機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第7話   惨劇の場所

 

 

 

 

 

 

 椅子に座りアスランはただ黙って事の成り行きを眺めていた。

 

 普段から真面目な彼であるが今日は一段と固い表情で正面を見ている。

 

 今、彼の目の前では厳粛な空気の中で議会が開かれているのである。

 

 『プラント最高評議会』

 

 プラントは全12の市で構成されており、各市から1人を選出する。

 

 そうして選ばれた12人が最高評議会の議員としてプラントの行く末を決めるのである。

 

 歪曲した机の中央には最高評議会議長シーゲル・クラインが、その周りにそれぞれの議員が座っていた。

 

 その中にはアスランの父パトリック・ザラやイザーク、ディアッカ、ニコルの親もいる。

 

 アスランはラウと共にその最高評議会に出席していた。

 

 理由は中立コロニーヘリオポリスを崩壊させた経緯について説明する為である。

 

 まあヴェサリウスはあの戦闘でかなりの損傷を受けていたため、どんな形になろうと一度本国の方に戻らざる得なかったであろうが。

 

 「……以上がヘリオポリス崩壊の経緯です。あの崩壊の最大原因は地球軍の方にありますことをご報告いたします」

 

 ラウの報告を聞いた急進派の議員たちが紛糾し、同時に穏健派の議員たちも反論する。そこにパトリックの重々しい声が響く。

 

 「しかし、クルーゼ隊長。その地球軍の新型モビルスーツ、そこまでの犠牲を払ってまで手に入れる価値のあるものだったのかね?」

 

 「その性能については実際に機体に搭乗し、また敵側の機体とも交戦経験のあるアスラン・ザラより報告させたいと思います」

 

 ラウの言葉にアスランの表情が一段と強張った。

 

 これがアスランがここにいた理由である。

 

 ラウより地球軍の新型モビルスーツ『ガンダム』についての報告をするように言われていたのだ。

 

 若干の緊張を伴いながら背後のスクリーンに戦闘の映像が映し出されると、それに合わせて報告を始める。

 

 白い機体を見る度に湧きあがってくる複雑な感情を抑えながら。

 

 

 

 

 ラウとアスランが議会に出席していた頃、ユリウスは格納庫でモビルスーツの整備を行っていた。

 

 艦についての修理、補給はアデスや他のクルー達に任せてある。

 

 ただモビルスーツに関しては常に自身の目でチェックする事にしている。

 

 自分や部下の命がかかっているのだ。

 

 整備を信用していないわけではないが、他人任せというのはどうも落ち着かない。

 

 「問題は奪ってきた機体か」

 

 メタリックグレーの機体、格納庫に佇むイージスを見え上げながら呟く。

 

 そもそも奪ってきた機体には予備のパーツも部品もない。

 

 つまり損傷すれば修理できないのだ。

 

 幸いこのイージスは損傷を受けず、今のところ問題はない。

 

 しかしこの先も損傷なしなんて事はあるまい。

 

 現に足つきを追っていたガモフに搭載されていた3機は、アルテミスの戦いにおいてイレイズによって損傷を受けたらしい。

 

 それによってガモフにも帰投命令が出ている。

 

 ザラ委員長の命令によってデータの解析が終わり次第、ジンの生産ラインの幾つかをガンダムのパーツ、部品の生産に回すらしい。

 

 しかし本来生産すべき部品とは全く違う規格の部品を生産しようというのだ。

 

 そう簡単にはいくまい。

 

 それなりの時間を要する事になるだろう。

 

 一通りのチェックを終えたユリウスはあとは部下達に任せ、ヴェサリウスを後にするとその足である人物の元を訪れていた。

 

 エドガー・ブランデル。

 

 『宇宙の守護者』と言われた名将であり、様々な作戦で大きな戦果をあげただけでなく、窮地に陥った友軍を何度も救ったことでも有名な人物である。

 

 そのため、多くの将兵からの尊敬され、人望も厚い。

 

 ユリウスはアカデミーを卒業した後は最初に彼の隊に配属され、彼から戦術などいろんなことを教えられた。

 

 「お久しぶりです。ブランデル隊長」

 

 「噂は聞いている。活躍しているようじゃないか。前線はどうだ?」

 

 エドガーが指揮する隊は、現在ザフト最終防衛ラインに位置するヤキン・ドゥーエに配置されている。

 

