機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第13話  砂漠の戦場

 

 

 

 

 

 昔の夢を見ていた。

 

 見慣れた街は炎に包まれ、各所から爆発音が聞こえる。

 

 遠くからは悲鳴が聞こえ、周りには人の死体があふれていた。

 

 まさに地獄。

 

 後に『スカンジナビアの惨劇』と言われたテロ事件である。

 

 

 誰もが知っている『ジョージ・グレンの告白』

 

 すべてはここから始まったと言っても過言ではない。

 

 ファーストコーディネイターと呼ばれたジョージ・グレンが自らの秘密を、遺伝子操作されて生まれてきたコーディネイターである事を世界に伝え、波紋を広げた事件だ。

 

 この出来事から多くのコーディネイターが誕生し、その存在が世間に知れ渡った。

 

 だがこれによって当時は自然保護団体であったブルーコスモスが反コーディネイターを掲げ、過激テロを行うようになっていった。

 

 その中で大規模なテロが行われたと言われているのがコロニーメンデル、月面都市コペルニクス、そして中立国スカンジナビアである。

 

 幼いアストはそんな地獄の中にいた。

 

 いつもの見ていた風景は見る影もなく、そこら中が破壊されている。

 

 毎日通う学校も窓が壊れ、そこら中から煙が上がっていた。

 

 そしてそんな自分の腕の中にはどんどんと冷たくなっていく人。

 

 脇腹からとめどなく血が流れて止まらない。

 

 いつも一緒に笑いあっていた一番の友達だった。

 

 家族ぐるみの付き合いで、自分がコーディネイターでも差別することなく接してくれた。

 

 その人の命が今にも消えようとしている。

 

 アストはただ涙を流し、抱きしめながら震えることしかできない。

 

 泣き叫びながら名前を呼ぶ。

 

 微かに反応があるものの、返事はない。

 

 それでも呼び続ける。

 

 だがついに反応がなくなった。

 

 どれだけ名前を呼ぼうと、揺すろうともう眼を覚まさない―――もう二度と。

 

 

 

 「あああああああああああああああああああああああああ―――――――!!!!」

 

 

 

 「アスト! しっかりして!!」

 

 かけられた声に反応するように眼を覚ます。

 

 白い天井が見え、ミリアリアが心配そうに覗き込んでいた。

 

 いまだ朦朧としている頭を振り、意識をはっきりさせる。

 

 「ミリィ?」

 

 「そうよ、大丈夫? 水飲んで」

 

 「ありがとう」

 

 渡された水を飲むと渇ききった喉が潤い、ようやく意識がはっきりしてくると周りを確認する。

 

 どうやら医務室に寝かされているらしい。

 

 横にはミリアリアだけでなくアネットやトールもいるようだ。

 

 良く見ると全員が何故か前も着ていた地球軍の制服に身を包んでいる。

 

 「……その恰好は?」

 

 「ああ、俺達も軍に志願したんだ」

 

 「なっ、志願って……」

 

 「キラとアストだけ置いていけないだろ。

 

 それに第8艦隊と合流した後も変わらない編成のまま降りて来ちゃって人手が足りないんだよ」

 

 「だから私達も手伝うことにしたのよ」

 

 第8艦隊?

 

 その単語に忘れていたものが急に蘇ってくる。

 

 炎に包まれたメネラオス、撃ち落とされたシャトル、そして落ちていくストライク。

 

 すべてを思い出すと同時に飛び起きた。

 

 「ここはどこだ!? あれからどのくらいたった!? キラはどうなった!?」

 

 「お、おい」

 

 「いいから教えて―――」

 

 「ちゃんと教えるから、落ち着きなさい」

 

 アネットに静かに窘められる。

 

 彼らの様子を見る限り今すぐどうなるという訳でもないようだ。

 

 バツの悪そうな顔をして押し黙る。

 

 「……ごめん」

 

 「いいわよ。とりあえずキラは無事っていうかあんたの隣にいるわよ」

 

 振り返るとベットにはキラが眠っていた。

 

 腕には点滴を打ってあり、呼吸も落ち着いている。

 

 その姿に思わずほっとした。

 

 「少し前までうなされていたけど、大分落ち着いたみたいね」

 

 「良かった。それでここはアラスカ?」

 

 「違う。ここはアフリカ大陸の北部あたりらしいわ」

 

 アネットが詳しい状況を教えてくれる。

 

