機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第45話  兄と弟

 

 

 

 

 

 

 プロヴィデンスとの戦いで激しい損傷を受けたアスランはギリギリの状態でエターナルに向かっていた。

 

 「くっ、限界だな」

 

 ジュラメントはもう大破に近い。

 

 武装をほとんど失い、各部装甲は抉られ、スラスターは損傷し、真っ直ぐ進むだけでも一苦労である。

 

 今の状態ではこれ以上の戦闘はどう考えても無理なのだが、まだ戦いは終わる気配すらない。

 

 すぐに修復できるとも思わない。

 

 しかしこのままではどうにもならないと急ぎ母艦への帰還を目指していたアスランの耳に甲高い警告音が飛び込んできた。

 

 「敵か!?」

 

 モニターを確認すると視線の先に損傷を受けた地球軍の戦艦とストライクダガーの部隊がいる。

 

 どうやら撤退していた戦艦と鉢合わせになったようだ。

 

 そのまま無視してくれれば良いのに、律義に迎撃に出て来るつもりらしい。

 

 もしくは狩り易い獲物を見つけて、やられた憂さ晴らしでもしようと言うのかもしれない。

 

 「くそっ、今は戦える状態じゃない!」

 

 だが逃げようにも機体が上手く動かない。

 

 どうにかしようと計器を弄っている間にも、ストライクダガーがビームライフルを構え攻撃してくる。

 

 普段の機体状態ならば大した脅威にもならず、あっさり撃退して終わりだっただろうが―――

 

 「ぐぅぅ!!」

 

 生き残っているスラスターを使い機体を左右に動かしてビームを避けようとするが、完全にかわしきれず攻撃が掠めていく。

 

 敵もこちらが戦える状態ではない事に気がついたのか、確実に仕留めんとストライクダガーはライフルではなくビームサーベルを抜いて、突っ込んでくる。

 

 「動け、ジュラメント!」

 

 アスランの目の前にビームサーベル振り上げられる。

 

 こんなところで―――

 

 目の前に死が迫る中でも、目を逸らさなかったのはパイロットとしてのアスランの意地であった。

 

 だが、ビームサーベルが振り下ろされる事はなかった。

 

 ストライクダガーの腕が何かに吹き飛ばされたからである。

 

 「……一体何が?」

 

 振り向いたアスランの目に凄まじい速度で近づいてくる機体が見えた。

 

 青紫のカラーリングにザフト特有の造形、ユリウスの機体『ディザスター』であった。

 

 「間に合ったようだな」

 

 ディザスターはクラレントを抜くとジュラメントに攻撃を仕掛けようとしていたストライクダガーを横薙ぎに斬り裂き撃墜する。

 

 そしてビームライフルで同時に二機の敵機を撃ち抜いた。

 

 さらに攻撃を仕掛けてくるストライクダガーのビームを避けながら、ディザスターは何条ものビームを同時に敵機に直撃させ撃破していく

 

 「うああああ!」

 

 「化け物だぁ!」

 

ビームが直撃するたびに暗闇を照らす閃光が次々に生みだされていった。

 

 「速い」

 

 機体の速度だけではない。

 

 ユリウスの反応が速過ぎるのだ。

 

 地球軍のパイロット達はなにが起きたのか、どうして倒されたのかすら分からなかったに違いない。

 

 「アスラン、無事だな」

 

 「は、はい」

 

 「すぐに片づける。少し待て」

 

 そう言うとディザスターは再びスラスターを噴射させ戦艦に向かっていく。

 

 「……素直に逃げていれば良かったものを。私の部下に手を出した以上は見過す訳にもいかない」

 

 それは彼らにとっての死の宣告である。

 

 彼らは判断を間違えてしまった。

 

 素直にアスランを見逃していれば少なくともユリウスに遭遇する事はなかったのだから。

 

 「あの機体を落とせ!」

 

 戦艦から放たれたビーム砲を軽々回避すると機関砲でミサイルを撃ち落とす。

 

 はっきり言ってしまえば迎撃する必要はない。

 

 何故なら戦艦のCICではディザスターの動きについていく事ができず、上手く狙う事が出来なかったからだ。

 

 そんな攻撃を回避するなど容易い事。

 

 それでもわざわざ敵艦の攻撃を撃ち落としたのは、万が一にも動けないアスランに攻撃が及ばないようにするためだ。

 

 残ったストライクダガーをクラレントで側面から串刺しにすると、敵艦の放ったミサイルに投げつける。

 

 ミサイルの直撃で爆散した敵機の閃光に紛れ戦艦の砲台をビームライフルで次々に撃ち落とし、最後にブリッジをヒュドラで吹き飛ばした。

 

