機動戦士ガンダムSEED cause    作:kia

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第2話   戦火が見せた真実

 

 

 

 

 その部屋はかつてないほどの喧騒に包まれていた。

 

 人が次から次に慌ただしく出入りを繰り返している。

 

 その表情は全員が非常に特徴的であった。

 

 皆が例外なく、余裕の感じられない表情を顔に貼り付け、上役と思しき人物に指示を仰いでいた。

 

 「どうなっている!?」

 

 「急いで情報を集めて―――」

 

 騒がしい部屋の中央に設置されている長机には閣僚らしき人物たちが資料を広げ、起きてしまった事態の対応に追われていた。

 

 ここは地球の南太平洋に位置する中立国オーブの会議室。

 

 その会議室では突如入ってきたザフトによるヘリオポリス襲撃の報に大騒ぎとなっていた。

 

 「ウズミ様、これは例の件が……」

 

 「うむ」

 

 オーブの代表首長であり『オーブの獅子』の異名を持つウズミ・ナラ・アスハは掛けられた問いかけに静かに頷く。

 

 ウズミはザフト軍襲撃の知らせにたいして驚きはなかった。

 

 ヘリオポリスで極秘に行われていた事をザフトが掴んだならば今回の件、別段不思議なことではない。

 

 ウズミからすればやはりという思いの方が強かった。

 

 「カガリ様もヘリオポリスに赴かれていますし」

 

 側近の言葉にウズミは眉をより一層に顰める。

 

 現在娘であるカガリ・ユラ・アスハがヘリオポリスに赴いているのである。

 

 ヘリオポリスに向かった理由も含め、あの馬鹿娘の行動には頭が痛い。

 

 だが今はそれどころではないのだ。

 

 「ヘリオポリスと連絡は?」

 

 「戦闘によるジャマーの影響でまったく通じない状況です!」

 

 「アメノミハシラへ連絡を取り最悪の事態を想定して対処させろ!」

 

 「「はっ!」」

 

 指示を聞いた皆が一斉に動き出す。

 

 ともかく今できる事をしなければいけない。

 

 こんな事態になることは予測できていたにもかかわらず、防ぐことができず無辜の民たちを巻き込んでしまったことは痛恨の極みであろう。

 

 「ウズミ様これでよろしいのですか?」

 

 「今はこれしかありますまい。たとえ茶番だろうとね。それよりスカンジナビアの方からは?」

 

 「第二王女アイラ様よりご連絡が入っております」

 

 「わかった。私が行こう」

 

 悔いるのは後だ。自身にそう言い聞かせウズミも立ちあがると通信室に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 《……レベル8の避難命令が発令されました。住民はすみやかに……》

 

 広報のアナウンスが爆発音にかき消されつつ、ヘリオポリス全体に響き渡っている。

 

 ジンの攻撃によって周囲のビルは破壊され、弾が着弾した場所から火事になっているところも多々見られた。

 

 アスト達が脱出してきた工場区は特に酷く、見る影もない。

 

 未だにジンはその巨大な銃を構え、工場を破壊し続けている。

 

 ジンが発砲し、近くの施設を破壊した影響で、大きな爆発が巻き起こり周囲に突風が巻き起こる。

 

 背後からの風に足を取られそうになりながらも、アスト達は何とか安全な場所に逃れようと必死に足を動かしていく。

 

 「くっ!」

 

 「きゃあ!」

 

 再び巻き起こる風に倒れこむほどでは無いが、思わず目を閉じる。

 

 何とか突風が収まり、目を開けた瞬間、再び爆発と共に震動が起こった。

 

 「またかよ!」

 

 「いやぁぁ!」

 

 次の瞬間、誰もが驚愕に目を見開いた。

 

 彼らの視線の先には、爆発に紛れ見たこともない巨体が二つ、工場区から飛び出してきたのだ。

 

 ザフトのモビルスーツとは明らかに違う造形である。

 

 二つの目を持ち、角のようなアンテナが頭に付いている。

 

 「何なの、あれ?」

 

 「モビルスーツか? あの機体は……」

 

 皆が疑問に思うのは良く分かる。

 

 アスト自身、一瞬見入ってしまった。

 

 だが今はそれどころではない。

 

 「みんな足を止めるな! 走るんだ!」

 

 アストの切羽詰ったような叫びにトール達も我に返ったように走りだした。

 

 「あ、ああ」

 