 前線の事は情報として入ってきてはいるが、やはり現場にいた者からの話は貴重だ。

 

 そのため度々本国に戻って来たユリウスを呼び、話を聞いていた。

 

 無論その話だけでは無いのだが。

 

 「なるほどな。今回の事でさらに戦いは激化していくか……」

 

 「ええ、それで本国の方はどうですか?」

 

 エドガーは眉間に皺をよせて厳しい表情になる。

 

 「……ほとんど前と状況は変わらんが、1つ気になる噂があった」

 

 「なんです?」

 

 「……パトリック・ザラが極秘でとある物の開発を命じたというものだ」

 

 「それは?」

 

 一度言葉を切り、目を伏せる。

 

 しばらく口を閉ざしていたがエドガーだったが、再び口を開いた彼から飛び出してきた言葉は信じ難いものであった。

 

 「Nジャマーキャンセラーの開発だ」

 

 「なっ」

 

 これには普段冷静なユリウスも驚いた。

 

 Nジャマーは血のバレンタインの後、ザフトが地球上に投下した物。

 

 その効果は核分裂を抑止し核兵器を使用不可能にする。

 

 このNジャマーによりプラントは核の恐怖におびえる事が無くなったのである。

 

 ただそれにより地球では核エネルギーのすべてが使用不能になった事で、深刻なエネルギー不足になり多くの死者が出てしまったのだ。

 

 「まあ、あくまで噂だ。だがいつまで噂で済むかな。『戦争は勝って終わらねば意味がない』というのがあの男の口癖だからな。いったいどういう風に勝つつもりなのか……」

 

 「……国防委員長もプラントのために動かれているのでは?」

 

 強硬姿勢のパトリックを含む急進派は軍備増強を強く訴えている。

 

 それはエドガーとて必要であると理解している。

 

 だがあの男は別にプラントを守ろうと強硬路線を主張している訳ではないのだ。

 

 「プラントのため? 馬鹿馬鹿しい。あの男が考えているのは自らの復讐のことだけだよ。確かに現状、戦力増強は必要な事だがね」

 

 エドガーはプラントの中では知らぬ者のいないというほどの英雄だ。

 

 そのためプロパガンダに利用しようと近づいてくる者もいた。

 

 その中にはパトリックたち急進派議員もいて接する機会が多かった。

 

 もちろんすべて断りはしたが、それによってパトリックの本質を理解していた。

 

 「ともかく現状はこんなところだ」

 

 「ええ。今後はパトリック・ザラの行動をより注視していかなければいけませんね」

 

 2人の話はそのあともしばらく続き、ユリウスが部屋を出たのはそれから二時間後だった。

 

 

 

 

 アスランは評議会終了後、墓地に訪れていた。

 

 目の前にある墓が母レノア・ザラの墓標である。

 

 だがこの場所には遺体はない。

 

 アスランの母は破壊されたユニウスセブンの犠牲者の1人だからだ。

 

 ユニウスセブンはただの食糧生産コロニーであり、地球軍はそこに核を放った。

 

 それが『血のバレンタイン』と呼ばれる惨劇だ。

 

 それによって亡くなったのはアスランの母だけでは無く、誰かの大切な家族、恋人、友人も大勢いたのだ。

 

 アスランの胸の内に湧き上がる怒りと憎しみと共に、先の評議会での父の言葉が蘇る。

 

 『我々は同胞を、この大地を、プラントを守るために戦う。戦わなくては守れぬならば戦うしかないのです』

 

 最後に父はそう締め括った。

 

 アスランはザフトに志願すると決めた時のように再び決意を固めた。

 

 この場所を、人々を守るために戦おうと。

 

 そしてもう1つの決意をする。

 

 それは敵戦艦にいると思われるキラの事だった。

 

 あの時ストライクに乗っていたのは、キラで間違いない。

 

 何故、地球軍にいるかはわからないが、必ずこちらに連れてくる。

 

 もう大切な者を失うのは御免なのだ。

 

 その時はまたあのイレイズが邪魔をするかもしれない。

 

 あのパイロットもコーディネイター。

 

 できれば同胞を撃ちたくはないが、あのパイロットは説得には応じないだろう。

 

 ならば―――敵対するなら、容赦はしない! 

 

 今度こそ躊躇う事無く討つ!

