機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第28話  新たな力

 

 

 

 スカンジナビア、オーブ、赤道連合の3国による軍事同盟。

 

 通称『中立同盟』は各地に波紋を投げかけた。

 

 しかしその中でで一番動揺したのは地球連合の一角である大西洋連邦であった。

 

 彼らは『JOCH-A』に仕掛けたサイクロプスでザフトの大半の戦力を奪い取り、さらに世界中の国々を力づくでも連合に参加させ、一気にこの戦争にけりをつける予定だったのである。

 

 当然その中にはスカンジナビア、オーブ、赤道連合も含まれていたのだが、その3国が先に同盟を結んでしまった。

 

 これは連合には参加しないという意思表示に他ならない。

 

 懸念すべきはこれを機に自分達も他国と同盟を組み、連合から離脱する動きが出る事。

 

 他の国家も進んで連合に参加した国ばかりでは無く、力で無理やり参加させた国も多いからだ。

 

 つまり彼らはザフトだけでなく、内部にまで多くの敵を作ってしまったのだ。

 

 そしてその駄目押しが『JOCH-A』の件である。

 

 この件で捨て駒にされたのはユーラシアの部隊ばかり、これによって大西洋連邦とユーラシアは決定的な溝が出来てしまっていた。

 

 そして彼ら最大の誤算、それがサイクロプスによって削られたザフトの戦力は約4割であった事。

 

 8割は削りたかった連合にとって、これは大きな計算違いとなった。

 

 そんな現状を危惧してか、アラスカから移動した新地球軍本部では連日会議が開かれている。内容はもちろん中立同盟の事であった。

 

 「断じてこの同盟を認める訳にはいきません!!」

 

 「ならばどうするというのですか!?」

 

 「当然撤回を要求するんですよ! 従わないなら武力を持って―――」

 

 「馬鹿な!? 『JOCH-A』で予想以上にザフトの戦力は削れなかった! 次、狙ってくる場所が何処かなど誰にでも分かる! パナマだ! ここを落とされる訳にはいかんのですよ!」

 

 「そうだ! 今、余計な所に戦力を送ることなどできる筈もない!!」

 

 「では、これを認めるというのですか!!」

 

 会議は紛糾して意見が纏まらない。

 

 これを退屈そうに眺めていた男、ムルタ・アズラエルはあくびを堪え周囲を見る。

 

 全く無駄な事を連日飽きもせずに良くやるものだ。

 

 確かにこの同盟は目障りであり、いずれ消えてもらう事にはなるだろう。

 

 しかし今はパナマを優先させるべきなのは、当然アズラエルにも分かっている。

 

 だからこそ余計な事は言わずに、事態の推移を見守っていた。

 

 袖をまくり腕時計で時間を確認するとちょうど『アレ』のテストが終わった頃だった。

 

 アズラエルは気分よく席を立つと何も言わずそのまま退室する。

 

 ここでこれ以上、無駄な時間を過ごす気など、彼には全くなかった。

 

 

 

 

 

 

 『JOCH-A』から脱出したアークエンジェルは太平洋を南下し、オーブ付近まで近づいていた。

 

 僚艦として従っていた艦はもう航行不能になっていたため、無事だった乗員はアークエンジェルに移動させている。

 

 それでも無事だった人数は圧倒的に少なく、あの戦闘がいかに激しかったか否が応でも認識させられた。

 

 「でも、オーブに受け入れてもらえて助かったよな」

 

 「そうね、もうクタクタだし」

 

 サイとアネットは先程までとは違い明るい表情である。

 

 すでにオーブには連絡を入れており、受け入れてもらえる事になっているのが彼らにとっては久々に聞いた明るいニュースなのだから無理もない。

 

 そんな中でアストとキラも再会したレティシア達と談笑していた。

 

 内容は大した事のない雑談、それでも久しぶりに穏やかな気分になった。

 

 そんな会話が一区切りした時、レティシアが気まずそうにアストに尋ねた。

 

 「……アスト君は、シオン・リーヴスという人物を知っていますか?」

 

 彼女から奴の名前が出た事も意外であったが、良く考えたらプラントにいたのだから不思議はない。

 

 「……ええ」

 

 険しい表情に変わったアストにレティシア達も関係を察したのだろうが、それでもあえて踏む込みこんできた。

 

 「どういう関係か聞いてもいいですか?」

 

 ラクスの質問にどう答えるべきか。

 

