オーブと地球軍、そしてザフト軍まで加わったオーブ戦役と呼ばれた戦いが終結してからすでに5日が経過していた。
あれだけの激しい戦闘でありながら、被害が軽微で済んだのは軍が奮戦してくれたおかげだろう。
会議室でウズミを含めたオーブ首脳陣とアイラを中心としたスカンジナビアそして赤道連合の閣僚達が集まり報告と会議を行っていた。
もちろんその中にはカガリもいる。
何故自分がここにいるのか疑問を抱かない訳ではないが、アイラいわく「今後の勉強のために」との事。
折角アイラが用意してくれた場だ。
学ぶためにも、話をしっかり聞かなくてはならない。
「今回の戦闘による被害は予測されていたものより遥かに軽微でした」
「ですがマスドライバーは損傷を受け、修復、点検を含め一か月は使えません」
「アメノミハシラ、ヴァルハラ共にその程度の日数なら問題ありません。コペルニクスと交渉もしていますし」
「ええ、そちらは良いでしょう。しかし次も同じような攻撃を受ければ今回のようにいくとは限りますまい」
「それもしばらくは大丈夫でしょう」
アイラの言葉に皆が耳を傾ける。
「地球軍は現在ビクトリア奪還作戦を進めておりますから、そちらを優先するはず。仮にビクトリアを取り戻したとしても、オーブ再攻略に乗り出す可能性は低い」
「何故です?」
「地球軍は各地にあるザフトの基地攻略を最優先にするはずです。同時に宇宙も放置はできません。隙を作ればそこからザフトに手酷い反撃を受けるでしょうから。何より今回の侵攻により同盟軍の力を知った。簡単には攻め落とす事も出来ず、戦略的な意味合いも少ない。アラスカの件から地球軍の評判は良くありません。これ以上のリスクは冒さないでしょう。攻めてくるとしたらプラントとの戦争終結後です」
「うむ、それも確実にとはいえませんがな」
「もちろん、そちらの備えも準備させています。しかし、問題はプラントでしょう。今回の件で開戦状態となった訳ですが情報が少なすぎます」
「何度か交渉を呼びかけましたがすべて無視されました」
これも頭の痛い問題だった。
地球軍の方は各国が進んで参加している訳ではなく、無理やりという国も多くある。
しかも今回の戦いでオーブに無理やり侵攻した事で、各国の信頼をさらに失ってしまった。
引き換え中立同盟はスカンジナビアを中心として外交をおこない、密かに交流を続けている。
そしてユーラシアはアラスカの件もあってか、大西洋連邦とはかなり険悪である。
地球軍は一枚岩ではない、そこにつけいる隙があるという事だ。
しかしプラントは違う。
完全にこちらを無視しているのだ。
「プラントの事は大洋州連合の方に接触をしてみますが……」
「望み薄ですか」
「ええ……」
流石に何の情報もないというのは厳しい。
いつまたザフトが攻めてくるかもわからないのだ。
そのための対策が必要だろう。
「では、この件私に任せてもらえませんか?」
「アイラ様、なにかお考えが?」
「考えというほどではありませんよ」
「うむ、ではそちらはお任せしましょう」
「わかりました」
アイラがそう言うと次の議題へと移っていく。
そして会議が終盤に差し掛かろうという時、アイラがカガリに声をかけてきた。
「そういえば、カガリ」
突然自分の名前をよばれたカガリはびくっと体を震わせる。
何故ここで私が呼ばれるんだ?
