ボアズ陥落、それに伴う地球軍による核使用。
その衝撃は同盟軍にも伝わっていた。
会議を行っていた全員が絶句する。
「お姉さま……」
「本当に再び核を使用するなんて」
アイラは表情を崩す事なく話を聞いていたが、その手は怒りを堪えるように強く握りしめられている。
「……準備万端とは言えませんけど、もう時間がないようですね」
「うむ、パトリック・ザラも躊躇う事はありますまい」
「作戦を開始しましょう」
会議に参加していた全員が頷く。
地球軍が動き出した以上もう時間切れである。
「カガリ、現場の指揮はあなたに任せます」
「はい!」
「頼むぞ、そして生きて帰ってこい」
「お父様……行ってまいります!」
カガリはここに居る全員の顔を見て決意を新たにする。
メンデルで真実を知った後、カガリはウズミやアイラと何度も話した。
はっきり言えば自分の憤りを押し付けたようなもので、今思えば本当に恥ずかしいものだ。
しかし2人は笑いもせず、怒りもせず、ただ抱きしめてくれた。
そして分かった事は自分はこの人達に愛されているという実感であった。
生まれや血筋など関係なく思ってくれていると。
アストやキラに比べなんて自分は恵まれている事か。
いつまでも落ち込んでなどいられない。
今度は自分が彼らの愛情に応え、そしてアストやキラを助ける番なのだ。
カガリはそう自身の思いを確認すると会議室を出て、準備に取り掛かった。
そしてアークエンジェルの食堂でもアスト達がその話を聞いていた。
「地球軍が核を使った!?」
「くそぉぉ!!」
キラの前に座っていたイザークがテーブルを思いっきり殴りつけた。
彼が憤るのも無理はない。
かつて彼の故郷に核を撃ち込んだのは地球軍であり、そして再び核が使える様になった以上、プラントに放つのは確実だろう。
しかし、いったいどうやって地球軍はNジャマーキャンセラーを手に入れたのだろうか?
誰しもが疑問に思う中でアストだけは気がついている。
L4で戦ったあの男に間違いない。
≪私達にはあるのさ。人間を、人類を裁く権利が!≫
「……奴だ」
「えっ」
アストの呟きに全員が反応する。
「ラウ・ル・クルーゼが地球軍にNジャマーキャンセラーを渡したんだ」
アストは怒りを堪えるように拳を強く握り締め、キラは視線を鋭くした。
やはりあの時倒しておくべきだったか―――
皆が一様に暗くなり、イザークは憤りを隠せない様子だ。
地球軍が核を使った事もそうだが、この状況を生み出したかつての上官であるラウにも思う所があるのだろう。
「フレイ、これからどうするか聞いてるか?」
「艦長はすぐ出撃する事になるだろうって」
同盟軍はジェネシス破壊の為にプラントのクライン派と情報交換をおこなってきた。
ただプラントに直接潜入する事は警戒が厳しく出来なかったので、月のコペルニクスでの接触が多かったが。
それらの情報によりジェネシスの位置はほぼ判明し後は戦力を整えるだけだったのだ。
しかし地球軍が核を使用したなら、報復としてザフトがジェネシスを使う可能性は十分にある。
それにクライン派も情報交換だけとはいえ協力関係があったのだ。
見殺しにはできない。
つまりこれを機に作戦が開始されるという事だ。
そしてアストの思った通り、カガリから作戦に参加予定だった部隊すべてにジェネシス破壊の命令が下り、同盟軍もまたプラントに向けて動き始めた。
ボアズを攻略した地球軍は休息を取りながら、月基地から送られてきた補給を受けていた。
あれだけの激戦と途中から乱入してきたアスラン達によって予想以上の打撃を受けていた為である。
ナタルが微かに目を開けると薄暗い部屋の天井が見えた。
そのまま体を起こそうとして自分が裸である事に気がつく。
顔を赤くし慌ててシーツを引き寄せ視線を移すと、そこには既に見慣れた背中が見えた。