 「す、凄い」

 

 戦闘をただ見ていただけのアスランはその強さに身震いする。

 

 彼がザフト最強と呼ばれており、それだけの技量を持っている事は知っていた。

 

 摸擬戦などでも一度も勝った事がないし、負けたところなど想像さえできなかった。

 

 だからこそストライクに損傷を受けた時は驚いたものだ。

 

 しかし今のユリウスはアスランの知っているそれとは完全に別物である。

 

 だがその事を疑問に思う必要はない。

 

 要するにユリウスは今まで本気で戦った事などなかったのだ。

 

 「この機体は良い。今までは私の反応についてくる機体が無かったからな」

 

 「ユリウス隊長」

 

 「アスラン、エターナルではなくゼーベックに行け。そちらの方が近いし敵もいない」

 

 「え、ゼーベックに?」

 

 「ジュラメントではもう戦えないだろう。ゼーベックにお前の機体がある。受け取ってこい」

 

 「えっ、私のですか?……了解しました。えっと、あと、その報告しなければならない事が」

 

 アスランは若干躊躇ってしまった。

 

 過去を知るが故にユリウスがラウに対して親愛の情を持っている事を知っていたからだ。

 

 それでも彼には伝えなければならない。彼が情報を流していた事実とすでに彼を倒した事を。

 

 「クルーゼ隊長の事か?」

 

 「……はい。彼は―――」

 

 「逝ったか」

 

 「……はい」

 

 「……そうか。礼を言う、良く彼を止めてくれた。本当なら私が止めねばならなかったのだがな」

 

 その声には僅かながら感情が籠っていた。

 

 おそらく悲しみだろう。

 

 普段から感情を抑えているユリウスの変化だからこそ気が付く。

 

 だがそれをすぐに戒めるように、息を吐くといつもの冷静な声に戻っていた。

 

 「早く行け、私はこのあたりの掃討を済ませたらジェネシス方面の敵を排除する。お前もすぐに戻ってこい」

 

 「了解!」

 

 ジュラメントが動き出したのを確認したユリウスは敵掃討を開始した。

 

 動き出したディザスターを止められる者は誰もおらず、その周辺にいた敵機はすべて殲滅された。

 

 

 

 

 

 ジェネシスを巡る決戦は終わる気配も見せず激しさだけが増していた。

 

 すでに地球軍の半数以上が壊滅し、同盟軍もまたザフトの物量を前に劣勢を強いられている。

 

 そんな中をアストとマユは群がるように襲いかかってくる敵を薙ぎ払いながら突き進んでいた。

 

 「ここを通すなぁ!」

 

 「同盟軍め!」

 

 アストはビームライフルをかわしゲイツに接近してバルムンクを一閃して破壊。

 

 さらに後ろから重斬刀を振りかぶるジンをワイバーンで斬り裂いた。

 

 その後ろから飛行形態に変形したターニングがビームライフルで敵機の動きを鈍らせると、アグニ改で撃ち抜く。

 

 動き回るターニングにゲイツがビームクロウを振りかぶってくるが、即座にモビルスーツ形態に変形しビームサーベルを躊躇なくコックピットに突き刺した。

 

 「良し、このまま突破するぞ!」

 

 「はい!」

 

 だがザフトにも意地があるとばかりに突進してくる。

 

 もちろん彼らもイノセント、ターニング共に普通のパイロットではどうにもならない事は理解している。

 

 それでもプラントを守るために退く事はできないのだ。

 

 「怯むな!」

 

 「イノセントを落とせ!」

 

 それでもアストは容赦はしない。

 

 2人にも譲れないものがあるのだから。

 

 「死にたくないなら下がれ!!」

 

 向かってきたゲイツの攻撃が来る前に懐に飛び込むとバルムンクを袈裟懸けに振う。

 

 「はや―――」

 

 ゲイツのパイロットは敵機の反応の速さに驚愕しながらもバルムンクを受け止めようとするが間に合わない。

 

 斬艦刀の斬撃がゲイツを斬り裂き撃墜した。

 

 「おのれぇ!」

 

 「迂闊です!」

 

 さらに重斬刀を突きの構えで突っ込んできたジンを迎え撃つようにマユもまたビームサーベルを構えた。

 

 ジンのパイロットにとっては決死の一撃。

 

 だがそんな攻撃にもマユは焦るどころか冷静に機体を操作する。

 

 2機のモビルスーツが交差するとジンの重斬刀は空を切り、ターニングのビームサーベルが敵機の胴体を捉え、そのまま横薙ぎに斬り裂いた。

 

 「ハァ、ハァ」

 

 「いいぞ、マユ。その調子だ」

 

 「はい!」

 