 アネットの手を引きながら走り出したアストは飛び出してきた機体に目を奪われる。

 

 あの時、工場区で見た機体はあれではないだろうか。

 

 足しか見えなかったため確かな事は言えないが、何となくそんな気がした。

 

 飛び出した内の一機はジンのそばに降り、もう一機はそれらと対峙するように地上に降り立つ。

 

「あの機体、まだ完成してないのか?」

 

 飛び出してきた機体には何の色もついておらず、さらに言えばジンと対峙している機体は武装すらも持っていないのだ。

 

 あれでは戦えるはずもない上、しかも歩くことさえままならないほど動きが鈍い。

 

 素人目に未完成だと思ってしまうのも無理はない。

 

 だが、そこで思わぬ変化が起きる。

 

 ジンが動きを止めるために突撃銃を構え発砲すると色なしの機体は避ける事すらできずによろめいた。

 

 ジンのパイロットは好機と見たのだろう。

 

 その隙を見逃す事なく重斬刀を引く抜くと色なしの機体に突っ込んでいく。

 

 振るわれた重斬刀がそのまま色なしの機体に直撃するかと思われた瞬間、突然装甲の色が白く変わり攻撃を受け止めたのである。

 

「色が変わった!?」

 

 一瞬ジンがたじろぐのも無理はない。

 

 色が突然トリコロールに変化したのもそうだが、驚くべきはジンの一撃を損傷もなく容易く受け止めた事だ。

 

 どうやらあの機体には特別な仕掛けがあるらしい。

 

 その時、佇んでいたもうもう一機のモビルスーツも赤く色が変化した。

 

 あの機体はどうやら対峙している白いモビスルーツと同系統の機体らしいが、ジンの傍にいるということはザフトに奪われたということらしい。

 

 もしかするとジンのパイロットに奪った機体の事を説明しているのか。

 

 しばらく様子を見ていたようだが、そのまま飛び立ってしまった。

 

 白い機体の方は、ジンの絶え間ない攻撃から逃れようと必死に動こうとしている。

 

 だが相変わらず動きは鈍い。

 

 攻撃は次々と直撃し、反動で後ろに存在した崩れかけのビルに背中をぶつけてしまう。

 

 相対しているジンのパイロットはかなり実戦慣れしているらしく、明らかに動きが違う。

 

 白い機体が放った頭部からの射撃をあっさりかわすと、的確に攻撃を加えていく。

 

 逆に白い機体はその攻撃に全く対応できていない。

 

 攻撃を受けた機体がよろめき、こちらの方に向かってくる。

 

 「じょ、冗談じゃねえよ! みんな、速く逃げるんだ!」

 

 再び戦闘に見入ってしまい足を止めていたが、トールの声で正気に戻る。

 

だが一歩遅かった。

 

 もう自分達の目の前に迫るほど、白い機体はジンに追い詰められていたのだ。

 

 「きゃああああああ!!」

 

 手を引いていたアネットが悲鳴を上げた。 

 

 しかし、ここでまたも変化が起きる。

 

 今まで鈍い動きしかできなかった白い機体が突然ジンを殴りつけ反撃したのだ。

 

 そして同時に今までのような鈍い動きは無くなり、機敏に攻撃をかわし始めた。

 

 ジンが倒れ込みつつライフルを連射するが、動きを変えた白い機体を全く捉えられない。

 

 「まさか、あのパイロットは操縦しながらOSを弄ってるのか」

 

そうとしか思えないほど、最初とはまるで違うかけ離れた動きをしていた。

 

 だがそんなことは普通の人間には出来る筈がない。

 

 自分と同じコーディネイターであるなら別だが。

 

 白い機体は順調にライフルの攻撃をかわしていくが、突然に動きが鈍った。

 

 「動きが鈍った?」

 

 それを見てジンのパイロットも好機と捉えたのか、重斬刀で突きの構えをとり、スラスターを噴射させ突進していく。

 

 しかしジンの反撃もそこまでだった。

 

 正面から突っ込んできたジンに白い機体は頭部の突撃砲で迎撃、それによって勢いを殺されたジンの攻撃をかわして距離を取る。

 

 そして戦いの決着はあっさりと着いた。

 

 白い機体が飛び回りながらジンの攻撃をかわし空中で腰部からナイフを引き抜くと、一瞬にしてジンの懐に飛び込みそれを首と右肩の付け根に突き立てたのだ。

 

 突き刺さったナイフによる損傷の為か、ジンはまったく動かなくなり、刺された場所から火花が飛んでいる。

 

