機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第23話  怨嗟の咆哮

 

 

 

 

 

 アスランにとってそれはようやく、そして来るべくして来た瞬間であった。

 

 ようやくこの時が来た!

 

 ここですべてを―――これまでの因縁を断ち切る!

 

 待機していた潜水艦内に警報が鳴り各パイロットが機体に搭乗すると艦長から全員が待ちに待った知らせが届く。

 

 《近づいてくる艦の特定が出来た。『足つき』だ》

 

 全員が息を飲む。

 

 正直確認が取れるまでは皆が半信半疑だったのだ。

 

 しかし結局はアスランの采配が正しかった事になる。

 

 これにより今まで疑念や不満を持っていた兵もアスランに対して評価を改め全幅の信頼を寄せた。

 

 そう、過程がどうであれザラ隊はアークエンジェルを落とすという目的に向かって今一つに纏まったのである。

 

 アスランは自身に発破をかけるつもりで叫んだ。

 

 「全機、出撃する! 今日こそ『足つき』を落とす!! そして『消滅の魔神』、『白い戦神』を倒すぞ!!」

 

 「「「了解!」」」

 

 潜水艦から次々とモビルスーツが飛び出す中にはシリルのシグーディバイドの姿もあった。

 

 シグーの面影はあるが、さらに形状は変化し、以前とはまるで別の機体になっている。

 

 「シリル、機体の状態はどうだ?」

 

 「ああ、いける。問題ない!」

 

 「わかった、頼むぞ!」

 

 これまでの鬱憤と倒すべき敵を前にした隊員の士気は最高に高まっている。

 

 その勢いのままザフトの猛攻が開始された。

 

 

 

 

 迫りくるザラ隊の姿はアークエンジェルもその機影を捉えていた。

 

 「レーダーに反応! モビルスーツです!」

 

 「機種特定、これはイージス、デュエル、バスター! 後はジン、ディンが多数、不明機が一!」

 

 また奪ったガンダムを使う部隊。

 

 やはりあんな発表を信じるほど甘い相手ではなかったという事だろう。

 

 しかし逆を言えばここさえ突破できれば、アラスカまで辿り着く事ができる。

 

 つまりここが正念場だ。

 

 「戦闘準備、対モビルスーツ戦闘用意! ゴットフリート、バリアント照準! コリントス装填!!」

 

 「各機出撃! 逃げきればいいんだ、深追いはするな」

 

 ナタルの指示を受け各機が出撃準備を整え、カタパルトに運ばれていく。

 

 アストは機体を起動させながら、キラに話し掛けた。

 

 最後の確認をする為に。

 

 「キラ、来たのはあいつらだ」

 

 「うん、わかってるよ」

 

 ずっと前から決めていた事なのだ。

 

 キラと奴を戦わす事はできない、だから―――

 

 「あいつが来たら―――アスラン・ザラが来たら俺がやる。いいな?」

 

 「アスト、でも……」

 

 「いいんだよ、宇宙での約束を果たす時だ」

 

 ラクスとレティシアを引き渡す際のやり取りを思い出す。

 

 ≪ならばお前も、そしてキラも俺が撃つ!!≫

 

 ≪あいつがこちらに来ないなら敵として撃つ。お前もだ!≫

 

 ≪俺とお前は相容れない。お前にキラは撃たせない。キラを撃つというなら―――≫

 

 ≪お前は俺が撃つ!!≫

 

 あれは譲れない誓いのようなもの。

 

 そう、アスラン・ザラをここで討つ。

 

 あいつにキラは討たせない。

 

 開くハッチの先を見据えながら、フットペダルを踏み込んだ。

 

 「アスト・サガミ、イレイズガンダム出ます!!」

 

 「キラ・ヤマト、ストライクガンダム行きます!!」

 

 二機のガンダムがアークエンジェルより発進する。

 

 ストライクの装備は始めからエールを選択していた。

 

 多数の敵とガンダムが3機、換装している余裕もないだろう。

 

 「結構数が多いな。ブリッツがいないのがせめてもの救いかな」

 

 前回の戦闘でかなりの損傷を与えたブリッツは戦線に復帰できなかったようだ。

 

 火力のあるガンダムは1機でも少ない方がいい。

 

 「アスト、 あれを見て!」

 

 キラが言う先にいたのはシグーの面影を持つ機体がいた。

 

 「まさか、あれってあの時のシグーか?」

 

 「多分」

 

 アストとキラがこれまで戦ってきた敵の中で最も危険視していたのは青紫のジンと砂漠で戦ったシグーの2機である。

 

 あのパイロット達は強敵で、敵のガンダムよりも厄介な敵だった。

 

 しかもあのシグーの形状は―――前とはかなり違う。

 

 どうやら以前よりも強化されているらしい。

 

 だがそれでも負ける気ははない。

 

 再びあれらの敵と戦う時に備えて今まで訓練をしてきたのだから。

 

 「あれが一番の強敵だ。注意しろよ、キラ」

 

 「了解!」

 

 敵が射程に入ると同時に先に出撃していたムウのランチャーストライカー装備のスカイグラスパーが先制攻撃を開始する。

 

 「坊主共、しっかりついてこいよ!」

 

 今回はエフィムが予備のエールストライカー、トールがソードストライカー装備し出撃していた。

 

 最近はこの2人もようやく息が合ってきた。

 

 連携を組めばそう易々と落とされる事もないだろう。

 

 「「了解!」」

 

 ムウの撃ち込んだアグニの一撃でディンを撃墜し、ビーム砲の連射で周囲の敵を分散させる。

 

 それに合わせて2人も攻勢に出た。

 

 「トール、いくぞ!!」

 

 「おう!」

 

 息の合った連携を組み、正面の敵に向かっていく。

 

 エールの推力で一気に加速し、装備したビームライフルとビーム砲の連撃でグゥルに乗ったジンを狙撃する。

 