 

 アスランにとってアストは、自分の邪魔をする敵という印象の方が強い。

 

 なにより奴はミゲルや仲間を殺したのだ。

 

 許せるはずもない。

 

 自身の覚悟を再確認していたその時、非常呼び出しの合図が鳴る。

 

 「呼び出し? いったい何が?」

 

 緊急事態かもしれないと急いでヴェサリウスに向ったアスランは、そこにいた意外な人物に驚く。

 

 ラウとユリウスの横にパトリックがいたのだ。

 

 訝しみながら近づくとユリウスが声を掛けてくる。

 

 「アスラン、ラクス様の事は聞いているか?」

 

 「ラクスですか?」

 

 一体どういう事だろうか?

 

 「追悼式典の準備のためユニウスセブンに向かった視察船が消息を絶ったのだ」

 

 ユリウスの言葉を補足するようにパトリックが横から口を挟む。

 

 ラクス・クラインはプラントの歌姫にして親同士が決めたアスランの婚約者でもある。

 

 クラインの名の通り現議長シーゲル・クラインの娘でもあり、今回ユニウスセブン追悼慰霊団の代表にもなっていた。

 

 アスランとしては、将来結婚する相手だと言われても実感がわかないのが正直なところ。

 

 だがそれでも大切な存在なのは変わらない。

 

 それに―――彼女のそばにはあの人もいる筈、ラクスと同じくアスランにとって大事な存在が。

 

 だからこそ消息不明の知らせはアスランをひどく動揺させた。

 

 「捜索に向ったジンからも連絡がまだ入らん。ユニウス・セブンは現在地球の引力に引かれ、デブリベルトの中にある。嫌な位置なのだ」

 

 「ではラクスの探索を我々が?」

 

 「そうだ。アスラン、ラクス嬢とお前の関係は誰もが知っている。それなのにお前の所属するクルーゼ隊が休暇というわけにもいかん。いいな、頼むぞ」

 

 そのまま背を向けて去る父親を見つめながら、アスランはつぶやいた。

 

 「……彼女を助けヒーローのように戻ってこいということですかね」

 

  「またはその亡骸を号泣しながら抱いて戻れということだろう」

 

 ラウの言葉に驚くと同時に凍りついた。

 

 つまりそれはラクスの死を意味する。

 

 そして一緒にいるはずの彼女も死ぬという事。

 

 そんな事は想像もしたくない。

 

 固まるアスランの様子を気にすることなく、ラウは薄く笑いながら言葉を続ける。

 

 「どちらにせよ、君が行かねばどうにもならないということだよ」

 

 ラウはヴェサリウスに乗り込んで行く。

 

 「……何があろうと覚悟は決めておけということだ」

 

 ユリウスは気遣うようにアスランの肩に手を置く。

 

 「行くぞ」

 

 「……はい」

 

 ユリウスの気遣いに感謝しながら、そう短く返事をすると嫌な想像を振り切る為に頭を振るとヴェサリウスに乗り込んだ。

 

 

 

 

 アルテミスを脱出したアークエンジェルはとある場所に向かって航行していた。

 

 向かっているのは―――『デブリベルト』と呼ばれる場所である。

 

 デブリベルトとは地球を取り巻く宇宙のゴミが集まっている場所。

 

 これらは宇宙開発などで出た廃棄物や戦闘で破壊された物が地球の引力に引きよせられて漂っているのだ。

 

 そんな場所に好んで行く者など殆どおらず、ジャンク屋などの限られた者くらいだろう。

 

 何故そんな所に向かっているのか?

 

 それは以前からの問題であるアークエンジェルの物資が切迫し始めたからである。

 

 結局アルテミスでは補給は受けられず、そのため物資不足は解決していない。

 

 特に弾薬と水はかなり深刻な状況なのだ。

 

 弾薬が尽きれば敵に襲われてもまともに迎撃出来ず、水については言うまでもない。

 

 このままでは月までたどり着く前に終わる事になる。

 

 そこでムウの発案でデブリの中の使える物資を使わせてもらおうという事に決まったのだ。

 

 もちろんそんなゴミ漁りのような真似には全員抵抗があった。

 

 しかしそんな事も言ってられない状況であり、他の打開策もない。

 

 モビルスーツを操縦できるアスト達にもデブリでの作業を手伝うようにと要請があり、そのためキラと格納庫に向かっていた。

 

 「今回はデブリでの作業の手伝いだから少しは気が楽かな」

 

 「そうだな。まあこんな状況じゃなきゃ、ゴミあさりなんてやりたくはないけどさ」

 

 苦笑しながら話してるとキラが黙って俯く。どうかしたのだろうか?