「セーファス?」
ナタルの声にセーファスがキーボードを叩いていた手を止め振り返る。
「ん、ナタル、起きたのか。まだ時間はあるし、眠っていても構わないぞ」
「いえ、十分休みましたから」
ナタルに笑み向けると再びキーボードを叩き始める。
思えば不思議なものだ。
出会った当初はこんな事になるとは思ってもいなかったし、自分が男を好きになるなど想像もできなかった。
そんな事を考えながらナタルもまた笑みを浮かべる。
こういう気分を幸せというのかもしれない。
しかし、これからの事を考えればそんな気分も吹き飛んでしまう。
自分達はプラントに―――
「……セーファスはどう思っているのですか? 今回の作戦について」
「……アズラエルの言う事も間違ってはいないがな。納得はできないさ」
味方の損害は最小限に敵には最大の効果を。
アズラエルが核を使った後に得意顔で言い放った言葉だ。
確かにある意味で正しい。
最小限の犠牲で戦いが終わるに越したことはない。
今地球軍の取ろうとしている手段はそのためのもののはずだ。
昔のナタルならば賛同していたかもしれない。
しかし―――
「ナタル、気持ちは分かる……だが今は我々にできる事をしよう。それがついて来てくれた部下たちを守ることにもなる」
「そうですね」
自分に言い聞かせるように頷く。
しかし心の片隅ではこれでいいのかと、いつまでも消えない不安が付きまとっていた。
そして補給が終わりに近づいた頃、クロードもまた指示を出し終え、端末のスイッチを切った。
「さあ、どういう結末になるかな」
ラウが望んだ結末か。
それとも―――
クロードの視線の先には残骸となったボアズが漂っていた。
それからすぐに地球軍艦隊は補給を終え、プラントへ向け、進撃を開始した。
すべてを終わらせるために。
地球軍がプラント本国へと迫っていた頃、ザフトもまた準備を整えつつあった。
最終防衛拠点であるヤキン・ドゥーエから次々と部隊が出撃し、その宙域を埋め尽くすほどのモビルスーツが展開されていく。
そんな中ヴェサリウスでもモビルスーツの発進準備が進められていた。
元々クルーゼ隊の母艦とされてきたヴェサリウスだが、現在は隊長であったラウ・ル・クルーゼが特務隊に転属となったため、クルーゼ隊は解散となりそのままユリウスが引き継ぐ事になった。
解散といっても人員はほぼそのままだったため、実質名前が変わっただけであるが。
ともかく今はヴァリス隊の母艦になっているのだ。
各員が忙しなく動き続ける中でエリアスは待機室から自身が乗る機体を複雑な気持ちで眺めていた。
GAT-X102A『Tデュエル』
造形や名前の通りこの機体はデュエルの予備パーツで組み立てられた機体。
同時に開発が予定されていた新型機『X12A』のパーツを組み込み、背中にはシグルド用の高機動スラスターを装備、さらにNジャマーキャンセラーを搭載している。
それに伴い武装もオリジナルとは比べ物にならないほど強化されており、高出力化された基本武装に肩部にビーム砲、腰に対艦刀クラレントも用意された。
そして隣にはもう一機佇んでいる。
ZGMF-FX004『ディザスター』
ユリウス専用に開発されたザフト最強の機体である。
その造形はザフト特有のモノアイの頭部を持ち、ユリウス用の調整が施されていた。
ただこの機体はその分、調整が難航しており、今も最終チェックが急ピッチで進んでいる。
「俺がデュエルに乗るとはね」
本来ならTデュエルにはイザークが搭乗していたはずだ。
それを自分が乗る事になるなど皮肉なものである。
何よりエリアスが一番納得していなかったのは、Nジャマーキャンセラーだ。
こんな物を開発した為に今プラントは壊滅の危機を晒されている。
もちろん核を使ってきた地球軍も許せるものではない。
しかし、本当にこれでいいのだろうか?
