電子光虫使いが逝くARC-V(連載版)   作:ウェットル

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読み切りの短編集から引っさげてきた、ネタの時間軸・カード設定違いです。




ハートランド防衛戦 最悪の初日・昼

 ある平行世界の、どの世界にもあったはずの夜。

 いつも通りの平和な日々が続いてさえいれば、煌々と輝く大地の星空になるはずだった未来都市ハートランド。きっとそれは、超巨大遊園地ハートランドの中心にそびえ立つタワーから見下ろせば、夜空とあいまって無間にして満点のプラネタリウムとなるのだろう。

 

 ああ、そんな日々が続いてさえいれば、この物語は美しかったのに。

 

 轟々と燃え盛るコンクリートと鉄骨のキャンプファイヤーと化したビル群と、その炎に照らされた曇天を見渡して、ひょっとして、焦熱地獄ってこんな感じなんだろうか、と頭によぎる。

 天まで燃えているかのような紅蓮の世界。

 その中で、そびえ立つ漆黒の影の巨人が次から次へと町を砕いていく。

 ビルを、駅を、橋を、モノレールを。

 ここまであっさりと壊してくれると、かえって現実味が減ってスッキリする。

 賽の河原に行けたなら、きっとその地獄が毎日続いたのだろう。

 そして今、その漆黒の影の巨人の1体が目の前に近づいてきている。

 

 今から死ねば、元の世界に帰れるのだろうか。

 この世界の戦い方――――すなわち、デュエルによって死ねば、自分は為すべき役割を持ったキャラクターとして退場できるのだろうか?

 

 だが、負ける訳にはいかない。

 自分はまだ、死んでなどいない。

 こう言っちゃなんだけど、いろんな女の子と「クラスメイトとして」付き合いがないわけじゃないけれど、だからって男性としてモテているわけじゃない。

 進学のたびに付き合い、卒業のたびに別れ。

 そんな軽い付き合いでも彼女だった女の子たちとは、ゲームを通して一夜を共にしたことはあっても、よりにもよって性的な関係まで辿り着いたことが一度もないのだ。

 モテてるなら食っちまえばよかったのに、などと茶化す友だちもいるが。

 そんな態度は、学校が変わるたびに付き合いの限界を迎えて別れ、そして新しい学校でも同じことを何度もやる、という態度であるならば、いつか破綻することは目に見えている。

 

 そういった付き合い方に、ヒトはこういうのだ。「女の子の扱いが軽い」と。

 

 本当の意味で、処女を奪うことや性的関係を持つことの重さをわかっていないおバカの、とりあえずバイキング・コースで片っ端から食べようとして大量に取った料理を残すかのような品の無さと大差のない、女の子の扱いがぞんざいな生き方なのだ。

 料理とは貪るものではなく、作ってくれた人たちに感謝するもの。

 女の子で例えるなら、そう、その子が生まれ育った環境とかをですね。

 

 こほん。

 

 とにかく、俺は死ぬわけにはいかないのである。

 ゆえに、今、目の前のフィールドで起こった奇跡も――――俺の意志で引き起こした、必然なのだ。カードの精霊の魔法もクソもない、ただの戦術のみでの。

 

「た、助かったっ・・・・・・!」

 

 《応戦するG》。

 《ゴキボール》や《増殖するG》と並ぶ、デュエルモンスターズでは珍しい種類の昆虫モンスターが、漆黒のカラクリの巨人、《古代の機械混沌巨人》の目の前に、同じく漆黒の影の壁として立ち塞がっていた。

 カードゲームであるデュエルモンスターズを使った決闘において、デュエリストという名前の魔法使いとして召喚した使い魔たるモンスターでの戦闘は、そのままデュエリストの命を守ることにも繋がるのだ。

 

《応戦するG》

効果モンスター

星4/地属性/昆虫族/攻1400/守1400

(1):相手がモンスターを特殊召喚する効果を含む魔法カードを発動した時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードの(1)の効果で特殊召喚されたこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される。

(3):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。

  デッキから「応戦するG」以外の攻撃力1500以下の昆虫族・地属性モンスター1体を手札に加える。

 

「な、なんなのよ、この黒いバリアー!?」

「関係ない、さっさと攻撃しろ、混沌巨人!

