特務隊によるアークエンジェルへの攻撃が始まった頃、アラスカ基地内部に潜入したユリウスはようやく見つけたデータベースから管制室にハッキングを行っていた。
キーボードを叩きながら次々とセキュリティをクリアしていく。
いや、セキュリティなど無いも同然だった。
これを見て益々違和感が膨れ上がっていく。
「流石に重要機密まで簡単にいくとは思えんが―――」
しかしユリウスの予想に反しあっさりと目的のデータを発見できた。
「どういうことだ?」
だがその疑問もずっと感じていた違和感の理由と共に理解した。
「……なるほど。サイクロプスとはな」
基地防衛の戦力が少ないはずだ。
地球軍はここを守る気は始めからなかったのだ。
そしてセキュリティの件も納得する。
すべて消し飛ぶ以上そんなものは必要ないと言う事だ。
思った以上の有様にため息しか出てこない。
呆れる。
そして今ここを守るために戦っている者たちは哀れだ。
これが戦争である以上、敵を殺すことを躊躇わないし、敵が同じ様に殺そうとしてくる事も否定しない。
それは銃を取り、命のやり取りを覚悟した彼からして当然の事だった。
しかし味方諸共に敵を撃つというやり方は断じて認められない。
戦う理由は違えど共に戦う者たちを目先の勝利の為に切り捨てる者たちに未来などない。
これを仕掛けた者たちは、いずれ相応の報いを受けるだろう。
ユリウスはデータベースから離れ、自身の機体を待機させてあった地点に戻りシグーに乗り込むと、任せていたジンから連絡が入る。
「ユリウス隊長、ご無事で」
「ああ、すまなかったな。それより撤退しろ」
「は? いえ、まだバッテリーに余裕が―――」
「理由は後で説明がある。死にたくなければ撤退しろ」
「り、了解です」
ジンのパイロットは戸惑いならも了承した。
困惑するのも無理はない。
ここまで自軍が優位に進めているというのに撤退する理由が分からないのだろう。
詳しく説明してやりたいが、先に説明しなくてはならないのは彼ではない。
すぐさま通信機のスイッチを入れると旗艦に繋げる。
「こちらクルーゼ隊のユリウス・ヴァリスだ」
《どうした?》
「今すぐ全軍を撤退させろ」
《はぁ!? 貴様何を言っている! ここまでわが軍が優勢に―――》
ユリウスの言い分に納得できない様子に艦長は食ってかかってきた。
まあこの状況を考えれば当然の反応だと言える。
すでにメインゲートまで突破しているのだから。
しかし旗艦を任された艦長ともあろう者が冷静さを無くしてどうするというのだ。
この状況に少しの違和感も持たない事に失望を隠せず、憤る艦長に内心呆れながらユリウスは冷静に告げた。
「これは罠だ。アラスカ基地の地下にサイクロプスが仕掛けられているのを確認した。あの大きさの物が作動すれば半径10キロは巻き込まれる」
《な、なんだと!?》
「今からならまだ突入した部隊も間に合うかもしれない。すぐに撤退命令を出せ」
《し、しかし―――》
どうやら葛藤しているらしい。もし誤認だった場合、自分が責任を問われるとでも思っているのだろう。
「……俗物が」
仲間の命より、我が身大事か。
決局地球軍の連中と変わらない。
こんな者たちが進化した新たな種を名乗るなどなんの冗談だ。
この艦長に対する感情が呆れから嫌悪に変わると今までより冷たい声色で言ってやる。
「誤認だった時の責任なら私が取ってやる。早く出せ」
《わ、分かった》
それからすぐに全軍に撤退命令が伝わり、徐々に部隊が後退していく。
だがすでにかなりの部隊がすでに最深部にまで侵入している筈、どれだけの部隊が間に合うか。
ユリウスはさらに通信を開いた。
「エリアス、聞こえるか」
「はい」
「私達は限界まで味方の撤退を支援する。しかし引き時を見誤るなよ。私達が巻き込まれたら意味がないからな」
「了解!」
ユリウスはエリアスのディープアームズを引き連れ支援を開始した。
ザフト全軍に撤退命令が下った時、他にもそれを把握していた者達がいた。