 あの時アークエンジェルはストライク回収のために、本来の降下地点であるアラスカから大幅にずれてしまったらしい。

 

 しかし不味いのは降りてしまった場所であるアフリカ大陸はザフトの勢力圏、つまりは敵陣の真っ只中に飛び込んだ事になるのだ。

 

 状況は理解できた。

 

 のんびり寝ている場合でない事もだ。

 

 しかしもう一つだけ聞いておかないといけない事があった。

 

 「……それで、その、エルザは?」

 

 エルザの名前が出た瞬間、トールやミリィが俯いた。

 

 それが明確な答えである事は分かっている。

 

 それでも聞かずにはいられなかった。

 

 普段気丈なアネットも泣きそうになりながらもアストの問いに答える。

 

 「……部屋に閉じこもってるわ」

 

 それだけで十分だった。

 

 やはりエリーゼは―――

 

 これ以上は自分の目で確かめようとベットから降りて、そばに掛けてあった制服を掴むと医務室を出ようとするが、慌てたトールが呼びとめた。

 

 「おい、まだ寝てないと―――」

 

 「もう大丈夫。それよりキラを頼む」

 

 「ちょっと、どこ行くのよ!?」

 

 「エルザの様子見てから、格納庫に行くよ」

 

 そう言って、答えも聞かないまま医務室から出た。

 

 正直にいえばエルザに会うのは気が重かった。

 

 何を言えばいいのか、どんな顔をすればいいのかも解らない。

 

 だが、会わない訳にはいかない。

 

 自分はその場にいながら、守る事ができなかったのだから。

 

 アストはエルザのいる部屋の前に立つとしばらく迷うが意を決して扉を開けた。

 

 「……エルザ、アストだけど」

 

 声を掛けても返事がない。

 

 明かりもついていない暗がりの部屋を見渡すとエルザは隅で蹲っていた。

 

 やり場のない憤りを堪えながら、近づくと再び声をかける。

 

 「エルザ」

 

 近くで呼びかけてようやくこちらに気がついたのかエルザが顔を上げた。

 

 泣いていたのだろう、目が真っ赤になっている。

 

 アストの顔を確認するとエルザの頬を涙が伝う。

 

 「アストぉ、エリーゼがぁ、エリーザがぁ」

 

 「……ごめん、エルザ。俺がもっとうまく戦っていれば……」

 

「違う、アストの所為でも、キラの所為でもないってわかってる。でもなんでエリーゼが死なないといけないの? なんでぇ、なんでぇぇ、うああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 エルザはアストに飛びついて泣き始める。

 

 「ごめん、ごめんな」

 

 何故こんな事になったのだろうか。

 

 そんな疑問に答えは思い浮かばない。

 

 アストはただエルザを抱きしめながら詫び続ける事しかできなかった。

 

 

 

 

 「アスト君、目を覚ましたそうよ。キラ君の方はまだ眠っているみたいだけれど容体は安定しているみたいだし」

 

 「とりあえず、一安心だな。けど嫌な所に降りちまったなぁ」

 

 現在、マリューとムウは艦長室で今後の事を話し合っていた。

 

 アークエンジェルが降りた場所はザフトの勢力圏。

 

 こんな場所では敵が襲撃してくるのも時間の問題だろう。

 

 おそらく今まで以上の攻勢を掛けてくる事は必至。

 

 そんな敵を迎撃しながら自分たちはアラスカにたどり着かなくてはならないのだ。

 

 「ともかく、本艦の目的、および目的地は変わりません」

 

 自分たちは辿り着かなければいけない。

 

 犠牲となった者たちのためにも。

 

 「了解! まあなんとかなるでしょ」

 

 ムウの相変わらずの軽口にマリューは苦笑する。

 

 「そういえば避難民の方はどうする?」

 

 「今は一緒に来てもらうしかないでしょうね。こんな場所に放り出す訳にもいかないですから」

 

 「そうだな。特にあのエルザって嬢ちゃんはそれどころじゃないだろうからな」

 

 ヘリオポリスからの避難民であり、アスト達とも親交があったエルザの事はマリューも知っていた。

 

 幼い妹と常に一緒にいたのが印象に残っている。

 

 しかし、その妹は撃墜されたメネラオスのシャトルに乗り込んでおり死亡したという話を聞いている。

 

 それを彼女が知った時にはひどく取り乱し、今は士官室に閉じこもっているとか。

 

 「……やりきれないな」

 

 「ええ」

 

