オーブに上陸したアスラン達はザフトの諜報員に連れられて移動していた。
行先はオノゴロ島。
話によればアークエンジェルがいるとすればここしかないと言う。
もしいればの話だがと懐疑的な返答をされてしまったが、可能性があるなら行くしかない。
「これがIDカードだ。これで工場第一区画までは入れる。それ以上は急には無理だ」
「そうか……」
「無茶はしないでくれ。今はどうやらVIPが来てるらしくてな警備がかなり厳重なんだよ」
「VIP? まさか―――」
「いや、あんたらの探しものとは関係ない。あれの話の前からだしな」
「誰が来てるんだ?」
「さあね。こっちの耳には何も入ってこない。噂じゃ他国の重鎮らしい」
それで厳重な警備になっているようだ。
これは思った以上に情報を得るのは厳しいかもしれない。
彼らは内陸に目を向けると慎重に歩き出した。
モルゲンレーテの演習場にブザーが響き渡るとエリカがパイロット達に声を掛ける。
「お疲れ様、今ので演習はすべて終了よ」
《全然勝てなかった》
《本当よね》
《疲れたぁ》
アストレイに搭乗していた3人の若い女性達アサギ、ジュリ、マユラが一斉に疲れ切った声を上げた。
それに引き替えアストとキラは今だ余裕の表情でハンガーに向けアストレイを歩かせている。
エリカは自分の横でキーボードを叩き続ける同僚を見る。
「そっちはどう?」
「データは十分だ」
「そう、後で見させてもらうわ」
こちらも十分すぎるほどにデータはそろった。
パイロット達に休息を取るように言い、ローザと共にモルゲンレーテの研究室に移動するとデータをまとめていく。
そもそもオーブが何故アークエンジェルを受け入れたのか。
理由はいつくかある。
1つはアストレイを使った戦闘データの収集。
オーブには実際に戦場でモビルスーツを使った戦闘をしたパイロットは1人もいない。
それゆえ現場を経験したからこそ分かるパイロットの意見や訓練の方法、モビルスーツ戦闘のノウハウなど不足している物が多くあった。
それを少しでも補うため最前線を経験してきた者たちからデータを得ようと考えたのだ。
実際今回得たデータは実に貴重で今後のアストレイの強化や次期新型機にも生かされる。
そして強さを調整しないといけないが、彼らのデータを使い訓練シミュレションを作る事ができるだろう。
『彼女達』の作ったデータもあるが種類の多いに越した事はない。
これにより軍のモビルスーツ戦闘の錬度は多少なりとも上げる事が出来る筈だ。
もちろんアークエンジェルにある、2機のXナンバーの実戦データを要求する事も出来た。
しかしOSの問題が『彼女達』によって解決した今そこまで焦る必要はない。
なによりザフトとの間にリスクを負う以上地球軍の間にまで争う火種を作るのは好ましくないという理由もあった。
そしてもう1つがアスト、キラのデータだった。
2人が気がついているかどうか解らないが彼らは普通ではない。
彼らはオーブで研究されている『SEED』を発現させている可能性が高い。
SEEDの研究を行っているローザが言うには間違い無いとの事。
アストレイに乗る際につけてもらった器具は彼らの事を調べるものだった。
「で、本当にSEEDなの?」
「間違いない、2人は模擬戦の最中に反応速度、空間認識力などが途中で爆発的に高まっている。これは明らかに異常な数値。通常あり得ない」
ローザの見ている画面を覗き込むと確かに戦闘の開始時と最中とでは明らかに違う数値が出ている。
普通であれば機械の故障を疑う異常なレベルだ。
「確かに全然違うわね。……あなたの研究はわかっているけど、いい加減結論を聞かせてもらえる? 今までのSEED研究は大体が眉つば物ばかりだし。あなたは違うのでしょう?」
「……ああ。結論からいうとSEEDとは―――」
ローザが一瞬目を伏せ、再び目をあけるとエリカをまっすぐ見た。
「適応能力だ」
「適応能力?」
「そうだ。『過度の状況変化に対応するための適応能力』だ。SEEDを発現させると自身の能力を高め今まで対応できなかった事に適応出来るようになる。可能性の発現と言う奴かな」
