機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第42話  決戦の幕開け

 

 

 ジェネシスが放たれた後に残ったものはただ塵芥となった残骸のみ。

 

 ただ破壊されたモビルスーツや戦艦といったものの、原形を残さない破片だけがそこに漂っている。

 

 介入した同盟軍は一時撤退を命じられ、パトリック・ザラの演説を聞きながら後退していた。

 

 《我らが勇敢なるザフト軍兵士諸君、傲慢なるナチュラル共の暴挙をこれ以上許してはならない!》

 

 《プラントに向け放たれた核、これはもはや戦争などではない》

 

 《虐殺だ!!》

 

 どの口が言うのか―――その放送を聞いていた誰もが思ったに違いない。

 

 自分達が何をしたのか、思い至っていないのか。

 

 今もそうである。

 

 この演説に乗せられたのか、後退をしている地球軍に苛烈ともいえる追撃戦が行われている。

 

 見る限り戦う気力すらない者たちを攻撃しているようにも見えた。

 

 核を使った時点で自業自得ともいえるのだが、まるで自分達は違うとばかりに演説を続けるパトリック・ザラに激しい嫌悪感が湧いてくる。

 

 《そのような行いを平然とするナチュラル共を決して許してはならない!》

 

 《この光と共に今日という日を我ら新たな人類コーディネイターの輝かしき歴史の始まりの日とするのだ!!》

 

 正直聞くに堪えない。

 

 「……何を言っているんだ、この男は」

 

 アストはこれ以上聞く必要はないと通信を切る。

 

 そこには確かな怒りが存在していた。

 

 

 

 

 

 ザフトの追撃を振り切ったドミニオンを含む残存艦隊はデブリの陰に集結していた。

 

 正直に言って酷い状態である。

 

 損傷したストライクダガーの残骸がそこら中に散らばり、傷ついた艦もまた火を噴き対処に追われている。

 

 通信から漏れてくる声も絶望的なものだけだ。

 

 「ああ、そうだよ! ったく、冗談じゃない!! これは今までのたくたやってた、あんた達トップの怠慢だよ!!」

 

 艦長席に座っているセーファスの後ろではアズラエルが語気荒く月基地と通信している。

 

 その様子は半狂乱と言っても差し支えないだろう。

 

 まあその気持ちも分からないではない。

 

 あれだけの規模で攻めたにも関わらず作戦が失敗した、なによりもあの兵器である。

 

 解析の結果ガンマ線レーザー砲と判明したあの兵器の脅威を直接目にした者ならば取り乱しても仕方がない。

 

 だとしても冷静さを無くし過ぎている。

 

 今も救援要請してきた艦に向うかどうか、ナタルと揉めていた。

 

 「救援なんてしてる場合じゃない!! すぐにでも再度攻撃を仕掛けるんだよ!!」

 

 「なっ、今わが軍がどれほどの被害を受けているのか、理事にもおわかりのはずでしょう!?」

 

 「月からすぐに増援が来る! 君こそ何を言っているんだ! 状況が分かってないのは君だろうが! あそこに―――」

 

 「あそこにあんな兵器を残しておく訳にはいかない、でしょう?」

 

 アズラエルの言葉を引き継ぐようにセーファスが口を挟む。

 

 端末を操作し、シミュレートしたデータを表示する。

 

 そのデータを見たナタルにも何故アズラエルがここまで取り乱しているのかが分かったらしい。

 

 「あの位置からでも地球が撃てる」

 

 「ああ、そうだ、分かってるじゃないか! そうだよ! 無茶だろうがなんだろうが絶対に破壊してもらう。アレとプラント、地球が撃たれる前に!!」

 

 この後に及んでこの男はまだプラントを撃つ事に拘るのか。

 

 「……まあいいさ」

 

 確かにあの兵器は絶対に破壊しなくてはならない物だ。

 

 セーファスの答えに満足したのか再び月基地と通信を始めたアズラエルを尻目にナタルに顔を近づけ誰にも気がつかれないように囁いた。

 

 「ナタル、用意してもらいたい物がある」

 

 「えっ」

 

 「もちろんアズラエルには分からないようにな」

 

 ナタルは一瞬驚いた顔をするがすぐに頷いた。

 