 空戦能力の高いディンよりグゥルに乗った機体の方がまだ動きは鈍い為、撃墜しやすいと判断したのだ。

 

 狙い通りジンを撃墜したエフィムを攻撃しようとするディン。

 

 それを回り込んだトールがシュベルトゲーベルで両断して撃破する。

 

 「よし、いいぞ。その調子だ! ただしXナンバーには手を出すなよ。あっちはアストとキラに任せておけばいいからな!」

 

 「「了解!」」

 

 3匹の鷹を連想させる見事な動きで連携を取って攻撃していく敵機の姿にエリアスは激しく苛立った。

 

 「あんなナチュラルなどに後れを取ってたまるか! 前時代の兵器ごときに! ザフトを舐めるな!」

 

 「エリアス、迂闊に前に出るな!」

 

 強引に前に出ようとするエリアスを諌めようとカールが叫ぶ。

 

 しかし止まる事無く、乗機のジンアサルトをムウのスカイグラスパーに向ける。

 

 カールはあまりに慎重すぎる。

 

 「あんな蠅などに負ける筈がない!」

 

 飛び回るスカイグラスパーに狙いを定め、突撃銃を発射する。

 

 だが敵機は射線を読んでいたかのように、ひらりとかわし動きを捉える事が出来ない。

 

 「ちょこまかと!」

 

 脚部のミサイルポッドからミサイルを発射し、グレネードランチャーで進路を塞ぐ。

 

 そして追い詰めたところにガトリング砲で止めを刺そうと狙いをつけた。

 

 「これで終わりだ!」

 

 そう意気込みトリガーを押し込もうとしたその時―――

 

 「エリアス、後ろだ!」

 

 「なっ!?」

 

 いつの間にか後ろに回った二機のスカイグラスパーがこちらを狙っている事に気がつく。

 

 エリアスはコーディネイター故の反射神経でビームライフルの一射をギリギリで回避する。

 

 しかしすぐ後ろから来たもう1機が撃ち込んだビーム砲に突撃銃を破壊されてしまった。

 

 「こいつら!?」

 

 攻撃を仕掛けてきた2機の方へ注意を逸らした瞬間、さっきまでエリアスが狙っていたムウに逆にロックオンされてしまった。

 

 「悪いが貰ったぞ!」

 

 「しまっ――」

 

 気づいた時にはもう遅い。

 

 ビームが発射されジンアサルトを撃ち抜こうと迫る。

 

 だが目を閉じたエリアスが撃墜される事はなかった。

 

 カールが自身の機体を前に出し、盾にしてかばったのである。

 

 スカイグラスパーのビームはジンアサルトの腕を容赦なく撃ち抜き破壊する。

 

 「カール!? 無事か!?」

 

 「ああ、片腕がやられただけだ。問題ない」

 

 動き回る敵機を牽制しながらカールを庇い、徐々に後退する。

 

 「悪い、俺が突出したせいで」

 

 「だから気にするな。それより敵が来るぞ!」

 

 こちらを狙ってくるスカイグラスパーを周りの味方と共に迎撃する。

 

 しかしこれはムウの作戦通りだった。

 

 ジンやディンを出来るだけ引きつけ、撃墜しながらアークエンジェルより引き離す。

 

 これによりイレイズとストライクの負担がかなり減る筈である。

 

 現にアークエンジェルを攻撃しているのは3機のガンダムと不明機、数機のディンのみだ。

 

 「ま、そっちは頼むぞ!」

 

 あの2人なら問題ない。

 

 それはムウの勘であり、同時に確信に近いものだった。

 

 ムウは2機と連携し機体を旋回させ、戦闘に集中し始めた。

 

 

 

 

 ムウ達のおかげで敵機の数も減ったとはいえ、依然としてアークエンジェルでも激しい戦闘は続いていた。

 

 放たれる砲撃に合わせ、イレイズ、ストライク共に敵機を順調に撃退していくが今回はザフト側も動きが違う。

 

 あのシグーらしき機体が加わった所為なのかはわからないが、鬼気迫る勢いで攻撃を仕掛けてきているのである。

 

 特に3機のガンダムの攻勢は凄まじく、よほどの決意と覚悟を持って戦闘に臨んでいるのだろう。

 

 「ディアッカ、ストライクを牽制しろ!」

 

 「了解!」

 

 スナイパ―ライフルでストライクを釘づけにすると、その隙にデュエルが接近しシヴァを叩き込む。

 

 「くっ、こいつら!」

 

 キラも流石に前のようにすぐに決着という訳にもいかない。

 

 以前は全くと言っていいほど連携のとれていなかった彼らだったが、今回は明らかに違うからだ。

 

 「落ちろ、ストライク!」

 

 「くっ!?」

 

 何があったのかは知らないがこちらも黙ってやられるつもりはない。

 

 キラはアークエンジェルの援護を受けながらビームライフルを発射し、相手の動きを阻害していく。

 

 そしてストライクとは別方向を警戒していたアストもまたアスランとの戦闘に入っていた。

 

 イージスのビームライフルを防御しながら、こちらも狙いをつけて撃ち返す。

 

 「アスト・サガミ! 今日こそ決着をつけるぞ!」

 

 「チッ!!」

 

 アストは思わず舌打ちをしながら、反撃を試みる。

 

 こちらとしてはすぐにでも接近戦に持ち込み決着をつけたい所なのだが、それをもう1機の敵が邪魔をしてくる。

 

 あのシグーだ。

 

 ビームライフルによる攻撃も面倒だが、問題なのは腰にマウントされたあのビーム砲だ。

 

 アレの直撃を受けたら流石にただでは済まない。

 

 「やっぱり、あいつが一番面倒だな」

 

 正確な射撃といい、動きといい、他の奴とは完全に一線を画している。

 

 アスランを仕留める為にはまず奴をどうにかしなければなるまい。

 