フリーダムとジャスティスでアラスカに降下していたレティシアとラクスである。
降下した2人はアイラの命令通り情報収集のため戦闘区域ギリギリの位置まで近づき、撃墜された、もしくはパイロットが脱出したと思われるジンやシグー、ディンといった機体を調べ情報を得ていた。
幸いサフトも地球軍も戦闘に集中しているためか気づかれる事はなく接近する事が出来た。
「レティシア、これは……」
「ええ」
おそらくこれが地球軍が救援を出さなかった理由。
守備軍諸共にザフト軍を吹き飛ばすつもりなのだろう。
レティシアは怒りで強く拳を握る。
仲間の命をなんだと思っているのか。
「守備軍の人達は―――」
「おそらく知らされてはいないでしょう」
撤退を始めたら仕掛けに気付かれる可能性がある。
サイクロプスを仕掛けた者たちがそんな間抜けな事はしないだろう。
知っていればとっくに撤退を始めている筈―――いや死ねと言われて戦線を維持できるものなどおるまい。
「どうにか知らせる方法はないでしょうか?」
「……仮に知らせる事が出来ても今からではとても間に合わない。下手をすれば私達まで巻き込まれる」
その事実にラクスは俯き、言葉にしたレティシアも思わず唇を噛む。
どうする事もできない。
憤りを押し殺し、後退しようと声を出そうとした時だった。
ラクスが何かに気が付いたように声を上げた。
「レティシア、あれを!」
示された方向を見ると見覚えのある白亜の艦が僚艦を引き連れ離脱しようとしている姿が見える。
―――アークエンジェル
かつてラクスやレティシアが関わった艦、それがアラスカから離れようとしていた。
このタイミングで離脱しようとしているという事は彼らはサイクロプスの事を知っているのだろう。
しかしザフトのモビルスーツの攻撃を受け、進路を阻まれている。
さらに中には見慣れないモビルスーツも混じっていた。
新型だろうか?
そして甲板ではイレイズとストライクがアークエンジェルを守るために奮戦している。
しかし見る限り劣勢であり、追い詰められていた。
「行きましょう」
「ラクス!?」
突然の言葉に驚きながら、モニターをに映るラクスの顔を見る。
「レティシアもそう思っていたのでしょう? それに彼らにはお世話になりました」
「それは……」
助けるメリットが無い訳ではない。
彼らの持っている情報は戦闘データを含めても貴重であり、アイラの命令である情報収集に反している訳でもない。
何よりラクスの言う通りだ。
レティシア自身がそんな理屈よりも彼らを助けたいと思っていた。
口元に笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、そうですね。行きましょう!」
「はい!」
2人は飛び立つ。白亜の艦に向けて―――
そして蒼き翼と紅き剣が戦場へと舞い降りた。
動かなくなったイレイズのコックピットにいるアストの目の前に降り立ったのは蒼き翼をもつ天使。
その形状は自身がよく知る機体によく似ていた。
「……ガンダム」
ZGMF-X10A『フリーダムガンダム』
Nジャマーキャンセラーを搭載した核動力機である。
そしてもう1機―――キラを庇うように降りたった紅い機体がいた。
ZGMF-X09A『ジャスティスガンダム』
何なんだこの機体は?
そこでフリーダムから通信が入る。
そこから聞こえてきたのは、アストが知っている人物の声だった。
「無事ですか、アスト君?」
「まさか、レ、レティシアさん?」
「無事のようですわね、アスト様、キラ様」
「ラクスさん?」
ジャスティスから聞こえてきたピンクの髪を持った少女の声。
何故あの2人がここにいる?
そのモビルスーツは?
様々な疑問が湧いてくる。
「今は話している時間がありません。アークエンジェル、私達が援護します、その間にサイクロプスの影響範囲外へ離脱してください」
サイクロプスの事まで知っている?
どういう事だ?
