電子光虫使いが逝くARC-V(連載版)   作:ウェットル

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ハートランド防衛戦 九十九明里の事情

「・・・・・・私の家族は、みんな死んだから」

 

 ぽつり、ぽつりと。

 私は呟くように、今の現状を伝えていく。

 

「クソ親父とママは、冒険の最中に事故で崖から堕ちたって聞いたわ。

 死体も回収できないような、深い渓谷の中にいるんだって。

 おばあちゃんは・・・・・・ホウキ片手に頑張ってたわね」

 

 続けて、あの日に起こったことを告白していく。

 目の前の少年は、息を呑んで目を見開いた。

 その反応からすると、私の現状にゾッとでもしたのだろうか。

 それともホウキで彼ら相手に縦横無尽の大立ち回りをしたこと、そっちの方に驚いたのだろうか。あるいは、それら全てか。

 

「そういえばチャーリーのヤツ、こっちに来んのかしらね。

 ああ、そうそう、チャーリーっていうのはね――――」

 

 気がつけば、次から次へと話が進んでいった。

 このひとはどういうひとで、あのひとは、ああいうひとだった。

 それらに目の前の少年が相槌を打って、ときに感心したように驚くこともあれば、呆れたような表情でこちらを見ることもあった。

 決して自分から自分の話をしようとはせず、ただ黙々と話を聞き、疑問に思ったことを訊き、なるべく最低限の会話で済ませる。

 そういえばこういうひとも居た、と向こうから話を逸らすこともなく、少年はただただ、こちらの話だけを聞き続けていた。

 

 塞き止まることなく言葉が続き、ひとの名前が口から飛び出ては次の話に進み、そのひとのことを思い返しては、昨日のように思える何かを思い出す。

 そういえば、今は戦争中だっけ。

 

 そう思った頃には、声が少しずつ力なく、しかし何かを吐き出すようなものに変わり続けていたことに、ようやく気がついた。

 

「そうよ、遊馬のやつ、あんな可愛い女の子を置いていって・・・・・・!

 あの子ったらね、うちの弟にもったいないくらい、いい子で、いい子で・・・・・・!

 だから、きっと小鳥ちゃんがいるはずだって、鉄男くんもいるはずなんだって・・・・・・そう思って、だから、でも、ううっ・・・・・・!!」

 

 ああ、遊馬のやつったら、本当に無茶なことをして。

 アイツも朴念仁なところはあったのだ、明らかに青春ドラマしてる女の子が隣に居て、いつも一緒に歩いていて、ついには告白される前にいなくなってしまったくらいに。

 似たようなことをどっかの誰かもやっていたけれど、そいつも元気にしているのだろうか。何かと運を口にする調子のイイヤツだったけど、見直せる機会はあるのだろうか。

できればこちらに来ないでほしい、デュエリスト的な意味で。

 他意はない、はずだ。ムカつくだけのはずだ。

 またいつかみたいに、みんなで、また。

 

 この理科室で、授業参観でもなんでもいいから。

 遊馬と、小鳥ちゃんや鉄男くんたちと、もう一度。

 

 

 一緒に、いたかった。

 

 

 

 

 

 

 結局、彼女は限界が来たのだろう。

 ひたすら家族の名前を叫んだ。男友達の名前を叫んだ。

 きっと恋が叶ったはずの相手が来ても、お互い無事ではすまないかもしれないと察してしまったのか、あるいは。

 原作(かつて)と似たような日々を、取り戻せないと思ってしまったのか。

 

 ・・・・・・気に食わない、ああ、非常に気に食わないとも。

 

 

 いくら我欲を自分自身から誤魔化すためとはいえ、野暮なことを聞いた。

 『九十九遊馬』が。カードにされたなんて。ここにもいたなんて。

 ・・・・・・こんなクソッタレな現実(IF)に納得なんて、できるものかよ・・・・・・!

 


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