 

 「どうした?」

 

 「……アスト、この前のアルテミスでの事だけど、ごめん」

 

 突然の謝罪にかなり驚く。

 

 この前の件はキラの所為ではないだろう。

 

 「なんで謝るんだよ」

 

 「だって! アストだけいつも……。ヘリオポリスの時も、その後の戦闘も僕は何も」

 

 「そんなことないよ。キラだって戦ったじゃないか。それにさ……」

 

 アストは照れくさそうに笑いながら言った。

 

 「友達だろ。気にするなよ」

 

 キラは思わず泣きそうになる。

 

 アストがいなければ自分は、コーディネイターであることの孤独感や戦闘の恐怖に押しつぶされていたかもしれない。

 

 でも自分は1人ではない。

 

 出撃前に手を握ってくれたアネット。

 

 友達と言ってくれたエルザ。

 

 艦の仕事を手伝っている、トール達。

 

 そう、アストだけでなく、仲間たちもいるのだ。

 

 「アスト、ありがとう。今度は僕の番だ。僕がアストや皆を守るよ」

 

 キラは決意を固める。

 

 たとえ今度来る敵がアスランであろうとも、アスト達を自分が守るのだと。

 

 「アスト兄ちゃん! キラ兄ちゃん!」

 

 話をしているとエリーゼが走ってきた。

 

 1人ではなくエリーゼと同い年くらいの女の子の手を引いている。

 

 「エリーゼどうしたの? その子は?」

 

 「友達になったエルちゃん! エルちゃん、この人たちが私たちを守ってくれるんだよ!」

 

 「そうなんだ~!」

 

 二人とも目を輝かせて見上げてくる。

 

 そんな純真な目で見つめられるとキラもアストもどこか照れくさくなる。

 

 「ねえ、一緒に遊ぼうよ!」

 

 「ごめんな、これから宇宙に出て作業があるんだよ」

 

 「そうなんだよ。それが終わったら遊ぼう」

 

 「そっかぁ」

 

 残念そうに肩を落とすエリーゼにキラが優しく頭を撫でる。

 

 「ごめんね。今度遊ぼう」

 

 「キラ、みんな待ってるし、行こう」

 

 「あ、そうだね。2人共またね」

 

 「うん! 気をつけてね!」

 

 手を振っている2人に手を振り返すとアストがつぶやいた。

 

 「……あの子たちを守らないとな」

 

 「うん」

 

 あの子達を必ず守らなくては。

 

 改めて決意を抱くとそのまま格納庫に向かう。

 

 すでに準備が出来ており、作業艇に乗りこんだクルー達が外に出ていく。

 

 どちらがどの機体に乗るかはいままで決めてなかったが、基本的にアストがイレイズ、キラがストライクということになった。

 

 何故そうなったかというと、イレイズの欠陥にある。

 

 前回までの戦闘でこの機体の扱いにくさと燃費の悪さがよく分かった。

 

 ストライクに乗った感覚のままイレイズに乗るとあっという間にエネルギー切れを起こす。

 

 ならその事をよく理解しているアストの方がまだ適任だろうと判断されたのだ。

 

 外に出るといきなり大きな残骸がアストの目の前に飛び込んでくる。

 

 それだけでなく見渡すと周りには何らかの残骸が広がっている。

 

 こんな光景を見ているとヘリオポリス崩壊のことを思い出してしまう。

 

 この広がる光景はあの時によく似ていた。

 

 自分達も負ければこうなる、そんな未来が暗示されているようで、かなり嫌な気分である。

 

 周りのゴミを避けながら、比較的損傷の少ない戦艦から弾薬などを回収していく。

 

 そのまま何事もなく作業が進められると思っていた。

 

 だが、しばらくして通信機からキラやトールの声が聞こえてくる。

 

 「あ、ああ……」

 

 「これって……」

 

 「どうした!?  キラ、トール!  何があった!」

 

 何らかのトラブルかもしれない。

 