 「今まで通りいくと思うなよ、イレイズ!!」

 

 シグーの放ったビームを防御すると、タスラムを撃ち込んだ。

 

 まだ救いなのはあのビーム砲は連続では撃てず、しかも隙も大きくなる為か簡単には使ってこない。

 

 ならば狙うのは前回と同じく足もとのグゥルだ。

 

 あれさえ落とせば飛行の能力を持たない機体はこちらを追えない。

 

 「キラ、グゥルを狙うんだ。それで1機でも脱落させればそこから押し込める!」

 

 「分かった!!」

 

 デュエルのグゥルを狙いビームライフルを撃つがそれを看破しているのか、簡単には当たらない。

 

 このままでは埒が明かないと判断したキラは飛び上がり接近戦を仕掛ける。

 

 「ストライク!!」

 

 「デュエル!!」

 

 互いのビームサーベルをシールドで受け止め、火花を散らしてこう着状態となる。

 

 こいつを倒す!

 

 お互いが相手を睨みながら同じことを思うが、その状態も長くは続かない。

 

 キラがデュエルのビームサーベルを受け止めたシールドを意図的に引いたのである。

 

 「何ィ!?」

 

 いきなりシールドを引かれた事で、バランスを崩したデュエルに膝蹴りを入れ、さらにビームサーベルを一閃する。

 

 光刃が右腕を落とし、回し蹴りの要領で下に叩き落すと同時にビームライフルでデュエルを狙い撃った。

 

 それがデュエルの左足を直撃し、大きな爆発を引き起こした。

 

 「ぐああああ!!!」

 

 彼にとって不幸だったのは落ちていった場所がアークエンジェルの甲板部分だった事だろう。

 

 思いっきり甲板に叩きつけられたイザークはそのまま意識を失ってしまった。

 

 「イザーク!?」

 

 ディアッカがイザークの下に駆けつけるため、アークエンジェルに取りつこうとするがそれをさせるキラではない。

 

 バスターの進路を阻むようにビームライフルを放った。

 

 「くそぉぉ!!」

 

 ディアッカは焦る。

 

 叩き落とされたデュエルはすでにPS装甲が落ちている。

 

 足を破壊された時の爆発の影響かは不明だが、コックピットの方にもなにかあっておかしくはない。

 

 イザークが無事かどうか不明なのだ。

 

 それを見ていたアスランは即座に判断しシリルに命じた。

 

 「シリル、ディアッカの援護に行け!!」

 

 「しかし!?」

 

 「イレイズは俺が討つ!! 元々そのつもりだったんだ!!」

 

 こいつだけはと、あの時宇宙で誓ったのだ。

 

 だがその瞬間、脳裏にレティシアの顔が浮かんだ。

 

 彼女は奴を――――

 

 「ッ!?」

 

 頭を振って余計な考えを追いだすと敵を見据える。

 

 こいつは絶対に俺の手で討つのだ!

 

 「了解だ! ストライクは任せろ!」

 

 「……ああ!」

 

 本来ならばキラも自身の手で決着をつけるべきなのだろう。

 

 だがそれは後だ。

 

 自分が絶対に倒すべき相手、それは間違いなくイレイズなのだから。

 

 「いくぞ!!」

 

 イージスをイレイズに向け接近させるとビームサーベルを抜いて突撃する。

 

 「上等だ! ここで決着をつけてやる!」

 

 それを見たアストは意気込みながらライフルを投げ捨てた。

 

 狙いは同じく接近戦。

 

 ここでアスラン・ザラを仕留める。

 

 サーベルを引き抜き甲板から飛び出すと一直線にイージスに向かって突っ込んでいく。

 

 そしてアスランに命令を受けたシリルはアークエンジェルからの砲撃を回避しながら、バスターと交戦しているストライクに攻撃を仕掛ける。

 

 ここまで来ればもはや因縁と言ってもいい。

 

 宇宙から続いてきた戦いをここで終わらせる!

 

 「今日こそ倒す、ガンダム!!」

 

 「あのシグーか!? でも、 前みたいにはいかない、そのために訓練してきたんだ!!」

 

 お互いに剣を構え激突する2機。

 

 それを見ていたディアッカも援護に入ろうとするが横からのビームに晒される。

 

 「何!?」

 

 「忘れて貰っちゃ困るね!」

 

 バスターの進路を塞いだビームを撃ってきたのは、ムウのスカイグラスパーであった。

 

 その後ろからエフィムとトールの機体もいる。

 

 大半のディンを撃破し、残りも損傷させた3機はアークエンジェルを援護する為に戻ってきたのだ。

 

 「坊主共、正念場だぞ!!」

 

 「「了解!」」

 

 だが戻ってきたのはスカイグラスパーだけではない。

 

 損傷しながらもエリアスとカールのジンアサルトも援護に駆けつける。

 

 「お前ら、そんな状態で!?」

 

 「そんな事より援護しますよ、ディアッカ先輩!!」

 

 エリアスのジンアサルトは肩とウイングバインダーを損傷しバランスが悪い。

 

 良くこの状態で戦えたと感心してしまうほどの状態であった。

 

 「俺より自分の事を気にしとけ!」

 

 「大丈夫ですよ!」

 

 そしてもう1機のジンアサルトはそれこそエリアスより酷い状態だった。

 

 片腕もなく武装のほとんど欠損している。

 

 「カールはもう撤退しろ!」

 

 「しかし!?」

 

 「ここは俺達に任せておけよ、カール。その機体、もう満足に動かないんだろ」

 

 確かにこのまま居ても足手まといにしかならないかもしれない。

 

 「くっ、了解」

 

 「いくぞ、エリアス! 言っておくが無理すんなよ!」

 

 「了解! ナチュラルなんてここで落して見せますよ」

 

 「ああ、そうだな!!」

 

 攻撃を仕掛けてくるバスターの姿を見たムウも呟いた。

 

