機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第38話  暗闇で輝くもの

 

 

 

 メンデルの研究所内で接触したユリウスの話はキラに大きな絶望を与えるものだった。

 

 現に共に聞いていたムウ、カガリ、そして関わりのないアスランすらも絶句している。

 

 それだけ語られた話は衝撃的だったのだ。

 

 そして今またキラの友人アスト・サガミの秘密が告げられていた。

 

 「……アストが貴方と同じ?」

 

 「そうだ。奴は俺と同じくお前を殺すためにシアン・カグラ博士によって生み出された存在だ」

 

 

 

 

 シアン・カグラ博士。

 

 紛れもなく天才だった彼女はその才能ゆえに孤独であった。

 

 ただアル・ダ・フラガのように性格が歪んでいた訳ではなく、彼女は致命的に周りに興味がなかった。

 

 常に研究の事だけを考え、自分の知的好奇心を満たす事こそがすべて。

 

 そんな人物である。

 

 だが彼女とてすべてを無視していた訳ではない。

 

 研究の為にはやはり人との関係も無視できなかった。

 

 それゆえ外面だけの社交性を磨き、人とのつながりを持っていった。

 

 そんな中とある男からの依頼が舞い込む。

 

 依頼者はロイ・ダ・フラガ。

 

 彼の依頼はユーレン・ヒビキ博士の研究を調べ欠陥を見つけて欲しいというものだった。

 

 最初は興味も持たずに断るつもりだったが、話を聞く内にどのような研究なのか気になり、確かめる事にした。

 

 そしてあっという間に魅せられた。

 

 最高のコーディネイターを生み出す。

 

 これを自分の手でなし得れば―――

 

 彼女は依頼を受け、研究を開始した。

 

 しかし問題はロイである。

 

 依頼を受けたはいいが彼はこれらの研究を潰したがっている。

 

 だが彼女にとって幸運だったのはすでにロイは狂気に犯されていたという事。

 

 冷静な判断が出来ないロイに彼女は囁く。

 

 「この研究に欠陥はないわ」

 

 「そんな、ではどうやって―――」

 

 「今は問題ない。しかし本当に問題になるのは子供が誕生してからよ」

 

 「どういう事だ?」

 

 「もし生まれた子供が暴走し始めたらどうなるかしら? 誰にもどうにもできないでしょう。だから必要なのは彼の生み出す最高のコーディネイターを止める存在よ」

 

 これはシアンが研究を続ける為の方便であったが、同時に彼女自身の危惧から来ている言葉でもある。

 

 最高のコーディネイターは人の夢であり希望であるが、裏を返せば誰にも止められない危険な兵器になりかねない。

 

 ロイを説得し、シアンは研究を続け、そしてその成果である1人の子供が生まれた。

 

 ユリウスと名付けられた子供は予想を超えた素養を持っていた。

 

 これはロイとミラの遺伝子の優秀さもあったのだろう。

 

 それでも予想以上の結果だった。

 

 ロイはこの結果に満足し、ユリウスをカウンターとすることを決めた。

 

 しかしシアンは満足などしていない。

 

 何故ならばユリウスはロイのものだったからだ。

 

 シアンは自分だけのものが欲しかった。

 

 「ユリウスは素晴らしい。でもあれは私のものではない。私は私だけのものが欲しい。なら再び生み出せばいい!」

 

 そしてついにシアンは自分の遺伝子を用いて実験を開始した。

 

 だが足りないものもあった。

 

 それは男性の遺伝子。

 

 しかしそれももちろん考えてあった。

 

 シアンは研究に必要だからとロイにユーレンの実験で使われたデータ。

 

 そして世界中の遺伝子情報とサンプルを集めてさせ、その中で最も優秀な遺伝子を用いる事にしていた。

 

 どのような男かなど興味もなく、どうでも良かった。

 

 ただ優秀であれば良いのだ。

 

 結果、想定通りの子供が誕生した。

 

 「素晴らしいわ、貴方ならユーレンのコーディネイターだって殺せる!」

 

 自分だけのものだ、この子は。

 

 シアンは人生で一番の喜びに包まれていた。

 

 そして重要な事に気が付く。

 

 「そういえば名前がなかったわね……そうね、誰より先を行く者。いえ、誰より明日を行く人……明日人。あなたの名前はアスト、アスト・カグラよ」

 

 そうして最高のコーディネイターを殺す存在は産声を上げた。

 

 だがその後、彼女はブルーコスモスのテロであっさりと命を落としてしまう。

 

 生まれた子供は助手をしていた研究者の1人、サガミ博士が連れ出し自身の養子としたのだ。

 

 

 

 

 ユリウスが話終えたにも関わらず、キラは何も反応出来ない。

 

 それはカガリやムウも同じだ。

 

 ただアスランだけが苦々しい表情でキラを見ていた。

 

 「……今すぐにでも決着をつけたいところだが、腑抜けたお前には興味がない」

 

 ユリウスは踵を返すと部屋から出ていく。

 

 入口に立ち、振り返ることなく、冷たい声で呟いた。

 

 「キラ、お前を殺すのは戦場でだ。立ち上がって向ってこい……このまま折れるようなら殺す価値もない。腑抜けたまま、朽ち果てろ」

 

 それにキラは答えられない。

 

 アスランは声をかけようとするが、途中で思い留まった。

 

 今の俺はキラの敵であり、そんな自分がなにを言えばいいのか?

 

 傍にいたカガリの肩に手を置くと誰にも聞こえないように小声で囁いた。

 

 「……キラを頼む。それからお前も、その」

 

 こんな時、何も言えない自分が不甲斐無い。

 

 そんなアスランの姿に呆然としていたカガリも正気に戻ったようにこちらを見てくる。

 

 その目には涙が溜まっていたが、すぐに頷くと立ち上がりキラの下に歩いて行った。

 

 キラの事は彼女に任せようと自分に言い聞かせ、意識して振り返らないようにして後を追った。

 

 「アスラン」

 

 「え、あ、はい」

 

 「言いたい事はあるだろうがそれは後だ。私は一旦ヴェサリウスに戻る。ゲイツは損傷してしまったからな」

 

 「ではジュラメントでヴェサリウスまで護衛します」

 

 「頼む」

 

 外に出たアスランは今は何も言わずに機体に乗り込むとコロニーを脱出した。

 

 

 

 

 アスランが出て行った後、カガリはキラに駆け寄り肩を揺する。

 

 「おい、キラ、しっかりしろ!」

 

 「カ、カガリ」

 

 キラは焦点の合ってない目でこっちを見てくる。

 

 無理もない。

 

 ここで聞かされた事はあまりに衝撃的だった。

 

 正直カガリ自身もきついがそれでもキラに比べればマシな方だ。

 

 だから努めて明るく振舞う。

 

 「本当にしょうがない奴だな。それでも私の弟かよ」

 

 「弟って……」

 

 そこでキラも気がついた。

 

 カガリの声は震え、涙が零れそうになっている事に。

 

 「ありがとう、大丈夫だよ」

 

 「キラ」

 

 はっきり言って痩せ我慢ではあるが、落ち込んでいる暇はない。

 

 今も外では戦いが続いている筈だ。

 

 急いで皆の援護に向かわなくてはならない。

 

 「ムウさん、行きましょう」

 

 「あ、ああ」

 

 ムウもどこか上の空だ。

 

 彼にとっても聞かされた話はショックだったのだろう。

 

 本当にどうしてこうなったのだろうか?