 キラが気遣うようにこちらを見ている。

 

 気遣いは凄く嬉しいがアストの中では一応区切りは付けているつもりだ。

 

 過去の事でみんなに迷惑をかけるつもりはない。

 

 もちろんだからと言ってシオンを許すつもりは全くない訳だが。

 

 落ち着くために一度深呼吸してキラに「大丈夫だ」と笑って頷くとレティシア達に説明する。

 

 過去の出来事によるシオンとの因縁やここに来るまでの事を。

 

 すべてを聞き終えた2人の顔は暗い。

 

 聞いて気持ちのいい話ではないから無理もない。

 

 それに自身の過去の事よりまず彼女に言わなくてはならない事があった。

 

 「ラクスさん、俺はあなたの婚約者を殺しました。言い訳するつもりもありません」

 

 アストの言葉にラクスはいつもの笑顔で答えた。

 

 「アスト様が気にする事ではありません。元々親同士の決めた事ですし、何よりアスランも覚悟していた筈です。戦場なのですから」

 

 「ラクスさん……」

 

 「普通にラクスとお呼び下さいな、アスト。キラも」

 

 「うん、分かったよ。ラクス」

 

 キラとラクスが笑い合う。

 

 前から思っていたけど2人は本当に仲が良く、見ていると微笑ましくなる。

 

 「じゃあ、こちらも聞いていいかな?」

 

 「はい」

 

 「ラクスはどうしてスカンジナビアに?」

 

 キラの質問にラクスの顔が曇った。

 

 それでけで想像がつく。

 

 彼女もまたつらい経験をしてきたのだろう。

 

 「ごめん、言いたくないなら―――」

 

 「いえ、大丈夫です。アストにもつらい話をしてもらいましたから」

 

 今度は自分の番であるとラクスは小さな声でポツポツと話し始めた。

 

 プラントでの出来事を―――

 

 「父のやろうとした事が間違っていた事は分かっています。でも……」

 

 「ラクス、我慢しなくてもいい。経緯はどうあれ家族が亡くなったんだから」

 

 「キラぁ」

 

 肩に手を置くと、彼女は涙を浮かべてキラの胸に飛び込んで泣き始めた。

 

 無理もない。

 

 父親が死んでからずっと気を張っていたんだろう。

 

 今はそっとしておいた方がいい。

 

 アストはレティシアを促し部屋の外に出ると静かに呟いた。

 

 「……私は何を見ていたのでしょうか。ラクスが苦しんでいたのを知っていたはずなのに。結局何もできませんでした」

 

 それは違う。

 

 かつては自分も大切なものを失い、その時かけられた言葉に確かに救われたのだ。

 

 1人だったらどうなっていたか。

 

 アストは慎重に言葉を選びながら口を開く。

 

 「それは違います。彼女にとってはあなたの存在は救いになったはずです。一人だったらきっと色々な事に押しつぶされていたかもしれない」

 

 「アスト君……」

 

 「俺だってそうだった。あの時1人だったら、キラ達に会わなかったらどうなっていたか」

 

 レティシアが辛そうにアストを見つめていた。

 

 先程聞いたアストの過去、それを聞いた時レティシアは強く共感していた。

 

 自身と似ている部分が多かったからだ。

 

 それだけに何故ここまで戦ってこれたのかも分かってしまった。

 

 罪悪感と強迫観念。

 

 キラも気が付いたアストの心情をレティシアも理解し、そんな理由で戦ってきた彼が悲しかった。

 

 アストはみんなを守れるなら、誰も失わないなら、自分が死んでも良いとすら思っていたに違いない。

 

 「そんな顔しないでくさい。俺の事よりもラクスの方が心配です」

 

 いつもと変わらぬその表情を見たレティシアは思わずアストを抱きしめていた。

 

 あまりに悲しくて、涙が出そうになる。

 

 そんな顔を彼に見せたくなかった。

 

 「ちょ、ちょっと」

 

 アストはバタバタ手を振ったが、放してくれそうも無い。

 

 誰にも見られない事を祈りながら、しばらくの間アストはレティシアの胸の中でジッとしていた。

 

 

 

 

 

 

 満身創痍のアークエンジェルはようやくオーブへと辿り着き、前と同じようにオノゴロ島のドックの中へ入って行く。

 

 正直ここに戻る事になるなど誰も予想すらしていなかっただろう。

 