 「お前さんの顔も見飽きたんでね。そろそろ退場して欲しいんだがな!!」

 

 ここにエース同士の対決が始まった。

 

 

 

 

 

 

 エース同士の決戦が開始され、アークエンジェルを狙う敵の数がさらに減りはしたものの、ブリッジでも戦いは今も続いていた。

 

 「バリアント、撃てぇー!!」

 

 「各機の戦況は?」

 

 「はい。イレイズはイージスと、ストライクはシグーと思われる機体、スカイグラスパーはバスター、ジンと交戦中です!」

 

 残りの敵機の数もそう多くはない。

 

 これならアークエンジェルだけで十分に対応できる。

 

 「みんな、もう少しよ!」

 

 そう、もう少しなのだ。ここを突破出来ればアラスカに辿り着ける。

 

 「ナタル!!」

 

 「了解! ゴットフリート照準、撃てぇー!」

 

 アークエンジェルの進む道を切り開くようにゴットフリートの砲撃が火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

 エース同士の戦いは、激しさを増しながらも拮抗した状態となっていた。

 

 互いがすべてを駆使して相手を倒そうと攻防を繰り広げる。

 

 しかしそれも長くは続かない。

 

 最初に均衡が崩れだしたのはイレイズと戦っていたイージスであった。

 

 イレイズのシールドに突き飛ばされたイージスが大きく揺らぎ、バランスを崩してしまう。

 

 その瞬間を狙ったアストはビームサーベルを袈裟懸けに叩きこむ。

 

 「ぐぅぅ、くそォォォ!!!」

 

 アスランは紙一重のタイミングで何とかシールドを突き出して受け止めるとイレイズを怒りの籠った視線で睨みつける。

 

 「ここまで、ここまでの差があるのか。俺と奴には!」

 

 完全な防戦一方。

 

 反撃する事すらままならない。

 

 前回の戦いで技量の差はわかっていたが、ここまで圧倒されるなんて思っていなかった。

 

 アスランも負けてたまるかとビームサーベルを振るうが、イレイズに掠める事も出来なかった。

 

 アストははすでにシールドによる防御すらしていないというのに。

 

 クルーゼ隊のエースパイロットとしてこれほどの屈辱は無い。

 

 「こんなものか、アスラン・ザラ!!」

 

 「くっ!」

 

 イレイズから距離を取りビームライフルで牽制しながら、スキュラを放つ。

 

 「甘い!」

 

 それを冷静に見切ったイレイズは飛び上がって回避すると背中のタスラムをせり出して撃ち込んでくる。

 

 砲弾を回避しようとするが間に合わず、ビームライフルを破壊されてしまう。

 

 そして破壊されたライフルの起こした爆発の余波でイージスは仰向けに転倒してしまった。

 

 「ぐあああああああ!!!」

 

 アストは決着をつける為、そしてこれで終わらせる為にビームサーベルを構えて斬りかかった。

 

 「これで終わりだァァ!  アスラン・ザラ!!」

 

 「あっ―――」

 

 繰り出され、容赦なく振り下ろされる光刃を前に、アスランはただ呆然とその軌跡を見つめる事しかできなかった。

 

 もう防御も間に合わない。

 

 完全な敗北―――それを受け入れた。

 

 だがその時、イージスとイレイズに割り込む影があった。

 

 「隊長!!」

 

 イージスを助ける為に飛び込んできたカールのジンアサルトだ。

 

 残った片腕で重斬刀を振り上げ、イレイズに斬りかかったのだ。

 

 しかし傷ついた機体ではイレイズに及ぶべくもなく、あっさりと迎撃されてしまった。

 

 「邪魔だァァ!!」

 

 アストは重斬刀をかわすと逆にビームサーベルを下段から振り上げる。

 

 光刃が腕を斬り落とし、両腕を失って戦闘不能に陥ったジンを蹴り飛ばす。

 

 「ぐうううう!!!」

 

 アストは再びイージスに向きなおり、止めを刺さんとビームサーベルを振りかざした。

 

 しかし―――

 

 「隊長ォォォォ!!!」

 

 「カール!?」

 

 イージスを庇うように飛び出してきたカールの半壊状態の機体にビームサーベルが深々と突き刺さった。

 

 「た、いちょう、に、げてくだ、さい」

 

 血を吐くような、擦れたカールの声がアスランの耳に届く。

 

 通信機から聞こえてくる微かな声が現状を物語っているにも関わらず、何が起きたか理解できない。

 

 「あ、あ、あああ」

 

 そしてその声はアストにも届いていた。

 

 通信機から聞こえてきたのはカールの声―――

 

 「ア、スト、ごめん、な」

 

 そして限界が来たジンアサルトはそのまま爆散した。

 

 

 「あ、ああ、あああああああ、カ―ルゥゥ―――――ッ!!!!!!」

 

 

 アストは爆散した機体から飛び退くように離れ、その光景をただただ見詰めていた。

 

 「……カールが今の機体に乗っていたのか」

 

 カールは知っていたのだろうか?

 

 イレイズに乗っているのがアストだという事を。

 

 いや、知っていたならもっと早くに何か言ってきそうなものだ。

 

 つまり聞こえてきたのはカール自身が最後に本心から呟いた言葉なのだろう。

 

 変な気分だった。

 

 正直死ねばいいと思った事があるくらい嫌っていたし、憎んでいたのに。

 

 復讐を果たして、喜ばしい筈なのに―――

 

 思わず操縦桿を殴りつけた。

 

 何でこんな気分になっているのか、自分でもわからなかった。

 

 

 

 

 爆発し撃破された機体の残骸を見ながらアスランは怒りで震えていた。

 

 不甲斐無い自分をフォローしてくれたカールの笑顔が浮かぶ。

 

 そんな彼を助けられず、見ている事しかできないまま死なせた自分の無力さも、そして―――あっさりと殺した目の前の敵も、許せなかった。

 

 そう―――絶対に許せない!!!