「エリアス、どうした?」
待機室に入ってきたのはディアッカとニコルだ。
この2人はどう思っているのだろうかと気になり聞いてみる事にした。
「2人はどう思ってるんですか?」
「イザークの事ですか?」
「それもありますけど、今のこの状況の事ですよ」
エリアスが向けた視線の先にはTデュエルがある。
無論、2人とてNジャマーキャンセラーを含むすべての事に納得出来ている訳ではない。
地球軍の事は許せないがザフトのやり方にも疑問が残るのも確かである。
「……複雑ではあるよな」
「やっぱりそうですよね」
「……はぁ、昔はこんな事考えたりしなかったのになぁ」
「前は何も考えなさすぎたんでしょうね、僕達は」
ただ今分かっているのは地球軍の攻撃を、核攻撃を阻止しなければならない。
たとえ自軍に疑問があれどプラントを撃たせる訳にはいかない。
ここは自分達の故郷なのだから。
《各パイロットは搭乗機に》
「行こう」
「そうですね」
「はい」
足取り重く格納庫に向い、自分達の気持ちの整理がつかないままヴェサリウスから発進する。
命取りになるかもしれない事はもちろん分かってるのだが、やはり考えてしまうのだ。
これでいいのかと―――
そして外では防衛部隊が展開され、すべての準備が完了していた。
プラントに至るまでの空間にザフトが幾重にも防衛ラインをつくり、その数はボアズを上回っている。
《勇敢なるザフト軍兵士達よ! ナチュラル共の野蛮な核などただの一発も我らの頭上に落としてはならない!》
《血のバレンタインのおり、核で報復しなかった我々の思いを奴らは再び裏切った! これを決して許してはならない!!》
《奴らに思い知らせるのだ! 我々の力を! そしてこの世界の新たな担い手が誰なのか、奴らに身をもって知らしめるのだ!!》
出撃したエリアス達の耳にイザークの母親、エザリア・ジュールの演説が響く。
「これどう思いますかね?」
「さあな」
エザリアは元々急進派ではあったが、イザークが戦死したと聞かされてからはより過激な発言が増えたらしく、特にナチュラルに対する憎しみは相当なのものだと噂に聞いている。
本当に皮肉な話だ。
母親と息子の選んだ道は完全に交わらないものなのだから。
そんな事を演説を聞きながらエリアスは考えていた。
そしてザフトは迫ってきた地球軍艦隊を視界に捉える。
地球軍もまた各艦艇から次々とモビルスーツが発進して、編隊を組んでいく。
ストライクダガーが慎重に接近し、射程距離に入るとそのまま戦端が開かれた。
「ナチュラル共をプラントに近づけるな!!」
「了解!」
ゲイツがビームクロウを振り抜き、正面のストライクダガーを斬り裂くとジンが突撃銃で援護の敵機を破壊する。
しかし負けじとストライクダガーもビームライフルを撃ち返してきた。
「コーディネイターの好きにさせるな!」
「落ちろ! 宇宙の化け物が!」
ビームライフルに撃ち抜かれたジンは爆発し、さらにシグーを一斉に数機のストライクダガーがビームサーベルで串刺しにて撃破する。
ボアズと同様に個々の力で勝るザフトと数で勝る地球軍の戦闘は拮抗していたといっていい。
しかしここでもまた地球軍の死神がザフトに襲いかかった。
「ハァ―――!!」
シャニの放ったフレスベルグの一撃が数機のモビルスーツを塵に変えるとさらにエフィムがネイリングを構えビーム砲を撃ちこみながら敵部隊に斬り込んでいく。
「死ねぇぇ!!」
「ひっ、たす―――」
ネイリングの斬撃がジンを捉えるとなんの障害もなくあっさりと切断、さらにもう片方のネイリングを背後に回った敵機に投擲し撃破した。
「よくも!!」
「ガンダム!!」
「そんなんで俺らを殺れる訳無いだろうがァァァ!!」
そんなゼニスに迫る敵部隊をカラミティの圧倒的な火力を持ってオルガが殲滅していく。
連続で放たれたスキュラ、シュラーク、バスーカ砲の攻撃でなす術無く撃ち抜かれて、宇宙を照らす閃光に変わった。
「う、嘘だろ」
