「あの……塔城、さん? なぜ、僕は引き摺られておられるのでしょうか?」
「……部長から連れて来るよう言われてます」
「だからって、引き摺るのはどうかと思うんだけど……」
「……半幽霊部員になりかけた人が何を言ってるんですか?」
「イッセーッ! 木場先輩ッ! アーシアさんッ! 僕、おかしな事言ってないよねッ!?」
「まあ、幽霊部員になりかけていたのは確かだね」
「部長や朱乃さんも心配してたんだし、大人しく引き摺られてろ」
「あ、あははは………」
とある日の放課後。
陸は小猫に連行され、一誠たちと共に旧校舎へ向かっていた。襟を捕まれ、引き摺られる陸は小猫の小さな体の何処にこんな力があるのか不思議で仕方がなかった。
「……で? なんで最近来なかったんですか?」
「何か、悩み事でもあったのかい?」
「えッ!? そ、それは、その~……」
自分がベリアルの息子で、色々ショックだったから行けなかったと言うこともできず、陸は言い淀むしか出来なかった。
「……言いにくいのなら、言わなくていいです」
「ごめんなさい……」
「気にしなくていいよ。人に言えない悩み事なんて、誰でも一つは持ってるものさ」
「悩みって言えば……なあ、木場。部長って、なんか悩み事でもあるのか?」
「? どうしたんだい、急に?」
「いやさ……昨日色々あって、な」
「部長の悩み事か……グレモリー家に関わる事じゃないかな? 多分、朱乃さんなら知ってると思うよ。あの人、部長の懐刀だし」
何かあったの?、と問い掛ける木場の質問に、一誠は先程の陸と同じように言い淀んでしまった。
(まさか、部長が夜這いに来た、なんて言えないしなぁ……)
そんな内に、陸たちはオカ研部室の前に到着しが、木場がドアノブに手をかけようとした時だった。
『───ッ!?』
「あれ? 皆、どうしたんだよ?」
何かを警戒するように構える木場、小猫。そして、陸。
(なんだよ、この悪寒は……ッ!?)
「……まさか、僕がここまで来て初めて気づくなんてね」
そう言った木場は扉を開く。そこにいたのはリアスと朱乃。そして、メイド服を来た銀髪の女性だった。
メイドは陸たちの方を向くが、陸を視界に捉えると眉をひそめ、その鋭い目で陸を睨み付けた。
「御嬢様。なぜ此処に悪魔以外の者が?」
「グレイフィア。陸は眷属ではないけど、私たちの仲間よ。邪険に扱わないでちょうだい」
「そうですか……申し訳ございませんでした。私、グレモリー家に使えるグレイフィア・ルキフグスと申します。以後、お見知りおきを」
「あ、はい……こちらこそ……」
「さて、これで全員揃ったわね。今日は部活を始める前に大事な話があるの」
「御嬢様、私から話しましょうか?」
グレイフィアの提案に、リアスは『大丈夫』と返して陸たちと向かい合い、『大事な話』をしようとする。
しかし、その時、部室の中心にある魔方陣が強く輝き始め、グレモリーの紋章から別の物へ書き換えられていく。
その紋章を見た木場は言った。
───フェニックス家の紋章、と。
「ふぅ……人間界に来るのも久しぶりだな」
魔方陣から溢れる炎が弾け、その中から一人の男が現れる。男はリアスを見つけると馴れ馴れしく近寄っていった。
「よお、愛しのリアス。会いたかったぜ?」
「私は会いたくなかったけどね、ライザー」
片や下品な笑みを浮かべるライザーと呼ばれた男。片や嫌悪の表情を浮かべるリアス。だがしかし、リアスの態度を気にせず、男はリアスの肩に触れた。
そこで我慢の限界が来た一誠は男に掴みかかった。
「てめえッ! さっきから部長が嫌がってんだろッ! つーか誰だよ、あんたッ!」
「あん? ……なんだよ、リアス。俺のこと、話してねぇのか?」
「話す必要なんてないわ」
一誠の言葉に驚く男の問い掛けに、リアスは冷たく返すが、そんな彼女に代わって、グレイフィアが説明した。
「この方はライザー・フェニックス様。純血悪魔で、フェニックス家の三男であり、
────グレモリー家の次期当主……つまり、リアス御嬢様の婿殿であらせられます」
「………………はいぃぃぃッ!?!?!?」
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あれから数分後。ライザーはソファーに腰かけたリアスの隣に座り、朱乃がいれた紅茶を堪能していた。
「……フム。リアスの女王がいれた茶は旨いな」
「ありがとうございますわ」
そういう朱乃だが、その顔に笑みを浮かべず、冷たい目でライザーを睨み付けるが、当のライザーは一切気にせず、リアスの肩に手を回し、『結婚の日取りは何時にする?』だの『どんな場所がいい?』だのと語りかけていた。
だが、ついにリアスの堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしてッ! 私は貴方とは結婚しないって何度も言ってるでしょッ!」
「俺も言ったはずだ。そんな余裕は君の家にないだろ、と。純血悪魔が減衰した今、俺たちのような純血悪魔同士の結婚は重要なのは君も知ってるだろ? もし、君がこれ以上駄々をこねるなら」
───君の眷属を殺す。
そう言った瞬間、リアスの後ろに控えていた一誠たちの周辺に炎が迸った。
「ライザーッ! 貴方───」
「お止めを、ライザー様。これ以上は流石の私も黙っている訳にはいかなくなります。サーゼクス様の名誉のためにも手加減はいたしませんので」
「……俺も最強の『女王』とやり合うつもりはないんでね。だったらリアス、ここは一つ、『レーティングゲーム』で話をつけないか?」
「───ッ!?」
ライザーの言葉に、リアスとその眷属たちは息を飲み、唯一それを知らなかった陸は近くにいた朱乃、小猫にレーティングゲームとは何か、小声で問いかけた。
「……あの、姫島先輩。レーティングゲームって何ですか……?」
「レーティングゲームは上級悪魔同士が眷属を従え争うゲームのことです。本来なら成熟した悪魔でないと出来ないのですが……」
「……こう言った身内や御家同士のいがみ合いなら参加できます」
「なるほど……」
「いいわッ! 受けて立とうじゃないッ!」
「……よろしいかな? グレイフィア殿」
「リアス御嬢様が拒否した場合、元よりそのつもりでしたので」
「しかし、リアス、君の眷属は此処にいる面子だけか?」
「そうよ。陸以外は私の眷属よ」
「りく? そいつは、そこの悪魔じゃない奴の事か?」
「そうよ。人間だけど、私たちの大切な仲間よ」
「……おいおい。リアス、正気か? 片手で数えられる程度しかいないじゃないか。しかも、どいつも弱い。戦力として見れるのは『雷の巫女』と呼ばれている君の女王ぐらいじゃないか? なんなら、そいつを参加させてもいいぞ?」
「結構よ。これは悪魔である私たちの問題。人間の陸を巻き込むわけにはいかないわ」
「あ、そ。じゃあ、せめてものハンデとして10日間やろう。いいよな?」
ライザーの提案。普段のプライドの高いリアスなら断るだろうが、今回ばかりはそう言ってられない状況だと、リアスは理解していた。
「ええ。ゲームは10日後にやりましょう」
「じゃあ、俺はここで失礼するよ。次のゲームでまた会おう」
そう言って、ライザーは立ち上がり、魔方陣の中へ消えていった。