「あの二人が訓練も受けていない素人でありながらあれだけの戦果を叩きだしたのもそう考えれば……」
「そう、あの二人の資質の高さもあったのだろうが、それだけでは説明がつかない事もある」
「まさに先を行くための能力か」
どんな事にも適応できるという事は今まで行けなかった所へも行けるという事。
コーディネイターはそのために生まれたはずの存在だったのだが、今の現状を鑑みればそれこそナチュラルとどこが違うのかと言いたくなる。
「あの2人はこの先の人の可能性を示す事になるだろう。良くも悪くもな。それが発現した場所が戦場だというのは皮肉だが」
「……そうね」
「まあ、SEEDのすべてが解明できた訳ではない。まだまだ研究しなければ。あの2人はそう言う意味でいいサンプルだ」
話を終えるとローザはすぐパソコンに戻ってしまった。
彼女の意味深な言い方が気にはなったが。
エリカも残りのデータをまとめる為、席に着いた。
演習が終了した頃、アークエンジェルの食堂でフレイとエルザが食事を取っていた。
周りにはほとんど人はいない。
避難民はオーブが受け入れる事になっている為、審査が終われば本国に戻る事になっている。
エルザの審査ももうじき終わるだろう。
そう考えればこれがアークエンジェルで過ごす最後の時間だった。
トール達は家族との面会の許可が下りたため会いに行っている。
しかし、彼女達に家族はいない。
それがいつも以上に2人を無口にさせていた。
そして食事が終わり食堂から離れようとした時、エルザが口を開いた。
「……私、今日でこの艦を降りるわ」
「そう」
「だからあなたに言っておきたい事があるの」
なんだろうか。
今まで散々嫌な事も言ってきたし、その恨み事だろうか。
「ありがとう、フレイ。あの時、あなたがいてくれたから私は1人ではないって思えた」
「えっ」
砂漠での事だ。
まさか礼を言われるとは思っていなかった。
「フレイ、私達にはもう家族はいない。でも1人だなんて思わないで生きて帰ってきて。そしてもう一度会いましょう」
エルザは手を差し出す。
「……エルザ」
昔ならその手を取ることはなかっただろう。
でももう今は違う。
エルザの手を取るとフレイは笑って言った。
「必ず帰るわ。そしたら新しい服を一緒に買いに行きましょう」
「ええ」
2人は笑う。
大事な人を失ってから、初めて見せた心からの笑顔だった。
モルゲンレーテでの作業を終えたアストとキラはアークエンジェルに戻ろうとしていた。
まだイレイズ、ストライクの整備が終わっていないからである。
そんな中、アストはどうしても聞いておきたい事があった。
「なあ、キラ。どうして両親に会わないんだ? 許可下りたはずだろ。トール達と一緒に行けば良かったのに」
そう、キラは両親との面会を断っていたのだ。
「ああ、うん」
「俺の事なら気にしなくていいぞ」
「正直どんな顔すればいいかわからないんだ。 僕はもう軍人で……そして人殺しだから」
「そっか」
確かにそうかもしれない。
実際トールも直前まで渋っていた。
これをエフィムが「会える内に会っとけよ」と説得したのだ。
その時のエフィムの様子が少し変だったのが気がかりだったがフレイが教えてくれた。
エフィムも家族がいないと。
その事を聞いて会う事を決意したらしい。
だから無理に会えとは言わなかった。
それはキラ自身が決める事だからだ。
「おい、遅いぞ」
沈黙する2人に声を掛けてきたのは、いつも通り不機嫌な顔をしたエフィムであった。
少し離れた場所にはムウの乗る車が待っている。
「エフィム、何で?」
「迎えに来たんだよ。暇だったしな」
フレイもそうだが、最近の彼は本当に変わった。
前であればこうしてこちらを気遣う事などしなかった筈だ。
「そう、ありがとう」
エフィムはバツの悪そうに顔を逸らすと言い淀むようにこちらをチラチラ見ている。
「どうした?」
「いや、そのお前らに言っときたい事があってよ」
「何?」
「その、今まで色々悪かったな」
いきなりの謝罪に面を食らう。
一体何があったのだろうか?