 囲むように攻撃をしてくる敵機を落としたアスト達は進撃を再開する。

 

 しかし連続でビームが撃ち込まれ、立塞がる敵が再び現れた。

 

 そこにはアスト達にとって因縁の敵、特務隊が行く手を塞いでいた。

 

 「あの機体は!」

 

 「シオン達だな」

 

 攻撃を仕掛けた特務隊も必ず殺すと決めた相手を視界に入れ、戦意を滾らせる。

 

 「アストとヴァルハラにいた奴だな。丁度良い」

 

 「ええ、ここで決着をつけましょう」

 

 イレイズサンクションによって防衛ラインから引き離されるように誘導されたシオン達は再び前線に戻るために移動していた。

 

 その時にイノセントとターニングの2機を発見したのである。

 

 クロードにいいように嵌められ、苛立っていた2人とってこれは幸運であった。

 

 

 ―――少なくともこの時点ではそう思っていたのだ。

 

 

 「行くぞ!」

 

 「了解!」

 

 シオンはクラレントを、クリスはスナイパーライフルで狙いをつける。

 

 アストもまた彼らを迎え撃とうとバルムンクを構えた。

 

 「お前達とここで決着をつける!」

 

 アストにとってもこれは良い機会であった。

 

 因縁があるのはユリウス達だけではなく、シオン達も同じなのだから。

 

 トリガーに指を置きシグルドに攻撃を仕掛けようとした時、マユが予想外の提案を口にした。

 

 「アストさん、行ってください。ここは私がやります」

 

 「なっ、マユ!?」

 

 「今はジェネシス破壊が優先な筈です」

 

 それは正論ではあるが流石にシオン達を相手にマユ1人では―――

 

 「大丈夫です、私を信じてください! 必ず追いかけますから!!」

 

 アストは一瞬目を伏せるとすぐに決断する。

 

 そのままトリガーを引き、肩のミサイルポッドでシグルドを攻撃した。

 

 もちろんこれでシオン達が倒せるとも思っていないし、マユの提案を無視した訳でもない。

 

 当り前のように撃ち込まれたミサイルをシオンが前に出てガトリング砲で撃ち抜くと発生した爆煙に紛れ、その場離脱した。

 

 「マユ、無理はするな!」

 

 「はい!」

 

 背を向けジェネシスに向かっていくアストの姿にシオン達は激昂した。

 

 彼らには特務隊としてのプライドがある。

 

 ザフトの中でも功績を上げ、認められた者だけが選ばれるエリート、それが自分達である。

 

 にも関わらず戦おうともせずに背を向けていくなど、戦う価値もないと侮辱されたも同じ事。

 

 何よりも格下と認識しているアスト・サガミが自分達を無視するなど許せるはずもない。

 

 「アストォォォ!! 貴様ァァァ!!」

 

 「お前ごときが、僕達が無視するなど!!」  

 

 怒りの感情のままイノセントを追おうとしたシオン達を押し留めたのは、もう1機の敵機の存在であった。

 

 ターニングがこの場に留まりシグルドと対峙する。

 

 いくら怒りに支配されていても敵がいるのに無防備に隙を見せるほど愚かではない。

 

 ビームライフルを構えたターニングを見たシオンは舌打ちしながら吐き捨てた。

 

 「チッ、残ったのはこいつか。まあいい、こいつを仕留めてから奴を追うぞ。クリス!」

 

 「了解! さっさと片づけましょう」

 

 クリスがターニングをロックしてスナイパーライフルを発射すると同時にシオンがクラレントで斬り込んだ。

 

 シオンは正直な話、そこまで手こずる事は無いだろうと思っていた。

 

 相手の技量は把握済みであり、ヴァルハラで戦った時は一対一での戦闘であったが今回は違うからだ。

 

 2機でかかれば容易く撃破出来るだろうとそう判断した。

 

 しかし結果はまったく違う、完全に予想外のものであった。

 

 「そんなもの!」

 

 ターニングはクリスが放ったスナイパーライフルの閃光を機体を逸らしただけで回避する。

 

 さらにシオンが繰り出した斬撃をシールドで弾き、腰のビームサーベルを引き抜くと斬り返してきたのだ。

 

 「なんだと!?」

 

 シオンは敵機の反応に驚愕しながらも斬り返されたビームサーベルをシールドで止め、蹴りを入れて突き放す。

 

 「終わりだ!」

 

 体勢を崩したターニングの後ろに回り込んだクリスがビームクロウを横薙ぎに斬り払った。

 

 2人は勝利を確信する。

 

 この一撃で確実に撃墜したと。

 

 だがマユは後ろから迫るビームクロウをスラスターを使い宙返りして回避するとクリスの背後からシールドを叩きつけたのだ。

 

