機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

10 / 56
第6話   アルテミスの攻防

 

 

 

 

 スカンジナビア王国。

 

 オーブと同じく地球に存在する中立国の1つである。

 

 そのスカンジナビアの王宮に存在する執務室では1人の女性がキーボードを叩き作業をしている。

 

 作業をしている女性はスカンジナビアでも人気が高く、各国家からの信頼も厚い王族の一人、第2王女アイラ・アルムフェルトであった。

 

 スカンジナビアでは王族も何らかの職務に就かなければいけない。

 

 そうして責任感や国のためにという愛国心を育てる。

 

 ただそこにいるだけのお飾りなど不要。

 

 でなければ民を率いる事は出来ないという初代国王の方針が今でも引き継がれている。

 

 アイラが関わっている職務は軍事、事実上の軍トップという立場にある。

 

 まあ、それだけに留まらず外交の場に出て行く事も当然のようにある訳だが。

 

 そんな彼女が今関わっているのがヘリオポリス崩壊についてであった。

 

 友好国とはいえヘリオポリスはオーブのコロニーであり、客観的に見ればスカンジナビアは関係ない事だが、事実は違った。

 

 ヘリオポリスでは地球軍が新型機動兵器の開発を行っていた。

 

 オーブはその技術を盗用する形で自国の機動兵器も開発していたのであるが、実はスカンジナビアもそれに極秘裏に参加していたのだ。

 

 本来それは中立を唱えるオーブやスカンジナビアからすればあり得ない事であった。

 

 だが綺麗事で国は守れず、守る為には力がいるのだ。

 

 少なくともアイラはそう考えていた。

 

 作業を淡々と進めていくアイラの耳にコンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。

 

 「どうぞ」

 

 「失礼いたします」

 

 入ってきたのはファイルを持ったスーツに身を固めた男性。

 

 秘書官の一人である彼には今回の件に関する情報を集めさせていた。

 

 「報告いたします。ヘリオポリスにいた技術者の無事が確認されました」

 

 「そう。ただちに本国に帰還させなさい。ザフトの方は?」

 

 「本国の方は具体的な動きはまだ。それからこれは確定ではありませんが、ヘリオポリスを襲撃した部隊が建造されていた新型機動兵器を奪取し、地球軍の新造戦艦を追っているとか」

 

 その報告を聞いたアイラは顎に手を当てて思考する。

 

 何故奪取をおこなった部隊が新造戦艦を追う必要がある?

 

 確かに開発されていた戦艦は高性能であると前に報告があった。

 

 だが所詮は戦艦である。

 

 モビルスーツを有するザフトがこだわるほどのものだろうか?

 

 それとも追わねばならない理由があるという事か。

 

 つまりそれはザフトが危険視するものであり、当然そんなものは限られている。

 

 「ザフトはすべての機体を奪取した訳ではないの?」

 

 「おそらくは」

 

 つまりザフトは新型モビルスーツの何機を奪取できなかった。

 

 そこで取り逃がした機体を奪うか、破壊する為にザフトの部隊が追っているという事だろう。

 

 ザフトとしても建造されていた機動兵器を放ってはおけないようだ。

 

 それだけ地球軍のモビルスーツを危険視している。

 

 どうやらかなりの性能を誇っているらしい。

 

 「地球軍の新型機動兵器の情報はどこまで?」

 

 「オーブと同程度でしょうか。さすがにすべては無理です」

 

 「そうね、極秘計画だったしね。今回はウズミ様にもかなり無理をさせてしまったわ」

 

 今回の地球軍の計画はウズミも知らなかった。

 

 それを知ったのは開発が終盤に差し掛かった頃で、完全に手遅れの状態だった。

 

 いまさらすべてを公表したところで糾弾は免れず、極秘に処理しようにもオーブは関わりすぎていた。

 

 それでもウズミはすべてを明るみにだし、自身が責任を取る形で事をおさめようとした。

 

 それを止めたのはアイラだ。

 

 覚悟を決めたのならば未来のためにするべき事をしましょうと。

 

 毒を食らわば皿まで。

 

 新型機動兵器開発のノウハウを今のうちに得ようを提案したのだ。

 

 今回の事は遠くない未来において必要となってくるのは間違いない。

 

 だからこそウズミを説き伏せた。

 

 「今回の事で少なからず犠牲者もいる筈。それらの犠牲を出してしまった原因は私にもある」

 