「ナ、ナチュラルがなんであんな……」
うろたえる様に動きを鈍らせた敵機にオルガとシャニは嘲るように笑った。
「もしかしてビビってんのかよぉ!」
「かっこ悪いなぁ!」
2機とも躊躇う事無く、スキュラとレールガンであっさりと撃ち殺す。
弱すぎるが、次々と落としていくのは楽しい。
彼らにとってこの戦場はまさに最高の狩り場であった。
そんな彼らの前に次の獲物―――ディアッカ、ニコル、エリアスの3人が駆けつけてきた。
「くっ、これ以上やらせない」
「ニコル、連携でいくぞ!」
「了解!」
ディアッカが超高インパルス長射程狙撃ライフルでカラミティを攻撃するとブリッツがビームサーベルで斬り込んだ。
狙われたカラミティの前にフォビドゥンが立ちふさがり、ゲシュマイディッヒ・パンツァーでビームを曲げた。
ゲシュマイディッヒ・パンツァーを前にビームは無意味である。
しかしすでにデータを見て知っていた2人は驚く事はない。
それゆえにこれは計算尽く。
バスターに視線を向けた隙にブリッツがフォビドゥンの懐に飛び込むとビームサーベルを袈裟懸けに叩きつけた。
シャニはその斬撃をニーズヘグで受け止め、斬り返しながら叫ぶ。
「お前、邪魔すんなよ!」
「それでは当たりませんよ」
ニコルは機体を加速させ、回り込みながらトリケロスに新たに装備された3連ビーム砲を放つ。
「無駄だよ!」
「落ちやがれ!」
フォビドゥンがビーム砲を曲げ、後方のカラミティがシュラークでブリッツ狙おうとするが上方に移動したバスターが対装甲散弾砲を2機に直撃させた。
「ぐあああ!」
「こいつらぁ―――ッ!?」
ニコルは体勢を崩したカラミティに一直線に突っ込むとすれ違いざまにビームサーベルを一閃した。
普通のパイロットであれば、今の一撃で決まっていただろう。
しかしオルガもまた通常の人間とは比較にならない反応速度を持っている。
強化された反応速度で操縦桿を引き機体を傾け、ブリッツのビームサーベルをギリギリ避ける事に成功したが無傷とはいかず、バズーカを破損してしまった。
「良し!」
「この調子で行きましょう!」
「おう!」
ニコルとディアッカはしてやったりと笑みを浮かべた。
今まで何度も行ってきた連携である。
だからこそ失敗する筈はないし、こいつらは機体性能、そして個々の力は高いのだが連携は全くなっていない。
その隙をついていけば抑える事は十分できた。
「てめぇぇ!!」
「やりやがったなぁ!!」
怒り狂う2人だが対峙する2人は対照的に酷く冷静だった。
「ニコル、油断するなよ」
「ディアッカもね」
両機は弾け飛ぶように逆方向に動き出すと再び連携を取り、カラミティとフォビドゥンに攻撃を仕掛けた。
そしてディアッカ達が激闘を繰り広げる傍でエリアスもまたゼニスと対峙していた。
「コーディネイタァァ!!」
「はああああ!!」
振り抜かれたネイリングを潜り抜け、エリアスはクラレントを構えると横薙ぎに斬りつける。
しかしエフィムは手元のシールドで弾くようにクラレントの軌道を変えると右足で蹴り上げTデュエルを弾き飛ばした。
「チッ、なんて反応だよ!」
とてもナチュラルとは思えない動きである。
シールドを掲げ蹴りを受け止めながら後方にスラスターを吹かし、衝撃を最小限に留めて体勢を立て直すと肩部ビーム砲を放って距離を取った。
エリアスは今の攻防でこのパイロットに対する評価を改める。
「こいつは他とは違う」
その動きは他の機体のパイロットとは明らかに違うものだった。
あの2機のパイロットは確かに高い技量を持ってはいるがどこか獣じみているとでも言えばいいのか、そんな荒々しさがあった。
だが目の前の敵は違う。
他の2機のパイロットよりも洗練された動きである。
それはあの2機、『消滅の魔神』や『白い戦神』を彷彿させるものだ。
そう考えてエリアスはニヤリと笑う。
「だからどうした」
自分達の後ろにはプラントがある。
ならたとえ相手が誰であろうとも、負ける事などできる筈もない!