 確認したところ、モンスターカードであることに変わりはない!」

 

 巨大な影の巨人、古代の機械混沌巨人を従える三人組のデュエリスト。

 彼らは仮面を被り、青い軍服に身を包み、《古代の機械混沌巨人》をけしかけて漆黒の壁となった《応戦するG》に攻撃をさせようとする。

 彼らの名は、オベリスクフォース。

 未来都市ハートランド、その外のどこかから攻め入ってきた軍人デュエリストたちである。知っている人ならば知っているであろうが、細かい話は割愛しよう。

 そんなことを話しているどころではない。

 それ以上に厄介なことを、彼らは実行しようとしてしまったのだから。

 

「ん、おい、ちょっと待て?

 そいつに攻撃するな! リアル・ソリッドビジョンじゃもしかしたら――――」

 

 黄色い宝石仮面のオベリスクフォースが慌てて止めようとするが、もう遅い。

 古代の機械混沌巨人は、目の前の巨壁を殴り壊してしまう。

 

「・・・・・・あーあー、知ぃ~らねっ」

 

 ぱん、と額を叩いて、俺は破壊された壁から飛び散るものの行方を目で追った。

 そうだよ、前々からこうなる気がしたから使いたくなかったんだ。

 元々、戦闘中に使用できる速攻魔法のRUMと呼ばれるカードや、《死者蘇生》《アイアンコール》といった『特殊召喚が行える魔法』に対してのみ特殊召喚される・・・・・・はずだった、緊急時の防御用のモンスターとして採用していた、このカード。

 このカードを使うことで、今現在に共闘している少年、【黒咲隼】や、今ここにはいない【ユート】のような、戦闘中の予期せぬ奇襲攻撃を得意とするデュエリストに対して、なるべく長期消耗戦に持ち込めるよう対応させたのが――――今の世界にきた、現在の俺のデッキ、このフィールドなのだけれども。

 

「おい、待て。

 貴様、まさか、そのモンスターは・・・・・・」

 

 黒咲の眼光が何かを射止めると、物凄く嫌そうな表情で俺に振り返る。

 そう、《応戦するG》が珍しい種類の昆虫モンスターである最大の理由は、今の黒咲の反応にこそあるのだ。そりゃあ普通は嫌だ、使おうとか考えない。

 意外とイケそうだと思ったんだけど、やっぱ苦手なんだろうか。

 

 

 

 使ってるの鳥類だし、ゴキブリ(G)くらい平気だと思ったんだけど。

 

 

 

 そう、オベリスクフォースたちの目の前に立ち塞がっていたのは。

 応戦するゴキブリたちの群れで出来た、黒光りする【聖母の壁(ウォール・マリア)】。

 そんなものを無理に突破すれば、当然その崩れた群体は地面に落ちるわけで。

 わあきゃあ、ぎゃあひぃ、とオベリスクフォースたちが逃げ回る。

 青い宝石仮面のオベリスクフォースは女の子だからなのか、ひたすら空から落ちてくるゴキブリをデュエルディスクを振って打ち落とそうとし、顔や服に張り付くたびに手で払おうと泣きながら叫び、服の間に入ろうものなら怖気にとらわれて全身を震わせ、上着を脱いででもゴキブリを払い落とそうとする。

 他のオベリスクフォースたちも同様に、服を脱いでなんとかゴキブリを払い落とそうとする。もうデュエルそっちのけだ、軍人ってなんだっけ。

 いや、そもそも軍人でカードゲーマーという時点でどうかしている。

 頭がどうにかなりそうだ。

 

 ・・・・・・まあ、そう落ちるように指示したの、俺だけども。

 

 無理やし突破した結果の偶然でも、たまたまでもない。

 最初から普通に使っても、そうなる気がしたものを意図的にしただけ。

 これは、ちょっとした意趣返し。

 リアル・ソリッドビジョンを使った、デュエルモンスターズによる。

 本当にちょっとした、彼らへの嫌がらせ。

 

