ジェネシスの攻撃を受けた地球軍は完全に追い込まれてしまった。
月基地は壊滅し、増援もこない。
だがあの兵器だけは絶対に破壊しなければならない。
にも関わらず―――
「核攻撃隊を出せ! 目標はプラント群だ! あの忌々しい砂時計を一基残らず叩き落せ!」
《了解しました!》
アズラエルの命令に何の疑問も抱かず、サザーランドは忠実に返事をする。
この期に及んでまだそんな事を言っているとは。
「……本当に呆れるな」
仮にプラントに核を撃ち込んだとして、報復として地球にジェネシスが撃ち込まれないと本気で考えているのだろうか。
「アズラエル理事! それでは地球に対する脅威の排除にはならな―――」
「ああ、もう、うるさい!」
アズラエルは癇癪を起したように喚き、さらに捲くし立てるように叫んだ。
「いちいち反抗してうるさいんだよ! 大体コーディネイターすべてが地球にとっての脅威なんだ! それを討ちに来てるのに、アンタは反抗的な態度ばかりで!!」
「仮にプラントを撃ったとして本当にジェネシスが止まるとで―――」
「黙って従えよ! それが軍人だろうが!」
アズラエルの怒声にブリッジが静まり、そこに通信士がおそるおそる報告する。
「……ドゥーリットルより、核攻撃隊の準備が整ったと」
「発進だ! カラミティ、フォビドゥン、ゼニスに道を開かせ、クロードに護衛させろ!!」
「は、はい」
勝ち誇ったようにこちらを見下ろしてくるアズラエルをセーファスはただ冷たい視線で見つめていた。
あえてやめろとは言わない。
そんな事をしても無駄であり、彼らがそれをさせないと分かっていたからだ。
短い間とはいえ共に戦場を駆け抜けた仲なのだから。
その証拠に再び白亜の艦がこの宙域に迫っていた。
アズラエルの命令を受けた地球軍の戦艦から何機もメビウスが発進し、プラントに向かっていく。
目的は、核ミサイルによる直接攻撃である。
もちろんザフトもゲイツやシグーと言った防衛部隊が核攻撃隊を迎撃するために一気に接近して来ていた。
「プラントを撃たせるなぁ!」
「ナチュラル共がぁ!!」
ビームライフルでメビウスを落そうとロックしパイロット達がトリガーを引こうとした瞬間、逆に放たれたビームに機体を抉られ撃墜されてしまう。
「な、なんだ!?」
「あれは……」
ザフトのパイロット達が絶句する。
そこにいたのは先程まで自分達を蹂躙していた敵、カラミティ、フォビドゥン、ゼニスの3機であったからだ。
オルガ達は戦場にいるとは思えないほど無邪気な笑顔で言い放った。
それは彼らにとって死刑宣告に等しい。
「あれに手を出してんじゃねぇよ!!」
「綺麗なんだからさぁ!!」
「殺す!」
オルガとシャニの心情はこの時珍しく共通していた。
あの光ですべてが消えていく様は最高であり、何回見ても飽きる事はないだろう。
「だからぁ、邪魔する奴は全員殺す!」
「おらぁぁ!!」
カラミティのスキュラが敵機を撃墜するとそれに続いてゼニスがスヴァローグを跳ね上げ敵部隊目掛けて撃ち込んだ。
凄まじいビームが敵部隊を薙ぎ払い、残りの敵機はニーズヘグの餌食となり、真っ二つに両断された。
「邪魔だよ!」
「死ねぇぇ!!」
圧倒的な力の前に為す術無くザフトのモビルスーツは蹂躙されていった。
彼らの通った後に残るものは屍のみ。
ただ破壊された後を示す残骸だけが広がっていく。
「ぐあああ!」
「おらおら、どうした!」
撃ち抜かれ撃破されたモビルスーツを嘲笑する。
「相変わらず手応えねえなぁ! もっとマシな奴はいないのかよ!」
止める者も居らず、ただ暴れ回っている3機のガンダム。
そこに進攻を阻むかのようにビームが何条にも迫ってきた。
「誰だよ、俺らに邪魔しようって奴は!?」
「ハ、わざわざ殺されにご苦労なこったな!」
誰であれ殺す事に変わりはないとオルガ達は嬉々とした表情で攻撃が来た方向に視線を向けた。
ビームを撃ち込んだのは撃破されていく味方を救うために駆けつけてきたディアッカ達であった。
「くそ! これ以上好きにはさせない!」
「行くぞ、ニコル!」
「ええ!」
3機のガンダムを確認したオルガ達もまたも歓喜の声を上げた。