「いくぞ!」
「死ねぇぇ!!」
ゼニスはスヴァローグを跳ね上げ、向ってくるTデュエルに実弾を連続で撃ち込んでくる。
迫る実弾を機体を旋回させながらすり抜けると、ビームライフルで牽制しつつ懐に飛び込み、クラレントを逆袈裟に叩きつけた。
しかし敵機は驚くべき反応速度を見せ、クラレントを捌きネイリングで斬り返してきた。
「マジで反応が速いな。けど―――」
それはあくまでも予測通りだ。
あえてエリアスは下がる事無く繰り出された斬撃を途中で機体ごと割り込ませる事で防ぎ、さらにスラスターを吹かせて頭突きを御見舞いする。
「これで!!」
ゼニスがよろけた隙を見逃さず再びクラレントを一閃する。
しかし―――
「なっ!? くそ、今のでも決定打にならないのか」
放った斬撃はゼニスの肩部装甲を浅く斬り裂くだけに止まっていた。
エフィムはクラレントの斬撃を完全に避けようとするのではなく、あえて肩を前に出し機体を背ける事で最小限のダメージで済ませたのだ。
「手強い、でもな、退けないんだよ!」
エリアスはクラレントを構えるとゼニスに再び斬り込んだ。
艦隊とプラントの間でガンダム同士の激しい戦いが繰り広げられている傍ら戦闘は続いていく。
ボアズからエターナルと共にヤキン・ドゥーエに戻っていたアスランもまた迎撃の為に出撃していた。
「はああああ!!」
ジュラメントを変形させ、ビームキャノンとプラズマ収束ビーム砲を次々とストライクダガーに叩き込んで撃破していく。
「こいつ!!」
「包囲して落せ!!」
だがアスランは冷静に接近してきた敵機に対してそのままぶつかる勢いで加速、ビームウイングを展開しストライクダガーの胴体を斬り裂いた。
「なっ」
「嘘だろ……」
ジュラメントの動きについてこれない、敵機に躊躇う事無くトリガーを引く。
「邪魔だ! 死にたくないなら下がれ!!」
その戦い振りはまさにエースの面目躍如といったところだろう。
ミーティアが使えればもっと押し返す事もできたのだが、ボアズで損傷させてしまった事が悔やまれる。
今まで修復がおこなわれていたのだが損傷が思った以上に大きく、使えるようにするには時間がかかるらしい。
反面シリルの使用していたミーティアは損傷がほとんど無かった為、エターナルで調整のみで済んだ。
今はプラントの直接攻撃を警戒し、防衛の為に後方に下がっている、というかアスランが下がらせた。
いざという時の保険が必要だと判断したのだ。
もしもまたあのイレイズのパイロットと再び戦う事になれば、核ミサイルを迎撃するのに集中などできないだろう。
「もう絶対に撃たせない!!」
モビルスーツ形態になると同時にビームソードを展開し、一瞬の内に数機のストライクダガーをバラバラに斬り裂き、さらにビームライフルで撃ち抜いていく。
「うああああ!!」
「化け物がぁ」
数が多いがあのイレイズのような敵もいないためか、驚異を感じない。
「これなら守り切れる」
ジュラメントの性能をフルに発揮させながら、順調に迎え撃っていたアスランの視界に再び敵機が向かってくる。
「増援か!」
特に警戒する事もなく今までと同じようにプラズマ収束ビーム砲のトリガーを引いた。
しかしそれは過ちだったとすぐ知ることになる。
撃ち込んだビームを上昇したやすく回避すると敵機はビームサーベルを構え突っ込んでくる。
しかも狙い撃ちされないよう、ジュラメントに射線を取らせない複雑な軌道でサーベルを振ってきた。
「地球軍のエースか!?」
相手もまたエース級である事を理解したアスランは正面から迎え撃つ選択をする。
エースを真っ向勝負で倒せばそれだけで敵軍に精神的なダメージも与えられるからだ。それにどの道倒さなくてはならない相手である。