 その艦をウズミやカガリ達は痛ましげに見つめている。

 

 傷ついたボロボロの船体を見ればどれだけの激戦だったか否応にも理解できてしまう。

 

 艦にいた誰もが疲れ切り、気を緩ませていたから、だから失念していたのだ。

 

 捕虜となっているデュエルガンダムのパイロット、イザーク・ジュールと因縁のある人物がここにいた事を。

 

 

 

 

 

 

 暗い独房の中でイザークはイレイズのパイロットが言っていた事をずっと考え続けていた。

 

 ≪お前が撃ったシャトルに乗っていたのはな、ヘリオポリスの民間人だよ!≫

 

 あの時、確かにストライクとの戦いを邪魔したシャトルを撃った。

 

 それに乗っていたのは戦いから逃げた地球軍の兵士達だと思っていた。

 

 逃げだした腰ぬけなど、死んで当然だと。

 

 なのにまさか民間人だったなんて思いもよらなかった。

 

 「くそっ!」

 

 何故自分がここまで悩まなければいけないのか。

 

 悪いのは血のバレンタインを引き起こした地球軍で、すべてナチュラルの所為―――

 

 ≪だからお前達は何をしてもいいのか! 誰を殺そうが許されるのか!!≫

 

 「くっ」

 

 その言葉がイザークの耳から離れなかった。

 

 アストと話をしてから時間の経過も忘れ、こんな事ばかり考えている。

 

 その時、ドアの開く音がして光が差し込んできた。

 

 またあの髪の長い女が食事でも持って来たのだろうか?

 

 ベットから体を起こすと、そこには見た事がないモルゲンレーテの作業服を着た少女が立っている事に気がついた。

 

 オーブの人間が何故ここに?

 

 訝しげに見ていたイザークは女の手に刃物を持っている事に気がつき息を飲む。

 

 少女はどこから持って来たのか独房のカギを外すと中に入ってくる。

 

 それは紛れもなく絶好のチャンスだった。

 

 いくら刃物を持っていても所詮は女、取り押さえる事は簡単にできる。

 

 それでも足は動かない。

 

 何故なら―――少女は泣いていたから。

 

 両目から涙を流し、その顔は憎しみに満ちている。

 

 「アンタがデュエルのパイロット……」

 

 そう言うと一歩踏み込んでくる。

 

 「あんたがエリーゼを!!」

 

 振りかぶってきた刃物を咄嗟に横に避けた。

 

 至近距離からでも避ける事ができたのは普段の訓練の賜物だろう。

 

 「な、何故、俺を―――」

 

 イザークは思わず聞いていた。

 

 以前なら気にもせずに、襲ってきた敵をただ排除していただろう。

 

 だが今は違った。

 

 何故だか理由が知りたかった。

 

 「あんたが撃ち落としたシャトルにいたのよぉ!! 私の妹がぁ!!」

 

 それを聞いた瞬間―――イザークは衝撃を受けると共に体の力を抜いた。

 

 受け入れたのだ。

 

 この少女には自分を殺す権利があると。

 

 「うあああああ!!」

 

 振り上げられた刃を見つめ呟いた。

 

 「……すまなかった」

 

 詫びなど意味がない事は分かっている。

 

 それでも言わずにはいられなかった。

 

 だがその刃が振り下ろされる事はない。

 

 刃物を持った少女をいつも食事を持って来た少女が抑えていたからだ。

 

 「アネット、邪魔しないでぇ!」

 

 「エルザ、駄目よ! こんなことしても!」

 

 「放してよぉ! こいつを殺して―――」

 

 アネットを振りほどこうとエルザが暴れるが、そこに制止する声が響く。

 

 「やめて、エルザ!」

 

 そこにはアストとフレイが立っていた。

 

 「刃物を捨てるんだ、エルザ!」

 

 「何で止めるの!」

 

 「そんなことしてもエリーゼは喜ばないから。あの子は優しいお姉ちゃんが好きだったんじゃないの? なのに自分の為に優しいお姉ちゃんに人を殺してほしいなんて言う子なの?」

 

 「それは……」

 

 「……私もパパが死んだ時、復讐の事だけ考えてた。どうこの怒りと憎しみをぶつけるか、そればかり考えてた。その時に言われた事があるの。≪ただ相手に憎しみをぶつけてもなんの解決にもならない。失くしたものも戻らない≫って」

 

 フレイは悲しそうに呟く。

 