 

 殺してやる!!

 

 殺意だけがアスランを支配し、それ以外の思考は一切消えた。

 

 

 

 「アスト・サガミィィィィ!!! 貴様ァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 アスランのSEEDが弾けた。

 

 

 

 「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 シールドを投げ捨て両手足のビームサーベルを抜き放ち、イレイズに襲いかかる。

 

 「殺してやる!!!」

 

 アストは後退しながらシールドで防御するが、アスランの動きはそれを上回っていた。

 

 右手のサーベルをかわすと次は逆の左足から、その次は右足、左手と縦横無尽にビームサーベルが襲いかかってくる。

 

 「くっ、数が多い!?」

 

 ついに対応できなくなった所に隙が出来る。

 

 アスランはそれを見逃すことなく斬撃を叩き込んだ。

 

 それによりイレイズのシールドが吹き飛ばされ、さらに右足のサーベルが右肩部の装甲を斬り飛ばす。

 

 「落ちろォォォォ!!!!」

 

 アスランは獣のような咆哮を上げながらイレイズに迫る。

 

 体勢を崩した所に斬撃を加え左胸部を抉り、さらなる斬撃がイレイズが回避する寸前に右のタスラムを斬り裂いた。

 

 「ぐぅ、タスラムが!? この動きはまさか……」

 

 アスランの別人のような動きの原因をアストは冷静に看破した。

 

 SEEDに間違いない。

 

 「貴様だけは絶対に許さない!!!」

 

 「SEEDか。だけど―――」

 

 焦る必要は無い。

 

 落ち着け!

 

 深呼吸し冷静にイージスを見つめる。

 

 すべてはこんな敵に備えの事、今まで積んできた訓練はこの為だったのだ。

 

 「いくぞ!」

 

 アストのSEEDが発動した。

 

 

 

 

 アスランは感じた事のない感覚に身を委ねながら、勝利を確信した。

 

 勝てる!

 

 こいつを殺せる!

 

 「俺の前から消えろォォォォ!!! アスト・サガミィィィィ!!!」

 

 アスランは勝利感に酔いながらイレイズに特攻する。

 

 この時、自身の勝利を微塵も疑っていなかった。

 

 それがあっさり覆る事も知らないまま。

 

 

 

 

 

 カール機の撃墜。

 

 その様子はストライクやスカイグラスパーと交戦していたシリルやディアッカ、エリアスも見ていた。

 

 「カ、カール、まさか……」

 

 「う、嘘だろ。そんな、嘘だ!!」

 

 「くぅぅぅ、イレイズゥゥゥ!!!」

 

 シリルは激昂すると同時にSEEDを発動させるとイレイズに突撃しようと向きを変えるが、そこにキラが割り込み進路を阻んだ。

 

 「行かせるか!!」

 

 「邪魔だぁぁ――――!!!」

 

 シグーディバイドはレーザー重斬刀を振り下ろし同時にビームライフルを捨て肩に装備されたビームサーベルを引き抜くと横薙ぎに叩きつける。

 

 重斬刀をシールドで防ごうとしたキラは、シグーのビームサーベルに気づき後退して避けようとするが、ビームライフルを切断されてしまった。

 

 「ぐっ、こいつはやっぱり強―――うわあああ!!!」

 

 ウイングバインダーを吹かせ体当たりしてきたシグーによってストライクはアークエンジェルの甲板から突き落とされてしまい、2機はもつれ合うように下の島へと落ちていく。

 

 「キラ!!」

 

 「トール、今はキラより目の前の敵だ!!」

 

 バスターもジンアサルトも動きが先程までと違う。

 

 仲間を倒された事で、決死の攻勢に出たらしい。

 

 「よくもカールを!!」

 

 「このナチュラル共が!!」

 

 「こいつら、急に!?」

 

 バスターのガンランチャーを何とか回避したトールであったが、その先にジンアサルトが待ち構える。

 

 エリアスは肩のガトリング砲で牽制しながら敵機を誘導するとアサルトシュラウドをパージして目くらましに使い、上から重斬刀で斬りかかった。

 

 「しまっ――」

 

 「落ちろ!」

 

 撃墜されかけたトールをエフィムが援護する。

 

 ビームライフルがジンの片腕をもぎ取り、ミサイルがグゥルを破壊するとジンはそのまま海へと落下した。

 

 「ぐぁぁぁ!!!」

 

 「エリアス!?  よくも!!」

 

 ディアッカはバスターを反転させエリアスを落とした2機に襲いかかる。

 

 こいつらはだけは許せない!!

 

 普段皮肉ばかり斜に構えたディアッカも今は敵への怒りを隠そうともしない。

 

 「エフィム、助かった!」

 

 「気にするな。それよりバスターだ」

 

 エネルギーライフルで2機を攻撃してくるバスターにムウが仕掛ける。

 

 「そう簡単にはやらせないぞ、バスター!!」

 

 「ちょこまか逃げやがって!!」

 

 ムウの攻撃をかわしながらも反撃してくるバスターだが、スカイグラスパーの推力を最大限に使った機動を捉えられない。

 

 「くそ、ナチュラルが!」

 

 それを見たエフィムがムウとトールに叫ぶ。

 

 「俺が突っ込む。その後で少佐、トールだ」

 

 「おい、エフィム―――」

 

 また無茶な事をしようとしていると思ったトールは止める為に声を掛けようとするが、モニターに映ったエフィムの顔を見て何も言えなくなった。

 

 「少しは信じろよ、仲間だろ!」

 

 「……よし、行け」

 

 そんな彼の覚悟を汲み取ったムウは何も言わずに指示を飛ばす。

 

 「了解!」

 

 バスターに突っ込んでいくエフィム。

 

 「正面からかよ、舐めやがって」

 