同盟軍の連中と同じくらい気に入らない連中だ。
先ほどの続きに来たというならば望むところである。
「前に邪魔した奴!」
「借りは返すぜ!」
「今度こそ殺す!!」
再びガンダム同士の戦いが始まり、その激しい戦いの前に他の者が近づく事もできない。
そして核攻撃に備えていた特務隊とシリルも防衛ラインで戦闘を開始していた。
突破して来たストライクダガーをビームソードで斬り裂き、ミサイルで敵部隊を一掃すると視線を別方向に向ける。
その先には核攻撃隊を思われるメビウスとガンダム同士での戦闘が見えた。
「不味いな」
あれでは再び突破される可能性もある。
「だとしてもプラントを撃たせる訳にはいかない!」
シリルは急ぎ援護のためミーティアをそちらに向けようとしたのだが、再び妨害が入ってくる。
ボアズで対峙した3機、スウェン達であった。
「ボアズの奴か!」
交戦したからこそ分かる。
あれはエース級のパイロット達だ。
本来ならこちらで抑えたい所なのだが、今は相手にしてはいられない。
「お前らは邪魔だ! 今はこのまま一気に突破する!」
ミーティアの推進機で機体を加速させ、前方の三機に向け突っ込ませた。
「シリル・アル―――ッ!?」
スウェン達を突破する為、交戦を始めたシリルの援護に向かおうとしたシオン達にも連続で攻撃が撃ち込まれてくる。
「また地球軍の雑魚か?」
「シオン、アレを!?」
スラスターを使って正面に加速し攻撃を回避するとクリスの示した方向を見る。
そこには先の戦いで邪魔をしてきた黒いイレイズがビームライフルを構えてこちらを見下ろしていた。
「奴か!!」
シオンは思い上がりともいえるイレイズの様子に激しい苛立ちを覚える。
「ナチュラル風情が! 図に乗るなよ!!
「シオン、あのイレイズは厄介ですよ!」
「分かっている!」
苛立ちを吐き出すようにシオンとクリスはスナイパーライフルとガトリング砲でイレイズを牽制する。
「さて、また私の相手でもしてもらおうかな」
クロードは撃ち込まれたビームを機体を下がらせる事であっさり回避すると逆にビームを撃ち返す。
すべてを読みきったような回避行動、そして正確な射撃、それらすべてがシオンをさらに苛立たせる。
「ナチュラル如きが! 舐めるな!」
怒りに任せクラレントを抜き放ち、一気に突進したシグルドは後退したイレイズの懐に飛び込み胴目掛けて叩きつける。
それは敵を仕留める為に繰り出した渾身の一撃だった。
しかしクロードはそれすらも機体を右に流す事で捌き、援護の為にクリスが放ったスナイパーライフルによる狙撃をシールドを使ってあっさり防いで見せた。
「なんだと!?」
「あれを防いだ!?」
「悪くはないが、甘いな」
彼らの技量は前の戦闘で把握済みである。
その上でシオン達に下した評価は典型的なザフト兵であるという最低に近いものだった。
彼らは確かにナチュラルに比べ、個人の力が優れていると言っていい。
しかし、その力に自惚れ自分達が負けるはずがないと相手を見下す。
「生憎そんな愚か者どもに後れは取るつもりはないのでね」
クロードはまるで舞うように鮮やかな動きを見せ、余裕で相手の攻撃を捌いていく。
しかも今回はミーティアを装備した機体もいないとなれば、なんら脅威になる事もない。
「君達にはこのまま踊ってもらおう。安心したまえ、今回もあくまで足止めだからね。撃破する気もない。だからここではない場所に来てもらおうかな」
背中のガンバレルを展開し、執拗に狙ってくるシグルドに向け攻撃を仕掛けた。
ただし撃破するのではなく動きを制限し、誘導するように砲台を操作する。
「このぉ!」
「くっ」
2機のシグルドは四方からの攻撃に翻弄されながら、自分達も気がつかないうちに少しずつ防衛ラインから引き離されていった。
その様子を横目で確認したシリルは思わず舌打ちする。
「乗せられ過ぎだ!」
あのイレイズの技量は分かっている。
いかに特務隊とはいえ簡単には倒せない。
ならば自分が目の前の敵を突破しなければ、プラントは―――
「貴様ら、邪魔だぁぁ!!」
シリルのSEEDが弾け、105ダガーに猛攻を仕掛ける。
凄まじい速度の中ビームソードを展開し、ミサイルを次々に撃ち込んでいく。