「今から話す議題はあなたにも関係がありますから、良く聞いておくこと。そして後でその事に関する話もありますから、別室にくるように」
「は、はい」
何をするつもりなのかとカガリは内心不安になりながら、会議の推移を見守っていた。
今回のオーブ戦役による一般人への被害は少なかった。
しかし少ないとはいえ、完全に被害が出なかった訳ではない。
戦いの被害者の一人であるマユ・アスカは、オーブ戦役終了後もずっと病院内で寝泊まりしている。
未だ家族は集中治療室から出られない状態で、とてもではないが他の者達のようにこれからの事など考えられなかった。
毎日が気が気ではなく、食事もほとんど喉を通らず、夜も眠れない。
唯一の救いは自分を救ってくれたパイロット、アスト・サガミが毎日会いに来てくれた事だろう。
誰かと話をしていれば気がまぎれるし、その時だけ嬉しい気分になれた。
そんな日が何日か続き、ようやく家族に関する話を担当医から聞かされる事になる。
しかしそこで告げられた事実はさらに残酷なものだった。
診察室に呼び出されたマユが椅子に座る。
「……マユさん、こんな事を君に告げるのは心苦しいのですが」
ドクターが辛そうにマユを見ている。
それだけで良い知らせではない事は解ったが、ずっと聞かないでいる事はできない。
マユは深呼吸すると、話の続きを待つ。
「……まず最初に全員命は取り留めました」
「本当ですか!!」
「ええ」
生きている!
それだけで十分だ。だがドクターの顔は暗いまま、気まずそうにカルテを見ている。
「……なにかあるんですか?」
「お父様、お母様ですが、遷延性意識障害です」
「それって……」
「治療は試みますが、おそらく意識が戻る事はもう……」
マユはショックのあまり脱力した。
もう意識が戻らない。
それはもう死んだと同じ事、そんな―――
「そしてお兄様ですが……」
「……はい」
「先程も言いましたが命は取り止めました。しかし未だに危険な状態であり、現状維持が精一杯な状況です」
「じゃあ、お兄ちゃんも……」
「いえ、彼の場合は違います。確かに頭部に傷を負っていましたので、多少記憶の混乱はあるかもしれませんが、彼の場合は体の怪我の方が問題なのです」
マユは何も言葉にできず、どうすればいいのかも解らない。
13歳の少女には過酷すぎる現実を前に、泣く事もできずに呆然とするしかなかった。
イノセントの調整を終えたアストは憂鬱な表情で考え込んでいた。
考えていた内容は戦場で助けた少女マユ・アスカの事である。
最近毎日時間が出来れば彼女の下を訪れていた。
今、彼女を一人にはできない。
アストも昔の経験で知っているからだ。
大事な人達を失う辛さを。
そして今回彼女の家族に起こった事はすでに病院から聞いていた。
それを聞いた彼女も塞ぎ込んでいる。
元気づけてやりたいが、どうすればいいのか―――
「アスト、 どうしたの?」
「キラか」
同じくフリーダムの調整を行っていたキラが寄ってきた。
1人で悩んでいても仕方ない。
ここは相談してみた方がいいだろう。
「実は―――」
戦場で助けた女の子の事を話すが、あまり明るい話ではない。
聞き終えたキラの表情は予想通りに暗くなった。
「……そっか」
「ああ、とりあえずこれから会いに行くつもりだけど」
「う~ん、じゃその前にラクス達にも相談してみたらどうかな。僕達だけで考えるよりはいいと思う」
「そうだな」
ラクス達は訓練が終わった頃を見計らい、キラと一緒に歩き出す。
「そういえば、イザークとちゃんと話したのか?」
「うん、あれから色々話はしてるよ」
オーブ戦役が終結した後、スウェアに搭乗していたイザークとキラは当然顔を合わせる事になった。
「どうして君が僕達の味方をするんだ?」
鋭い視線でイザークを見る。
「……ストライクのパイロットか。俺は犯した罪から逃げる気はない。責任は果たす。そのために俺はあの機体に乗った」