 ディアッカはスカイグラスパーに向けミサイルを発射、それをエフィムは機関銃で迎撃すると爆煙で視界が塞がれた所にミサイルを撃ち込んだ。

 

 「見え見えだよ! 落ちろ!!」

 

 バスターは動きを鈍らせたスカイグラスパーをガンランチャーで攻撃してくる。

 

 間違いなく直撃する。

 

 だがこれがエフィムの狙いだった。

 

 機体を回転させシールドをつけた左側でガンランチャーを防いで見せたのである。

 

 「ぐっ!!」

 

 「なんだと!?」

 

 予想外の動きにかなり驚きはしたものの、敵機は完全に体勢を崩している。

 

 その隙に追撃の為エネルギーライフルを向けた。

 

 しかしそれがいけなかった。

 

 注意をエフィム機に向けた瞬間、ムウのスカイグラスパーがアグニで攻撃してきたのだ。

 

 「1機だけじゃないんでね!」

 

 「しまった!」

 

 アグニがバスターの右腕を捉え吹き飛ばすが、ディアッカもザフトのエースであり、赤服の1人。

 

 攻撃が当たる前にエネルギーライフルの照準を変えムウのスカイグラスパーに攻撃を仕掛けていた。

 

 「チィ!」

 

 ビームの一射が機体の推進器を掠めてしまった。

 

 これで先程までのような動きはできないだろう。

 

 「くそ、これぐらいで―――なっ」

 

 ディアッカは自機の損傷に気を取られ一瞬、失念していたのだ。

 

 そう、スカイグラスパーはもう1機いた事に。

 

 「うおおおおお!!」

 

 突撃してきたトールのスカイグラスパーが構えたシュベルトゲーベルがバスターの左肩ごと左腕と左足を斬り裂いた。

 

 「ば、馬鹿な、俺がナチュラ―――うああああ!!」

 

 そしてすれ違いざまにアンカーを発射し、バスターを掴むとグゥルより引きずり下ろしそのまま海に叩き落とした。

 

 「ハァ、ハァ、少佐、エフィム大丈夫か?」

 

 「俺は問題ない」

 

 「こっちは戻らないと駄目だな」

 

 ムウの機体は煙を出し、外側から見て一目で分かるほど厳しい状態である。

 

 これ以上の戦闘は無理な事は一目瞭然だった。

 

 「もう残っているのは2機だけです。少佐はアークエンジェルへ」

 

 「……わかった。無茶だけはするなよ」

 

 「「了解」」

 

 ムウの帰還を確認したところでトールとエフィムも動き出す。

 

 「俺達も2人の所に行こう。俺はキラの方へ」

 

 「じゃ、こっちはアストの方に行く」

 

 2人はバラけて各機の援護に向かった。

 

 

 

 

 アークエンジェルの甲板から小島へと降りたキラとシリルはお互いに刃を振り激しくぶつかり合っていた。

 

 両者SEEDを発動させ激しい攻防を繰り広げる。

 

 ストライクのサーベルが空を斬り、同時に繰り出したレーザー重斬刀もかわされる。

 

 互角に見える両者に違いがあるとすればそれは冷静さであった。

 

 シリルは仲間を殺され怒りに満ちているが、キラはSEEDを発動させながらも完全に冷静であった。

 

 「ガンダムゥゥ!!」

 

 憤怒と共にストライク目掛けレーザー重斬刀が振るわれるが、防御はおろか回避の素振りも見せない。

 

 そう、単純にキラはこの瞬間を待っていたのだ。

 

 敵の振るってきた斬撃のタイミングに合わせビームサーベルを振り上げる。

 

 「ここだァァ!!!」

 

 その結果、ビームサーベルにより、レーザー重斬刀は刀身半ばから叩き折られてしまった。

 

 「なにぃ!」

 

 レーザー重斬刀は取り回しが悪いものの、非常に高い攻撃力を持った武装である。

 

 仮に直撃を受けてしまえば、それだけで致命傷になってしまうだろう。

 

 だからキラはさっさと破壊してしまった方が戦いやすいと判断したのである。

 

 「これが狙いか!?」

 

 重斬刀を折られ、踏鞴を踏んだ隙に頭部に蹴りを入れられ、シグーはセンサーの一部が破損してしまう。

 

 「チィ!」

 

 「ハァ、ハァ」

 

 あのシグー相手に互角に戦える。

 

 キラは確かな手ごたえを感じながら操縦桿を握り返し、敵を警戒する。

 

 しかし今の攻撃により逆にシリルは冷静になっていた。

 

 「前から分かっていた事ではあるが強いな!」

 

 冷静さを無くして勝てる相手ではない。

 

 折られた重斬刀を投げ捨て両手にビームサーベルを構える。

 

 「いくぞ!」

 

 シグーに合わせキラも攻勢に出る。

 

 しかし今回驚くのはキラの方だった。

 

 先程までのどこか勢いに任せた荒々しい攻撃ではなく冷静な斬撃。

 

 これによりキラはタイミングを狂わされシールドを斬り裂かれてしまった。

 

 シールドを斬り裂いたシリルはもう片方のビームサーベルでストライクの右胸を抉った。

 

 「ぐぅ、そう簡単にやらせないぞ!」

 

 キラは左手にもビームサーベルを持つとシグーの斬撃を掻い潜り左右に攻撃を繰り出す。

 

 それがシグーの頭部を破壊し、左肩部分を斬り裂いた。

 

 だがシリルは引くことなく蹴りを入れるとストライクを突き放すと後退した所にさらなる追撃を繰り出す。

 

 片方のビームサーベルを投げつけ、その隙にビームキャノンを構えた。

 

 「しまった!」

 

 体勢を崩した状態でビームサーベルをかわしたキラはビームキャノンを避ける余裕がない。

 

 「終わりだ、ガンダム!!」

 

 発射されたビームキャノンの強烈な閃光がストライクに襲いかかる。

 