 出来る限りの手は打っておく必要がある。

 

 でなければあの兵器の破壊など到底不可能だろう。

 

 ザフトもまたあの兵器を死に物狂いで守ってくるに違いないのだから。

 

 

 

 

 

 ジェネシス発射によって一時撤退を選択した同盟軍もまたデブリに隠れ作戦を練っていた。

 

 「クライン派からのデータで予測はされていたが実際に見るとやはり違うな」

 

 「ええ、正直あれほどとは思いませんでしたよ」

 

 テレサに同意するようにヨハンがデータを呼び出すとあるシミュレーションが表示された。

 

 それはジェネシスが地球に放たれていた場合どうなるのかというもの。

 

 その結果はジェネシス直撃による被害は生命体の80%以上が死滅するという最悪のものであった。

 

 唯一の救いがあるとすれば連射ができない事だろう。

 

 一回撃つたびにミラーを交換しなければならないらしい。

 

 《……分かっていた事だが確実にジェネシスだけは破壊しなければならないな》

 

 《ええ、それに地球軍もまた核を使ってくるでしょうね》

 

 マリューの言う通り、地球軍はまた核を使ってくるだろう。

 

 「ジェネシスに対して使用するならばまだしも、プラントに放たれればそれも防がないと」

 

 もちろんザフトもプラント防衛の戦力を配置するとは思うが、先のように突破される可能性もあるだろう。

 

 ならばそれも防ぐ必要があるとなると厳しい状況に変わりはない。

 

 「けどやるしかないよね」

 

 「ああ、そうだな。奴の、ラウ・ル・クルーゼの好きにはさせない」

 

 「うん」

 

 アストとキラは互いに頷いた。

 

 もう2人は決意を固めている。

 

 メンデルで聞いた因縁。

 

 ラウ・ル・クルーゼ、ユリウス・ヴァリス、彼らとの決着をつける事を。

 

 特にラウ・ル・クルーゼだけは刺し違えてでも倒さなければならない。

 

 そんな2人をラクスとレティシア、マユが不安そうに見ていた。

 

 《……キラ、ラクス、二人には先行してもらい地球軍の核攻撃を阻止してもらう》

 

 「うん」

 

 「はい」

 

 《アスト達も核を迎撃しながらジェネシスに向かってもらう。各戦艦はジェネシス出来る限り近づき直接攻撃。通用しないようならジェネシス内部に潜入し破壊する、もしくはヤキン・ドゥーエの司令室を押える》

 

 「わかった」

 

 《準備が整い次第出撃だ。頼むぞ!》

 

 「「「了解」」」

 

 カガリとの通信が終わると同時に格納庫に行こうとエレベーターに向う。

 

 「待て」

 

 テレサが振り向く事無くアストを呼び止めた。

 

 「なんです?」

 

 「……言いたい事は山ほどあるが、それは終わってからだ。とりあえず必ず帰ってこい、いいな」

 

 テレサの言葉に自然と笑みが零れた。

 

 この人もまた自分を思ってくれている。

 

 だから―――

 

 「ええ、必ず戻ります」

 

 そう言うとエレベーターに乗り込むと今度はラクスが何か言いたげな表情でキラを呼び止めた。

 

 「キラ」

 

 「ラクス、どうしたの?」

 

 おそらくこの戦争最大の激戦になる。

 

 だからこそ言いたい事もあるのだろう。

 

 「先に行ってる」

 

 そのまま扉を閉じると下の階へのスイッチを押した。

 

 ずっと黙ったままなのも何なのでマユに話しかける―――というか言っておきたい事があった。

 

 「マユ、何があっても生き延びる事を考えるんだ」

 

 本当ならば今すぐにでもモビルスーツを降りてもらいたいというのが本音なのだが、そう言っても無駄な事は前に証明されている。

 

 「もちろんです。オーブにはお父さんもお母さんも待ってますから。お兄ちゃんの事もありますし―――それにそれを言うならアストさんの方も無茶したら駄目です」

 

 一瞬、見透かされたような気分になるが、表情には出さないようにする。

 

 「ああ、俺は大丈夫だ」

 

 笑みを浮かべマユの頭に手を置くと、優しく撫でた。

 