 「倒したのか?」

 

 その時、コックピットハッチが開き緑のパイロットスーツが外に出てきた。

 

 どうにもならないと判断したのだろう。

 

 ジンのパイロットは機体を破棄して脱出する。

 

 アストはそこでようやく気がついた。

 

 「ビルに陰に隠れろ!!」

 

ビルの陰に飛び込みアネットを抱え込むようにして押し倒すと、次の瞬間、爆発音の後に吹き飛ばされそうなほどの爆風が押し寄せた。

 

 「ぐぅ!」

 

 「うわあああ!!」

 

 爆風が収まると顔をあげて体を起こし、巻き上がった埃に咳き込みながら皆の安否を確認する。

 

 「ゲホ、全員無事か?」

 

 「な、何とか無事」

 

 「こっちも」

 

 どうにか全員無事のようで、怪我もしてないようだ。

 

 「良かった。みんな、大丈夫みたいだな」

 

 「あ、あの、アスト」

 

 すると体をおこしたアネットが何故か、恥ずかしそうに頬を赤らめて声をかけてきた。

 

 「そ、その庇ってくれて、あ、ありがと」

 

 どうやら悲鳴を上げてしまった事など照れているらしい。

 

 普段しっかりしているようでやはりアネットも女の子だ。

 

 アストはできるだけ気にしないような素振りで返事をした。

 

 「いや無事なら、それで良かった」

 

 その様子を見ていたトールたちはニヤニヤと笑ってこちらを見ている。

 

 「な、何見てんのよ」

 

 「別に~」

 

「そうそう」

 

 アネットの顔がさらに赤くなる。余程恥ずかしかったらしい。

 

 「ニヤニヤしながらこっち見ないでよ!! あんたたちは!」

 皆の笑い声が重くなっていた空気を緩和する。

 

 今の騒ぎなど忘れてしまいそうになる。

 

 だが何時までもここにはいられない。

 

 危険が去った訳ではないのだから。

 

 「冗談はそこまでにして、シェルターに行かないと……」

 

 アストが言いかけた言葉を遮るように、思いもよらない所から声が掛けられた。

 

 《アスト!皆、無事!》

 響き渡るその声は近くにいるあの白い機体から聞こえているようだ。

 

 この声を聞き間違える筈はない。

 

 「えっ、まさか、キラか?」

 

 《良かった。皆、無事だったんだね》

 

 信じがたいことに、白い機体に乗っていたのはさっきまで一緒にいたキラだったのだ。

 

 

 

 

 

 ヘリオポリスの外で行われている戦闘は未だに続いている。

 

 砲弾の飛び交う終わる気配のない戦場でムウは彼の専用機メビウスゼロを操り、一人奮戦していた。

 

 彼の周囲にはもはや味方はおらず、敵の姿ばかりが視界に入る。

 それもその筈。

 

 彼と共に闘っていた他の機体はすべて落とされ、母艦もすでに沈んでしまったからだ。

 「くっ。この戦力差ではどうにもならないか」

 明らかに数が違いすぎる。

 

 ただでさえザフト連中が使うモビルスーツを相手取るには多くの戦力が必要だというのに。

 

 機体の接続されていたガンバレルを展開して、向かってきた敵機に攻撃する。

 

 ガンバレルは機体から分離した砲台を有線で操作し、多角攻撃を行うものである。

 

 この兵器はザフトのモビルスーツにも有効であったが欠点があった。

 

 これを扱うには高度な空間認識力が必要であり、ムウのような適性のある人間にしか使えないのである。

 

 ジンが展開されたガンバレルを狙い、突撃銃を放つ。

 

 「おっと!」

 

 それを巧みな操作でかわすと、リニアガンでジンを攻撃する。

 

 リニアガンから放たれた一撃がジンの突撃銃を払い落とすと同時に体勢を崩した。

 

 「これで!」

 敵機はガンバレルの動きや攻撃に反応出来ていない。

 

 いける!