「早く! 時間がありません!」
「え、ええ。わかりました」
突然の出来事に戸惑っていたブリッジクルー達も我に返る。
そして同じく動きを止めていたザフトも動き出した。
突然乱入してきた見た事のないモビルスーツによって吹き飛ばされながらも、我に返ったシオンは、怒りを込めて敵を睨みつける。
「なんなんだよ、こいつらは!!」
「さあな、1つ分かっているのはこいつらは敵だという事だ!!」
シオンとマルクはフリーダムとジャスティスに襲いかかる。
撤退命令も聞き、状況も理解している。
だがそれこれとは話が別だ。
サイクロプスが起動する前に、この艦を落とせば良いだけの事。
彼らの中には絶対の自信があった。
シグルドの性能をよく知るが故に敵がどのような機体だろうと負けるはずがないと。
しかし―――
「邪魔をするなァァ!!」
シオンはビームサーベルを逆袈裟から振るい、フリーダムを斬りつける。
正面からの一撃。
仮に受けられても力任せに押し込めばいいだけ、そんな判断だった。
だがその攻撃はあっさりとフリーダムによって止められてしまう。
そのまま押し込もうとしても全く動かない。
「何ッ!?」
目の前に事実に思わず驚愕してしまう。
核動力を使っているシグルドは従来の機体を圧倒する性能を持っている。
それとパワーが互角など、通常の機体ではあり得ない。
そして繰り出された斬撃を止めたレティシアはすぐにシグルドの事を理解した。
「やはり、この機体Nジャマーキャンセラーを搭載している」
それにこの機体の動きには覚えがあった。
シオンだ。
という事はあちらの機体にはマルクが乗っているだろう。
つまりこの機体を任されているのは特務隊。
長時間の戦闘はまずいかもしれない。
彼らはレティシアの動きを知っているからだ。
生きていると分かればラクスの事にも気が付く可能性がある。
その前にここを切り抜けなければ。
フリーダムはシグルドのサーベルを弾き、蹴りを入れると腰のクスフィアス・レール砲を展開。
放たれた砲弾が敵機に直撃し、吹き飛ばす。
「ぐぅ!!」
その衝撃に耐えるようにシオンは歯を食いしばるが、その隙にレティシアはすべての砲身を敵に向けた。
レール砲と翼から回転して長い砲身バラエーナ・プラズマ収束ビーム砲がせり出され同時にビームライフルを構え一斉に発射する。
フルバーストモードの砲撃がシグルドだけではなく、アークエンジェルの進路を阻んでいたモビルスーツ達を一斉に薙ぎ払った。
「くそがぁぁ!!」
傍でストライクと戦っていたマルクもジャスティスの動きに翻弄され、フリーダムの攻撃を阻止できない。
腹部から発射されたヒュドラの一撃をかわしたラクスは2つのビームサーベルを連結、ハルバード状態にして横薙ぎに叩きつけた。
「チィ」
相手の攻撃に舌打ちしながらシールドを構えて刃を流し、距離を取って回避する。
「甘いですよ!」
しかしジャスティスは逃さないとばかりに肩に搭載されたビームブーメランを取るとシグルド目掛けて投げつけた。
「なっ!?」
予想外の武装によって虚をつかれたマルクは体勢を崩されてしまう。
その隙を見逃さず再びビームサーベルを振り下ろした。
特務隊相手でも戦えている。
スカンジナビアに保護されてから戦うと決め、ずっとレティシアから訓練を受けていた。
その訓練の成果であり、そしてこのジャスティスの性能のおかげだ。
元々この機体にはラクスが搭乗する予定であり、OSも調整してある。
だから違和感も無く手足のように動かす事が出来た。
激突する2機のガンダムとシグルドの戦闘に圧倒されていたアストは我に返るとキラに呼びかける。
「キラ、今の内に補給するんだ」
「え、あ、でもアストは?」
「俺は大丈夫だ」
アストはイレイズから降りると、甲板から艦内に入り、そして走って格納庫に飛び込んだ。
そこにマードックが声をかけてくる。
格納庫はムウが飛び込んで来た機体とストライクの補給で大騒ぎだった。
「坊主、無事か!?」
「はい、俺は大丈夫です。それより曹長、デュエルは使えますか?」
「一応修理はしてあるが……」
「出ます!」
返事も待たずそのままデュエルに駆け寄ってコックピットに乗り込むとOSを立ち上げ調整を加えていく。
急がないと!