 「アイラ様」

 

 「大丈夫よ」

 

 今後の兵器の主役はモビルスーツになるだろうとアイラは予想していた。

 

 ならば国を守るためにも、開発のノウハウは必要不可欠だった。

 

 「オーブの『アストレイ』も完成間近ということだし。こちらの状況はどう?」

 

 「はい。『STA-S1』は現在約80%ほど完成していると報告が上がっております」

 

 「わかったわ。開発を急がせなさい」

 

 「わかりました」

 

 男性が退出すると、アイラは再び作業に戻る。

 

 やることは山ほどあるのだ。

 

 時間が足りないほどに。

 

 

 

 

 ザフトの追撃から逃れる事に成功したアークエンジェルはどうにかアルテミスへ入港出来た。

 

 このアルテミスは小惑星に造られた軍事基地である。

 

 軍事拠点としてはたいした規模でもないが、この基地独自の防御装置を持っている事で有名だった。

 

 通称『アルテミスの傘』

 

 小惑星全体を光波防御帯で取り巻くことで、あらゆる兵器を通さない絶対防衛装置である。

 

 クルーの誰もがこれで少しは落ち着くこともできると思っていた。

 

 だが彼らを出迎えたのは歓迎の声でも、労いの言葉でもなく、冷たい銃口だった。

 

 入港と同時にアークエンジェルは武装兵やモビルアーマーに取り囲まれた。

 

 挙句艦内になだれ込んできた兵士たちによってクルーたちは食堂に閉じ込められてしまった。

 

 そして今マリュー、ナタルそしてムウはアルテミス内部の司令室に通されていた。

 

 不機嫌そうに顔を顰めるマリュー達の前には禿頭の士官がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら立っている。

 

 どうやら彼がここの責任者らしい。

 

 「ようこそアルテミスへ。 私が司令官のジェラード・ガルシアだ」

 

 「……ガルシア司令。この対応はどういうことでしょうか?」

 

 挨拶も早々にマリューは問い質す。

 

 極力、感情は押さえたつもりでも、険のある言い方にはなってしまうのもこんな対応をされれば無理はないだろう。

 

 しかしそんな様子も気にせずガルシアは笑みを浮かべて口を開く。

 

 「一応の措置だよ。艦のコントロールと火器管制を封鎖しただけだ。なにせ船籍登録もなく、わが軍の認識コードもないのだからね」

 

 言っていることはもっともではある。

 

 だが敵である可能性を疑うなら、何故アークエンジェルを要塞内部に受け入れるのか。

 

 ムウにはその予想はついていた。

 

 「―――ふむ、確かに君らのIDは大西洋連邦のもののようだ」

 

 各自に名乗らせたあと、端末で検索をかけて調べたらしい。

 

 「しかし君がまさかあんな艦と共にここに現れるとはね、『エンデュミオンの鷹』殿」

 

 「特務でありますので、仔細を申し上げる事はできませんが」

 

 素知らぬ顔で返答するムウに、ガルシアは初めて表情を変えた。

 

 鋭い視線でこちらを見つめている。

 

 そんな雰囲気に焦れたのかナタルがここに来た目的を口にする。

 

 「司令。我々は一刻も早く月本部に向かわねばなりません。そのための補給をお願いしたいのです。ザフトも追撃を諦めては―――」

 

 「ザフト?―――これかね?」

 

 画面に映し出されたのは、紛れもなく先ほどまで自分たちを追っていた敵艦の内の一隻だった。

 

 「ローラシア級!」

 

 「見てのとおりだよ。奴らは傘の外をうろついている。これでは補給を受けても出られんだろう」

 

 映像を見せられた三人の緊迫した様子とは対照的に、ガルシアは余裕で笑みすら浮かべていた。

 

 「奴らが去れば、月本部との連絡も取れるだろう。 それまでは休息を取るといい」

 

 呼ばれてやってきた警備兵に促され、部屋を退室させられる。

 

 要するに体のいい監禁というところだろう。

 

 「ここはそこまで、安全ですかね?」

 

 「ああ、安全だとも。母の腕の中のようにね。―――まあ、ゆっくり休みたまえ」

 

 警備兵に連行されながら、ムウは気付かれないようにため息をつく。

 

 この状況はムウにとっては予想通りの展開だった。

 

 あの司令官の態度、そしてこの対応からみて、目的はやはりあの2機だろう。

 