 ビームライフルの調子を確かめながら、警戒してキラ達の下に急ぐとそこにあったのは、誰もが予想すらしていないものだった。

 

 「これは!?」

 

 「……ユニウスセブン」

 

 キラのつぶやきが聞こえる。

 

 そこにあったのはあまりに異質な光景だった氷ついた大地、血のバレンタインで破壊されたユニウスセブンがそこにあったのだ。

 

 

 

 

 「あそこの水を!? 本気ですか! あそこは―――」

 

 「言いたいことはわかってるよ。俺だって出来りゃあそこは踏み込みたくない。でも水はあそこにしか見つかってないんだよ」

 

 キラの言葉にムウが反論する。

 

 ユニウスセブンを見つけた後、一度アークエンジェルに戻って報告すると「ユニウスセブンから水を運ぶ」という次の指示を伝えられた。

 

 流石にキラだけでなく他の面々も気の進まない様子だ。

 

 場所が場所である。

 

 あそこには何万の人が犠牲になった所、抵抗を持たない方がおかしい。

 

 「……死者の眠りを妨げる気はないの。ただ私達が生きるために必要なものを少しだけ分けてもらいたいの。それだけよ」

 

 マリューは憂鬱な表情で話を締めくくった。

 

 残念ながらそれしか彼らには選択肢は残っていない、生きるためには。

 

 皆が作業のためブリッジから出て行こうとした時に通信が入った。

 

 「どうしたの?」

 

 「艦長! オーデン少佐の意識が戻られました!」

 

 その報告を聞くとアスト達には準備を進めるように指示を出し、主だった士官たちは医務室に向かう。

 

 医務室に行くと体に包帯を巻きつけた男がベットに座っていた。

 

 顔色も良くない上に包帯は赤く染まっており、それだけで痛々しい。

 

 だがその目からは強い意志が感じ取れる。

 

 「オーデン少佐。お目覚めになられたばかりで起き上がられては……」

 

 「いや、私は大丈夫だ。それより現状を聞かせてくれるかな、ラミアス大尉」

 

 「あ、はい。わかりました」

 

 マリューは現状の説明を始めた。

 

 ザフトの奇襲に遭い、四機のGが奪われてしまったこと。

 

 ヘリオポリスが崩壊して脱出、避難民を連れアルテミスへ向うも補給も受けられず、陥落したこと。

 

 ストライク、イレイズを起動させ敵を退けたこと。

 

 そのパイロットが民間人のコーディネイターであったこと。

 

 そして現在、苦肉の策でデブリにて補給を試みていることなどを1から順に語っていく。

 

 すべてを聞き終えたセーファスは納得したように頷いた。

 

 「……なるほど。そんな状況でよくやってくれた、ラミアス大尉」

 

 「いえ、私など。皆がいてくれなければとてもここまで来れませんでした」

 

 「それに君がいたとはな、フラガ大尉」

 

 セーファスが柔らかい表情で声を掛けると、ムウもニヤリと笑う。

 

 「お久しぶりです、少佐」

 

 「フラガ大尉、オーデン少佐をご存じだったのですか?」

 

 「お互い顔を知ってる程度だ。前に少しだけ話したことがあるだけだよ」

 

 以前の作戦で世話になったらしく、お互い面識があったらしい。

 

 ある程度話が済んだところでナタルが今後のことを話し合う。

 

 「それでこれからはどうされますか?」

 

 「この怪我では私がブリッジに入っても足手まといになるだけだろう。艦の指揮は今まで通り、ラミアス大尉が執れ」

 

 「はい。わかりました」

 

 「……ストライク、イレイズの事もですか」

 

 ナタルが最も言いにくい事をセーファスに尋ねる。

 

 彼にもしアストやキラを機体に乗せるなと言われたら―――

 

 「それも今まで通りで構わない」

 

 マリューはその答えに思わず安堵する。

 

 報告の中でその事が一番気がかりだったのだ。

 

 もしコーディネイターである事を理由に乗せるなと言われた場合は、どうしようかと思ったのだが杞憂だったらしい。

 

 セーファスは別にコーディネイターの事で偏見を持っている訳ではない。

 

 ただの生まれの違いであると思っているし、別に差別したいとも思っていなかった。

 

 何よりこの状況では、選択肢など他にない。

 

 そのことをセーファスは冷静に理解していた。

 