 「ハァ、ハァ、私だってやれる!」

 

 「何!?」

 

 「今の動きは……」

 

 シオンはそこでようやく自分達の認識が間違っていた事実に気が付いた。

 

 確かにヴァルハラで交戦した時から高い技量を持っていたが、そこからさらに腕を上げている。

 

 シオンは今までに認識は捨て、意識を切り替えた。

 

 「クリス、油断するな」

 

 「ええ、わかってます」

 

 「連携でいくぞ!」

 

 2機のシグルドは反対方向に飛び、挟むようにターニングに攻撃を仕掛けた。

 

 シオンはターニングにガトリング砲を放ちながらクラレントを振りかぶり、斬撃を回避した先にクリスが待ち受ける。

 

 特務隊に相応しい技量を持つが故の完璧な連携である。

 

 「くっ、隙がない!」

 

 「貴様程度では捉えられん!」

 

 奴がいかに技量を高めようともこれほどの連携を見せた敵の相手は難しい。

 

 シオンはマユの弱点に気がついていた。

 

 それは戦闘経験の浅さである。

 

 彼も伊達で特務隊に任命されている訳ではない。

 

 単純な戦闘経験だけならばマユを遥かに上回る。

 

 それ故に分かったのだ。

 

 彼女がまだ連携を取る敵相手に戦った経験が少ない事に。

 

 「ふん、確かに技量は上がったが、まだまだだな!」

 

 「僕らを相手にするには、経験不足ですよ!」

 

 「くっ!?」

 

 シオン達の連携に翻弄されたマユは攻撃に転じる事が出来ない。

 

 経験の浅さがここにきて影響し始めていた。

 

 防戦に徹したターニングにさらなる追撃を仕掛けるために、前に出る。

 

「クリス、左だ!」

 

「了解!」

 

クリスとシオンから繰り出される波状攻撃に防戦一方に追い詰められていく。

 

 「まだです!」

 

 操縦桿を必死に操作。

 

 一か所に留まらないように機体を動かし、さらにビームライフルで少しでも敵機の動きを鈍らすように牽制していく。

 

 簡単にうまくいかない事も分かっているが、どこかに必ずチャンスはある筈だ。

 

 その時まで耐えるしか無い。

 

 3機のモビルスーツは移動と激突を繰り返しながら、攻防を繰り広げていく。

 

 「しつこいですね」

 

 「もう少しだ、追い込め!」

 

 シグルドはターニングの周囲をグルグルと回り、ビームやが機体を掠め、ミサイルの震動がコックピットを揺らす。

 

 「ぐぅぅぅ!! ハァ、ハァ、もしかして―――」

 

 苛烈な攻撃の最中、ようやく見えてきた。

 

 防御に徹しながら2機のシグルドの動きを慎重に観察していた。

 

 これだけの連携は流石特務隊という事だろう。

 

 だからこそ見えたものがあった。

 

 あとはタイミングだけ。

 

 それを慎重に見極め―――

 

 「ここです!」

 

 2機のシグルドがすれ違った瞬間、ターニングの放ったビームライフルがクリス機の左腕を撃ち抜くとグレネードランチャーでシオン機を吹き飛ばした。

 

 「ぐああ!!」

 

 「何!?」

 

 確かに彼らの連携は完璧であった。

 

 特務隊に相応しい、動きも攻撃のタイミングも文句のないものである。

 

 だが、だからこそ付け入る隙があったのだ。

 

 完璧であるからこそ、タイミングも動きもミスがない。

 

 攻撃パターンを読み切ったマユはそこを突いたのである。

 

 「貴様ァァ!!」

 

 シオンは再び怒りに任せクラレントを振るう。

 

 「貴様などに機体を傷つけられるとは!! 許さんぞ、必ず殺す!!!」

 

 振るわれた対艦刀は空を切り、さらに逆袈裟に叩きつけられた斬撃をマユは事もなげに受け止めた。

 

 それがシオンの怒りを余計に煽る。

 

 スラスターを吹かしクラレントを押し込もうとした時、ここまで何も言わずにいたマユが初めて口を開いた。

 

 「……貴方達はなんでジェネシスなんて物を守るんですか? あれが地球に放たれればみんな死ぬんですよ」

 

 「くだらない事を聞くな! 前にも言った筈だ! 地上にいる奴らなどゴミだと! ジェネシスはそんな連中を一掃するのに丁度いい最高の兵器だ!!」

 

 「……本気で言っているんですか? 地球にだってコーディネイターはいます」

 

 「それがどうした! 地球にいるような奴らなどどうでもいい!」

 

 「……貴方は―――」

 

 マユの脳裏に今までの事が蘇る。

 