 とりあえず保険はかけておいた。

 

 予想通りとはいえ、やはりため息しか出てこなかった。

 

 

 

 

 アルテミスのすぐ傍に、停泊していたガモフのブリッジではブリーフィングが行われていた。

 

 戦略パネルを見ながら、艦長ゼルマンとイザーク、ディアッカ、ニコルが話し合っている。

 

 内容はもちろんアルテミスへ逃げ込んだ敵艦、通称『足つき』を仕留めるためにどうあの軍事衛星の防衛装置を突破するかである。

 

 「『アルテミスの傘』にはレーザーも実体弾も通じない。まあ向こうからも同じではあるが……。今のところあの傘を突破する方法はない」

 

 話を聞いたディアッカはいつも通り皮肉な笑みを浮かべる。

 

 「どうする? こっちから何もできないんじゃね。 出てくるまで待つ?」

 

 「ふざけるな! お前は隊長達が戻られた時に、何も出来ませんでしたと報告するのか? 俺たちはユリウス隊長にも任されたんだぞ。そんな報告ができるか!」

 

 流石にそう言われるとディアッカも黙るしかない。

 

 どうやらイザークは尊敬しているユリウスに頼むと言われたことでかなり気合が入っているらしい。

 

 すると今まで黙って戦略パネルを見ていたニコルが口を開いた。

 

 「……傘は常に開いてはいないんですよね?」

 

 「ああ、周囲に敵のいない時は展開はしていない。だがそこを狙おうとしても接近すれば再び傘を展開してくる」

 

 ゼルマンの回答に全員が沈黙する。

 

 結局は打つ手なしである。

 

 しかし、ニコルは表情を変えることなく言い放った。

 

 「……僕の機体、ブリッツなら何とかなるかもしれません」

 

 その言葉に全員が驚いた。

 

 「あれには面白い機能がついてるんですよ」

 

 

 

 

 要塞内部に収容されたアークエンジェルの食堂には兵士達によって閉じ込められたクルーだけでなく、居住区にいた避難民達も集められていた。

 

 食堂の前には銃を持った兵士が立ち、集められた人達は皆一様に暗い表情を隠せない。

 

 どこか不安そうに小声で話をしている。

 

 これまでの状況から考えても当り前の反応と言える。

 

 これで助かったのだと誰もが思った筈なのだから。

 

 そしてそれは半ば強引にこの場に集められたクルー達も同じであった。

 

 「あの、ユーラシアって味方なんじゃ……」

 

 「そう言う問題じゃないんだよ」

 

 「認識コードがないしなぁ」

 

 サイと他のクルー達との会話を聞いていたマードックが呟いた。

 

 「本当の問題は別みたいだがな……」

 

 「ええ」

 

 操舵士のノイマンもそう思っていたようでマードックのつぶやきに首肯する。

 

 まあそれが分かった所で今はどうしようもない。

 

 マリュー達が上手くやってくれれば良いのだが。

 

 先の見えない状況にマードックとノイマンがため息をついていると、ユーラシアの士官達が兵士を伴い入ってきた。

 

 先頭にいた禿頭の男が質問してくる。

 

 「私はアルテミスの司令官ジェラード・ガルシアだ。この艦に搭載されている2機のモビルスーツのパイロット及び技術者はどこかな?」

 

 キラが思わず立ち上がろうとしたのをアストが手を掴んで止めると対面に座るノイマンや後ろに立つマードックもそれを見て頷いた。

 

 やはりそういう事だったようだ。

 

 アストはガルシアの発言でムウの指示した事の意味が理解できた。

 

 ムウはアルテミス入港直前に2機のOSをロックしておくように指示を出していた。

 

 おそらくユーラシアの人間に勝手に弄らせない為だったのだ。

 

 「何故我々に聞くんですか? 艦長たちに聞けばよろしいのでは?」

 

 ノイマンの言葉にガルシアは不愉快そうに顔を歪める。

 

 おそらくマリュー達からは何も聞き出せなかったのだろう。

 

 「あの二機をどうするつもりですか?」

 

 「別にどうもしないさ。ただ公式発表より先に見られる機会に恵まれたからね。いろいろと聞きたいだけだよ」

 

 「私達は何も言えませんよ。軍事機密ですので。もしかしたらフラガ大尉が操縦していたのかもしれませんし、そちらに聞かれた方がいいかと」

 