「おいおい、そんなんじゃ当たんないぜ」
「ふん、こんなもので!」
シャムスとミューディーは回避運動を行いながらエネルギーライフルとリニアキャノンでミサイルを迎撃していく。
その爆煙に紛れ接近したスウェンはビームサーベルを袈裟懸けに一閃し、ミーティア側面に傷を負わせた。
「こいつはやはり手強いな!」
「……なるほど」
今の攻防でスウェンは冷静に敵の状態を看破した。
核攻撃を気にしてか、敵は冷静さを無くしている。
その焦りのあまり、精細さに欠け、荒々しい攻撃ばかりである。
これならいくらでも付け入る隙がある。
だが決して有利という訳ではなく、ボアズで知った敵の技量を考えると長期戦になればこちらが不利になるのは明白だ。
精細を取り戻し本来の実力を発揮する前に倒すのが最善である判断したスウェンは振り下ろされたビームソードを掻い潜り、ビームサーベルを逆袈裟に振るうと左のアームユニットを切断し破壊した。
「くぅ!」
「……このまま押し切る」
「図に乗るなァァ!!」
バスターダガー、デュエルダガーの援護を受けながら突っ込んでくる105ダガーに怒声を浴びせながら攻撃を仕掛ける。
しかしこちらの焦りをあざ笑うかのように完璧な連携を取るスウェン達を突破する事ができない。
ミーティアの弾幕を避け回り込んで来た105ダガーのビームが機体を掠めていく。
「チッ!」
そして再びプラントを射程圏内に捉えたメビウスが核ミサイルを発射した。
「くそ!」
「間に合わない!」
誰もが諦めかけた瞬間、またも別方向から来た機体に核ミサイルが次々と撃破され、プラントを前に誘爆したミサイルが大きな閃光を生み出した。
前回の戦闘と全く同じ様に飛び込んで来たのは2機―――
「フリーダム、ジャスティス、同盟軍か!」
スレイプニルを装着したフリーダムとジャスティスが一斉に砲撃を開始する。
「撃たせない!」
「やらせませんよ!」
ターゲットをロックしたフリーダムとジャスティスの砲門から激しい光が飛び出していく。
放たれたビームとミサイルが核を撃ち抜き、さらにイノセント、ターニングなどが続くとビームライフルで狙撃し、撃ち抜かれた核ミサイルの閃光で暗闇の宇宙が照らされた。
「あいつら!」
「また、邪魔をして!」
同盟軍の機体に気がついたオルガが迎撃に移ろうとするが、Tデュエルがそれを阻む。
「行かせるか!」
カラミティの砲撃を潜り抜け、クラレントを横薙ぎに叩きつけた。
オルガはシールドを掲げ対艦刀を受け止めるとスキュラで迎撃する。
砲撃を回避しながらエリアスは核ミサイルを撃ち落とす同盟軍の機体を見て、思わず熱いものが込み上げてくるのを感じていた。
それはディアッカやニコルも同じである。
正直なところイザークの話を聞いた後であっても同盟軍に対しては非常に懐疑的であった。
イザーク個人は信じられても他は分からない。
同盟軍も地球軍と同じく核を使ってくるのではないか、そんな風に心のどこかで疑っていた。
しかし、今プラントを守ってくれている。
そう、彼らは地球軍とは違うのだとその事だけは理解できた。
ならば―――
「はあああ!!」
スラスターを使ってカラミティの射線から逃れるとクラレントを一閃する。
そんなTデュエルの攻撃を回避すると苛立ったのだろう。
3機はフリーダム達からTデュエルに目標を変えてきた。
「計算通り! 単純で助かるぜ! 先輩!」
「おう!」
「了解!」
もう核攻撃に気を取られる事はなく、思いっきりやれる!
バスターが対装甲散弾砲でゼニスを吹き飛ばすと、ブリッツがランサーダートでフォビドゥンを狙う。
「邪魔だぁ!」
シャニはランサーダートをニーズヘグでなぎ払うと、フレスベルグで反撃する。
ブリッツを狙いビームをゲシュマイディッヒ・パンツァーで歪曲させてきた。
「当たりませんね!」
もうそれは何度も見たと曲げられたビームを紙一重で回避するブリッツだが、逃がさないとばかりに連続でフレスベルグを放ってくる。
「うらぁぁ!!」
シャニの執拗な追撃。
だがニコルは焦ってなどいなかった。
何故なら―――
「この―――ぐあああ!!」
何が起きた!?
