そんなことないよぅ?」
は、腹立つ……!
「で、何用だ」
「あぁ、そうだった。しーちゃんがお風呂入ってる時にユグドラシルのバージョンアップしたからそのお知らせ」
「いつの間に……」
束さんに不可能はないのだー、などと画面の向こうで踏ん反り返ってるのが分かる。
可愛い。
違う、そうじゃない。
「バージョンアップ、か。何が変わった?」
「換装をその場で出来るようにしてみたよ。今のところ選択できるのは空中での機動特化なフレスベルグだけだけど」
「名前はユグドラシルに合わせてくれたのだな。感謝する」
「まぁ、カッコつかないしねぇ。とりあえず、試してみてねぇ。あと、ちゃんと服着ないと風邪ひくよー」
返す言葉は聞かずに切られた。
「新しい力、フレスベルグを手に入れたぞ、と」
残り二つ、ラタストクにニーズヘッグはどのようなものになるのだろうか。
興味は尽きないが、考えないことにしておく。
……ん?
「なぜ私が入浴していた時間を知っている……?」
さらには今の私の格好すら知ってる。
ユグドラシルになにか仕込んだか?
隠しカメラか何かがあるのか?
とりあえず今日は家宅捜索レベルの隠しカメラ捜索をしよう。
「さぁ、がさ入れだ!」
私は部屋の中心でがさ入れを叫んだ。
全裸で。
「七海〜……うぉ!?」
さすがフラグメイカー。
妙なアンテナでも立っているのだろうか。
黒鍵をノックもせず入ってきた一夏に投げながら思った。
「今回のは私もまぁ、悪かったと思ってはいる。風呂から出たら服を着よう」
「な、なら……!」
「だがそれと痴漢は別だ」
一夏が処刑宣告を受けた受刑者のような、絶望感を顔に広げた。
「いいかね。私はこんな口調だが一応女だ。女の部屋に入る時はどうする?」
「は、はい!ノックをします!」
「そうだな。で、ノックもせず入ってきたらどうなる?」
「裸を見れます!」
「ふむ。それしか頭にはない、と。
ーー織斑先生と貴様の今後について話し合う必要がありそうだな」
「それだけはかんべーー」
「一夏……」
タイミングよく織斑先生が現れた。
どうやら声がうるさかったらしく、注意しに来たようだ。
「おや。残念だね一夏。声は聞こえていたようだね?」
「どこで育て方を間違えた……? ええい、こっちにこい一夏!性根を叩き直してくれる!」
今は姉の顔だね。
「一夏。クラス代表決定戦でまた会おう」
ちなみに、隠しカメラは十台見つかり、そのうちの二台には兎のマークが貼り付けてありました。
全く気付かずに束と会話していたが。大丈夫だろうか。
私が。