めるぱん!! カレーは生き物&七人の妹 ~魔法も科学も全部入り! ハチャメチャ世界で生きる人間模様?!~   作:きゃら める

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カレーは生き物 第一章~ようこそ! メルヘニック・パンクへ!!~ 4

 

 

          * 4 *

 

 

「あらあら。もう終わっちゃってるのね」

「急いで駆けつけたのに、いったいどれだけ急いで来たんだよ、キャロルさん」

「克彦さんも大変ね。彼女につき合わされて」

 関東近辺を守っている三人の魔法少女は、そんな風になるつもりはなかったのに、ロリーナがトラブルに首を突っ込むことが多いたため、すっかり顔見知りだ。

 それぞれに魅力的な女の子である彼女たちに何かを含んだような微笑みを向けられて、僕は「はぁ」と応えることしかできなかった。

「でもどうしましょうね、この怪獣は」

「どこから現れたのかわからないのだろう? ヘタな方法で処理するわけにもいかないな」

「宇宙にでも放り投げる? それとも怪獣動物園にでも連れて行く?」

 おとなしくなった怪獣の頭の上で魔法少女たちが開始した相談は、すぐに結論が出そうになかった。

「克彦。ちょっと怪獣の顔の前まで行ってくれる?」

「危ないだろ」

「大丈夫。お願い、克彦」

 キスしてしまいそうなほど近くにある良い香りのする髪と、振り向いた彼女の碧い瞳に、拒絶できない僕はため息を漏らした。

 ロリーナとキーマが前に座って、操作しにくいバイクを操り、ゆっくりと、すぐに加速できるようにしつつ怪獣の顔の前まで移動する。

 わずかに顔を上げ、ロリーナのことを見つめているらしい怪獣は、彼女が言った通り危険はないようだった。

 ――これは、マナが放出されてる?

 マナはあらゆる物質、空間、事象から放射される素粒子だ。

 ほぼ何にも干渉せず、世界を通過していくマナは、エーテル場を活性化させるだけでなく、マナを液化したエリクサーや、固体化したマナジュエルには感応する。

 それ以外にも、魔法力の高い魔法少女やロリーナといった魔法使いには感知できたり、ちょっと特殊な体質をしている僕も、積極的な放出を感じることができる。

 いま怪獣からは、積極的にマナが放出されているような感じがあった。

 たぶん、ロリーナと会話をしている。

「ん。やっぱりね。わかった。貴方の望む通りにする」

「どうしたの? ロリーナ」

「怪獣さんと話してたの?」

「そう。怪獣と話してたの。詳しいことはもうちょい待ってね。ごめーん、手伝ってーっ」

「何なにー?」

 僕たちへの説明を後回しにして、ロリーナは上空にまだ相談を続けている魔法少女たちに声をかけた。

 三枚のエーテルモニタを開いて、集まってきた彼女たちそれぞれに指で弾いて渡す。

「ふむふむ」

「まぁ、無難な解決方法だね」

「本人が望んでるなら、それが一番だろう」

「じゃあ決まりっ」

 内容を見てない僕にはさっぱりわからないけど、ロリーナの提案した作戦か何かに乗ることにしたらしい魔法少女たちは、怪獣を囲むように散って、剣と杖とバトンの、それぞれの魔法具を構えた。