「どうしたんだよ、いきなり」
「ずっと言いたかったけど機会がなくてな。俺は家族が死んでからずっとコーディネイターが嫌いだ。でも戦場で出て、敵の事とか色々あって、お前らもあんな危険な場所でいつもアークエンジェルを守るために戦ってる。もちろん今でもザフトは憎いがお前らの事は仲間だって認めようと思ったんだよ」
「……エフィム」
アストもキラも驚いた。
一緒に戦っていてもエフィムとの関係はいつまでもこのままだろうと諦めていた。
だがフレイが変わったようにエフィムも変わったようだ。
2人は心が少し暖かくなった。
少しでも歩みよれたなら、これから変わっていく事が出来るかもしれない。
それはごく小さい事なのかもしれない。
だが死と隣り合わせの中にいた2人にとっては間違いなく希望だった。
エフィムやフレイのようにいつか世界も―――
「それだけだ。一応言っとこうと思ったんだよ。俺もアークエンジェル守る為に戦う」
照れ臭くなったのかエフィムは後ろを向いて頭をかいている。
「ほら、早くアークエンジェルに戻るぞ」
「うん」
ムウが運転する車に乗り込むとアークエンジェルに向け走り出した。
オーブに潜入したアスラン達は一旦二手に別れ、捜索を行った。
まずは軍港。
もちろん堂々と港に停泊している筈はないが確認の為には一応必要だろうと判断した為だ。
とはいえ案の定、手がかりを得る事は出来なかったが。
そして市内。
こちらでも手掛かりを得るために散策してみたが繋がるものは何もない。
残るは工場区だが警備が厳重すぎる。
近づく事はできず、セキュリティも突破は難しい。
「公式発表通りここにはいないのでしょうか?」
「欲しいのは確証だ。居るなら居る、居ないならば、居ないという」
だがそれが簡単に見つかれば苦労はない。
一緒に組んでいるカールも疲労の色を見せている。
朝から歩き通しなのだ。
しかも手がかりもないでは、精神的にも厳しいだろう。
そしてそうこうしている内に時間になってしまった。
「イザーク達との合流時間だ。工場の所まで戻ろう」
「はい」
歩いて合流地点に向かう。
その途中で立ち往生している車を見つけた。
エンジントラブルでも起こっているようだ。
「不味いな。他者との接触はできるだけ避けて―――えっ!?」
だがアスランが驚いたのはその車の乗員だった。
居るのは4人。
内2人は知らないが他の2名の顔は忘れようがない。
「キラ……アスト・サガミ」
思わぬ形で確証が見つかった。
どうやらこっちには気がついてはいないらしく見つかる前に隠れないといけない。
こちらが顔を知っているように、彼らもアスランの顔を知っているのだから。
身を隠す為に横の茂みに飛び込むが隣にいたカールが動かない。
かなり驚いた様子で4人を見ていた。
「カール、どうした? 彼らがこちらに気が付く前に―――」
「まさか……」
「待て、それ以上近づくと気付かれる」
だがカールは聞き耳を持たず近づいていくとあちらもこっち気がつき、アスト・サガミが驚愕の表情を浮かべる。
「……カール・ヒルヴァレーか?」
「アスト・サガミ」
互いの名を呼んだ事にアスランは混乱する。
この2人は知り合いなのか?
アスランは知る由もないがアストにとってカールはあの惨劇の引き金を引いた者たちの1人であり、カールにとってもアストは酷く罪悪感のある相手だ。
お互いもう会う事はないと思っていただけにこの再会は予想外だった。
2人が驚いてしまうのも無理はない。
アストは鋭い視線でカールを睨む。
「カール・ヒルヴァレー、お前が何でここにいるんだ?」
アストは感情を抑えながらカールに問う。
「アスト、君はオーブに―――」
「俺の事はどうでもいい! スカンジナビアの時のようにオーブでテロでも起こすつもりか!!」
カールがテロを起こす?
どういう事だ?