いくらあの二人が乗ってきたガンダムが優れていても相手は3機だ。
慣れないデュエルでも援護くらいはできる。
調整が終わると同時にブリッジに通信をつなぐ。
《アスト!? あんた大丈夫なの?》
「ああ、今からデュエルで出る!」
アネット返事をするとカタパルトに乗せて、発進させた。
「アスト・サガミ、デュエルガンダム行きます!!」
飛び出した先に待ち構えていたように攻撃してきたディンをビームライフルで撃ち落し、甲板に着地する。
周囲を見るとレティシアの乗った機体がシオンを抑え、ラクスがキラと交戦していた敵を抑えている。
もちろんムウやトールも奮戦し進行方向の敵機を排除しているが、3機目の新型が邪魔をしている所為か上手く捌けてはいない。
ただレティシアが敵部隊を排除してくれたおかげか、随分数は減っている。
「なら、もう少し踏ん張れば!」
アストはムウ達を狙う新型をビームライフルで狙いをつけた。
あれに乗っているのはクリス―――カールの弟だ。
それだけで一瞬手が止まりかけるが、首を振ってトリガーを引く。
「少佐、トール、俺が引きつける! その間にアークエンジェルの守りを!」」
「お前、デュエルで―――分かった、キラは?」
「補給中です、もうすぐですから」
「了解だ!」
とはいえキラが出てくる頃にはすべて終わっているだろうが。
空を旋回しながらクリスは甲板から攻撃してきたデュエルを見る。
「確かこちらが鹵獲していた機体だったな……取り戻したという事か」
クリスは内心舌打ちする。
搭乗していたパイロットが誰か知らないがザフトの恥さらしだ。
取り返されたというならば破壊する必要がある。
それにデータを取ってある以上もはやザフトには必要ない機体だ。
ビームサーベルを構え、ビームライフルを構えたデュエルに向かって突撃する。
「邪魔なお前には消えてもらうぞ!」
振り上げられた斬撃を流すように盾を構えると、どうにか外側に向けて弾き飛ばした。
「やるな」
「やはりパワーが違う!?」
一度対戦した経験からどういう風に戦えばいいかは分かっているが、長期戦はあまりに不利だ。
アストはビームサーベルを横薙ぎにに振るうがシグルドはクルリと回転して、斬撃を回避すると腹部のビーム砲を放つ。
「避ければアークエンジェルに当たる!?」
あの威力が当たれば、船体もただでは済まない。
回避という選択が無い以上、取れる行動は一つだけ。
アストはシールドを前面に出し、ビームを正面から防御した。
「ぐっ!」
「動きを止めたな!」
クリスは防御に集中して動けないデュエルとの距離を一気に詰め、ビームクロウを叩きつける。
「しまっ――」
どうにか光爪を捌きはしたが、気が付いた時には遅かった。
いつの間にか甲板の端まで後退させられていたのだ。
駄目押しに受けた蹴りが脚部に直撃すると甲板から突き落とされ落ちていく。
「ぐああああ!!」
「そのまま海面まで落ちろ!」
ペダルを強く踏みスラスターを吹かせ何とか堪えようとするが、クリスはさらに追撃をかけようとビームライフルを構えていた。
やられる―――
その時、通信機からラクスの声が聞こえてきた。
「アスト様、乗ってください!」
その声に反応したアストはスラスターを使い、横へ飛んだ。
そこへジャスティスの背中に装備されていたリフターがこちらに向かっているのが見えた。
「分離させる事もできるのか」
どうにかリフターの上に飛び乗るとシグルドに向けシヴァを撃ちこむ。
「チッ、しぶとい!」
「簡単にやられるものか!」
シヴァを回避したシグルドと突撃するデュエル。
互いのビームサーベルが交錯した時―――
その瞬間が訪れた。
サイクロプスの起動。
それによって基地内に侵入していた先行部隊のジンのモニターに罅が入り、そしてパイロットは膨張するように膨らむと―――風船のように弾け飛んだ。
同じ様にアラスカ基地内に侵入していたモビルスーツ達が次々と破壊され、強烈なマイクロ波を発生させた兵器は徐々に規模を大きくし円形に広がっていく。
その様子を確認したサイがブリッジに響き渡る大声で叫んだ。
「サイクロプス起動!!」
「機関最大!! 退避――!!」
アークエンジェルはレティシア達の援護のおかげでずいぶん距離を稼いでいたが、それでもまだ安心できる距離ではない。