 「ア、アストさん、少し恥ずかしいですよ」

 

 「あ、すまない」

 

 彼女には死ねない理由がある。

 

 ならば大丈夫だと、そう信じよう。

 

 それよりも―――

 

 「あの、レティシアさん? どうしたんですか?」

 

 レティシアはどこか不安そうに下を向いていた。

 

 何か気になる事でもあるのだろうか。

 

 「レティシアさん?」

 

 「え、ああ、大丈夫です。それよりマユ、アスト君の言う通り無理だけはしないでください」

 

 「はい」

 

 様子がおかしい。

 

 何かあるのか聞こうとしたのだが、その前に格納庫に到着してしまった。

 

 結局声を掛けられないままイノセントのコックピットに移動し、キーボードを叩きながら最終調整を行っているとコンコンと音がした。

 

 「レティシアさん?」

 

 モニターにはレティシアの顔が映っていた。

 

 「……丁度いいか」

 

 先程の事を聞いてみようとハッチを開けるとアストが出ていく前にコックピットに入ってくる。

 

 彼女の長い綺麗な金色の髪の毛が広がった。

 

 モビルスーツに乗る前はラクスと一緒に髪を束ねているのだが今はまだらしい。

 

 何と言うか良い匂いがする―――なんて事を考えて、慌てて変な考えを追い出す為に頭を振った。

 

 「えっと、先程はどうしたんですか? 様子がおかしかったですけど?」

 

 「……」

 

 「あの―――」

 

 「君は死ぬ気ですか?」

 

 「えっ、何でそんな事を―――」

 

 「キラ君と話していた時、貴方達の顔は何か覚悟していたような表情でしたから」

 

 やっぱり彼女は鋭い。

 

 誤魔化そうかとも思ったが無理だろう。

 

 「……あくまで覚悟ですよ。特にあの2人はそれくらいの強敵ですから」

 

 今までの戦い、そしてL4での戦闘で戦った経験から分かっている。

 

 ラウ・ル・クルーゼ、ユリウス・ヴァリスは容易い相手ではない。

 

 命を懸けるくらいの覚悟は必要な敵であると。

 

 「アスト君……」

 

 「本当に大丈夫です。それよりレティシアさんも気をつけてください。今まで以上に激戦になる筈ですから」

 

 レティシアはしばらく俯いていたのだが、意を決したように顔を上げた。

 

 気のせいか顔が赤くなっているようにも見える。

 

 「……アスト君、その言葉を信じてもいいですね?」

 

 「もちろんです」

 

 「分かりました。では私と約束してもらえますか? 生きて帰ると」

 

 「え、ええ。約束しま―――」

 

 アストの言葉は最後まで言えなかった。

 

 何故ならレティシアに唇を塞がれていたから―――

 

 そして唇が離れると捲くし立てるように言い放った。

 

 「つ、続きは戻って来てからですから! 約束は守ってください! いいですね!」

 

 「は、はい」

 

 そのままレティシアは顔を真っ赤にしたままコックピットから出ていった。

 

 なんというか、突然の事に思考が追い付かない。

 

 思わず返事をしてしまったが、続きって?

 

 どういう事?

 

 えっと、つまり彼女は―――

 

 《アスト?》

 

 「うわあああ!!」

 

 《ど、どうしたの!?》

 

 「キ、キラか。なんでもないよ。そっちこそラクスの話は終わったのか?」

 

 いつの間にかキラは格納庫に降りて、フリーダムのコックピットに乗り込んでいたらしい。

 

 レティシアの事は後で考える事にしようと別の話を振る事にする。

 

 《うん、お守りっていうかこれを預かった》

 

 その手にはチェーンに通された銀色に光る指輪があった。

 

 《必ず戻って来いって言われたよ》

 

 「ああ、俺もだ」

 

 自分達は1人ではない。

 

 それは2人にとって何より強い力であった。

 

 そして他のメンバーもまたこの戦いに向けて決意を固めていた。

 

 トールやイザーク達はアークエンジェルの食堂でいつも通りに食事を取っている。

 

 「たぶん次の戦闘が最後の戦いだよな」

 

 「そうね。ただその分、激しい戦いになると思うけど」

 