 

 そんな考えても意味のない事が問答がキラの頭からいつまでも離れる事はなかった。

 

 

 

 

 暗い宇宙を舞うドラグーンからの射撃がイノセントを追い詰めていく。

 

 その姿を眺めながらラウは高らかに話し続ける。

 

 「皮肉なものだとは思わないかね? 君は本来キラ・ヤマト君を殺す存在として誕生したにも関わらず、友として時を過ごし、今では共に戦う戦友の間柄だ!」

 

 アストは操縦桿を絶え間なく動かし続け、放たれるビームを次々と回避していく。

 

 「だからこそ興味がある。彼が真実を知ったとき、どう絶望するのかね!」

 

 怒りを抑え、プロヴィデンスにビームライフルを撃ち込みながらラウに問い返した。

 

 「……それで貴方はなにがしたいんだよ? 復讐か?」

 

 「そうだな、私達にはあるのさ。人間を、人類を裁く権利が!」

 

 先程の話は聞いていた。

 

 ユリウスが自分と同じ存在という事も、目の前の男がクローンという事もだ。

 

 「……そうか」

 

 砲撃を掻い潜ったイノセントにヒュドラを撃ち込むが、それを紙一重で避けたアストにラウは高らかに告げた。

 

 「人類はどこにも行けずに滅ぶ! そして君たちもまた同じように消えて貰おう!」

 

 「―――けるな」

 

 ラウは再びドラグーンを放ち、その内の数機を接近させビームファングを展開、イノセントに突撃させた。

 

 離れた位置からのビーム攻撃とビームファングによる近接攻撃を同時に叩き込む。

 

 「これで終わりだ!」

 

 誘導したイノセントにビームが迫る。

 

 だが同時にアストが叫んだ。

 

 「ふざけるなぁぁ!!!!」

 

 アストのSEEDが弾けた。

 

 迫ってきたビームが機体に掠めるが最小限の動きで直撃を回避し、ビームファングをビームサーベルで斬り落とした。

 

 その驚異的ともいえる反応にラウは驚愕する。

 

 「あのタイミングでかわすだと!?」

 

 イノセントはスラスターを全開にして一気にプロヴィデンスとの距離を詰めた。

 

 「うおおおお!!」

 

 ビームサーベルを袈裟懸けに振るうがラウは複合防盾を掲げ、斬撃を防ぐ。

 

 しかしアストは動きを止める事無くプロヴィデンスに蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 「ぐっ!」

 

 「貴方が何がなんであれ、キラやみんなに危害を加えるというなら容赦なく倒すだけだ!」

 

 さらに追撃をかけようと接近するがラウはビームソードを展開、イノセントを斬り払った。

 

 その斬撃を後退して回避すると同時に再びドラグーンのビームが四方から襲いかかってくる。

 

 「ふん! そのみんなとやらが君の事を知ればどう思うかな? 誰もが君を羨み、妬む! そして必ず排斥される!! 必ずだ!!」

 

 「だからなんだ! 俺はそんな事はどうでもいい!! ただ大切なものを傷つけさせない、それだけだ!!」

 

 機体を回転させビームを回避すると背後のドラグーンを撃ち抜く。

 

 だがラウはビームライフルでイノセントの動きを牽制しビームソードを叩きつける。

 

 両者の戦いはすでに他が入り込む余地のない領域に達していた。

 

 

 

 

 

 敵モビルスーツからの砲撃を迎撃していたオーディンの艦橋でテレサは指示を飛ばしながら戦況を見る。

 

 「三時方向、主砲撃てぇー!!」

 

 ビーム砲が接近してきた敵モビルスーツを薙ぎ払う。

 

 しかし敵機を迎撃したのも束の間、別方向からミサイルが次々撃ち込まれ、バルカンシステムでミサイルを撃ち落とす。

 

 「不味いな」

 

 完全に劣勢である。

 

 アークエンジェルは敵の同型艦、クサナギも同様に地球軍艦を迎撃し、ジャスティス、アイテルは敵3機と交戦中だ。

 

 さらにフリーダムはコロニーの中で、イノセントはザフトの新型を抑えている。

 

 これを打開するには――

 

 そこにテレサが待ちに待った報告が入ってくる。

 

 《中佐、ヘイムダルの修復完了しました!》

 

 テレサは思わず笑みを浮かべた。

 

 ようやくこれで動き出せるとはいえ一刻の猶予もない。

 

 すぐに表情を引き締めると、ヨハンそしてマリュー、キサカに作戦を伝えた。

 

 「ヨハン、作戦を説明する、良く聞け! アークエンジェル、クサナギもだ!」

 

 テレサが作戦を伝えると同時にヨハンは動き出す。

 

 アークエンジェルもクサナギも同様だ。

 

 それでもタイミング的にはギリギリ。

 

 これ以上戦いが長引けばこちらが持たない。

 

 「急げよ、ヨハン」

 

 砲撃による振動を噛み殺しながら、テレサはモニターを注視していた。

 

 

 

 

 

 そしてコロニーから出撃し、動き出したヘイムダルの事はドミニオンでも掴んでいた。

 

 「動き出した?」

 

 「はい、レーダーで確認しました」

 

 セーファスは顎に手を当て考える。

 

 同盟軍は完全に劣勢。

 

 いくら彼らが強くともザフト、地球軍に挟まれた状況ではどうにもならないはず。

 

 とはいえセーファスとしては無駄な戦闘はせず、もう撤退したいところだ。

 

 任務を達成したクロードは帰還しているため、作戦はすでに完了している。

 

 しかし横を見るとアズラエルが憤怒の表情で目の前のアークエンジェルを睨みつけている。

 

 よほどレイダーが落とされたのが気に入らなかったらしい。

 

 ちなみにカラミティは損傷酷く戦場には出られず、残り2機は補給中だ。

 

 どの道今のアズラエルの様子からして撤退を進言しても無駄であろう。

 