 「……本当にどれだけ戦っても何も戻ってなんてこなかったよ」

 

 そう言うとエルザに近づき抱きしめた。

 

 「だからエルザ。エリーゼが大好きだったあなたのままでいて。お願い」

 

 エルザの手から刃物が落ち、そして泣き始めた。

 

 「う、うう、うぁあああああ!」

 

 「うん、もういいから」

 

 フレイはエルザの背中を撫でながらアスト達の顔を見て頷くとそのまま独房を出ていった。

 

 今はみんなオーブに無事たどりついて気が抜けていた。

 

 その所為か誰かが独房のカギを持ち出すなんて考えておらず、捕虜であるイザークの事も失念していた。

 

 迂闊にも程がある。

 

 そしてその場に残ったのはホッとするアストとアネット、そして俯いたままのイザークだけ。

 

 とにかく間に合って良かった。

 

 独房に入って行くエルザの姿を見かけなければ、どうなっていたか。

 

 「……どうして逃げなかった?」

 

 俯くイザークに問いかける。

 

 エルザがコーディネイターであっても訓練を受けたイザークの相手にならない。

 

 取り押さえ、逃げる事も簡単だった筈だ。

 

 だが何時までも答えが返ってくる事はなくその様子を見ていたアストはため息をつくとそのまま外に向かった。

 

 「一応言っておくが俺達はもう地球軍じゃない。だからお前を拘束する意味もない」

 

 「……何?」

 

 そこで初めてイザークが憔悴した表情のまま顔を上げてくる。

 

 「俺達は今オーブにいる。まだ上陸はできないが、それも許可が下りるまで、お前も辛抱しろ。許可が出たら釈放になるだろうからな」

 

 「どういう事だ。何故オーブに――」

 

 「釈放になったら教えてやる」

 

 そう言って独房を閉め、アネットと共に歩きだしたアストの背中に一言呟いた。

 

 「……俺はどうすればいい?」

 

 「……知るか、自分で考えろよ。でなきゃ多分意味がない」

 

 突き放すようにそう言うと部屋から出て行った。

 

 取り残されたイザークは呆然と床だけを見ていた。

 

 ようやく実感できたのだ。

 

 アストに話を聞かされた時もショックではあったが、どこか実感が湧かなかった。

 

 でも今は違う。

 

 涙を流し自身を糾弾してくる少女の姿がはっきり脳裏に焼き付いている。

 

 浮かびあがってきたのはこれまでの事。

 

 そしてこれからの事。

 

 どうしたらいいのか―――

 

 そんな自問自答を繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 「私共の勝手な願いを聞き届けていただき、ありがとうございます。しかもこのような時期に」

 

 以前と同じようにオノゴロ島の一室に通されたマリュー達はウズミ達との面会を果たしていた。

 

 「事が事だけにクルーの皆さまには不自由を強いる事になるがご了承いただきたい。わが国も今は忙しくてな」

 

 事情を聞いた時は驚いたものだ。

 

 中立3国による軍事同盟とは。

 

 詳しい話を聞きたいところではあるが、こちらの話が先となる。

 

 「とはいえゆっくり休む事はできよう。わが国の事だけではない。地球軍本部の壊滅による影響は世界に及ぶ。再び大きく動き出すのも時間の問題。その時どうするのかゆっくり考えるといい」

 

 「ありがとうございます」

 

 それから『JOCH-A』で起こった戦いの経緯と結末ついて詳しい説明をしていく事になった。

 

 実際体験してきた事とはいえ、口に乗せるのはつらいが、何とかすべてに事象を伝える事が出来た。

 

 「なるほど、サイクロプスとはな」

 

 「自軍の兵士達をなんだと思ってるんだよ!」

 

 ウズミ、そしてカガリも憤りを隠せない。

 

 「それでこれか……」

 

 備え付けのスクリーンに映像が映る。

 

 地球軍司令部の正式発表。

 

 これは戦場にいたアークエンジェルクルー達にとっては正直聞くに堪えないものだった。

 

 いかに守備軍が勇猛に戦ったとか、すべてはコーディネイターの所為だとか声高に叫んでいる。

 

 マリューやノイマンもそうだが、さすがのムウも怒りを隠せない様子だ。

 

 「まったく、たまらんね」

 

 「ええ」

 

 プロパガンダに利用することは予想していたが、実際に見れば良い気分はしない。

 

