ちょっと遅れてしまいましたが、新話の投稿です。
それではどうぞ。
「……ッ! ……クッ! リクッ!」
「んぅ……黒歌…もう少し、寝させて……」
「さっさと起きろニャアッ!」「コッヴッ!?」
早朝、猫状態の黒歌の飛び蹴りが布団に潜っていた陸の腹に突き刺さる。強制的に起こされた陸は腹を抑え、復活するまでに5分かかった。
「おはよう、黒歌───って、まだ5時じゃん。もう少し寝てても良かったじゃん」
「いつもならね。……でも、説明しなくちゃいけないから。昨日現れた奴について」
「現れた奴? 黒歌、何言って───」
そのとき、陸はふと疑問に思った。自分はいつの間に布団の中に入ったのだろう、と。どういうわけか、布団に入った記憶がなかった。
陸は一旦、昨日の出来事を振り返ってみた。
(えーと……確か、昨日の朝は塔城さんと登校して…教室で令人と喋って…そして……───ッ!)
そこで、陸はようやく思い出した。
消えた幼馴染みの彼女、謎の黒ずくめ。そして、謎の異形に紅髪の女性『リアス・グレモリー』。
「あぁ……やっぱり記憶封印がかけられてたかニャ」
「記憶封印って……黒歌、何か知ってるのッ!?」
「知ってる。チョー知ってる。それを今から説明するニャ」
それから暫く、陸は黒歌の話……『三大勢力』について聞かされた。
「まず、この星には『三大勢力』と呼ばれる奴らが存在するニャ。
人と契約して魂を奪う『悪魔』。人を唆し、悪魔を滅ぼそうとする『堕天使』。そして、その二つの勢力を滅ぼそうとする『天使』。昨日、リクの前に現れた黒ずくめは堕天使ね。
そいつらは、今も小競り合いを続けている。会ったら殺し合いになる可能性が大ニャ」
「ちょっと待って……俺は悪魔じゃないのに、何で襲われたの?」
「アイツの狙いはリクじゃない。隣にいた、兵藤 一誠の方ニャ」
この時、陸は自身の聴覚を疑った。
『狙いは一誠』。そして、『堕天使は悪魔を滅ぼそうとしている』。以上の事から、あることが考え出される。それは────
「イッセーが…悪魔……? ちょっと待ってよ。イッセーが悪魔なわけがない。小さい頃から一緒だったんだぞ? イッセーは人間のはずだッ!」
「確かに、兵藤 一誠は人間だった。けど、それはついこの前までの話。彼は一昨日か、それくらいに悪魔に転生した」
「て、転生って……」
「実は、ちょっとした事情で純血の悪魔って結構少ないの。それを補うために、他の種族の者たちを自分達の
陸は黒歌という存在……正確には猫魈という存在を知っていたため、悪魔や堕天使等の存在を教えられても『そんなのもいるんだ』で済んでいた。
しかし、黒歌が言った『転生』。それは『生まれ変わること』。そんなことを、一体誰が予想出来ただろうか? さらに、『僕となる』という言葉がより陸を不安にさせた。
「……まあ、多分酷いことはされてないはずだから大丈夫ニャ」
「……どうしてそう言えるの?」
「兵藤 一誠を転生させた奴が誰か、目星がついてるからよ。リクはそいつをよく学園で見てるニャ。そいつの名前は───リアス・グレモリー」
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お昼頃、陸は学園で授業を受けながら、今朝の黒歌の説明を思い出していた。
(まさか、あのリアス・グレモリーが悪魔だなんて……それに───)
チラリ、と陸は右隣の席に座ってペンを走らせている小猫を見た。
(塔城さんも悪魔だったとは……まだいそうだなぁ……)
なお、その考えは当たっていたが、陸は知りもしないだろう。
だがしかし、陸の頭は既に別の事を考えていた。それは『魔導のスライ』を名乗っていた黒い異形について……。
(黒歌に言うべきだったかなぁ……まぁ、悪魔とかは人と見た目が変わらないみたいだし、それとかじゃ無さそうだったけど……)
なお、黒歌は『
その事も合わさって、陸は余計に頭を悩ませていた。
「はぁ…どうすればいいのかなぁ……」
「……悩みごとかい、朝倉君?」
「はい…そうなんですよ……」
「そうだね。まだ高校生活が始まったばかりで、君も思うことがあるのだろう。
───例えば、私の授業よりも重要な、ね」
「え? ……あ───」
そこで、陸はようやく気づいた。自分が無意識の内に誰と話していたのかを。
視線を自分の右斜め前に向けると、そこには現代文の教科書を片手に持って、笑顔で陸を見下ろす教師『
「悩みを持つことは知性ある生物の特権だが、流石に授業はしっかりと聞きたまえ」
「す、すいません……」
「聞いていなかった分は個別で教えてあげよう。放課後にね。
それじゃあ、授業を再開しよう。朝倉君。教科書の87ページの6行目から読んでくれ」