完全に別方向からの攻撃。
執拗にブリッツに攻撃を仕掛けていたシャニは後ろから同盟軍機スウェアが接近していた事に気付いていなかったのだ。
だからこそシャニの思考は一瞬停止した。
ザフトと同盟軍は敵同士の筈で、何故敵を助けるような真似をするのかと。
元々彼らの関係など知らないシャニが混乱するのも無理はない。
だがここは戦場であり、その一瞬が彼の致命的な隙となってしまった。
動きを止めたフォビドゥンにバスターが対装甲散弾砲。
そしてスウェアもまたタスラムを構え、挟み撃ちにする形で放った双方の攻撃が直撃したフォビドゥンは完全に体勢を崩してしまった。
普通ならこれだけの攻撃を食らえば機体は無事でもパイロットは相応のダメージを受けるだろう。
しかし強化されているシャニには通じない。
「お前らぁぁぁ!!」
体勢を崩しながらも怒りに任せバスターとスウェアにフレスベルグを叩き込もうとトリガーを引こうとした瞬間―――
「え」
あまりにあっけなくゲシュマイディッヒ・パンツァーが腕ごと両断されてしまった。
何もない筈の空間から発生するビーム刃。
次の瞬間、姿を見せたのは黒い機体ブリッツ、それがシャニが見た最後の光景だった。
「ミラージュ・コロイドはこう使うんですよ!!」
回避行動を取る事も出来ずコックピットにビームサーベルを叩き込まれ、シャニは声を上げる暇もなく蒸発した。
そのままフォビドゥンと蹴りを入れて突き放すと流れるように後退していき爆散、大きな閃光を作った。
「シャニ!? チィ!!」
フォビドゥンが落された事によりビームに対する防御はなくなった。
しかし最初から当てになどしていなかったオルガはそれすら気にせず前に出る。
「おい、エフィム! お前は後から来た奴をやれよ!!」
「おおおお!!」
呼びかけるオルガに対しエフィムは叫ぶだけ。
だがゼニスはオルガの要求通り援護してきたスウェアにネイリングで斬りかかる。
「やめろォォ!!」
しかし、今度は横からアドヴァンスデュエルがシヴァを放ちながらゼニスに機体ごとぶつかり吹き飛ばした。
「ぐううう」
「エフィム、俺だ! トールだ!!」
「うるさい!!」
2機が絡み合いながら離れていく姿を横目で確認したオルガは思わず舌打ちする。
「あいつも役立たずかよ!」
カラミティすべての武装で弾幕を張りながら敵機を近づけまいと応戦する。
「俺が負けるかァァ!!」
だが、それは完全な悪手であった。
放たれたミサイルをスキュラで迎撃すると発生した爆煙に紛れバスターから超高インパルス長射程狙撃ライフルの一撃が放たれる。
「チッ!」
強化されたオルガだからこその反応で機体を逸らしギリギリ回避する。
だがバスターに気を取られた隙にスウェアが回り込みビームサーベルを横薙ぎに斬り払った。
「これで!!」
スラスターを使う事で胴への直撃は避けたのものの、左足が斬り飛ばされる。
「ぐっ、くそぉ!」
片足を失ったカラミティは咄嗟に後退しようとするが遅すぎた。
スラスターを全開にし一気に懐に飛び込んできたTデュエルはクラレントを袈裟懸けに叩きつけてくる。
「落ちろ!!」
クラレントの軌跡を眺めながらオルガはようやく気がついた。
シャニを撃破された時点で自分達に残された選択肢は撤退しかなかったのだと。
「お、俺が―――」
そのまま対艦刀の一太刀によって斬り裂かれたカラミティはあっさりと撃破され、宇宙に消えた。
地球軍のガンダム2機が撃破された頃、スウェン達とシリルの戦いも決着の時を迎えようとしていた。
核ミサイルが迎撃された事でシリルの焦りが消え、いつも通りの技量を発揮しスウェン達に猛攻を加えている。
「はあああ!!」
ミーティアから繰り出されたミサイルの雨をビームライフルとイーゲルシュテルンで迎撃すると、再び斬り込もうとビームサーベルを構える。
しかし―――
「何時までも同じ手は食わない!!」
絶妙のタイミングでミサイルを撃ち込んでくる為、迂闊に斬り込めず、しかもあの火力である。
このまま距離を取られれば勝ち目がない。
「埒が明かないわね!!」
「たく、火力だけはありやがるな」
唯一隙があるとすれば左側だ。
片側のアームユニットは先程スウェンが破壊した為、若干火力が弱い。
そこから活路を見いだせるかもしれないが、問題は相手は普通のパイロットではないという事。
迂闊に連携を崩せばそこから一気にやられてしまうだろう。
「……どうする?」