 「大西洋連邦は一層強く圧力を掛けてくる事になるだろう。無論我々も例外ではあるまい」

 

 「もしかしてその為に同盟を?」

 

 「……それも理由の1つではある」

 

 ウズミは顔を歪めるがすぐに元の表情に戻し、話を続けようとした時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

 

 「私です」

 

 「入ってくれ」

 

 入ってきたのは若い女性―――アストとキラはその人物を知っていた。

 

 オーブでアストレイの戦闘データを取った際に出会った女性、アイラであった。

 

 「お話し中に申し訳ありません、ウズミ様。こちらの関係者がここに来ていると聞いたものですから」

 

 「アイラ様」

 

 アイラ様って、どういう事だ?

 

 いや、こんな所に入って来れるという事はそれなりの地位の人間というのは分かる。

 

 ラクス達の反応からしてスカンジナビアの関係者だろう。

 

 「そういえば初めての人もいますね。自己紹介しましょう」

 

 そう言うとこちらに向き直る。

 

 「スカンジナビア第二王女アイラ・アルムフェルトです。どうかお見知り置きを」

 

 「えっ、スカンジナビアの!?」

 

 キラが驚くのも無理はない。

 

 まさか王女だとは思わなかったというか。

 

 ラクスやカガリ、そしてアイラ、流石に国の重鎮と縁が多すぎる。

 

 「さてレティシア、ラクスと話がありますのでよろしいですか?」

 

 「うむ」

 

 「2人もこちらに。それからアスト君とキラ君にも話があるの。後でいいかしら」

 

 「……はい、わかりました」

 

 いったい何の用事があるのか、想像もできないがとりあえず頷いておく。

 

 それを見て満足したように頷いたアイラが2人を連れて退室するとウズミが視線を戻して話し始める。

 

 「さて、同盟の件だったかな。理由は先ほど申した通り、そしてもう1つ。これから起こる戦いに備えてだ」

 

 「これから起こる戦い? それはオーブが戦場になるという事ですか?」

 

 「そうだ。君たちは次の戦いがどこで起こると思う?」

 

 次の戦い―――それは誰もが知っている。

 

 「パナマですね」

 

 「そうだ。ではその次は?」

 

 ザフトの攻撃目標はあくまでも宇宙に上がる為に必要なマスドライバーだ。

 

 そして地球軍が保有するマスドライバーはすでにパナマのみで仮に失えば宇宙への道が閉ざされる事になる。

 

 そうなればどうする?

 

 「あ、まさか、マスドライバーをめぐって戦いが起きるという事ですか?」

 

 「そうなろう。たとえどちらが勝とうともな」

 

 その話を聞き複雑な気分となる。

 

 前ならばオーブは中立、そんな言葉を口にしたに違いない。

 

 だが、もうそんな事は言えはしない。

 

 それで済むならヘリオポリスは崩壊などしていないからだ。

 

 「……戦われるのですか? オーブの理念を捨ててでも」

 

 ムウの指摘にウズミは顔を曇らせた。

 

 彼自身、マリュー達が想像できないほど葛藤したに違いない。

 

 苦渋の決断、彼の表情がそれを物語っていた。

 

 「……信じてくれた国民達を、なにもせず切り捨てる事などできようか」

 

 「……失礼しました」

 

 「いや、良いのだ。話はこれくらいだな。君たちは自分達の身の振り方を考えてくれ」

 

 「はい、ありがとうございます」

 

 ウズミが退出し、マリュー達もアークエンジェルに戻る為に部屋を出るとアストとキラは先ほどのアイラの下へ行くためカガリについて行く。

 

 その途中でカガリの表情が曇っている事に気がついた。

 

 「カガリ?」

 

 「……お前達に言っておかなければならない事がある」

 

 一旦言葉を切ったカガリは、意を決したように口を開いた。

 

 「アスラン・ザラに会った」

 

 「なっ!?」

 

 会ったと言う事は、生きていたのだ。

 

 どうやらマルキオという人物に助けられていたらしい。

 

 隣のキラを見ると驚いているようだが、それだけだ。

 

 前言っていたように自分の中でけじめをつけたということだろう。

 

 「あいつから聞いた。お互い知っていながら殺し合っていたって。何でだよ! 何でお前達は―――」

 

 悲しそうに詰め寄るカガリにキラははっきりと答えを告げる。

 

 「僕達はお互い譲れないものがあったから。友達だったけど、いや友達だったからこそ譲れない事だったんだよ」

 