イザークの言葉を聞きじっと見つめていたキラは感情のこもらない声で言った。
「その言葉信じていいんだね?」
「ああ」
「もし君がその言葉を覆したなら―――」
「その時は俺を殺せばいい」
その言葉を聞きキラは顔を伏せる。
今までの事で葛藤もあるからそう簡単に割り切れないだろう。
「……僕もたくさんの君の仲間を殺してきた。その僕が君を責める権利がない事も分かってる。でも、これだけは忘れないで欲しい。あの戦いで幼い命が失われたって事だけは」
「……忘れる事などできるものか」
「なら僕が言う事は何もない。いや、これから一緒に戦うなら自己紹介しないと、キラ・ヤマト、よろしく」
そう言ってキラは手を差し出す。
イザークは迷う事無くその手を握った。
「イザーク・ジュールだ」
あれ以来キラは普通にイザークと話しているのを見かける。
アストもイザークに対するわだかまりのようなものがなかった訳ではない。
しかしキラとの会話を聞いた後はアストもけじめをつける事にした。
それからはアストもイザークに声をかけているし、アネットやマードックとも話しているようだ。
なんであれ、少しずつ馴染んでいるのは良い事だろう。
そうしてシミュレーターの近くまで来るとラクスとレティシアの二人の姿を見つける。
「ラクス、レティシアさん」
「キラ、アスト、二人もどうしたのですか?」
「少し相談があるんだ」
顔を見合わせる二人に事情を説明する。
聞き終えた後の顔はキラと同じく暗い。
「そんな事が……」
彼女も父親を亡くしているため、マユの気持ちがよくわかるのだろう。
「俺はこれから彼女の所に行こうと思っているんだけど―――」
するとラクスは真剣な顔で言った。
「では私達も一緒に行ってもかまいませんか? 話したい事もありますし」
「話したい事?」
「ええ、ご両親のことはさすがに難しいですが、お兄様の方はなんとかなるかも知れません」
「本当か!?」
「ええ、確実に大丈夫とは言えませんが……」
ラクスの言葉に難しい顔をしているレティシア。
その表情からその考えが簡単でないことは明らかだった。
「ラクス、本気ですか?」
「ええ」
「なにか問題なのか?」
「……そうですね、まずマユさんの所に行きませんか? 詳しくはそこで話しましょう。こういう時、一人じゃない事が救いだったって言ったのはあなたでしたし」
そういえば以前にそんな事をレティシアと話したんだった。
「じゃあ僕も行くよ」
どうやらキラにも気を使わせたらしい。
でも丁度良い。
「キラ、少し頼みがあるんだが……」
「何?」
頼みごとを伝えるとキラは快く頷いた。
これで少しは元気になってくれれば良いとそんな事を考えながら病院に向かった。
マユは病室で横たわる両親の姿を見つめていた。
ようやく集中治療室から出てきた両親は目を開くことなく静かに眠っている。
兄のシンの方は未だに治療中らしく、様子を見る事さえ敵わない。
眠り続ける両親を見て実感する。
もう起き上がる事もなく、声を出す事もない。
そう考えると今までの思い出が蘇り、より一層悲しくなる。
気が付くとマユの目から一筋の涙が零れ落ちていた。
「……泣いては駄目」
何度も目元をこすり、涙を拭くが止まらない。
そこにコンコンとノックが響いた。
「アストだが、入っても大丈夫だろうか?」
「ア、アストさん!? ちょっと待って下さい!」
目元をもう一度拭き、窓ガラスに映った自分の姿を見た。
こんな姿は見せられない。
きっと心配してしまう。
アストにはいっぱい助けてもらったのだ。
これ以上迷惑はかけられない。
深呼吸し、もう一度目元を拭くと涙は零れなかった。
そして無理やり笑顔を作ると「どうぞ!」と返事をした。
「失礼します」
入ってきたアストが驚いたようにマユのそばに駆けよってくる。
どうしたのだろうか?