 「俺にも姉や世話になった叔父が居てな。その人達が死んだ時は、そりゃ落ち込んだもんさ。家族を失うという事は想像以上につらい。ましてやあんなふうな死に方だとなおさらな」

 

 「……そうですね」

 

 「はぁ、とりあえず俺は格納庫に行って機体を見てくる。あんたも休めるうちに休みな。艦長がそんなんじゃ、いざって時にどうにもならないぜ」

 

 ムウは手を振りながら退室し、静かに扉が閉まった。

 

 しかし本当にこの艦に乗ってからというもの休まる時などない。

 

 問題だけは変わらず山積みだが。

 

 マリューはとりあえずムウの助言に従い今のうちに休むことにしてベットに向け、歩き出した。

 

 

 

 

 

 アークエンジェルの降下を許してしまったものの、第8艦隊を全滅させたクルーゼ隊は今だ軌道上に留まっていた。

 

 現在はガモフが落ちたことで帰還する艦を失ってしまった機体の回収などを行っていた。

 

 だがそれももうじき終了し、本国に帰還することになっている。

 

 そんな中、アスランはパイロット控え室で物思いにふけっていた。

 

 考えていたのは、白い機体に乗っていたキラの事とそして―――

 

 「ここにいたんですか、アスラン」

 

 いつの間にか控室にはニコルが入ってきていた。

 

 イレイズによって手酷い損害を受けたブリッツであったが、不幸中の幸いでパイロットであったニコルには怪我は無かった。

 

 「イザークとディアッカ両名とも無事に降下できたようです」

 

 「そうか」

 

 あの戦闘でデュエルとバスターは敵機と交戦しながら地球に降下してしまった。

 

 そんな二人の無事が確認できたためかニコルは嬉しそうに報告してくる。

 

 今までモビルスーツ単体による大気圏降下は前例はない。

 

 心配するのも当然だろう。

 

 「帰還は未定だそうです。 あ、それからシリル、エリアス、カール、あと何人かこのまま地球に降りるみたいです」

 

 「え、シリル達が?」

 

 「はい、どうやら足つきを追わせるみたいです」

 

 あれだけの戦闘が終わった後にも関わらず休みなく地球に行くなんて。

 

 心配そうなアスランにニコルは努めて明るく声をかける。

 

 「シリル達なら、大丈夫ですよ。地上の部隊も一緒な訳ですし」

 

 「……そうだな」

 

 本音では正直そこまで楽観はできない。

 

 2人は先の戦闘でイレイズの圧倒的な戦闘力を目の当たりにした。

 

 ニコルなど撃墜される直前まで追い詰められたのだ。

 

 とはいえ今は仲間の無事を願う事しか、他にできることなどなかった。

 

 

 

 

 

 アークエンジェルが着陸いている場所を砂丘よりスコープで覗き込んでいる者がいた。

 

 マーチン・ダコスタ。

 

 ザフト地上部隊バルトフェルド隊に所属する軍人である。

 

 「さて、どうかな大天使様は?」

 

 「依然動きはありません」

 

 上官の問いにダコスタが答える。

 

 彼が見上げた先にはコーヒーカップを片手に持つ長身の男が立っていた。

 

 この男こそザフト軍地上部隊の名将アンドリュー・バルトフェルド。

 

 『砂漠の虎』の異名を持つ男である。

 

 「地上はNジャマーの影響で電波状況はぐちゃぐちゃだし、迂闊に動けないといったところかな。できれば『魔神』にも『戦神』にも眠っていてもらいたいんだがね 」

 

 『消滅の魔神』と『白い戦神』

 

 それがあの2機につけられた異名である。

 

 イレイズはクルーゼ隊に大きな損害を与え続け、ストライクは『仮面の懐刀』と言われたユリウス・ヴァリスを損傷させた。

 

 その上両機とも低軌道会戦においては圧倒的な力を見せつけたのだ。

 

 この異名はザフトがいかにあの2機を恐れているかの証明でもある。

 

 バルトフェルドはアークエンジェルを見ながらコーヒーを口に含むとよほど気にったのか笑顔で「これはいいなぁ」などと呟いている。

 

 彼の趣味はコーヒーを自己流のブレンド法で入れることであり、作戦中にまでそれを持ち込んでくるのだからダコスタとしては頭が痛い。

 

 そのまま砂丘を下りて待機させていた部下たちの前に来ると、先程までとは違い真面目な顔で命令を下す。

 

