電子光虫使いが逝くARC-V(連載版)   作:ウェットル

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 ただいま。


ハートランド防衛戦 最悪の初日・深夜

「傷は浅くてよかった・・・・・・応急処置は終わりました、あなたの番!

 この患者さんをお願いします、一年生の三番教室! 急いで!!」

 

 ハートランドを襲った未曾有の危機。

 その最悪の一日目が終わろうとする間際、日をまたぐ数時間前。

 体育館を賑やかにする数多の声を切り裂くように、どこか凛とした意志の強さを感じさせる声が鳴り響いた。

 

 

 いやぁ、やっぱり本物の遊戯王ヒロインって最高ですわ~。

 

 

 黒咲瑠璃。

 上中下三色団子なバイク乗りキメラ怪人のような、「タカッ!」って感じの目つきをした兄とは似ても似つかない、どっちかって言うと看護婦さんの格好が似合いそうな、お嬢様というよりお嬢さんっぽい清純派で、黒髪ロングストレートの女子中学生。

 そんな彼女を体育館の隅で眺めながら、鼻を伸ばしながらストローで紙容器のジュースをすすっているのが俺だ。ちなみにジュースは壊れた自販機からとってきました。

 釣りはいらねぇぜ、そもそも金払ってねぇからな!!

 

 えー、窃盗行為への自白はともかく。

 

 表現の仕方は悪いかもしれないが、とにかく可愛い女の子がそこにいた。

 こんな女の子も、デュエリストならばバーサークな看護婦さんとして大活躍しうるのが、遊戯王の世界の恐ろしいところである。いつか婦長さんとか呼ばれそうだ。

 実際、バーサークな超能力者の女の子がアニメ最終回でお医者さんになったくらいなのだから、遊戯王の世界ではこんな光景すら決してレアじゃない。はずだ、きっと。

 仮に交通事故で入院しても、一日経たない内に退院する警官がいたりするのも遊戯王の世界の日常なのである。・・・・・・やっぱお前ら絶対、心と身体の作りが人間じゃないだろ。

 

 ちなみに俺の知る限り、彼女はすでに彼氏持ちで、実の兄には非公認。

 彼と彼女の秘密の関係ってやつだね、わかるとも!

 

 そういうイケナイ恋は応援するよ、だって見てると楽しいからね!

 可愛い女の子にはだいたい彼氏がいる、というのも遊戯王の名言ゆえ。実に興味深い。具体的にはデートコースに兄貴が通りすがった場合とか、大人の階段昇って用事が終わるまで出れそうにないホテルの部屋に入ってお楽しみしたいとき(意味深)とか。

 いやはや、どうやってやり過ごすんでしょうなぁ。やり過ごすんでしょうな!

 

 いいなー。可愛くて綺麗で、彼氏くんに憧れちゃうなー?!

 

 などと、こちらが心のなかでキャピキャピしつつ瞬きする間に、彼女はテキパキと実の兄である黒咲隼の治療を終えると、次の帰還者へと治療を開始する。

 戦争が起こって初日だというのに、この行動力は常人のそれではない。

 からかうように表現するならば、デュエリストだから是非もないよね、といったところなのだろうが・・・・・・残念ながら、今回はデュエリスト云々は関係ない。

 

 うん、彼女のその意志の強さは立派だ。

 こういう芯の強さは、実の兄と通ずる部分がある。と、言うよりも。

 

 むしろ我々の世界にある故郷のほうが、負傷というものに経験が薄い、『緊急時の意志力が薄弱な人間の集まり』でしかない可能性はなかろうか?

 

 なんとなく、そう思いそうになるのも。

 この世界にある生命力とタフネスの賜物と、その魅力なのだろう。

 そういった意味では、彼女は女性としての美しさだけでなく強さも兼ね備えたヒロイン、いや大天使ルリエルと言っても過言ではないのだろう。きっとそうだ、うん。

 

「本当に怪我をしていないな、貴様は。

 防戦が得意というべきか、逆転劇にこだわっているのか?」

 

 その実の兄が、「暇になったから、話をしろ」と目で訴えてくる。

 なんだよもー、せっかく暇潰してたのに。そんなに頭の中が鳥類なのかい?

 獲物がいないと、ヌボ~っとキョロキョロしちゃうのかい?

 ほほう・・・・・・それならば仕方ありませんな、付き合いましょうぞ。

 

「別に、俺は逆転劇が好きってわけじゃないさ。

 いやまあ確かに、そういう戦い方に憧れているけれどな?

 強いていうならば、まず、好きなカードで戦い続けたいんだ。

 そういう子供心、なんとなくわかるだろう?」

 

 そう、この世界には強い生命力とタフネスが必要だ。

 これが決闘の戦術イメージの根幹に関わってくると、戦線維持能力の高いモンスターで盤面を可能な限り維持し続け、相手の全力に対処しきれるカードを選び、鍔迫り合いの果てに大逆転を実行する。

 そんな感じの、何気にヒーローショーじみた戦い方に繋がるのだ。

 

 そういった戦い方は、嫌いじゃない。

 だが、好き好んで大逆転ばっかりに執心するつもりはない。

 彼ら彼女らだって、別に大逆転がしたくて戦術を編み出しているわけではないのだ。

 

 あくまでも戦線維持を繰り返し、可能な限りの全力を絞り出す。

 カードゲームにおける手札と場のカード、それら以外の活用可能なカードとのコンボが非常に複雑に絡み合うのも、デュエルモンスターズの魅力のひとつ。

 彼ら彼女らは、強いていうならばハートランドの住民は、どんな平行世界(公式作品)でも防戦に長けた戦術で、手札やフィールドのカード枚数の差という優位性を減らしすぎずに、堅実かつ情熱的に戦うことが得意なのだ。