 目を覚まさない両親。

 

 危篤状態の兄の姿。

 

 助けてくれた親しい人の死。

 

 そして何より大切な人の悲しい過去。

 

 それを引き起こしたのが目の前の―――

 

 怒りを必死に抑え操縦桿を強く握る。

 

 「地球にジェネシスが発射されればすべてに片がつく! ゴミなどここで消えた方がプラントの未来の為には良いからな!」

 

 それで今まで堪えていたものが爆発した。

 

 彼だけは絶対に―――

 

 「―――さない」

 

 「貴様もここで死ね!!」

 

 シオンがビームクロウを振りかぶろうとした瞬間―――

 

 「絶対に許さない!!!」

 

 マユのSEEDが弾けた。

 

 視界が急激にクリアになり、今までとは比較にならない鋭い感覚。

 

 そして溢れ出る怒りの感情のまま咆哮する。

 

 「うああああああ!!!!」

 

 叫びと共にクラレントを弾き飛ばし、ビームサーベルを一閃する。

 

 当然シオンも振り抜かれたビームサーベルを防御しようとシールドを掲げようとするがターニングの動きは速すぎた。

 

 防御が間に合わずクラレントを持った右腕があっさりと斬り落とされてしまった。

 

 「動きが変わった!?」

 

 急激に変わったマユの動きに危機感を覚えたシオンはヒュドラとガトリング砲を連射し距離を取ろうと後退していく。

 

 だが通用しない。

 

 すり抜けるように攻撃を避けていくとシグルドに肉薄した。

 

 「シオン!!」

 

 クリスが残った腕でスナイパーライフルを放つ。

 

 敵は背を向けシオンに集中している。

 

 今ならばやれると判断した事は普通ならば正しい。

 

 誰であってもそう思うだろう。

 

 ただ今回の場合は相手が悪かった。

 

 運が無かったとも言える。

 

 完璧なタイミングで狙いをつけて放った一撃をターニングはあまりに容易く避け切ったのだ。

 

 「かわした!?」

 

 クリスが驚愕するのも無理はない。

 

 まるでこちらの攻撃が分かっていたかのようにあまりに無造作の回避だった。

 

 その動きを見ていたシオンはある種のデジャヴのようなものを感じていた。

 

 オーブ戦役においてアストが見せた動きと被ったのだ。

 

 それが再び怒りに火をつけ、屈辱を思い出させた。

 

 「お前もか! お前も俺を!!!」

 

 殺す!

 

 絶対に殺してやる!!

 

 「お前達は俺がァァ!!」

 

 「貴方はここで倒します!!」

 

 後退しながら何度もヒュドラを放ちターニングを牽制するが、SEEDを発動させたマユには当たる事はない。

 

 咆哮しながらビームクロウを左右に次々と繰り出し、ターニングを斬り裂こうと振りかぶる。

 

 「死ねェェェ!!!!」

 

 だが冷静さを無くしてしまったシオンの攻撃は装甲を掠める事すらできない。

 

 懐に飛び込んできたターニングに突くように繰り出したビームクロウをすり抜けた。

 

 そしてシグルドの頭部にビームサーベルを突き刺し、さらに敵の腰部にマウントしてあるもう一本のクラレントを掴みそのまま斬り上げて、左腕を斬り飛ばした。

 

 「これで!!」

 

 両腕を失ったシグルドに止めとばかりにクラレントを腹部のヒュドラ発射口に叩き込む。

 

 「終わりです!!!」

 

 凄まじい衝撃がコックピットを襲い、火花を散らしながらコンソールの部品が飛び散る。

 

 「ぐあああああ!!!」

 

 クラレントで串刺しにされたシグルドはPS装甲が落ちてメタリックグレーに戻った。

 

 激しい衝撃で破損したコンソールに頭部を叩きつけられ、メットのバイザーに罅が入り視界が血で歪む。

 

 どうやら破片が眉間に刺さっているらしい。

 

 激しい激痛に耐えながら顔を上げると生きているモニターにターニングの姿が映っていた。

 

 「負け、る?……俺が、こんな雑魚に?……ふざけるなァァ!」

 

 操縦桿を握り必死に動かすが操縦系がやられたのか全く反応はない。

 

 仮に動いたとしてもすでにほとんどの武装を破壊され、両腕もない以上、どうする事も出来ない。

 

 完全な敗北である。

 

 だがそれをシオンは決して認めない。

 

 「くそ! くそ! くそぉぉぉ!!!!」

 

 いや認められないと言った方が良い。

 

 彼からすれば目の前の敵など取るに足らない存在であるはずだから。

 

 だがマユはそんな叫びなど聞いてやる義理などない。

 