「ここは通さない!!」
ビームソードを抜き放ち敵機に斬りかかった。
対峙していた105ダガー、スウェンもまた敵の手強さを感じていた。
いや正確にはあの獅子奮迅の戦いぶりを見ていればよく分かった。
「……こいつも厄介な相手らしいな」
ボアズで戦った機体のパイロットと同レベルの技量をもっていると見て間違いない。
おそらく機体も同様だろう。
ならば前の戦いの経験が役に立つ。
スウェンは左右から繰り出された斬撃を巧みに捌くとスラスターを使い、背後に回り込みビームサーベルを逆袈裟に振るった。
「上手い! だが!」
アスランは機体を半回転させ、振り下ろされたビームサーベルをシールドで受け止めると右足のビームソードで反撃する。
しかし敵機は咄嗟に後退する事で斬撃を避けるとビームライフルでこちらの動きを牽制してくる。
スウェンは今の攻防で自分の推測が間違っていなかった事を知る。
「やはりパワーは向うが上か」
前の機体との違いがあるとするならば強力な火力を持った武装を装備している事だろう。
コンビクトはパイロットであるシリルの特性に合わせ、ビームランチャーを除きほぼ基本装備のみである。
しかしジュラメントは違っていた。
強力な火器に加え、厄介な可変機構まで持っている。ならば―――
「これしかないか」
あえてスウェンは前に出る。
距離を取られればこちらが不利であると判断したためだ。
もちろんパワーの差はあるものの、近接戦の方が戦い様はいくらでもある。
ジュラメントのビームソードの連撃をシールドを使って潜り抜け、胴体めがけビームサーベルを横薙ぎに叩きつけるが、それも止められてしまう。
だが焦ることなくさらにビームサーベルを連続で叩きつけていく。
まるで注意を逸らすかのように。
そして敵が反撃に転じようとした時、スウェンがシールドで突き放す。
そして次の瞬間、ジュラメントにミサイルとガンランチャー、リニアキャノンが降り注いだ。
「くっ、新手!?」
機体を変形させ、一気に攻撃範囲から離脱しようとするが数発のミサイルを受けてしまう。
その衝撃を歯を食いしばって耐え、振り返った先には援護に駆けつけたバスターダガーとデュエルダガーがライフルの銃口をこちらに向けていた。
「ほとんど避けられちまったな」
「せっかくスウェンが引きつけてくれてたのにね」
「……相手がそれだけの腕前ということだ」
「で、どうする?」
「ボアズの時と同じでいく」
「「了解」」
105ダガーが正面から斬りかかり、残り2機が援護に回ってジュラメントを翻弄していく。
それに相対するアスランも彼ら程の技量を持つ者を放っておけば被害が拡大していくと判断した。
「お前達は、ここで俺が倒す!!」
1対3の戦いは激しさを増していった。
数で劣りながらもザフトは地球軍の大部隊に対し互角の戦いを繰り広げていた。
だがそれは地球軍からすれば予測済みの事。
此処にはザフトの戦力が集中しているのだから簡単に突破できるとは思っていなかった。
これだけ広範囲でしかも激戦、必ずつけいる隙が出来るはずと考えていた。
それを見越した上で戦闘が開始されしばらく経った頃、激戦に紛れプラントに向け近づいている部隊があった。
メビウスを主体としたモビルアーマー部隊である。
どの機体も例外なく大型の核ミサイルを抱えている。
「良し、もうすぐ目標地点だ」
「これで終わりだな、コーディネイター!!」
「待て! アレは―――」
プラントをもう少しで射程に捉える寸前のモビルアーマー部隊だったが、その先にミーティアを装着したシリルが立ちふさがる。
「アスランの言う通りだったな。待機していて正解だった」