もう一度よく窓ガラスに映った自分を見てみると、目が赤くなって涙のあとが残っていた。
「どうしたんだ!? 何か―――」
「え、えっと、その」
そこでベットの様子に気がついたようだ。
外から見えないようにカーテンで仕切ってたため、気がつかなかったらしい。
「そうか、ご両親は出てこられたんだな」
「……はい」
マユは再び俯いた。
彼の前だからと気を張っていたが、再び視界が涙で歪んでくる。
そんな彼女をアストは静かに抱きよせた。
「ア、アストさん!?」
「ご両親の事は聞いた。無理する事はない、泣きたい時は泣けばいい」
そんな事言われたら、我慢していたのに。
マユが必死に堪えていたものが、溢れだす。
アストの服にしがみついて泣きだしてしまう。
「う、うう、お父さん達は、もう目を、覚まさないって、それでぇ、ううう、うああ!!」
何も言う事無くマユの背中を撫で続けた。
しばらく泣いていたマユが落ち着いてアストから離れた。
「す、すいません」
「別に気にしていない。それより今日は紹介したい人達がいるんだ」
アストの声に反応して、外で待っていたらしい人達が入ってくる。
今まで泣いていたのでかなり気まずいのだが、入ってきた人達は気にした様子もない。
マユは入ってきた3人を見た。
軍服を着ているという事は軍人なのだろう。
1人はアストと同じ服を着た優しげな男の人、後の2人は目を引くほどの美人でアスト達とは違う服を着ている。
「えっと」
「突然申し訳ありません。まず自己紹介から、私はラクス・クラインといいます」
「レティシア・ルティエンスです。よろしくお願いします」
「僕はキラ・ヤマトです」
「は、はい。マユ・アスカ、です」
困惑するマユにラクスが優しげに微笑む。
なんというか癒される笑顔だった。
「みんな、俺の仲間なんだ。こんな時だし、1人でも知り合いがいた方がいいと思ってね」
どうやらアストが気を使ってくれたらしい。
確かに彼以外に知り合いはいないし、ほとんど話もしなかった。
それが余計に塞ぎ込む原因になっていたのだろう。
ラクスが穏やかな笑みを浮かべて話しかけてくる。
「マユさん、よければ私達とお友達になってくれませんか?」
「え、私とですか!?」
「駄目でしょうか」
「そんな事ありません! よ、よろしくお願いします!」
笑顔で答えるマユにアストは持ってきていた箱を渡す。
「あの、これは?」
「開けてみてくれ」
箱の蓋を開けるとそこに鳥を模したペットロボットが入っていた。
手にとってスイッチを入れると翼を広げ動き出し、マユの肩に止まった。
「わあ! これって」
「トリィっていうんだ。えっと、僕の昔の……知り合いが作ってくれたものなんだ。マユちゃんにあげるよ」
「大切なものなんじゃ……」
キラは一瞬複雑そうな表情を浮かべる。
アスランの事を思い出しているのかもしれない。
しかしすぐに複雑そうな顔を正すと、笑顔で答えた。
「気にしないで、君に持っていてほしい。ただ大切にしてね」
「はい、ありがとうございます!!」
肩のトリィを見ながら嬉しそうに笑うマユ。
家族の件で塞ぎ込んでいた彼女もこれで少しは元気になってくれれば良い。
そうしてみんなで話をし、その中でマユも楽しそうに笑っていた。
それだけでもキラ達を連れてきたのは正解だった。
特にトリィの事は気にいったらしく、何度も手に乗せて眺めていた。
話が一区切りついたところで笑顔だったラクスが真剣な表情になるとマユに向き合い話を切り出す。
「マユさん、お兄さんの事ですけど」
「あ、はい」
先程言っていた話だろう。
しかしレティシアは未だ難しい顔をしたままであり、もしかするとよほど危険な手段なのかもしれない。
「プラントの医療技術ならお兄さんを助けられるかもしれません」
プラント!?