 「これより地球連合軍新造戦艦アークエンジェルに対する作戦を開始する。今回の作戦目的は敵艦及び搭載モビルスーツの戦力評価である!」

 

 「落としてしまってはいけないのでありますか?」

 

 「う~ん、そう簡単にいけばいいんだけどねぇ。あのクルーゼ隊が落とすことができず、ハルバートンが第8艦隊を楯にしてまで降ろした艦だ。搭載機については『消滅の魔神』と『白い戦神』なんて異名まである。 油断はできないぞ。一応な」

 

 「了解であります」

 

 上官と部下が互いに笑みを浮かべる。

 

 そこには揺るぎない自信と信頼があった。

 

 「よし、作戦開始だ。総員搭乗!!」

 

 ダコスタが号令をかけると一斉に動き出す。

 

 バルトフェルドが指揮官車に乗り込むといつも通りに声を掛けた。

 

 「さあ、戦争をしに行くぞ!!」

 

 

 

 

 

 アークエンジェルがその異変に気がついたのはすぐだった。

 

 警戒音が鳴り響き、CICに座っていたフレイが報告する。

 

 「これって、レーザー照射されてる?」

 

 「そうだよ!!」

 

 たどたどしい報告に頼りなさが垣間見えるが無理もない。

 

 フレイは説明こそ受けたものの、戦闘は初めてであり、まだ慣れていないのだ。

 

 「ブロワ二等兵、アルスター二等兵、落ち着け。説明を受けたとおりにすればいい」

 

 「「り、了解」」

 

 ナタルはそう言って二人を落ち着かせると、気合いを入れて命令を出す。

 

 「第2戦闘配備を発令!」

 

 「了解!」

 

 艦内に鳴り響く警報に皆が慌ただしく動き出す。

 

 それは士官室にいたアストにも当然聞こえていた。

 

 この震動は敵からの攻撃に間違いない。

 

 「敵か!?  エルザ、俺行くから!」

 

 急いで部屋を飛び出していく。

 

 そんなアストの背中に声がかかる。

 

 「……アスト、死なないで」

 

 「ああ、大丈夫」

 

 今度こそ守る!

 

 誰も傷つけさせるものか!

 

 すぐにパイロットスーツに着替えて格納庫に飛び込むとムウとマードックが大声で言い争いをしている姿が見えた。

 

 「だから飛ばせる様にしてくれればいいんだよ!!」

 

 「それが無理だって言ってんでしょうが!!」

 

 二人の前には戦闘機らしきものが鎮座している。

 

 『スカイグラスパー』

 

 ストライクの支援用に制作された地上用戦闘機。

 

 この機体の特徴はストライカーパックの装備が可能という点である。

 

 戦闘中でもストライクに素早くパックを届けることができ、スカイグラスパーもその装備の火力や機動力を使用できるのだ。

 

 アークエンジェルにはその機体が三機ほど配備されたのだが、どうやら調整が完璧ではないらしくすぐ出撃とは言えない状態のようだ。

 

 つまり今回ムウの援護は期待できない。

 

 アストはそのままイレイズに駆け寄ろうとするが、途中で足を止める。

 

 イレイズは色々問題のある機体であり、地上ではどの程度戦えるかもわからない。

 

 考えている内に敵のミサイルによる攻撃で艦が大きく揺れた。

 

 迷っている暇はない。

 

 アストはイレイズではなくストライクに向かって走り出す。

 

 「マードックさん、今回はストライクで行きます! イレイズでいきなり地上戦は厳しいですから」

 

 「わかった!!」

 

 「キラは?」

 

 「まだ目を覚ましてません」

 

 ムウに向かってそう言うとストライクのコックピットに飛び込んだ。

 

 今キラは戦えない。

 

 だからアスト1人でアークエンジェルを守らなければならないのだ。

 

 覚悟を決め素早く機体を起動させていくと通信回線からブリッジのやり取りが聞こえてくる。

 

 《5時の方向に敵影3!!》

 

 《ミサイル接近!!》

 

 《機影ロスト!》

 

 《照明弾撃て! 迎撃!!》

 

 どうやら敵の位置もつかめていないらしい。

 

 このままではジリ貧である。

 

 「俺が行きます。ハッチ開けてください」

 

 《待て! 敵の位置も戦力もわからない》

 

 「でも、このままじゃ……」

 

 アストの指摘にナタルも難しい顔で黙り込んだ。

 

 《いいわ、発進させて。艦の装備では小回りがきかない》

 