しかしシリルもスウェン達が攻めてくるのを待つほどお人好しではない。
特にスウェンの実力を高く評価し、ここで確実に仕留めておくべきであると判断した事で一気に勝負に出た。
「お前のような危険なパイロットは、ここで仕留めさせてもらう!」
3機を狙いミサイルを発射すると迎撃される前にミーティアのビーム砲で撃ち抜き、撃墜する。
爆煙が周囲を覆い視界を遮った隙にコンビクトを分離させるとバーニアを使って距離を詰め肩のビームランチャーを発射した。
「あっ」
完全に虚をつかれ、ミューディーが反応する前にデュエルダガーはビームランチャーに撃ち抜かれて爆発した。
「ミューディー!!!」
「くっ」
「てめぇぇぇ―――ッ!?」
デュエルダガーが落とされ、冷静さを無くしたシャムスがコンビクトに向け全砲門を構えた。
「砲戦仕様の機体が、前に出てどうするんだよ!」
シリルはビームランチャーのパージと同時に流れるような動きで懐に飛び込むとバスターダガーを横薙ぎに斬り裂いた。
咄嗟に後退した事でバスターダガーは爆散だけは免れたものの、完全にコックピットを抉られている。
パイロットはすでに―――
「後はお前だけだ!!」
スウェンは自分の中にまだこれだけ感情が残っていたのかと驚くほど怒りに支配されていた。
いくつか問題はあったかもしれないが、彼らは仲間だったのだ。
それをあっさり奪った敵を鋭い視線で睨みつけた。
コンビクトはバーニアを吹かし、距離を詰めてサーベルを逆袈裟に叩きつけてくるが、シールドを使って横に捌くと逆に斬り返す。
どうやら敵機はこちらを近接戦闘で仕留めるつもりらしい。
「……望むところだ」
火力に物を言わせた遠距離戦であれば完全に勝ち目はない。
性能差が大きく開いている現状ではスウェンにとって接近戦の方がまだチャンスがある。
「はあああああ!!」
「チィ!」
互いの斬撃が交差し、激しく火花を散らす。
連続で左右から繰り出される斬撃を直接受け止める事は極力せずシールドで滑らすように捌いていくが、コンビクトのパワーに押され105ダガーに刻まれる傷が徐々に増えていく。
「……どうにか打開しなければ―――ッ!?」
蹴りを入れられ体勢を崩された瞬間に上段から振り下ろされる斬撃。
それを何とか受け止めるが、スウェンは思わず舌打ちする。
正面から受け止めてしまった。
パワーの違いによりシールドで受け止めたビームサーベルが徐々に押され、105ダガーの肩に刃が食い込んでくる。
「くっ」
「これで終わりだ!」
そのままシールドごと左腕が切断され、さらに頭部を殴りつけられた。
「ぐあああ!!」
それによりセンサーが破損し、さらにモニターの一部が死んだ。
「ぐぅ、まだだ!」
しかしスウェンもただではやられない。
吹き飛ばされる瞬間、ビームサーベルを投げつけコンビクトの左肩に突き刺した。
「無駄な足掻きを!」
予想外の損傷を負ったがこれで終わらせる。
コンビクトはビームサーベルを引くよう突きの構えを取った。
スウェンは歯噛みしながらも諦める事無く周囲に視線を走らせるととある物が視界に飛び込んでくる。
「一か八か。やるしか無いな」
咄嗟に思いついた策を実行する事を決断する。
死ぬかもしれないがそれはこのままでも同じだからだ。
スウェンは近くに漂っていたバスターダガーの残骸を掴み投げつけると突っ込んでくるコンビクトを引き離すように加速する。
「逃がすと思うか!」
シリルはバスターダガーを避けバーニアを全開にして105ダガーの後を追った。
複雑な軌道で簡単に追いつかれないようにするものの、やはり性能差が大きいのかすぐに差が詰まってくる。
「やはり速いな」
コンビクトはビームライフルで105ダガーの動きを鈍らせ、追いついた所にビームサーベルを背後から叩きつけた。
「殺った!!」
シリルは敵機を斬り裂き撃破した事を確信するがこれはスウェンの思惑通りであった。
ビームサーベルが直撃する瞬間を見計らいエールストライカーをパージする。
「なにっ!?」
それはかつて『白い戦神』がとった戦法と同じであった。
斬り裂かれたエールストライカーが爆発すると同時にスウェンは反転しコンビクトに体当たりで突き飛ばした。
「悪あがきを!」
吹き飛ばされたシリルはスラスターで動きを止めようとするが途中で何かにぶつかった。
コンビクトが衝突したのは先程パージしたミーティアであった。
「くっ、ミーティアだと!? 何を―――ッ!?」