確かにプラントの技術は確かにオーブよりも格段に進んでいる。
ラクスやレティシアはプラントに住んでいたため、その技術の高さをよく知っていて当然だ。
それなら重症である彼女の兄を助ける事はできるかもしれない。
だが―――
「ほ、本当ですか!?」
「はい、ただいくつか問題があるのです」
「ええ、ラクスの言う通りプラントならおそらく助けられる。しかし、現在ザフトと同盟軍は敵対関係になっています。いわば今は戦争中なのです。ですからマスドライバーの修復が終わっても、プラントに行く方法がありません」
レティシアの指摘した通り、行く方法もなく、行けたとしても今の状況でプラントに行くなど自殺行為に等しい。
「……そうですか」
マユは再び落ち込んでしまう。
だがラクスも落ち込ませる為にこんな事を言った訳ではない。
「でも、全く方法がない訳でもありません」
「えっ」
「コペルニクスはオーブなどと同じ中立都市で、プラントとも交流があります。ここで、その、クライン派の人とコンタクトを取ればプラントへ入国の手引きをしてもらえるかもしれません」
レティシアが難しい顔をしている訳が分かった。
クライン派というのがどういう組織か知らないが、そんなものと接触すればラクスの生存がバレ、再び狙われる事になりかねない。
「それにこれは独断にて出来る事でもないのです。私達はあくまで同盟軍の軍人ですから」
「……はい」
「期待させるような事を言って申し訳ありません。……でも私の方からもアイラ様にお話してみます」
「なんでそこまで?」
「私も父を亡くしていますから」
ラクスの言葉にハッとマユが顔を上げる。
その時の顔は優しそうであり、同時に悲しそうだった。
「……ありがとうございます、ラクスさん」
しかしそう簡単にはいかないだろう。
これは国を巻き込むことになるのだから。
マユとの話を終えると、全員でアイラの所に訪れる。
通された部屋には連日の会議で疲れた顔でため息をつくアイラとカガリがいた。
彼女もまたやや疲れた顔をしているのは気のせいだろうか。
「どうしたのかしら? まあ、こっちも用事があったからちょうど良かったけどね。レティシア、あなたに話があったのよ」
「私にですか?」
「ええ、まあそれは後でいいわ。先にそちらの話を聞きましょうか」
「はい」
ラクスが語り出す。戦火に巻き込まれた一人の少女の話を。
「……つまりそのマユという子の家族を救いたいと?」
「はい」
話を聞き終えたアイラは、険しい顔で見つめてくる。
やはりそう簡単に良しと言える話ではない。
「言っておくけれど今回被害を受けたのは彼女だけではないわ。もちろん彼女の家族が負った被害が償えないほど重い事は認めるし、戦争の責任は私達にあるのも確かです。出来る事はしましょう。しかしその提案はリスクが高すぎる」
「……分かっています。しかしアイラ様―――」
「と言いたいところだけど、条件付きで認めてもいいわ」
「えっ?」
ラクスが気がついたようにアイラを見る。
「先ほどレティシアにしようとした話に関係があるのですね」
「そう。みんなも知っている通り、現在同盟軍とザフト軍は敵対関係にある。かなり前からそうだけどプラントとは交流がない状態で、情報が全く入ってこないの。そこでレティシアにどうにかプラントに潜入してもらって情報を集めてもらおうと思っていたのよ」
「なるほど、それで条件というのはなんでしょうか?」
「今の話を聞いて、クライン派と接触するというのは悪くないアイディアだと思うわ。内側から手引きしてもらった方が潜入しやすい。ただ、クライン派にラクスが接触するのは駄目よ。あなたが接触すれば必ずクライン派の旗頭に据えられる。つまりラクスは動かないこと」
ラクスの事が露見すれば現在の最高評議会が黙っていないだろう。
必ず抹殺に動く筈だ。
「それから、脱出経路も確保しないといけない。これについてはこちらでも考えてはいるけど安全に、確実に脱出できる訳ではないのよ」
しばらく考えていたレティシアであったがすぐに真っ直ぐアイラを見た。
「アイラ様、私にやらせてください。危険は承知の上です」
「……わかったわ。潜入の人選は―――」
「俺も行きます」
アストが志願したのが意外だったのか、全員が驚いた。
「何故君が?」