 「了解しました」

 

 セーファスの指示を受けナタル達が退出する。

 

 マリューもそれに続いて出ようとした時、呼び止められた。

 

 「ラミアス大尉」

 

 「はい?」

 

 「なにかあったらすぐ声をかけてくれ。アドバイスくらいはできるだろう」

 

 「ありがとうございます」

 

 作業指示のためセーファスに敬礼して退室すると今度こそブリッジに戻った。

 

 

 

 

 

 エルザは居住区の一室で文庫本を読んでいた。

 

 とはいっても何度も読んでいるので内容はすでに暗記してしまっているものだ。

 

 しかしそれでもこの艦で地球軍に関わるよりは、まだ本でも読んで気を紛らわした方がいい。

 

 エルザにとって今の状況は正直苦痛だった。

 

 彼女は地球育ちのコーディネイターである。

 

 だからナチュラルの人々には差別や迫害を受けてきた。

 

 しかし中にはナチュラルでありながら、彼女を助けてくれた人たちがいた。

 

 だからこそ見下したり、嫌悪したりはしなかった。

 

 特にオーブに移り住んでからはそういう事に巻き込まれる事もなくなった。

 

 まあフレイのような例外もいたのだが、それも昔に比べたら全然たいしたことはない。

 

 だが、そんな時に起きたのが『血のバレンタイン』である。

 

 正直かなりショックだった。

 

 忘れかけていたナチュラルから受けた迫害の記憶が蘇り、ヘリオポリスにいたころはナチュラルとは距離を置いた。

 

 余計な揉め事を避けるためにだ。

 

 それが何の因果か地球軍の艦に保護されるなんて。

 

 助けてくれたアストには悪いがあのまま漂流していた方がマシだったなんて考えすら浮かんでくる。

 

 でも怪我人もいた事だし、この艦に保護されていなければ死者も出ていた。

 

 これで良かったのだ。

 

 でも――

 

 そんな不毛な考えを巡らせていると声が掛けられる。

 

 「どうしたの、 お姉ちゃん?」

 

 「えっ」

 

 いつの間にかエリーゼが顔を覗き込んでいた。

 

 よほど暗い顔をしていたのか不安そうに除きこんでくる。

 

 そんな妹に心配をかけないよう慌てて笑顔を作る。

 

 「なんでもないわ。それよりどうしたの?」

 

 「えっと、エルちゃんがね―――」

 

 嬉しそうに話し始めたエリーゼを見つめる。

 

 エルというのは避難民の中にいた小さい少女で、年が近いというので仲良くなったらしい。

 

 エリーゼもこんな状況で不安だったのだろう。

 

 友達ができたことでひどくはしゃいでいる。

 

 エルザにとって妹のエリーゼがいてくれたことが救いだった。

 

 いなければ精神的に参っていただろう。

 

 「エルザ、少しいい?」

 

 そこにアネットが顔をのぞかせた。

 

 手には折り紙らしきものを持っている。

 

 「実は手伝ってほしい事があるのよ」

 

 軍の仕事なら断るつもりだったのだが、内容は全然違ったものだった。

 

 「お、エルザも手伝ってくれるんだな」

 

 アネットに連れられていった部屋にはアストやキラ、トール達もいる。

 

 みんな手にもった折り紙で紙の花を作っていた。

 

 ユニウスセブンに踏み入ることになる、

 

 それは墓場に足を踏み入れるのと同じ事。

 

 これくらいの事はしたいというアネット達の提案で作ることになり、それを手伝ってほしいという事だった。

 

 「う~ん、難しいな」

 

 「カズイは不器用だなぁ」

 

 「トールだって人のこと言えないじゃんか」

 

 「喧嘩はやめなさいよ、もう」

 

 みんなで騒ぎながら紙の花を作っていく。

 

 ヘリオポリスにいた頃のような雰囲気で。

 

 そんな空気だったからだろうか、いつの間にかエルザも穏やかな気持ちになっていた。

 

 

 

 

 アスト達は再び宇宙に出て作業を始めようとしていた。

 

 今はアネットとミリアリアが先程色紙で作った花をユニウスセブンに投げている。

 

 ここは墓標、そして地球軍にとっての罪の証。

 

 そこに踏み入るからには気休めかもしれないが、それでもせずにはいられなかった。

 