視線の先にいた105ダガーは残った右腕のビームライフルを構えていた。
スウェンの狙いは始めからこれだったのだ。
「これで!」
「しまっ―――」
気がついたとしてもすでに遅い。
シリルは確かに焦りが消えいつも通りの実力を発揮していた。
しかし冷静であったかと言われればそうではない。
彼はプラントに対する核攻撃により、自分でも気がつかないうちに怒りで冷静さを失っていた。
それが彼の敗因だった。
ビームライフルの攻撃で撃ち抜かれたミーティアは搭載されたミサイルが誘爆し、激しい爆発を引き起こす。
さらにスウェンにはもう一つ狙いがあった。
ほぼ武装は無傷でいたバスターダガーである。
これも一緒に誘爆させる事でさらに爆発を大きくするつもりだったのだ。
狙い通りミーティアの爆発にそばに漂っていたバスターダガーも巻き込まれ、さらに爆発を大きくした。
それに巻き込まれたコンビクトは爆発の閃光の中に消えていった。
105ダガーもまた爆発の衝撃に巻き込まれ吹き飛ばされ、その衝撃の中、スウェンは意識が遠くなっていった。
「エフィム!」
「おおおおお!!」
ゼニスとアドヴァンスデュエルは激しい攻防を繰り広げていた。
ネイリングによる斬撃を間一髪で受け止めると、ビームサーベルを横薙ぎに振るうがシールドで逸らされる。
「エフィム、俺だ! トールだ!!」
「うるさい! うるさい!!」
トールの呼びかけを拒絶するかのようにエフィムは叫ぶ。
「くそ、駄目か。こちらの言う事を聞いてな―――」
ゼニスは受け止められたネイリングを一瞬引き、デュエルが動揺した隙に蹴りを入れてくる。
「ぐあああ!」
どうにか蹴りの衝撃をやり過ごし、スラスターを逆噴射させると後退しながらシヴァとミサイルを発射する。
「死ねェェェ!!」
しかしスヴァローグによる攻撃でミサイルはすべて迎撃されてしまう。
「強い! でも俺だって!」
ここまでエフィムが押し気味とはいえ、トールはどうにか互角の戦いに持ち込んでいた。
強化されている筈の彼と五分の勝負に持ち込めた訳。
それを可能とした理由―――それはトールはエフィムの戦い方を知っていたからである。
より正確にいえば彼の動きはトールの知っている者達の戦い方とよく似ていたのだ。
アストとキラ、2人の戦い方である。
2人はスカイグラスパーに搭乗していた時からアスト達の戦いを常に傍で見て、さらに訓練も共にした。
だからこそモビルスーツに乗ってからの戦い方にも影響を受けていた。
何よりトールはそんな彼らと毎日訓練を積んでいた。
だからこそエフィムの動きの癖に気がついたのだ。
「全く、こっちの事は全然覚えて無い癖さ」
トールは思わず苦笑しながら、呟いた。
あれだけ、喧嘩もしたし、仲もそう良かったとは言えない間柄だったのに―――こんな所だけは自分とそっくりだ。
上手く武装を使い分け、懐に飛び込み振るわれた斬撃がゼニスの肩部装甲を浅く傷つけ、さらにシヴァを至近距離で叩きつけた。
「これでどうだ!」
これでエフィムの動きを鈍らせる事くらいは出来る筈だとそう判断したトールだったが、すぐに間違いを悟った。
今の攻防でも全く堪えた様子もなく、再び猛烈な勢いで突っ込んできたのだ。
「な!? 今ので堪えてないのかよ!?」
「死ねェェェ!!!」
シールドで突き飛ばされたトールは腰のビームガンで動きを牽制しようとするが、ゼニスは予想以上の動きで回避していく。
「反応が速すぎる!」
両者には元々そこまでの技量の差はなかった。
しかし現在2人に違いがあるとすれば、それは強化されているか否かである。
「うおおおおおお!!」
「くっ」
トールは強化されたエフィムの反応に徐々に対応できなくなっていった。
逆袈裟に振るわれたネイリングが胸部のアドヴァンスアーマーを削ると、さらにシールドを捨て片方のネイリングで右腕を斬り落とした。
「うあああ! ……エ、エフィム」
トールはネイリングを受けた衝撃で意識を失いかけるが何とか歯を食いしばると、残った左腕のブルートガングを展開した。
とはいえブルートガングではビームを受け止める事は出来ない。
ここまでか―――
「これで落ちろぉぉ!」
両腕のネイリングが挟み込むように振り下ろされる。
「……ごめん、ミリィ。俺はここまでみたいだ」
だが、ここで予想もしていなかった事が起きた。
振り下ろされようとしていたネイリングが眼前で止まったのだ。