そして特務隊のシグルド2機もまたここで待機していた。
「ナチュラル共に好きにはさせない」
「クリス、スナイパーライフルで接近してきた奴から撃ち落とせ。シリル・アルフォード、こちらの指示に従ってもらうぞ」
「了解!」
「……了解している」
近づいてくるモビルアーマーに対し一斉に攻撃を開始しようとしたその時、上方から三機に対しビームが撃ち込まれてきた。
「何!?」
「あれは―――イレイズだと!?」
攻撃を仕掛けてきたのはクロードが搭乗しているイレイズサンクションであった。
彼はアズラエルからモビルアーマー部隊の護衛を任され、ここまで追随してきたのである。
特務隊2機のシグルドとミーティア装備のコンビクト。
普通のパイロットならば目の前にいる3機の敵を前にしただけで自分の死を連想したかもしれない。
しかしクロードは表情を変える事無く、涼しい顔で操縦桿を握っていた。
「済まないが、こちらも仕事でね。まあ核を阻止したければするといい。君らに出来ればだが―――」
クロードはビームライフルをコンビクトのミーティアに向けた。
「まずはその厄介な装備から破壊させて貰おうかな」
ボアズで一度見ているからこそ強力な火力を持っているミーティアを破壊しようとするのは当然の選択であった。
「やらせるか!!」
ライフルからビームが放たれんとした瞬間、そこにシグルドが割り込んできた。
クロードが火力のあるミーティアを危険視したように、シオン達がある種切り札的な存在であるミーティアを守ろうとするのも当たり前である。
「こちらは我々が抑える。核を迎撃しろ」
「了解!」
斬り込んで来たシグルドの行動もクロードはすでに読んでいた。
背中のガンバレルを展開するとミーティアの進路を塞ぐようにビームを放ち、さらにシグルドにも牽制しながらネイリングで斬り返した。
「俺と互角に!?」
「悪くない動きだ」
互いに動きを止める事なく斬り結んでいく。
クロードはガンバレルをシグルド相手には出来るだけ使わず接近戦を挑み、ミーティアの動きを止める事に対してのみビームを放つ。
シグルドと斬り結んでいれば、火力が高いミーティアでの援護は難しい。
強力な火力をもっているが故に加減が難しく、下手をすれば味方を巻き込んでしまうからである。
クロードの役目はあくまでもメビウスの護衛、敵を倒す事ではない。
足止めするだけならば、やり方はいくらでもある。
その証拠にモビルアーマーは次々とイレイズの背後を通過し、プラントに近づいて行く。
「くそ、こいつ!」
「ナチュラルがたった一機で僕達を足止めするなんて!」
「あのミサイルを落せぇ――!! プラントをやらせるなぁぁぁ!!!」
シリルの叫びに戦場にいたザフトの全員が反応する。
しかし誰もが止められない。
アスランもディアッカ達もそして他のパイロット達も敵の迎撃で手一杯なのだ。
メビウスがプラントを射程距離に捉え、核ミサイルが発射された。
「ちくしょう!!」
「間に合わない!!」
誰もが最悪の結末を予測した。
しかし、そこに飛来する2つの機影があった。
見た事もない機体―――いや、そうではない。
駆けつけてきたのは同盟軍の2機、フリーダムとジャスティスである。
ただ違いがある。
背後に見たこともない武装を装着しているのだ。
高機動兵装『スレイプニル』
クライン派から提供されたデータの中に存在したミーティアを参考に開発したものである。
スレイプニルはミーティアのデータを参考にしたとはいえ、あくまでモビルスーツの強化に重点が置かれている。
小型化された分だけミーティアより火力は劣るものの使い勝手もよくモビルスーツ戦闘にも十分対応できるようになっている。