 「……敵艦の位置は常に把握しておけ」

 

 「了解!」

 

 「バリアント、撃てぇー!」

 

 ナタルの叫びに合わせリニアガンが発射され、それがアークエンジェルに降り注ぐ。

 

 「回避!」

 

 マリューの掛け声にノイマンが回避運動を取る。

 

 「流石、バジルール中尉ですね」

 

 「ええ、本当に」

 

 アークエンジェルとドミニオンの戦況はほぼ互角。

 

 それはお互いの事を熟知していた事が大きな要因だろう。

 

 特にナタルとフレイは師弟関係のようなものだ。

 

 どう出てくるかお互いに良く分かっていた。

 

 「左から敵モビルスーツ4!」

 

 「デュエルに迎撃させて!」

 

 トールは向かって来たストライクダガーにシヴァを撃ち込んで撃破すると、残った敵にビームサーベルを突き刺し斬り捨てる。

 

 さらに襲いかかってくるストライクダガーにビームガンを撃ち込んで動きを止め、ブルートガングを一閃し撃破した。

 

 「ハァ、ハァ、数が多すぎる!!」

 

 するとそこでドミニオンに動きがあった。

 

 ハッチが開き2機のガンダムが出撃してくる。

 

 ゼニスとフォビドゥンである。

 

 「あれが出てきたら俺だけじゃ……でも、あの機体にエフィムが乗ってるんだよな。なら説得しないと」

 

 それにアークエンジェルを守るためにも退く訳にはいかない!

 

 トールはストライクダガーをビームライフルで撃ち抜くと二機を迎撃する為に前へ出た。

 

 「なに、あれ」

 

 「コーディ、ネイターは、殺す」

 

 シャニは向ってくるアドヴァンスデュエルを視認すると残酷な笑みを浮かべた。

 

 獲物が自分から寄ってきてくれた。

 

 クロトの間抜けは死んだし、オルガは出られない。

 

 その分は自分が殺せるのである。嬉しくない筈がない。

 

 そして傍にいたエフィムも動き出す。

 

 彼は敵の事だけを考えていた。

 

 他の事など知らない。

 

 ただ敵を殺すだけである。

 

 アドヴァンスデュエルにシャニはフレスベルグを放つと、ニーズヘグを構えて突っ込んだ。

 

 「落ちろよォォ!!」

 

 「くっ」

 

 フレスベルグを機体を上昇させてギリギリ回避するが、振るわれたニーズヘグはかわしきれず片方のシヴァを斬り裂かれてしまう。

 

 「シヴァが!?」

 

 「ハッ!! 遅いよ!」

 

 トールはビームライフルを撃ち込んで距離を取ろうとするが、ゲシュマイディッヒ・パンツァーで曲げられてしまう。

 

 「ビームが曲がった!?……あれがキラ達が言ってたやつか」

 

 接近してくるフォビドゥンにミサイルを叩き込む。

 

 しかし今度は横からゼニスがネイリングを袈裟懸けに振るってくる。

 

 「エフィム、やめろ!  俺だトールだ!!」

 

 「うおおおお!! 死ねぇぇ!!」

 

 こちらの事など認識していないのか言葉も無視して、斬撃を繰り出してくる。

 

 「俺が分からないのかよ、エフィム!!」

 

 シールドを掲げ、ゼニスの斬撃を逸らしフォビドゥンの攻撃にも警戒する。

 

 はっきり言って反撃する暇がない。

 

 相手の技量が高く攻勢にでる事が出来ないのだ。

 

 しかもトールが離れた隙にアークエンジェルにストライクダガーが攻撃を仕掛けている。

 

 このままじゃ―――

 

 「手が回らない。イザーク、何やってんだ! 援護に来てくれ!」

 

 アークエンジェルに猛攻が加えられていた時、イザークは再会した仲間と話をしていた。

 

 これまでにあった事、自身の犯した罪の事を―――

 

 「……だから同盟軍に入ったのか」

 

 「……そうだ」

 

 やるせなさに全員が唇を噛む。

 

 気持ちは分かる。

 

 特にエリアスはパナマなど直接見ている為、余計にだ。

 

 「……俺は色々なものを見て、そして知った。今まで通り何も考えずザフトの命令に従って戦う事はもうできん」

 

 「カールを殺した連中なんですよ、イザーク先輩!」

 

 エリアスの叫びにもイザークは落ち着いて答えた。

 

 「お互い様だ……それにアークエンジェルにいる連中は―――イレイズ、ストライクのパイロットは軍人じゃない。民間人だ」

 

 「なっ!?」

 

 「民間人だって!?」

 

 「……そうだ、彼らは俺達が壊したヘリオポリスの民間人だったんだ。俺達が彼らの運命を狂わせたんだ。それだけじゃないイレイズのパイロットはカールが言っていたスカンジナビアのコーディネイターだよ」

 

 今度こそ言葉を無くしてしまう。

 

 それこそかつてイザークがそうだったように。

 

 「少なくとも俺達には奴らを責める権利はない」

 

 誰もが何も言えなくなった時、スウェアに通信が入る。

 

 《手が回らない。イザーク、何やってんだ! 援護に来てくれ!》

 

 「トールか? 今行く!」」

 

 イザークはアークエンジェルに機体を向けた。

 

 「イザーク!」

 

 「……できればお前達とは戦いたくないがな」

 

 それだけ言うとスウェアは反転し奮戦しているアドヴァンスデュエルの援護に向かった。

 

 残されたディアッカ達は追いかける事も攻撃する事もできなかった。

 

 「くそ!」

 

 「イザーク……」

 

 何が正しくて、何が間違っているのか。

 

 かつて自身に生まれた疑問がエリアスの中に渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 防戦一方のトールはゼニスのビーム砲を何とか回避すると残ったシヴァで2機を牽制する。

 

 「エフィム!」

 

 「おおおおお!!」

 

 ゼニスが繰り出したネイリングの一撃を受け止め、トールは声を張り上げる。

 

 こちらの事が分からないのか?