 『せめて安らかな眠りを』

 

 それがたとえ偽善だとしても、そんな事を思ってしまった。

 

 作業が再開され、作業艇が凍った水を削りだしていく。

 

 その光景を見つめながらキラはストライクで哨戒していた。

 

 コックピットには先ほどエリーザがくれた紙の花がある。

 

 みんなで作っている時にもらったのだ。

 

 《守ってくれてありがとう、キラ兄ちゃん!》

 

 そう言って渡してくれたもの。

 

 アストもエルから貰ったものを「お守りになるな」と言って笑っていた。

 

 この花を見ていると嬉しくなって思わず笑みがこぼれる。

 

 しかしそんなキラに警戒警報の音が耳に飛び込んくる。

 

 正面を見ると1機のモビルスーツが佇んでいた。 

 

 「あれって……強行偵察型複座のジン!」

 

 何かを探しているのか、どうやらまだこちらには気がついていないらしい。

 

 何故こんな所にいるのかはわからないが応援を呼ばれる訳にはいかない。

 

 シートの後ろに設置してあるスコープを引き出すと狙いを定め、トリガーに指を掛ける。

 

 一瞬だけ『このままこちらに気がつかなければ……』そんな考えが頭をよぎった。

 

 だがすぐにコックピットの花が目に入り、アークエンジェルでの決意を思い出した。

 

 ―――今度は自分が皆を守るのだと。

 

 これがキラにとって覚悟を問われた最初の試練だった。

 

 それに答えるようにキラはターゲットをロックするとトリガーを引く。

 

 躊躇いも躊躇もない。

 

 ライフルの銃口からビームが発射され、こちらに全く気が付いていなかったジンは反応もできないままコックピットを撃ち抜かれた。

 

 そのまま後ろに流れ、大きく爆散した。

 

 「なんだ今の爆発は!?」

 

 「キラ、何があった!?」

 

 キラの呼吸はいつの間にか乱れていた。

 

 簡単に人殺しには慣れず、手も震える。

 

 「ハァ、ハァ、くそ、こんなんじゃ、駄目だ」

 

 震える自分を叱咤する。これでは皆を守る事ができない。

 

 乱れた呼吸を整えながら、報告するため通信機のスイッチを入れた。

 

 「ハァ、ハァ……ジンがいました。なにか探していたみたいですが、こちらに気がつく前に撃破しました」

 

 「……そうか、とりあえず戻れ。もしかすると俺たちを探していたのかもしれんからな」

 

 ムウの指示通りアークエンジェルに戻ろうとした時、再び警戒音が鳴る。

 

 反射的にビームライフルの銃口を向けるが、そこには敵はいない。

 

 いたのは―――

 

 「あれって……」

 

 目の前に漂っていたのは、敵影ではなく脱出ポットだった。

 

 

 

 

 「まったく、君らは落し物を拾う趣味でもあるのかな」

 

 ナタルはほとんど諦めたような声を出した。

 

 キラは結局、放っておくこともできず、脱出ポッドを持ち帰った。

 

 ナタルの嫌味ともとれる言葉にキラは憮然としている。

 

 アストは前に避難民の脱出艇を拾って来た事があったのでなんとも言えない。

 

 しかしなんでこんな場所に脱出ポットなんて漂っているのだろうか?

 

 まあそれは乗っている者に聞けば済む話だ。

 

 マードックがロックを操作して扉を開ける準備をする。

 

 その後ろには万が一に備え、武装した兵士が控えている。

 

「じゃ、開けますぜ」

 

 端末を操作すると、ハッチがかすかな音を立て開いた。

 

 そこから出てきたものに全員が毒気を抜かれた。

 

 《ハロ、ハロ》

 

 出て来たのはピンク色の球体。

 

 電子音を鳴らして出てきたペット用のロボットに全員が唖然としている。

 

 さらにその後から二人の少女が外に出てきた。

 

 「ありがとう。ご苦労様です」

 

 そう言ったのはペットのロボと同じピンクの髪したやさしく愛らしい顔の同年代の少女。

 

 もう一人はこちらを見て警戒した様子を見せている、腰まである長い金色の髪を持つ少女。

 

 この二人との出会いはキラの、そしてアストの運命を大きく変える事になる。




異名が思いつかない。

どんな名前がいいんだろ?

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