「……なんと言おうと俺達がやった事が許されるとは思ってない」
「当たり前だ!」
カールとアスト・サガミの関係も気にはなるがこれ以上ここにいるのはまずい。
合流時間も過ぎてしまっている。
アスランは帽子を深くかぶり、顔が見えないようにする。
気休めだが何もしないよりはいいだろう。
足もとの石を拾い、別の方向に投げた。
それに全員が反応し、視線を逸らした瞬間に茂みから飛び出した。
「カール、いくぞ!」
「えっ、あ、はい」
そしてカールの腕を掴んでその場から逃げ出した。
後ろでアスト・サガミが「待て!」と叫んでいるが待つはずがない。
カールはどこか陰鬱な顔をしながら後ろを気にしていた。
「カール、あいつと何があったか知らないが今は任務中だ。俺たちの素性を知られる訳にはいかないんだぞ」
「すいませんでした。隊長」
とはいえ俺の顔が見られていないとも限らない。
アスト・サガミはカールの方に注目していたから大丈夫だとは思うが、キラの方は気づいた可能性がある。
だがどちらにせよ、知りたい情報は手に入った以上長居は無用だった。
急ぎ走り去るカール達の後ろ姿をアストは憎しみの籠った視線で睨みつけていた。
そんなアストにキラが声をかける。
「アスト、今の前に言ってたスカンジナビアの――」
「ああ、その内の1人だ」
一緒にいるエフィムやムウは事情が呑み込めないのか怪訝そうにこちらを見ている。
「知り合いか、坊主」
「ええ、まあ」
「そうか」
ただならぬ様子だったのを察してか、それ以上ムウは聞いて来なかった。
対処が済み車に乗り込もうとキラを呼ぶ。
「キラ、どうした?」
2人が走り去った方角を見ている。
「後から来た帽子をかぶっていたのは、もしかしてアスランかもしれない」
「なっ!? 確かなのか?」
「一瞬だったから、でもあれは間違いなく……」
もしそうならアークエンジェルがオーブにいる事がばれた事になる。
アスランはこちらの顔を知っているのだから。
そしてそのアスランとカールが一緒にいたという事は、あいつもザフトという事だ。
「……すぐ戦闘だな」
「うん」
次はオーブを出た瞬間に襲いかかってくるだろう。
ならその時こそ、彼らと決着をつける時だ。
そう訳もなく確信していた。
アークエンジェルの修復とモビルスーツの整備が完了するまで後僅かとなった頃、ウズミは机で仕事をしながら、これからの事を考えていた。
その時コンコンとノックと同時に「アイラです」と声がした。
「どうぞ」
「失礼します、ウズミ様」
入ってきたアイラはいつものように笑みを浮かべソファーに腰掛ける。
「カガリとまた喧嘩されたそうですね、ウズミ様」
「アレにも困ったものだ」
娘のカガリはまたも国を飛び出し、アークエンジェルと共に行こうとしていた。
だから言ったのだ。
戦争の根幹、憎しみの連鎖を知れと。
撃てば撃たれた者が撃った者を憎む。
そして撃ち返せばさらに新たな憎しみが生まれるだろう。
これが単純でそして何より人を縛るモノだ。
「カガリは素直で真っ直ぐな、いい子なんですけどね」
アイラと共におもわず苦笑する。
ウズミとしてはもう少し落ち着いてくれれば安心なのだが。
しばらく和やかな雰囲気で話をしていたが、アイラが真面目な顔で本題を切りだした。
「『彼女達』から連絡が入りました。予定では約2週間ほどでX01Aが完成するそうです。その後順次07A、09A、10Aがロールアウトするとの事」
「そうか。『SOA-X02』は?」
「あれは可変機構の調整に時間がかかっているとか。それでもすでに80%は完成し、そして『SOA-X01』の方は細かい調整を残すのみとの事です」
「こちらも今回の事でアストレイの運用に道筋がついた」
「ええ、次期主力機の開発計画も順調に進んでいます。『STA-S1』も量産開始しましたし、上位機種『STA-S2』も完成間近です」
「赤道連合との話はこちらでも続けていますし、後は時間ですかな」
「はい。私達が何もしなくても、パナマが落ちれば時間の問題でしょう。ただ地球軍の方は外交で時間を稼ぐ事はできるとは思います」
「しかしその地球軍もムルタ・アズラエルが出てくれば……」