「克彦。バイクのマナジュエル、使わせて」

「え……。バイクのが壊れたら、さすがに帰る方法がないんだけど」

「だぁいじょうぶ! カテゴリー三とカテゴリー二の魔術を使うだけだから」

「だったらいいけど……」

 渋々ながらも、セキュリティをかけて僕しか使えないようにしてるスカイバイクのマナジュエルを、ロリーナにも使えるよう設定を変更した。

「よし! じゃあちょっと待っててね」

 言ってロリーナは、バイクの上に立ち上がる。

 すぐ目の前にあるスカートの裾の、その奥が見えそうになるけど、ロリーナオリジナルのパンチラ防止魔術がかかっているから、見えることはない。

 それでもストッキングに包まれた健康的な太股は息がかかるほどの距離にあるわけで、僕はできるだけそこから目を逸らして、バイクが揺れないよう飛行を安定させる。

 エーテルモニタを開き、左手の人差し指でこれから使う魔術を選択したロリーナ。

 目をつむり、息を整えた彼女が呟く。

「ぶっつけ本番だけど、たぶん大丈夫」

 不穏な言葉は聞かなかったことにして、右手を振って魔術を発動させたロリーナと、これから起こるだろう事象に僕は注目した。

 水平に振られた手から発せられたのは、青色をした粉状の光。

 それが魔法少女たちに降りかかり、今度は彼女たちの身体が青く光り出す。

 光はそれぞれの魔法具に集中し、大量の青い光の粉が、怪獣に向かって降り注ぎ始めた。

 たぶんロリーナは、彼女たちをブースターにして、カテゴリー三の魔術を増幅したんだ。

 その魔術の効果は、見る間に現れた。

「わぁ、いっぱいになった!」

「じゃ、ジャガイモ?!」

 青い粉で光り始めた怪獣は、弾けるように消え、大量のジャガイモへと姿を変えた。

 それを見たロリーナは、両手を振って四枚のエーテルモニタを開き、落下していくジャガイモに向かって新たな魔術をかけた。

 今度放たれたのは、赤い光の粉。

 ジャガイモと、赤い光が、冗談のような、でも幻想的に、まるで雪の如くゆっくりと舞う。

 金糸のようなロリーナの髪が緩やかになびいている。

 楽しそうに、嬉しそうに笑みを横顔に浮かべている、碧い瞳の彼女。

 幻想的な風景の中で背を向けて立つ彼女に、僕は見惚れてしまっていた。

 赤い光に包まれたジャガイモは四つの光の集まりとなり、広場の隅へと飛んでいった。魔術が、完成した。

「これで全部終わったよ」

「あぁ、うん」

 振り向いて碧い瞳で微笑みかけてくれる彼女に、見惚れたままだった僕はどうにか頷きを返す。

 ロリーナの指示で広場の端、怪獣からジャガイモになった光が飛んでいったところの近くにバイクを着地させると、避難していた人たちが続々と建物から出て来ているところだった。

 お祭りか何かの催し物をやっていたらしいそこには、机や椅子とともに、お風呂にでも使えそうな巨大な鍋とか、何段にも重ねられた蒸し器などが置かれている。

「……いったい、なんだったの?」

「さっきの怪獣は、この島で栽培されてたジャガイモだったの」

 湯気を立てている鍋や蒸し器に興味が出て、奇声を上げながら行ってしまったキーマは大丈夫そうだから放っておいて、バイクから降りて僕に振り返ったロリーナがしてくれた説明に頷いていた。

「そうだったんだ。……って、それってもしかして?」

「そっ。あのジャガイモは今日ここで開催されてる芋煮会のために集められて、料理魔術で調理されるはずだったの。それが暴走しちゃってあんな姿になってただけ。あの怪獣自身が望んだから、解除魔術で材料に戻して、改めてここで使われてたレシピで料理にしたんだよ」

 やっと僕はロリーナの昨日からの行動に合点がいった。

 昨日、キーマを生み出しちゃってすぐに帰っちゃったのも、今朝目の下に隈をつくっていたのも、授業に出ずにどこかに行っていたのも、そして急いでここに来たがったのも、すべてはこのためだったんだ。

「ロリーナ――」

「ま、話は後で。あっちで呼んでるよ」

 何と言っていいのかわからない言葉をどうにか口に出そうとして、止められる。

 彼女が指さした方向では、三人の魔法少女たちと、キーマが、芋煮会の主催者の人たちから振る舞ってもらった料理を食べ始めていた。

「わたしたちも参加させてもらえるみたいだし、まずは食べよ」

「……うん」

 ロリーナはキーマを生み出してから、何もしてなかったわけじゃない。

 世話は僕に押しつけてたけど、彼女なりに考えて動いていたことはわかった。

 いまはお礼の言葉はまた後ですることにして、彼女が歩いて行く場所に、僕も肩を並べて歩いていく。

 

 

            *

 

 

「まさか、こんなに早く対策を立てられるなんて……」

 島を見下ろす遥か上空、ホウキにまたがって白衣を纏い、黒いショート部屋を風に揺らす女性は、エーテルモニタを開いて眼前の広場で開催されている芋煮会の様子を拡大して見ていた。

 芋煮会会場に怪獣が現れたという報道を見て急いで駆けつけてきたが、そのときの映像で見た巨体は影も形もなくなっていた。

 もう一枚開いたエーテルモニタでニュースをチェックすると、魔法少女たちの活躍により、出現した怪獣は退治されたと報道されていた。

 しかし姿がないことから考えれば、怪獣は攻撃によって退治されたのではないだろう。

「私の料理魔術の解除魔術をもう組み上げた人がいるっていうの?」

 料理魔術の暴走によって生まれたはずのジャガイモ怪獣。

 それにより、料理されるはずだったジャガイモの大半は失われたはずで、芋煮会は開催不能になっていもおかしくなかった。

 いま和やかに芋煮会が開催されていることを考え合わせれば、ジャガイモ怪獣は倒されたのではなく、解除魔術によってジャガイモに戻されたものと思われた。

「これは計画を早めなければならないかも」

 表情を厳しく強張らせた女性は、エーテルモニタを手を振って閉じ、ホウキに乗ってその場を飛び去った。

 

 

 


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