 

 ネイリングを突き飛ばし、距離を取って何とか粘っているが限界は近い。

 

 そこに後ろから回り込んだフォビドゥンのニーズヘグがアドヴァンスデュエルに迫る。

 

 「終わりだぁ!」

 

 だがそこにタスラム散弾砲がフォビドゥンに振り注いだ。

 

 実体弾はゲシュマイディッヒ・パンツァーでは曲げらず、TP装甲でも衝撃は殺せずに吹き飛ばされてしまう。

 

 「くッ!? 誰だよ、俺の邪魔すんのは!!」

 

 シャニの先にいたのはイザークの乗るスウェアだった。

 

 背中のタスラムを構えてフォビドゥンを牽制している。

 

 「トール、無事か!」

 

 「助かった、イザーク」

 

 スウェアはアドヴァンスデュエルの横につくとビームサーベルを構える。

 

 「これ以上好きにはさせん!!」

 

 イザークは目の前にいるフォビドゥンに斬り込んだ。

 

 

 

 

 そしてコロニー付近でコンビクトと激しい戦闘を繰り広げていたマユはシリルの高い技量によって徐々に追い詰められていた。

 

 「やっぱり強い!」

 

 「粘るじゃないか!」

 

 コンビクトはビームライフルの攻撃を加速して振り切ると一気に接近しビームサーベルを振り抜いた。

 

 どうにかシールドを掲げ何とか防ぐ事に成功するが、コンビクトが放った速度の乗っている斬撃は強烈でターニングを後ろに吹き飛ばす。

 

 「くぅ!」

 

 「……なるほどな」

 

 シリルは相手の技量を冷静に看破した。

 

 素質もあるし、それなりに訓練も積んでいる。

 

 だが圧倒的に実戦経験が足りない。

 

 「まだまだ!」

 

 ターニングはスラスターで体勢を立て直し、コンビクトに再びビームライフルを連射する。

 

 「無駄な事を!」

 

 再びビームをかわし、斬り込んでいく。

 

 「これで終わりだ!!」

 

 しかし、今度はシリルの思惑通りにはならなかった。

 

 「ここです!!」

 

 マユはコンビクトのサーベルを逸らし、至近距離で腕のグレネードランチャーを撃ち込んだ。

 

 「なにぃ!?」

 

 衝撃と予想外の反撃にシリルは驚愕する。

 

 「この短期間にこちらの動きに合わせてきただと!?」

 

 吹き飛ばされたコンビクトにマユはビームサーベルで斬りつけた。

 

 迫るビームサーベルを機体を逸らしかわそうとするが、間に合わずビームランチャーをマウントしていた右肩を斬り裂かれてしまう。

 

 再びシリルは驚愕するが、すぐターニングをシールドで突き放し距離を取った。

 

 背筋に冷たい汗が流れる。

 

 油断していたとはいえ、自分に傷を付けるとは―――

 

 「……危険だ、お前は」

 

 このパイロットが成長していけば必ずザフトにとって大きな脅威になる。

 

 今ならまだ技量はこちらが上だ。

 

 危険な芽は早めに摘まねばなるまい。

 

 「……お前には消えてもらうぞ!」

 

 シリルのSEEDが弾けた。

 

 バーニアを全開にして突っ込んでいく。

 

 「さらに加速した!?」

 

 マユはコンビクトのビームサーベルを受けるような事はせずに、上昇して回避する。

 

 「甘い!!」

 

 しかしそんな動きなど見切っていたとばかりにビームライフルを撃ち込み、再び距離を詰めてくる。

 

 懐に飛び込まれ繰り出される斬撃をシールドで受け止めていくが、あまりの勢いに後退させられてしまう。

 

 「これって、まさかアストさん達が言っていた『SEED』?」

 

 マユも訓練で何度か体験した事がある。

 

 『SEED』を発動させたアストやキラの強さは別次元ともいえるもので、最初に手合わせした時など何もできないまま撃墜されてしまったほどだ。

 

 勢い良く迫りビームサーベルを繰り出してくるコンビクトに翻弄され、防戦一方になってしまう。

 

 次々に繰り出される斬撃を捌き、反撃を試みるがあっさり回避され当たらない。

 

 「このままじゃ!」

 

 焦るマユに振り下されたビームサーベルを受け止めるが、敵はバーニアを吹かしそのまま押しこんでくる。

 

 「ザフトの未来の為、危険なお前には落ちてもらうぞ!」

 

 その時、追い詰められたマユを救うように別方向からのビームがコンビクトに襲いかかる。

 

 「くっ、これは!」

 

 シリルは機体を後退させビームが放たれた方向を見ると蒼い翼を広げたフリーダムがこちらに向かってビームライフルを構えていた。

 

 「『白い戦神』か!? このタイミングで戻ってくるとはな!!」

 

 「キラさん!!」

 

 その後ろからムウのストライクが続き、カガリのストライクルージュが損傷したアストレイを抱えている。

 

 「ムウさん達はアークエンジェルに」

 

 「ああ、ここは頼む」

 

 2機がそのままアークエンジェルに向かうのを確認するとターニングの傍に移動する。

 

 「……良かった。まだ無事だね、マユ」

 

 「はい、えっとキラさん?」

 

 「ん?」

 

 「大丈夫ですか、なんだか……」

 

 キラの声はどこかおかしい。

 

 なんというか覇気がないといえばいいのか。

 

 「うん、僕は大丈夫。それより下がって、マユ。すぐ終わらせるから」

 

 キラはSEEDは発動させ、コンビクトに斬り込んだ。

 

 「『白い戦神』、今度こそ決着をつける!」

 

 シリルもフリーダムを迎え撃ち、互いに斬撃が同時に弾け合う。

 

 しかし今度の戦いは長引く事はなかった。

 

 振るわれたビームサーベルの斬撃を無視し、懐に飛び込みコンビクトの左足を斬り落す。

 

 しかし同時にフリーダムの装甲も斬り裂かれるが気にした様子もなく、再び突進する。

 

 「なんだこの動きは!?」

 

 明らかに先程までの奴ではない。

 

 目の前にいるフリーダムの動きはどこか自棄になっているというか。

 

 自身の損害を考えていない、そんな無茶苦茶な動きである。

 

 それが結果的にシリルの虚を突く事になり、損傷を受けてしまった。

 

 「何を考えている?」

 

 絶えず繰り出される斬撃を捌きながらシリルは機体状態を確認する。

 

 左足の切断と右肩の損傷。通常の戦闘ならともかく相手が『白い戦神』では命取りになりかねない。

 

 ましてや今のような損害を気にしない無謀な戦いぶりではなおの事。

 

 「出来ればあの可変型のパイロットだけでも仕留めたかったが、仕方がないな」

 

 2機が交差した瞬間、シリルはすれ違い様に振り向くと逆袈裟にビームサーベルを叩きつけ、キラも振るわれたサーベルの攻撃に構う事無く斬り返す。

 

 シリルは敵のサーベルを潜り抜け、腰のレール砲を斬り裂き、態勢を崩したフリーダムをシールドで突き飛ばすと距離を取る。

 

 「口惜しいが今は退かせてもらう」

 

 そのままビームライフルで牽制しながら撤退していった。

 

 退いていったコンビクトを確認したマユは安堵の息を吐く。

 