 「今までも命がけだったけど、今度はさらに厳しいよな。……頑張らないと」

 

 その言葉にミリアリアは不安を隠せない様子でトールを見つめていた。

 

 それに気がついたイザークは肘で軽く突いた。

 

 「どうした、イザーク?」

 

 何も言わず視線でミリアリアを示唆すると、ようやく気がついたのだろう。

 

 トールは慌てて声をかけた。

 

 「大丈夫だって、俺はちゃんと帰ってくるからさ」

 

 「……うん」

 

 それを見かねたのかイザークも声をかける。

 

 「トールの言う通りだ。俺も出る、心配はいらん」

 

 「イザーク……」

 

 その様子を黙って見ていたアネットやサイが笑顔で言った。

 

 「言っておくけどあんたもきちんと戻ってこないと駄目だからね」

 

 「そうそう」

 

 本気でそう言っている彼らの思いに、色々なものが込み上げ、笑みを浮かべて頷いた。

 

 「ああ、分かっている」

 

 必ず戻る―――そして彼らを守らなければならない。イザークもまたここにいる者たちを仲間だと思っているのだから。

 

 

 

 

 「ミラーブロックの換装は?」

 

 「あと1時間ほどです」

 

 パトリック・ザラは変わらず指令室で指示を出し続けていた。

 

 もうじきすべてが終わると思えば、休まずともこのくらいは苦ではない。

 

 「地球軍に動きは?」

 

 「今だ無いようですな。まあ奴らも必死でしょうから、補給、増援を待って再び進軍してくるかと。あの威力を見た後では当然といえば当然ですな。―――こちらから仕掛けますか?」

 

 パトリックはラウのその問いに鼻で笑った。

 

 そんな事をする必要がどこにあるのかと言わんばかりに。

 

 「2射目ですべて終わる。我らの勝利だ」

 

 2射目を放った時点でこちらの勝ち。

 

 次の目標は月基地だ。

 

 ここを撃たれれば地球軍の戦力の大半を奪った事になる。

 

 「では、地球を―――」

 

 撃たれますか?とパトリックに囁く。

 

 「奴らが月を撃たれてなお抗うならばな」

 

 それは考えるまでもない事であり、地球軍は必ず攻めてくるだろう。

 

 ジェネシスを破壊しない限り自分たちに未来はないのだから。

 

 パトリックの言葉に満足したラウは、それ以上なにも言わなかった。

 

 本当に彼は理想的で―――そして愚かな道化である。

 

 ここまでくると憐れみすら覚えるというもの。

 

 だが、そのおかげでここまで来れたのだから、それは感謝してもいい。

 

 ラウは暗い笑みを押し殺しながら、その瞬間を待ち続けていた。

 

 

 

 

 

 指令室から絶え間なく指示が飛び交う中、エターナルに帰還したアスランの胸中は非常に複雑なものであった。

 

 正直プラントが撃たれなかったのはホッとしたが、しかしジェネシスに関しては―――アレは核でプラントを破壊しようとした地球軍と何が違うというのか。

 

 父はナチュラルの行動を虐殺だと言い放った。

 

 だが、これでは自分達もまた同じではないか。

 

 アスランは拳を強く握り締める。

 

 止めなくては、取り返しがつかなくなる前に!

 

 「アスラン君、そう気負うなよ」

 

 「バルトフェルド艦長……」

 

 「冷静にな。ジェネシスについてはブランデル隊長も考えているだろうからな」

 

 確かに冷静さを無くせばそれが命取りになりかねない。

 

 エターナルがブランデル隊の母艦であるゼーベックに隣接するとエドガーの固い表情がモニターに映った。

 

 「ブランデル隊長……」

 

 《無事でなによりだ、アスラン》

 

 「ジェネシスは……」

 

 《言いたい事は分かっている。今も手を打とうしてはいるが、警戒も厳重で近づけない。ユリウスにも動いてもらっているが、もしもの時は覚悟だけはしておいて欲しい》

 

 それは反逆者の汚名を着てでもジェネシスを破壊するという事だ。

 

 言われるまでもなく、エドガーに協力すると決めた時からすでに覚悟している。

 

 だから躊躇わずに頷いた。

 