 そのままシグルドを蹴り飛ばした瞬間、クラレントを突き刺したヒュドラ発射口から火花が弾け爆発を起こしていき、小規模の爆発から機体を巻き込む大きなものに変わっていった。

 

 「シオン!?  貴様!!」

 

 残ったクリスがターニングに攻撃を仕掛けた。

 

 シオンが倒され冷静な判断も出来なくなっていたのだろう。

 

 だがこれは完全に判断ミスであった。

 

 連続で放ったビームは思わず見とれるほどの見事な動きでかわされ、敵機は漂っていたシオン機の腕からクラレントをもぎ取るとそのまま横薙ぎに斬り払ってきた。

 

 「そんなもの―――ッ!?」

 

 次の瞬間、かわしたはずの刃がシグルドの右足を捉え斬り飛ばされていた。

 

 「み、見えなかった。ば、馬鹿な、ぼ、僕達特務隊が……」

 

 その時、クリスを胸中を支配していたのは圧倒的な恐怖だった。

 

 目の前でシオンが倒され、こちらの予想を超える動き、さらに自身が放った完璧なタイミングでの攻撃が一切通じなかった。

 

 彼の心が折れるのも無理はない。

 

 バランスを崩したシグルドに対し、さらに攻撃を仕掛けてくるターニングの姿がさらにクリスの恐怖を煽る。

 

 「く、来るな。来るな、来るなぁ!」

 

 クリスは半狂乱になりスラスターを全開にして反転するとミサイルを放ちながら必死に逃げる。

 

 「逃げるつもりですか!」

 

 逃がさないとばかりに追ってきたターニングがビームライフルで動きを止めようと攻撃してくるが、すでにクリスの中にはここから離脱する事しか頭にない。

 

 どうやったら逃げられる?

 

 どうしたら!

 

 敵の射撃精度はどんどん鋭くなり、閃光が機体を掠め傷を作っていく。

 

 すると目の前に味方のモビルスーツ部隊が戦闘を行っているのが見えた。

 

 ここしかないと判断したクリスは躊躇う事無くそこに突っ込んで行く。

 

 「いい加減に!!」

 

 背後から攻撃を仕掛けたマユはこれ以上の時間を掛けたくはないと今度は本気で落すつもりでトリガーを引いていった。

 

 だがシグルドはビームが直撃する寸前にそばにいた味方機の後ろに回り込み、ジンが落とされた爆発に紛れさらに後退していく。

 

 「なっ、味方を盾に使うなんて!!」

 

 その行動がマユの怒りにさらに火を付ける。

 

 だがそれ以上の追撃はできなくなった。

 

 周りにいた地球軍機やザフト機が襲いかかってきたからだ。

 

 「邪魔です!」

 

 クラレントでストライクダガーを斬り払い、グレネードランチャーでジンを撃ち落とす。

 

 ターニングが他のモビルスーツと交戦しているのを尻目にクリスは圧倒的な恐怖に震えながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

 特務隊をマユに任せジェネシスに向かっていたアストは襲いかかってくるザフトの部隊を蹴散らしながら進んでいた。

 

 ビームライフルでジンを破壊、ビームクロウを振り下ろしてきたゲイツにガトリング砲を叩き込む。

 

 数機のモビルスーツを撃墜した先に母艦と思われるナスカ級が主砲を発射しながら道を塞いでいた。

 

 「落ちろ!」

 

 ナスカ級の主砲を縫うように掻い潜り、肩のビームランチャーを発射すると放たれた閃光がナスカ級のブリッジを撃ち抜き、艦全体が炎に包まれ撃沈した。

 

 「流石に守りが厚いな」

 

 アスト自身簡単にいくとは思っていなかったが、ジェネシスに近づく程、敵の数が多くなりなかなか進む事が出来ない。

 

 使いきったミサイルポッドをパージして前に進もうとした瞬間、正面からイノセントを狙ってビームが撃ち込まれてくる。

 

 それだけならばさして驚く事でもない。

 

 ここは敵陣のど真ん中なのだから、どこから攻撃されてもおかしくない。

 

 だが今回は違う。

 

 あまりに正確な射撃で動き回るイノセントを逃がさないようにピンポイントで狙ってくる。

 

 これだけの腕を持つ者の心当たりはそう多くない。

 

 そしてアストの前に現れたのは―――

 

 「来たか、ユリウス・ヴァリス」

 

 一番初めに戦った相手であり、そして自分とは兄弟のような関係の最強の男。

 

 「だが、前のようにはやられない!」

 

 正面からクラレントを抜いて突っ込んで来るディザスターに応戦するためにバルムンクを構え、アストもまた突撃する。

 

 「アスト!!」

 