 艦長の許可が出たことで正面のハッチが開く。

 

 ランチャーストライカー選択、背中に装備する。

 

 《いいか、敵戦闘ヘリを排除しろ。重力があることを忘れるなよ》

 

 ナタルからの指示にうなずき正面を見据えた。

 

 「アスト・サガミ、ストライクガンダムいきます!」

 

 機体がカタパルトから押し出され、強烈なGが掛かるが、いつもとは違い急激に下へと落ちていく。

 

 「ぐっ、これが重力か!?」

 

 無重力の状態に慣れているせいか、機体が重く感じる。

 

 非常に動きにくい。

 

 「なんだよ、これ」

 

 宇宙での戦闘に慣れてしまった事で余計に感じる地上の動きにくさに戸惑いながら、体勢を立て直し立ち上がろうとする。

 

 しかしやわらかい砂地のせいか足場が安定しない。

 

 そこに敵のヘリが砂丘から飛び出しミサイルを発射してくる。

 

 それをどうにか回避しようにもバランスが取れず、直撃してしまう。

 

 「ぐあああ!!」

 

 衝撃に呻きながら迎撃しようとするが足場が安定しないため立つ事もままならない。

 

 そんなストライクを見て好機と捉えたのか砂丘に隠れたヘリが再び姿を現してミサイルを叩きこんできた。

 

 苛立ちながら肩のバルカン砲を放つも、すぐ砂丘の陰に入られてしまう。

 

 「くそ!」

 

 ヘリを追うためにスラスターを吹かそうとした時だった。

 

 再びコックピットに敵機接近の警戒音が鳴り響いた。

 

 「なんだ?」

 

 黒い影が砂丘から躍り出る。

 

 キャタピラを駆動させ疾走する四足のモビルスーツが現れた。

 

 地上作戦用のモビルスーツ『バクゥ』

 

 獣を思わせるシルエットと4本足による身軽な機動。

 

 そしてキャタピラによる高速走行。

 

 これらの高い性能によってザフト地上部隊の主力兵器として配備されているモビルスーツである。

 

 「『白い戦神』か。宇宙でどうかは知らんが、地上ではバクゥが王者だ!!」

 

 「あれもモビルスーツか!?」

 

 バクゥは高速移動で翻弄しながらストライクに迫る。

 

 アグニを前にせり出し、狙いをつけようとするも、足場の所為もあって上手く狙いがつけられない。

 

 発射されたミサイルをイーゲルシュテルンで迎撃しながら飛びあがるとアグニを発射する。

 

 だが高速で移動するバクゥには当たらない。

 

 「くっ、速い!? あのスピード、ランチャーで出たのは失敗だったな」

 

 バクゥの攻撃から少しでも逃れようとするが、砂地に足を取られ、満足に動けない。

 

 もっと自由に動けたら!

 

 「まずは足場か。接地圧を何とかしないと」

 

 このままではどうにもならないと判断したアストはキーボードをとり出しプログラムを修正していく。

 

 肩のバルカン砲で砂地を撃ち、視界を遮り狙いをつけ辛くし、わずかにできたその隙にプログラムの書き換えていった。

 

 もちろん一か所に留まることなく移動を繰り返す。

 

 そんな戦法に苛立ったようにバクゥが攻撃してくるが、まともには取り合わない。

 

 まず足場をなんとかしないと戦いにさえならないのだから。

 

 「アグニは出来るだけ使わずに―――」

 

 ストライクはイレイズに比べて癖がなく扱いやすい。

 

 だがそれでもアグニは強力な分だけをバッテリー消費する。

 

 アストはイレイズに乗っている経験を生かし、できるだけバッテリー消費を抑える戦い方をしていた。

 

 「これでどうだ!!」

 

 ストライクが着地すると今度は砂地に足を取られる事なく動ける。

 

 まだ甘い部分はある。

 

 プログラムに長けるキラならもっとスムーズにできたのかもしれないが贅沢は言ってられない。

 

 「よし、これで接地圧はいい。マードックさん、エールストライカーの準備をお願いします!!」

 

 《ちょっと待て、どうやって換装する気だ?》

 

 「こっちで何とかしますから、いつでも射出できるようにして下さい」

 

 《わかった》

 

 周りは砂丘に囲まれていてアークエンジェルの近くにいかなければ換装できないが、どの道ランチャーストライカーではバクゥの機動性には対抗できないのだ。

 

 「あきらめろ!! 『白い戦神』!!」

 