 「ふう、あのパイロット、強かった」

 

 あれがエース級の実力を持ったパイロットとの戦い―――正直、生きた心地がしなかった。

 

 しかし、やはりキラはおかしい。

 

 普段ならあんな無茶な動きは絶対にしない筈だ。

 

 「キラさん、損傷は? それにやっぱり何かあったんですか?  その、動きがおかしいです」

 

 「……大丈夫だよ。それよりみんなの援護に行こう」

 

 キラはマユに力無く微笑むと、そのまま先行してしまう。

 

 「キラさん!」

 

 やっぱりおかしい。

 

 早く追わないと、あのままでは危険だ。

 

 ターニングを変形させ飛行形態になると、フリーダムを追いかけた。

 

 

 

 

 

 同盟各艦共に奮戦してはいたが、物量の差によって徐々に追い詰められている。

 

 それは攻撃に加わり、エターナルのブリッジで戦況を確認していたバルトフェルドにも分かった。

 

 コロニー内に待機していた艦はこの混戦でレーダーでしか確認できないが、デブリに阻まれているらしく足止めされている。

 

 これでは全滅するのも時間の問題だろう。

 

 「これでアークエンジェルも終わりですか」

 

 「そうね」

 

 ダコスタとアイシャが冷静に呟く。

 

 確かに2人の言う通り、このままではそう長くは持つまい。

 

 しかしバルトフェルドはどこか落ち着かなかった。

 

 あの艦、アークエンジェルはどんな状況からでも生還してきた。

 

 ならば今回も、と思ってしまうのは考え過ぎだろうか。

 

 「なんか嫌な感じだねぇ」

 

 それは戦場で培ってきた長年の勘である。

 

 「隊長はまだ彼らが何かしてくると?」

 

 「そうだね。このままで終わるようなら、僕らは砂漠で負けてないよ」

 

 そのバルトフェルドの勘は当たる事になる。

 

 同盟軍の3艦が密集しヴェサリウスの方に突進して来たのだ。

 

 しかも各モビルスーツもそれに合わせ、動き出している。

 

 「なっ、あれじゃ集中砲火にさらされるだけなのに……」

 

 「そうね、何をする気なのかしら」

 

 ともかく動き出した敵を警戒しなければならないだろう。

 

 バルトフェルドは鋭い視線でこちらに向かってくる敵艦を見つめた。

 

 

 

 

 

 動き出した同盟軍の戦艦はザフト艦に突っ込んでいくその姿を確認したラクスとレティシアは通達されていた作戦に合わせ、戦艦に向かい動き出す。

 

 しかしそれを許す特務隊ではない。

 

 「どこに行くつもりだ、レティシアァァ!!」

 

 上段から振り下ろしたビームクロウをアイテル目掛けて叩きつける。

 

 「貴方に何時までも付き合っていられません。ラクス!!」

 

 シールドで光爪を弾き返し同時に上昇すると、その瞬間ジャスティスのファトゥムーOOが正面から突っ込んで来た。

 

 「何だと!?」

 

 視界を塞がれたマルクは一瞬動きが止めてしまう。

 

 「これで!」

 

 そこを見計らってシオンのシグルドを突き放したジャスティスがハルバード状態のビームサーベルを上段から勢い良く振り下ろし、回避行動を取ったシグルドの右腕を斬り落とした。

 

 「この!!  やってくれるじゃねぇかぁぁぁ!!」

 

 こんな世間知らずの歌姫様にやられるなど屈辱でしかない。

 

 ヒュドラをジャスティスに叩き込むがラクスは回避と同時にビームブーメランを投擲し、迫ってくるシグルドをシールドごと弾き飛ばした。

 

 マルクの援護しようとするクリスをレティシアはビーム砲で牽制し、クラレントを振るってくるシオンにグラムで斬り結ぶ。

 

 「ここで死ね、レティシア!!」

 

 「何時までも貴方達に付き合っている暇はないんですよ!」

 

 そこに後ろから回り込んだジャスティスが機関砲で斬り結ぶシグルドの態勢を崩し、さらに蹴りを叩きこんで距離を離す。

 

 「ラクス・クライン、貴様!!」

 

 「レティシア、今です!」

 

 「ええ、退きましょう」

 

 シグルドにビーム砲を放ちながらラクスとレティシアは反転し、母艦を追った。

 

 「くそがぁぁ!!」

 

 「落ち着け、マルク。クリス足を止めろ!」

 

 「了解です」

 

 クリスはスナイパーライフルで2機を狙撃しようと狙いを定めるが、側面から強力なビームが迫ってくる。

 

 「今度はなんだ!?」

 

 そこにはアークエンジェルに移動しながらアグニで攻撃してくるアドヴァンスストライクの姿があった。

 

 「ま、これぐらいはやらなきゃな」

 

 ムウも精神的に参ってはいるが、今は戦闘中である。

 

 その切り替えの早さは長年の経験故だろう。

 

 3機のシグルドを牽制しながらムウも後退する。

 

 「おのれ! すぐ追撃するぞ! マルク、いけるな?」

 

 「当たり前だ! レティシアの前にあの姫様だ! 捕まえて女に生まれた事を後悔させてやる!」

 

 「行きましょう―――ッ!?」

 

 追撃しようとした3機に今度は地球軍のストライクダガーが攻撃を仕掛けてくる。

 

 「地球軍だと!」

 

 「邪魔だ!!」

 

 シオンはビームライフルの攻撃をかわしながら敵機をクラレントで両断し、マルク、クリス共にヒュドラで接近してきた敵を薙ぎ払う。

 

 「どけ、雑魚共!!」

 

 「数だけは多いな!」

 

 「ナチュラルのおもちゃが!」

 

 予期せぬ邪魔者に苛立つ3人は気がついていなかった。

 

 離れていたはずの地球軍がすぐそこまで接近している事に。

 

 

 

 

 

 

 アストとラウの激しい攻防は未だ終わる気配すらなく続いていた。

 

 プロヴィデンスの放った斬撃をイノセントは回避し、後ろに迫るドラグーンをワイバーンで斬り飛ばす。

 

 「あの砲台、いくつあるんだよ!」

 

 再び接近しビームサーベルで斬り込むが、迫ってきたビームファングがそれを阻む。

 

 それを機関砲で迎撃し、側面からのビームをかわしたが、別方向からの攻撃で左足を撃ち抜かれてしまう。

 

 「ぐっ!」

 

 「流石だよ。ここまでやるとは―――」

 

 これは偽りのない本音である。

 

 ここまでドラグーンを撃ち落とし、回避し続けるとは、驚異としか言いようがない。

 

 「しかし、これまでだ! アスト・サガミ君」

 

 「まだだぁ!!」

 

 アストは操縦桿を動かし、ビームを回避していく。

 

 もっとだ!