エンジンを最大で噴射しながら離脱していく戦艦の姿にシオンは拳を握り締めながら、命令を下す。
「マルク、クリス、撤退だ」
「しかし!」
「死にたいなら好きにしろ」
サイクロプスを確認したシオン達は撤退を選択する。
しかしその心中は屈辱による怒りに満ちていた。
負けるはずがないと挑んだ戦いで結局敵は撃ち果たせなかった。
任務失敗。
屈辱のあまり思わずモニターを殴りつけた。
「次こそ殺してやる、アスト」
憎しみをこめて呟いたシオンはそのまま味方を引き連れ、後退していった。
すべてが終わった後、アークエンジェルは海岸に突っ込むように着陸。
アラスカ基地があった場所には、ただサイクロプスによる破壊の後だけが残っていた。
「助かった?」
「そうみたいね」
戦闘の疲労感と助かったという安堵感が広がり、アネット達はシートに深く座り込んだ。
しばらくは何もしたくない。
このまま眠っていたい。
そんな誘惑にかられながらも、マリューは状況確認の為に命令を出す。
「艦の状況確認、僚艦は?」
「はい、艦は航行には支障ありませんが、火器はほとんどが使えません」
「本艦に追随していた2隻は無事のようですが乗員についてはまだ不明です」
「そう」
サイクロプスに巻き込まれなかっただけでも良かった。
乗員も何人かは無事な筈だ。
「デュエル―――アスト君は?」
「無事です」
その報告にマリューは今度こそ安堵のため息をつく。
あれだけの戦闘でよくこれだけの被害で済んだものだと感心してしまう。
途中でザフトが撤退行動を取っていたのも大きい。
あれでアークエンジェルを襲っていた大半の敵がいなくなったのだ。
そしてもう1つは―――近くに降り立った2機のモビルスーツ。
援護してくれた彼女達のおかげだ。
あの機体の援護がなければ新型3機によってアークエンジェルは落とされていただろう。
《皆さん無事ですか?》
ピンクの髪の少女が通信してくる。
「大丈夫よ、ありがとう。それで―――」
《はい、私達もお話したい事がありますし着艦許可をいただけますか?》
「ええ、許可します」
そう言うとラクスはいつか見た柔らかい笑顔を浮かべた。
彼女達はプラントの人間だった筈だが、ザフトと交戦していたのだ。
少なくとも敵ではないとマリューはそう判断した。
潜水艦の艦橋でラウは表情こそ変えなかったがこの結果に不満を持っていた。
本来ならアラスカのサイクロプスによってザフトの戦力は大半が奪われ、この結果によってさらに戦争が激化していく予定だったのだが―――
ユリウスの得た情報を元に撤退指示が出され、結局サイクロプスに巻き込まれたのは全体の4割という結果に終わってしまったのである。
一応何故仕掛けがあると分かったのかと聞いたが「直感ですよ」と相変わらずの答えだった。
「……親譲りという事か」
その辺は流石と言える。
まあそれでも、犠牲が出なかった訳ではない。
このまま憎しみは広がっていく。
その様子を想像しラウは微かに笑みを浮かべた。
戦闘を終え無事に母艦に帰還したエリアスはユリウスと共に艦橋から退室する。
「今日はご苦労だったな、ゆっくり休め」
「あ、はい。ありがとうございます」
確かに疲れた。
ユリウスのおかげで被害は大きくならなかったものの、あのまま撤退指示が出ていなかったらどれだけの被害が出ていたことか。
そう考え憂鬱になっていたところに前から歩いてくる者達に気がついた。
襟に徽章をつけている特務隊『フェイス』のメンバーである。
敬礼しすれ違う。
しかし最後の1人に見覚えがあった。
「クリス?」
カールの弟、クリスだった。
エリアスはあまり話した事はないが顔は知っていた。
その能力は非常に優秀で最年少でフェイスに選ばれている。
卒業は同時だったのにこの差は、とも思うがカールは素直に祝福していた。
ただその反面はあまり彼の事を話したがらなかったのが印象に残っている。
「エリアスですか、久しぶりですね」
「……ああ」
もうカールの事は知っているのだろうか?
一応聞いてみようと声を発しようとしたがクリスの前にいた男に遮られた。
「クリス、知り合いかよ」
「彼は愚兄の友人ですよ」
愚兄?
カールの事か!?