 「ブランデル隊長、『アレ』はどうなってますかな」

 

 《駄目だ、間に合わない。月に向けて移動中だったからな》

 

 「了解ですよ。まあ何とかするしかないでしょうな」

 

 《すまないが、頼む。それから―――》

 

 アスランの顔を見て躊躇うように言葉を切った。

 

 「何かあったのですか?」

 

 《情報を流した人間がほぼ特定できた》

 

 「本当ですか!?」

 

 《……状況証拠ではあるが、おそらく間違いないだろう》

 

 「誰です?」

 

 《……ラウ・ル・クルーゼだ》

 

 バルトフェルド達は酷く驚いていたが、アスランは自分でも驚くほど冷静に聞いていた。

 

 どこかで予想していた。

 

 メンデルで彼らの過去を、そしてユリウスの話を聞いた時からもしかしてという思いがあったのだ。

 

 ≪クルーゼ隊長はきっと未来など望んではいないだろう。一度希望を与えられたが故に奪われた絶望が大きすぎて他のものが見えなくなってしまっているんだ≫

 

 ユリウスはそう語っていた。

 

 確かに同情はする。

 

 だがこれを看過する事はできない。

 

 彼もまた止めなくてはならないだろう。

 

 アスランはかつての上官を撃つ覚悟を決めた。

 

 

 そして時は満ち―――再び戦闘が開始された。

 

 

 地球軍は死力を尽くしてジェネシスに迫ろうとし、ザフトはそれを防ごうと応戦する。

 

 パトリックは指令室でその様子を見ていた。

 

 「やはり足掻くが、ナチュラル共が」

 

 大人しくしていればいいものを―――やはりナチュラルとは愚鈍な連中である。

 

 ジェネシスの威力を見ていながら、なおプラントを狙ってくるならば返り討ちにするだけである。

 

 「我らの力、思い知らせてやるぞ! ミラーブロックの換装は?」

 

 「もうすぐ完了します」

 

 「急がせろ!」

 

 「ハッ!」

 

 そこで共にモニターを見ていたラウが一歩前に出る。

 

 「では私も出ましょう」

 

 パトリックはラウの申し出に頷いた後、鋭い目で睨むと冷たい声で釘を刺した。

 

 「……クルーゼ、これ以上の失態は許さんぞ」

 

 特務隊を除き優秀であるからこそ、そして成果を上げてきたが故に特務を任せてきたクルーゼ隊がどうした事か失敗続きであった。

 

 それもあのアークエンジェル追撃の任務についてからだ。

 

 ガモフは沈み、奪取した機体はすべて撃破され、さらにプラント付近にいた同盟軍所属の戦艦追撃の失敗。

 

 そして先のL4会戦においてもこれといった戦果も上げる事ができなかった。

 

 パトリックからすれば失望の極みともいえる。

 

 それでも特務隊に転属させたのは今までの功績とパイロットとしての腕を買っただけだ。

 

 すでにかつてほど信頼はしてはおらず、そういう意味ではシオンの方をまだ信頼していた。

 

 だが、ラウはそれすら気にした様子もなくただ頷く。

 

 「ええ、肝に銘じて」

 

 「ふん」

 

 そのまま指令室を後にするラウを最後まで見送る事無くオペレーターに指示を出す。

 

 「目標点入力、月面プトレマイオス・クレーター、地球軍基地!」

 

 「了解!」

 

 「地球軍の増援の位置は把握しているな?」

 

 「はい、大丈夫です」

 

 「我々の勝ちだな、ナチュラル共め」

 

 勝利の愉悦に浸りながら、モニターを眺めているパトリックを尻目に指令室を出たラウはロッカールームでパイロットスーツに着替えていた。

 

 普段はパイロットスーツなど着ない彼にしては珍しいと言える。

 

 「もうじき終わる。こんな世界はな」

 

 目を閉じるだけであの時の絶望や痛みが思い出される。

 

 「母よ、見ていているかな。これこそがこの世界の真実なのだと。可能性など世界を腐らせる毒そのものなのだと。貴方に教えてあげましょう」

 

 薬の飲みロッカールームを出ると、準備の整ったプロヴィデンスに乗り込む。

 