「もちろんマユちゃんの事もありますけど、プラントも一度見ておきたいんですよ。それにレティシアさんだけでは心配ですから」
「アスト君」
レティシアが嬉しそうに頬を緩めた。
それを見たラクスやアイラが微笑ましそうに見つめているのに気がついてすぐに顔を引き締めるが、皆の視線は中々逸れてくれない。
ゴホンと咳を一度すると話を戻した。
「と、とにかく、詳細は後ほど、報告書にまとめておきますので」
「そうね、どの道マスドライバーが使えるようになるまで一ケ月は必要になるわ。それまで計画を練り、準備を進めましょう」
「了解です」
そういえば先ほどから黙っているカガリは何でここにいるのだろうか。その視線に気がついたのか、カガリは気まずそうに顔をそむけた。
「ああ、先に言っておくけどカガリも宇宙に上がる事になると思うからよろしくね」
「え、カガリが?」
「……ああ、宇宙で軍の指揮を担当する事になった。といってもあくまでオーブ軍のだがな」
同盟軍とはいえオーブ、スカンジナビア軍が統括されている訳ではない。
話し合いは続いているし、連携強化も図られている。
だがそれが整う前に宇宙で戦闘が起こる可能性が高い。
そこで事前に宇宙での戦闘による混乱など起きないように訓練を行う事になったのである。
今回のオーブ戦役のデータはかなり役立つだろう。
カガリはそこで指揮を執っていた経験を買われ、宇宙に行く事になったのだ。
もちろん彼女だけが行く訳ではなく、補佐として何人かついて行く予定ではあるが。
「とにかく、そういう事だ」
「そんなに緊張しないで、カガリ」
「……それは無理です、お姉さま」
「勉強のつもりでいいのよ。今回は演習なのだから」
「……はい」
カガリは自信がないのか、表情は硬いままだ。
「どうしたの、カガリらしくないじゃないか?」
「……別に、その、私にそんな大役が務まるのかと思っただけだ。それに……」
「それに?」
「結局この前の戦いでも何もできず、戦いの前だってあんなに取り乱して、自分が情けない」
どうやらカガリなりに考えていたらしい。
「カガリ」
「なんだよ、アスト」
「お前にはお前にしかできない事があるはずだ。今回の演習もその内の一つだろ」
「それは……」
「悔やむ前にまずお前ができる事から始めてみろ。できない事があれば誰かに頼れ。それは恥ずかしい事じゃない」
カガリはしばらく考え込んでいたが、顔を上げると頷いた。
「……そうだな。すまない」
どうやら少しは吹っ切れたらしい。
その顔はいつもの彼女に戻っていた。
ザフト軍カーペンタリア基地。
その作戦室の一室に特務隊3人の姿があった。
「くっそぉぉ!!」
マルクは怒りに任せ近くの椅子を蹴り上げる。
蹴られた椅子が机にぶつかり、派手に音を立てて散乱する。
いつもならばシオンやクリスが止めに入るところだが何も言わず、それどころか彼らもまた怒りを堪え、拳を握りしめていた。
「どういう事だよ、なんでNジャマーキャンセラーの情報が漏れてんだよ!!」
「……どうもこうもない。情報を漏らした奴がいるというだけだ」
「それって……」
「思い当たる節など一つしかない」
「なるほど、彼女達ですね」
クリスの一言でマルクも気がついたらしい。
ラクス・クライン、そしてレティシア・ルティエンス、彼女達しかいない。
そう気がついた瞬間、マルクは今までの苛立ちが嘘だったようにいきなり笑いだした。
「アハ、アハハハハ! そうか、そうだったのかぁ! 生きてたのかよレティシアァ!! ハハハハ!」
最高の気分というのはこういう事を言うのだろう。
あの女が生きているのだ。
しかも裏切って。
「……今度こそ俺の女にしてやる」
あの体を好きに出来る、それを思い描くだけでも興奮してくるというものだ。
「マルク、気持は分かるが落ち着け」
「ああ、わかってるよ」
「ではシオン、我々はどうするんですか?」
「まずはザラ議長に報告し、その後は本国に帰還する事になる」
シオンの方針にマルクは明らかに不満そうにしている。
彼としては今すぐにでもオーブに向かいたいのだろう。
クリスにしてもアストにやられっ放しというのは納得できない様子だ。
気持ちは理解できるが、自分達は特務隊であり、任務が優先すべき。
だからこそ―――
「……ここは堪えろ。それにシグルドのデータを持ち帰り、機体を完成させなければならない」