 マードックの返答にさらに不機嫌さを増した顔で睨みつけてくる、ガルシア。

 

 「先ほどの戦闘はこちらでもモニターしていたよ。ガンバレルつきのゼロを操れるのはあの男しかいない事は私でも知っている」

 

 皆が口を閉じ答えがない。

 

 ガルシアはもはや食堂に入ってきた時の余裕はなく、苛立ちのまま声を荒げて質問を重ねようとした時だった。

 

 「2機のパイロット内の一人なら知ってますけど……」

 

 声を上げたのは、壁に寄り掛かっていたエフィムだった。

 

 隣には相変わらずフレイもいる。

 

 その返答にガルシアの不機嫌な顔は不敵な笑みに変わった。

 

 「ほう、教えてもらえるかな」

 

 「あそこに座ってる奴ですよ」

 

 エフィルが指さした先にはアストが座っていた。

 

 思わず舌うちしそうになるのを堪える。

 

 「あんな子供に動かせるはずがないだろう」

 

 「本当よ。だって彼コーディネイターだもの」

 

 フレイの言葉にガルシアもそしてユーラシアの兵も唖然とした表情になる。

 

 普通は地球軍の艦にコーディネイターなど乗っている筈もないからだ。

 

 しかしガルシアは納得しなように嫌らしい笑みを浮かべてアストに近づいてくる。

 

 「なるほどな、では君ならもう1人のパイロットも知っているだろう」

 

 アストは拳を握り締めながら、立ち上がるとガルシアの前に立った。

 

 「……ハァ。別にもう1人のパイロットはどうでもいいでしょう。モビルスーツのOSなら2機とも俺が外せますよ」

 

 その言葉に納得したのか、傍にいる士官に「準備を」と指示を出すとこちらに向き合った。

 

 「ふむ、まあいいだろう。ついてきてもらおうか」

 

 「……分かりました」

 

 その答えに満足したのか、ガルシアは兵に命じてアストを連行していく。

 

 「アス―――」

 

 連行されていくアストを前にキラが立ち上がりかけるがマードックが肩に手を当てて押し留める。

 

 それに気づいたアストもキラの方を見て首を横に振る。

 

 今キラが名乗りでても何の意味もない。

 

 事態が余計にややこしくなるだけだ。

 

 アストが連行されていった後、キラは悔しそうに唇を噛み、トールとアネットがエフィルとフレイを問い質す。

 

 「ふざけんなよ、お前ら!! なんであんなこと言うんだよ!!」

 

 「あんたたちアストがどうなってもいいわけ!!」

 

 物凄い剣幕で詰め寄る二人だったが、どんなに問い詰められてもエフィムもフレイも涼しい顔である。

 

 「大声出すなよ。別に本当の事だろ。それにここは味方の基地なんだしさ」

 

 「そうよ。それにいつまでもあの軍人の顔を見たくなかったしね」

 

 あくまで自分たちは間違ってないという態度の2人にトール達の苛立ちが募る。

 

 この2人がコーディネイター嫌いなのは知っていたが、ここまで自分勝手な行動を取るとは誰も思っていなかった。

 

 キラなどさっきから2人を睨みつけている。

 

 必死に怒鳴りかかるのを抑えているようだ。

 

 「そんなに睨むなよ。たぶん殺されることはないからさ。なんといっても俺たちを守ってくれたパイロット様だしな」

 

 エフィルが軽い口調で言い放つ。

 

 だがどんなに2人を責めてもなんの意味もない。

 

 すでにアストは連れていかれた後なのだから。

 

 今トール達にできるのはせめてアストが酷い事をされないよう祈るくらいしかできなかった。

 

 

 

 

 格納庫に連行されたアストはイレイズ、ストライクの前に立つ。

 

 見上げるとすでに2機のコックピットには技術者と思われる者たちが張り付いていた。

 

 見るからに入港してすぐにOSのロックを外そうとしていたらしい。

 

 「どっちのOSからロックを外せばいいんですか?」

 

 「まず君の機体の方から頼もうかな」

 

 自分の機体と言っても、別に決まってはいない訳だが。

 

 とりあえず前の戦闘で乗ったイレイズのコックピットに入りOSのロックを外していく。

 

 それを見ていた技術者は驚愕し、ガルシアは笑みを浮かべる。

 

 「流石だな。この調子で君にはOSのロックを外すこと以外にも、いろいろやってもらいたいことがあるのだがね。たとえばこいつの構造の解析や同じものの開発とか……」

 