 「ユリウス!!」

 

 互いの刃が敵を仕留めんと振り下ろされる。

 

 繰り出された斬撃が空を切ると高速ですれ違い、回り込むように旋回しながら再び激突する。

 

 「ここで貴方を倒す!」

 

 「それはこちらのセリフだ」

 

 ディザスターは高速で動きながらも正確な射撃でイノセントを動きを牽制し、対艦刀を振るう

 

 「確かに速い。だけど!」

 

 イレイズに初めて乗った頃であれば、何もできないまま、斬り裂かれて終わっていただろう。

 

 しかし今は昔とは違う。

 

 ユリウスの斬撃を読んでいたように回避するとガトリング砲を撃ち込んだ。

 

 「流石だな、クルーゼ隊長を追い込んだだけはある」

 

 分かっていた事だがアストは強い。

 

 奴はこれまでもザフトのエース達を屠ってきたのだ。

 

 これくらいは当然やってのけるだろう。

 

 ユリウスは昔の印象は捨て、認識を改める。

 

 「ならば、これはどうだ!」

 

 イノセントの放ったビームランチャーをスラスターを使って掻い潜ると再びクラレントで斬り込んでいく。

 

 機体表面を掠めるようにビームの閃光が照らしていく中、ユリウスは背中から二基ドラグーンを放出した。

 

 装備されたドラグーンの数はプロヴィデンスに比べ少ない。

 

 しかしユリウスにとってはこれで十分、これ以上増えても邪魔になるだけだからだ。

 

 「チッ!」

 

 完全に別方向からのビーム攻撃に咄嗟に回避行動を取るが放たれた閃光は肩部の装甲を掠めて傷を作る。

 

 「ドラグーンか!?」

 

 彼の兵器に関して経験だけで言うならメンデルでの戦闘経験がある分、対応能力に関していえばキラよりアストの方が上である。

 

 それに合わせやり込んだ訓練の成果により、ドラグーンの対応は十分だったといえる。

 

 しかし目の前の敵はそんなこちらの動きを上回ってきた。

 

 2基のドラグーンを巧みに操り、イノセントの動きを限定させて肉薄するとクラレントによる攻撃を成功させたのだ。

 

 「まさか、ドラグーンを囮に使ってくるなんて!?」

 

 「単純に砲台としてだけ使うとでも思ったか!」

 

 ユリウスもまたドラグーンによる攻撃で倒せるなどとは思っていない。

 

 それで倒せるならばメンデルでとっくにラウが決着をつけていただろう。

 

 だからこそ始めからイノセントの動きを誘導する意味でしかドラグーンを使う気などなかったのである。

 

 放たれた斬撃により肩部に装備されていたロングレンジビームランチャーは斬り裂かれ、さらに回り込んだビームファングによって最後のミサイルポッドを破壊されてしまった。

 

 「くっ、このぉ!!」

 

 ミサイルポッドの爆発をスラスターを噴射して堪えると反撃に転じる。

 

 このまま防御に徹したら押し込まれると判断したためだ。

 

 「はあああ!!」

 

 アストはSEEDを発動させ、ガトリング砲でビームファングを破壊。

 

 機関砲でディザスターを牽制しながらバルムンクを叩きつけた。

 

 繰り出した斬撃によりディザスター胸部が浅く抉られてしまう。

 

 「何?」

 

 この結果にユリウスは珍しく驚きを隠せなかった。

 

 いかに距離を詰めて相手の間合いに入っていたとしても避け切るつもりだったのだ。

 

 油断などななかったにも関わらずこちらの予想の上をいった。

 

 となれば相手を称賛するしかない。

 

 「……これほどとは。大したものだ。それでこそ、お前は私の弟だ!」

 

 「チッ、浅かったか」

 

 ディザスターはヒュドラを放ち仕切り直すように、距離を取りながら再びドラグーンを放出する。

 

 「こんなものに!」

 

 アストは次々に放たれるビームを回避しながらビームライフルでドラグーンを動きを誘導し、撃ち落とさないように慎重に見極める。

 

 「そこ!」

 

 一直線に並んだドラグーンをアクイラ・ビームキャノンで一網打尽にするが、その代償として動きを一瞬止めたイノセントにディザスターのビームライフルが撃ち込まれた。

 

 「甘いぞ!」

 

 「まだ!」

 

 シールドをかざし直撃は避けたものの、アクイラ・ビームキャノンを破壊されてしまった。

 

 「強い!」

 

 いままで戦った誰よりもである。

 

 「そんな事は分かっていたさ。だからって負けられないんだよ!!」

 

 突っ込んで来たディザスターに合わせるようにイノセントもまた加速する。

 