 ストライクの周りを高速で動き翻弄していたバクゥの内の1機が飛びかかってくる。

 

 だが先ほどまでとは違い足場が崩れることはない。

 

 イーゲルシュテルンで攻撃し、動きが鈍ったところにアーマーシュナイダーを抜きバクゥの腹に叩きつけた。

 

 「このぉ!!」

 

 そのまま動かなくなったバクゥを敵の方に放り投げ、アグニで破壊する。

 

 強力なビームによって撃破された事で大きな爆発が起こり、敵機の動きが鈍った隙にアークエンジェルまで飛んだ。

 

 それを見ていたバルトフェルドはこの戦闘で初めて表情を変えた。

 

 鋭い目で相手を睨む。

 

 「ダコスタ君、私も出るぞ」

 

 「隊長!? しかし隊長の機体は――」

 

 「大丈夫だよ、1人でも問題ないさ」

 

 そのままダコスタに背を向け自身の機体まで走って行く。

 

 彼の顔には子供のように楽しそうな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 アークエンジェルに跳躍したストライクにバクゥが迫る。

 

 「しつこい!」

 

 CICもこちらの意図を理解して、敵機を近付けないため援護してくれる。

 

 その間に着地するとランチャ―ストライカーをパージした。

 

 「エール射出!」

 

 《落とすんじゃねぇぞ!!》

 

 飛び出してきたライフルとシールドを受取り、背中にエールストライカーを装備する。

 

 「ぶっつけ本番でも何とかなるもんだな。いくぞ!!」

 

 追ってきたバクゥに対しスラスターを吹かせ、接近するとビームサーベルで背中の左翼を斬り飛ばす。

 

 さらに蹴りを入れて、体勢を崩すと至近距離からビームライフルで狙いうちにした。

 

 ビームに撃ち抜かれ爆散したバクゥを尻目に次の敵を見据えるが、そこに新手が現れる。

 

 「あれは……」

 

 通常のバクゥとは形状が少し違う。

 

 『バルトフェルド専用バクゥ改修タイプ』

 

 複座式のコックピットを採用し動力や駆動系など強化が施された機体である。

 

 頭部には普通とは違う大きな牙がついており、背中に二連大型レールガンが装備されている。

 

 普通とは違うバクゥの姿にアストもおのずと敵機が特別な機体であると気がつく。

 

 「もしかして隊長機か?」

 

 「さて見せてもらおうかな。『白い戦神』と言われた実力をね。全機ついて来い!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 隊長機と思われるバクゥが中心になり各機が連携を取り始めた。

 

 1機がストライクをひきつけ、その隙にもう1機が背後からミサイルを放つ。

 

 「ぐぅ!?」

 

 さらに正面からミサイルの雨が降り注いだ。

 

 「おらおら、終わりかよ!」

 

 「メイラムの仇だ!」

 

 絶え間なく続く波状攻撃にたまらず上へ飛び上がるストライクを待ち受けるように改修機が待ち構えていた。

 

 「逃がさんよ!」

 

 「こいつら!」

 

 振り下ろされたサーベルファングをシールドで受け止めたが、牙が盾を貫通し、突き破られてしまう。

 

 そしてスパイクを叩きつけられて地上に落されてしまった。

 

 「ぐあああ!!!」

 

 強い!

 

 単純な操縦技術だけではない。

 

 連携も今までの連中より遥かにうまい。

 

 途中で隊長機がレールガンを放ってくるが何とか穴のあいたシールドで防ぎ、スラスターを噴射して何とか着地すると周囲を見渡す。

 

 バルトフェルド隊の面々にとってここまでは計算通りといってもいい。

 

 計算違いがあるとすれば、彼らが知らない事実がある事。

 

 すなわちアストが連携で追い詰められる事が初めてではない事だった。

 

 やられる訳にはいかない。

 

 まずは―――

 

 「連携を崩す」

 

 周囲にイーゲルシュテルンで砂煙を巻き起こし、狙い通りに連続でビームライフルを放つ。

 

 「フン、そんなのが当たるかよ!」

 

 余裕で回避するバクゥのパイロットは嘲るように鼻を鳴らした。

 

 アストとしてもそう簡単に当たるとは思っていなかった。

 

 もちろん狙いは別にある。

 

 各バクゥはビームを避ける為にフォーメーションを崩し、散開した。

 

 「油断するなよ!」

 

 バルトフェルドは注意深く敵機を見据える。

 

 なにを考えているのか?