 そのような戦い方は好都合なことに、相手に突破のための消耗戦をさせやすい。

 

 当然、いざという時の逆転にも繋がりうる。

 この強みがわかるからこその、ハートランド全般の共通戦術なのだ。

 

 共通戦術についてだけは、俺も似たような戦術ではある。

 好きなカードで戦い続ける、といったこだわりの上ではあるが。

 

「・・・・・・子供心、か。

 こんな状況でも”そんなこと”が言えるとは、な」

 

 黒咲は周りを見渡す。

 そこにはまあ、あえて目を逸らした現実が寝転がっていた。

 

 

 

 包帯だらけの壊れたマネキンじみた『何か』とか。

 他には、母親を探して泣き叫ぶ子供と、それをなだめる老人たちとか。

 癇癪を起こしてワガママを叫びまわり、周りに取り押さえられる大人もどきとか。

 自分のデッキを投げ捨てるデュエリストがいれば、その散らばったカードを見ただけで発狂してしまう戦災者たちもいる。弟の名前を叫んで探しまわる青年の姿もある。

 最後の青年は誰とは言わないけど、ようは、そういう状況なのである。

 

 

 

 避難所となった中学校の体育館が、阿鼻叫喚の監獄と化していた。

 

 

 

 安全なはずの空間も、一歩でも出れば地獄なのだとわかっているからこそ。

 誰もが避難所という安全地帯に囚われる。避難所に匿われた命の、凄惨な傷跡を知って気を狂わせる。自分もいずれ「そう」なる、もしかしたら自分の大切な人も、と。

 確実に正気を失わせ、最後は末路の先を想像させ、逃げたいのに逃げれない危険で安全な環境に閉じ込められたまま、ゆっくりと狂気を孕ませて、

 ・・・・・・挙句の果てが、ごらんの有様というわけだ。

 

 もちろん避難所では、さすがに死体こそできていないが。

 

 もとより居た世界が違うせいか、どうにも目の前のリアルがドラマで見たことのあるような安っぽい演劇に見えてしまう。俺もどうやら、気が参っているのだろうか。

 それとも、ただ単純に彼我が異なりすぎて、未だに実感がないのか。

 始めっから、そういう性分なのか。

 もっとも、まともに同情をしようにも、余計なおせっかいは場を混乱させるだけであることは先駆者が見せてくれている。ほら、すぐそこのナスのヘタっぽい頭の少年とかが。

 彼は、包丁を持って暴れまわる大人を抑え込む集団、その集まりに加わろうとしていた。俺が指をさすと、黒咲は目線を“そちら”にずらす。

 

「むっ。おい、何をしている!?」

 

 黒咲は即座に立ち上がり、ずかずかと席を外してナス頭の少年に近づいていく。

 まあ、君ならそうするのだろうね。俺なら絶対関わらないけど。

 さて、さっそく暇になってしまいましたな。

 とりあえずで外出して見回りをしようにも、たった一人では集団戦に厳しすぎる。そもそも遊戯王のOCGプレイヤーがアニメルールで百人組手でも何人組手でもされたら、簡単に集中力の限界が来て死ぬに決まってるじゃないですかーやだー遊戯王SSの読みすぎぃー! 無双系主人公ぉ~!

 かといって誰かと楽しくデュエルをしようにも、この状況ではモンスターで地を駆り宙を舞うだけでパニックになりかねない。やったなズァーク、お前好みの地獄だぞ。

 もちろん、看護の手伝いなど以ての外、医療の腕など素人以下だ。

 ふはは、やることがねぇ。ニートできて嬉しいでしょうねぇ!

 

「・・・・・・ん?」

 

 ふと視界の端に、カメラを片手に握って立っている女性がいた。

 赤髪のポニーテールが特徴的で、ラフな格好が今の現状から非常に浮いている。その服装と、その外見。ああ、そういうことか。

 この世界に前作アニメの主人公がいないのならば、なるほど、その血縁者がこの世界にいないということもありえはするが、その主人公の出自上、実のところは絶対にいないということもありえない。

 彼女の祖母をモチーフとしたらしき髪型の少女もこの世界にはいるのだが、それとこれとは別の話だったようだ。もちろん、彼女が本人であるならばだが。

 実際に目にするのと、テレビ越しに彼女を見るのとは印象がまったく違って当然か。

 

 

 彼女が【九十九遊馬】の姉、【九十九明里】であるかは、現状不明なまま。

 

 

 そりゃあそうだ、まだ話しかけてすらいないのだから。

 こんなことなど考えたって仕方はない、仕方はないのだが。

 

 彼女も原作と同様、弟がいたりするのだろうか?

 

「あの、もしもし。

 ご家族をお探しの方でしょうか?」

 

 とりあえず、彼女に話しかけてみようか。

 戦場カメラマンは戦災を記録し、世に伝えるべく活動をするもの。

 この世界だって、ハートランドしか国や地域がないわけではない。

 彼女の現職が原作と同じ記者であろうがなかろうが、戦場カメラマンの真似事をしてくれるものか不安はあるけれど、今は真似事をしてくれるだけでもありがたい。

 ・・・・・・とある可能性に賭けて、ワンステップだけ頑張ろうか。

 




 さすがに主人公も参っています。
 侵略されて初日だけどね、たった数時間足らずでもヒトって折れるからね。
 深夜テンションで気軽に発狂できるだけ、まだ幸せなトリガーハッピー・・・・・・ならぬ、デュエルハッピーだと思いますよ、ええ。彼だけは。



 なお、



 ヒロインは天上院明日香(ARC-V)です。
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