 「……そんなことをする理由がありませんが」

 

 「君は裏切り者のコーディネイターだ。ならばどこで戦おうと同じだろう」

 

 ここでも同じか、生まれがどうこうって。

 

 正直侮辱されているようでかなり腹が立つ。

 

 あのアスランといいそんな事で命をかけていると本気で思っているのだろうか。

 

 アストの作業の手を一旦止めるとガルシアの方を向きハッキリと言い放った。

 

 「勘違いしないでください。俺はコーディネイターとかナチュラルとかそんな理由で戦った訳じゃない」

 

 一瞬、過去の情景が思い浮かぶ。

 

 あの時は何もできなかった。

 

 だからこそ今度は、

 

 「俺が戦ったのは、友人のためです!」

 

 アストはガルシアから視線を外すと再びキーボードを叩き始めた。

 

 本当に腹立たしい。

 

 

 

 

 

 ガモフはアルテミス宙域付近をゆっくりと離れていく。

 

 ずっと張り付いていた敵艦が離れたことでアルテミスの管制室は撤退したと判断したのだろう。

 

 展開されていた傘も消える。

 

 甘いと思いながらもそれを待っていたニコルはブリッツをガモフから出撃させた。

 

 宇宙空間を進むブリッツは各所にある噴射口からガスのようなものを噴き出した。

 

 それが広がっていくにつれ、徐々に機体が消えていく。

 

 完全に機体が消えたところでニコルは異常がないか機体状態を確認する。

 

 「良し、ミラージュコロイド生成に問題なし。使用時間は80分が限界か……」

 

 初めて使う機能だ。

 

 うまく作動した事にホッとする。

 

 これがブリッツの面白い機能『ミラージュコロイド』である。

 

 ミラージュコロイドは可視光線などの電磁波を遮断する特殊な微粒子を磁場で機体表面に定着させることでほぼ完璧な迷彩を施すことができる。

 

 これを展開すれば視覚だけでなく、レーダーにも映らない。

 

 ただこの機能にも欠点が存在する。

 

 それは使用すると電力消費が激しい為長時間の展開は不可能という事。

 

 そしてもう一つミラージュコロイドを展開している最中はPS装甲が使えないのである。

 

 ブリッツは誰にも気づかれる事なく徐々に接近してアルテミスに取りついた。

 

 表面の岸壁にはエアダクトなどの設備が見て取れる。

 

 「どこに……あれか?」

 

 ニコルは光学防御帯を作るリフレクターを見つけ出し、トリケロスを構えてビームを発射した。

 

 いかにアルテミスの傘が鉄壁の防御力を有していたところで、展開前にリフレクターを破壊されたら意味がない。

 

 ブリッツの放ったビームがリフレクターに直撃すると大きな爆発を引き起こす。

 

 その震動は中にも伝わっているはずだがすでにここまで取りついている以上問題はない。

 

 続けてビームを放ち、何機かのリフレクターを破壊する。

 

 「これくらいで十分ですね」

 

 これだけリフレクターを破壊すればもう『傘』は展開できない。

 

 ならば今度は本命である。

 

 ニコルはミラージュコロイドを解除し、アルテミスの表面を移動しながら次々と施設を破壊していく。

 

 そのまま内部まで侵入すると、ようやく警備のモビルアーマーが飛び出してきた。

 

 「対応が遅すぎますよ。傘の防御力に頼りきりだからこうなるんです!」

 

 ニコルはアルテミスの対応の遅さに呆れながらもモビルアーマーのミサイルを撃ち落とす。

 

 「残念ですけど、それではやれません!」

 

 攻撃してきたモビルアーマーをたやすくビームサーベルで斬り裂いた。

 

 そしてビームライフルで次々と近くのモビルアーマーから撃破していく。

 

 ニコルは別にナチュラルを蔑視する気はない。

 

 だからこそヘリオポリスが崩壊した時は胸が痛んだ。

 

 それが必要な事だと分かっていてもだ。

 

 だがいざ戦闘となれば話は別、容赦はしない。

 

 襲いかかってくる敵を薙ぎ払いながら目的の存在を探す。

 

「どこにいるんだ、足つきは?」

 

 しつこいくらい群がってくるモビルアーマーを破壊しながらアルテミスを突き進む。

 