 

 あんな煙幕はすぐ晴れ、そこで終わりだ。

 

 それとも他に何かあるというのか―――

 

 「隊長、チャンスです! 一気に畳みかけましょう!!」

 

 「……そうだな」

 

 これ以上考えていても埒が明かない。

 

 ならば余計な事をされる前に、仕留めてしまうべきか。

 

 「よし、行くぞ!」

 

 「「「了解!」」」

 

 味方機に指示を飛ばすと、再び連携のため動き出す。

 

 それを見たアストはニヤリと笑った。

 

 これを待っていたのだ!

 

 「そこだぁ!!」

 

 砂埃が晴れると同時に飛び出すと、バクゥ目掛けてビームサーベルを投げつけた。

 

 「なに!?」

 

 サーベルの刃がバクゥを足に突き刺さり動きを止める。

 

 そこをビームライフルで狙い撃ちにした。

 

 閃光が直撃したバクゥは大きく爆散する。

 

 「これを狙っていたのか」

 

 アストは敵が連携する際、最初に必ず同じ位置につくことを見抜いていた。

 

 だからいったん敵の連携を崩し、再び連携を組むよう仕向け、狙った位置に来た敵を狙い撃ちにしたのだ。

 

 1機バクゥを失った敵は、浮足立っている。

 

 今がチャンスだ!

 

 「これ以上、好きにはさせない!!」

 

 その瞬間、アストの中で何かが弾けた。

 

 すべてがクリアになり研ぎ澄まされた感覚のまま、バクゥに突っ込んでいく。

 

 先程まで翻弄されていたバクゥの動きも今のアストにはあまりに遅い。

 

 「遅いんだよ!!」

 

 すれ違いざまにビームサーベルを逆袈裟斬りに振るう。

 

 「な、なんだと!?」

 

 バクゥの足と頭が切断され砂丘に激突。

 

 そこにイーゲルシュテルンを叩き込む。

 

 撃破したのを確認し、動きを止めることなく次の敵に向った。

 

 こちらを狙うミサイルを砂丘を盾に使って回避すると、ビームライフルを砂地に撃ちこみ視界を遮る。

 

 「これでぇぇ!!」

 

 そしてそのまま回り込みバクゥの側面からビームサーベルを振り下ろした。

 

 真っ二つになったバクゥは火を噴き、爆発した。

 

 「このぉ!!」

 

 隊長機がストライク目掛けて突っ込んでくる。

 

 しかし、それも遅すぎる。

 

 ビームサーベルを投げつけると同時にイーゲルシュテルンで狙い撃ち、爆発させる。

 

 「しまっ――」

 

 大した爆発ではないがバルトフェルドの視界を塞ぐには十分だった。

 

 その瞬間にアーマーシュナイダーを引き抜きバクゥの頭部に突き刺した。

 

 「くぅ、やってくれるな!」

 

 最後の一撃か、スパイクを叩きつけてくるが咄嗟に後ろに跳んで避ける。

 

 敵の攻勢もそこまでだった。

 

 「退くぞ、ダコスタ!」

 

 「り、了解」

 

 生き残った改修機と共に残りのバクゥも後退していく。

 

 「ハァ、ハァ、退却したのか」

 

 《まだ、わからん。油断するなよ》

 

 「了解」

 

 アストは乱れた息を整えながら周囲を警戒する。

 

 他に敵の来る気配はない。

 

 「はぁ、なんとかなったな」

 

 ようやく一息つける。今度は守ることができたのだと安堵しながら息を吐きだした。

 

 

 

 

 

 味方と共に後退しながらバルトフェルドは機体の状態を確認する。

 

 「派手にやられたな。ダコスタ君データの方は?」

 

 「ええ、問題なく」

 

 この戦闘目的は十分すぎるほど果たした。

 

 だが同時に被害は大きすぎた。

 

 隊長機を含む6機のバクゥの内4機は撃破され2機は撤退に追い込まれた。

 

 地球に降りて来たばかりの戦艦と1機のモビルスーツ相手にである。

 

 仮にあのまま戦闘を続けていてもあのモビルスーツを倒すことはできなかっただろう。

 

 それどころか間違いなく返り討ちに遭っていた。

 

 さらに悪い事に敵のモビルスーツはもう1機存在するのだ。

 

 出てこなかった理由まではわからないが参戦してくれば今回以上の被害が出る可能性も十分すぎるほどある。

 