 

 もっと速く!

 

 迫るビームをサーベルで斬り払い、ワイバーンで防いでいく。

 

 「チィ、厄介な奴だよ。君は」

 

 ビームライフルを構えイノセントに狙いをつけたところでラウはムウがアークエンジェルに近づいている事を感じ取る。

 

 「ムウだけではない、レティシア・ルティエンス達もか」

 

 敵艦の位置を確認する。

 

 おそらくこの状況を覆す為に何かするつもりだろう。

 

 ヒュドラでイノセントを狙おうとした瞬間、ラウの直感が脅威を感じとった。

 

 「何!?」

 

 咄嗟に機体を後退させると次の瞬間、今までいた空間をビームが薙ぎ払った。

 

 「フリーダム!」

 

 視線の先にはバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲を構えて突っ込んでくるフリーダムの姿があった。

 

 その後ろからは変形したターニングが追ってくる。

 

 「キラ、マユ!?」

 

 「アストさん!!」

 

 「……アスト、後退して。撤退だ」

 

 作戦は分かっているが、この男はここで倒しておかなければならない。

 

 だがアークエンジェルを含めた3隻の艦はすでに動き始めている。

 

 自分の身勝手で作戦を無駄にする訳にはいかない。

 

 「……了解。後退するぞ」

 

 ドラグーンを撃ち落としキラ達と合流しようとした時、再びラウが笑い出した。

 

 「フフフ、アハハハ、そうか。君がフリーダムのパイロットか、キラ・ヤマト君」

 

 「貴方は……」

 

 「私はラウ・ル・クルーゼ。ぜひ君にも会いたかったのだよ、キラ君」

 

 その名前を聞いたとたん、再びユリウスの話が脳裏をよぎった。

 

 「……ラウ・ル・クルーゼ」

 

 この人も―――

 

 必死に考えまいとしていた事が思い出され、キラは動きを止めてしまった。

 

 「キラ!?」

 

 致命的な隙。

 

 それを見逃すほどラウは甘くない。

 

 ニヤリと笑みを浮かべると操作したドラグーンでフリーダムを背後から撃ち抜いた。

 

 「ぐっううう!!」

 

 フリーダムの翼が破壊され、さらに右足も撃ち抜かれてしまう。

 

 「キラさん!!」

 

 マユはフリーダムを庇うように前へ出る。

 

 しかし巧みに操られたドラグーンによりフリーダムから引き離されてしまう。

 

 「何、これ!?」

 

 「君に用はない。さて、キラ君、アスト君共々消えてもらおう」

 

 ターニングを排斥したプロヴィデンスはビームライフルで止めを刺そうと狙いをつけた。

 

 「マユ、下がれ! お前じゃ無理だ!!」

 

 「でも、キラさんが!」

 

 「くっ、キラ!!」

 

 放たれたビームがフリーダムを撃ち抜こうとするが、イノセントが割って入りシールドで防御する。

 

 「キラ、しっかりしろ!!」

 

 しかし、キラは答えず、フリーダムも動かない。

 

 「どうしたんだ!?」

 

 今のキラは明らかにおかしい。

 

 「私の名前を聞いただけでその反応……なるほど。君も知ったか、真実を」

 

 「なっ!?」

 

 先程ラウから聞かされた事実を知ってしまったとするなら、戦闘どころではない筈。

 

 すぐにキラの状態を看過したアストは即座にマユに指示を飛ばす。

 

 「マユ、キラを連れて後退しろ!」

 

 「アストさんは……」

 

 「俺もすぐ行く!」

 

 「……分かりました」

 

 シールドでドラグーンを防ぎ、フリーダムを掴むとすぐ後退するが、逃がさないとばかりにラウは追撃を開始する。

 

 「逃がすと思うかね!」

 

 「やらせるかァァ!!」

 

 ドラグーンをビームライフルで撃ち抜くと同時にプロヴィデンスに突撃する。

 

 「まずは君から仕留める必要があるようだね!」

 

 ラウは砲塔をコントロールしながら、イノセントの突撃を防ごうと四方からビームを叩き込む。

 

 「うおおおおおおお!!!」

 

 迫る無数ビームをかわしていくが数発機体を掠め、そしてついに左のアクイラ・ビームキャノンが破壊されるが、それでもイノセントは止まらない。

 

 「チィ」

 

 ラウはビームソードを展開し、イノセントを斬り払おうと横薙ぎに振るった。

 

 アストはその攻撃を掻い潜りビームサーベルを袈裟懸けに叩きつけ、プロヴィデンスの右腕を斬り落す。

 

 さらにすれ違いざまにワイバーンを展開し、胸部の装甲を抉り飛ばした。

 

 「ぐっ、本当に厄介な存在だな!」

 

 予想以上に機体が損傷を受けてしまった。

 

 「ここで無理する必要はないか……」

 

 ドラグーンをイノセント囲むように展開し、その間に撤退を選択する。

 

 「逃げる気か!」

 

 「今日はここまでだ、アスト・サガミ君。決着はまたいずれ」

 

 「待て!」

 

 プロヴィデンスが後退すると同時にドラグーンも退いていく。

 

 それを見たアストは一瞬だけ、ラウが退いた方向を睨みつけると機体を反転させた。

 

 

 

 

 ザフト艦に突撃した3隻の艦は誰もが予想した通りに集中砲火を浴びている。

 

 「足つきは何を考えているんだ?」

 

 ユリウスを送り届けたアスランは戦線に復帰していた。

 

 目の前には因縁の戦艦。

 

 この艦もまた自分の目の前に立ちはだかり続けた壁である。

 

 それを突き崩さんとアークエンジェルにプラズマ収束ビーム砲を構えた。

 

 「ここで終わらせるぞ、足つき!」

 

 しかし側面からジュラメントに向けて、数発のビームが降り注いでくる。

 

 咄嗟に退避行動を取り、攻撃がきた方向に収束ビーム砲を向けるとビームライフルを構えた紅い機体が向って来るのが見えた。

 

 「ジャスティスか!」

 

 アスランはジャスティスが叩きつけてきたハルバード状態のビームサーベルをシールドで受け、蹴りを入れて突き放し同時にビームライフルで攻撃を仕掛ける。

 

 「アークエンジェルはやらせません!」

 

 ライフルの射撃をシールドで受け止めながら、再び斬り込んでくる。

 

 「まさか、ラクス!?」

 

 予想外の声に驚愕する。

 

 まさか彼女までモビルスーツに乗っているなど。

 

 「……アスラン、お久ぶりです」

 

 「君まで……」

 