思わずカッとなったエリアスはクリスに詰め寄った。
「おい! なんだよその言い方は!」
「事実でしょう。イレイズにあっさりやられて戦死したと聞いてますが」
突きつけられた事実に一瞬言葉が詰まる。
「……知っていたのかよ」
「ええ。全くあんなのが兄だと思うと恥ずかしいですよ。ザフトの恥だ」
「てめぇ!!」
吐き捨てたクリスに掴みかかろうとしたエリアスの腕をユリウスが押しとどめた。
「よせ、エリアス」
「くぅ」
前に出たユリウスに興味がなさそうにしていたシオンが初めて表情を変える。
「『仮面の懐刀』か。あなたもザフト最強といわれる程の技量があるなら特務隊に来たらどうです?」
「考えさせていただきますよ。行くぞエリアス」
「……はい」
そのままユリウスについて歩いていく。
しかし途中で振り返るとクリスに向かって告げる。
氷のように冷たく底冷えするような声で。
「……カールの事を侮辱して聞き流すのはこれが最後だ。次はないと思え」
今度こそユリウスは振り返る事はなかった。
それを聞いたエリアスは胸がスッとした。
クリスはそれに威圧され何も言えないようだ。
その様子を見たエリアスは溜飲を下げ、笑みを浮かべてユリウスの後についていった。
アークエンジェルのブリッジでは全員が集まり、再会したレティシア達と情報交換を行っていた。
この2人がすでにプラントの人間では無く、スカンジナビアにいる事は最初に確認してある。
詳しい事ははぐらかされたがあの機体もスカンジナビアで開発したらしい。
「なるほど、やはりそういう作戦でしたか」
「たぶんな……」
自分達は軍人。
死ぬ事も任務の内、それも覚悟くらいはしていたつもりだ。
しかし現実こういう立場に立たされればやはり考えさせられる。
特に今回犠牲になった兵士達はこんな結末になるなど考えてもいないかった筈だ。
「……本部の連中はだいぶ前からザフトの攻撃目標がアラスカだと知っていたんだろうさ」
「そうでなければあれだけのサイクロプスなんて準備できないですよね」
ムウの推測にフレイが捕捉する。
「……でもどうやって知ったのでしょうか。今回の件はプラント評議会でも知らなかったでしょうし」
「どういう事です?」
「プラントを出たのはずいぶん前ですから、確かな事は言えません。しかし私達がいた頃に可決された『オペレーション・スピットブレイク』の攻撃目標はパナマでした。しかも直前まではパナマに攻め込むつもりで部隊を展開していましたし」
「つまりザフトでも限られた人間しか知らなかった?」
「はい、そう考えて良いと思います」
一体誰が情報を漏らしたのかはわからないが、ここで考えても答えは出ないだろう。
そこで話を切り替えるようにラクスが次の難題をぶつけてきた。
「それでこれからどうなさるおつもりですか?」
「どうって……」
それが今アークエンジェルが直面している次なる問題である。
「Nジャマーの影響で連絡は全く取れませんよ。応急処置してパナマまで行くんですか?」
「歓迎してくれんのかな。色々知ってる俺達をさ」
そう、それだ。
この作戦の事を知っている自分達を上層部は決して歓迎などしてくれないだろう。
それどころかまた今回と同じ様に捨て駒にされるか、闇に葬られるか。
どちらにせよ碌な末路は待っていまい。
それとは関係なしに勝手に戦列を離れた自分達は敵前逃亡―――パナマに行って待っているのは軍法会議だ。
「では、私やレティシアと共にオーブに行きませんか?」
「オーブに?」
「はい、あそこなら皆さんを受け入れてくれるはずです。私達の方からも話をしますし」
スカンジナビアとオーブは友好国である。
そのスカンジナビアに身を寄せているはずの2人はオーブに知り合いでもいるのだろうか?
しかし彼女達の事を抜きにしても、現実的に考えればそれしか無い。
アークエンジェルの船体やクルー達の疲労もピークに達している。
しかもこの状態でザフトに見つかりでもしたら―――そう考えれば選択の余地はない。
話をしてみなければわからないが、いきなり攻撃される事はないだろう。
「……わかりました。オーブへ向かいましょう」
「そうですか! キラ様やアスト様とまたお話できますね、レティシア」
「ええ、そうですね」
死闘の後とは思えない二人の無邪気な会話にクルー達に笑みがこぼれる。
アークエンジェルは僚艦と共にオーブへと向かう事になった。
この日、世界を驚かせ、歴史に刻まれた出来事が2つ存在した。
1つは地球軍本部アラスカ基地『JOCH-A』の壊滅。
そしてもう一つ―――
スカンジナビア、オーブ、赤道連合、この3国による軍事同盟の締結である。
再び世界は大きく動き始めていた。
機体紹介2も更新しました。
ネタバレもあるのでご注意を。