 巧みな操作で背後に回り込んだガンバレルの攻撃がジンの肩に直撃し、戦闘不能に追い込んだ。

 

 その攻撃を受け、自身の不利を悟ったのかジンは踵をかえし撤退していった。

 

 ジンを撃退して、ムウはほっと一息ついた。とはいえ油断はできない。まだ戦闘は継続しているのだから。

 

 「ふう、次は―――なっ」

 

 しかし一息ついたのも束の間、ムウに身に覚えのある感覚が走った。

 「これは!? くっ、ラウ・ル・クルーゼに、ユリウス・ヴァリスか!」 

 彼らは何度も戦場で相対して来た宿敵たちである。

 

 何故二人の事を感じ取れるのか自分でもわからない。

 

 ただ今言えるのは、この状況で彼らと戦うのはあまりに分が悪すぎるということである。

 

 だが逃げられる訳もない。

 彼らのしつこさはムウが一番よく知っており、何よりも自身が感知したようにおそらく彼らもまた自分に気がついた筈だからだ。

 

 自分でもよく分からない確信を抱き、覚悟を決めたムウは迫ってくる敵の方へ機体を向かわせた。

 

 「オロール機被弾、緊急帰投」

 

 ヴェサリウスのブリッジでオペレーターの報告を聞いたアデスが驚きの表情で反応する。

 

 「オロールが? こんな戦闘で!?」

 

 驚きを禁じ得ないのは誰もが同じだった。

 

 戦力も碌にないはずなのに、ここまで手こずるとは思っていなかったのだ。

 

 「うるさい蠅が飛んでいるようですね、隊長」

 

 「そのようだな」

 

 誰もが驚愕する中でラウとユリウスだけは表情を変える事無く冷静なままだった。

 

 ラウに至っては笑みさえ浮かんでいる。

 

 「ミゲル・アイマンよりエマージェンシーです!」

 

 この報告に今度こそ、全員が驚愕する。

 

 先ほど冷静だった二人も、さすがに眉を顰めざる得ない。

 

 ミゲル・アイマンといえば『黄昏の魔弾』の異名を持つエースパイロットである。

 

 今は専用のジンに乗っていないとはいえ、そこらの敵に後れを取るとは思えない。

 

 敵の新型がそれだけの性能を持っていたという事か。

 

 「ミゲルが機体を失うほどとは、さすがに放置はできませんね。隊長、私が行きます」

 

 「いや、私も出よう。蠅も落としておきたいしな。アデス、あとを頼むぞ」

 

 「ハッ!」

 アデスに艦の指揮を任せラウとユリウスはブリッジを出た。

 ラウはジンの次世代型である『シグー』へ乗り込むと機体を立ち上げながら、ユリウスが自身の機体『ジンハイマニューバ』に乗り込むのを確認する。

 

 ユリウスの機体『ジンハイマニューバ』は脚部にスラスターなどを増設したジンの改修機であり、カラーリングもユリウス用に、青紫に塗装されていた。

 

 「ユリウス、行くぞ」

 

 「了解」

 

 二機はヴェサリウスから出撃して、すぐに戦闘をしている宙域へ向かう。

 

 駆けつけた戦場にはたった一機で奮戦する敵モビルアーマーの姿があった。

 

 その機体は、こちらに異常なほど早く気づき攻撃態勢をとってくる。

 

 「私達がお前を感じるように、お前も私達を感じるのか? 不幸な宿縁だな、ムウ・ラ・フラガ」

 

 「しかし彼は何も知りません。それは罪です」

 

 「違い無い」

 

 彼らの口調には、普段は見せない強烈なまでの憎悪が籠っていた。

 

 「ユリウス、ここは私がやる。最後の1機の始末を頼む」

 

 「了解」

 

 モビルアーマーの相手はラウに任せ、ユリウスの駆る青紫のジンはヘリオポリスに向かって行った。

 

 

 

 

 戦闘からどうにか生き延びたアスト達は白い機体『ガンダム』の周りでキラから話を聞いていた。

 同じくコクピットにいた作業服の女性は気を失っていたが、肩を撃たれ、出血していたのでミリアリア達が手当てしている。

 

 といっても、薬も包帯もないのでハンカチで止血する程度ではあるがやらないよりはマシだろう。

 

 ともかく話をしてもらったのは「何故キラがこんなものに乗っているのか?」という事に関してだった。

 

 キラによるとあの帽子の少年と一緒に、工場区のシェルターに行こうとしたが銃撃戦に巻き込まれたらしい。

 

 一緒に連れていた少年は運良く見つかったシェルターに入れた。

 

 キラは別ブロックの方に向うつもりだったが、そちらには行けそうになかったらしい。

 

 そこで途中で戦っていた作業服の女性の誘導に従いこのガンダムに乗り込んだという事のようだ。

 