「ええ、彼の影響力はかなりのものですし、楽観はできません。そして問題がプラントですね。パトリック・ザラはこちらと交渉する気もない様子です。シーゲル様が健在なら評議会に話を持っていく事ぐらいは出来たかもしれませんけど」
「とにかく今できる事を」
「ええ、そういえばウズミ様」
「何か?」
「彼らに会いました」
「そうか」
「なにも言わなくても?」
「ええ、それが彼らの為だと。両親からもそうして欲しいと言われている」
「そうですか」
アイラはソファーから立ち上がると礼をして部屋を出る。
残されたウズミもまた忙しなく動き始めた。
オーブ潜入から帰還したアスラン達はオーブ北の海域で待機していた。
しかし今のこの現状に皆が納得している訳ではない。
その証拠に艦の中の兵士たちは不満を募らせていた。
この前の潜入では結局アークエンジェルがオーブにいる手掛かりを得る事はできず、空振りに終わった。
だが隊長のアスランは「足つきはオーブ」にいると断言したのだ。
根拠は何だと問うても答えず、ここにいるの一点張りだった。
そして遅れていたシリルと合流し、補給を受けてそのまま待ち構える作戦を取ったのである。
これでは不満も出るのも当たり前だった。
確かにアラスカを目指すなら間違いなくここを通るだろう。
だがそれはアークエンジェルがオーブにいればの話であるからだ。
その話題の隊長であるアスランはその補給の為、浮上した潜水艦の甲板の上で海を見ていた。
ここにいるのはアスラン自身、艦の中の空気を読んだというのもあるが、聞きたい事があり呼び出した人物を待っている為である。
今イザーク達を含む多くの兵が不満を持っているのはわかる。
しかし根拠を言う事は出来ない。
根拠を話せばキラやアストの事を言わなくてはならない。
アストについてはともかく、キラに関しては撃つとは決めたものの、それでも苦い思いがしない訳ではないし、プライベートな事まで話さなくてはならないからだ。
「隊長お待たせしました」
「ああ、呼び出して悪かったな、カール」
呼び出していたのはカールだった。
潜入した時にアストと出会ってしまった時の様子が変だったので話を聞いておきたかったのだ。
「……話というのはアストと会った時の事ですよね」
「ああ」
聞き流すには不穏な単語が出てきたからだ。
「カールがテロを起こすとはどういう事だ?」
しばらく俯いていたカールは顔を上げると話し始めた。
自分達の罪の話を、スカンジナビアの悲劇の真相を。
「―――という訳です」
アスランはただただ絶句するしかなかった。
しかしアストが何故プラントに来なかったか理由はわかった。
奴がかつて言っていた親しい友達を亡くした事があるとはそう言う事だったのだろう。
「特務隊に入ったシオンや弟のクリスは全くその事を気にしていません。それどころかあれは当然の事だと」
アスラン自身ナチュラルに対して不信感がない訳ではない。
血のバレンタインの事を思い出せばそれだけで怒りが湧く。
しかしだからと言って関係ない人達を巻き込んでのテロを肯定はできない。
ましてやそれが当然だったなどと―――
「血のバレンタインの時に家族を亡くしてようやく気がついたんです。あの時アストはこんな気持ちだったのだと」
「じゃあ、なんでザフトに志願したんだ?」
「このままじゃ駄目だと思ったんですよ。奪った分の償いを何かしなければってね。まあそれで軍人として誰かを殺してるなんて矛盾してますけど。もう1つは止めたかったんですよ」
「止めたかった? 地球軍をか?」
「いえ、ザフト軍をです。隊長はご存じないかもしれませんが軍の中には民間人さえ平気で殺すような奴らもいるんです。というかさっき言ったシオン達なんですけど」
その事実にアスランは少なからずショックを受けた。
自分の所属する軍隊がそのような事をしているとは思っていなかったのである。
「……俺はもうあんな事は止めさせたかったんです。あとは隊長と同じ理由ですよ」
「俺と同じ?」
「プラントを守る、です」
「そうか……」
それだけ聞ければ十分だった。
過去に何があったにせよカールが仲間であることに変わりは無いのだから。
「そういえば、私からもお聞きしたいことがあります」
「何だ?」
もしかするとキラ達の事だろうか。
「イザーク先輩達の事をどう思われているのですか?」
「は?」
「その、いつも喧嘩というか、揉めてますので」