伏井出に言われ、陸は指定された場所を読み始める。そのとき、陸の隣では小猫が誰にもバレないように彼を見ていた。
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黒歌の説明があった日から数日後の午後6時。制服姿の陸は買い物袋を片手に商店街を歩いていた。袋の中には鮪の赤身の塊が入っている。
(結構奮発しちゃったけど、大丈夫だよね。黒歌、喜ぶかな……)
陸は歩きながら、黒歌の喜ぶ顔を思い浮かべていた。
少しして、陸は商店街と星雲荘の間にある別荘地を歩いていた。いくつか廃墟があるそこは、時間のせいか薄気味悪く感じさせた。陸は早く抜けようと足を早めようとする。
そのときである。ふと気づくと、陸が歩いている数メートル先に一人の小さな女の子が立っていた。
小さな帽子を被り、ワンピースを着たごく普通の少女。しかし、今の時間を考えると、そこに一人でいるのはおかしいと陸は思った。
少女は陸を一瞥すると、すぐ側にある建物の中に入っていった。陸は『帰ったのかな』と思ったが、そこは誰も住んでいない廃屋であることを思い出した。
陸は不思議に思い、建物の中に入ってみた。
建物は長い年月使われていないためか、至るところにクモの巣が張り巡らされ、床は所々穴が開いていた。
(お化けとか出そうだなぁ……)
暗い廊下を慎重に歩いていく。少しして、陸はとある一室に入っていくあの少女の姿を見つけた。陸は少女か入った部屋の扉を開ける。しかし、妙に天井が高い部屋の中には誰も居なかった。『あれ?』と不思議に思った陸は部屋の中に足を踏み込んだ。
───そのときだ。
『キヒヒヒ……』
「───ッ!?」
部屋の中に響き渡った、不気味な笑い声。突然のことに驚き、陸は部屋を見渡すが、誰もいない。そんなとき、ピチャリ…と陸の肩に何かがかかった。触れてみると、それは妙な粘着性のある液体。陸は恐る恐る上を見上げてみた。
そこには先程の少女が天井に立っていた。しかも、月明かりで見える少女の口は耳元まで裂けていた。その姿に畏怖した陸は腰を抜かしてしまう。
少女が天井から降り、陸の前に立った。
「キヒヒ…かかったかかった、今日の獲物。変わった匂いがするな。初めて嗅ぐ匂いだ。旨いのかな? 不味いのかな?」
舌なめずりをする少女の言葉に、陸はすぐ理解した。このバケモノは自分を食べる気なのだと。
陸は叫び声を上げ、すぐさま部屋の外に出ていった。
「おいかけっこか? なら、食事前の運動だ。キヒャヒャヒャッ!」
不気味に笑う少女。次の瞬間、少女の体は上半身が大人の女性、下半身が異形の姿をしたバケモノとなった。
バケモノはケタケタ笑いながら陸を追いかけていく。
陸はバケモノの笑い声を聞きながら一目散に走り続ける。だがしかし、この時の陸は気づいていなかった。自分が慌てていたあまりに、出口ではなく廊下の奥に向かっていることに。
陸は走り続ける。少しして、陸は廊下の一番奥にある大きな扉の前に来た。陸はすぐさま扉を開け、中に入る。そのとき、陸は床に転がっていた
満足な受け身もとれずに体を打ち付けてしまう陸。
陸は痛みをこらえ、すぐさま立ち上がろうとした。
しかし、出来なかった。今の彼の目の前に転がっていたものが、小さな人間の頭蓋骨だったからだ。
「───ッ!?」
息を飲む陸。確認してみると、自分が先程踏みつけたのは人の骨だった。
「な、なんなんだよ、ここ……ッ!?」
陸は恐怖を抱きながら、部屋を見渡す。
そして、彼はあるものを見つけた。それは小さな帽子と血に濡れたボロボロのワンピース。バケモノとなった少女……いや。バケモノが化けていた少女が身に付けていたものに酷似していた。
陸が目の前の物に唖然としているなか、バケモノが部屋の中に入ってくる。
「獲物が自分からゴミ捨て場に来てくれるなんて、手間が省けた」
「ゴミ捨て場…? じゃ、じゃあ、さっきの姿は───」
「あれは一番最初に食べた奴さ」
「え───」
「よかったなぁ。生きたまま腹を割いて、叫びを聞きながら食ったあのときは最高だった。まあ、それはどの獲物も同じだったが。
それからは他の獲物を誘うための擬餌さ」
バケモノがニタリと笑みを浮かべながら言う。
その言葉を聞いた瞬間、陸の中にはあるものが渦巻き始めていた。それは単純な『怒り』。命を奪ったことに対する『怒り』。死んでもなお利用するバケモノに対する『怒り』など……。あらゆる怒りが陸の中を満たしていった。
そして───プツンッ、と陸の中で何かが切れた。
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陸の幼馴染み、兵藤 一誠が天野 夕麻……いや。堕天使レイナーレに殺され、リアス・グレモリーの『