 アストが工場区で見たモビルスーツの足の部分はやはりガンダムのものだったようだ。

 

 説明をしていたキラの顔が、一瞬悩むような表情を浮かべたのが気になったがあえて今は聞かなかった。

 

 それより先に聞かないといけない事がある。

 

 「そういうことだったのか。で、その腕はどうしたんだよ?」

 

 「えっ」

 

 「隠しても駄目だ。左腕、怪我してるんだろ」

 

 機体から降りる時も腕をかばうような仕草をしていたのですぐに分かったのだ。

 

 「た、大したことないよ。機体に乗った時に打っただけだし」

 

 なるほど。

 

 どうやら戦っている時に急に機体の動きが鈍くなったのは、キラが腕を怪我をしていたためらしい。

 

 それを聞いたアネットがキラに向かって怒ったように腰に手を当て詰め寄る。

 「それでも、ちゃんと言いなさい! 心配するでしょ!」

 「うっ。ごめん」とたじろぎながら謝っているキラと怒りながらも心配するアネットを見ながら、場違いにもほほえましい気分になってしまった。

 

 だがあの機体を見るとそんな気分も吹き飛んでしまう。

 

 工場区で見たこと、キラの話、そしてあの赤い機体が奪われたことを考えるとザフトの目的はこの機体だったのは間違いない。

 

 まだ何かあったのかもしれないが、少なくとも目的の一つだったのは確かだ。

 

 そしてキラと一緒に乗っていた作業服の女性はモルゲンレーテの社員ではないのだろう。

 

 キラの話だとガンダムのOS起動時には地球軍のマークが浮かんだらしい。

 銃を持っていたという事だし地球軍の人間である可能性は高い。

 

 そう考えるといつまでもあの機体の近くにいるのは危険だ。

 

 あの機体が地球軍のものだとすれば非常に重要な物である事はすぐ分かる。

 

 ザフトが狙うほどの機体となれば地球軍にとって切り札と言っても過言ではないのだから。

 

 カズイやトールたちはそんな考えなど持っていないのだろう。

 

 「ガンダムってすげーな」と話しながら機体を弄っている。

 

 不味いと思い、止めにはいるためトール達に近づいていくが、その時大きな銃声が鳴り響いた。

 

 「機体から離れなさい!!」

 

 後ろを振り向くと作業服の女性が起き上がり、憤りの籠った表情で銃を向けていた。

 

 そして引き金を引き、一発、銃弾を放った。

 

 全く別の方向に撃ったので、おそらく威嚇なのだろう。

 

 「なっ、なにするんですか!」

 

 キラが抗議の声を上げる。

 

 「これは軍の最重要機密。民間人が触れていいものではない」

 

 トールたちも銃の発砲に驚いたのかこちらに素直に集まってくる。

 

 「ぐ、軍、まさか地球軍?」

 

 「何で地球軍の人がここにいるんだよ」

 

 皆が不満を口にするが「黙りなさい!」という女性の一喝に黙り込む。

 

 「私はマリュー・ラミアス、地球軍の将校です。申し訳ないけどこのままあなたたちを解放するわけにはいきません。機密を見た以上はしかるべき所と連絡が取れ、処置が決まるまで私と来てもらいます」

 

 「そんな勝手な!」

 

 「私たちには関係ありませんよ!」

 

 それでも反論してくる彼らにマリューは銃を掲げながら全員の顔を見て続ける。 

 

 「あなたたちは関係ないと言ったけど、よく周りを見てみなさい。外では戦争をしているの。それが今の世界の真実なのよ」

 

 この惨状を目の当たりにしては、誰もが黙り込むしかなかった。

 

 「あなた達の名前を教えてもらいます」

 

 「サイ・アーガイル」

 

 「カズイ・バスカーク」

 

 「トール・ケーニッヒ」

 

 「ミリアリア・ハウです」

 

 「アネット・ブルーフィールドよ」

 

 「……キラ・ヤマト」

 

 「アスト・サガミ」

 

 全員の名前を確認した後、アークエンジェルという戦艦に連絡を取るというマリューの指示に従い動く事になった。

 

 皆不満はあるが、銃を突き付けられてしまっては従うしかない。

 

 アストだけならば逃げる事も簡単なのだが、アネットやミリアリアのような女の子もいる上、キラは怪我をしている。

 

 仕方無い。

 

 「キラ君、機体の通信機を使って連絡を取ってくれる? それから誰か工場区から3番のトレーラーを運んできてほしいの」

 