 再び振りかぶられた刃がお互いを狙い振り下ろされる。

 

 今度はバルムンクがディザスターの肩部装甲を斬り飛ばしていた。

 

 「良し!」

 

 「……こちらの動きを予測しているのか」

 

 アストとユリウスはヘリオポリスから何度か対戦している。

 

 それゆえにお互いの動きを把握していた。

 

 そんな2人に違いがあるならば、アストは常にユリウスを意識して訓練をしてきたことである。

 

 キラと共にシミュレーター訓練を開始してから、必ずユリウスとの対戦を意識してきた。

 

 皮肉な話、ユリウスの存在がアストの技量を底上げしてきたと言っても過言ではない。

 

 だからこそ動きをある程度予測出来ていたのだ。

 

 「面白い、その予測でどこまで食らい付いてこられるか見せてみろ!」

 

 「言われなくても!」

 

 すれ違い、再び振り返り、剣撃をぶつけ合う。

 

 「貴方もラウ・ル・クルーゼと同じなのか!? すべて滅んでしまえとそう思っているのか!?」

 

 「違うな。私は人の可能性を―――人の先を求めている」

 

 「なっ!?」

 

 それはラウの語った目的とは正反対のものだ。

 

 「ならば何故、ジェネシスを放っておく? どうしてクルーゼを止めない?」

 

 「……安心しろ、クルーゼ隊長はすでに逝った」

 

 奴が倒された?

 

 アストの口元が緩む。

 

 間違いない、キラだ。

 

 彼以外に奴を倒せる者はいない。

 

 「まあ、どんな形であれ最終的には私とクルーゼ隊長は敵対していただろう……それでも私には彼の気持ちもよく分かるのさ」

 

 それだけのものを見てきた。

 

 それだけのものをを突き付けられてきた。

 

 それでもユリウスが絶望しなかったのは間違いなくアリアがいたからだ。

 

 彼女がいなければ間違いなくラウと同じ選択をしていただろう。

 

 「ジェネシスの事ならば心配はいらない。手は打ってある。後はお前とキラを排除すればすべて終わりだ」

 

 バルムンクをシールドで止めると蹴りを入れて突き飛ばし、クラレントを振りかぶった。

 

 「そんなに憎いのか俺達が!」

 

 「お前の事も確かに憎い。お前はシアン博士の妄執そのもの。お前を見るたびに私は自分がどういう存在なのか嫌でも認識させられる。しかしキラはそれ以上だ」

 

 上段から振り下ろされ対艦刀をナーゲルリングで受け止め、スラスターを噴射して鍔迫り合う。

 

 「解るか? 私達は生まれた理由から生きる意味さえキラに縛られているんだよ。さらに奴は何も知らず平和に生きてきた。その裏でどんな地獄があったかも知らずに!」

 

 「だからってキラを殺した所でなにも変わらない! むしろ俺達を生み出した連中の思惑通りだろう!」

 

 「その通りだ。お前の言う事は正しい。もちろん連中の思惑通りになるのは癪だが……」

 

 イノセントとディザスターは弾け飛び、武器を構えて向かい合う。

 

 「それでも奴がこの先危険な存在となる可能性がない訳ではない。個人的な恨みを除いても、放ってはおけない」

 

 「もしもそんな事になったら俺が止める。殴ってでもな! だから貴方にキラを殺させはしない!!」

 

 「そうか。ならここで私を倒してみろ!」

 

 2機は互いに傷を刻みながら激しい攻防を繰り返していった。

 

 

 

 

 

 

 ヤキン・ドゥーエの戦いは激しさを増し、ジェネシス破壊に動いている同盟軍もそして残っている地球軍も簡単に近づけないでいる。

 

 そして間にもミラーブロックが交換を終えようとしていた。

 

 ヤキン・ドゥーエの司令室にいたパトリック・ザラも勝利を確信していたに違いない。

 

 しかし思わぬ形でそれが崩される事になった。

 

 それに最初に気がついたのはザフト防衛ラインにいたモビルスーツ部隊だった。

 

 敵の攻撃を回避しようとした瞬間、何かにぶつかりそのまま爆発したのだ。

 

 何もない空間が揺らめき何か障害物のようなものがあるのが確認できる。

 

 「なんだ、あれは……」

 

 そしてその姿が現れた。

 

 現れたのは巨大な岩のようなもの。

 

 それがジェネシスに向っていく。

 

 それはつい先日までザフト軍の防衛ラインに配置されていた宇宙要塞ボアズの残骸であった。

 

 ボアズの残骸に気がついた者達が破壊しようと攻撃するが大きすぎる。

 

 そしてそのまま止める事も出来ず、ついにミラーブロックと衝突した。

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