「一体、何が?」
「ぐっ、がああああああ!!」
禁断症状だった。
強化されているが故に彼の戦闘可能な時間には限りがある。
今その限界時間が来たのである。
「エフィム、どうしたんだ!?」
「あああああああ!!!!!」
想像を絶する苦しみの中、エフィムが無意識の内に選択したのは母艦への帰還だった。
母艦には薬もあり、機体の補給もできる。
彼が無意識とはいえ帰還を選択するのはある種、当然の事であった。
呆然とするトールの目の前でゼニスは反転すると、一気に加速し離脱していく。
「あ、待て! エフィム!!」
慌ててトールもまたエフィムの後を追った。
地球軍のガンダム3機が撃墜された事で完全に核攻撃隊は無防備になっていた。
護衛のクロードも特務隊を引き離していなくなっている。
これにより彼らは尽くフリーダム、ジャスティスの砲火に晒され、撃破されていく事になった。
同時にイノセントはロングレンジビームランチャーで母艦と思われるアガメムノン級を狙う。
「このまま沈めさせてもらうぞ!」
迎撃のビーム砲を常人では捉える事も出来ない軌道で翻弄すると、ビームランチャーを発射した。
凄まじいビームによって艦に穴が開けられ、そこから火を噴き各所に広がって爆散する。
さらに続くように僚艦に対してアイテルがプラズマ収束ビーム砲を放ちブリッジを潰していくと、ここで新武装を展開する。
「落します!」
レティシアの声に反応するかのように背中から何かが四方に散るように放出される。
それはプロヴィデンスに搭載されていたものと同じドラグーンシステムである。
切り離された砲撃端末が次々と戦艦の砲台、ミサイル発射管など潰すと戦艦は沈黙し、さらにエンジンにビームが直撃すると大きな爆発が起こり、沈んでいく。
他の戦艦も同様にザフトや同盟軍の攻撃により、戦艦が次々と沈められていった。
それを見ていたアズラエルは「あ、ああ」と声を洩らす。
決定的である。
元々ジェネシスで月基地が破壊された時点で決着はついていた。
残った戦力をすべてジェネシス破壊の為に使ってなお成功するかどうか分からない状態だったのだ。
セーファスはため息をつくと同時に指示を出した。
「……アークエンジェルに繋げ。降伏の後、ジェネシス破壊の協力を頼む」
彼らならば受けてくれるだろう。
乗員の事も悪いようにはしない筈だ。
しかしその言葉に反応したのはアズラエルである。
どこか呆然としていた表情は憤怒に変わり怒鳴りつけてくる。
「ふざけるなぁ!! 奴らは敵なんだぞ!!」
立ち上がりアズラエルと正面から睨みあった。
「だからなんです? 今この現状でジェネシスを破壊できるとしたら同盟軍しかいない。ですから―――」
その言葉は最後まで続かなかった。ブリッジに乾いた音が響く。
アズラエルが持っていた小型の拳銃で発砲したのだ。
腹部を撃たれたセーファスは前かがみに倒れ込む。
「セーファス!!」
CICのナタルが飛び出してくる。
「動くな! そこの裏切り者みたいになりたくなかったらな!!」
「貴様ぁ!」
「動くなって言ってんだよ!」
「いい加減認めたらどうです! 我々は負けたんですよ!!」
ナタルの言葉にアズラエルはさらに錯乱したように叫び出した。
「違う! 違う、違う、違う!!! 僕は負けてなんていないんだぁぁぁ!!」
ナタルに拳銃を突きつけて引き金を引こうとした瞬間―――
「誰が私の女に手を出して良いと言った?」
「えっ」
振り向いたアズラエルの頬に硬い拳が突き刺さり床にぶつかってバウンドする。
腹を押さえたセーファスの一撃でアズラエルは殴り飛ばされていた。
「があああ! 痛いぃぃ!!!」
アズラエルが意識を失っていなかったのは無重力であった事と負傷していたので上手く力を乗せられなかった為だ。
それでもアズラエルを恐怖させるには十分だったらしく、這いずる様にブリッジから逃げだしていった。
「ぐっ」
「セーファス! 誰か早くドクターを呼べ!!」
「は、はい!」
「私は良い。それより早くアークエンジェルに」
一連の出来事に同然としていたブリッジクルー達は慌てて動き出した。
ブリッジから逃げ出したアズラエルは殴られた頬を抑えながら格納庫に向かって走っていた。
格納庫に向かっている事に意味はない。
ただこの艦から出る方法が思いつかなかった彼は格納庫なら何かあるだろうと思っただけである。
どうしてこうなった?
何故僕がこんな目に遭うんだ?