 「ちょっと待ってもらえませんか?」

 

 待ったをかけたアストにマリューは厳しい顔を向けてくるが、かまわず言葉を続ける。

 「別に不満があるわけじゃなくて、機体の操縦は俺にやらせてもらえませんか? キラは腕に怪我をしているんです」

 

 マリューはアストに機体の操縦ができるのかと、逡巡しているのかすぐに返事をしない。

 

 だからアストはもう一言かけることにした。

 

 「大丈夫です。俺もキラと同じですから」

 

 その言葉にマリューは驚いた顔をするがすぐに「そう。ではお願い」と言ってくる。

 

 アストはマリューの反応で確信した。

 

 彼女はキラがコーディネイターであることに気が付いている。

 

 先の戦闘時、マリューもコックピットでキラの操縦を見ていたなら、気が付いていても不思議ではない。

 

 普通、モビルスーツを操縦しながらOSを書き換えることなんてできないからだ。

 

 問題なのは彼女が地球軍の士官であるということ。

 

 地球軍の機密に触れたコーディネイターがどうなるかなど考えるまでもない。

 

 アストも自分のこともバラしてしまったが、友人達の為ならそれは些細な事だ。

 

 「……怪我をしているキラに操縦させる訳にもいかないもんな」

 

 いざという時は皆で逃げ出す事も考えないといけない。

 

 だから操縦を覚えておくことも必要になってくる。

 

とはいえ軍相手にそう簡単にいかないだろう。

 

 さらに外にはザフトもいるから事はそう単純ではないが操縦出来ないよりはマシな筈。

 とにかくキラを、みんなを守る事が最優先だ。

 

 そう、今度は自分が守るのだ。

 

 固く決意しながら、コックピットに乗り込んでシートに座る。

 

 スイッチを入れて、OSを立ち上げるとこの機体をキラがガンダムと呼んだ理由がすぐに分かった。

 

 General

 Unilateral

 Neuro-Link

 Dispersive

 Autonomic

 Maneuver

 

 「なるほど、これでガンダムか」

 

 OSの起動画面に映ったこの頭文字を繋げて読んだのだろう。

 

 納得しながらキラの組み上げたOSをさらに細かくチェックしていく。

 「流石だな。戦闘をしながらこれだけのOSを組み上げるなんて」

 

 プログラム関係ではキラには敵わない。

 

 キーボードを叩き、OSのチェックを行いながら機体の特性も把握した。

 

 戦闘中に色が変わったのはフェイズシフト装甲によるものだったようだ。

 

 フェイズシフト装甲とは一定の電流を流すことで位相転移がおき、あらゆる物理攻撃を無力化する事が出来るというもの。

 

 ジンの攻撃を防げたのはこれのおかげだったのだ。

 

 そしてもう一つ。

 

 この機体は装備を換装するという特性も持っているようで、武装がなかったのは何も装備しないまま飛び出してきたからという事らしい。

 

 マリューが持ってくるよう指示したトレーラーの積み荷はこの機体の武装かもしれない。

 

 納得しながらアストは調整が終わると同時に、マリューの指示に従いアークエンジェルに通信を行うことにした。

 

 

 

 

 破壊された港からヘリオポリス内部に進入していたユリウスは物陰に隠れ、広場に鎮座する機体をジンのコックピットから眺めていた。

 

 「あれが最後の機体か。周りにはトレーラーとモルゲンレーテの作業服の女、民間人らしき子供が数名か」

 

 作業服の女はおそらく地球軍の人間だろうが、何故民間人の子供がいるのかがわからなかった。

 

 「まあいい、今のうちに機体を破壊―――あれは!?」

 ユリウスが見ていたのは作業服の女の隣にいた少年、そしてもう一人機体から顔を覗かせた人物だった。

 

 「まさか――キラ・ヤマト、アスト・サガミ」

 

 ユリウスはしばらく呆然としていたが、徐々に口元に笑みが浮かび最後には声をあげて笑いだした。

 

 「クックク、アハハ、ハハハハハハハハハハ!!」

 

 狂ったような笑いには歓喜と憎悪が含まれていた。それも先ほどムウに対して見せたものとは比較にならないほどの。

 

「まさか君たちにここで出会うとはな! クルーゼ隊長、不幸な宿縁はここにもあったようですよ!!」

 

  破壊すべき機体と殺すべき相手を見つけたユリウスは、躊躇うことなく襲いかかった。

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