凄まじい加速で一気に戦域にたどり着いたキラとラクスは背中に装着したスレイプニルの武装を展開し、さらにフリーダム、ジャスティスの兵装も構える。
「ラクス、行くよ!」
「はい!」
「行けぇぇぇ―――!!!」
ターゲットをロックするとビームとミサイルを一斉に発射し、核ミサイルを叩き落とした。
すさまじい閃光が宇宙空間に広がっていった。
さらに誘爆を引き起こし、大きな光の輪が次々に出来上がっていく。
「キラ、ラクス!」
アスランの視線の先には彼らが核を撃ち抜いていく姿が見えた。
思わず溢れそうになった涙を必死に堪える。
プラントが撃たれなかった事の安堵と何よりキラが助けてくれた事がアスランにとっては胸を打った。
さらにフリーダムやジャスティス以外にもビームを撃ち込んで来る機体がいた。
「……イノセントか」
そこにいたのは追加装備を装着したイノセントガンダムの姿だった。
『フルウェポン』と呼ばれる形態である。
肩にはロングレンジビームランチャー、反対側の肩にミサイルポッド、シールドの裏にビームガトリング砲、腰に斬艦刀『バルムンク』、各所にアドヴァンスアーマーを装備していた。
「行くぞ!」
アストはロングレンジビームランチャーを構え、核ミサイルを狙撃していく。
放たれたビームが核ミサイルを撃ち落とし、閃光に変えていく。
駆け付けたのはイノセントだけではない。
いつの間にか戦域に辿り着いたアイテル、スウェア、ターニング、ストライク、デュエルなどが次々に核ミサイルを叩き落としていく。
その背後にはアークエンジェルを始めとした戦艦が数隻がいる。
紛れもない中立同盟軍であった。
敵対しているはずの同盟軍が何故プラントを救うのか?
誰もが疑問に思う中で敵軍のクロードだけが動揺する事無くそれを見ていた。
「……なるほど、彼らが」
納得したように機体を反転させる。
核ミサイルはすべて撃ち落とされてしまった以上、ここにいる必要はない。
核ミサイルが破壊された事はヤキン・ドゥーエの司令室でも確認できた。
予想外である同盟軍の介入と行動には全員が戸惑っている。
しかしパトリック・ザラだけは鋭い視線でフリーダム達を睨みつけていた。
どういうつもりか知らないが、時間を稼いでくれた事だけは感謝してもいい。
そう、ついに準備は整ったのだから。
「ジェネシスは最終段階に入る」
オペレーターの報告にパトリックは号令を出した。
「全軍射線上から退避させろ!」
するとヤキン・ドゥーエの後方が揺らめくと同時に巨大な建造物が出現した。
その通信を受け取ったアスランはたまらず叫んでいた。
「キラ、ラクス、レティシア、逃げろ!! ジェネシスが撃たれる!!」
アスランの叫びに反応したキラ達は咄嗟に反転する。
彼らもまたジェネシスの脅威を知っていたからだ。
そしてヤキン・ドゥーエに司令室では発射シークエンスが着々と進んでいた。
「フェイズシフト展開」
「Nジャマーキャンセラー起動」
「全システムオールグリーン」
パトリックは笑みを浮かべると叫ぶ。
「この一撃こそ我らコーディネイターの創世の光とならん事を! 発射!!」
ジェネシスから放たれた太く強烈な閃光が戦場を駆け抜ける。
射線上にいた地球軍のモビルスーツ、戦艦が巻き込まれ次々と融解し、破壊され、宇宙の塵に変えられていった。
それを見ていたアスト達はあまりの光景に言葉を失う。
いや、アスト達だけではない。
撃たれた地球軍も、撃ったザフトもまた声を上げる事も出来ない。
放たれた恐るべき兵器を前に背筋を凍らせる。
どうしてこんなものを―――キラはそう思わずにはいられなかった。
そしてアストは操縦桿を強く握る。
こんなものは絶対に破壊しなくてはならないとそう決意した。