 モビルアーマーがいくら来てもブリッツガンダムには傷一つ付けられない。

 

 難なく内部の奥までたどり着くとそこには探していた目標がいた。

 

 「見つけましたよ、足つき」

 

 

 

 

 OSのロック解除を終えたと同時にそれは起こった。

 

 突然、地響きののような震動が伝わり、そのあとで大きな爆発音が聞こえてきたのだ。

 

 「管制室、なにがあった!?」

 

 《内部にモビルスーツが侵入しています!?》

 

 その報告にガルシアたちは愕然とする。

 

 彼らは傘の防御力をあまりに過信していた。

 

 その傘の内部に敵が侵入してくるなど考えた事もないのだろう。

 

 アストは呆然とした兵士を隙を見てコックピットから蹴りだすとハッチを閉じる。

 

 「貴様! 何をする!」

 

 「敵に攻撃されてるのに、こんなことしてる場合じゃないでしょう!」

 

 「ええい、くそ!」

 

 それは正論だった。

 

 内部にまで侵入されているならこんな事をしている暇はない。

 

 ガルシア達は取りついていたイレイズから離れると急いでアルテミスの管制室に走り、同じくアークエンジェルに張り付いていた兵士達も飛び出していく。

 

 そして食堂に集められていたクルー達もアルテミスの様子がおかしい事に気が付いた。

 

 これだけの騒ぎ、気が付かない方がおかしい。

 

 なんであれこの状況を打開するチャンスだ。

 

 ノイマンが周りのクルー達と視線を合わせると頷く。

 

 アルテミスの連中には悪いが、今の状況を利用させてもらおう。

 

 椅子から立ち上がり戸惑いながら立ち竦む見張りに問いただす。

 

 「この震動はなんだ!!」

 

 「え、あ、いや」

 

 彼らもずっとここにへばり付いていた以上、知る訳がないのだがそんな事に構ってはいられない。

 

 「分からないなら確認取れよ!」

 

 千載一遇の好機を逃すまいと、他のクルーたちが飛び掛かり一斉に兵士達を押し倒す。

 

 「ブリッジクルーはついてこい!」

 

 「は、はい」

 

 倒された兵士達を尻目に全員が配置に戻る。

 

 「そいつらは外に出しておけよ」

 

 この震動が敵からの攻撃であるならば急いでブリッジに向かい艦を起動させなければここで終わる事になる。

 

 冗談ではない。

 

 ノイマン達が走って行くのを見ていたキラも格納庫に駆け出そうとするがマードックに止められる。

 

 「なんです!?  アストが……」

 

 「すぐに艦が出る。機体に待機だけにしとけ。坊主を信じろって」

 

 キラは何もできない自分に激しく苛立った。

 

 嫌な事はすべてアストに押しつけて何をやっているのか。

 

 あまりの悔しさにきつく拳を握る。

 

 だが無理に飛び出しても迷惑がかかるだけだ。

 

 「……わかりました」

 

 ただ俯きそう返事する事しかできなかった。

 

 

 

 

 アストはイレイズのPS装甲のスイッチを入れ、アークエンジェルのハッチを開き、そのまま外に飛び出した。

 

 外の基地は所々破壊され火の海だった。

 

 そんな中でこちら側に向かってくる機体―――やはりへリオポリスを襲った連中であった。

 

 敵は前回キラと戦っていたガンダム。

 

 「ブリッツガンダムか!?」

 

 ニコルもアークエンジェルから出てきた機体を見て警戒を強める。

 

 前回の戦闘データはニコルも閲覧済みであり、油断できる相手ではない。

 

 「イレイズですか……」

 

 アスランやイザークの2人でも倒しきれなかった相手。

 

 ここに来るまでに倒したモビルアーマーとは全く比べ物にならない。

 

 「ここで落とさせてもらいますよ!」

 

 ブリッツは先制攻撃とばかりに、グレイプニールを放つ。

 

 イレイズはイーゲルシュテルンで迎撃しつつ、迫ってきたグレイプニールを右手のブルートガングで弾き飛ばす。

 

 「実体剣!? あんな装備まで!」

 

 先の戦闘ですべてを見せた訳ではないという事はわかっていた。

 

 あの背中に装着されている兵器も今だ使っていない。

 

 見るからに強力な火器と予想は出来る。

 

 だがここはまだ要塞の中である。

 

 いくらなんでもここで強力な火器は使えないだろう。

 