それもすべてコーディネイターの所為、そしてそれに味方するあの男セーファス・オーデンの所為―――
「覚えてろよ。ただで済ますものか」
必ずこの借りは返すぞ。
彼は錯乱しているのか現在ドミニオンは戦場のど真ん中にいる事に気がついていなかった。
いや、忘れていたというのが正しいのか。
何にしろここから飛び出して生きて帰れる保障などない。
そんな事にも気がつかず息を切らせ辿り着いた格納庫の中を見渡す。
そこにはアズラエルが予想もしていなかったモノがあった。
2機のメビウスである。
それには今欲して堪らないもの、核ミサイルが装備してある。
これはジェネシス破壊の為にナタルに指示してセーファスが密かに運び込んでいたものであった。
「あ、あはは、あははははははは!!」
これがあれば―――
アズラエルは歓喜の笑い声を上げながら止めようとする整備班の人間を銃で脅しメビウスに乗り込んだ。
動かすくらいならば自分にもできる。
「セーファス・オーデン、見ていろよ。お前の思い通りにさせるものか!」
ミサイルでドミニオンのハッチを破壊すると目の前には白亜の艦アークエンジェル。
許さない。
あの艦の為に自分はこんな目にあっているのだ。
「疫病神め!!」
アズラエルは自分の事に考えが至っていないのか、核ミサイルのスイッチに指を乗せた。
この距離で核など放てば自分もただでは済まない。
しかし、この時彼の頭にあったのは屈辱を与えた者達に対する報復のみである。
それが彼の運命を決定した。
ドミニオンからアズラエルが飛び出した時、帰還しようとしていたゼニスが丁度辿り着いていた。
その後ろには後を追う傷ついたアドヴァンスデュエルの姿がある。
「エフィム、正気に戻れ! 俺だ! トールだ!」
「あああ、ああ、ト、ール?」
その言葉でエフィムの頭に今までになかった反応が起きた。
見た事もない光景、聞いた事もない言葉、そんな物が脳裏に浮かんでくる。
どこかの街にいる自分。
戦艦と思われる場所にいる自分。
何かのシミュレーターをしている自分。
同年代の少年と言い争っている自分。
そして―――何かの機械に入れられている自分。
そんな自分に何か語りかける金髪の嫌らしい笑みを浮かべたスーツの男。
≪君には余計な事は忘れてもらうよ。安心して良い。その代わり力をあげよう。敵を殺す力をね≫
「ぐあぁぁ、頭が、痛い」
俺は―――
コーディネイターを殺す?
いや、仲間を助ける?
錯乱したエフィムにトールの声が響く。
「エフィム!!」
「ぐっ」
こいつは誰だ?
トール?
どこかで?
息が切れ、凄まじい苦しみの中でエフィムの視界に見えたものは白亜の艦に攻撃しようとしているメビウスの姿。
「アークエンジェル! やらせるかよ!」
トールの叫びと飛び出していアドヴァンスデュエルの姿を見た瞬間、エフィムはペダルを踏み込みメビウスに突進していた。
そう、前にもあった。
こいつと一緒に戦った事がある。
そうだ、俺はこの艦を―――
「守る!!」
ゼニスがアドヴァンスデュエルを追い抜かし、機体ごとメビウスに衝突するとそのままアークエンジェルから離れていく。
「なにぃぃ!?」
アズラエルは凄まじい衝撃に何が起きたのかわからないまま、ゼニスによって押し潰された。
「エフィム!!」
離れていくゼニスにトールは叫んだ。
何でアークエンジェルを庇うようなことを?
覚えてないんじゃないのか?
その時、通信機から微かに声が漏れてきた。
《……お前は……いつも遅いんだよ……トール》
「お前、俺のこと―――」
だがすでに遅い。次の瞬間、ぶつかった衝撃で傷ついた核ミサイルが爆発し、凄まじい閃光を生み出した。
「エフィムゥゥゥ!!!」
涙を流しながら叫ぶ。ゼニスは核ミサイルの爆発によって跡形もなく消滅した。
そこにはただトールの叫び声だけが響いていた。
各所で激戦が繰り広げられていた頃、後方に下がっていたヴェサリウスではようやくユリウス専用機の準備が整っていた。
ZGMF-FX004『ディザスター』
この機体はラウのプロヴィデンス同様ドラグーンシステムを搭載しているものの、ユリウスは近接戦を好んだため数は多くなく、その反面、操作性、加速性に重点が置いてある。
武装はドラグーンシステム以外に高出力のビームライフル、ビームソード、さらに対艦刀『クラレント』も装備し、腹部にはシグルド同様『ヒュドラ』を搭載している。
パイロットスーツに身を包み、コックピットに座るユリウスは順調に機体を立ち上げていく。
「アデス艦長、後を頼みます。ヴェサリウスは後方から支援を」
《了解です》
PS装甲が展開され全身が青紫に変わった。
「決着をつけるぞ、キラ。そしてアスト」
目の前のハッチが開く。
「ユリウス・ヴァリス、ディザスター出る!」
最強の男が出撃する。
戦場はさらに混迷を極めようとしていた。