 最後の瞬間に相応しい相手を迎えよう。

 

 「来るがいい。ムウ、キラ・ヤマト、そしてアスト・サガミ。君達が世界の終焉、最後の生贄だ。私のこの手で葬ってやる」

 

 憎悪を滾らせ機体を立ち上げ、ペダルを踏み込む。

 

 「ラウ・ル・クルーゼだ。プロヴィデンス、出るぞ!」

 

 

 天帝が宇宙に飛び出すと同時に再び破滅の光が放たれる。

 

 

 ジェネシス内部に光が満ちると激しい閃光が戦場を駆け抜けた。

 

 その光をドミニオンで見ていたセーファスが何かに気がついたように叫ぶ。

 

 「推定目標は!?」

 

 反応したオペレーターがデータを分析しながら悲鳴のような声を上げる。

 

 その声は震えており、それだけで最悪の答えが予想できた。

 

 「照準は……月、プトレマイオス・クレーターと思われます!」

 

 ジェネシスから発射された閃光はそのまま進み、月に直撃するとクレーターに大きなキノコ雲が立ち上がるのがこの位置からでも見える。

 

 直撃した月基地がどうなったかなど考えるまでもない。

 

 そこにいた者達は何が起きたか理解するまでもなく、命を散らせただろう。

 

 そしてもう1つ気になる事があった。

 

 「増援は?」

 

 「は?」

 

 「月から来る予定の増援部隊はどうなった!?」

 

 その言葉に気がついたようにCⅠCが忙しなく動き出す。

 

 もしもあの攻撃に巻き込まれていたら―――

 

 「支援隊より入電! 『先の攻撃で艦隊の半数を損失』」

 

 「なにっ!?」

 

 アズラエルがシートから立ち上がり絶句する。

 

 これで完全にこちらの勝ちはなくなった。

 

 しかし、あの兵器だけは何とかしなくてはなるまい。

 

 ドミニオンクルーが絶望に沈む中、セーファスだけは前を見据えていた。

 

 

 

 ジェネシスの2射目が発射された事は同盟軍も観測していた。

 

 これで地球軍の勝利は無くなったといっていい。

 

 しかしザフトがジェネシスを停止させる様子は無く、それどころか再びミラー交換し、次の発射を準備している。

 

 カガリはクサナギのブリッジでそれを確認すると顔を歪めた。

 

 ザフトは再びアレ使うつもりらしい。

 

 傍に控えたキサカとマユラの顔を見て頷く。

 

 「何としてもこれ以上は撃たせる訳にはいかない! 作戦を開始する、同盟軍出撃!」

 

 カガリの合図に合わせ各艦が戦場に向けて、メインスラスターに火を点す。

 

 そしてオーディンのハッチが開くと同時にモビルスーツが発進する。

 

 「キラ・ヤマト、フリーダムガンダム行きます!」

 

 「ラクス・クライン、ジャスティスガンダム参ります!」

 

 飛び出した2機の背中にスレイプニルが装着されるとブースターを吹かし、一気に戦闘区域まで加速する。

 

 そしてアストもまた開いたハッチの先を見据える。

 

 初めて出撃した時から自分の気持ちは変わらない。

 

 いつも大事な人達の為に―――そう思ってきた。

 

 今回も同じだ。

 

 「レティシア・ルティエンス、アイテルガンダム出ます!」

 

 「マユ・アスカ、ターニングガンダム出ます!」

 

 リンドブルムを装着したアイテルとターニングが発進していく。

 

 そしてアークエンジェルからもアドヴァンスストライク、アドヴァンスデュエル、スウェアが次々と戦場に向かっていく。

 

 目を閉じて今までの事を思い出す。

 

 つらい事もあったし、失ったものもある。

 

 でも、それだけではない。

 

 レティシアやラクス、マユ、イザーク、他の大切な人達とも出会い、そして救われた。

 

 だから―――

 

 いつもと変わらない決意を再確認すると目を開く。

 

 ジェネシスを破壊し、そして奴らと決着をつける。

 

 「アスト・サガミ、イノセントガンダムフルウェポン、行きます!」

 

 イノセントは戦場に飛び出す。

 

 ここに決戦の幕は上がった。

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