 自身の旧知の者が再びアスランの前に立ちふさがる。

 

 彼女まで俺の敵に―――

 

 さらに後ろからはレティシアの機体アイテルがビーム砲を撃ち込んでくる。

 

 「ドレッドノート、レティシアさん!」

 

 再び迷いが生じるが、これは連れ帰るチャンスであるとそう思い直しビームライフルを向けながら彼女達に話かけた。

 

 「レティシアさん、ラクス、俺と一緒に来てくれ!」

 

 「その答えは前に言った筈ですよ、アスラン!」

 

 振りかぶられたグラムを防ぎながら諦める事無く、アスランは叫んだ。

 

 「レティシアさん!!」

 

 「何度も言いました。私は貴方と行く気はないですよ!」

 

 アスランの叫びも虚しく、レティシアは応じない。

 

 そこにラクスがビーム砲を放ってくる。

 

 「ラクス、君も!」

 

 「アスラン、貴方こそこのままで良いのですか?」

 

 「君に言われなくとも分かっている、俺だって!」

 

 砲火に晒されながらも2人を相手にアスランは叫び続けた。

 

 そしてアークエンジェルにナスカ級の攻撃が掠めるたびに凄まじい震動が艦内に伝わる。

 

 「艦長、これでは」

 

 「もう少しよ。持たせて!」

 

 そして後ろから追ってきた数隻の地球軍の艦にドミニオンの射程に入ろうとした時、テレサが叫ぶ。

 

 「ヨハン!!」

 

 「了解!!」

 

 その瞬間、突然ナスカ級の上方に戦艦ヘイムダルが出現する。

 

 そして3隻の前に立ちふさがっていたナスカ級に対し主砲を発射した。

 

 「狙うは中央のナスカ級、ただし撃沈しないように!」

 

 放たれたビームがヴェサリウスの右舷を直撃。

 

 それによって艦は傾き、戦列を維持できずにザフトの囲いが崩れた。

 

 「上から砲撃だと!? ミラージュ・コロイド―――くそ、ヴェサリウスが!」

 

 アスランはヴェサリウスを攻撃した艦を睨みつけ、憤りを叩きつけるようにプラズマ収束ビーム砲を放出する。

 

 しかし敵艦に直撃する前にジャスティスが射線上に入りシールドで防御した。

 

 「ラクス、君は!」

 

 「やらせません!」

 

 ジャスティスと向き合うアスランに別方向からビームが浴びせられる。

 

 「チッ、あ、あれは―――」

 

 ビームが放たれた方向から来たのはフリーダムを抱えたターニングだった。

 

 しかし驚くべきはそこではない。

 

 あのフリーダムが大きく損傷しているのだ。

 

 「キラ!?」

 

 キラほどの技量を持ったパイロットをあそこまで追い込むなんて―――

 

 そこまで考えて自分の考え違いに思い至った。

 

 あの話を聞いた後では、まともな者ならば普通ではいられない。

 

 戦闘など行える筈もなく、そこを突かれたのかもしれない。

 

 表情を歪めるアスランを尻目にさらに後方から最も忌むべき機体も駆けつけてきた。

 

 「イノセント!!」

 

 良く見れば所々奴の機体も損傷を受けているのが見てとれる。

 

 イノセントを倒す絶好の機会だった。

 

 「今ならば!!」

 

 フットペダルを踏み込みスラスターを全開にすると躊躇う事無くイノセントに向かって斬り込んでいく。

 

 「アスト・サガミ!!」

 

 「……アスラン・ザラか」

 

 振り下ろされたビームソードをナーゲルリングで受け止め、激しい光を迸らせながら鍔迫り合う。

 

 「今日こそお前を―――」

 

 「……うるさい。今の俺は機嫌が悪い。失せろ」

 

 「ふざけるな!!」

 

 アストはナーゲルリングを押し込み外側に向けビームソードを弾き飛ばすと、ジュラメントを殴りつけて吹き飛ばした。

 

 「ぐぅ!」 

 

 「……お前に構ってる暇はない」

 

 そのままビームサーベルを一閃し、ビームライフルを破壊して距離を取った。

 

 「貴様ァァ!」

 

 その物言いは改めて差を見せつけられたようでアスランの神経を逆なでする。

 

 退く気はないとばかりにイノセントを追撃しようとした時、今度はアイテルがビーム砲を浴びせてくる。

 

 「くっ、レティシアさん!?」

 

 「アスト君、大丈夫ですか!?」

 

 「ええ、このまま退きます」

 

 イノセントを庇うように退くアイテルにアスランは力一杯叫んだ。

 

 「待ってくれ、レティシアさん!!」

 

 しかし彼女からの返答はなく、そのまま2機はアークエンジェルに帰還した。

 

 「各艦、モビルスーツを回収後、機関最大!! 現宙域を離脱!!」

 

 ヘイムダルが残りのナスカ級とエターナルを牽制し、その間に各艦がすり抜けていく。

 

 「良し、我々も離脱する!!」

 

 「「了解!!」」

 

 全艦がある程度距離を稼いだ所を見計らい、ヨハンの指示を受けたヘイムダルも離脱した。

 

 

 

 「やられたな」

 

 ドミニオンのブリッジでセーファスは驚嘆していた。

 

 「ええ、まさかあの状況から逆転してくるとは。おそらく優れた指揮官がついているのでしょう」

 

 CICからナタルも称賛の言葉を送った。

 

 同盟はコロニー内に待機していた艦をデブリに紛れさせ、ミラージュ・コロイドを展開し姿を隠す。

 

 その間これだけの混戦状態であれば、デコイを使えば十分誤魔化せるだろう。

 

 そして残った3隻の艦が敵を引きつけている間に姿を隠した敵艦がナスカ級の近くにつき、準備が完了したら地球軍の艦を引きつけつつ、姿を隠した艦で奇襲をしかけナスカ級を突破。

 

 そうすれば地球軍とザフトが正面から向かい合う形となりこちらを追う事は出来ない。

 

 現に今も同盟軍を追うどころか、ザフトとの交戦状態に入っていた。

 

 目の前に敵がいるのだ、背を向ける事が出来るはずもない。

 

 「見事だ」

 

 セーファスはいけないと思いつつも笑みを浮かべると、指示を飛ばし始めた。

 

 

 

 

 ストライクダガーを撃ち落としながらアスランは遠ざかるアークエンジェルを見つめる。

 

 「レティシア、ラクス」

 

 結局2人の説得は上手くいかなかった。

 

 彼女達の事を諦めた訳ではないが脳裏には別の事が浮かんでいる。

 

 キラ、アストの秘密―――それを知って混乱していたのはアスランも一緒であった。

 