「貴様、あとで覚えておけよ。

 タクティクスとしては『借り』とさせてもらう。

 だが・・・・・・まさか、これをテレビの前でやるつもりだったのか?」

 

 黒咲が俺に向ける目線は、今となっては珍しいものだったとだけ言っておこう。

 オベリスクフォースと戦っている現状、こんなことは口にするだけ意味がないからだ。

 それでも、まあ、彼は未だに『まとも』なのだとわかって安心しなくはない。

 そういう目線ではあったね。本当に、今じゃあ意味のない目だよ。

 

「まっ、まさか、まっさかぁ!?

 そりゃあバラエティー的には、ありっちゃあ、ありだろうけど?

 俺はエンタメデュエリストじゃあないからね、いやホント。

 ただの嫌がらせだよ、ホントだって。信じてよ、ねえ?」

 

 あ、あの子けっこう大っきいな。何がとは言わないけど。

 ありがとうございます、目の保養になりました。

 

 こほん。

 

 とにかく、相手の戦意を削ぐことには成功したようだ。

 少なくとも一人は、間違いなく心が折れたことはわかったよ。

 ・・・・・・うん、やっぱり女の子の方だったけど。ごめんは言わない。

 赤い宝石仮面のオベリスクフォースは、古代の機械混沌巨人が動かないことに驚いている様子。そりゃあそうだ、そういうテキストだもの。

 《応戦するG》ではなく、《古代の機械混沌巨人》のテキストが。

 

古代の機械混沌巨人(アンティーク・ギア・カオス・ジャイアント)

融合・効果モンスター

星10/闇属性/機械族/攻4500/守3000

「古代の機械猟犬」+「古代の機械双頭猟犬」

+「古代の機械参頭猟犬」+「古代の機械究極猟犬」

(1):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、

相手の魔法・罠カードの効果の対象にならず、効果も受けない。

(2):このカードは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

(3):このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、

  相手フィールドのモンスターの効果は無効化される。

 

 この場合の、古代の機械混沌巨人が持つ(2)の効果の「ルール上の本質」とは、

 

「相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

 ただし、最初の攻撃宣言はモンスターと戦闘を行えば、

 『モンスター全てへの1回ずつの攻撃のうちの1回』

 として数えられる」

 

 と、いうものだ。

 つまり最初の1回がプレイヤーへのダイレクトアタックでも、もしその攻撃中に他のモンスターが召喚されて割り込まれた場合、その1回の攻撃はモンスターへ実行されれば、自らの効果による連続攻撃のうちの1回にカウントされてしまう。

 これにより、相手は俺たちへのダイレクトアタックができなくなったのだ。

 

 コンマイ語って難しいね、これでもまだ日本語寄りなんだぜ?

 

 とにかく、とにかく。

 これでもう、彼らはこのターンにボクたちを仕留めることはできない。

 俺が担当する防衛のターンは終わり。

 あとは黒咲隼の逆転劇で《古代の機械混沌巨人》が焼き払われる。

 ただそれだけの話で、今回の防衛戦は終了した。

 

 

 

 もっとも。

 それは今日の防衛戦において、本当に最初の戦いでしかないのだけれども。

 

 

 

 俺の名前は、十文字蒼矢。

 本名は別にあるけれど、今はそう名乗っている。

 名前の由来はアニメ【ソニックドライブ】における主人公の一人、クリストファー・ソーンダイクのクリストファー、つまり救世主の象徴である十字架と。

 真の主人公である音速の針鼠、ソニック・ザ・ヘッジホッグの走る様子が青い矢のように見えなくもないことから。

 

 だけど、そんなことを誰に言っても、誰もわかってくれない。

 遊戯王アークファイブの世界に、ソニック・ザ・ヘッジホッグなんてゲームもキャラクターも存在しない。

 

 俺の生まれた世界では、決して無い。

 それを忘れないための・・・・・・(フェイク)の、名前。

 

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