 「キラ……お前」

 

 「教えてくれてありがとう、カガリ」

 

 すべて覚悟している顔で告げる彼にそれ以上、何も言えなかった。

 

 アストが肩をポンと叩き、頷くとカガリは潤んでいた目を袖でこすり、先導するように歩き出した。

 

 泣きそうになっているのを見られたくないのかもしれない。

 

 相変わらずな彼女に微笑ましくなりながら、2人は後を追って歩き出した。

 

 再び3人は歩き出しエレベーターに乗り込む。そして降りた先に大きな扉があり、その前にアイラ達が待っていた。

 

 「お姉さま、連れて来ました」

 

 「ありがとう、カガリ」

 

 アイラがアスト達に目を向ける。

 

 笑みを浮かべるとジッとこちらを見つめている。

 

 「お姉さま?」

 

 「ああ、ごめんなさい。アスト君は相変わらず小柄でかわいいと思ってね」

 

 その言葉にアストは頬を引きつらせた。

 

 小柄でかわいいって、全然褒めてないだろう。

 

 それにもう1人反応したのがレティシアだった。

 

 面白くなさそうに眉をひそめアストの前に立つとアイラに先を促す。

 

 「……アイラ様、本題に入りませんか」

 

 「あら、レティシア、貴方―――」

 

 「……なんです?」

 

 「なんでもないわよ」

 

 ニヤニヤしながら見つめてくるアイラにプイとレティシアは横を向く。

 

 肝心のアストはなんの事か分からず首を傾げるだけだ。

 

 もしかするとデートで忘れられたトールはこんな気持ちだったのかもしれない。

 

 「ごめんなさい、本題に入りましょう。貴方達はこれからも戦う気はある?」

 

 「えっ」

 

 「ウズミ様から話を聞いたのでしょう。遅かれ、早かれ、オーブは戦場になる。その時、戦う気はあるかと聞いているの」

 

 アストもキラも躊躇う事無く頷いた。

 

 「理由を聞いてもいいかしら?」

 

 「戦う理由は昔も今も変わりませんよ。友達を守るためです。そして決着を付けないといけない相手もいる」

 

 「僕もです。僕にも守りたい人達がいます。なにより僕自身が戦わず見ているだけなんてできない。何もしなければきっと後悔しますから」

 

 2人の返答を聞き、顔を先程とは違う真剣なまなざしでジッと見つめてくる視線を逸らす事なく見つめ返した。

 

 しばらくそのままでいると、アイラは笑みを浮かべた。

 

 先程までとは違いそれはとても優しい笑みであった。

 

 「2人の理由はわかりました。そんなあなた達にこれを渡したいの」

 

 カードキーを通すと扉が開いていく。

 

 扉の先にあったのはアラスカでラクス達が搭乗していた機体。

 

 そしても2二機ほど見た事のない機体がある。

 

 「まずキラ君あなたには『フリーダム』に乗ってもらいたいの」

 

 「『フリーダム』ってレティシアさんの機体じゃないんですか?」

 

 「私の機体はあれです。名前は『アイテルガンダム』」

 

 ZGMF-X01A『アイテルガンダム』

 

 ドレッドノートを再設計した機体であり、バックパックを専用装備に換装する事で武装を変更できるようになっており、この辺りはストライクの発想を受け継いでいる。

 

 「そしてアスト君、あれが貴方の機体『イノセント』よ」

 

 ZGMF-X07A『イノセントガンダム』

 

 フリーダムやジャスティスと比べればジンプルなデザインであり、腕には腕部実剣『ナーゲルリング』、背中にスラスターに2門の砲身『アクイラ・ビームキャノン』などの武装が装備され、砲身の横には高出力ビームソード『ワイバーン』が装備されている。

 

 「一応言っておくけどこれらの機体にはNジャマーキャンセラーが搭載されているの」

 

 「なっ!?」

 

 Nジャマーキャンセラー!?