 しかし慎重に行動しなくてはならない。

 

 こちらの知らない武装がまだあるかもしれないからだ。

 

 イレイズはブルートガングを収納すると、ビームサーベルを抜き斬りかかる。

 

 「アークエンジェルはやらせない!」

 

 ブリッツもトリケロスに装備されたランサーダートを発射し応戦する。

 

 何とか二発目までを回避し、最後の一発はビームサーベルで斬り払う。

 

 「くっ、やりますね」

 

 「こんな所まで追って来るなよ!!」

 

 イレイズはビームサーベルを振るうもブリッツはシールドで受け止める。

 

 ビーム刃がシールドに阻まれ火花が飛ぶ。

 

 互いに弾け合って距離を取り、再び構えた時、アークエンジェルが動き出した。

 

 《アスト、アルテミスから脱出するわ。戻って!》

 

 ミリアリアからの通信が入る。

 

 どうやらこの騒ぎに乗じてアークエンジェルを取り戻したらしい。

 

 「逃がさない!」

 

 アークエンジェルの動きに気づいたブリッツがビームサーベルを構えて突っ込んでくる。

 

 アストはシールドを捨て、左のブルートガングを構えた。

 

 「邪魔だ!」

 

 振り下ろされたビームサーベルをブルートガングで実体のトリケロスを狙い左に受け流す。

 

 弾き飛ばされた衝撃でブリッツが僅かに体勢を崩した。

 

 一瞬、懐が無防備になる。

 

 ニコルは背筋が凍った。

 

 完全に隙が出来てしまったのだから。

 

 アストはそれを見逃さず、ビームサーベルを振り抜いた。

 

 「くぅ、まだ!!」

 

 ニコルは操縦桿を引き、ブリッツを咄嗟に後退させた。

 

 刃が軌跡を描き装甲を袈裟懸けに薙いでいく。

 

 下がった事で致命的なダメージは負わなかったが、胸部の装甲が切り裂かれた。

 

 とはいえ浅かったおかげでコックピットに影響はない。

 

 それでも危ないところだった。

 

 もう少し深ければコックピットが抉られていただろう。

 

 その隙をつきアストはイレイズを後退させる。

 

 「待て!!」

 

 ニコルもそれに気がつきイレイズを追うが基地の爆発に機体が押され阻まれてしまう。

 

 そこに施設を攻撃していたデュエルとバスターも追い付いてきた。

 

 「ニコル無事か!」

 

 「問題ありません。追いましょう!」

 

 「ここまできて逃がすかよ!」

 

 今ならまだ間に合う。

 

 3機が邪魔するモビルアーマーを薙ぎ払いながら、アークエンジェルを追撃し始める。

 

 すると要塞の外に出ていたイレイズが反転、背後の砲身を前面に跳ね上げると三機に狙いを定めた。

 

 「ッ!? 避けろ!」

 

 イレイズが砲撃体勢に入っている事に気がついたイザークが叫ぶ。

 

 その声に合わせニコルもディアッカも回避行動を取るが位置が悪かった。

 

 彼らはまだ衛星の中だったのだ。

 

 砲口に光が集まり、強力なビームが放たれる。

 

 それはアグニほどの威力ではないがそれでもモビルスーツを破壊するには充分すぎる威力だった。

 

 デュエルの右腕が消失し、バスターも左足を破壊される。

 

 「くそ!!」

 

 「チィ!」

 

 損傷を受け距離も開いてしまった以上、追撃は断念するしかなかった。

 

 「この借りいつか返しますよ、イレイズ」

 

 ニコルもまた静かに闘志を燃やした。次の機会で必ず!

 

 

 

 

 イレイズは敵機を損傷させ、追撃してこない事を確認すると即座に反転しアークエンジェルに向う。

 

 「アータル……最後に使っただけだけどバッテリーを結構消費してしまった。調子に乗って使ってたら、あっという間に装甲が落ちる」

 

 この機体を実戦配備から外した理由がよく解る。

 

 酷く扱いにくいうえに、この燃費の悪さは致命的だ。

 

 アストはこれからの事に不安を覚えてしまう。

 

 「ハァ、それでもやるしかないよな」

 

 そう自身を叱咤し、アークエンジェルに帰還した。

 

 

 

 この日、絶対防衛装置を突破されたアルテミスは陥落した。




政治的な話とかうまく書けないですね。

もしかしたらおかしいかも。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。