「チィ、まあ確かにこのままじゃあの白い機体に勝てないしな」
「ええ、今度こそ倒しますよ。必ずね」
それについては異論はない。
今度こそ奴を、アスト・サガミを殺すのだ。
「……このままで済むと思うなよ、アスト」
シオンは憎しみを込めて呟いた。
オーブで会議が行われてからさらに5日後、地球軍はビクトリアに侵攻し、これを陥落させた。
すでに戦闘を終えて各機体の残骸が転がり、勝者である地球軍の兵士達が敵機の残骸を探索し生き残った者たちがいないか探している。
しかしそれは助けるためではない。
生きている者がいれば確実に殺す為であった。
崩れ落ちたジンのコックピットで生き残った敵兵を見つけた地球軍の兵士は、躊躇う事無く撃ち殺していく。
そんな中を一台の車が走っていた。
車に乗っていたのは一人の将校、ウィリアム・サザーランドとスーツを着た男ムルタ・アズラエルであった。
「流石ですよ。お見事でしたサザーランド大佐」
「いえ、ストライクダガーは良い出来ですよ。アズラエル様がオーブで敗戦されたのは、予期せぬ機体の所為でしょう」
「……とんでもない国だよオーブは。ああ、スカンジナビアもだね」
正直あの機体を使って負けるとは思ってもいなかった。
各量産機もそうだが、特にあの4機の性能は破格の物。
そしてあれだけの戦闘をしたにも関わらずパワーダウンの兆候もない。
あの機体は―――
「もしかしてあの機体、核エネルギーを使ってるのかもしれない」
「なんですと!?」
「確証はないけどね」
「その機体の方はよろしいので?」
もし本当に核エネルギーを使用しているのならば是が非でも手に入れる必要がある。
しかしアズラエルは余裕を崩すことなく笑みを浮かべた。
「ああ、それはこっちでどうにかするよ。あてがあるんだ」
「了解しました」
それにどうせ今は同盟軍攻撃には踏み切れない。
前回の戦闘で同盟軍の力を見た連中はみんな揃って及び腰である。
侵攻前の強気な態度は消え失せ、敵対する気がないなら放置すべきという意見が大半を占めていた。
これを動かすのは流石に面倒である。
しかも結果が伴わなかったオーブ侵攻を強行したのがアズラエル自身なだけに、今回もという訳にはいかなかったのだ。
「では同盟の方は?」
「今すぐにでも消えて貰いたいけど、それは後。まず先約があるだろう。そっちを終わらせなきゃ」
マスドライバーを見上げるとそれだけでサザーランドは意図を察したのだろう。
異論は挟まなかった。
アズラエルはシャトルに乗り込むと端末に映像を映す。
そこに映っていたのは偵察機に撮らせていたもの。
マスドライバーで白い機体と戦うザフトの3機のモビルスーツ。
その機体は徐々に損傷を受け最後には撤退していく。
だがアズラエルの興味はそんなところにはない。
重要なのはその3機もまた最後までパワーダウンの様子もなく戦っている事だ。
「つまりこのザフト機も同じ」
核エネルギーを使っている可能性があるのだ。
そしてザフトならいくらでも情報は手に入る。
すでにこの件はクロードに命じてあり、後は知らせが来るのを待つだけ。
こちらはただ準備を進めておけばよい。
アズラエルは機嫌良く、地球を見下ろしていた。
その時を楽しみにしながら。
スカンジナビアの軍事ステーション、『ヴァルハラ』のドックには2隻の艦が停泊していた。
1隻はアークエンジェルに似た白い戦艦。
そしてもう1つは一回り小さく鋭利な形のシンプルな形の戦艦。
スカンジナビア所属の戦艦『オーディン』と『ヘイムダル』である。
それをヴァルハラ内部から見上げていた女性に1人の青年が駆け寄ってくる。
「アルミラ中佐!」
「……ヨハン、今度は何の用だ?」
テレサ・アルミラ中佐は不機嫌そうにヨハン・レフティ少佐を睨んだ。
今ようやくオーディンの慣熟航行が終わったばかり、さらにヘイムダルに至ってはまだ調整段階の筈である。
「そんな不機嫌そうな顔しないで下さいよ、中佐。アイラ様から連絡が入ってます」
「……直接か?」
「え、ええ」
間違いなく、厄介な事だ。
彼女が直接言ってくるなんて間違いない。
「あの~中佐?」
「分かってる、今行く」
無視する訳にもいくまい。
テレサは憂鬱な気分で通信室に向かった。
そして彼女の予想通り、要件は厄介事であった。
マユ・アスカ、彼女は13歳にしました。
彼女はほとんどオリキャラになります。