後輩としてはアスラン達の仲がかなり険悪に見えたのかも知れない。
まあ仲が良い訳ではないけども。
今回はいつも仲裁役としていてくれたニコルが居ない所為もあるだろうが、相当ギスギスしてるように見えたらしい。
「……仲間だと思ってるし、信じている。背中を任せて一緒に戦う事ができるのは仲間だからだ。むこうはどう思っているかわからないけどな」
「そうですか」
嬉しそうにカールが笑う。
その様子にいささか不審に思った時だった。
突然明らかに不自然なほど大きな声が聞こえてきたのだ。
「どうするんだ、イザーク!」
「ふん、気に入らん! だが今回は信じてやる! ……仲間だからな」
ディアッカとイザークの声だ。
もしかしてずっと聞いていたのだろうか。
驚いてカールの方を見ると先程と変わらない笑みが浮かんでいた。
どうやら仕組まれていたらしい。
「……ありがとう、カール」
「いえ」
そうしてしばらく2人で雑談を交わしていた。
そしてアスランとカールの話を聞いていたイザーク達はその場を離れていた。
「用事ってこれかよ、エリアス」
「いや、俺は知りませんでしたよ。カールに連れて来いって言われただけですし」
「ふん」
あの場にいたのはエリアスに連れていかれたからだ。
カールが仲間内の事で気を使ったらしい。
イザークは苛立たしげに音を鳴らして歩く。
全く仲間だと思っているなら根拠ぐらい話せばいいのだ。
そうすればこんな艦内も空気にならずに済むというのに。
「でもカールにあんな過去があって、あんな事考えてたなんて知りませんでした」
確かに意外だったが気になる事も言っていた。
ザフトの中で戦えない民間人を殺している者がいると。
まさかと思う。
だがカールの声は嘘を言っているような気配はなかった。
もし自分が目撃者、もしくは当事者になったらどうするのか。
考えようとしてすぐにやめた。
そんなあるかどうかもわからない事より、大事な事がある。
イザークは鼻で笑うと再び歩き出す。
あるいはここで考え続けていたならイザークは覚悟を決める事が出来たかもしれない。
自身の罪と向き合う覚悟を。
そしてついにアークエンジェルが出港する時が来た。
すべての修理が終わり準備が整っている。
アラスカまでもうすぐ。
これでハルバートンや散っていた者たちに少しは報いる事が出来るだろう。
「オーブ軍より通達です。周囲に艦影なし。発進は予定通りに」
フレイの報告にマリューは頷く。
「了解と伝えて」
「艦長、アスハ代表がドックにお見えですが―――ヤマト少尉を甲板に出して欲しいと言っています」
どういう事だ?
まあ少しなら構わないだろう。
「ヤマト少尉に伝えて」
「了解!」
格納庫で待機していたキラはその連絡を受け甲板に出るとカガリが大声でこちらに駆けてくる。
「キラー! あそこ見ろ!」
カガリの指さした方向には懐かしい人達がいた。
「父さん、母さん、エルザも」
そこにはヘリオポリスから会っていない両親とこの前別れた友人がいた。
母は涙を流し、父はそんな母を宥めながら力強く頷いていた。
そしてエルザはいつもと違い優しい笑みを浮かべて手を振っている。
だがキラはどうすればいいのかわからなかった。
「お前、なにしてんだよ。何で会わないんだよ」
「ごめん。正直どうすればいいのか、なんて言ったらいいのかわからないんだ」
そう、なんと言えばいいのか。
軍人になって人を殺したと、そして幼馴染みのアスランと殺し合っていると言えと。
言えるはずもない。
「でも、お前!」
「わかってる。今はまだ会えないと伝えてほしい」
「キラ……わかった」
キラはいつも通の笑みを浮かべるとカガリに手を差し出した。
「カガリ、色々あったけど、今までありがとう」
そう言うとカガリの顔がくしゃくしゃに歪みそのままキラの首に飛びついた。
「お前も、アストも絶対死ぬなよ! 約束だぞ!!」
「うん、必ずまた会いに来るよ。アストと2人で」
カガリが離れ、艦内に戻ろうとするがその前にもう一度だけ振り返った。
両親の姿、エルザ、カガリ、全員の姿を目に焼き付ける。
その時、キラの目から一筋だけ涙が零れた。
これが何の涙かはわからない。
でも自分には負けられない、死ねない理由がある。
それを確認するとキラはアークエンジェルの中に戻った。
彼はもう振り返らなかった。