リアス・グレモリーとその眷属は町中にある、とある廃墟に来ていた。
「部長。今日は何を……?」
「今日は上からの命令で、ここに住まうはぐれ悪魔の討伐よ」
「はぐれ悪魔?」
リアスの答えに疑問符を浮かべる一誠。そんなとき、一誠が思わず聞き返してしまった『はぐれ悪魔』というワードを側にいた金髪の青年、リアスの『
「はぐれ悪魔って言うのは、主の元を離れて暴れまわる悪魔のことさ」
「大半の理由はその力を私利私欲の為に使いたいから。
そういった存在の討伐を上から司令されるときがありますの」
木場の説明に、リアスの隣に立つ黒髪の女性、リアスの『
「さあ、突入するわよッ!」
リアスが号令をかけ、廃墟の中に入ろうとする。しかし、それをリアスの『
「…ッ! 部長、止まってくださいッ!」
「? どうしたの、小猫?」
「…何か、来ますッ!」
「何か? それって一体───」
『何?』、とリアスが続けようとしたとき、突然扉の右側の壁を突き破って、中から一体のバケモノが飛び出してきた。……いや。地面に叩きつけられる所を見ると、飛び出したと言うよりも『ブッ飛ばされた』の方が正しいだろう。
それを見て、リアスはその出てきたバケモノの名前をいった。
「あれはバイザーッ!?」
「部長、もしかして、アイツがはぐれ悪魔何ですか?」
「そうよ。けど───」
リアスは改めて出てきたバケモノ……はぐれ悪魔のバイザーの姿を見る。
そいつの姿は傷と痣で一杯だった。さらには、その片腕が無くなっており、足も歪な形に曲がっていた。
バイザーがリアスたちに気づく。そして、バイザーが発したのは救いを求める言葉だった。
「た、助けてくれッ! 殺されるッ! アイツに殺されるッ!」
バイザーの言う『アイツ』。それは何なのか疑問符を浮かべるオカルト研究部一同。
しかし、それはすぐに分かった。
───ガラリ…と瓦礫を踏む音が聞こえる。見ると、先程バイザーが出てきた穴からある人物が出てきた。そいつを見て、一誠、そして、小猫が自分の目を疑った。何せ、その人物とは
「「───リクッ!?」」
そう。一誠にとっては幼馴染みで、小猫にとってはクラスメイトの朝倉 陸である。だがしかし、今の彼を一誠たちはいつもの彼とは呼べなかった。
「~~~……ッ」
赤く爛々と輝く瞳。両腕からは黒い稲妻が走り、全身を血のような赤黒いオーラが被っている。その姿に、リアスたちは思わず構えた。
しかし、陸はリアスたちを見ていない。見ているのは、バイザーただ一人。
「~~………~~~~~ッ!」
陸が叫び、右腕を振りかぶり、左腕を前につきだした。すると、両腕に走っていた稲妻がより激しくなった。
陸は腕を振り下ろし、自身の前で十字に交差させた。
次の瞬間、陸の右腕から黒い稲妻を纏わせた黒い光線が発射された。光線は容易くバイザーを飲み込み、バイザーは断末魔の叫び声を上げて消滅。
目の前で起こった現象。リアス、朱乃、木場はより警戒心を強める。
しかし、
「~……~……───」
バタリ、と陸がその場に倒れる。すると彼が纏っていたオーラや稲妻が霧散した。
それを確認した一誠と小猫はすぐさま彼に駆け寄る。
「リクッ! おい、リクッ!」
陸の体を抱き上げ、一誠は彼の名を呼ぶ。しかし、返事はない。陸は完全に気絶していた。一応生きていたことにホッとする一誠。
そんな彼に、リアスが話しかける。
「イッセー。その子は……」
「え? ああ。こいつは俺の幼馴染みのリクです。こいつとは幼稚園からの付き合いで───」
「イッセー。そういうことを聞いているんじゃないの。
単刀直入に聞くわ。
───その子は人間?」
「───……はい。リクは人間です」
「そう。……とりあえず、今日はここで解散しましょう。朱乃」
「はい。分かりましたわ」
「イッセー。朱乃をその子の家まで案内して上げて」
「わ、分かりましたッ!」
こうして、リアス・グレモリーたちのバイザー討伐は幕を閉じたのであった。
[───Bの因子のエネルギーを感知。基地をスリープモードから移行]
[───これより、Bの因子保持者を捜索開始。ユートムを起動させます]
伏井出 慶
駒王学園で一年の現代文を担当する新人教師。
彼の授業はとても分かりやすく、生徒たちからの信頼はとても厚い。学園内では小さなファンクラブもある。
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最近、境ホラやジョジョを見始めた自分。
そして、思った。境ホラとビルドの作品が書けないかなと。まあ、あくまでも予定ですので期待はしないでください。