 

 そんなものが外に、ひいては地球軍の手に渡ればどうなるか。

 

 自分達に託されようとしているものが、どれほどのものか実感してアストもキラも息を飲んだ。

 

 「お願いできるかしら」

 

 「「はい」」

 

 2人の返事にアイラは笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 モルゲンレーテに存在している研究室の1つ、ローザ・クレウスの研究室でキーボードを叩く音が響いている。

 

 そこにノックする事もなく入ってきた者がいた。

 

 エリカ・シモンズである。

 

 勝手知ったるという感じで、ローザの下に歩いてくる。

 

 彼女も今更の事を別に咎めはしない。

 

 「ローザ、あなたにいい話よ」

 

 「ほう、なんだ」

 

 「あの2人がまたオーブに来たわよ」

 

 キーボードを叩くのをやめると口元に笑みを浮かべる。

 

 常に表情を崩さない彼女にしては珍しい事だ。

 

 「そうか」

 

 「そんなに嬉しい?」

 

 「ああ、研究対象が戻ってきたんだ。嬉しくないはずがない。あの二人のデータはコペルニクスの連中も興味を示していたしな」

 

 「え、まさかあの2人のデータを渡したの?」

 

 「問題にならない程度のデータだけだ。すべて渡す筈はないだろう」

 

 予想外の行動にエリカは思わずため息をついた。

 

 問題にならないのなら良いが、この友人は研究のためなら多少の無茶もしてしまう為、非常に心配なのだ。

 

 「そうそう、頼まれていた物は出来てるぞ」

 

 「本当!?」

 

 「ああ、X102とX105の改修プランと『アドヴァンスアーマー』のデータだ」

 

 差し出してきたディスクを受け取る。

 

 「呆れるわね、もうできるなんて。それだけの才能があるならこっちの分野にも手を出せばいいのに」

 

 「ふん、モビルスーツに興味はない」

 

 ロ-ザはあくまで遺伝子学者だが、それだけではなく工学の分野や医学にも精通している人物である。

 

 しかし、本人は興味の無いことはほとんど見向きもしない。

 

 今回のように機嫌の良い時でなければ手伝いもしてくれないのだ。

 

 「さあ、私は忙しいんだ。邪魔するな」

 

 「はいはい」

 

 渡されたディスクに目を落とす。

 

 改修した機体に『アドヴァンスアーマー』を装備させれば性能も火力も上がる。

 

 名前は『アドヴァンスデュエル』と『アドヴァンスストライク』と言ったところか。

 

 エリカは早速この事に関する説明のためアークエンジェルに向かった。

 

 

 

 

 

 

 佇む1機のモビルスーツを複数の機体が取り囲む。

 

 GAT-01『ストライクダガー』

 

 ストライクのデータを基に開発された連合初の量産型の機体である。

 

 そして相対しているもう1機は全く違う機体であった。

 

 腕には剣をマウントし、背中には二対の羽のような物と2つの砲身が付いている。

 

 ストライクダガーに取り囲まれた機体が腕にマウントされた剣を振るうと、ストライクダガ―はあっさり斬り裂かれ、崩れ落ちた。

 

 それらを援護する間もなく呆然としてしまうストライクダガー部隊に対し、容赦なく背中の装備を前に跳ね上げ叩き込んだ。

 

 凄まじい閃光が敵機を包み、消し飛ばすとそこで戦闘は終了する。

 

 格納庫に戻ってきたその機体をアズラエルは恍惚に満ちた表情で見つめていた。

 

 GAT-X146『ゼニス』

 

 元々イレイズが乗る筈だった完成系。

 

 GATシリーズの集大成であり、旗頭となる機体。腕には対艦刀『ネイリング』を、背中にはアータルとタスラムを複合させた武器、複合火線兵装『スヴァローグ』を装備し、その性能は第二期GATシリーズの中でも最高性能である。

 

 コックピットが開きパイロットが下りてくるとすぐ研究員と思われる白衣の男たちが寄ってきた。

 

 「どうですか、アズラエル様」

 

 「素晴らしいよ」

 

 事実アズラエルは満足していた。

 

 これならやれる。

 

 あの化け物共を1人残らず排除できる筈だと。

 

 そうしてパイロットの方にも目を向ける。

 

 いや『アレ』はパイロットなどではない、ただの部品だ。

 

 他と違い、あの部品は使える。

 

 途中で拾ったモノのためどこまで使えるか不安だったが思った以上だった。

 

 無理やり強化したため、若干障害も出ているが戦闘には問題ないレベルである。

 

 アズラエルは研究者たちに処置を受けている『ソレ』に声をかけた。

 

 「もうすぐ君の出番だ。期待してるよ」

 

 残酷な笑みを浮かべたアズラエルはその部品の名前を呼んだ。

 

 「エフィム・ブロワ君」




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