 キラは咄嗟にスラスターを全開にし、右に避けようとするが間に合わずに左腕を完全に破壊されてしまった。

 

 「うわあああ!!」

 

 仰向けに倒れ、衝撃から意識をはっきりさせようと頭を振りながら機体状態を確かめる。

 

 左腕は完全に破壊されてしまい、それによって左足も影響を受けているかもしれない。

 

 「しぶといな、だがここまでだ!」

 

 シリルは再びキャノンを構えた。

 

 キラの脳裏に今までの事が浮かぶ。

 

 これまでの戦い、失ったもの、そしてオーブでの再会、そして思い出す。

 

 自分には死ねない、負けられない理由がある事を。

 

 そこに―――

 

 「キラ!!」

 

 トールのスカイグラスパーがビームを撃って乱入して来たのだ。

 

 ビームキャノンを撃とうとしていた突然の乱入者にシリルは舌打ちしながら回避する。

 

 「トール!? 駄目だ来るな! こいつは危険なんだ!!」

 

 「でも、お前!」

 

 トールにキラを見捨てられる筈はない。

 

 だがキラをあそこまで追い詰める相手に自分ではどうにもならない事も理解できる。

 

 ―――その時、ムウの言葉が脳裏をよぎった。

 

 ≪お前の悪い癖はすぐ調子に乗ってしまう事だ。常に冷静に、自分の力量を履き違えるな≫

 

 そうだ、冷静になれ。

 

 今自分のできる事は何だ?

 

 「……直接戦う事じゃない。俺がすべき事はキラの援護だ」

 

 シグーに対し一定距離を保ったまま、牽制のつもりで攻撃、決して正面から向ってかないようにする。

 

 「うるさい奴め!」

 

 シリルがトールに攻撃しようとした瞬間、キラに向けて叫んだ。

 

 「キラ、あいつの注意を引くんだ。その間にソードを射出する!!」

 

 「えっ……わかった!」

 

 機体を立ち上がらせたキラはイーゲルシュテルンを撃ち込みながら、シグーに向けて突っ込んでいく。

 

 「自棄になったか、ガンダム!」

 

 スカイグラスパーを狙っていたビームキャノンをストライクに向け、発射態勢に入った。

 

 「今だ!」

 

 発射の直前にエールを分離させ機体は真上に飛び、エールをそのまま突っ込ませた。

 

 「なんだと!?」

 

 ビームキャノンがエールストライカーを破壊し爆散させると、至近距離だったため爆煙がシリルの視界を塞いだ。

 

 「トール!!」

 

 「いくぞ、キラ!」

 

 スカイグラスパーから射出されたシュベルトゲーベルを空中で受取り、そのままシグーに振り下ろした。

 

 「うおおおおおお!!」

 

 シリルは爆煙の中から現れたシュベルトゲーベルを回避出来ず、直撃を食らってしまった。

 

 右肩から袈裟懸けに斬り裂かれる。

 

 「まだだぁぁ!!」

 

 動く左手のビームサーベルを振り上げようとするが、キラはシュベルトゲーベルから手を離し蹴りを入れて吹き飛ばすとシグーは崖から海に転落し、小さな爆発を引き起こした。

 

 「大丈夫か、キラ?」

 

 「ハァ、ハァ、うん。助かったよトール」

 

 「いや、間に合ってよかった」

 

 アストの安否も気になるがこの状態ではどうしようもない。

 

 キラは信じるしかないと自分に言い聞かせシートに深く座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 アスランは手を緩める事無く、容赦ない攻撃を加えていく。

 

 しかしそれでも焦りを隠せないでいた。

 

 その理由は簡単である。

 

 要は追い詰めた筈の敵を何時まで経っても仕留める事が出来ない。

 

 それが彼の焦りを募らせていた。

 

 先程まで自分の方が絶対的に優勢だった筈なのだ。

 

 損傷も与え、武装も破壊した。

 

 にも関わらず攻撃が当たらない―――当たらないのだ。

 

 あと少しなのに!

 

 こいつを殺せるのに!

 

 「はああああ!!」

 

 咆哮し憎悪を込めて逆袈裟から一撃を叩きつける。

 

 だがそれも容易く見切られ、弾き飛ばされると逆に振るわれた斬撃によってこちらの装甲が抉られてしまう。

 

 アスランは怒りに我を忘れながらも驚愕していた。

 

 シールドを失ったイレイズにビームサーベルを防御する手段はないはずだった。

 

 だが奴はそれを信じられない方法で解決したのである。

 

 ブルートガングだ。

 

 イレイズはイージスのビームサーベルではなく、腕や足と言った実体部分に攻撃のタイミングを合わせ左手のブルートガングを叩きつけて弾き飛ばしていたのだ。

 

 アストはこれまでの戦いで学んでいた。

 

 PS装甲は実弾や実剣でダメージは与えられない。

 

 だが衝撃を殺す事は出来ないのだ。

 

 だからイージスの攻撃に合わせ実体部分を狙えば防御と同時に体勢も崩せる。

 

 しかし普通のパイロットではSEEDを発現させたアスランの動きの合わせて攻撃を繰り出すなど不可能だろう。

 

 だがアストもまたSEEDを持っているのだ。

 

 出来ない筈がない。

 

 「くそォォォォォ!!」

 

 怯む事無く右足を蹴り上げ、同時に左腕を上段から振り下ろす。

 

 しかし―――

 

 「無駄だ!!」

 

 斬撃を弾き、隙が出来たところにビームサーベルを叩きこむ。

 

 振り上げたイレイズの一撃がイージスのコックピットハッチを吹き飛ばした。

 

 切り裂かれた衝撃と共にアスランの目に前に外の景色が広がった。

 

 「くぅぅぅ!」

 

 視線の先には憎むべき男が乗るイレイズの姿が真近に見える。

 

 負ける訳にはいかない!