 「……いや、余計な事は後だ。戦闘に集中しなければ」

 

 考えるのをやめるとジュラメントを駆り、敵の迎撃に集中し始めた。

 

 

 

 

 

 後にこのL4で起きた大規模戦闘は『L4会戦』と呼ばれる事になる。

 

 

 

 

 

 結局地球軍との戦闘もヴェサリウスの損傷もあり、敵を迎撃しながら後退する事となった。

 

 隊長室でユリウスの報告を聞いたラウは愉快そうに笑う。

 

 「そうか、やはりキラ・ヤマトは真実を知ったか」

 

 「はい」

 

 そしてムウもまた同じく真実を知ったらしい。

 

 その時の絶望の表情を見れなかったのは実に残念ではある。

 

 ラウやユリウスにとって彼らは憎しみの対象である。

 

 何も知らず、のうのうと生きてきた彼らを決して許す事はない。

 

 

 

 ロイ・ダ・フラガはユリウスを生みだしてすぐにアル・ダ・フラガによって謀殺された。

 

 理由はクローンを含む子供たちをアルから引き離そうとしたためだ。

 

 ロイを憎んでいたアルは何一つ躊躇う事無く彼を始末した。

 

 その過程でユリウスもまたアルの下に行く事となる。

 

 ロイが死にクローン達に待っていたのは臨床試験という名の人体実験。

 

 ラウやユリウスが物心ついたころにあったのは地獄だった。

 

 毎日が人体実験の日々。

 

 ロイというブレーキがなくなった事でアルの狂気は加速した。

 

 クローン達は次々に死に、そこには絶望しかない。

 

 特に憎悪していたロイの遺産ユリウスには苛烈な実験が繰り返された。

 

 まさに地獄であった。

 

 しかしそんな彼らにある時、救いの手が差し伸べられた。

 

 ロイの意思を受けミラがアリアと共にラウ達を救出してくれたのだ。

 

 それからは今までとは違う穏やかな時だった。

 

 その中でアリアは彼らに様々な事を教え、与えてくれた。

 

 ラウやユリウスにとってアリアはまさに光であり、希望であった。

 

 特に彼女は人間の可能性を説いていた。

 

 絶望しかなかった彼らに希望を与えたかったかもしれない。

 

 「人は様々な可能性を持っているの。もちろん貴方達にもあるわ。きっと今より人はもっと先までいける。だから信じてラウ、ユリウス。他でもない貴方達自身を」

 

 ラウもそれを信じようと思った。

 

 ユリウスにとってそれは希望になった。

 

 しかしそんな安易な希望はあっさり打ち砕かれた。

 

 アルが自分達の居場所を突き止めたのだ。

 

 再び現れたアルはもはや狂気に満ち、言葉など届かない状態となっていた。

 

 あれほど後継者の為に必要としていたクローン達も、邪魔だとばかりにユリウスを含めたすべて始末しようとしたのだ。、

 

 銃を向けるアルにラウ達は成す術はない。

 

 だがその時アリアが立ちふさがり自分達を庇って凶弾に倒れた。

 

 そして助けようとしたミラもまた同じように殺されてしまった。

 

 彼女達の死によってラウの中に決定的な罅が入った。

 

 希望が絶望に変わり、怒りと憎しみだけが残った。

 

 その後アルは屋敷で焼け死んだ。

 

 どうしてそうなったかは言うまでもないだろう。

 

 

 ラウは決めたのだ―――ささやかな希望すらも欲望の果てに踏みにじり、奪い取るこんな世界の人類、すべてを裁くと。

 

 

 そしてユリウスもまた決めた―――彼女を失ったからこそ、アリアの言葉を無かった事にはさせないと。

 

 

 そして今へと至る。

 

 

 ラウは人類に裁きを、ユリウスは人類に先を求めて行動している。

 

 

 お互いの行動は知らずとも邪魔をする気はない。

 

 仮にラウの思惑通りになったとしても、それは人に先がなかったというだけ。

 

 ユリウスの思惑通りになったなら母の言葉が正しかっただけ、それだけの事だった。

 

 

 

 

 L4から脱出したオーディンを含む戦艦はヴァルハラに向かっていた。

 

 アークエンジェルの待機室ではアストやレティシア、カガリ達が言葉少なく座り、キラは着艦と同時に倒れてしまったため、部屋に運ばれ今はラクスが傍についている。

 

 そしてアスト達はカガリからメンデルの話を聞いていた。

 

 語られた事実にレティシア達は驚き、マユは泣きそうになっている。

 

 「アスト、お前驚いてないな。知ってたのか?」

 

 「……ある程度は。それにクルーゼの奴が御丁寧に教えてくれたからな」

 

 吐き捨てるように語るアストの言葉にレティシアは気がついたのだろう。

 

 メンデルに来る際に様子がおかしかった理由に。

 

 「……そうだな、全部話す。マユは知らないだろうから初めから話すよ」

 

 過去の話を再び彼らに聞かせ、そしてまだ話していない事を語った。

 

 それは両親の事。

 

 『スカンジナビアの惨劇』により怪我を負った両親は病院に運ばれていた。

 

 そして両親に再会した時、彼らの目は酷く冷たく見た事もない顔をこちらに向けた。

 

 何かに恐怖しているような、そんな顔。

 

 両親は今回の事件の原因、それはアストだと思っているらしく、いきなり真実を語り出した。

 

 その真実は絶望を与え、さらに両親だった人たちは吐き捨てたのだ。

 

 「やっぱり、お前なんて生まれてこなければ良かったんだ!!」

 

 その後両親と会う事はなく、テレサ・アルミラに保護される事になった。

 

 

 

 アストが淡々と話終える。

 

 そうして顔を上げるとレティシアがアストの頭を抱え込むようにして抱きしめた。

 

 レティシアの豊満な胸を押し付けられて息が出来ない。

 

 「ちょ、ちょっと、レティシアさん?」

 

 戸惑い気味に彼女の顔を見上げるとレティシアは泣いていた。

 

 彼女だけではない。

 

 マユなど顔を手で覆い声を上げて泣き、カガリも涙を浮かべ、イザークでさえ何かを堪えているかのように顔を伏せている。

 

 「アスト君。君は、生まれてきて、良かったんです! 生まれない方が良かったなんて、絶対無い! 私は貴方に会えて嬉しいですから!」

 

 「そ、そう、です! アストさん、いなかったら、私もお兄ちゃんも助からなかったんですから!」

 

 「……ありがとう」

 

 抱きしめられながら、その温もりに身を任せた。

 

 俺はみんなに会えて良かった―――

 

 紛れもなくアストにとって、彼らこそが絶望という闇を照らす光であった。

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