 「これは、参ったねぇ。流石『白い戦神』と言われる訳だな」

 

 「隊長、そのセリフはそれらしい表情で言ってくださいよ」

 

 「おっと、失礼」

 

 そうは言いながらもバルトフェルドは表情を変えることなく敵を見据える。

 

 その表情には楽しそうな笑みが浮かんでいた。

 

 それにしても――

 

 「あのパイロットは……」

 

 最初は砂地に足を取られ動くこともままならなかったにも関わらず途中からは別の機体かの様な動きを見せた。

 

 つまりプログラムを戦闘中に書き換えたのだ。

 

 そして装備換装後の圧倒的な戦闘力。

 

 「クルーゼ隊が仕留められなかった相手か」

 

 噂に違わぬと言ったところだろう。

 

 バルトフェルドはより深い笑みを浮かべて撤収した。

 

 

 

 

 戦闘を終えたアストはロッカールームに佇んでいた。

 

 しかし着替える事無く、手に持った物をじっと眺めている。

 

 「アスト、入ってもいい?」

 

 「え、ああ」

 

 入ってきたのはアネットだった。

 

 嬉しそうにそばに寄ってくる。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「キラが目を覚ましたわよ」

 

 「そうか」

 

 安心した。

 

 しかしエリーゼの事を知ればキラは自分を責めるだろう。

 

 引きずらなければいいのだが。

 

 憂いを持ったアストの様子にアネットは訝しむようにこちらを覗き見てくるが、そこで手に持った物に気が付く。

 

 それはユニウスセブンの時に作った紙の花だ。

 

 「それって」

 

 「……ああ、エルちゃんがくれたんだ。キラもエリーゼから貰ってた」

 

 酷く思いつめた顔でアストは呟く。

 

 その顔を見たアネットは唇を噛んだ。

 

 何もできないのか、そんな悔しさからか自然と言葉が出た。

 

 「アスト、あんたの所為じゃないから」

 

 「アネット……」

 

 「絶対にあんたやキラの所為じゃないからね」

 

 情けない。

 

 こんな陳腐なセリフしか言えない自分が悔しかった。

 

 「ありがとう、アネット」

 

 本当に情けなかった。

 

 自分が慰められてどうするのだ。

 

 

 

 

 

 そこは煌びやかな部屋だった。

 

 普通に暮らす人々には一生縁がないだろうというぐらいの豪華な家具や装飾品がある。

 

 その部屋にはスーツを着た優男が本を読んでいた。

 

 男の名はムルタ・アズラエル。

 

 アズラエル財閥の御曹司にして反コーディネイターを掲げるブルーコスモスの盟主である。

 

 上機嫌にページをめくっていく彼に、机の上に置いておいたパソコンに通信が入った。

 

 《アズラエル様》

 

 画面に映った男を見て軽薄そうな笑みを浮かべる。

 

 「やあ、クロード。早速報告を聞こうかな」

 

 《はい。まず予定通り2機のGのデータを無事入手。そしてパイロット2名も地球軍に残留させました》

 

 「僕としては化け物なんて使いたくなかったんだけどね。まあ化け物同士殺し合ってもらうのは都合がいいけどさ」

 

 《そう仰らないでください。彼らには彼らなりの利用のしかたがあります》

 

 「それはわかってるよ。いくら危険な猛獣でも首輪をつけておけばそれなりの使い方があるからね」

 

 《ただアークエンジェルが予定とは違いアフリカ方面に降下してしまったようですが》

 

 「それは構わないよ。あの艦には最前線に行ってもらってザフトの目を引きつけてもらうつもりだったし」

 

 ザフトがあの艦と2機のGを脅威と見て、つけ狙っているのをアズラエルは知っていた。

 

 だから初めからアラスカに降下してもすぐ最前線に行かせるつもりだったのだ。

 

 「こっちの準備が整うまではせいぜい頑張ってもらわないとねぇ」

 

 《はい、そちらも順調です。今回のデータで『ストライクダガー』と例の機体も完成に近づくでしょう》

 

 「うん。引き続き頼むよ、クロード」

 

 《了解しました》

 

 通信を終えアズラエルは空を見上げる。

 

 そこにはいるのだ。駆逐すべき者たちが。

 

 「待ってろよ、化け物どもが」

 

 その顔には残酷な笑みが浮かんでいた。




『消滅の~』はドロアテさんのアイディアをそのまま使わせてもらいました。

ありがとうございました。
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