 

 カールの為にも!

 

 迂闊に攻撃出来ないアスランは歯噛みしながらも一旦後退するが、そこに別方向からビームが飛んできた。

 

 飛び退いてビームをやり過ごし、振り向いた先にはアークエンジェルの戦闘機、エフィムのスカイグラスパーだ。

 

 「アスト、無事みたいだな!」

 

 装甲が所々破壊されているイージスの姿はエフィムには満身創痍に見えた。

 

 今なら倒せると判断したエフィムはイージスに攻撃を仕掛ける。

 

 「エフィムか!? 下がれこいつは―――」

 

 それが再びアスランの怒りに火をつけた。

 

 あの戦闘機が来たという事は他の隊員達も――

 

 脳裏に一緒に戦ってくれた仲間達の顔が浮かんだ。

 

 こいつらはどこまでも俺の大切なものを奪っていく!

 

 「貴様らはァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 怒りの炎が再びアスランの憎悪を煽り、湧きあがる感情のままスカイグラスパー目掛けて襲いかかった。

 

 「なっ、速い!?」

 

 エフィムの反応を上回る速度でイージスが攻撃を繰り出した。

 

 「逃げろぉぉぉ!!」

 アストもそれを追うが間に合わない。

 

 エフィムも4本のビームサーベルを受け何とか回避しようとするが、ビームライフルごと右側を斬り裂かれたスカイグラスパーは落ちていく。

 

 「エフィムゥゥ!!!」

 

 スカイグラスパーは呆気なく落下し、爆発した。

 

 「あ、ああ」

 

 破壊されたエフィム機の爆煙を眺めながら、オーブでの出来事がよみがえった。

 

 ここから少しずつでも変わっていけると、そう思ったのだ。

 

 現に彼は変わってきていた、本当の仲間になれたと、そう思ったのに―――

 

 アストとキラが抱いた希望をゴミのように!!

 

 こいつが!!!!

 

 「……アスラン・ザラァァァァァ!!!!」

 

 アストは激しい怒りに身を任せイージスに襲いかかり、アスランもまたそれに応じた。

 

 「アスト・サガミィィィィィィィ!!!!」

 

 「うおおおおおお!!!」

 

 アスランの攻撃を掻い潜ったイレイズはサーベルを一閃、次の瞬間イージスの左腕が宙を舞った。

 

 「ぐぅぅ!! 貴様がいなければァァ!! 貴様さえいなければァァァァァァ!!」

 

 そうすべては奴と出会ったばかりに―――奴が存在したばかりに!!!

 

 ありったけの憎悪と憤怒を込めて、光刃を叩きつける。

 

 だがそれはアストにとっても同じ事。

 

 ヘリオポリスからずっとそうだった。

 

 こいつらが自分の居場所を、大切な人達を奪ってきたのだ。

 

 だから―――

 

 「勝手なことを言うなァァァァァ!!」

 

 3本のビームサーベルを再びブルートガングで流しながら、イージスにサーベルを振るいダメージを与えていく。

 

 度重なる攻撃によりイージスの装甲はボロボロになっている。

 

 しかしアスランに撤退の二文字はない。

 

 こいつを倒すまでは!!

 

 

 そして何時までも続くかと思われた戦いも決着の時を迎える。

 

 

 

 装甲の抉られたイージスの右足をブルートガングが弾くと同時に破壊する。

 

 斬られた訳ではない。

 

 しかし完全に動かなくなってしまった。

 

 アスランがここまで拮抗出来た理由は手数の多さにある。

 

 4本のビームサーベルによる縦横無尽の攻撃はアストが技量で上回っているとはいえ十分な脅威であった。

 

 それが半分、これは致命的だった。

 

 「ちくしょう!!!  まだァァァァァ!!」

 

 それでも諦める事無く、残ったビームサーベルを振り下ろす。

 

 だがアストはもはや弾く必要もないと回避する。

 

 そして隙が出来たイージスにビームサーベルを横薙ぎに振るい腹部の装甲を吹き飛ばした。

 

 「今度こそ終わりだァァァァァ!!」

 

 態勢を崩したイージスの腹部にブルートガングを叩き込む。

 

 刃が装甲を貫き、そしてフレームを砕いてイージスの腹部を貫通した。

 

 その衝撃はコックピットまで到達し、アスランを激しく打ちのめした。

 

 「ぐあああああああああ!!」

 

 激しい痛みが全身を襲う。

 

 それでも何とか目を開くと目の前にイレイズの姿があった。

 

 負けられない。

 

 負けたくない。

 

 こいつにだけは!!

 

 その時イレイズのPS装甲から色が落ち、元のメタリックグレーに戻る。

 

 ―――バッテリー切れたのだ。

 

 アスランにとって千載一遇の好機。

 

 今なら倒せる!

 

 とはいえもう満足に戦う力は無い。

 

 ならば最後の手段―――残った力を振り絞り自爆装置を押そうとするが、上手く右腕が動かない。

 

 その間にもイレイズはブルートガングを振り抜こうとしている。

 

 まだだ!

 

 「まだだァァァァァァ!!」

 

 動く足でペダルを動かし、左手で操縦桿を操作する。

 

 イージスの残った左足のビームサーベルを蹴り上げ、イレイズの右腕を斬り飛ばした。

 

 「ぐっ、こいつ!!」

 

 まだこんな力を残していたのか。

 

 アストは止めを刺す為、操縦桿を押し込みスラスターを全開にした。

 

 「落ちろぉぉぉ!!!」

 

 勢いをつけブルートガングを振り抜くとイージスを真っ二つに両断するが、反動で左の刃は折れてしまう。

 

 そのままイージスは上半身と下半身がバラバラに落下すると同時に爆散した。

 

 

 

 

 ヘリオポリスからの長い戦いが決着した瞬間だった。




機体紹介も更新しました。
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